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草色の育て屋さん

/草色の育て屋さん

※触手成分が含まれます。ご注意ください。
※なぜか続きます。


<1>
さて、突然だが『育て屋』という職業が世界には存在する。
名前の通りにトレーナーのポケモンを預かって育てたり繁殖させる職業だ。
ビジネスとしてそれを行う者、曾祖父の代からずっと続けてきたから、あるいは単にポケモンが好きだから。
その職を選ぶに当たっては様々な理由が存在するが、彼は一番最後の理由でもって育て屋を営む人種である。
草タイプ、その中でも特にチコリータ系列、限定するならばベイリーフへの偏愛によってそれを職業とするにまで至った男の名を。
――――――――ジャン、と言った。

出芽は幼少期。
緑に溢れた所謂田舎で育った彼は当然ポケモンに接する機会も多く、山と森を遊び場とする野生児だった。
特に触れあう事が多かったのが草タイプ。ただ単純に数が多く、気性も穏やかな種族が多い為に自然と彼等と打ち解ける。
ベイリーフの蔓の鞭で造られたブランコではしゃぎまわったのは幼少期の彼の大切な思い出だ。

熟成は青年期。
ポケモンマスターを目指そうとした事もあったものの、いかんせん踏ん切りがつかず、ただ滔々と学業をこなし。
その合間にも草タイプのポケモンは何時も彼と共に在った。家には毎日のように野生の草ポケモンが遊びに来る程に。
彼は草タイプのジムリーダーにならなれると公言して憚らなかったし、実際知識もある程度の実力もあった。
ただ彼には自ら動くだけの勇気が無かった。

完成は22歳の夏。
草タイプ、草タイプ、何処まで行っても草タイプ。
大学病院での検査の結果、波動使いと呼ばれる特異人種だと解っても、彼の日常は何も変わらない。
異常なまでに草タイプに好かれる彼は、同じくらい草タイプを愛した。とはいっても生活には資金が必要、
少しでも家計の足しになれば、と始めたのは小規模な草タイプ専用の『育て屋』。
意外と軌道に乗った所で少しずつ少しずつ自宅の拡張と土地の購入を進め、果樹園を増設し、山の清水を誘導し。
捨てられた草タイプポケモンの回収にも手を出し始め、草タイプの強みを生かす戦闘講座をトレーナー相手に開くようになり。
気がつけばそれなりのネームバリューを持った育て屋になっていた。

「森の人」だとか「隠れた実力者」とか「草使い」だとか。
ただ彼は愛しているだけだ。クサイハナだって慣れれば可愛いものだし、恥じらうウツボットを洗ってやるのだって大好きだ。
もちろんフシギバナも好きだ。スボミーも好きだ。ナッシーだって三者三様の表情は見ていて飽きないし、
相手を傷つけないようにと寂しそうに一匹でいるサボネアは構わず抱きしめる。とにかく好きなのだ。
その中でも幼少期の想い出によって美化されたベイリーフは彼のお気に入りで、常時10匹は放牧状態にある。
口笛で全員を呼んだ時にべいべいべいべいべいべいべいべいと一斉に群がってくるのを見ると彼は幸福に包まれる。
良質な水と土壌、滋養豊かな木の実、広い土地に放たれた草ポケモンの種類と数は非常に多い。それは24時間変わらない。
なるべく自然に近い状態で、をモットーとして掲げているので、草ポケモン達が望まない限りは夜間も外で寝させている。
何か異変があった時はべいべいきゅいきゅいと鳴いて知らせてくれる。何よりも朝日を浴びて一斉に輝く彼等は美しいのだ。
だから喚き声で真夜中に眼が覚めた時も、彼はまた野生の荒れた炎ポケモンでも迷い込んだのだろうと思い込み、
あるいはそういえばベイリーフの繁殖期がそろそろだなと危機感の欠片も無く。
寝ぼけ眼で自分の最も信頼するパートナーであるメガニウムが入っているはずのボールを掴んで住居部分の外に向かった。





         ,. -‐'''''""¨¨¨ヽ
         (.___,,,... -ァァフ|          あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
          |i i|    }! }} //|
         |l、{   j} /,,ィ//|       『ベイリーフ達が騒ぐので何かと思って外に出てみたら
        i|:!ヾ、_ノ/ u {:}//ヘ        ギラティナが触手プレイされていた』
        |リ u' }  ,ノ _,!V,ハ |
       /´fト、_{ル{,ィ'eラ , タ人        な… 何を言ってるのか わからねーと思うが
     /'   ヾ|宀| {´,)⌒`/ |<ヽトiゝ        俺も何をされたのかわからなかった…
    ,゙  / )ヽ iLレ  u' | | ヾlトハ〉
     |/_/  ハ !ニ⊇ '/:}  V:::::ヽ        頭がどうにかなりそうだった…
    // 二二二7'T'' /u' __ /:::::::/`ヽ
   /'´r -―一ァ‐゙T´ '"´ /::::/-‐  \    伝説のポケモンだとか破れた世界だとか
   / //   广¨´  /'   /:::::/´ ̄`ヽ ⌒ヽ    そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
  ノ ' /  ノ:::::`ー-、___/::::://       ヽ  }
_/`丶 /:::::::::::::::::::::::::: ̄`ー-{:::...      もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…






彼は何度も目を擦り、眼前で繰り広げられている現実を否定しようとするが、しかし一向に夢は覚める様子を見せない。
怜悧な月光に照らされるのは黒と赤の縞模様、広げた翼に太い六本の脚、それを象る黄色いエッジ。
巨体は雄々しく威圧感を周囲に放射し、何故か吹きつける風は妙に生温く、どこか異界を思わせる。
間違いなく殆どの人間が信じないような御伽噺に語られるポケモン、ギラティナだろう。

だが。
問題は。

彼が最も驚愕しているのはその巨体が横倒しになっている事。
周囲に集まった20を超える数のベイリーフ達。ちらほらとモンジャラやフシギソウの姿も見える。
全員が全員、蔓の鞭を伸ばしてギラティナの巨体を束縛し地面に押さえつけている。それは別にいい。
伝説のポケモンと言っても、あまりに相手が多すぎたのだろう。有象無象ならともかく彼の育てた草ポケモンはレベルが違う。
氷に閉ざされてなおソーラービームを放ち、炎に焼かれてなお光合成し、鳥に啄ばまれてなお絡みついて相手を落とす者ばかりなのだから。
"どうしてここに"ギラティナがいるのかという疑問は残るが、それはそれで彼にとってはどうでもいい事なのだ。
彼は草ポケモン以外に興味をほとんど持たないのだから、出来れば早く出ていってほしい程度にしか思っていない。
しかしベイリーフ達はそうではないらしく、むっと馨る青草の様な、瑞々しさを感じさせながらも酷く生臭い芳香が漂っている。
ベイリーフに特有の発情臭。本来は微かにわかる程度のそれがこんなにもはっきりしているのは集まった数のせいか、それとも。

勘弁して欲しい、と彼は思う。
同時にどこか心の中でそれを期待している自分に気づいて彼は驚愕する。
それを知ってか知らずか蔦を使っていない一匹のベイリーフが仰向けになったその腹に飛び乗る。
煌く月の光を反射して光るその瞳は、狂気に近い獣欲に濡れて。
武器でもある蔓の鞭……いや、触手でもってギラティナの腹をなぞる。その挙動のなんと淫らな事か。
ぐりぐりと押さえつける様に動かしながら、閉じられた一筋の亀裂を見つけたのか、嬉しそうに鳴き声を上げて、
中に収納されたモノを押し出すように、ベイリーフの触手はうねりながら其処に潜り込んでいく。
 
  「…ガァ… …ァアッ…!!」

酷く獣じみた声。これがギラティナの鳴き声なのだろうかと彼は思う。快感とも痛みともつかぬ感覚に、体を大きく捩るギラティナに近づきながら。
捩じる動きは当然蔓の鞭によって制限され、結果としては何の意味も無い。二匹目のベイリーフが腹の上に登り蔓を其処に這わせる頃には、
ギラティナの意思にかかわらず屹立した猛る巨塔が既に外気に晒されて存在した。やはり体格に比例するのだろうか、
とてもベイリーフに入るとは思えない。この行動が思うとおりベイリーフ達の強い雄を求める繁殖行動だとしたら、
受精に至らない性行為になど意味は無いのでは無いだろうかと冷静に考えながらも彼はさらに近づく。

それすら序の口だということを、薄々感づいてはいた。
三匹目、四匹目とそれを嬲るベイリーフが増えるに従って腹の上に登るのは困難となる。
ならばあぶれた蔓は何処に向かうのか?そう、口膣だ。
開く事も閉じる事も出来ないほどの量の蔦で食道と胃を埋め尽くされて、ギラティナは何を考えるのだろう。
彼が予想した通り、蔦の責めはこれだけではなかった。
割れ目に潜り込んだ蔦が、中身を掻きだすように暴れ出し、充血した雄槍にも触手は容赦なく絡みつき、搾り出すように責め立てる。
それだけでなく、細く伸びた蔦が尿道へと潜り込み、内側からもかき回し始めた。
いつの間にかポケモン達の数が増え、それに伴って束縛の数も自由な蔦の数も増えている。
どうやら肛門部にまで蔦の束は侵入しているらしい。彼は想像する、現在のギラティナの状況を。
 
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

ごりごりと、あるいはぐちぐちと。
肛門に刺さる蔦は結合し合いその形を槍型より槌型に変え、貫くと言うよりはむしろ内側から抉っている。
柔らかい腸壁が破れ腰部を灼熱が支配するが、しかし彼は厳密な意味では生物では無い故に、
その行為はギラティナの生命に何の問題も及ぼさない。ただ苦痛と快楽を与えるだけだ。
腐食性の体液らしきものが尾を伝って滴り落ち、地面を腐らせるが彼には既にそれに気付く余裕など無かった。
淫らなというには固過ぎる肉壁を無理矢理に広げ、赤黒い雫に濡れた凶器は脈打ちながら掘り進む。
 
  「アっ………………!」
 
ずるずると、あるいはぎゅるぎゅると。
口から内部に入り込んだ無数の蔦は分裂しながら食道を下って内臓を犯し、同時に染みだす蜜で隙間を満たす。
喉を過ぎ、胃を満たし、腸内を蹂躙しつつ出口である其処から入り込んだ槌に出会って蔦同士が繋がり合う。
破れた世界において神に等しい存在が、唯のポケモンの群れに自身の内部を完全に貫かれるという異常な状態。快感などあり得ない、はずだった。
しかし彼は腐っても神と同列に扱われるポケモン、あらゆる意味で"普通では無い"。
微細な突起が肉体の内側を擦る度に、腹の――胎の内部で蠢き捻れる度に、内臓性感とでもいうべき刺激がギラティナを襲う。
雄の絶頂でも雌の快楽でも無い、極めて精妙にして同時に荒々しい脈動が。
 
  「…………ガぁあ゛ぁ゛ぁ゛ァ゛ァッ!」

さらに彼自身の雄根、既にはち切れんばかりと言うよりは限界を超えて努張しているそれを弄ぶ蔦の動きが一転する。
スリットから完全に露出したそれを根元からまさぐり、或いは割れ目自体の内壁を小突いていた蔦達がぐるぐると集まってある形を造り上げる。
ぶよぶよとした円筒……否、むしろ内側に繊細な襞と収縮する強靭な筋肉を備えた、言ってしまえば雌の生殖器の模造品を。
ギラティナは自身が何故このような状況にあるのかを理解できない。ただ受け入れる事しかできなかった。
彼を覆う快楽と苦痛の協奏曲に、身体を丸ごと捕食されるような湿った灼熱感が混じる。
みっちりとした肉感と圧迫感を伴って押し寄せてくるような、本物の秘奥に勝るとも劣らない量感。
通常なら即座に射精に至るほどの刺激でありながら、しかし尿道口より侵入した微細な蔦がそれを許さない。
螺旋状に蠢いて自身の子種の全てを掻き出されるような感覚、それなのに未だ先走りのみしか外に放つ事を許されないという苦悶。
管の奥の奥、雌の体内に撒き散らすべき精子を製造する為の場所すら蔦に犯されて、凝集するなにか形にならないもやもやしたモノ。
 
  「ッ!ッ!…………………!………!」
 
最早声も出ない。蔦に締め付けられ絞られ抉られ埋め尽くされ、自身の存在が溶けていく程の衝撃を連続して与え続けられて、
しかしそれでも未だに彼は気を失ってはいない、未だに明確に苦痛と快感を感じ取ることが出来るという恩寵と呪い。
背筋を炭酸水が流れて行くような刺激、刺激、刺激刺激刺激刺激。霊竜の眼から溢れ出す涙は苦痛故か、それとも。
情けない叫び声、むしろくぐもった嗚咽しか漏れない中、植物の蔓に埋もれてもがくその姿は例えようの無いほど淫靡で。
出したい、雌の胎にぶちまけたいという思いがギラティナの精神を支配する。支配しつつもそれが与えられる事はなく、
それどころかその本能に反して吐精すら満足にならないもどかしさ。狂おしいほどの、――狂気に似た、その想い。
眼から光が消えかけ、神としての自らを忘れ、ただ放出したいという感情の実に支配された瞬間。
 
  「――――――――――――!!!!!!」
 
あえて音で表せばばちゃるっ べちゃり ばちゃるっ とでもなるのだろうか、
ぬめる肉塊からの圧倒的な、爆発的な噴出。ようやく解放された性器は雄々しく弾けて滾りを噴き出す。
嵐の海にも似て荒れ狂う快感、快感という言葉の範疇を超えた絶頂にギラティナは蔦に口を塞がれながらも咆哮する。
黄褐色と濃白色の中間の色合いのゲル状の塊が迸って宙で弾ける。飛び散りのたくって広がる精子の群れ。
びくびくと蔦にきつく拘束されていながらも痙攣する全身、開け放した蛇口のように止まらない射精、
天に放たれたそれはいかに粘性を持とうとも地に降り注ぐが定め、ぼたぼたと彼の全身を灰から白に近い色に染め上げる。
身体にへばりついた殆どゼリーに近いどろどろした粘液がゆっくりと自らの顔に落ちてくるのを、ギラティナは見るともなしに見ていた。
その間にも沸き立つような暴悪な射精は続き、瞬時に解かれる蔦の束縛。
ベイリーフ達は放たれたギラティナの精子を自らの蔓で受け止めて、そうして自らの秘所に挿入する。
まるで受粉作業の様な光景、しかし子種としての優秀さは否定できない。神と呼ばれた存在の濁液なのだから、間違い無く強い仔が生れるだろう。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

濃厚にして新鮮なそれが放つのはしかしやはり悪臭、すえた雄臭さは地面に浸透する程で、
脈打つ肉茎がようやく静まってきたのはゆうに三分を過ぎてからの事。既に蔦はその全てが所有者の元に戻り、
最早ギラティナは束縛されてはいない。ゆっくりと身体を起こしてギラティナはふらつきながらも彼を睨みつける。
いけない、と彼は思う。ギラティナも疲弊しているだろうがそれはベイリーフ達も同じ事だと。
彼は自身の最強のパートナーであるメガニウムが入っているはずのモンスターボールを投げ――――


――――ギラティナにぶち当たったそれは開き、疲れ切ったギラティナをその中に収め、

一回。

二回。

三回、揺れた。







         ,. -‐'''''""¨¨¨ヽ
         (.___,,,... -ァァフ|          あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
          |i i|    }! }} //|
         |l、{   j} /,,ィ//|       『メガニウムが入ってるボールだと思っていたら
        i|:!ヾ、_ノ/ u {:}//ヘ        単なる空ボールだった』
        |リ u' }  ,ノ _,!V,ハ |
       /´fト、_{ル{,ィ'eラ , タ人        な… 何を言ってるのか わからねーと思うが
     /'   ヾ|宀| {´,)⌒`/ |<ヽトiゝ        俺も何をされたのかわからなかった…
    ,゙  / )ヽ iLレ  u' | | ヾlトハ〉
     |/_/  ハ !ニ⊇ '/:}  V:::::ヽ        頭がどうにかなりそうだった…
    // 二二二7'T'' /u' __ /:::::::/`ヽ
   /'´r -―一ァ‐゙T´ '"´ /::::/-‐  \    寝惚けて間違えたとか伝説のポケモンゲットとか
   / //   广¨´  /'   /:::::/´ ̄`ヽ ⌒ヽ    そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
  ノ ' /  ノ:::::`ー-、___/::::://       ヽ  }
_/`丶 /:::::::::::::::::::::::::: ̄`ー-{:::...      もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…


あまりにもあまりな展開に暫くの間放心状態に陥っていた彼だが、あまり寝間着で外に居ると風邪を引く。
すっきりしたのかベイリーフ達は幸せそうに笑って、方々に散っていく。あるいは眠りはじめる。

「なにがおかしいのかねェー ぜんぜん ギャグになってねーのによ…」

全てを忘れる為にとりあえずは寝る事に決めて、彼は一つ大きな溜息をついた。


<2>

翌日。
朝の光が窓硝子から入り込んで彼の顔を照らす。
家の中だと言うのに咽るような青い香りに包まれているのは、放牧している草ポケモンが自在に出入りできるようにとの配慮の結果。
裸に近い姿を寝台から覗かせて、ジャンはもぞりと起き上がった。
若駒の如き肉体は日々の作業の蓄積によって造り上げられた一片の無駄もないもので、僅かに褐色の色合いの肌に黒い髪が映えて輝く。
普段ならば彼は起きがけに散歩を兼ねて敷地の見回りをしてから朝食を摂るのだが、何故か彼は片手を額に当てて深刻な表情を造っていた。
言うまでもなく彼の表情の元凶は現在テーブル横に転がっているモンスターボールの中身の事。
つまりギラティナを"これからどうするか"という問題だ。

彼はブリーダーであり育て屋であってもトレーナーでは無い。まして草ポケモン以外にはあまり興味が無い。
それはたとえその掌の内にあるのがこの地方において伝説と謳われた冥府の王、ギラティナだとしてもそんな事は関係が無いのである。
手っ取り早く逃がそうと思っても、偶然にもギラティナを――"彼"を捕えた時の状況から考えるに此方を攻撃してくる可能性がある。
それは困るのだ。此処にはたくさんの、それはたくさんの彼の愛する草ポケモン達がいるのだから。
ならばどうすればいいかと考えても、結局ギラティナに対して何事かのアクションを起こすにはボールから外に出す事が必要不可欠で。
そうしてその巨体を収めるには家の中では少々狭すぎる為に放牧場でモンスターボールを開けるしか方法は無い。
となると、そこにはやはり雄に飢えたベイリーフ達が群がって来る筈であり、昨日と同じ展開になる予感が彼の背筋を奔り抜ける。

「ほんっと どうすっかなァー」

顔面を隠すように片手を額に当てながら、残された右手でがりがりと器用に頭皮を爪で削る様に掻き毟って小さく欠伸を放ち、
畳まれた衣服に袖を通して顔を洗って台所へと彼は向かう。もちろん唯の台所では無い。
大量の草ポケモンを健康的に育てる為にはまず食物から考えなければならないのだから。
種族毎に調整されたレシピに、さらにその日の体調に合わせて個々の微調整。加えて土壌からの補給も加味しての養分摂取過剰にならないように。
美味しい水と肥沃な土壌に日光さえあれば、実際にはそれほど草ポケモンは食物を必要としないとはいっても、数が数だ。
調整されたポケモンフードを使わずに自ら調理したものを食べさせているのは彼の愛情の表れだろう。
自分用の質素な朝食――自然落下寸前だったトロピウスの果実と家庭菜園で育てた野菜達のサラダに牛乳と胡桃パン――を彼は無言で食べ続け、
その間も思考の歯車を巡らすが依然として解決策は浮かんでこない。ポケモンセンターに行っても結局は問題を先送りにするだけだ。
昨日ギラティナに会う前に仕込みを済ませておいたスープの味見を済ませ、外のポケモン達の前まで運び出す。
一匹一匹の体調チェックも兼ねている為に時間がかかるもので、全て終わる頃にはすっかりと朝日が昇り切っていた。

「…………………あァ そうか」

どのような思考を経て彼がそれに至ったのかは定かではないが、とりあえず疲れさせて動けなくさせてからどうにかすればいいのだと。
ギラティナにとって不幸な事に――或いは幸福な事に、ジャンはそう結論付けた。
今度こそ間違えないように自分の最も信頼するパートナーであるメガニウムの入ったボールと顔面を覆うマスクを家から持ち出し、
彼は口笛を吹いて食事を終えて自由に動き回っていた草ポケモン達を呼び戻す。

「ジャンー」「どうした」「なんだなんだ」「またご飯?」
「「もうたべられないよー」」「背中痒いなぁ」「あれ、俺の蕾綻びかけてんじゃね」
「オレ口調はやめろってジャンに言われただろー、雌なんだから」「フッシー太った?」

べいべいきゅいきゅいだねだねざわざわ、ポケモンが30匹以上も集まれば騒がしい事この上ないが。
人があまり訪れないこの地にあって、彼が寂しさを全くと言って感じないのはその煩さの恩恵でもあり、
同時に彼女等の溌剌とした姿と寄せられる素朴な信頼感はいつでも彼の心を満たすのに十分な温かさを持っていた。
十分な数が集まったのを確認し、掌に収めた赤白の球体から彼が呼び出すのはメガニウム。
預かっている訳では無い彼自身のポケモンの中でも最も長期間を共に過ごしたパートナーであり、
彼の最も愛するポケモンであり、同時に彼の心を永遠に蝕む罪悪感の源泉でもある。
仄かに蛍色の艶を纏った肌は緑に濡れて、厚く剛い皮の内にしかし確かに力を秘めた筋肉を隠し、
滑らかな体躯に首周りの鮮やかな花弁は違和感なく溶け込み、長く伸びた首の先の頭部には雌蕊の如き触角が二本。
濁った黄色の瞳は優しく、何処までも優しく、そうして不自然な程に"優しすぎる"。
まるで優しさ以外の全てを忘れてしまったかのように。何も見えてはいないかのように。

「あァー 知ってるとは思うが 俺は昨日なんか凄いモノを間違って捕獲してしまったんだがァー」

知ってるよ、昨日は凄かったらしいね、私も参加したかった、でもベイリーフ達を優先しないとね、ジャンいい加減雄も増やせよ。
好き勝手な事を云って騒ぐナッシーに、顔を赤くしているナゾノクサ達に、外野でぎゃいぎゃいはしゃぐ種々の草タイプの群れ。
当事者であるベイリーフは誰もが我関せずといったすまし顔で光合成に精を出しているというのに、この落差はなんだろうか。

「でェー まぁなんだ その時の状況が状況なんでェー 激怒してる可能性がすんごい高い訳でェー」

逃がすにしても何にしても、とりあえず暴れないように抑えておいてくれ、と。
彼はそれこそ風だったり谷だったり腐った海の畔だったりする場所で使われているような形のマスクを被り、
腕の一振りで集まった草ポケモンを散開させて配置につかせ、六歩下がって手にしたボールを放り投げる。
地面に落ちる直前に開かれたそれは膨大な量の赤い光を伴って内側に居た存在を実体化させる。
メガニウムと比べる事もおごがましい太く力強い六本の足を持った竜のような姿の。
三本の赤い棘が突き出た黒翼を背中に広げた、銀地に赤と黒の縞模様をその胸から喉へとあしらった姿の。
頭部と脚爪には金色の装飾を纏った、昨日彼が確認したのと寸分違わぬギラティナが其処に顕現する。
昨日最後に見た時と同じように、自信が造り吐きだした精液が乾ききって全身にこびりついた姿で。

ぎっ、と圧倒的な存在感でもって叩きつけられる気迫。ただ睨みつけられただけだと言うのに。
その黒と紅の瞳に確固たる怒気を見た彼は、やはり準備をして正解だったなと心の内では思いつつ。
ギラティナが口を開く前に。翼を羽ばたかせる前に。脚で地を蹴る前に。暴れられる前に。
マスクでくぐもった声でたった一言を草ポケモン達に向けて言い放った。

「フルコース……フィーラ、ぎりぎり限界まで削れるな?」

怒れる竜を囲むように陣取った四体のフシギソウが背中の蕾から悩みの種と宿り木の種を乱射してその巨体に叩きつける。
ナゾノクサの群れによる眠り粉、痺れ粉、毒の粉の大盤振る舞いをナッシーのリーフストームが混ぜ合わせ、
トロピウスとウツボットの甘い香りで動きを止めたギラティナにもはや何なのか分からない粉の嵐がそのまま直撃する。
ぐらりと巨躯を揺らした隙を見逃す事無く三匹のモンジャラのパワーウィップが向かって右側の脚列を薙ぎ払ってバランスを崩させる。
しかしそれでも伝説のポケモンは体勢を立て直しつつ自身の体を紫色の靄で包み、シャドーダイブを放とうと一瞬その姿が薄れかけ、


――――瞬間、フィーラと呼ばれたメガニウムの放った閃光が薄れかけたその姿を靄ごと吹き飛ばした。


最早ソーラービームと言う単語で括る事が出来ない太さの光柱は純白を超え、むしろ七色に見えそうな程であり。
太陽そのものの力を凝ったかのようなその輝きは瞳を焼き、朝日よりも凄烈に煌いて美しく。
如何に神と呼ばれる程のポケモンであっても全力で戦える状況に無く、ましてやこれだけの数を相手に注意を逸らされた所にこの一撃を喰らっては、流石に。
体重を感じさないふわりとした動きで30メートルほども吹き飛ばされたギラティナは、轟音を立てて地面にめり込んで動かなくなった。
すかさず駆け寄ったベイリーフ達が蔓の鞭と草結びでもって斃れた巨体を地面に縫い付ける。二重三重、万が一にも動けないように。
それでも倒す為でも殺す為でも無い以上、最低限の優しさでもって柔らかく包み込むように。
完全に固定された黒と銀の巨躯につぅと草地を滑るようにメガニウムは歩み寄り、地に伏したギラティナの顔の前に身体を置くと、
その鮮やかに色づいた花弁を大きく広げて芳しい甘き香りを解き放った。アロマセラピーは元々状態異常を回復するだけの技だとしても、
彼女の――フィーラ程に鍛錬と才能と経験が積み重ねられたポケモンならば十分にその効果範囲の対象に活力を分け与える事が出来るのだから。
重ねてメガニウムの花の香りはあらゆる生物の気持ちを静める。傷つき倒れ消耗し、気力を失ったギラティナを落ち着かせるには十分な効果だ。
動かせる顔を器用に起こして、ジャンを見つめるギラティナ。

「あァー すまねぇ 暴れないようにちょっと縛ってるけど 勘弁してくれな」
「……人間。名前は」
「ジャンウって言うんだが 呼びにくいから皆ジャンって呼ぶなァ で あんたはやっぱり」
「いかにも我はギラティナ、冥府より久方ぶりに此方に来てみれば……ッ」
「すまねぇなァ 雄がいなくて気が立ってたんだよ」

"思い出した"のか、傍目にも恥辱を耐え忍んでいる表情を見せるギラティナに物憂げな顔を向けたジャンは呟く。

「で 本当に申し訳ないとは思っているんで 出来れば怒らずにお引き取り願いたいものなんだけどなァ」
「なん……だと……?」
「ああ やっぱりいきなり逆レイプじゃぁそりゃあ切れるわなぁ でも」
「――お前は我を求めぬのか」
「はァ? なんで?」

彼は草ポケモン以外にはあまりにも興味が無い。それはたとえ相手が伝説と呼ばれる存在であっても同じこと。

「こんな人間に我は……我は……!」
「で 何もせずに帰ってくれるって約束してくれるなら今すぐにでも」
「我が此処まで虚仮にされようとは……なんという……」
「あのさァ 聞いてる?」
「必ず貴様に我が力を思い知らせてくれようぞ……ッ」

ぎしりと牙を食いしばる音が聞こえるような。
どうしても説得できそうにないギラティナ、束縛を解けばすぐさま暴れそうな状態に彼は顔をしかめ。
どうした物かと周りを見渡せば、どこか熱っぽそうなベイリーフ達に、もじもじしだした雌の群れ。
ああこんなにも簡単な方法があったじゃないかと。草ポケモンの欲求不満も解消できて一石二鳥じゃないかと彼は自画自賛する。

「ああ じゃあ二か月くらいお願いするかなァ」
「――――何をだ」
「ほら 今ベイリーフ達がさぁ そういう季節だから」

漫画の様にさぁぁっと、一瞬にしてギラティナの顔から色が消える。

「彼女達も昨日は大満足だったみたいだし あんただって気持よかっただろォ?」
「止めっ、止めろッ、我は」
「だからさ やっぱ仲良くなる一番の近道は 肌を重ねる事だと思う訳よ」

ベイリーフだけでなく、モンジャラやウツボット、貴重な雄のトロピウスまでがじりじりと距離を詰めはじめ。

「なんか雌ばっかりじゃないみたいだけど 神様なんだし心も広いよなぁ ってことで」
「ぐぉぅッ、あがッ!?」
「とりあえずベイリーフ達の繁殖期が終わるまでさぁ 彼女たちを慰めてあげてくれるかなァ」

餓えた獣の群れ。
神らしからぬ怯えを見せたギラティナの瞳は、すぐに緑に飲み込まれた。


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Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
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