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英雄の剣

/英雄の剣



結局改稿が思うように進められずに、二年も放置してしまったので、
もう一度上げ直します。



避難所の書き込みに感謝を込めて。










writer:朱烏





 白く鋭い剣が、相手の体を貫く。
 見開かれる彼の眼。痙攣する四肢。彼の肉から剣を引き抜くと、それは鮮やかな紅色に染まり、穏やかな夕陽を妖しく反射した。
 穴の開いた胸部を左手で押さえながら、なおも彼は右肘から伸びる剣を私に振るおうとしていた。しかし、その切っ先が私の体に届く前に、彼は事切れた。
 実に見事で、勇敢な戦いをしたエルレイドであった。
 だが、私は彼を殺した後悔の念を抱くわけでもなければ、彼を殺すことができたという満足感に浸るわけでもなかった。たとえどちらが死のうとも、呪うべきは己の運命だけなのだ。
「どうしてこのような時代に生まれてきてしまったのだろうな……」
 悲壮な決意を胸に秘めていたであろう剣士の亡骸を前に、私は茫洋たる草原にただひとりで佇んでいる心地であった。







        英雄の剣







「父上、今日も稽古をつけてくださいますか」
「……お前は昨日進化したばかりだろう。勇むのはよいが、体の感覚が馴染まぬうちから無理はさせられぬ」
「……ですが」
「ならぬ」
 父はぴしゃりと言い切った。
「今日から七日の間、稽古を禁ずる」
「七日も!?」
 私は驚きのあまり、声を荒げた。父の後ろで小さな妹の(イズミ)をあやす母が、何事かとこちらを見やる。
「それだけ長い間何もせずにいたら、太刀筋が鈍ってしまいます!」
 私は断固抗議した。
「太刀筋が鈍る? 笑止千万。お前の太刀筋はもとより乱れている。今のお前に必要なのは貝刀(ホタチ)を振り回すことではない。何度も言っただろう」
 私は昨日研いだばかりの貝刀を強く握りしめた。
 稽古は、私の道標だ。父から習う剣だけが、私の行く道だ。それを七日も禁じられるなど、到底了承できることではない。
「とにかく稽古はせぬ。貝刀を触ることも禁じる。村の人間の農耕を手伝うのがお前のこれからの仕事だ」
「そんな……」
 私は肩を落とした。つまらない農作業を延々と七日もし続けるなんて気が狂いそうになる。しかも貝刀を触るなときた。まるで死を宣告されたような気分である。
「この命令は絶対だ。もし破ることなどがあれば……」
 厳格な父のことだ。この先に言う言葉なんて知れている。
「二度と稽古はつけぬ。わかったな?」
 こうなれば、父の言葉には従うほかない。逆らったら一巻の終わりだ。
「……わかりました、父上」



「なるほど、そういうわけで珍しくお前は親父さんから逃げてきたってわけね? 俺としては全然好都合だけどな。人手が全然足りないし」
 グレッグルの弥丸(やまる)は、こちらを見向きもせずにけらけらと笑った。不愉快極まりない。
「どこをどう取り違えれば私が父上から逃げたことになるんだ? お前は私を侮辱しているのか」
「あれ? 貝刀触ったら二度と稽古つけてもらえなくなるんじゃねえの?」
 無意識のうちに太ももの貝刀に伸ばしていた手を引っ込める。思わず冷や汗が出た。もし父が見ていたら「このうつけ者が!」と怒鳴り散らし、貝刃撃(シェルブレード)を私の腹に叩き込むに違いなかった。
「進化したばかりの体に感覚がついていかないっていうのは一理あると思うぜ。お前の親父さんが言うんだからまず間違ってないだろ」
 こいつまで父の味方か。私は舌打ちをして、稲の苗を泥の中に突っ込む。
「ああ、だから適当にやるなって。ただでさえ間隔がばらばらで植える速さも遅いのに、苗が斜めになって水面から顔を出してないとか、もう救いようがねえよ」
「しょうがないだろう!? 一度もやったことがないんだ! 初めから上手くできるわけじゃない」
 私の言い訳に、友は呆れたと言わんばかりに溜め息をついた。
「むしろこの村にいて田植えを一度もやったことねえっていうのが信じられねえよ。働かざる者食うべからずっていうありがたいお言葉を知らねえのか?」
「私の仕事は田植えではなく、この村を守ることだ。だから毎日稽古をして、もしもの時のために備えておかなければならないんだ。こんなことに時間を浪費してるなんて、空から私を見守ってくださっているご先祖様に申し訳が立たない。いったい父上は何を考えておられるのか……」
「そんなこと言ったってなあ、こんな辺鄙な村に攻めてくる輩なんざもういないと思うぜ。お前のひいじいさんがひとりで村を守った武勇伝なんて五十年近くも昔のことだろ? そんなに必死に稽古に励んでどうすんだ?」
 いかにも正論だった。剣が上手くいかず、稽古に没入できなかったとき、ちらりと頭をかすめたことは何度もあった。
 しかし、それが村を守る剣士として正しからざる心構えであることは明白で、私はその度に己の頬を打ったのだ。
「五十年平和が続いているからといって、これからも平和が続くとは限らないだろう! 気が緩んだその時に災禍は訪れるんだ! 村のみんなが皆殺しにされてからでは手遅れだ! それに……(クロガネ)はしっかりと稽古をつけてもらっている」
 鉄というのは、私と一緒に父に稽古をつけてもらっているコマタナのことだ。口数が少ない上に、何を考えているのかよく分からない。
 しかし実力は確かで、打ち合いでの勝敗数は、彼がわずかばかり私を上回っている。
 自分の息子や娘以外には絶対に剣を教えることはないと言った父が作った、唯一の例外だった。
「なぜ鉄はよくて、私だけが!」
 腰をかがめていた弥丸はすっと立ち上がり、私を見据える。
「まあそういきり立つなって、水漣(スイレン)
 弥丸は私の胸を思い切り押した。
「うわっ!」
 私は情けない声と共に、泥水の中へ尻餅をついた。撥ね上げた泥水が全身を濡らし、弥丸に似た蛙が泥濘(ぬかるみ)から飛び出した。
 まさか弥丸が私にこんなことをするとは夢にも思わず、反射的に怒鳴った。
「何をする!」
「落ち着けって。お前の剣が、たかだか七日程度稽古をしなかっただけで衰えるわけねえよ。何を焦ってるんだよ」
 友の諭すような口調と真剣な目に、私はたじろいだ。
「わ……私の剣は未熟なんだ……。太刀筋が乱れてしまうと反論したら、もとから乱れていると言われたんだ。だったら、もっと稽古を積むしかないだろう。それしか剣を鍛える方法はない……。まだ父の背中は見えないのに、こんなところで立ち止まっているわけにはいかないんだ……」
 泥水の底についた手に、力を込める。しかし、立ち上がれなかった。
「それとも……父上は私を見限ったのだろうか」
「見限る? そんなわけねえだろ」
「……いつまで経っても剣が上達している気がしない。叱責されることは数あれど、褒められたことは一度もない」
「そんなの気のせいだろ」
「鉄は、褒められていたんだ。……私には名だたる先代や父上のような才能はない。いくら稽古を積んだところで、底が知れていると思われたのではないだろうか」
 実際のところ、自信などとうの昔に失っていた。鉄との実力差は伯仲するどころかじわじわと開いてきている。それでも、剣が好きであるという気持ち、そしてこの体に流れる血が与えてくれる矜持が、今の私を強く支えていた。
 だが、それがいったい何の役に立つというのだろう。好き嫌いと得手不得手は比例するものではない。また、血筋はむしろ己の力量に根拠なき自信、すなわち有害な盲信を誘発させるだけである。
 弥丸も私も押し黙る。静まり返るというよりは、ただ穏やかに優しく時間が流れるだけだった。風に草木がそよぎ、おたまじゃくしがもぞもぞと水中を動き回る。
 隣の田では人間とポケモンが仲良く田植えをしていた。
「本当はこんなこと言っちゃいけねえんだろうけどさ……。口止めもされてたし」
 ふいに、弥丸が口を開く。
「何がだ?」
「お前さ、お前の親父が村中の人間やポケモンにに「あれは百年に一度の天才だ。私などすぐに追い越す」って触れ回ってるの知らないだろ」
「え?」
 あの岩のように厳格な父が? 弥丸はいったいどこの世界の話をしているのだろう。
「貝刀の扱いは粗削りだけど、溢れる才気がそれをまったく問題にさせないんだと。それを聞いて俺は素直にすげえと思ったよ。あの厳つい水漣の親父がそこまで言うなんて、俺はなんて奴を友達に持ってるんだって」
 にわかには信じがたい話だった。あの父が、嬉々として私の話をする――やはり想像できない。頭の中に父に何かものを喋らせようとすると、口から飛び出すのは馬鹿者、うつけ、という罵言だけだ。
「それは……本当なのか?」
 隣の田をじっと見つめる弥丸は、こちらを見ずに言った。
「もっと自信持てよ。お前は天才なんだからさ。親父がお前に厳しく当たるのは、それだけ期待かけてるってことなんだよ。褒められないとか、叱られたとか、そんな細かいことで悩んでるようじゃまだまだだぜ?」
 もしかしたら、友が私を励ますためについた嘘なのかもしれない。私はそんなことをわざわざ父に確かめるような勇気を持ち合わせていないのだから、そうだとしたら弥丸は上手く私を掌の上で転がしたことになるのだろう。
 それでも、嬉しかった。私はきっと小さなことで悩み過ぎていた。己の腕を過信するのは厳禁だが、少しくらいの自信は持たなければいけない。
「そう……だな」
「ま、わかったら黙って苗を植えてくれ。ゆっくりでいいから、苗と苗の間隔は一定に、で、苗は直立させる。そこまで深く植えなくてもいい――」
 のどかな時間は、永遠の平和を思わせた。戦いのための貝刀など要らぬと、田の中に放り込みたくなってしまうくらいに。



 秋めいた気配が、茜色の空を漂う。物見やぐらの人間が惰眠を貪っているのは平和の印だ。
 細波のように揺れる黄金色の稲は、じきに収穫される。今年はいつになく天候に恵まれ、その上私が手塩にかけて育てたのだから、豊作間違いなしだ。
 本来であれば稽古に当てていた時間を幾分か田や畑のために当てたので、必然的に剣を振る量は少なくなった。しかし、乱雑に貝刀を振り回していた以前よりも、今の方がずっと質の高い稽古ができている。
 父は相変わらず私を褒めるようなことはしなかったが、私を見る目つきは大分穏やかなものになった。
「たゆまぬ研鑽の先に真の平和はある」
 とある稽古の終わり間際に、父が放った言葉だ。
 まるで、今まで自分が一度も剣を振るわなかったことを、感謝しているかのような口ぶりだった。
 これが村を守る最高の剣士、そして村を守るポケモンたちを率いる者の心構えなのだと私は悟った。

「これで今日の作業は終わりだ」
 泥にまみれながら害虫駆除を行った私たちは、稲小屋で一休みしていた。
「今日は稽古しなくてよかったのか?」
「たまには休みも取らないとな。溜まった疲れは剣を鈍らせる」
 私は大きく伸び、あくびをした。
「へえ、考えるようになったじゃねえか。三か月前とは大違いだ」
「成長するものなんだよ、ポケモンも人間も」
 友と嘯き合うこの時間がたまらなく愛おしかった。剣を使わずに死ぬことは、やはり真の幸せなのであろう。
「明日はいよいよ収穫だ」
 弥丸はおもむろに立ち上がり、開かれた戸の向こうにある黄金色の波を見つめた。
 弥丸もまた、作物を育てるという点から村を守ってきたひとりなのだ。方法は違えど、そこに農民と剣士の違いは一寸もない。
「明日は稼いでもらうからなー。じゃ」
「また明日」
 颯爽を稲小屋を飛び出した弥丸を目で見送ったあと、私も立ち上がり小屋を出て、人間と暮らす家へと戻ろうとした。
 その時、私は声をかけられた。
「水漣」
「……鉄?」
 鉄が話しかけてくるとは、珍しいこともあるものだと思った。
 何しろ、鉄は稽古場以外で、私と一切の話をしたがらない。馴れ合いが嫌いなのか、私を好敵手と見なして口を利かないようにしているのかわからないが、どちらにせよ好かないポケモンだった。
 その鉄が、どういうわけか私をじっと見つめている。兜の中の無機質な瞳は、相も変わらず何を思っているのかが読めない。
「何か用か?」
「……嫌なにおいがする」
「何?」
 いったい何のことだ。それは泥まみれになることが多くなった私への嫌味か?
「おい待て、どこへ行く!」
 鉄は奇妙な一言だけを放って、自らの主人の待つ家に帰って行った。
「……何だったんだ」
 私は鉄のことが余計に分からなくなった。



 皆が寝静まった頃だった。私は明日の収穫が待ち遠しさに寝つくことができなかった。
「少し剣を振ってこよう……」
 安らかに眠る家族と、いびきのうるさいこの家の主人を起こさぬよう、静かに土間の引き戸を開け、外に出た。
 汗をかかない程度に動けば、多少は寝つきも良くなるだろう。
 いや、その前に軽く散歩しようか。たわわに実った稲が織り成す田園の光景は、明日には見納めなのだ。また一年間、この風景は見られなくなる。その前に、十分に目に焼き付けておくべきだ。
 私は土手を駆け下り、畦道へと降り立った。
「誰だ!? ……って、水漣か」
 突如こだました声の方を振り向くと、そこには弥丸がいた。毒々しい色をした体は暗闇ではほとんど目立たないはずだが、今宵の眩しい満月はそうさせてくれないようである。
「弥丸? どうしたんだ、こんなところで」
「それはこっちの台詞だ。俺は夜中に何度か起きて、畑に野生のポケモンとか害獣が入ってこないか見回ってんだよ」
 弥丸は人知れずそんなこともしているのかと私は目を丸くした。畑の作物を食い荒らす獣をここ数年見ないと思っていたが、それはひとえに友の努力の賜物だったのだ。
「見回ってる奴は他にも何匹かいるぜ。みんな交代でやってるんだよ。お前は?」
「私はただの散歩だ。寝つけなくてな」
「ふうん。ま、明日は忙しいんだからちゃんと寝ろよ?」
「わかってるよ」
「あ、って言うか、収穫が楽しみで寝つけないんだろ? 子供だな」
 弥丸は私を指差しながら笑った。何と失礼な奴だろう。図星であるのが余計に腹立たしい。
「不愉快だ。帰る」
 私は踵を返し、土手を登り始めた。
「怒るなって、冗談だ……ろ」
 私は弥丸がふざけながら追いかけてくると踏んで、固い拳骨を用意していた。
 しかし、一向にその気配がない。その代わり、弥丸はひどく落ち着いた声を私にかけたのである。
「なあ、水漣。あれ何だ?」
「え?」
 後ろを振り向く。土手の下には、山を指差す弥丸の姿。
 そして、その山には赤くちらちらと揺れる何かの影。
「……火、か?」
 山火事か? しかし、雷など落ちてはいない。空には雲一つかかっていないのだ。
 だが、山火事だったら一刻も早く村の皆を起こさなければならない。村から山までは半里も離れていない。
「弥丸、火事かもしれない。皆を起こそう」
 だが、私の呼びかけに弥丸は動こうとしなかった。
「弥丸!」
「水漣、なんだかおかしくねえか? 火が燃え広がって大きくなるとかだったらわかるんだが、そんな風には見えねえ。点々とした火がこっちに向かって動いているだけだ」
 こっちに向かって? 私はもう一度山を見やる。
 すると、確かに弥丸の言う通り、火はこちらに向かって動いているように見えた。
「……父を起こしてくる」
「そうだな。それがいい」
 私は家へと飛んでいき、父を起こして外へと連れ出した。
 その時のことはあまり覚えていない。ただ、山に揺らめく赤い火を見た父が鬼の形相で咆哮し、村の人間とポケモンを一人残らず起こしたことだけははっきりと覚えている。
 あの火は、数多の人が持つ松明(たいまつ)の火だった。山の向こうに住む人間やポケモンが、私たちの村に夜襲を仕掛けたのだった。
 平和は、突如として崩れ去った。





 私は百年に一度の神童だったという。しかし一度も父に勝てたことのない私が、その道理を理解することはなかった。
 初めての戦争を経験するまでは。





   ◆





「……おい! 水漣が目を覚ましたぞ!」
 どたばたと騒々しい足音が頭に響く。視界はぼやけていて、今いる場所が薄暗いことくらいしか判らなかった。
「本当か!?」
「皆を呼べ!」
「早く来てくれ!」
 いったい何事だろうか。私が目を覚ましたことがそんなに一大事なのであろうか。
 ようやく、目の焦点が合う。ここは――私たちとその主人が住む家だ。何の変哲もない、大した広さもない、いつも通りの粗末な家だ。小屋と呼んでも差し支えないかもしれない。
 そんな家に、これでもかというほど人やポケモンが集まる。
 私は体を起こし、ただただたじろぐしかなかった。私の寝床を、村中の人間とポケモンたちが囲んでいた。皆、喜びと安堵に満ちた表情をしていた。
 その中に紛れていた弥丸が、私に歩み寄る。
「お前……俺、本当に……お前が死んだかと……」
 弥丸は破顔したかと思うと、突然わっと泣き出して私に抱きついた。
「や、弥丸! 皆が見ている前でよさないか!」
「三日も眠りこけやがった奴が……何を偉そうに! どれだけ心配したと……思ってんだ……」
「三日だと? 私はそんなにも長い間眠り続けていたというのか?」
 私は泣く弥丸の肩越しから、周りを見やった。皆笑っていたはずなのに、顔を手で覆い隠している女もいれば、涙を流す小さなポケモンたちもいた。
「お前はぼろぼろになるまで戦ったんだ。死んでもおかしくないくらいにな……」
「戦った……?」
「そうだ……。戦争だ……まさか覚えていないのか?」
 弥丸が私から離れる。
 私の脳裏に、村が紅く燃え盛る悲惨な光景が浮かんだ。

 嗚呼、間違いなく戦争だった。
 次々と敵が攻め入ってきて、どんどん家が燃やされた。
 逃げ惑う人々。叫び声。怒号。悲鳴。この世の地獄だった。
 私は戦慄(おのの)いた。これが戦争なのか、と。
 脚をすくませてる場合ではない。こういう時こそ私は戦わなければならない。
 なのに、私の脚は動かない。
 目の前には、痛い痛いと泣きながら、体のあちこちを擦りむいて地面につくばう子供。
 その子に立ちはだかる、上背六尺はあろうかというリングマ。
 頼む、動いてくれ。私はあの子を助けなければならない。
 動け、動け、動け!!
「いやあああ!」
 リングマが爪を振り上げた――。



「そうか……戦争か……」
「思い出したか?」
 弥丸は沈痛な面持ちで、私の右肩を掴んだ。周りの人間やポケモンたちも、悲愴感を漂わせている。
「戦争があったことは覚えているが……私がどうなったのかは覚えていない……」
 私はもう一度周りを見渡した。そして、あることに気づいた。
「父上は、どこにいらっしゃるのですか? 母上も、泉も見当たりませんが……」
 弥丸の目が見開かれる。
 水を打ったような静けさに包まれる部屋。闇鴉(ヤミカラス)の鳴き声が遠くかすかに響いている。
 私の眼界が、まるで川の中の景色のようにゆらゆらと揺れる。次いで、目頭に鈍痛が走った。
水濫(スイラン)殿は……」
 皆が口を真一文字に結ぶ中、一人の男が口を開いた。名は昭二――鉄の主人だった。
「水濫殿、そして(ナギサ)さん、泉ちゃんは」
「まて、昭二」
 隣の男が、昭二を制止した。村長(むらおさ)の息子、恭一郎だった。
「皆、外へ出るんだ。水漣……こっちに」
 恭一郎の指示に従い、私の周りを埋め尽くしていた者はみな戸口から出て行った。私も彼らに付き従って、外へと出た。
「これは……」
 立ち往生する人々の脚の隙間から見た村の景色は、ひどく悲しいものだった。あちらこちらに建っていたはずの家はほとんど炭と化していて、無事なのは私の住んでいる家を含めた五、六軒ほどだった。
 田も畑もぐちゃぐちゃに踏み荒らされており、とても作物の収穫など望めなかった。
「酷い……」
 私は、村を守れなかった。所詮、私ひとりの力などたかが知れていたと言うことか。
 いったい私たちが何をしたというのだろう。ただ、ささやかな平和の中に生きていただけであるというのに、この理不尽さはなんとしよう。
「水漣……裏の庭に来るんだ」
 皆が裏庭に足を運ぼうとする中で、恭一郎が私の手を引く。裏庭に何があるというのか。
 ――いや、もう予想はついている。父の姿も、母の姿も、妹の姿も、私のそばにないはずがないのだ。
 本当ならば、叱咤したり微笑んだりしながら私の目覚めを待ってくれていたはずなのだ。
 なのに。
「水漣……君の家族の墓だ」
 こんな仕打ちはあんまりではないか。
 ついに、私は一粒の涙を流した。
 小さい頃から些細なことで泣き、その度に父から男は涙を見せるなと怒られた。そしてあるときから私は泣かなくなり、涙は二度と流さぬと誓った。
 しかし、そんなことはもうできなかった。どうしてこの悲しみを押し留めることができよう。
 歯を食いしばっても、頬を打っても、(はな)をすすっても、なお涙が止まらない。
 声を出さぬよう努めることだけが、今の私にできる精一杯のことだった。
「申し訳ありません、父上……。涙を流すまいと誓っておりましたが……私のようなうつけが約束を破ってしまうことをお許しください……」
 父、母、そして妹の名が刻まれた墓石を前に、私は手をついた。
「……本当にすまない。私たちにもっと力があれば、死なせずに済んだかもしれない」
 恭一郎の後悔が虚しく響く。
「……水濫はかなりの人とポケモンに囲まれていた。優秀な剣士であろうと、厳しい戦いだったに違いない。私たちも応戦したが……及ばなかった」
「……そうですか」
 さしもの父でも、大量の敵には敵わなかった。
 そもそも、こちらに兵士を務められるものなどあまりいなかった。数では圧倒的に不利だっただろう。
 父の負担は想像を絶するものだったはずだ。父自身も、きっと死を覚悟して戦ったに違いない。
 母も腕は確かだった。父を手助けしながら、足のすくんでしまうような状況で勇敢に戦ったのだろう。
 可愛い妹は――考えたくなかった。せめて、父母と一緒に死んでいてほしかった。そうでもなければ、あまりにも悔しい。
「本当に私は、何も守れなかったのか……」
 深呼吸して、空を仰ぎ見る。白んだ空は、朝を告げていた。
「恭一郎さん……生き残ったのは、ここにいる人とポケモンだけですか? ……いったいどれだけの命が失われたのでしょうか」
 洟をすすりながら、私は分かりきっていることを訊いた。聞かずにはいられなかったのだ。守れなかった命に、私は謝らなければいけない。
 見渡して、ざっと二、三十人。ポケモンは十五匹。元いた数の八割以上は失われている。辛うじて全滅は逃れられたと言うことか。
「亡くなったのは、人間が十三人、ポケモンが九匹だ。大切な人やポケモンたちを私たちは失ってしまった」
 私ははたと息を止めた。聞き間違いだろうか。
「そんなはずはないでしょう……。ここにいる人たちは三十人もいません……」
「それは向こうの村にほとんど移ってしまったからだ」
 敵の村に移った?
「な、なぜ?」
 私の言葉がそんなにおかしいのか、周りの人々もポケモンも皆顔を見合わせてている。私の家族を悼んでいる最中のはずなのに、とても奇妙で、嫌な雰囲気だった。
「水漣、君は本当に覚えていないのか?」
 私は、何か大きな勘違いをしている――?
「戦争に勝ったのは……私たちだよ」
 私は目を大きく見開いた。
「そして……勝てたのは他でもない、水漣のお蔭だ」
 雲、風、虫のさざめき、鳥のさえずり、そして私の流す涙――すべてが止まった。



「水漣……君は、英雄なんだ!」





   ◆





「……めろ……水漣……」
 弥丸の声がする。私の名を呼び、何かを必死に懇願している。
 だが、私は敵を斬らなければならない。この村を、この村の人々を、守らなければならない。
「水漣……もうやめろ」
 弥丸が私を背面から抱きしめた。
「止めてくれるな、弥丸」
 私は血に染まった貝刀を振りかざした。
「もうそいつは死んでるから……やめてくれ……」
 確かに、目の前のザングースは既に息絶えていた。胸から腹にかけて深々と斜めに刻まれている一文字は、一目で致命傷だと分かる。
 周りには、人間の屍が散らばっている。仰向けの屍。うつ伏せの屍。体の一部が欠けている屍。
 立ち込める血のにおい。村を焼き尽くす業火。
 ここはきっと、地獄よりも酷い場所だ。
「そうか。ならば次の敵を」
「もう! 終わってるんだよ! 敵は全部……死んでるんだよ……。だから、やめてくれ……」
 弥丸は、泣いていた。血に染まった私の背中に顔を押し付け、すすり泣いていた。
「……わかった」
 そしてようやく、私は振りかざした貝刀を下ろし――倒れた。





   ◆



 村に住む人間やポケモンの数は一気に増えた。人間は五百人。ポケモンは三百匹。
 そのうちの七割近くは奴隷だ。
「おーい、水漣、何やってんだよ。そんなの奴隷にやらせときゃいいだろ」
 人間の奴隷のほとんどは、この村に住んでいた女と子供だった。奴隷ポケモンも似たような状況にある。
「だいたいお前は剣の鍛錬があるんじゃないのか?」
 元々この村に住んでいた成人の男は、先の戦争で駆り出され、皆死んだ。
「教えてもらいたいって言う人間もいるんだぞ」

 私が一人残らず殺したという。

「おい、聞いてるのか? 田植えなんかしてる場合じゃねえんだって」
 弥丸が私の腕をぐいと引っ張る。私は泥濘から引き抜かれた。
 私の横で家の苗を植えていた奴隷の子供が、私を横目で見やった。しかし、すぐに作業に戻った。
「……なあ、もう九か月経つんだぞ? いい加減引きずってないで前向けよ」
 しかし、弥丸の叱咤は私の心に届かなかった。
「……剣を握る気にはなれない。もう十分なんだ」
「水漣……いつまでも沈んでるのお前だけだぜ?」
 弥丸が泥まみれの私に正対する。まったく汚れていない弥丸とは正反対だった。
「私がしたかったのは、自分の村を守ることだ。他の村を侵略することじゃない」
「はあ、またその話か。じゃあ逆に聞くけどよ、何が正解だったんだよ? 黙ったまま皆殺しにされることか? それとも奴隷としてこき使われることか?」
 何度も同じことを訊かれた。その度に私は答えに窮する。
「結局そういうこった。やるかやられるかの話でしかなかったんだよ。だいたい仕掛けてきたのはあっちなんだ。返り討ちにあったって、自業自得、相手――いや、お前の力を見誤ったとしか言えねえ。それに、俺たちは田も畑も家も潰されたんだ。生活するには、こっちの村を乗っ取るしかねえだろうがよ」 
 弥丸の言い分はもっともだった。元々私たちが住んでいた村の生活基盤は失われている。気の遠くなるような再建作業をするよりは、男がいなくなったこの村を制圧する方が遥かに容易い。
「……そりゃ、お前が多くの命を奪ったのを気に病むのは分かる。だけどな、それは罪じゃなくて勲章なんだよ。殺した分だけ俺たちの村を救ったってことなんだ。お前が殺したことで、守るべき沢山の命が救われたんだ」
「……そうだな」
 私は一応首肯したが、本当は肯定する気持ちも否定する気持ちも湧き上がってきてはいなかった。
 ただ、いかんともし難いやるせなさだけが私の心を支配していた。
「俺は別に、また戦争しようって言ってんじゃねえんだぜ? 人を次々と斬っていくお前の姿はもう二度と見たくねえ。だけど、お前が落ち込んでる姿も見たくねえ。もう終わったことは仕方ねえんだ。前向いて歩いていくしかねえんだよ」
 弥丸は空を見上げながら、親友としての本音を吐いた。
「すいれーん!」
「ん? なんだ?」
 人間の女の子が、森から伸びる、田を分ける畦道(あぜみち)をぱたぱたと駆けてくる。
 あの日、リングマの爪の餌食になろうとしていた、五歳の女の子だ。名は楓という。両親は先の戦争で死んでいるが、もう立ち直っているようだった。
「水漣! 楓ね、お花とってきたの!」
 名の知らない白い花を私の胸に押し付けてきた勢いに、弥丸すら思わずのけぞった。
「水漣ずっと元気ないでしょ? だからこれで元気出して!」
 もし、私の脚があのときすくんだままだったら、この女の子は果たしてどうなっていただろうか。想像に難くない。
「ありがとう、楓。とっても綺麗な花だね」
「どういたしまして! また今度、いっぱいお花摘んでくるからね!」
 楓は嵐のようにやってきては、どこかへ駆けて行ってしまった。元気があり余って仕方ないらしい。
「お前がいなかったら、あの子の笑顔も見れなかった」
「……分かっている」
 どうしようもないくらい、腹立たしいくらいに分かっている。
「……分かっているよ、心の底から」
 だが、あの子は私がしたことを知らない。助けたときには楓はもう気を失っていた。楓が目覚めるまでの間、私が修羅に入り殺戮の限りを尽くしたことなど、とても教えてやれるものではない。
 おそらく、突然元の村を離れてこの村で暮らすことになった経緯も、奴隷が数多くいる理由も、楓は理解していないだろう。
 私は未だに、この微妙な感情に折り合いをつけることを躊躇っていた。



 私は小さな山を一つ越えて、前の村を訪れた。
 家族の墓がある場所だ。そして、私たっての希望で、戦死者全員の亡骸がその墓の周りに埋められた。
「全員……ではないか」
 鉄だけは埋められていない。戦争ではやはり勇敢に戦ったらしいが、その亡骸だけは今も見つかっていなかった。
 私の父さえ死んだのだから、剣士として私や父と同じくらい果敢に立ち向かった鉄が死んでしまっても不思議ではないと、昭二は泣いていた。
 わざわざ鉄が死んでしまった悲しみを押し留めてまで、目覚めた私に私の家族の死を知らせようとした昭二の気持ちはいかほどであったのか、考えるだけで胸が痛む。
「安らかに眠ってください」
 しゃがんで手を合わせ、しっかりと墓に刻まれた人々とポケモンの名を目に焼き付け、私はその場を後にした。



   ◆


 
「私が皆に剣を教える……?」
「是非、お願いしたい」
 人口が倍増しても、戦える人間の数は増えていない。私以外に特別強いポケモンはおらず、以前のように他の集落から攻められたら、村は今度こそ潰れるかもしれない。
 兵力増強は村の平和のためにも急務であると、新たに村長を継いだ恭一郎は力説した。
 私が精神的な安定を取り戻し、再び剣を握れるようになってからわずか二週間後のことであった。
 私はため息をつき、馬鹿馬鹿しいほど高い茅葺(かやぶき)天井を仰いだ。
 英雄として祭り上げられた私は、私にまったく不釣り合いな大きな家を建てられ、そこに住む羽目になってしまった。仕方がないので、村長の家にも匹敵するこの住まいに弥丸とふたりで暮らしているが、そこに村長が神妙な面持ちでやって来たのだ。
 そしてお互いに(むしろ)に座すと、恭一郎からこの話を切り出したのだ。
「剣というよりは、戦場での戦い方だ。以前水漣がほぼひとりで戦ったことは、私としても非常に不本意だった。蔓延っていた平和呆けが、水漣ひとりに重荷を背負わせてしまった」
「しかし、私が教えられるようなことなど……」
 どうにも、家の空気がくすんでいるように感じられる。喋るのも億劫(おっくう)だった。
「水漣……もう君ひとりだけで守れるほど、村は小さくない。君の曾祖父がたったひとりで村を守ったという話は脈々と受け継がれてきたが、それは村というには程遠い……人口が五十人にも満たない小さな集落だったころの話だ。その後、近くにあった幾つかの集落を寄せ合わせて比較的大きな村を作ったという話も、戦いにおびえていた当時の村人たちの危機意識があってのことだ。そして、今この村は五百以上もの人間と三百を超えるポケモンを抱えている」
 恭一郎の淡々とした語り口は、私に決断させることをじわりじわりと迫っていた。
「確かに、私ひとりではどうしようもないほど村は大きくなりました。しかし、道を過てば容易く命を奪える剣を、未熟な私が教えられるとは到底思えないのです」
 裏表のない気持ちだった。私に剣を教えた父は、その厳格さと強さを持って、私に対峙した。
 人は口々に私は父より優れていたと言いたがるが、己を制すことなくただただ滅茶苦茶に暴れて敵を殺戮した私が、いったい父の何を超えたというのだろう。
「謙遜してはいけない、水漣。君が神童や天才と呼ばれて久しい。事実、あの日の君は君の父を大きく超えていた。敵を殲滅した英雄の技は、やはり」
「やめてくれませんか」
 私は表情を露骨に曇らせた。言葉に出すほど不快だったわけではない。もうほとんど慣れてしまっている。
 平和が一度崩れてしまえば、私の評価はどれくらい稽古に励んだかではなく、どれくらいの敵を殺したかにすり替わる。
 しかし、恭一郎は慌てた。
「す、すまない。気分を害すつもりは露ほども……」
「……もう過去のことは割り切りったつもりです。私が総勢三百を超える人間やポケモンを鬼の如き振舞いで殺め回ったというのも、村を守るためには必要だったことなのでしょう。未だにそのときのことはほとんど思い出せませんが……」
 心なしか、恭一郎は私が怒り出さなかったことに安堵しているようだった。
「ですが、命を奪うというのはあくまでも最終手段であるべきです。そして、その手段となり得る剣を出鱈目に教えてはならないのです。自らを守るだけならまだしも、侵略の手段になることには絶対にあってはなりません。にもかかわらず、恭一郎さんは私が記憶を失ったほどに制御がきかなかった、あの憎むべき剣を求めているように見えて仕方ありません」
「それは……違う。断じて違う。先ほどは私の言葉が過ぎた。この村の平和は私たちが第一に望むことだ。初めにも言ったが、これは村の平和を守るために頼んでいることなのだ。誤解させてすまなかった。だが、どうか承諾してほしい」
 私の心は曇ったままだった。村長がこうしてわざわざ頭を下げに来ているのを無碍にしたくないという気持ちもあったが、所詮それは面子だの矜持だのというちっぽけで面倒な事情が絡みついているだけだ。
 しかし、これを断った後に想像することは、己を守る力が足りないせいで侵略者から無抵抗に殺される人々やポケモンの姿だけで、平和な世界などこれっぽっちも描けなかった。
 たとえ思ったとしても絶対に口には出さないが――こちらが侵略者になった方がまだましだった。
 私は大きく深呼吸をして、恭一郎を見据えた。
「分かりました。ただし、私はそう多くの人の面倒を見きれません。どんなに多くても五十人までです。それと、このことに関しては全て私に一任してください。それならば……引き受けましょう」
「もちろんだ。引き受けてくれたことを心から感謝する」
 そう言って恭一郎は居住まいを正し、ひたひたと戸口から出て行った。
「ふうん、まあいいんじゃねえの?」
 私の後方にある部屋の戸が開いた。
「……弥丸、聞いていたのか」
「そりゃ隣の部屋にいたからな。丸聞こえよ」
 弥丸は私の前に正対し、筵に座った。どうやら昼飯を食べていたようだと、歯をしきりに弄る弥丸を見て思った。
「本当にいいと思うか」
「何だお前。迷ってんのに返事したのかよ」
「……良かれと思ってやったことが悪い方向に転がってしまうのは、いつだって危惧しなければならないことだ」
「まあな。でも前みたいな悲劇を起こさないようにするためには、今のままじゃ駄目だろう。もし俺たちの力がもっとあったなら、そもそも敵は攻め入ることすら考えなかったはずだ。そうしたら、きっと俺たちは今も適当に畑を耕して、お前は適当に剣の稽古をして、平和に暮らせていた。違うか?」
 弥丸の言うことは一理あった。
 私たちの村が攻められたのには、兵力の弱さに起因している部分もある。
 いくら集落を寄せ合わせて人口を何倍に増やしても、根本的な解決にはなっていなかったのだ。
「ま、なるようになるさ。嫌ならやめりゃいいんだ」
「そんな中途半端な気持ちで……」
「お前は真面目すぎる。もうちょっと偉ぶったって誰も文句言わねえよ」
 弥丸は毎度言わせるなと言わんばかりにため息をついて立ち上がり、戸口から出て行った。
 私はなんとなしに窓の外を眺めた。晴れた夏の空と、奴隷たちが耕している畑が見えた。
 ふっと、父の言葉を思い出す。

『たゆまぬ研鑽の先に真の平和はある』

 ――この村には、まだ真の平和はない。
 私は腹を据えた。



   ◆



 それから数日後。
 私は五十の人間を弟子という名目の下に抱えることとなった。
 その中には何人か奴隷として扱われている者もいた。


「そんなことは認められない! 奴隷からも兵士を募るなど……」
「より広く才能ある者を募るだけです。他意はありません」
 何日か前、私の家で、私と恭一郎は押し問答繰り広げていた。
「しかし、奴隷に力を持たせるのは反対だ! 反乱でも起こされたらどうする!」
「そんなことは私がいる限り許しません。もしそうなったら一人残らず……」
「だ、だが……」
 いつになく強く出る私に、恭一郎は困惑している様子だった。
「ならばこの前の話は取り消すということでよろしいでしょうか?」
「何……!?」
「私にすべて一任してくださることが条件だったはずです。それが破られるのであれば私が剣を教えるということなど金輪際ありません」
 私は目を細め、恭一郎を冷たく見据えた。
「水漣……。しかし、分かっているのか? 奴隷たちのほとんどは、お前が殺した者たちの妻や子供だ。お前を恨むことはあっても、慕うことなどまずありえない――」


 確かに、そうかもしれない。私は、私が守ろうとした村の住民にとっては英雄だ。だが、奴隷たちにとってはただの憎むべき敵である。
 しかし、そんな負の意識を永遠にこの地に留まらせてはいけない。私が断ち切らなければならないのだ。
 いつの日か奴隷を解放して、私たちと融和させる。遠い道のりになることは間違いないだろうが、それが目指すべき平和だ。
 父の遺志を継ぐという意味もあるかもしれない。父が生き延びていたとしたら、おそらくこの現状を許しはしないだろう。
「本日より、私があなたたちに稽古をつけることとなりました」
 百人が木刀を持って横隊となり整列すると、なかなか壮観だ。
 しかも全員志願者である。私に稽古をつけられるというのは、それはもう大変な名誉らしい。
 正直に言って、一日で五十人も集まるとは思いもしなかった。いくら私自身が未熟だと言っても、この大人数を前にしての言い訳など通用しない。
「目的はこの村の防衛力向上です。どこからも攻め入られることのないような、頑強な村を作る……それが無用な災いを退ける一番簡単な方法です」
 上に立たざるを得ない者――私はそういう立場になったのだ。
 しかし、当然ながら従わない者もいる。一部の強気な奴隷だ。
「何が……平和だ! 俺の父さんを殺しやがって!」
 粗末な衣服に身を包み、走れないように両足が縄で繋がれている奴隷の一人が、私に噛みついた。十二、三の子供だろうか。
 太く強く(あざな)われたは、まず人の手では切れない。奴隷が刃物を扱うことは当然禁じられているので、仮に縄を切るようなことがあれば問答無用で死罪にすることが定められている。
 そして、奴隷が平民に逆らうことももちろん重罪である。特に私に対しては、話しかけるようなことすら私を英雄に祭り上げる人々が許しはしない。
 どれもこれも、おかしな決め事だ。私がそんなことを望んだことなど一度もない。
「てめえ、水漣さんに舐めた口を利くな!」
 平民側の青年が、奴隷少年の頬を思い切り殴った。そのまま倒れた少年に覆い被さり、さらに殴った。周りの何人かもそれに加勢しようとする。
「やめろ!」
 この村を制圧してきてから何度も見た光景である。もちろん止めに入るが、それが融和に繋がることはなかった。
 平民側の人間は「水漣殿の優しさに感謝するんだな」と吐き捨てるのみで、奴隷は奴隷で私に助けられたことが癪に障るのか、何も言わずに仕事に戻る。
 私はその度に泣きたくなった。だが、弱音を吐くのはもう終わりだ。
「やめろと言っている!」
 私は馬乗りになっている青年を軽水鉄砲で軽く吹き飛ばした。
「な……水漣さん?」
「下らないことはやめてください。今後の稽古に差し障りが出ます」
「ですが、今こいつは水漣さんのことを愚弄して……」
「愚弄ではなく事実です」
「事実でも何でも、奴隷がこちら側に逆らうことは重罪です!」
 青年は食い下がる。私が少年に噛みつかれたことがそんなにも大事なのだろうか。
 私は無視して、倒れたままの少年のそばに立った。
「確かに重罪ですね」
「な、なんだよ……俺を殺すのか?」
 少年の声は震えている。反射的に私に逆らったことへの報いに恐怖しているのだ。
 ――とても悲しい。
「みな、この子を立ち上がらせてください」
 私の声に反応して、何人かが少年の腕や肩を持って無理矢理立たせた。
「そのまま暴れないように」
「や、やめてくれ! 俺が悪かった」
 顔の引きつった少年と、彼の両脇を固める人々。 
「足も固定してください」
「や、やめろおお!」
 少年はじたばたと暴れるが、所詮は子供。大人三人がかりで固められると動けないようだ。
 私は貝刀を取り出し、振り上げた。
 少年の顔が青ざめる。
「や、あ……」
 可哀想な少年は、きっとこのまま失禁してもおかしくなかったはずだ。恐らくここにいる誰もが、今から私がこの少年を殺すと確信しているのだろう。
 だから、私が彼の足首の縄だけを切断すると――皆、呆気にとられた。
「……水漣さん? いったい何を……」
「まず、ここにいる人たち全員に言うべきことがあります、第一に、私の前では身分の差は存在しません。すなわち、平民も奴隷も関係ないと言うことです」
 ざわめきが起こる。
「何を言っているんですか水漣さん! そんなこといくら水漣さんでも許されませんよ。村長が決めることです! それに、奴隷の縄を切るのも罪ですよ!?」
 先程吹き飛ばした青年が、私に強く問う。
「稽古については村長がすべて私に一任してくれました。もちろん奴隷の身分である者に稽古をつけることもです。縄など稽古が終わった後に繋ぎ直せばいい。問題は何もありません」
「しかし!」
「第二に、稽古における決まりごとは私そのものです。私に逆らうことは何人たりとも許しません」
 皆が皆唖然としている。まさか、私が独裁者のように振る舞うなどと思いもしなかったのだろう。
「第三に、喧嘩はいかなる理由があろうと禁じます。特に、平民と奴隷の間で先程のような醜態が見られた場合には……どちらもその身が真っ二つに裂かれることを覚悟してください」
 ざわめきが止まる。
 力を振りかざせば、本当に誰もかれも何も言わなくなる。――実に恐ろしい。
 こんなことをするのは今日だけで済ませたいと切に願った。
「そういえば、貴方の父は私が殺したと言いましたが」
 私は足が自由になった奴隷の方へ向き直った。
「戦争とはそういうものです。私も父上、母上、そして妹が殺されている。あなたの父親も誰かを殺しているかもしれない」
 奴隷の少年は、何かを言おうとして口を開いたが、そのまま閉じた。
「私は未熟で弱かったから、家族を守れなかった。貴方の父もまた、自分を守るに足る十分な強さを持っていなかった。ただそれだけだった」
 立ちすくむ人々を見渡す。平民も奴隷も皆、私の方をじっと見つめていた。
「失いたくないのならば、強くあること。きっとここにいる誰もが望んでいることです。そのための努力は惜しむことのないよう約束してください」
 性根が悪ければ、いっそ清々しい気持ちにすらなっていたことだろう。
 だが、力を誇示するために私は皆を脅したわけではない。
「それでは、今から奴隷身分の者の縄を順番に切っていくので、皆その場で待機してください。一歩でも動くことがあれば、問答無用で斬ります」
 これは、平和への第一歩だ。



   ◆



「まるで独裁だな。お前がそんなことしてたなんてびっくりだ。お前の親父並みの貫録だ」
 弥丸はあぐらをかいて、私と向き合っている。六月下旬は蒸し暑く、風通しを良くするために家の窓の(すだれ)をすべて上げていた。ことを始めてから三か月ほど経っていた頃だった。
「独裁なものか。いつまでも平民や奴隷などといって身分を分けているようじゃ、平和なんか永久に訪れない。力を振りかざすのは好きじゃないが、村がこのままの状態で続いていくのは耐えられない」
「お前本気で言ってんのか?」
「もちろん本気だ」
「へえ……なんか安心したぜ」
「安心?」
「実はよ……」
 弥丸も弥丸で、私と似たようなことをしている。私は人間相手に剣を教えているが、弥丸はポケモン相手に戦闘の指導をしているのだ。
 と言っても、弥丸自身には高い戦闘能力はない。やっていることは、ポケモン同士の戦いを取り仕切ることだけである。
 実際、村の防衛力を強化するには、ポケモンたちの力が必要不可欠だった。恭一郎も当然のようにそう感じていたらしく、弥丸に先頭に立ってもらうことを打診したらしい。
 責任感も何もない弥丸は二つ返事で承諾したが、なんだかんだでうまくやっているようだ。
「最初は平民のポケモンだけでやってたんだけどな、途中から奴隷のポケモンも入れてやったんだよ。で、結構うまくいったんだよな。人間ほどお互いを憎みあってないっていうかさ。今じゃ四割は奴隷ポケモンが占めてるぜ」
「四割もか?」
 私は弥丸の器量の良さに驚きを禁じ得なかった。
「そんな簡単にうまくいくものか?」
「簡単だよ。お前の名前を出せば皆従うからな」
 私は思わず半眼になった。いったいどんなやり方で皆を従えているのかと思えばこれである。さすが弥丸であるとしか言いようがない。
「しかし……意外だな。やるかやられるか、とか、自業自得、とか、奴隷に対して思い入れなんて何もないはずのお前がどういうわけで……」
「思い入れなんて今もねえよ」
 弥丸はあくびをしながらそう答えた。
「なんて言うかな……奴隷がいるから俺たちは今何も仕事しなくて済むわけだろ? ……はっきり言って暇なんだよな。苗も自力で植えない、管理もしない、稲刈りもしない……そんな田んぼ見ててもつまんねえわ。かと言って奴隷を手伝うと仲間からお前何してんだって目で見られる。仕事を何もやらずに済むなんて身分制度さまさまだぜ、なんて一時は思ったけどよ……やっぱそういうのは無理だわ。性に合わねえし」
 いかにも動機が弥丸らしくて、思わず苦笑した。しかし、動機が何であれ弥丸のやっていることは正しい。私の存在をちらつかせてポケモンたちの統率を図るのも、頭のいい方法だと思う。
 とにかく、力を振りかざして平民も奴隷もまとめてしまう。当然軋轢(あつれき)は生まれ、お互いに傷つけ合うことだってあるだろう。
 しかし、ある日彼らは気づくのだ。平民も奴隷も、同じ人間であり、また同じポケモンであるということを。
 分け隔てる必要などどこにもないのだ。ただ、逆らえぬ時の流れ、そして運命が少々悪戯してしまっただけのことで、そんなものは手間をかければいくらでも直せる。
 そのためならば私はこの身を(なげう)ち、傷つくことなど厭わない。



 しかし、運命の悪戯は矢継ぎ早にやってくる。



   ◆



「備蓄はあんまりねえな。なんとかして冬を乗り切る方法を考えていかねえと……」
「……そうだな」
 冷害や日照不足による米の不作は、この冬を厳しいものにしていた。
 昨年は豊作だったが、それでも米は次の年に尽きた。
「来年はもっと開墾して、畑とか田を増やしていかねえと駄目だな」
 私たちの村の人間やポケモンがこちらに流入して、人口が急に増えたのだ。本来ならばその分だけ田や畑を増やしていかなければならないのだが、私たちはそれをほとんどしてこなかった。
 今はただでさえ少ない奴隷の食事を減らし、平民の分を補っているという有様だ。
 最近になってようやく埋まる兆しを見せてきた平民と奴隷の間の溝が、再び深くなろうとしている。食糧問題は、一刻も早く打破したい問題だった。
「熱はまだ下がらないのか」
「ああ……すまないな」
 私は高熱で三日ほど寝込んでいた。日頃の疲れが一気に出たのだろうと、見舞いにやってくる全員が言う。しかも、揃いも揃って皆泣きそうな顔をしているのだ。
 心配はかけまいと、私は意地でも寝込むつもりはなかった。だが、弥丸が無理矢理私を床に入れたのだ。
「本当は何か栄養のある物を食べさせてやれればいいんだけどな……何か倉庫から掠めてきてやろうか」
「いや、いい……。皆食べるものが少なくて困窮しているときに、私だけ多く食べることはできない……」
「病気のときにまでそんなことを考えるなんて偉いな。偉すぎるぜ。もうちょっと自分のことを考えたらどうだ?」
 弥丸が私の寝床のそばにあぐらをかいて座る。
「そういえば最近よ、恭一郎が奴隷を集めて何かやってるぜ?」
「何か?」
 私は目を瞑りながら弥丸の話を聞いていた。
「そのうち畑でも耕すかってずっと放置されてた土地があるだろ。西側の」
「ああ」
「そこに奴隷を全員集めて何か言ってるんだわ」
 いまいち弥丸の話が要領を得ない。
「なぜこんな時期に……冬くらい外に出さず、内に(こも)らせておけばよいのに」
 冬の仕事は、筵や縄を編んだり、衣服を作ったり、やるべきことは色々とある。わざわざ寒さのしのげない外でやることなどほとんどないのだ。
 いったい恭一郎は何をしているのだろう。
「その何かと言うのは?」
「さあ、分からねえな。何しろ奴隷以外は近づくなと言う通達だ。まあ誰も外に出たがる奴なんていねえから、近づく奴もいねえんだけどな」
 冬に畑を耕すことは考えづらい。ましてや開墾作業などもってのほかだ。
 私は恭一郎が奴隷たちに何をさせようとしているのか、皆目見当がつかなかった。
 しかし、今の奴隷たちの健康状態で何らかの事業を起こすことには反対だ。餓死者すら出かねない。
「……熱が引いたら、私から恭一郎に直接話そう。せっかく奴隷と平民の隔たりが縮まってきているのに、奴隷たちを酷使しては駄目だ。反感を買ってしまったら、癒えた傷を再び広げるようなことにっ」
 私は言葉を自らの咳で止めてしまった。なおも咳は止まらず、弥丸に体を起こされ、背中をさすってもらう始末だった。
「大丈夫か? あんまり喋るなよ。治るもんも治らねえぞ?」
「……ああ」
 私は体を倒して、ゆっくりと目を瞑った。こんなに酷い風邪は生まれて初めてだった。
「俺が変なこと言って心配させたのが悪かったな。でも安心しろよ。奴隷たちが反感を覚えてる様子なんて微塵もねえ。むしろ笑ってる姿を見ることが多いくらいだ」
 笑う――つまり、恭一郎は何か奴隷たちを喜ばせるようなことをしているのだろうか。
 ならば、心配は杞憂ということになるが、どうにも嫌な予感しかしない。
 明日辺りひっそりと抜け出して、様子を見に行ってみよう。どうせ弥丸は私を看病するとき以外は自分の部屋に籠っているのだから、少しくらいなら見つかることもないだろう。
「……寝たか?」
 ずっと目を瞑っていると、弥丸は私が寝たものと思って、寝床から出ていった。
 そして私も、いつの間にか眠りに落ちていた。



 目が覚めたのは夜中だった。寝ついたのは確か夕方だったから、三時ほど(現在の時間で六時間程度)眠っていたであろうか。
 私は体を起こして、寝床を立った。
「弥丸……は寝ているのか」
 弥丸の部屋の戸は閉まっている。夜中なので当たり前だ。村中が寝静まっている時間帯なのだ。
 私は音を立てないように板張りの床を歩き、戸口に立った。まだ頭がぼうとしていて、足元がおぼつかない。やはり熱が引く気配はなかった。
 ゆっくりと引き戸を開ける。半身を乗り出して、三日ぶりに外の世界を見た。
「こんなに積もっているのか……」
 積雪は私の背丈の半分ほど。少し前までは雪が降り積もったり解けたりを繰り返していたが、この三日でしっかりと一面の銀世界が完成されていた。
 満月の光を淡くはね返す雪に、私は一歩踏み入れた。
 しかし、戸口と地面には少々段差があり、私はそこでよろけた。ぶり返した熱のせいで平衡感覚を半分失っていた私は、そのまま雪の中に倒れ込んでしまった。
 動く気力もないまま、どれだけその状態でいたのだろうか。
 私は霞む視界の遥か先に揺れる赤い灯を、じっと見ていた。永遠とさえ思える時間だった。
 そして、あれは松明の火だと気づく。
 心臓が急に激しく脈を打ち始めた。
「ま、またなのか……?」
 またこの村は遠方からの侵略者を向かい入れてしまったのだろうか。
 だが、あの方角――西には人は住んでいないはずだ。なぜあんなところから?
 それに、こちらに来る様子はない。大量の松明の火が上下左右に揺れているだけだ。
 いったいどういうことなのか。


『そのうち畑でも耕すかってずっと放置されてた土地があるだろ。西側の』


 そうか。
 ――奴隷たちだ。
 なぜこんな夜中に?
 まさか反乱か?
 私のしたことはまったく功を奏さなかったということか?
 ああ寒い。冷たい。早く起き上がらなければ。
 しかし体が言うことを聞いてくれない。
「弥丸……」
 弥丸。起きてくれ。奴隷たちが反乱を起こそうと――。


『俺が変なこと言って心配させたのが悪かったな。でも安心しろよ。奴隷たちが反感を覚えてる様子なんて微塵もねえ。むしろ笑ってる姿を見ることが多いくらいだ』


 反乱ではない――?
 ならば何を。

 冷害。
 日照不足。
 米の不作。
 未開墾。

 松明の火の大群が、東へ向かって行進していく。

『備蓄はあんまりねえな。なんとかして冬を乗り切る方法を考えていかねえと……』



 そんなはずはない。恭一郎は私に約束してくれたはずだ。兵力の強化は、あくまでも村の平和を守るためだと。
 しかし、これ以外には考えられなかった。
 私は体をむち打って奮い起こし、戸口を登って弥丸の部屋まで這って行った。
「弥丸! 起きろ!」
 突然部屋の戸を開けられ、大声で怒鳴りつけられた弥丸は飛び起きるほかなかった。
「うわっ!? ああ……どうしたんだ水漣」
「寝ぼけるな! 起きろ! 今すぐ村の皆を叩き起こせ」
 私は弥丸の肩を激しく揺さぶった。
「お、おい、落ち着けって。何があった?」
「いいかよく聞け弥丸。恭一郎は奴隷を使って周りの村から食糧を収奪する気だったんだ」
「……はあ?」
 弥丸は意味が分からないという顔で固まっていた。
「……外を見て見ろ」
 私は弥丸を戸口の方へと促し、私自身もついていく。
 そして弥丸は絶句した。満月の夜に灯る赤い炎が、あの晩のことを鮮烈に思い出させたのだろう。
 行軍は既に東の山に入ろうとしている。あの低い山の先には、私たちの村とほぼ同じ規模の村があった。
「とにかく、村の皆を起こそう。奴隷たち、そして恭一郎たちを止めないと……」
「わかったぜ!」
「頼んだ! 私は恭一郎を追う!」
 弥丸は家を飛び出し、居住域の方へと向かった。
 私は、赤い炎を追うべく、雪の中を掻き分けて行く。しかし、足取りは重い。
 未だ私の体を蝕み続ける高熱と頭痛が、雪以上に行く手を阻んでいた。
「こんな時に限って……」
 咳が止まらず、歩くことすらままならない。いっそ己の体にひそむ病のもとを肉ごと根こそぎ抉ってしまいたいほどだった。
 そして湧き立つのは恭一郎への怒り。あれほどまでに兵力増強は防衛のため、ひいては平和のためであると私に訴えたのは嘘だったのか。
 あの奴隷たちの中には、私が稽古をつけたものが三十人ほどいる。なかなかの才能をもつ者が幾人かおり、まず戦いになっても死ぬことはないだろう。
 問題はその他大勢の、まったく武器すら持ったことのない奴隷たちだ。農業用の(くわ)(すき)を携えていったのだろうが、まともに戦えるとは思えない。間違いなく大きな犠牲を伴う。
「くそ……! 進め!」
 炎がだんだん遠ざかってゆく。私の足は前に進んではいるものの、動きは遅く、とてもじゃないが追いつけない。
 思うに、奴隷たちの士気は高揚しているはずだ。たぶん、恭一郎は「他の村から食糧を奪えば、お前たちも飯をたらふく食べることができる」などといって奴隷たちを焚きつけたのだろう。 
 飢えに苦しむ奴隷たちは、さぞ嬉しがったに違いない。更に言えば、あわよくばその村を制圧し、自分たちに代わる新たな奴隷を作り出すことだって可能だ。
 新しい奴隷を確保すれば、自分たちは奴隷身分から解放される。動機には十分だ。
「くそっ、くそっ、くそっ!!」
 思うように前へ進めない苛立ちと、今まで身分格差を壊そうと努力してきたことがすべて水の泡と帰すかもしれないという虚しさに、鬱憤だけが降り積もる雪のように蓄積されていく。
 しかし、己の無力さに地団太を踏んでいる場合ではない。今はひたすら前に進むときだ。
 早く止めなければ――ただその思いだけが、私を突き動かしていた。

 そして私は再び地獄に足を踏み入れた。



   ◆



 くずおれそうな体を奮い立たせ、やっとの思いで山を越え、恭一郎たちが狙っている村に降り立った。
 整然と立ち並ぶ、雪を被って真っ白になっているはずの茅葺小屋は、激しい炎を上げて燃えていた。
 稲小屋や高床式の倉庫の周りでは私たちの村の奴隷たちとこの村の住民が農具、ときには剣を持って戦っている。
 田や畑と思われる土地の上では、奴隷ポケモンたちが収奪の邪魔とする敵ポケモンたちと技の撃ち合いをしていた。
「なぜこんなことに……」
 数年前に私の目の前に広がっていたあの忌まわしき光景が、私たちの立場だけを変えて再現されている。
 どうすればいい? もう止めたところでどうにもならない。開き直って加勢するべきなのか? いや、そんなことは絶対にできない――。
 私は立ち尽くし、何も決心できずにいた。
 戦場の熱とにおいが鬱陶しい。また風邪がぶり返してきた。
 頭痛が、私にただ傍観させることを強いる。動かなければいけない事態なのは分かっているのに、どうしても一歩が踏み出せない。
 止めるにしろ、参戦するにしろ、動かないままではできない。
 どうすればいい。私は何をすべきなのだ。こうしている間にも、戦争は激化していくというのに。
「喰らえ!」
 広々とした田の上で、敵のルカリオが、こちらの奴隷ポケモンであるケンタロスに波導弾を放った。
 ケンタロスと、周りに固まっていたポケモンが、衝撃波により一斉に吹き飛ばされる。
「ぐああ!」
 まるで風で地を転がるごみのように、雪の上に散らされるポケモンたち。
「消えろ!」
 乱射された波導弾が、ケンタロスをはじめとする地上のポケモンを次々と襲う。
 人間の方はどうかわからない。しかし、ポケモンだけでいえば、この村と私たちでは大きな戦力的隔たりがあった。
 無謀な戦いとしか言えなかった。恭一郎は奴隷たちをわざわざ不利な戦いに突き入れたのか。
 もう、走らずにはいられなかった。風邪も疲労も関係ない。このままでは、私の仲間が死んでしまう。
「これで、終わりだ!」
 数秒と待たずに放たれる、おぞましく強大な波導弾。当たれば、ケンタロスやほかのポケモンたちの肉体は四散するだろう。
「待て……!」
 私は、ポケモンたちの前に立ち、恐ろしい速さで向かってくる波導弾を思い切り貝刀で叩き斬った。
「くっ!」
 青い爆風が、闇を激しく照らした。巻き起こる土煙と舞い乱れる雪が、ルカリオの姿を(おぼろ)に隠す。
 よろけた私は、なんとかして爆風の勢いに耐え、体勢を立て直した。
「貴様……こいつらの仲間か……!」
 憎悪を滲ませるルカリオは、おそらく相当な熟練者だった。たかだか数か月の稽古で並のポケモンが太刀打ちできるほど甘い相手ではない。
 しかし、私ならまず間違いなく勝てる。過信でもなく、驕りでもない。
 私はゆっくりと、ルカリオに近寄る。ルカリオは私を睨みつけたまま動かない。
 そして、ルカリオと私の間の距離は三間*1となった。強力な飛び道具である波導弾を使う相手にはいささか狭い間合いだった。
「よくも……私たちの村を!」
 激昂しているルカリオは、何の躊躇いもなく両手に力を込め始めた。
「侵略者め! 死ね!」
 ほとんど溜めることなく放たれる波導弾。当たれば無事では済まない速さと大きさ。
 間違いなく、手練れの技だった。しかし、私は見きってしまう。
 父の貝刃撃(シェルブレード)は、迫り来る波導弾より何十倍も恐ろしい代物だった。気づいたときには、目の前に切っ先がある。
 父と渡り合うには、技を出してきた時点で反応する必要があった。それが、どれだけ私を鍛えたことだろう。
 波導弾と地面の隙間はおよそ一尺。私はルカリオに向かって行くと同時に、波導弾の下方に滑るように潜り込んだ。
 取り出した貝刀には、既に貝刃撃を放つ準備が整えられていた。
「な!?」
 間合いをわずか三歩で詰め、そして波導弾の下方という死角から急襲してきた私をルカリオが避けられる道理はなかった。
 一閃――。
 飛び散る血飛沫。粉々に砕け散るルカリオの鋼の胸棘。
「ああ……」
 ルカリオの瞳に宿る生命の光は、一瞬で消えた。
 高鳴る鼓動。頭痛がみるみるうちに引いていき、あれほど私を苦しめた熱は、技の源に完全に昇華されている。
「す、水漣……様」
「何だ」
 振り返ると、私の後ろで横たわるケンタロスが、ひきつった表情で私を見やっていた。
 まるで、鬼を見る目だった。殺さないでくれと、懇願している目だった。仲間を殺すことなどありえない――だが、そう見えた。
「休んでいろ」
 もう、ケンタロスたちの姿など映さない。私は、次の標的のもとへと向かって走り出している。
 敵のリザードが、奴隷の人間にのしかかって、爪を立てようとしてる。
 屈強な男が、こちら側の剣を奪い取って、仲間の人間に次々と斬りかかっている。
 ヘルガーが、火炎放射でポケモンたちを焼き尽くそうとしている。
 迷う時間はない。
 修羅に入れ、水漣。決意の時間は、とうの昔に過ぎ去った。
 私の役目は仲間を守ることだ。殺しを厭うことなど、あってはならない。
 斬れ。その体を血に染め、なお斬り続けろ――。





 収奪は成功した。新たな奴隷も千人近く確保した。襲った村のポケモンはさほど数がおらず――私が取り除くことによって、全滅した。
 こちらの死者は、人間が二十六人、ポケモンが十一匹。あってないような犠牲だと思えるくらいには、感覚が麻痺していた。
「なぜ……」
 私は、黒く血のにおいに燻ぶる敵の村の中で、佇む恭一郎に一言だけ問うた。
「皆を十分食わせるには、これしか方法がなかった」
 場違いに明朗快活な恭一郎の声は、一種の清々しさすらあった。
 弥丸が引き連れてきた平民たちは奴隷たちと結託して、この村の人間を捕えて連れてゆく。
「それとも、水漣にはこの冬を乗り切る考えが他にあったか?」
「……ありません」
 ない。だからこうするしかなかった。恭一郎はそう言った。
 ただただ悔しかった。また、たくさんの人間とポケモンを殺した。
 私は、赤い血がこびりついた貝刀を、血が滲むほど強く握りしめた。
「私も……本当は平和を守るためだけに兵力を増強したつもりだった。だが、綺麗ごとだけでは村人たちを食わせてやれない。大量に餓死者を出して手遅れになるよりは、他の村を襲った方が幾ばくかましだと思った」
 恭一郎への怒りは、ずっと敵を斬り続けている中で霧散してしまった。いつの間にか、私は恭一郎に同調してしまっていたということか。
「奴隷身分から解放してやろうと奴隷たちを唆して、ですか?」
「……ああ、そうだ」
 思った通りだった。恭一郎は少しだけ渋い顔をしたが、すぐに無表情に戻った。
「それに、言い訳がましいが……これも時代の流れなのだ。この一帯から外れれば、こういうことは日常的に起こっている。ある村が、他の村を取り込んで、より大きな村を作る。いずれその波はこちらにもやってくるだろう。……その度に攻め込まれていては、どう足掻いても生き延びてはいけない」
 私はただ黙って恭一郎を見つめていた。明けようとしている褪めた色の空が、いやに近く感じる。
「いくら平和を念じていても……叶わないんだよ、水漣。やるかやられるかという時代が、すぐそこまで来ているんだ」
 母、妹、そして尊敬すべき父が死んでから、二年ばかりが過ぎただけだ。にもかかわらず、私が誓ったことは無情にも崩れ去ろうとしている。

『たゆまぬ研鑽の先に真の平和はある』

 嘘ではないか。戦争は息つく間もなくやって来ては、癒し難い傷だけを残してゆく。
 そして、戦争はこれから日常的なものになろうというのだ。いったい何をどうすれば平和が訪れるのだ。
「父上……私は……」
 さめざめと流れる涙は、雪よりも冷たい。
 父の言葉が、とてつもなく卑小なものに感じられた戦争だった。










   ◆










 月日が流れてゆくほどに、心は鈍くなる。対照的に、貝刀は脚貝刀(アシガタナ)となり、長さと鋭さを増していた。
「また呆けていらっしゃるのですね」
 楓が私のそばに腰掛けた。リングマに襲われていたあの時の少女は、もう二十四となっていた。
「こうしていると、何も考えずに済む」
 丘の上に建てられた豪華な屋敷に、私と弥丸、そして楓の二匹と一人で暮らしていた。
 この村の住人が歴戦の立役者に敬意を表する一番の方法は、見上げるほど大きな家を建てることらしい。
 住みきれるわけがないので、楓に私や弥丸の世話をしてもらうことになった。
「本当に大きくなりましたねえ」
 眼下に広がる広大な村と、あちこちで蠢く人やポケモンを見ながら、楓は感嘆したように言った。
「手当たり次第に周囲の村を飲み込んだからな。もう何もできないことはないだろう」
 平民一万四千。奴隷二万二千。ポケモンは総勢二万四千。
 この地方を席巻する一大勢力は、もはや村という枠に収まってなどいなかった。
 良好な漁場を持つ海辺の村を獲得した際に、恭一郎は、この一帯を私の名にあやかり『漣国(さざなみのくに)』と称した。恭一郎自身の姓も漣と改めている。
 その海辺の村を取り込もうとしたときの村人たちの抗戦は、凄まじいものがあった。私たちの村が始まって以来の犠牲者を出した戦いは、今なお語り継がれている。
 とりわけ、嵐のように戦場を舞った敵のエルレイドは――私が殺すその時までに、七十を超える人間とポケモンを葬った。
『侵略者め……!』
 二度目の戦争で出会ったルカリオをまったく同じ台詞を、彼は呟いた。
 その瞳は、私と何ら違わぬ、村を守らんとする剣士の瞳だった。背負っているものも、大きさは違えど同じものだ。
 だが、私には自分が正義だとは到底思えなかった。恭一郎をはじめとする有力者たちの意向と、六万の期待により矢面に立たされ戦う私が、果たしてあのエルレイドを撃つ資格があっただろうかと、今でも自問を止めることはない。
 資格があろうとなかろうと、私には容易に彼を討てるだけの力があったことは、私とエルレイド、両方にとっても悲劇だった。
 なあ、勇敢なエルレイドよ。お前が私の立場ならば、どう振る舞う? 傀儡を自覚し、感情を捨てて戦うのか? それとも理念を貫き、無数の人々とポケモンに反駁し続けるのか?
「何も考えずに済むなんて、嘘ばっかり」
 楓が白い手を私の頬に添えた。私は驚いて、楓の方を向いた。
「もうずっと割り切れずにいるのでしょう? 何が正しくて、何が間違っているのか分からずにいるのでしょう?」
 まっすぐ私を見据える楓の目を見て、私は息を呑んだ。
 ぼろぼろと零れ落ちてしまいそうなほど涙を湛えた彼女の目は、私の心情そのものだった。
 いっそ零れ落ちてしまえば、楽だった。脚貝刀を喉に思いきり突き立ててしまえば、もう二度と英雄と呼ばれることもないし、積もりに積もった罪の意識に苛まれることもない。
 だが、私にはそれができない。時代の狭間に囚われても、抗うだけの気力を持てない。
 そんな私の気持ちに寄り添うように、楓は私の頬を撫でた。
「国長のしていることが本当に正しいのか、私には分かりません。そして、水漣様が苦しみ、傷つきながら前線で戦い続けることも、心苦しく思っております」
「……その呼び方は何度もやめてくれと言っているだろう。所詮私は人間の下でしか動けないポケモンなのだ」
 あの日、元気よく私に春紫苑(はるじおん)を差し出した少女は、多分に淑やかになった。それはまるで平和だった時代には戻れないと暗示しているようで、私は春の麗らかな空にに寂寥感を覚えた。
「それでも、私は水漣様の苦しみが少しでも癒えるよう、いつも寄り添いながら生きていきたいと思っております。それが私の命を救ってくださった水漣様へ捧げられる唯一のものなのです」
 この笑顔を守るために、私はどれだけの命を手にかけてきたのだろう。
 ――私はそこで、考えることを止めた。堂々巡りになるのは分かりきっている。
 殺した分だけ、守ったのだ。それだけだ。なのに、なぜ割り切れない。
「楓……楓は、その……結ばれようとは思わないのか?」
「え?」
 頭がどうにかなりそうで、私は唐突に別の話題に切り替えた。
 ずっと真面目で堅苦しい表情をしていた楓は、逡巡し、そして笑い出した。
「あはは……おかしなことを訊かれるのですね」
 勢いで流れ出した涙を袖で拭った楓は、わざと小難しそうな声を出して唸った。
「もう二十四だろう? 良い人が見つかってもいいはずだ」
「……そうですねえ。お見合いは何度かしているのですが」
 あまり興味がないとでも言いたげだった。楓は人間たちといるよりもこうして私といる時間の方が多い。
「そういう水漣様は?」
「私か?」
 私は――おそらく、このまま独り身で終わるだろう。
 有力者たちは才能ある仔供を産ませようと、私と雌ポケモンを必死に番わせたがっているが、その気はまったくなかった。
 子供の未来が不幸になると、予感めいた確信を持ったからである。才能を持った仔供が生まれても、どうせ戦争に駆り出され、殺生という咎を重ねるだけだ。
 この剣は、私の代で終わらせる。苦しむのは私だけでいいのだ。
「私は独りでいい」
 何もかもが崩れ去った中に灯る、揺るぎない答えだった。



「変わっちまったよなあ、何もかも」
 ドクロッグに進化していた弥丸は、眠りにつく前にそんなことを言った。
「ただの小さな集落が、たった二十年で馬鹿みたいにでけえ国になって。農作に加えて、漁業と牧畜までやりだして、食糧難に陥ることなんてほぼなくなった。……夢みたいだ」
 弥丸は大きくため息をついた。信じられないような夢物語の真っ只中にいる者は、皆同じようなため息をつくのだろう。
「変わらないのは……お前だけだ」
「……私が?」
 何を寝ぼけたことを言っているのだろう。それとも、これは本当に弥丸の寝言なのだろうか。
「私は、変わったよ。もう昔のように理念を貫こうとはしないで、ときどき戦場に赴いてはただ剣を振るうだけだ」
 私はうわ言のように呟いた。
「きっとこのまま戦いがなくなるまで戦い続けて、ある日ぽっくり死ぬんだろう。何も残さないまま、望みもしない巨大な墓を建てられて祀られる。自分の末路が手に取るように想像できる」
 脚貝刀を取り出し、天井に向けてかざしてみた。血を吸って黒ずんだ脚貝刀には、幾重にも死んだ者の無念が折り重なって塗り込められている。
「割り切れとは何度も言っているが……やっぱり後悔してるんだな」
「分からない。ときどき自分の過去を思い返してみるが、どこをどうすればあのままでいられたのか、まるで見当がつかない。私は無力で、ただ時代の流れに翻弄されてきただけならば、私の罪は消えるのだろうか」
 言っていて馬鹿馬鹿しくなった。こんなことを弥丸に言ってどうするのだ。
「そうやって悩めてる分だけいいんだよ。俺はもうほとんど諦めてる。真面目に悩んでるのは、お前と楓ぐらいだ」
「悩んでも答えが出なければ、何も意味がない」
「じゃあ、悩まずに体張るしかないだろうな」
 弥丸はぶっきらぼうに言った。
「お前が無力なら、俺は何だ。砂粒か? 埃か? それともごみか?」
「揚げ足を取るな」
「取らずにはいられねえよ。しょうがねえだろ。いいか、無力っていうのは俺みたいな口先野郎のことを言うんだ。お前みたいなのは断じて無力なんて言わねえ」
 弥丸は語気を荒くして、私に語りかけた。
「お前の英雄って肩書はただの飾りじゃねえんだよ。力があって、何でもできるから英雄なんだよ」
「何でもできる……?」
「そうだ、なんでもできるんだ。……お前にその勇気があればな。本当はこんな説教くさいこと言う性分じゃねえのは分かってる。俺自身諦めていることを、何でお前に追求できるんだって話だ。けど……お前が諦めてないなら、俺もお前に諦めてほしくねえんだよ」
 弥丸が自分を口先野郎と形容したのは本当に正しいと思う。何の躊躇いもなく偉ぶり、性分ではないなどと言いながら幾度となく私を説教してきた。その度に私は心の中で悪態をついてきた。
 そして、慰められ、励まされる私も相当単純だ。いったい弥丸の説教にどれだけ救われたことだろう。
「水漣……もう次で終わりにしよう」
「次……?」
 弥丸は大きく息を吸い込んだ。
「恭一郎たちが、また戦争を目論んでいるらしい」
「本当か?」
「盗み聞いた話だ。まず間違いねえ」
 気分が憂鬱になる。今夜は気持ちよく眠れそうにない。
「しかも、鋼国(はがねのくに)に仕掛けるって話だ」
「鋼国だと?」
 思わず私は飛び起きた。鋼国は、私たちの国と同じくここ数年で急激に台頭してきた強国である。
 私たちの国は小さな村を細々と吸収しながら大きくなってきたが、突然そんな戦争を仕掛けるなど狂気の沙汰としか思えなかった。
「そんなことをしたら、犠牲が多く出てしまう……何としても恭一郎たちを食い止めなければ」
「無駄だろうよ。仕掛けるって言っても、積極的に戦争を起こそうっていうわけじゃねえ。流石に今回ばかりは恭一郎もかなり悩んでたみたいだ」
「どういうことだ?」
 暗闇の中にかすかに見えた弥丸の表情は、深刻そのものだった。
「向こうから仕掛けてくるっていう情報が入ったんだよ。それもかなり信憑性の高いやつだ。お前は最近呆けているから知らないだろうが、子ここ最近はこっちから密偵を送って、向こうの腹を探ってんだぜ?」
 まったく寝耳に水の話だった。それに、敵から仕掛けてくるというのは、あの初めての戦争以来だったので、どうにも非現実感が拭えなかった。いつだってこちらが侵略者だったのだ。
「遅くとも一週間経つまでには仕掛けてくるだろうと予想されている。明日には国全体に周知して、明後日には先手を取ると」
「……いくらなんでも急すぎるだろう」
「仕方ねえだろ。正確な情報は昨日ようやく入ってきたんだ。俺だってまさか明後日に動き始めるなんて思いもしなかった。だが、遅れれば遅れる分だけ……後手に回って被害は大きくなる」
 もしやこれは、久々と言ってもよいくらいの危機的状況なのではないだろうか。
 鋼国の兵力は、私たち漣国の兵力と伯仲していると言われている。大規模な戦闘衝突はまず避けられないだろう。
 いったいその戦争に何の利があるというのだろう。お互いに十分な農作地、漁場、家畜を持っていて、なお奪い合うというのか。
 そして、間違いなく何百もの命を削り取りながら戦場を駆け抜ける己の姿を想像して、私は吐き気を催した。
「大丈夫か、水漣……」
 弥丸が私の背中をさする。戦争が起きる前にいつも体調を崩していた私は、よく弥丸に背中をさすってもらっていた。
 今回も、体調は芳しくない。己を血に染めることに対する拒絶反応だ。
 そして私は強く決意する。
「この戦争を、私の最後の戦いにする。絶対に……」

 そして、この戦争が文字通り私の最後の戦いとなった。

「水漣様、起きてください。鋼国の兵がこちらに向かってきています」
 国の民に周知はまだされていない。朝の目覚ましにしては、幾分刺激の強すぎる言葉だった。



   ◆



「……壮観だな」
 弥丸はぽつりとそう言った。私は何も言わずに頷いた。事実、言葉が出ないほど壮観な景色だった。
 漣国と鋼国の間にある草原は、普段は人っ子一人いない。草原までの距離は私たちの方が遥かに近い。ゆえに、私たちはここで鋼国の兵を迎え撃つことになった。
 そしてやってきた鋼国の兵たちは、二万の軍勢を擁する私たちと変わらない兵量を誇っていた。
 両軍合わせて四万の兵が、たった百間の距離を保って向かい合っている。。これから始まる戦いで、いったいどれだけの命が失われるのか。
 できる限り無用な殺しは避ける。しかし、戦いには勝つ。
 平和が訪れないのならば、せめてこの矛盾に打ち勝ち、同胞を失って悲しむ人間やポケモンを減らそうと幾度となく思った。
 しかし、半殺しにして大量の奴隷を確保することも、土地だけを求めてそこに住む人間とポケモンをすべて(ほふ)ることも、ほぼ恭一郎の意に沿って行っていた。
 刃向かうだけの勇気を持てず、漠然と無意味に殺生をしては、己への嫌悪感に耳を塞ぐ。
 私は英雄ではない、と。
「さあ、戦だ! 水漣の名の下に集う(つわもの)たちよ、その剣と盾を手に取り、勝利を収めよ!」
 後方に控えた恭一郎とその取り巻きの声が、戦場に木霊する。
 雲一つない爽やかな空に、地を揺るがすほどの兵士たちの咆哮が響き渡った。
「始まったか……」
 弥丸の声がわずかに震えている。
「この戦いで……全てを終わらせる!」
 私は、英雄ではない。ただ抗い難い流れに身を任せ続けてきた、弱き者だ。
 だからこそ、私はこの戦いで真の英雄となる。二度とすすぐことの叶わない大きな罪を背負いきるために、私は戦う。
「さあ、行け!」
 大音声とともに、最後の決戦の幕が、切って落とされる。
 両軍が、氾濫する川の流れの如く、お互いに混じり合い始めた。



 戦況は、我が漣国が劣勢であった。戦える人間やポケモンの頭数はどんどん減ってゆく。
 兵の数は同じでも、向こうの方が数段鍛えられていた。兵力がさほど変わらないと思っていたのは間違いだった。
 鋼国は生きた奴隷が欲しいのか、こちらの兵士たちを峰打ちや平打ち*2などで、致命傷を与えずに倒してゆく。
 私が事前に恭一郎から通達されていた内容は「屍の山を作れ」という無慈悲なものだった。しかし、私自身も敵と同じように、平打ちと技のみで戦っていた。
 恭一郎がいる位置からは、最前線で暴れている私の様子など見えはしないだろう。
「貝刃撃!」
 いつもはほとんど使わない父の必殺技で宙を斬り、水の衝撃波を放つ。
「うわあ!」
 ぐしゃりと潰れたような声は、それきりしなくなった。人間九人とポケモン八匹を、衝撃波のみで薙ぎ倒した。
 二万もの大軍を、一対一だけの戦闘でこなしていては埒が明かない。
 これで三百は戦闘不能にしたはずだが、劣勢には変わりない。前線をすんでのところで決壊させないで済んでいるのは、私の剣が猛威を奮っているだけという理由に過ぎない。
 私の体力が底をついてしまったら、負ける。皆、鋼国の奴隷として捕えられ、私の夢は儚く消え去る。
 諦めてはいけない。この戦争が終わったら、私は必ずや恭一郎と村人の目を覚まさせ、平和な世界を築き上げる。
「皆、私に続け! 一気に切り込むぞ!」
 もはや、長期戦は緩やかな死に向かっているのと同義だ。敵の群れを切り開いてゆき、将の首を討つしか道はない。
「水漣様に続け!」
「ここが勝負どころだあ!」
「打ち倒せえ!」
 私は雄たけびを上げると同時に、最大の力で貝刃撃による衝撃波を放った。
「今だ!」
 何十もの人やポケモンを吹き飛ばし開かれた道を、兵士たちが私の切り込みを皮切りにして、勝機とばかりに突き進んだ。
「行かせぬ!」
 敵もここだけは絶対に通さないと言わんばかりに立ちはだかる。
「退け!」
 激流のように突入した私は、脚貝刀の平打ちで一度に三人片付ける。
 しかし、私に従ってきた二百ばかりの兵士たちは、凄まじい数の兵たちに倒されてゆく。なんとか私についてこれたのは腕に覚えのある幾人かだけだった。
「うおおおおお!!」
 それでも私は突き進むことを止めない。たとえ一匹だけになろうと、この身が朽ち果てようと、突き進むことでしか道は開けない。
 ひたすら敵を薙ぎ倒し、いつしか後ろの仲間たちはいなくなった。
 しかし、もう少しで私は敵将のもとへと辿り着ける。完全に敵に囲まれていたが、私は勝利を思う。
 この時、こちらの兵の数は二千五百。敵兵の数は八千ほどであった。
 逆境だった。真の英雄となるためには、この程度の逆境で音を上げるわけにはいかないのだ。
 私は、左前脚の鞘から、もう一本の脚貝刀を取り出すと、敵兵が後ろに二、三歩退いた。
 私の周りに円形の空間ができる。まだいけると、私は突き進むべく一歩を踏み出した。
 だが。
「二刀流……まだ内にその凶悪性を秘めているようだな」
 敵陣から、高らかな声が響いた。
 私の前にいた敵兵たちが、一斉に左右に退く。
 私は身を引き締め、しっかりと両前脚に脚貝刀を握る。
「私が相手をしよう」
 そして、出でたのは――一匹のポケモンだった。
 私は目を細めた。たった一匹でも大量の敵をものともしないポケモンは、これまで数多く出会ってきた。
 しかし、目の前にいるキリキザンは、二回目の戦争で出会ったルカリオや、海辺で戦ったエルレイドとは一線を画す雰囲気を(まと)っていた。
 鋼鉄の体。鋭利な刃。そして、見る者を射殺(いころ)してしまいそうな眼光。
 この戦いでは、まだ私は誰も殺してはいなかった。だが、もうそれはできそうにない。
 明らかに手加減などできそうにない相手だった。絶対に、どちらかが死ぬことになる。
 私は二本足で立ち、一度ゆっくりと目を閉じた。思い出すのは、これまでの日々。
 弥丸と一緒に田植えをしたこと。楓から春紫苑を貰ったこと。皆に剣の稽古をつけたこと。
「辞世の句は詠まないのか?」
 キリキザンが問い終わる前に――私は、修羅に入った。
 五間の距離を一歩で詰め、右前脚に持った脚貝刀でキリキザンの頭を叩き斬ろうとする。
 しかし、キリキザンは右手で難なく防いだ。すかさずもう一本の脚貝刀をキリキザンの左腹に叩き込もうとするが、それも左手で防がれた。
 強い。これまで出会った敵よりも、強い。
「この太刀筋、そしてその目……やはり悪魔か」
 キリキザンが私の脚貝刀を思い切り弾き返し、私は後ろによろけた。
 そして、キリキザンが一瞬で間合いを詰める。躊躇いなく心臓を狙ってきた鋭い突きを、私はなんとか脚貝刀ではね返す。
 一瞬の肉薄。息つく暇もない。周りの兵士たちは、ただ戦いを見守っているだけであった。
「貝刃撃!」
「辻斬り!」
 ただの剣がお互いを破れぬというのなら、技を使うまで。私もキリキザンも、思考が完全に同調していた。
 十分の一秒で詰められる間合い。水と悪の力がかち合い、激しい衝撃波が発生する。
 吹き飛ばされる兵士たち。地面を足で抉りながら耐える私とキリキザン。
 二匹の戦いに、付け入る隙などなかった。
 未だ刃を押し付け合う私たちは、お互いが発する音の他は一切聞こえていない。
「ここで……息絶えろ!」
 交差させ、キリキザンの刃を受けとめていた脚貝刀にひびが入る。
「貴様のような者がいるから……私は平和を掴みとれなかった!」
 キリキザンが、私を罵る。
「貴様の国が大きくなり……その度に平和を捨てて国を強くしなければならなかった私の苦しみが、貴様に分かるか!」
 右前脚に持っていた脚貝刀が、ぼきりと折れた。
 最期(おわり)が私の頭をよぎる。
「水漣……貴様の父が遺した言葉を平気で裏切る貴様を、私は許さない!」
 もう片方の脚貝刀が折れると同時に、キリキザンの刃が私の胸を貫いた。
 勝負は決着した。地にくずおれる私と、立ち続けるキリキザン。


 どこかで見たことのある光景だった。
 何か、大切な思い出の一つが欠けていて、それが埋め合わされたような気がした。
 このキリキザンは、私の父を知っている。
 それは、もうこの世にいないはずの――。


「くろ……がね……?」
「そうだ」
 息絶え絶えになっている私の頭の中で、乱雑で判然としない何かがぐるぐると回り続けている。
 なぜ鉄が生きている? なぜ鉄が鋼国に? なぜ私と戦った? なぜ。なぜ。なぜ。
「貴様はすべての戦争の元凶だ。貴様をここで殺し、この世のすべての戦争を終わらせる」
「元……凶……」
「そうだ。私はあの日……貴様が力を持て余して殺戮の限りを尽くしたことに心底失望した。大切なものを守るために使わなければいけないとあれほど教えられた剣を、貴様は……!」
 幼い私は未熟だった。頭では分かっていても、体が勝手に修羅に入り、敵を殲滅した。そして今は、国中の期待に雁字搦(がんじがら)めにされながら、無用な殺しをしている。
「だから私は村を出た。貴様と一緒に生きていくことは到底できないと。そして、この戦争は貴様を殺すためだけに仕掛けた」
 ようやく合点がいった。私の未熟な振舞いが、鉄を村の外に追いやっていたのだ。そんなことに気づかず、私は墓の前で手を合わせていたのか。
 これが、私の末路だ。運命に抗いきれなかった私に相応しい、極上の末路だ。
「貴様が力を持ち過ぎたことには心から同情しよう。しかし、私は今ここで貴様を殺し、この戦いを終結させねばならない」
 ついに私は死ぬのか。まだやり残したことがあるのに、この世に別れを告げなければならないのか。
「私は……」
「安心しろ。貴様を殺した暁には、私は真の平和を手に入れる。英雄の名を戴き、すべてを変える。奴隷も王族も関係ない、平等で平和な世界を、英雄の名の下に作る。もちろん戦争が終わっても、漣国の人間やポケモンたちを奴隷のように扱うことは当然しない。罪なのは……貴様の存在だけだ」
 鉄は、私が紡ごうとした言葉を知らぬまま、私と同じ夢を語った。
 甚だしい誤解も、己の命が露と消えることも、すべてがどうでもよくなった。
 ――これなら、安心して眠れる。平和な世界を見れないことだけが心残りだが、私が死んでそんな世界が生まれるのなら、喜んで命を差し出そう。
「苦しいだろう。今、介錯いたす」
 私の頬にぽたりと落ちた水は、雲一つない空が気紛れに落としたものだろうか。それとも――。

「さよならだ、水漣!」
 鉄が、夕陽を美しく反射する刃を、大きく振り上げた。










   ◆










「今日は何回鉄に負けたんだ?」
「何だその失礼な訊き方は? 今日はちゃんと勝ったぞ」
 弥丸が面白がって訊いてきたことに、私は自信を持って返事をした。
 弥丸は意外や意外と言わんばかりに目を見開いた。
「へえ、最近まともに勝てるようになってきたんだな。きっと田植えで足腰が鍛えられたんだろう。俺のお蔭だな、感謝しろ」
「農作業を手伝っているのは父上の命令だ。父上に感謝することはあっても、お前に感謝することなどない」
「けっ、冷たいねえ。しかしもう農作業の手伝いは免除されているだろう? 嫌なら止めりゃいいのに」
 弥丸が口を尖らせて言う。
「嫌ではない。稽古だけじゃ得られないものもある」
「そりゃあ是非お聞かせ願いたいねえ」
 弥丸がにやにやとからかうように言うので、私はむっとなって口を開きかけた。
 ――村の人間やポケモンがやっていることを自分でやってみて、初めて自分が守るべきものの価値が分かる、と。
 しかし、挑発に乗って言うのも癪だった。特に弥丸相手には。
「お前には一生教えてやらない」
「はあ? 教えろよ水漣!」
 弥丸がふざけて私の首を絞めるふりをする。私は、それを振り切って走り出した。
「おい、待てよ水漣!」
「誰が待ってなどやるものか!」
 夕焼け、それから闇鴉(ヤミカラス)の群れ。
 風を切って走る私と、追いかける弥丸の頭上に広がる空には、紛うことなき平和があった。










 あるところに、百年に一度の神童がいたという。









  了






















第五回仮面小説大会でいただいたコメントへの返信

終わり方が好物でした(笑) (2013/04/01(月) 04:24)

>>終わり方は色々と考えましたが、結局こんな感じで落ち着きました。

今回の非官能部門は良作揃いで悩みましたが、その中でもかなり読み切り物語として上手く完結していてとても良かったです! (2013/04/01(月) 21:52)

>>時間に追われ急ぎ足で書きましたが、個人的に多少の不満はあれ、うまく纏められたのではないかと思っています。

どちらも確かに守るために戦ったはずなのに、どちらも正義で、どちらも悪で。
すっきりとはしない物語の終わり方で、人を選ぶ作品ではありますが、読み始めるとぐいぐいと世界観や物語の展開に引き込まれていきました。
色々と余韻の残るいい作品でした。ありがとうございます。 (2013/04/05(金) 06:33)

>>勧善懲悪、絶対正義や絶対悪から極力離れて書いたつもりで、それが上手く伝わったようでよかったです。
  時代小説調の作品はwikiでもなかなか見ないので、そのあたりの塩梅をどうしようかと展開は練りに練ったつもりです……が、やはり粗さ、甘さも目立ってしまったように思います。その辺を修正しつつ、もっとうまく書けるようにしたいです。

\(°▽°)/素晴らしき文 (2013/04/06(土) 03:13)

>>ありがとうございます。もっとうまくなれるよう頑張ります。

こういう話けっこう好きです (2013/04/06(土) 13:41)

>>ありがとうございます。

(2013/04/06(土) 18:10) (感想無し)
立場が違えば、時代が違えば。もしかしたら平穏な生活をずっと送ることが出来たかもしれない。
持つ才能がどう転がるかは本人や取り巻く環境次第で大きく変わってくる。
色々と考えさせられる物語でした。 (2013/04/06(土) 20:58)

>>この物語のテーマは、おおざっぱに言えば「抗い難い運命」でした。どれだけ大きな力を持っていようと、世界の広さから見れば個の力は微々たるもので、少しのきっかけで簡単に奔流に流されてしまうものだと思います。
  もし水漣に寄り添ってくれる仲間、弥丸のようなポケモンや楓のような人間がもっといてくれたのならば、戦争の中を駆け回るようなことはなかったかもしれません。

どこまでも悲しい宿命を背負ってしまった水漣を救ってあげられる人がいればまた違った結末を迎えていたのかもしれない。心揺さぶられる素晴らしい小説でした。 (2013/04/06(土) 21:58)

>>もっと水漣の気持ちをわかってくれる人がいたら、寿命を迎えるまで生きていたかもしれません。もっと読む人の心を揺さぶれるような小説を書けるよう頑張ります。

濃厚で、先の見えないストーリーに引き込まれました (2013/04/12(金) 22:25)

>>物語の背景的に、濃厚さは求めても求め足りないものでした。もっと納得できるような小説を書けるよう頑張ります。

登場キャラがイケメンすぎる... (2013/04/14(日) 19:19)

>>思えば性格が悪いキャラってあんまり出てきませんでしたね。


 第五回仮面小説大会非官能部門において、9票を獲得し、優勝することができました。投票して下さった方、並びに読んでくださった方、ありがとうございました。
 また、〆切を数分破ったこと、また、急いだためにプラグインのミスを連発してしまい、読みにくい部分が多々見受けられたことをお詫びします。
 本来なら10票のはずが、一日遅刻のために0.9票×10人という扱いになってしまいました。次回からこのようなことがないようにします。







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あとがき(白抜き反転)↓
精神消耗の激しい執筆期間でした。家に籠り、一週間で3万字という、普段の遅筆振りからはおよそ想像もできないような速度で書いてました。その分いいものが書けたんじゃないかなあと思います。
物語の大筋としては、小国(村)を危機から救い英雄と慕われたダイケンキが、望まない方向に進む自らの住む国や周りに人々の間で葛藤する、という話です。この物語を思いついたきっかけ、というかインスピレーションをくれたのはGARNET CROWの「英雄」という曲です。わりと歌詞内容をなぞってる部分があります。
ラストは、水漣が死ぬ間際に鉄が水漣の胸の内に気づいて「お前が実現させたかった平和を私が受け継ぐ」みたいな感じにしようと思いましたが、ずっと離れ離れになっててそんな都合のいい話はないだろう、ということで悲しい最期になりました。でもきっと鉄は知らず知らずに水漣の遺志を継いでくれるのだと思います


*1 一尺は30cm、一間は180cm程度
*2 刀の平らな部分で打つこと

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