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苦悩鎖。

/苦悩鎖。


時を司る。そう伝説と称された割に私は弱かった。もしかすると彼等が強過ぎたのかもしれないが、それは対した問題では無い。
伝説が破られた。負けた。唯のポケモン二体に手も足も出なかった。それが根幹にして、最重要な問題なのである。
彼等と出会う前迄時間を戻してしまいたい。直ぐ様その願望は彼等が此所に来る直前迄時間を戻す、様になり、
終いには彼等が生まれる前迄時間を戻し、タマゴの彼等を平然と踏み潰したくなっていた。ああ、何て私は酷いのだろう。
身体を無様に倒した私の顔を彼等が見詰めている。四つの眼が憎たらしい。抉り取ってしまいたいが余力は残ってない。
「…………………」
今にも涙を泣かして盛大に哭き喚きたいが、無駄に残った私の誇りがそれを許さない。良いから、行って欲しい。
こんな私の事など放っておいてくれ。頼む。視線に僅かに潜んだ感情を、解ってくれないだろうか。
ああ。時間は過ぎていく。私が司っていた筈なのだが、あれよあれよと管轄を離れている様だ。嘘。私の力は、もう残っていない。



空間を司る。その割には実に意地の悪い使い方しか思い付かなかった。同じく時を司る、我と同じ伝説と称されたポケモン。
彼は倒れていた。鋼の混じった身体には生々しい疵が残り、あちこちから血を流している。何と無様な姿なのだろう。
二匹のポケモンが彼を黙って見据えている。驚くべき事に、どちらも未進化であった。森蜥蜴に火猿。彼等は何を思う。
実を言うと友を倒され怒りを覚えていたのだ。今直ぐにでも彼等の前に現れて八つ裂きにしてしまいたいのだ。
しかし、我が友は何を思うのだろう。それが気掛かりで見る事しか出来ない。別段見なくても良いのだ、唯彼等がどうなるか知りたい。

「………………」

自然に我は嘘をついてしまった。若し、友を倒した彼等に我の力が通用しなかったら。我もあの様に無様な姿を晒すならば。
それが嫌で嫌で堪らないから、動けなくなっている。おまけに、大変な、尚且非情な事に気が付いてしまっている。
我は心中でこう思ってしまったのだ。無様に倒れている友の姿を見て。ああ、何と愉快だな……と。
そんな気は今まで全くといって無かった。そう思っているが本当はそう考えていたらしい。
然るに彼の無様な姿を見る事しか出来ず、その楽しさを心の表面は否定して………ああ、嫌だ。



時を司る、伝説のポケモン。僕達の前で、倒れ込んでいた。全身には僕達が負わせた傷、疵、キズ。まさか倒せるだなんて。
そもそも最初に言い出したのは隣の彼だ。何故そんな発想が浮かんだのかどうかなんて、例え聞いたとしても解らないに決まっている。
彼は前々から突拍子の無い事ばかりやって来たのだから。空が青いから店の物を全て買い占め、
雨が強いから何もしない。整合性の有無なんか関係無い。木の実の中の種が気になったから伝説に挑む。彼はそんな奴だ。
「………………」
彼は僕の隣で無言で伝説の名を冠した相手を見詰めている。落胆したように見えるが、興味深そうでもあった。
相手方は同じ様に此方を見据えていた。倒れていても威厳が感じられる。彼の手によって、片目は潰されていたけれど。
「………………ねぇ」
暫く時間が経った後彼に帰ろうか、と切り出そうと思った時やっと彼から言葉が出て、その言葉が僕に向けられてる事に気付いた。
「何?」
「僕と君、どっちが強いのか知りたいな」
言い終わったかどうかの際どい瞬間をついて、彼が殴り掛かってきた。慌てて避ける。どうやら本気らしい。
彼に何があったのかなんて、きっと僕には解りっこない。相性も考えずに向かってきた彼を、止められもしないだろう。
負けたら死んじゃうかな。だけど、それは嫌だ。結局、僕等一体だけしか生きられなくなっている。ちょっと寂しかった。



何でそんな事を思い付いちゃったんだろう。なんて、僕はさっき成し遂げた事について良く悩んでいた。
目の前には友達だった彼の亡骸。頑張って相性も覆して、だけど僕の疵もかなり大きいものになってしまっている。
僕の身体は数回炎に包まれたし、引っ掻かれたりもした。痛みは感じない。首筋から血が出過ぎたか火傷が深すぎたか知らないけど。
多分僕は今急に沸いてきた眠気のに任せ寝てしまったらそのまま死んでしまう。大の字に倒れ込んで、頭も動かす気になれない。
脇から視線を感じるが、さっき僕達が倒した伝説のポケモンだろう。驚いてるだろうな、自分を倒した相手達が急に戦ったから。
「………………」

眠くなってきたけど、きっと意識が薄れてきたんだ。もう時間は無い。だけど、不思議と後悔は全く無かった。
何で僕はあの時木の実の外側を捨てたか、とか何故あの子が可愛く見えたな、とか。些細な疑問で頭が一杯になっている。
伝説のポケモンを倒した訳も友達を倒した理由もその中の一つに過ぎない。そう考えてしまって。ああ、また眠気が強くなる。
これから僕が解る事と言えば、死んだ後はどうなるか、という事だけだ。しかし眠った後でどうそれを認識すれば良いのかな。
「………………」
目を閉じると僕自体が消えるような感覚に見舞われた。それだけ。
何だ、こんなものなのか。じゃあ、もっと早死にすれば良かったのに。
そんな後悔を抱いたまま、僕は死ぬのか。
「………………」




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Last-modified: 2011-05-24 (火) 00:00:00
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