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花がもえる

/花がもえる

執筆者文書き初心者
官能描写があります。苦手な方はご注意ください。



 風が吹く度に春を謳う淡い桃色をした花弁が散っていく。散ったかと思いきや、ひらひらと雪のように降り注いでは地面へと敷き詰められていく。そうして地に着いた筈の花びらは風で煽られると再び宙にへと舞い上がる。
 そんな光景に俺は呆然と立ち尽くしながら目を奪われていた。それがただ純粋に綺麗だと思って眺めていた。それなのに、
「気でも狂ってるんじゃないの、桜吹雪なんかに見とれるなんて」
 どこからともなく俺を小馬鹿にしたような声が飛んできた。その声の主の所為で、俺は不快感を募らせる。
 折角、風流というものを楽しんでいたのにこれでは台無しである。お陰でこの桜吹雪が塵のようなものに見えてきた。
 腹を立てつつも声の主を暴くために、俺は言い放たれた方向に振り向く。しかし、思いもよらない姿が俺の視界に飛び込んできた。
 そいつは四足歩行で新緑とは少し薄い緑色のような身体をしていた。そして首回りには淡くて小さい桜の花びらとは対照的に、派手な色合いで且つ圧倒的に大きな花弁がある。
 うろ覚えではあるものの俺の記憶が正しければ、確か種族はメガニウムであろう。しかし、この辺りにメガニウムがいるとは聞いた覚えはなかった。俺自身もこの辺りで出会った試しはなかった。どうやら、メガニウムはこの近辺に棲んでるやつではなさそうだ。
 自分の同類である炎タイプに花を見て笑われるのはまだ分からなくも無い。だが、よりによって見ず知らずの草タイプに言われると驚きを隠せなかった。故に、俺の中にあった苛立ちは動揺へと移ろい始めていた。
 草タイプといえば決まって植物を好むというのに拘わらず、コイツは反対にどうも嫌っているらしい。そしてコイツは自身の弱点である炎タイプと知りながらも、顔を会わせた事がない俺の前に堂々と姿を見せている。更に付け加えると、コイツは敵対心を見せるどころか警戒すらもしてないのが俺は不思議でならなかった。
「危ないと思わないのかよ、炎タイプである俺に近付いて」
「そんな花に見とれてる炎タイプもどうかと思うけど」
 挑発というよりは警告をしたというのに、さらっと言い返されてしまった。相手はこちらが有利な草タイプであるというのにも拘わらず、初対面の相手から完璧に馬鹿にされている。
「……別に見てても良いだろ」
 俺がそう言うと、コイツはむっとしたように言葉に怒りを混じらせながらも言う。
「咲いてから大した間もなく散る桜。そんなのが何処がいいのか私には全く分からないわね」
 散りゆく光景を眺めていた俺に対して軽蔑の眼差しを浮かべながらコイツがそう言う。すると、コイツ自身の頭の上に何処からともなく淡い桃色の花びらが乗ってきた。しかし、直ぐ様にコイツは嫌悪感を顔に露とさせては身体から蔓を出して鬱陶しそうに払い落とした。そうして払った花びらが地面に着くと、脚で踏みつけていった。それも口元を歪ませながら。
 僅かな言葉を交わしただけだというのに、コイツは異常なくらい目の前で散りゆく花弁に対して憎悪にも似た感情を抱いている。これはあくまでもコイツの行動から判断した俺の推論にしか過ぎないではあるが。
 すると今度は俺の頭の上に桃色の欠片が乗っかった。今にも風で飛ばされそうなのに花びらは俺の身体から離れようとしない。それが焦れったい光景に映るのであろうか、目の前にいるコイツは刹那に口を開く。
「ねえ、燃やしちゃいなさいよ」
 俺とコイツ以外に誰もいなくて静かで穏やかな筈であるこの場所に、野蛮な一声が響く。その声色ははあまりにも穏やかな風景に溶け込んでいなかった。
 こんな木々や草花が生い茂るこの場で火を使ったらどうなるかくらい炎タイプである俺は予想がつく。恐らく、とんでもない程の業火がこの森を包み込むであろう。そうなった暁には、この辺りに棲む他の奴らにこの場所から追放されてしまって、俺は自分の居場所を失ってしまうだろう。
 どうにかしてる。否、どうにかどころの問題では済まされない。コイツは全くもって気が狂っているというよりは異様な精神の持ち主に違いなかった。
「なんで燃やさなくちゃいけないんだよ。ちゃんと草や木、花だって息をしては生きてるんだぞ」
 やや怒りを帯びながらも俺は言ってやる。俺の大真面目な返答にコイツはさもつまらなさそうに溜め息を吐いた後に、
「なんだ、乗る気じゃないのね。残念」
 と言った。そうしてコイツは俺の頭に付いた花弁を蔓で勝手に取っては先程と動揺に煩わしそうに払い落とした。
 何が残念なのか。自然を全く大事にしようとしないなんてコイツは実は草タイプではないというのか。草タイプという化けの皮を被った悪タイプではないのか。それどころか燃やしたら喜ぶって、一体全体どういう性格をしているのか。
 頭の中ではコイツに対しての疑問が膨れ上がっていく。俺はもう訊かざるを得なかった。
「可笑しくないか? 草タイプが植物を燃やせなんて言うのは」
 しかしコイツは俺の質問に呆れたようにうんざりしながら答えた。
「別に可笑しくなんかないわ。ただ私は気に入らないだけなの」
「……気に入らない?」
 気に入らない、とはどういう事なのか。俺はその言葉が気にかかってしまう。
 俺の言葉にコイツはやはりつまらなさそうにしながら答える。
「そう、気に入らないの。別に花なんか私がいれば充分なのよ。他の花なんて見ているだけで退屈でうんざりするもの」
 そう言うと、コイツは視線を落として地面に落ちている淡い桃色の花弁を踏みにじった。それも薄気味悪く口元をつり上げながら。何度も何度も重くずっしりとしているそうな前脚を使って、花弁が散り散りになるまで、それこそ粉末にさせる勢いで踏みにじる。俺はその姿を痛々しい気分になりながら眺めていた。
 目の前にいるコイツはとんでもない程のナルシストであり、はたまた自己中心的であった。更に同族が燃やされても哀しむどころか喜ぶというとんでもなくねじまがった神経の持ち主であった。本当に厄介な奴と出会ってしまったと、俺は胸の内で舌打ちした。
 俺が訊ねた所為もあってか、今度はコイツの方から質問が飛んできた。
「それより私の花を見てどう感じる?」
 そしてコイツは自分の首回りにある花びらをゆらゆらさせては自慢気に見せてくる。俺は我が儘に付き合いたくないものの改めてコイツにある花を見てみた。そうして俺は心で感じた事をありのままに述べる。
「……綺麗だとは思う、ただ――」
「綺麗、ねえ。そっかそっか」
 綺麗、そこだけ聞いてコイツは満足そうにうんうんと頷いた。それもまだ俺の話の途中であるにも拘わらずである。
 最後まで話を訊かないとは何事か。まあ、どうせその後に続くのはその花の持ち主の性格が酷い、だったし言わない方が吉か。
 俺はそう自分自身に言い聞かせると、今度は早くコイツと離れるきっかけを考える。自分に振り掛かる火の粉を払い落とすために。これ以上コイツと居るとろくでもない事に巻き込まれそうだからだ。
「ねえ」
 訊ねてきたかと思いきや、今度は呼び掛けてくる。俺は出来る限りならもうコイツとは話したくはなかった。どうせ一方的な会話になるのが目に見えるからである。
 無視をしても良かった。だが、こんなにも精神が歪んでる相手で後でどうなるか分からないので俺は仕方無くぶっきらぼうに返事をした。
「なんだよ」
 それにしてもまだ俺に用があるのだろうか、コイツは。再度燃やせって言ったって絶対に断ってやる。こんな緑豊かな土地を火の海に変えるなんてまっぴら後免だ。
 コイツは俺の事を少しの間とはいえ、じいっと見つめてくる。コイツは俺の足元から頭にかけて視線を移していった。そしてコイツはほんの一瞬ではあるものの、何故か口元を綻ばせる。そうしてコイツは口を開いてはこう言った。
「貴方、どうやら見る眼がありそうだし私の番にならない?」
 飛んできたのは思いもよらぬ言葉であった。あたかもこの青空から唐突に雷が落ちてきたかのような。
 一瞬、コイツが何を言ってるのが分からなかった。少し遅れて頭で理解した途端に俺は動揺を隠しきれなくなる。
「……はあっ?!」
 思わず俺の口からはすっ頓狂な一声が溢れ落ちた。それくらいにコイツが言ったのは衝撃的であるのに違いなかった。それなのに、慌てる俺とは打ってかわってコイツは至って冷静であった。
 ちょっと待て。いくらなんでも話が吹っ飛びすぎている。初対面の奴からいきなり番になってくれだなんて可笑しいにも程がある。
 やはり自己中心的であるのか、俺の戸惑いなんかコイツは気にも掛けない。それでも多少なりとも気にしてなのか、
「それとも、私の他にもう番がいるの?」
 と訊いてきた。俺は言葉に詰まった。対するコイツは絶えず視線を送り続けてくる。視線が俺に突き刺さって、黙ることも無視をすることもままならなかった。終いには俺はその視線から眼を逸らしながら、
「いや、いないけど。いないけどさ……」
 白状してしまう。自分に番がいないという事実をコイツに。
 この時、嘘でも吐いておけば良かったと俺は後悔した。しかし、自分の真っ直ぐな性分には逆らえる筈もなかった。真実を捏造するだなんて俺には最初から無理であった。
 俺の言葉を聞いた途端に、コイツはにんまりと笑った。今の俺の心境なんてちっとも知らずに。コイツの笑みは今の俺にとっては悪タイプよりかも、たちの悪いものに違いなかった。
「ならいいじゃないの。番が出来たって悦べば」
 普通の牡ならそれでも悦ぶのかもしれない。だが相手が相手なだけに素直に悦べる筈が無い。
 一体、初対面で第一印象が最悪な相手とどう付き合えと。それに精神が曲がりに曲がってる奴と付き合ってたら絶対にこちらの身が持たないであろう。
 それに、話が飛躍し過ぎて置き去りにされてる自分の気持ちの方が優先である。おまけにコイツは俺の意見なんて全く聞いてはくれないし。
「……いきなり番になれって、自分で言ってて可笑しいと感じないのか?」
 コイツに言ってもしょうがないとは思ってみても、俺は馬鹿正直にそう指摘してみる。
「全然。ただ私は貴方が気に入ったからよ。番になるのにそれ以上の理由なんている?」
 だがやはりコイツの口から出たのは俺の想像を遥かに上回る返答であった。コイツは可笑しい以前にやはり狂っていた。コイツの前には世間の常識なんてものは通用しない。それどころか自分自身が正義であるとも考えているであろう。
 それにしてもまさかコイツに気に入られるなんて考えてもみなかった。牝に付き合いを誘われた事が無いくらいに自分の容姿だってそこまで良くないというのに。俺は何を考えているのか全く掴めないコイツの顔をじっと見てみた。
 顔立ちは悪くない、いや寧ろ良い方だとは思う。何匹かの牡なら遊びに誘いそうなくらいだ。自分の好みかと聞かれれば多分そうなんじゃないかな、と。だがしかし、そんな彼女の汚点はひん曲がった性格であろう。
 可愛いけどやっぱり無理だ。そう思って俺は、話の通じないコイツでも理解してくれるようなもっともらしい理由を付けて、どうにか番の話を諦めて貰おうと試みる。
「えっと……もっと相手を知ってからとかさ……」
「なんだ、それくらいだったらやれば簡単に分かるじゃないの」
 しかし、俺の言葉なんかいとも簡単に一掃された。更には大胆不敵な笑みを返されて。常識が通じない相手に、どんなに俺が口煩く言ったとしても軽くあしらわれそうであった。それも非常識な返事でもって。
 そりゃあ、身体を重ねれば口では言い切れない素性も容易く伝わるであろう。しかし、脈絡もなく簡単に身を委ね合っていい筈がない。
 俺が戸惑っている間にもコイツは近付いてくる。ずしんっずしんっと騒がしい音を立てながら地面を踏む。対する俺は身の危険を感じて、思わず物音ひとつさえ響かせないように足元を忍ばせながら一歩ずつ後退りする。
 相手は草を司る種族。対する俺は炎を秘める種族。本気で闘うのなら俺が有利なのは間違いない。だが、今は単純に逃げたくなるくらいに場所が悪かった。相手はこの森という自然の恵みを借りて、自分の力を無尽蔵に引き出せる。だけども俺が火を使った途端に森が火事になってしまうのだ。ましてや相手は余所者で、この森が火の海に変わっても平気でいられる上に草花が燃えるのを喜ぶような異常者である。
 そう、戦いに持ち込むのは明らかに分が悪すぎるのだ。ならば逃げてしまった方が良い。俺はとうとう背を向けて地面を思いっきり蹴っては自分の脚にすがる事にした。
 俺は脚が速い方だ。ただの追いかけっこであったならば負けない自信がある。そう、さっさとコイツの前から消えてしまえばいいのだ。まともではない相手にまともな対応をする必要なんて最初から無かったのだ。このまま逃げ切ってしまえば、俺はいつもと変わらない日常を得られて平穏無事でいられる。
 闇雲に走る。その際に地面に落ちた桜が踏み散らされて再び舞い上がる。それが煙幕のようになって、丁度相手には自分の姿を捉えられないようになっていた。
「ねえ、どこいくの?」
 しかし不気味な一声が、この森の中に響く。その声にほんの一瞬だけ気を取られた俺は脚がもつれて派手に倒れてしまう。のたうち回って挙げ句の果ては身体に桜の花弁が付着する。
 特に躓くような物は地面に転がっていなかった。それなのに俺は脚を奪われてしまった。直ぐに体勢を整えて再び逃げようとするものの、そうは出来なかった。自分の脚に何かがしつこく絡まっているのだ。
 疑問に感じて見れば、脚には草が幾度となく絡められていた。それが草結びの所為だと分かるのに大した時間は掛からなかった。掛からなかったとしても、逃げ出す暇もないまま緑の魔女が歩み寄ってくる。
 魔女はこの上ない程の痛快な笑顔を浮かべていた。それはきっと、自分が楽しめる玩具を目の前にしてるからであろう。
 とっくにこの森の草や木、花なんてものは魔女の支配下に置かれていた。故に、俺がどんなにこの森を知っていようが、敵となれば太刀打ち出来る筈もない。最初から逃げられる訳が無かったのだ。
「私から尻尾を撒いて逃げるなんて図々しいこと。でもまあ、貴方の場合は尻尾があるのかどうかも怪しいけど、少し楽しませて貰ったからいいかしら」
 魔女は嫌らしくも俺のコンプレックスを抉ってくる。口答えしたくなるが魔女に命さえも握られている今は何も言えない。
 そうして魔女が俺の身体を覆った。あたかも俺を獲物のように見下ろしては、笑いを絶やさない。これにより、俺は実質逃げ場を失ったのが確定した。
「その口から火を吐いて私を焼いてみる? 別に私は興味のある貴方に焼かれるなら後悔はしないけど」
 そしてこの挑発。自分が炎を浴びたら効果は抜群にも拘わらず。
 流石は魔女、と言った所か。弱点である相手を、俺一匹を敵に回したってどうってないようだ。だからであろう、この余裕綽々の態度は。
「やっぱり無理よね。だって貴方は桜の花びらさえ焼けない仔ですもの」
 そして魔女は俺を馬鹿にしたように嘲り笑う。
 さしずめ俺は魔女に躾をされる魔法使い。しかし今となっては特技の火の魔法すらも使えないただのバクフーンだ。魔女からすればきっと俺は魔法使いどころか単なる意気地無しと映ってるに決まっている。
 この際焼いても良かった。ほんの僅かでも炎を当ててやって技の集中を解いてやれば良いのだ。だが、今の俺には魔女を傷付ける理由がなかった。それに、どうせもう一度逃げ出したとしても同じような結果に陥ると目に浮かんでいたからだ。
 ただ何も出来ない、ひたすら無言を貫く俺を見ている魔女が、顔をじっと覗き込んできた。
「ふうん。よく見たら紅い綺麗な瞳をしてるのね。女の仔みたいで可愛らしいこと」
 牝に女の仔っぽいだなんて言われるとは願ってもなかった。格好良いならまだしも、牡がそんな事を言われてもちっとも嬉しくない。
 マグマラシであった頃は多少なりとも牝と間違われた事もあったが、バクフーンになった今では綺麗さっぱりそんなのは無い。
「いつまでその瞳は輝いていられるでしょうね」
 魔女の口元が綻んだのも束の間に地面に着いている俺の手が草に巻き付かれていく。そうして俺は地べたに張り付けにされた。
 魔女は草を操って俺の身動きを封じ込めた。手足をじたばたさせてみるものの、強大な自然の前では全くの無意味であった。
「ちょっとは落ち着こうね」
 そう言って魔女から香るのは甘い匂い。単なる甘いだけではない、身体の力が根こそぎ奪われるようなゆったりとした匂いでもあった。
 じたばた出来ていた手足もやがては力が入らなくなっていって、微動だにさえしなくなる。魔女は俺の手足が静止したのを機に、じたばたする事もままならないくらい完璧に草を絡ませてきた。おまけに匂いは力を奪うだけでなく、気力さえも奪っていく。お陰で炎を出す気にもなれなくなってしまう。俺はたかが匂いごときに為す術もなくなってしまったのだ。
 これによって俺の命運は魔女に委ねられた。今なら魔女の気紛れで俺の命の灯火を消し去るのも容易なのだから。
 しかし、魔女がそんな簡単に命を奪い去る訳がない。口元が歪んでいるのを見ると、もっと悪趣味な仕打ちを俺にしてくる筈だ。
「折角番になるんだし、私の事をメガニウムって呼んでみてよ」
 しかし、魔女からの最初の要求は悪どい事なんかではなくて取るに足らない他愛ない事であった。俺は拍子抜けしながらその名前を口にする。
「……メガニウム」
 しかし、命令通りに呼んでみてもメガニウムは首を捻っては不服そうな顔を浮かべる。
「……だめ。もっと気持ちを込めて」
 気持ちを込めてとはどういう事だよ、と突っ込みたくなる。だが、今の俺にはメガニウムの要求に応えるしか術はない。
 俺は一旦、深呼吸して気持ちを入れ換える。そうして、
「メガニウム」
 と、真剣な趣で彼女の名前を口にした。すると今度はうんうんとメガニウムは頷いた。
「よく言えたわね、バクフーン」
 そうしてメガニウムは、にっこりとご満悦そうに笑う。つい先まで魔女であったというのに、今浮かべているのは一匹の牝の笑顔に違いなかった。何も取り繕ってない心の底から出た笑み。
 俺はその笑顔に呆気に取られてしまう。今まで俺はメガニウムの事はただ歪んでる奴としか頭になかったからだ。でも、今のメガニウムは違う。その事実に俺の中にある疑問が芽生え始める。
 こんな顔を浮かべられるというのに、どうして彼女はあんな暴虐的な振る舞いをしてたのか、と。
 そして、まだ俺の種族の名前を言っていなかったのにメガニウムが知っているのは何故なのか。まあ、これに関しては俺以外の個体とかに会っていて知ってるのも有り得るが。
 疑問は膨れていくというのに、メガニウムは俺に考える猶予を与えない。メガニウムは俺の頭をよしよしと撫でてはこう言う。
「それじゃあごほうびをあげるとしましょう」
 メガニウムの口から溢れたごほうびという言葉。この縛られている状況下では、何だか嫌な予感しかしなかった。
 そして非情にもその予想は的中する羽目になった。メガニウムの口が俺の口にまで近付いてきたのだ。身動きを取れない俺は、願ってもいないメガニウムからのくちづけを受け取らざるを得なかった。そしてそれはただ触れ合うだけには留まらなかった。メガニウムは舌先を俺の口の中へと侵入させてきたのだ。
 俺は誰にも侵入された事のない口内をメガニウムによっていとも容易く犯されていく。メガニウムの舌がまるで触手のように蠢くので、逃れる事が出来ずに俺の舌は捕えられてしまう。たとえメガニウムの舌から解放されようと必死に抵抗しても、結局は無意味で再び捕まってしまう。
 太陽が真上にある昼間から太陽が沈んだ夜に負けないくらいの情事を俺達はしている。いくらここが閑静な森の中だとしても、真っ昼間であれば誰も通らない筈がない。もしかしたら既に見られているかもしれない。こんな昼からするなんてどれだけ盛っているのやら、と知らず内に非難されている可能性もある。
 それでもメガニウムはお構い無しに俺の口内を貪り尽くす。舌だけに限らず、唾液から歯、口壁まで余す所無く食らい尽くしていく。
 メガニウムが口を離す頃には俺の口元から唾液が漏れて滴り始めていた。とろりとだらしなく垂れている唾液を手で拭いたくても、メガニウムが両手を封じ込めているのでままならない。
 するとメガニウムが気付いたのか、先程と同様に舌先を巧みに使って俺の唾液を舐め取る。それもゆっくりと丁寧に唾液が辿ってきた道筋をなぞっていく。
 メガニウムに舐められるのはくすぐったかった。また俺の興奮を煽っていたのも事実であった。その証拠に、俺の頬は熱を帯びていた。対するメガニウムも紅葉するかのように頬が染まっていた。
「なあんだ。嫌がってたくせにこっちはやる気じゃないの」
 そう言うと、メガニウムは俺の下腹部から露となっているものを横目で見る。無論俺も釣られて視線を傾けてしまう。
 案の定、俺の愚息がむくむくと起き上がっては存在を主張しようとしている最中であった。
 牝とこんな行為を行ってしまえば、身体が反応するのは当たり前である。寧ろ、しない方が可笑しいと思ってしまうくらいだ。
 しかし、時と場合をわきまえて欲しかった。こんな状態に愚息が反応してしまえば、ますますメガニウムの思惑通りだ。いっその事、愚息が不能であれば良かった。
 だが、もう愚息は包み隠せそうにないくらいに膨れ上がっている。もう後に退くなんて出来ないのだ。
 その一方で、メガニウムが嫌らしい笑みを浮かべて言ってくる。
「バクフーンは口がお好み? それとも蔓でしごかれるのがお好み?」
 メガニウムの質問にそんなの知った事か、と俺は考えざるを得なかった。何故なら俺はこういった経験値が全くもって無かったのだから。
 俺が答えないで黙っていると、メガニウムは痺れを切らしたように言ってくる。
「何も言えないって事はもしかしてこういった経験がないの?」
 図星であった。メガニウムに言い当てられて俺はますます口が開けなくなる。だから俺は恥ずかしい思いを圧し殺しながら首をこくんと縦に振るしかなかった。
 赤面する俺の様子を見るなり、メガニウムはにやにや笑いながらからかうように言ってくる。
「へえ、バクフーンは牝を知らないのね。まあ、番がいないって言ってたから当然か」
 小馬鹿にされて俺は苛立ちを隠せない。しかしそれは事実であるので何も言い返せない、故に口を閉ざすしかなかった。こんなにも黙っていると俺はますますメガニウムの玩具にされていく。
 メガニウムが自分の顔を躊躇いもなく肉棒に近付けていく。そして鼻でくんくんと匂いを嗅ぐ。むせかえりそうなくらい酷い匂いだと思うのに、メガニウムはなかなか鼻を肉棒から離そうとはしない。
「……これが牡の匂い、ね」
 そして端的にメガニウムがそう言って顔を離すと、今度は自分の身体から蔓を取り出した。そしてその蔓は俺の予想通りに肉棒へと絡み付いてきた。四肢は草に結ばれ、今度は肉棒へ蔓に絡み付かれて俺の身体は弄ばれる一方であった。
 そしてメガニウムは蔓を動かし始める。絡まった蔓が俺の肉棒を扱いていく。扱かれる度に俺の身体には刺激が走り、それによって肉棒はみるみる内に大きくなるのと同時に堅くなっていく。最終的には肉棒は膨張して、先端の部分は空を指し示していた。
 俺の肉棒が膨れ上がるとメガニウムの関心はますますそれに向けられる。メガニウムは俺の肉棒から視線を逸らさないでいた。そうしてメガニウムはご満悦そうに、
「どう、私の蔓は。気持ち良いでしょう?」
 言ってくる。俺は返答しようか迷うものの、性的欲求には逆らえず頷いてしまった。
 俺の返事にメガニウムの機嫌は更に良くなっていく。気づけばメガニウムからは甘ったるい匂いが漂い始めていた。俺はその匂いを嗅いだ途端に頭がくらくらしそうになる。しかし、意識はちゃんと正常に保たれていた。
 メガニウムの蔓は止まらない。肉棒を扱くだけには留まらず、肉棒の先端部を蔓の先でぐいぐいと弄ってくる。そのメガニウムの行為の所為で、俺は口を開けて喘いでしまう。あれだけ沈黙を守っていたというのにも拘わらず。
「ぁあっ、はあっ」
 自慰の経験はある。だからなのか、自慰よりも圧倒的に気持ち良いと俺は感じてしまった。蔓で弄られて手荒であるとはいえ善がっている自分がいるのは事実だった。だからであろうか、先程から俺を見下ろすメガニウムの笑みが途絶えなかった。
 そして俺の肉棒の先端から滑りを帯びた透明液を吐き出し始める。透明液は肉棒を弄る蔓に付着していった。メガニウムは違和感を覚えたのが蔓のを動かすのを止めた。そうしてメガニウムは蔓に纏わり付いた透明液をじいっと見詰めては舌先でぺろりと舐めた。透明液をメガニウムは味わうと、俺に直ぐ様言ってくる。
「ねえ、バクフーンの蜜、私にもっとちょうだい」
 肉棒に絡まった蔓を解くと今度はメガニウムが口を寄せてくる。一旦、メガニウムが舌先で肉棒の先端から溢れる透明液を舐める。それだけの透明液では物足りなかったのか、今度は肉棒を口の中に押し込んでいった。
 俺の肉棒はメガニウムの熱くて唾液がぬっとりとする口内に収められてしまった。口に入れるや否や、メガニウムは自分の舌を肉棒へと押し当ててくる。そして肉棒の根本から先端まで舌先でねぞっていった。
 メガニウムに敏感な肉棒を舐められた事によって、俺は思わず身体をぴくりと震わせてしまった。その反応を窺うなり、メガニウムは面白がって頬を緩ませては、舌で舐めるのを続けていく。肉棒の先端だけを集中的に舐めたり、根本から先端へと舐めては先端から根本へと全体的に舌を這わせたりしてくる。
 口淫に関しては経験が無かったが為に、俺は口から熱のこもった息を出すのと同時に、伝わってくる快感に身震いしてしまう。行為をする前はあんなに拒んでいたというのに、只今の俺の頭の中ではメガニウムにこうして弄ばれたいという欲しかなかった。
 頻りに溢れてくる透明液はメガニウムの喉を潤す。それがどんなに美味しくないものであろうとも、メガニウムは嫌な顔をせず自ら進んで飲んでいく。多分、メガニウムは透明液にすっかり夢中であったのだ。その所為なのか、肉棒を舌で舐めるのから肉棒を咥えるのに移行する。そうしてメガニウムは口を上下に動かして肉棒を扱き始めた。
 蔓で雑に扱かれるよりかはこちらの方が気持ちよかった。メガニウムの熱い口内に包まれて肉棒は溶けてしまいそうである。事実、俺の肉棒は噴火寸前となっていた。
「メガニウムっ、やめ、ろ……」
 俺が苦し紛れにそう言ってもメガニウムは耳を貸さなかった。それどころか俺がして欲しい事とは真逆の事へと傾けていく。
 俺が善がってる姿をメガニウムは楽しそうに見ていた。それも上目遣いをしながら。更にメガニウムは物欲しそうに眼で早く出しなさいよ、と訴えてくる。
 メガニウムはもう慣れたのか滑らかに口を動かして俺の肉棒を追い詰めていく。時折、ちゅぱちゅぱと卑猥な音を立てながら舐めたりしながらも。
 経験が乏しい俺からしてみればそれはえげつない行為であった。そうして俺はとうとう我慢出来ずに、
「ぁああっ!」
 肉棒から白濁液を噴出してしまう。肉棒から吐き出された白濁液は当然のようにメガニウムの口内を汚していった。
 いきなり白濁液が出されたので驚いたのか、メガニウムの眼は大きく見開いた。しかし、それはほんの束の間であって、今度は堪能するかのように眼を細めていった。どろどろの白濁液で自分の口の中が汚れたというのに、メガニウムはしかめっ面をするどころか表情を変えなかった。寧ろ俺からしてみればメガニウムの機嫌が良くなったかに見えた。
 メガニウムは口内に放たれた白濁液を喉を鳴らしながら飲み干していく。透明液を飲むときと同様にメガニウムは嫌な顔一つも見せなかった。それどころか、口内に白濁液が無くなるや否や、俺の肉棒をぺろぺろと舐めて付着した白濁液を舌先で拭き取っていった。
 メガニウムがご丁寧に隅々まで舐めてくれたお陰で、萎え始めていた筈の肉棒は刺激されて堅さを取り戻していく。たとえ白濁液を出して直ぐにも拘わらず、再び行為が出来るくらいに元気になっていた。
 メガニウムが肉棒から口を離すとべたついた白濁液が糸を引いた。暫くの間、メガニウムと肉棒とを繋いでいたが時間が経つにつれて弛んでいき終いには切れてしまった。
 メガニウムの口内から解放されて姿を現した肉棒は、弄ばれる以前と同様に垂直に熱り立っていた。違う点といえば、メガニウムの唾液やら白濁液やらで濡れているぐらいであった。
 まだまだやる気十分な俺の肉棒を見るなりメガニウムは、
「私に向かって一杯出したと言うのに随分と盛ってるのね」
 と口元から垂れている白濁液を舌先で舐め取ってはそう言った。
 萎えてくれれば良かった。そうしたらメガニウムの口だけで事態は済んだのだから。しかし俺の身体はメガニウムの身体を求めていた。手足を束縛されていなければきっと、俺はメガニウムに飛び付いては押し倒しているに違いない。だが、俺の身体は今もまだ自由が効かないのでやはりメガニウムに命運が握られている。
 そしてメガニウムは俺に訊ねてくる。
「ねえ、私としたいでしょ?」
 訊ねてきた途端に、メガニウムから匂いが飛んできては鼻に纏わり付いてくる。すると、身体の奥底からメガニウムに委ねたいという感情が芽生えてくる。メガニウムが匂いで俺の心を惑わせていた。俺の口から屈服の言葉を絶対に言わせる為に。
 俺は僅かに残った理性でメガニウムに反論する。本当にこんな簡単に身体を委ね合っていいのかと。
「……でも、俺とメガニウムは知り合ったばかりでまだ何も知らないのにいいのかよ」
「私としたい?」
 だが、そんな俺の言葉なんか彼女は興味無かった。故に耳なんて貸す筈もなかった。無視した挙げ句先程の質問をもう一度投げ掛ける。
 メガニウムがつまらない事を言った俺に対して、肉棒に蔓を押し当てて刺激させては性欲を促すという圧力を掛けてくる。肉棒を弄られたのもあるが、匂いで身体の疼きが止まらない所為もあって俺はとうとう言ってはいけない言葉を口にしてしまう。
「……したいと思う」
 だがメガニウムが聞きたいのはそんな生半可な返事では無かったらしく、少々怒りを露にしながら言ってくる。
「はっきりしなさいよ。でないと今度はこっちを縛るわよ」
 メガニウムは肉棒に蔓を幾重に巻き付けてはそう脅してきた。炎タイプである流石の俺もこのメガニウムの脅し方には背筋が凍りそうになる。冷や汗をかく思いで慌てながらも、俺は口にしなくてはならない言葉を遂に発する。
「メガニウムとしたい」
 俺がそう言った途端にメガニウムは眼の色を変えた。不気味というよりかは牡を虜にする妖しげな笑みを浮かべては俺にこう言った。
「よく言えたね、バクフーン。それじゃあ楽しみましょうか」
 正直な所、言えたというよりかは言わされたと表現した方が正しかった。この束縛の下では拒否権なんてさらさら無かったのだから。
 そしてメガニウムは俺の身体へと覆い被さってきた。彼女はきっとこの上ない程の笑みを浮かべているであろう。何せ、本来ならば征服出来ない炎の牡を自分の手玉に取っているのだから。
 メガニウムが俺の身体を覆うと、肉棒に下腹部を押し当ててくる。すると牝特有の柔かな感触が身体を通して伝わってくる。それだけではなくて、肉棒にメガニウムの雌しべが宛がわれていた。
 肉棒に湿った感触が伝わってきたので、俺は彼女の雌しべに眼を向けた。するとどうだろうか、俺はメガニウムの身体にまともに触っていないと言うのに彼女の雌しべは既に愛蜜でぐしゃぐしゃになる程濡れていた。交尾の経験が無い流石の俺でもこんなにも湿るのかと違和感を覚えざるを得なかった。
 俺が雌しべに釘付けになってるからなのか、俺の疑問を見透かしてるかのようにメガニウムが言ってきた。
「ふふ、バクフーンが善がってる姿ですっかり興奮しちゃったのよ」
 メガニウムはそう言って笑うのだが、反対に俺はひきつった笑みすら浮かべられなかった。
 これはどう考えても興奮どころの騒ぎではないと俺は思った。明らかに濡れ過ぎているのだから。そして俺の様子を見て興奮するとは、悪質と言えるくらいにメガニウムは加虐嗜好の持ち主だと思った。
 これだけ濡れていれば雌しべに対する前戯なんてのは要らなかった。後はメガニウムの雌しべが俺の肉棒を飲み込むだけで事が容易に済むのだから。
「さてと、いくから」
 そしてメガニウムのその一言で火蓋は切って落とされた。
 メガニウムは俺の身体に向かって腰を落としていき、肉棒を雌しべに沈めていった。愛蜜で湿った雌しべが肉棒を飲み込むのは容易かった。メガニウムが腰を沈めれば沈める程、俺の肉棒はきつくて湿った肉壁へと包まれていく。
 先まで主導権を握っていたメガニウムでさえも自身の雌しべに俺の肉棒を入れていくのには、やけに慎重であった。おまけにメガニウムの口から時々苦しそうな喘ぎ声が漏れてくる。その声に俺は何故か不安を感じてしまう。恐らく、メガニウムがそんな声を発するなんて考えてもいなかったからであろう。
 番がどうのこうのとか言ったり、やったことがないのか、とからかったりしてきたから俺の中でメガニウムは既に経験が豊富なのだと思っていた。
 だが、実際はどうだろう。そう思った俺は顔を上げてメガニウムを見た。
 俺の目の前には表情を歪ませながら必死に肉棒を飲み込もうとしているメガニウムの姿があった。それも、行為をする前はあんなにも余裕そうな顔をしていたというのに、だ。
 メガニウムは頬に汗を流しながらも懸命に肉棒を沈めていく。そして遂に、俺の身体とメガニウムの身体が結ばれる。肉棒の先端から根本にかけてまでがメガニウムの肉壁に包まれていた。
 はあはあ、とメガニウムは息を切らす。彼女の表情からはすっかり余裕なんてものは無かった。あるとするならば苦痛であろう。
 視線を感じたのか、メガニウムは俺と目を合わせた。そして苦し紛れに笑うなりメガニウムは言う。
「……バクフーンに見苦しいとこ見せちゃったわね」
 こんなにも弱々しいメガニウムを見るのは初めてであった。故に、俺は今までの彼女の様子からある結論に至った。
「なあ、メガニウム、まさか――――」
 俺と同じで初めてなんじゃ。
 だが、その言葉までは口に出せなかった。
 メガニウムは俺の言葉を掻き消すかのように、はたまた俺を黙らせるが故に自分の腰を動かした。すると雌しべに沈められた筈の肉棒が姿を現す。だが、メガニウムが俺に向かって腰を打ち付けると再び飲み込まれていった。
 メガニウムが腰を動かす度に俺の身体では先の口淫とは比べ物にならない快感が流れていた。ただでさえメガニウムの肉壁は熱いというのに肉棒と擦れ合ってますます熱を持っていく。炎を司る俺でも熱いと感じてしまうくらいに摩擦で肉棒が溶けそうになっていた。
 乱暴にメガニウムが黙々と腰を動かす。その都度、結合部ではぐちゅぐちゅと愛蜜と透明液とが卑猥な音を奏でていく。それはこの人気の無い静寂な森にはあまりにも騒がしい音であった。そして響くのはその音だけでは無かった。俺とメガニウムの喘ぎ声もまた、この森に響いていた。
「ふ、ふぅんっ……」
「あ、あ、あっ……」
 牝が牡に覆い被さっている。俺はメガニウムに犯されてる。その筈なのにそういう気分にはなれなかった。寧ろ俺はその逆に感じてしまう。何故ならメガニウムの表情がちっとも気持ちよさそうでは無かったからだ。
 そして犯されている筈なのに、メガニウムの腰使いは何処と無くぎこち無かった。そして今の彼女は優越感に浸っている様子なんかは見受けられなかった。瞳を雫で潤したりしているからだ。また、首回りにある花びらは力無くぐったりと垂れていたからでもあった。
 俺が対峙した魔女の面影なんてものはすっかり消え失せていた。俺の前にいるのは苦しみに耐える一匹の牝の姿であった。
 どうして自分の身を苦しめてまで無理をして、俺と身体を重ねたがるのか訳が分からなかった。そこまでする価値もないというのに。
 痛みで技の集中も途切れているのか、四肢に結ばれている草の拘束力が落ちていた。今なら思い切り動かすことで草が引きちぎれそうである。そうしたらこのままメガニウムを押し倒して攻守を逆転する事も出来る。
 しかし俺はそこまでしたくはなかった。俺はただ苦しむメガニウムの姿を見ていられなかったからだ。だから俺はメガニウムに言ってやる。
「そんなに、無理をしなくても……」
「なに、私に情けをかけるつもり? バクフーンは大人しく私にやられてなさいよ」
 しかし当のメガニウムは俺の心配なんてお節介だと言わんばかりに意地を張り続ける。たとえどんなに自分の身体に負担が掛かっていようとも。それだけ俺に対して絶対的な優位に立ちたいという彼女の気持ちが現れていた。
「犯しているんだろ? だったらそんな顔なんかするな。見てるこっちが辛くなる」
 ならば俺は、メガニウムが澄ました顔をして欲しかった。会った時みたいに小馬鹿にして、やり始めた時にはからかってくれたように。
 そんなに苦しそうな顔をされたら妙な情が移ってしまう。否、もう手遅れであった。
 俺の手は草結びから逃れてメガニウムの胴体へと触れる。そしてぎゅっとメガニウムの身体を抱いては流れのままに彼女の口に自身の口を重ねた。
 突然の口付けにメガニウムは酷く驚いたようであった。だが、メガニウムは抵抗する事もなく素直にうっとりと微睡むように瞼を閉じていく。そうしてメガニウムは侵入してきた俺の舌先と自分の舌先とを触れ合わせた。
 俺は執拗にメガニウムの舌へ自分の舌を絡ませていく。それも熱をもった自分の舌でメガニウムの舌を火傷させる勢いで。舌と舌とが絡み合う内に自分の唾液とメガニウムの唾液が混ざり合っていく。
 口を重ねてから時間が経つにつれて、呼吸を忘れていた所為もあって段々と息が苦しくなっていく。そしてとうとう俺はメガニウムから口を離した。すると、口と口との間に最早誰のものか分からない唾液が糸を引いた。吐息だけが口から溢れて無言の間が続く。メガニウムの息が俺に降りかかってくる。その間、彼女の息にこもっている熱を俺は感じていた。
 しかしメガニウムの口から息だけではなく言葉が発せられて沈黙の間は破られた。
「まさかバクフーンに心配されるなんてね……」
 メガニウムからしてみれば強引に番になるように要求された俺から口づけをされるなんて考えてもいなかったであろう。それは俺も同じであった。どうして今日この日に初めて逢った奴と躊躇うことなく口を重ねたか分からない。
 でもこれだけは確かだった。俺の胸の奥で心が燃え盛っているのが。
 メガニウムを抱いていた手が蔓によって地面へとそっと払い除けられた。そして再び、俺の手はメガニウムの草結びによって自由を奪われた。その事は、メガニウムがすっかり元の調子に戻った証拠であった。
「バクフーンのお陰で気が紛れたわ。でもここから先は私の番だから」
 先まで萎縮してたというのに強気に言うメガニウム。そう言われた俺は、安心感を覚えるのと同時に心の中で微笑んだ。メガニウムがすっかり本調子に戻ってくれたようであったから。
 メガニウムが腰を沈めるのを再開する。自分の雌しべに肉棒を飲み込ませる為に。はたまた、牡の種子を貪るが為に。
 口を重ねた甲斐があったのかどうかは知らないが、俺の身体の上で跳ねるメガニウムの顔が幾分か楽そうになっていた。少なくとも、雌しべに肉棒を入れた当初と比べれば大分顔色が良かった。寧ろ恍惚としている表情になっていた。
「はあ、ああ、いぃ、バクフーンのが」
 そうしてメガニウムの口から甘ったるい嬌声が出るようになる。それだけでは留まらず、メガニウムの花弁から頭がくらくらしそうな程の匂いが妖しく薫る。この匂いはメガニウムの心情を露呈していると言っても過言ではなかった。
 愛蜜で熟れきった雌しべが肉棒を幾度となく飲み込む。肉壁と肉棒が擦れるのもぎこちなさが無くなって滑らかになっていた。
 その所為か、メガニウムが腰を動かすのが速くなっていく。それに伴ってぐちゅぐちゅと蜜壺で愛蜜と透明液がかき混ぜられる音が大きくなっていく。なにも五月蝿くなるのは音だけではなかった。俺とメガニウムの喘ぎ声でさえも同じ事が言えた。肉棒が蜜壺の底を刺激する間隔が短くなった事によって、身体を駆け巡る快感が先よりも激しくなってしまったのだから
 こんなにも叫び声をあげて、卑猥な音を奏でているというのに誰も来る気配は無かった。すっかりこの森は俺とメガニウムで占有してるような気分であった。まるでここだけが世界から隔絶されてしまったかのように。
「ねえ、ちょうだい、バクフーンのたねを……」
 メガニウムが俺の頬に自分の頬を擦り寄せてはそう言う。行動は可愛らしいというのに、それに伴った言葉はとんでもないものである。どうせ俺が拒絶しても搾り取るというのに。
「……やけどしてもしらないぞ」
 やけどなんてさせる気なんて無いが俺は悪戯げに忠告してみた。それを聞いてはメガニウムはにこりと頬を緩ませて返した。
「ふふ、わたしをもやすつもりなのね? だったらそうしてみなさいよ」
 燃えたら自分の身が危険になるというのにこの上から目線。出会った時もそうであったがこの自信は一体何処から来ているのやら。俺が知る由も無い中、行為は終わりへと近付くにつれて激しさを増していく。
 俺の肉棒が彼女の肉壁によって締め付けられる。メガニウムの身体が、早く種をばら蒔けと訴えているのだ。
 俺はもう我慢の限界であった。メガニウムの体内ではなくて外にぶちまけようとしても身体は草によって縛られて動かない。ましてやそんな事をしたらメガニウムが赦さないであろう。最早、俺には選択肢なんて無かった。あるとしたら決め付けられた結末だけだ。
「ばくふぅん、ばくふーんっ……」
 俺を求めるながら、メガニウムが汗を飛び散らせながらも身体を動かしては俺の肉棒を刺激する。俺の背中も滴る汗がべっとりと付いており、地面に落ちている桜の花弁が纏わり付いていた。
 メガニウムにそう言われなくとも俺が果てるのは秒読みであった。そしてメガニウムが肉棒を一気に沈めては蜜壺の底を刺激させるという止めの一撃を俺にお見舞いした。
「あああぁっ!」
「くあああっ!」
 森に断末魔のような叫びが響き渡る。それと同じくして俺とメガニウムの全身にはこれ以上はない程の快感が駆け巡った。ふたりしてぴくぴくと産まれたばかりの赤子のように身体を震わせながらその快感を堪能する。
 二度目の絶頂というのにも拘わらず、肉棒からは凄まじい勢いで白濁液が噴出されていった。そして吐き出された白濁液はメガニウムの望みを叶えていく。蜜壺に溢れんばかりに注がれては白濁液を満たしていった。そうしてやはりメガニウムの雌しべから俺の白濁液が漏れ始めて身体を汚していった。
 果てた後の所為もあってか頭がぼうっとしていた。風邪ではないというものの、身体の火照りがどうも収まりそうになかった。まるで俺の身体が燃えてるような感覚に陥る。
 メガニウムに至っては俺の何倍もそう感じているであろう。彼女の中にはたった今、白濁液が注がれたのであるから。熱い白濁液は彼女を内側から燃やそうとしているに感じるであろう。
 メガニウムも俺も互いの口からはぜえぜえと息を切らす音が漏れていた。絶頂を迎えた代償として体力消耗は避けられなかった。快感が走り渡って心地好い感覚に満ちていた身体も、時間が経つにつれて重たくなっていた。
 メガニウムはふらふらと足をふらつかせていたのだが、やがて疲れに堪えきれずに俺の身体へとのし掛かかってきた。草に手を結ばれて受け止めるのも出来ない俺は、メガニウムの身体を全身で受け止める羽目になった。その際にメガニウムの身体が俺のお腹を圧迫してきて、ただでさえ苦しい息遣いは更に酷くなって俺はむせてしまう。
 大方、予想はしていたがメガニウムの身体は重たかった。しかしそんな事は口が裂けても言えない。彼女の身体が重たいのもあって、その重みで身体と身体が同士がぴったりと張り付く。まるでべったりと抱いているような感覚に陥る。
 互いの息が整うまでの間、俺とメガニウムは身体を重ね続ける。ぼんやりとしていた彼女の眼に色が戻る頃合いには呼吸も整っていた。そしてメガニウムが俺に向かって言う。
「バクフーンのがお腹の中で燃えてる……」
 うわ言のようにメガニウムは呟いた。そうして蔓を取り出しては自分のお腹のを擦る。それも優しく愛しげに。
 俺はこれで良かったのか分からなかった。メガニウムに翻弄されるがままに最後まで付き合ってしまって、もう取り返しがつかないとは承知しているのだけども。メガニウムの雌しべからは行き場を失った白濁液が溢れては俺の身体を伝って地面に向かって垂れているのが、番になった何よりも証拠であった。
「ねえ、私の事、どう想う?」
 無言の間を埋め合わせるかのごとく、メガニウムが唐突に訊ねてきた。その質問に俺は素っ気なくこう答えた。
「……さあな」
 実際、俺はメガニウムに好意を抱いているのか判断に困っていた。好きとは即座に言えないし、その反対の言葉も口には出来なかった。ただ言えるのはメガニウムはとても寂しい奴なんだという事だった。魔女の薄ら笑いを浮かべられるくせに、時折見せる牝の顔がそれを表していた。
 あの時、何も取り繕ってない彼女の本当の笑顔が俺の脳裏に過る。メガニウムって心から呼んだ時の彼女が。
 これはあくまでも憶測に過ぎないが、メガニウムはきっと独りなのだろう。どこの花畑にも咲かないで、ぽつんと野原で孤高に咲き誇る一輪の花なのだ。どういった事情でそうなったのかは知らないが。本当の事はメガニウムから語られない限り、俺は知る由もない。
 俺の返事を受けてメガニウムは端的に、そっか、と呟いた。それ以上は何も言おうとはしなかった。俺の頬に自分の頬を擦り寄せているので、その時の彼女の顔は泣いてるのか笑ってるのかも分からなかった。
「……でも、散々俺を巻き込んだんだからその責任は取ってもらうからな」
 強引とはいってもメガニウムと身体を委ねあってしまったのは事実であるし、白濁液も蜜壺へ注いでしまった責任が俺にある。それに俺はいつのまにかこの花に興味を持っていた。
 俺が燃やす事の出来ない花。否、俺にある感情を燃え上がらせた花。
 それはメガニウムである彼女自身だった。彼女が火付け役となっていたのだ。彼女が言っていたやれば分かるという策にまんまとはまっていると言っても過言ではないのだが、実際にそうなのだから。
 俺の言葉を聞いて、頬を当てていた彼女が顔を俺の目の前へと移す。そして彼女は鼻で笑いながら言ってくる。
「責任を取れって、取るのは貴方でしょ? 私を中から燃やすなんて」
 そう言うと彼女は自分自身のお腹を擦っていた蔓を胸へと押し当てた。そしてもう片方の蔓を俺の胸へと当ててきた。彼女の黄色い瞳が俺の紅い瞳をじっと見据えてきてはこう言う。
「……最初は成り行きに任せて満足出来れば良いと思ってた。だけどまだもえてるのよ」
 そして自分の胸に当てていた蔓に更に力を加えては食い込ませる。俺の胸に押し当てられた蔓にも力を加え始めては圧迫させてくる。
 もえてるのは俺だってそうだ。
 身体の火照りも収まらない。心臓だってどぎまぎするくらいに高鳴っている。この胸の鼓動だって、蔓を通して彼女に伝わってる筈だ。
「メガニウム」
 俺は彼女を呼んだ。最初に呼んだ時よりも、二回目に呼んだ時よりもまごころを込めながら。
 だが彼女は首を横に振った。嬉しそうに笑ってはいたが、当の彼女が満足するにはまだまだ至らないようであった。
「名前だけじゃだめ」
 そう彼女が言うなり、ゆっくりと瞼を閉じた。そうして口を俺の方へと寄せてくる。しかし、寸前のところで彼女の口は止まった。縛られているとはいえ、俺の首を動かして口が届く範囲内に彼女の口があった。
 先程まで強引にしてきたというのに今更俺がしてくれるのを求めてくる彼女。
 気持ちを込めてとか、名前だけじゃ駄目とか、いちいち世話の掛かる奴だな、と俺は思ってしまう。それでも俺は結局彼女の要求を応えてしまうのだ。
 俺は口を彼女の口に当てては、舌と舌とが熱で蕩けるくらいに絡ませていく。
 俺はあついくちづけをしながら彼女を眺める。眼を瞑っていても愉しそうな表情を浮かべている彼女。そんな彼女から俺の視線は釘付けになっている。
 気付けば、あんなに夢中で眺めていた儚く散る桜の花よりも、俺の瞳には鮮やかに映っていた。


原稿用紙(20×20) 56.85 枚
総文字数 19890 文字
行数 313 行
台詞:地の文 1862文字:18028文字



後書き
大会に参加した作者様、大会を運営してくださった管理人様、本当にお疲れ様でした。
前大会終わってから1ヶ月後ぐらいにこの作品を書いていましたが、なかなか終わらせられずに今大会で投下という形になりました。
御三家CPでバクフーン×メガニウムはお気に入りです。お気に入りなので今回書かせて頂きました。炎タイプだから有利な筈なのにメガニウムにあれこれ言われて断れないヘタレフーンとかかなりの好物です(
この度は自作を読んで頂き有難うございました。また、投票してくださった方は自分に貴重な一票を投じて頂き、本当に感謝します。
以下は投票の際に頂いた感想に対する返信となります。

メガニウムの魔女っぷりとそれとの大きなギャップの描写に興h・・・じゃなくて、素晴らしかったので1票です。 (2013/04/01(月) 09:46)
魔女と見せ掛けといて意外と…。強がりなのが彼女の性格ですね。興奮して下さったようで嬉しいです。


  (2013/04/04(木) 15:23)
投票して頂き有難うございます。

メガニウムはきっと前からバクフーンを知っていたんでしょうかね。
しかし思惑通り目の前の桜よりもメガニウムの甘美な花に目を奪わせることが出来たわけで。
色々な意味で楽しめました。ありがとうございます。 (2013/04/05(金) 06:30)
知り合いなのかそうでないか明確に書こうと思いましたが結局今の曖昧な形に落ち着きました。
ええ、バクフーンにはメガニウムに堕ちてもらいました(
こちらこそ自作を読んで、楽しんで頂き有難うございました。


メガバク可愛いです(´ω`) (2013/04/05(金) 20:59)
可愛いですよねー(
メガバクって割と有名なCPな気がするのですが、なかなか作品が無いので書かせて頂きました。


嫌がっていたはずなのにあっさり堕ちていくバクフーンが美味しすぎました。処女説を疑わせながら手慣れたメガニウムが最高すぎて。 (2013/04/06(土) 19:49)
バクフーンにはメガニウムの被害者になってもらいました(
メガニウムは終止手慣れた様子を見せ付けていましたが実際はバクフーンと同じ立場だったという。
美味しく頂いて下さったようで何よりです。


素直になれないメガニウムがよかったです (2013/04/06(土) 22:21)
バクフーンにべったべたでも良かったのですが、それだと自作で書いたもう一匹のメガニウムと被るのでこんな性格になりました。
良かったのならこちらとしても嬉しいです。


春にぴったりのお話だったと思います。
気まぐれに変化する春独特の天候を思わせる、そんな二匹の関係がよく表れていてよかったです。 (2013/04/07(日) 16:27)
執筆を放置してましたので気付いたらこの時期になってしまったという(
二匹の関係と春の気候に関しては特に気を遣っていませんでしたが、そういう風に捉えてくださるとは。


二匹の描写が読みやすかったです! (2013/04/13(土) 00:47)
読みやすかったのならこちらとしても幸いです。


割と淡々としていながらそれでいて濃厚な官能シーン。
タイトルとのつながりも上手いなと思わされました。 (2013/04/14(日) 17:51)
官能描写が濃厚と言って頂いて有難うございます。
タイトルに関してははかなり難産でしたがある日ぱっと思いついて今のものに決まりました。タイトルが決まってから中身に後付けの形として繋がりを持たせました。『花』はメガニウム、『もえる』はバクフーンを表しています。ですが、『もえる』は燃えると萌えるの掛詞になってます。


メガニウム好きなので一票! (2013/04/14(日) 23:37)
メガニウムは御三家でもマイナーな部類に入ってしまいがちですが、可愛いですよね。
一票を入れていただき有難うございます。


10名の方々、感想やコメントを下さって有難うございました。また、自作に投票して頂き感謝します。

作品に対する感想、コメントがあればご自由にどうぞ。




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Last-modified: 2013-03-24 (日) 00:00:00
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