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このSSには以下の成分が含まれます。性癖は用法用量を守って美味しくお召し上がりください。
・ベトベトン×サーナイト
・ポケモンが文化圏を築いている世界線
・一部シリアスまたは暗いシーンに該当する可能性のある描写
・左右と性別の指定なし
・初見読み飛ばし推奨なほど長い幕間小話
・その他、人により地雷になる可能性のある色々
以上、お口に合いそうでしたらそのままこちらを、そうでなければ他の方の素敵な作品を楽しんでくださいませ。
自由を奪われた王女様
作者:Van!ris
頭がぼーっとする。起きなきゃいけないのに。
……寝過ごしてしまったのかな? いや、そんなことはあり得ないのだけど。
違和感だらけのまま、ゆっくりと五感も目を覚ます。
身体が軋むように痛い。凍えるように寒い。鼻を突く酷い臭い。瞼を開けども広がる暗闇。
……少なくとも、自分が寝ていたはずの部屋、いつものベッドの上で無いことは確かだ。
「ここは、どこ? ……うっ」
周囲の確認と、身体を起こすためにねんりきに集中する……が、激しい頭痛に襲われ、中断させられる。
無理をすれば集中できないことも無いだろうが、やめた。
諦めて直接手を伸ばして身体を起こす。サイコパワーに頼らない身体はあまりにも重く、けだるかった。
なんとか冷たい石壁にもたれかかる位まで来たところで、ちょうど小窓から明かりが差し込み、やっと辺りを伺うことが出来るようになった。
石造りの小さな部屋。鉄格子と鍵のかかった扉。向かいの天井近くに、月の見える小さな小窓が一つ。それから自らの首と壁とを繋ぐ枷。
最後に、木の皿に乗せられた大きな赤いきのみが一つ。……それしかない、狭くみすぼらしい部屋だった。
寒さに身を震わせながら、自分の置かれた状況を整理する。
まずこの部屋は、どこかの牢屋らしい。まだ満月に少し足りない月の満ち具合と空腹感から見ると、昨晩寝てから少なくとも丸一日は経っているはず。
つまり、私は誘拐されたのだ。ねむりごなか何かで眠り込んでいる間にここまで連れ去られ、わざを使えないように弱らされて閉じ込められたと。
そして、部屋に充満する刺激臭が今もこの身を徐々に蝕んでいるだろうとも。
不意に、頭の中に声が浮かぶ。
『私達は、常に勝者でなければならない』
この身の自由を縛る首枷を捻じ切り、石壁を壊して逃げ出すことなど造作もない。なんなら、このような狼藉を働いた者どもに直接手を下してやってから
国に戻ってもいい。いや、そうしなければならない。ただ逃げ出して終わりなどということが許されるはずもない。
何故なら私は、次期女王なのだから。
聞きたくない声だった、考えたくない案だった。……気が進まない。とはいえ、このまま牢に繋がれたままでいたとして、結末は用意に想像がつく。
どちらも選べないまま、気を逸らせそうなものを探し……
目の前のきのみに視線が行った。赤く、つやつやしていて、トゲが特徴的なおおきなみ。
ためしに手に取ろうとして、再び声が浮かぶ。今度は別の者。
『王女たるもの、食事マナーも完璧でなければいけません』
そうだ。道具も使わず手づかみしようなんて。ましてや、生のきのみを丸かじりしようなど有り得ない。
……そんなことを言われたって。
ここにはナイフもフォークも何もない。お腹は空いてきているし、他に食べ物は無い。浮かぶ声も空腹には逆らえない。
首を振って、声から逃げるようにきのみに噛り付いた。
とたん、口の中に痛いほど強烈な刺激が広がる。香辛料をそのまま噛んでしまったかのような辛さが、かじりついたきのみから溢れる。
焼けるような熱さが喉からお腹へ、全身へ巡る。
……でも、嫌いな味じゃない。いつだったか食べさせられた、イアのみのデザートなんてものの方がよっぽどポケモンが食べるものじゃないと思う。
巡る熱さははほどなく、ぽかぽかとした暖かさへと変わり、寒さを和らげてくれる。
口内の痛みが収まるたび、一口、もう一口。気が付けば、きのみは全て無くなっていた。
「ごちそうさまでした」
一言。誰に言うでもなく、呟いた。
生のきのみも、もしかしたらそんなに悪いものではないのかもしれない。
食べ終えたからには今度こそ、考えなくちゃいけないことも、やらなくちゃいけないことも沢山あるはず、なのだけれど。
まだもう少しだけ目を逸らしたままで居たかった。そんな風に思うだなんて、毒で思考も鈍りつつあるのかもしれない。まだ何か時間を稼げるものは……
ぼたり。
今度は幻聴じゃない。何か粘着質な液体が滴る音。
見ると、天井の石の隙間から毒々しい色をしたヘドロがもったりと垂れ落ちて来ている。身体の脇、少し手を伸ばせば届いてしまう場所に、
ゆっくりとヘドロ溜まりを作り始めていた。幸か不幸か、ここに来てから毒に晒され続けていた嗅覚は、これを不快なものとは認識しないでいてくれた。
何を思ったか、何も考えないまま。そっと手を伸ばし、指先で触れる。とても柔らかく、暖かいものに指が包まれた。
ピリピリと痺れるような毒の刺激が心地いい。凍えるような部屋で、指先だけは暖かさを感じられる。
また、声が浮かぶ。
『そんなはしたないことを! あなたにはもっと王女としての自覚をもって頂かなければなりません!』
……今度の声は気にならなかった。それどころか、自分が今猛毒に触れているという危機感すら、どうでもいいことのように思えてきた。
そのまま両手をヘドロの中へ沈める。
白く細い手は分厚いヘドロに包まれ、光沢のある紫のグローブをはめたようになっていた。
とても暖かく、温もりすら感じられる。
今度は、かじかんでいた足に手を伸ばす。
どろり。粘液が足先を包むと同時にゾクゾクとした感覚が背筋を駆け、身震いをする。
時々溜まっているヘドロをすくい直して、同じように足にも紫の靴下を履かせていく。冷え切っていた足も温もりに包まれて、心地いい。
「そうだ、お腹を冷やすのも良くないよね……」
自分に言い訳するように、誰かを言いくるめるように、呟く。
お腹にもヘドロを塗りたくっていく。
気づけば手足はすっかり紫の粘液に、温かさに包まれていた。
もう、寒さに凍える心配もない。身体に回る痺れるような感覚に身を任せ、微睡みの中へ意識を手放した……
崩れた石畳の街道。ボロボロになった、かつて家だったのであろう瓦礫の山の廃墟。
いくらかは修理され、今は復興が進みつつある様子。
その中に大きな建物一つ。
集まっていたのは沢山の小さなポケモン達。種族はおろか、タイプもバラバラ。しかし、お互いに争うような事も無く、
仲良くそろって視線を一カ所に集めていました。
期待の向けられた先には語り部が一匹。水色の綺麗な髪のサーナイト。それに応えるようにゆっくりを口を開きます。
「今日は少し、昔話をしようか」
むかしむかし。この大陸には、とても大きな帝国がありました。
そこにはエスパータイプのポケモンだけが住み、それはそれは栄えていたそうな。
けれど、その帝国は独裁的な排他主義国でした。
その国で最も強い雌のポケモンが女王として君臨し、エスパータイプを至上とし、そうでないポケモンは徹底的に排除していたのです。
多くの国や町が滅ぼされていきました。滅亡を免れた国も、隷属化を余儀なくされていました。
そんな女王には娘が一匹おりました。その娘は、世にも珍しい色違いの姿をしていました。そして、色違いの娘は次期女王となるため、
王女としてとても厳しく育てられていきました。
やはり女王の娘というだけあってとても強く、進化を終えたころにはもう、国で彼女に敵うポケモンは女王以外にはいないと言われるほどでした。
このまま大陸の全てを支配すると思われていた帝国でしたが、永遠に繁栄が続くことはありません。
ある日、女王は病に倒れてしまいました。
どんなに強いポケモンであっても、病にまで無敵にはなれません。そして、床に伏した女王は、……二度と目を覚ます事はありませんでした。
不治の病だったとも、暗殺だとも、様々な憶測が流れましたが、真相はわかりません。なにしろ、原因に心当たりがありすぎるのですから。
女王が亡くなったと聞いて帝国中はあっという間に大混乱になりました。それを鎮めるため、大慌てで王女の女王即位の儀の準備がはじまります。
ところが、帝国を襲う事件は続きます。なんと、この混乱に乗じて、王女様が何者かに攫われてしまったのです。
「……! それからそれから?」
「その後、帝国の者によって国がまた一つ、滅びを迎えました」
「王女様を攫った国、滅ぼされちゃったの?」
「うーん、それはね……」
子供たちは話に聞き入っていました。
語り部が言葉を続けようとした時、声がかかりました。
「アンタ! いつまで話続けてるのさ、もう夕飯の時間だよ、仕上げを手伝っておくれ!」
「ごめんよディア、今行くから! ……皆、この話の続きはまた今度にしようか」
「えー、仕方ないなぁ。でも、パパとママ、本当に仲良しだよね!」
「もちろん、僕はディアを愛しているもの」
「なっ、バカな事言ってないでさっさと来ておくれ!」
ディアの声に呼ばれ、語り部は去って行きます。
同じように、子供たちもまたそれぞれの家へと。
それは、昔話の内容とは無縁な、とても平和な光景でした。
「姉貴ー! 交代と報告の時間っすー!」
「あぁ。あの王女の様子はどうだい?」
「さっき目を覚ましたみたいですが、逃げ出すそぶりも無く、マトマのみだけ食べてそのままヘドロに埋もれて気を失ったようですぜ。
いくら王女といえど、姉貴の毒にやられちゃぁひとたまりもないっすよ!」
「そうかい。見張り番ご苦労だったね、戻っていいよ。後はアタシが直接行くからね」
「あいさー!」
ペルナ王女誘拐計画。まさかここまで順調に事が運ぶとは思っていなかったが、ようやく積年の恨みを晴らせる時が来たのだ。
女王亡き今、残った王女さえ片づけてしまえばあの国を落とすのも時間の問題となる。その上、見せしめに王女の無残な姿を見せつけてやれば、
奴らの士気は下がり、故郷の国を滅ぼされたアタシや仲間達の溜飲も下がるだろう。
あの王女をどんな風に嬲ってやろうか考えながら、ヘドロを纏った身体を引きずり牢へと足を運ぶ。鉄格子の隙間を通り抜けてみれば、
確かにそこには王女の姿があった。
ところがそれは、驚くほど無防備に心地よさそうな寝息を立てているではないか。
「こんなのんきに眠りこけているだなんて……。コイツが本当にあの女王の娘なのかい?」
自身の気配に感づかれないよう細心の注意を払いつつ、寝顔を覗き込む。
ヘドロにまみれたその身体は白く細く、丸みを帯びた輪郭は溶け消えてしまいそうな儚ささえ感じる。
……そして、他の個体と違う水色の髪とより濃く鮮やかな胸元のプレートは、確かに話に聞く王女のそれだった。
「確かに本物だね。……それにしても」
安らかに寝息を立てるその姿を、美しいと思ってしまった。この白い肌を全て自分で染め上げてやりたいとも。……あの女王の、仇の子だというのに。
そっと頬に手を伸ばし、なぞる。べったりとヘドロが残り、滴る。ゆっくりと自分のヘドロにまみれ染められていく姿に、えも知れぬ快感を覚えた。
なるほど確かに。そもそも立場や性別の問題さえなければ、種族的には子を成せる関係なのだ。それなら、特別な感情を抱く事もなんらおかしい事じゃない。
このまま手籠めにするのも悪くないなと考え始めていると……、王女と目が合ってしまった。透き通るような橙の瞳が、まっすぐこちらを見つめていた。
マズい、起こしてしまった。いくら弱らせたとはいえ、ここでわざを使われては面倒だ。
「王女様、よく眠れたかい? 早速で悪いけど、戦闘不能になってもらおうかね」
身構え、先手を打って毒を流そうとするが、返って来たのは全く気の抜けた返事だった。
「このヘドロ……毒は、あなたのわざ? あなたが私をここへ連れて来たの?」
「あぁ、アタシ達がアンタを攫ってやったのさ」
「私を攫って、どうするつもり?」
「決まってるだろう? アンタを嬲り殺しにして、王女の無残な姿を国中に見せしめにしてやるのさ。
女王はもういないんだ、後はアンタさえ葬っちまえば、あの国も崩壊するだろうよ」
ここまで話しても抵抗したり逃げ出そうとするそぶりはなく、あっけにとられる。
呆然として返事をしないその姿は、毒にやられて既に心が折れてしまっているのか、あるいは……。
いずれにせよ、抵抗されないのは面倒が無くていい。このまま弄んでやろう。
「けど、その前に少し楽しませてもらおうじゃないか」
「え? それってどうい……むぐっ!?」
のしかかり抑え込み、そのまま口付け。毒を流し込むには口から飲ませるのが一番てっとりばやい。ゆっくり、たっぷりと猛毒の唾液を口移しで流し込む。
「ん、むっ! ~~~!!?」
口を塞がれ、くぐもった苦しそうなうめき声が聞こえる。引きはがそうとしているのか、細く非力な腕が、身体の中でもがいてかきまわそうとしてくる。
そんな抵抗に劣情を煽られる。このまま殺すには惜しい、自分のモノにしてやりたいと、欲が溢れる。
一度口を離し、宣言する。……息を求めて荒い呼吸を繰り返す姿に、余計に興奮を煽られながら。
「決めた。アンタをペルナにしてやる。ペルナ王女でも、次期女王でもなく、その地位もプライドも全部塗りつぶして、
ただのペルナという一匹のポケモンとして、アタシのモノにしてやる」
「私が……王女でなく?」
「そうさ、アンタに王女なんて立場は似合わない。アタシが奪い去ってやる」
「……私は、王女じゃなくても……いい……の……?」
どこか噛み合わない返事を返すペルナの目には、涙が浮かんでいた。
同時に、包み込んでいたペルナの下腹から違和感を感じた。ソレは、王女には決して有りないモノ。雄の象徴。
なるほど、ようやく合点がいった。これまで王女が表舞台に出てこなかったのも、攫ってからペルナが抵抗する様子がなかったのも辻褄が合う。
彼女、いや彼は、女王のたった一人の子として、次期女王にするために無理矢理王女として育てられてきたのか。あの女王はアタシ達だけでなく、
自分の子からでさえも自由を奪いあげていたのだ。だとすれば、彼は仇の子どころか、アタシ達と同じ奪われた側じゃないか。
なら、もはや面倒な理由など必要ない。
「もう一度だけ言うわ。アタシの、このディアのモノになりなさい、ペルナ」
「ディア、……ディア。私……、ううん。僕は、ディアのモノになる」
数回、確かめるように名前を反復してから、彼は飛び込むように抱きついて来た。
バキッ。
伸びきった首枷の鎖は捻じ切られ、彼の身体が深く深く沈み込んでくる。
どうして、お前は雌でなかったのか。どうして。
これでは私の跡を継げないではないか。
……いや、これでも構わない。お前を王女にすればいいだけの話ではないか。
お前は王女であり、次期女王であり、私の跡を継ぎ全ての上に立つ者。それ以外の何者でもない。
ペルソナ、永遠に女王の仮面を被りつづけよ。
夢を見ていた。私を王女として縛りつける者達。生まれた時から、僕に自由は無かった。僕は、王女でなければならなかった。
僕は、私で居なければならなかった。
夢と現実が混ざり合った意識の中。
何か、温かいものが頬に触れた。優しく包んでくれるような感覚。
あぁ、抱きしめてもらえるって、こんな感じなのかな……。
目の前に、今にものしかかってくるんじゃないかと思うほど近くに、紫のヘドロで形成された姿。何か話しかけてきているようだが、
寝起きと毒で回らない頭は上手く聞き取ってはくれなかった。けど、誰なのかは予想がついた。
そっか、この暖かさはあなたの……。
「このヘドロ……毒は、あなたのわざ? あなたが私をここへ連れて来たの?」
「あぁ、アタシ達がアンタを攫ってやったのさ」
「私を攫って、どうするつもり?」
「決まってるだろう? アンタを嬲り殺しにして、王女の無残な姿を国中に見せしめにしてやるのさ。
女王はもういないんだ、後はアンタさえ葬っちまえば、あの国も崩壊するだろうよ」
……そう、だよね。なんのために誘拐されたかなんてわかってたのに。母上……女王がやってきた事を考えれば、当然の報いだ。
そして、私が王女ならば、この報いは私も受け入れなければならないものなのだろう。
仕方ない、よね。私は王女なのだから。
「けど、その前に少し楽しませてもらおうじゃないか」
「え? それってどうい……むぐっ!?」
聞き返す間もなく、口を塞がれる。足元からゆっくりと、べったりとしたヘドロの体液に覆われていく。ねっとりと重たく、温かい感触に包まれる。
今まで一度もキスなんてしたことのない口に、猛毒の唾液の刺激はあまりに強すぎた。乱暴に口内を犯され、流し込まれるままに唾液を飲み干す。
とたん、身体が熱く火照りだす。
「ん、むっ! ~~~!!?」
身体が酸素を求めるが、塞がれたままの口からはうめき声が漏れるだけ。
苦しさと薄れる意識のまま、無我夢中で手を伸ばす。粘着質な彼女の身体は、どれだけ押し込もうとも変わらず両腕を包み込んで放してくれない。
もう限界、と意識を手放しかけたとき、やっと口を放してもらえた。
身体が夢中で酸素を求める。口の中一杯に広がる毒のかほりを吸い込む。
そして、次に紡がれた言葉は……あまりにも予想外なものだった。
「決めた。アンタをペルナにしてやる。ペルナ王女でも、次期女王でもなく、その地位もプライドも全部塗りつぶして、
ただのペルナという一匹のポケモンとして、アタシのモノにしてやる」
「私が……王女でなく?」
未だかつて、私の事を王女として扱わなかった者がいただろうか?
それどころか、ペルナと、直接名を呼ばれるだなんて。
あぁ、私が王女でなければならないだなんて、いったい誰が証明できたのだろう。
あなたが、私が王女でなくてもいいと、言い切ってくれるのなら。
もはや他に声なんか浮かんでは来ない。今なら、彼女の声を素直に聞き入れられる。
「そうさ、アンタに王女なんて立場は似合わない。アタシが奪い去ってやる」
「……私は、王女じゃなくても……いい……の……?」
私は……いや、僕は。ペルナとして、あなたに全て奪い去られてもいい。
あの国から、王女と言う枷から、あなたのモノという自由へ解き放たれたい。
もう縛られなくたっていいんだ。
気が付けば、溢れる情動のままに頬を涙が伝っていた。
同時に、今まで抑え込みつづけていた欲もまた。それは、王女としてあってはならない欲求。
しかし、その枷さえ無くなってしまえば、彼もまた年頃の雄に過ぎず。一度溢れてしまえば、もはやそれを止める理性はとっくに毒に冒されどこにもおらず。
毒の熱に浮かされた思考はただただ、目の前の自身を救ってくれた素敵な彼女に思いの丈を全てぶつけることしか考えられない。
「もう一度だけ言うわ。アタシの、このディアのモノになりなさい、ペルナ」
「ディア、……ディア。私……、ううん。僕は、ディアのモノになる」
ディア。あなたはディアって言うんだね。僕を奪い去って、自由にしてくれる、あなたの名前は。
畳みかけられる言葉に、僕はこのまま彼女のモノに、彼女に溺れる事を受け入れる。
愛おしいその身を、包まれる温かさを少しでも多く感じたくて、身体を起こして手を伸ばす。……が、壁とを繋ぐ首枷の鎖がクンと首をひっぱってきた。
なんだ。まだ、僕を縛るものがあるというの?
この程度の鎖、わざに意識を集中させるまでもない。軽いねんりきひとつ。
バキッ
僕の自由を奪うものは、もう何も無くなった。
どろり……ぐちゅ、にちっ……
二匹だけの石の牢に、粘着質な水音が響く。
欲に溺れるそれを、止めるものはもう何もない。
「ディア……僕なんだかすごく、心地いいんだ」
「あぁ、そのままアタシの中へもっと沈んで、身を預けておいで」
腕を、足を、首を、お腹を、反り立つ雄をも。少しの隙間も無く重たい粘液がねっとりと絡みついてくる。
抱きしめられるどころではない、熱く全身を抱擁される。
そのあまりの粘度に身動きはとれず、強烈な圧迫感に、息苦しささえ感じるほどで。
けれどもそれは、己の欲を引きずり出してくれる、欲に溺れさせてくれる、解放の手。
初めての快楽に、抗えない欲に流されるまま、ゆっくりと手を伸ばす。
にゅぷり。指の隙間を粘液がなぞる。ぞくり、背筋を快感が駆け、身体が跳ねる。ぬちゅり、当然、全身が粘液に擦り上げられる。
「ひ、ぁ♡ なに、これ……!?」
「ふふ、そんな声で鳴いてくれるだなんて、そそるじゃないか♪ もっと聴かせておくれ……♪」
その言葉と同時に圧迫が強くなる。強力な粘液拘束に締め付けられる。それなのに、蠢く粘液はぬじゅり、ぐちょりと激しく、しかしやさしく身体を愛撫してくる。
びくりと身体が跳ねれば、粘液に愛撫され、声が漏れる。
そして、再び唇を重ねられる。流し込まれる毒は身体を蝕む危険なもの。でも今は、その毒にもっと溺れていたかった。
口を塞がれ、代わりに鼻が酸素を求める。
超至近距離から放たれる毒ガスは、粘膜すら犯し、全身に痺れる快感と脱力をもたらす。もちろんそれでは息は足りず、
快感に漏れる喘ぎによってさらに酸素は吐き出され、徐々に意識もフラついてくる。
溢れる喘ぎは止められず、快楽を求める身体は彼女の粘液の身体をなぞり、腰は粘液をかき分けるように、勝手に振られて、雄を押し込まされる。
「はっはっ♡ も、ダメ……おかしくなっちゃいそう……このまま、ぐちゃぐちゃにして……♡」
「あぁもう、そんなに煽ってくるだなんて。アタシが我慢出来なくなっちまうよ……」
不意に、下腹に粘液とは違う形のある感触。
ぐっぷり、雄が咥え込まれ、さらに濃厚な粘着液に絡みつかれる。
耐えきれず腰を引けば、ねばつく粘着液に引き戻され、ずっぷり、より深く吸い付かれる。
「交尾、いくらなんでも言葉ぐらいは知ってるだろう? このまま、アタシと交わろう……♪」
ディアの中の雌が、迎えた雄を貪欲に歓迎する。
ぐっちゅり、にちゅり、どろっどろのねばねばにまみれ、染められる。
思考も快楽に侵食されていく。視界がぼやけ、嗅覚は痺れ、全身が快感に包まれる。
「ぁ、あ♡ ディア♡ 気持ちいいの、欲しい、欲しい……の! もっと、もっと♡」
限界を迎えた思考は真っ白に塗りつぶされ、ただひたすらに快楽を貪る事しかできず。止まらない欲と快感に喘ぐ声を垂れ流しながら、
一心不乱に腰を振り続ける。ディアの中へと雄を突き立てる。
「そのまま全部搾り尽くしてやる。ペルナの全てをアタシにおくれ……♡」
雄に絡み付く粘液が、うねり、搾るように、予測の出来ない動きで次々と責め立ててくる。
その快楽に、熱いものが込み上げてくるのを感じる。このまま、ディアの中へと放ちたい、全て注ぎたい、愛したい。
快楽に、本能に従うまま、言葉を紡ぐ。
「ディア、ディア♡ きもちひ、の、好き♡ もう耐えられ……なぃっ……!」
脳裏に快楽が弾ける、視界が白く染まる、下腹から熱いものが溢れていく。それが繋がったままのディアへの注がれていくのを感じながら、
荒くなる呼吸と心地よい倦怠感に襲われる。
ぼんやりとしたままの視界には、嬉しそうなディアの笑顔。
「ふーっ、ふー……♡ ね……ぇ、ディア、これが、好きって気持ちなのかな? 僕、ディアの事が好きになっちゃったみたい」
「アタシもだよ、ペルナ。もう二度とアンタを手放したく無いくらいさ。それに、アタシはまだ満足しきれてないからね、もうちょっと付き合ってもらうよ……♪」
「え……? それはどういう……ひゃぁっ♡」
果てたばかりの雄にはあまりに強すぎる刺激、なんとか身をよじり快楽を逃がそうにも、毒で力の入らない身体は、もはや指一本うごかない。
激しさを増した水音は、日が登ってからも辺りに響き渡り続けていた。
あおいあおい、しずかなよる。満月に照らされて出来た影は三つ。
誰かが私を呼ぶ声が聞こえる。僕とディアの世界に水を差す声が。
「ご無事ですか王女様! 指名手配犯ディア、今すぐ王女様を解放してもらうぞ!」
「っはん! 雑兵如きに遅れをとるほどアタシはヤワじゃないよ!」
緑のかたながディアに突きつけられているのが見える。
「あなたは、僕を連れ戻しに来たの?」
「王女様、ご無事でよかった! ご安心ください、今すぐこの反逆者を倒して我らが帝国へ連れ帰ってみせますからね!」
そう……か、あなたもまた、僕から奪いに来た存在だと言うんだね。
まだ、僕から自由を奪おうとする者がいたなんて。
「もう誰にも。僕の存在を、大切なディアを、奪わせはしない」
「王女様? いったい何を言って……うわぁああああ!?」
奪う者が一つ消えた。けれど、あの国にはまだ他にも居るはずだ。
僕の自由を脅かす者は要らない。全て居なくなればいい。
「ディア。一度、あの国に戻ろう」
「ペルナ、何をする気? ……わかった、アタシも付いていくよ」
二つの歩みを照らす満月は、せかいのどんなまるよりまるく、輝いていた。
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