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自分改革

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たまには息抜きも必要かと・・・
一話完結です。


※注 二足歩行、被服の表現アリです。


 ラムウシティのテルスル・スクエアのベンチの上で一人の男がそわそわと体を動かした。
彼の名はユーロ。種族はブラッキーである。
彼は身を刺すような風にさらされ、さらに体をそわそわと動かす。
冬が近いのだ。
一枚の枯れ葉がユーロの膝の上にひらひらと舞い落ちた。それは親切にもユーロに冬が近づいているのを教えてくれた。
しかし無礼にも彼は相変わらず体を震わせるだけであった。それが今彼にできる最高の謝礼だった。そして枯れ葉は彼の膝の上から不機嫌そうにヒュウと風に乗ってどこかへ飛び去っていった。
テルスル・スクエアに一人残されたユーロは黙って体をできるだけ丸め、帽子を深くかぶり直して次に吹くであろう冷風に備えた・・・
 しばらくしてユーロは冬が近づいてきたので、どのようにしてそれを過ごそうかと考え始めた。
彼の望みはたいして大きいものではなかった。彼はサントアンヌ号に乗って世界一周をしたり、南の空の下でうたた寝をすることなど望んではいなかった。
彼が望むのはキャンパス島での三ヶ月だけだった。
本当にそれだけであった。
 ユーロはキャンパス島には食事やベッドがあり、そしてよい仲間がいるのを知っていた。
ルカリオのシャン。ニドキングのラダン。ピクシーのジャスゥ。カイリキーのギャイラー。レントラーの・・・・・(ry。
何年もの間、キャンパス刑務所は彼の冬の宿であった。
彼と同じようにラムウシティにいるもっと幸福な連中は、冬ごとにどこかの避寒地への切符を買った。
同じようにユーロは例年の島への旅の準備をしなければならなかった。
 ユーロにはキャンパス島へ行く多くの方法があった。
しかし最もゆかいな方法は、高価なレストランで豪華な食事をすることだった。
『食事の後、おれは自分がお金を持ってないと宣言しよう。おれはすぐに警官に引き渡されるだろう。そしてそれからおれは刑務所に直行だ。』
と彼は凍えた心の中で思った。
ユーロはベンチから立ち上がり広場を離れた。
彼は冷え切った体にむち打って通りを歩いて渡り町一番のレストラン。「スピレル・ワンダンレストラン」の前で立ち止まった。
ガラス越しに中をみるとたくさんの人が食事を楽しんでいた。しかし彼はちっとも不安にはならなかった。


 

 ユーロは自分に自信があった。
なぜなら彼の体毛はきちんと刈りそろえられてあったし、あるていど毛づやも整っていたし、コートもきちんとしていたからだ。
彼はこぎれいな黒いネクタイをしていたが、それはアルセウス感謝祭の日に婦人伝道師のラッキーが彼にくれたものだった。
黒い体に黒いネクタイはどうかと思うが、今は彼の着ている少しすすけた白いシャツとともに胸の上で見事なコントラストを描いている。
彼は自分の格好はウエイターに受け入れられるだろうと信じた。
『まずロースト・チキン、木の実ワインを1本つけて、それから上等なポフィン、コーヒー1杯そしてデザートに最高級のロメの実だ。』
と彼は思った。
『金額はレストランにとって、高すぎはしないだろう。』
彼の心は少しだけ暖かくなった。
 彼は腹いっぱいなことと自分の冬の宿への旅を考えるとうれしかった。
彼は重厚なドアを引いてレストランに足を踏み入れた。
すぐにウエイター長であるフライゴンの目がユーロの古いズボンとすり切れた靴に注がれた。
一瞬ユーロはギクリとしたがその予感は見事に的中したらしかった。
そのウエイターの力強い手がユーロの向きをぐるりと変え、そして彼をすばやく黙って歩道へと押し出してしまったのだ。
つんのめって後ろに転んだ彼はただただその赤い目をパチクリさせるだけだった。
 ユーロは食事と、おいしい食べ物の助けを借りての島への旅を手に入れることに失敗してしまった。
『おれは刑務所に入る何か他の方法を考えなくちゃな。』
と彼は思った。
とぼとぼ歩いていた彼は六番街の角に来てあるものを見つけた。魅力的な店のショーウィンドーがそこにはあった。
彼は別の考えを思いつき、そのガラス(ショーウィンドー)に思いっきり石をぶつけて割った。
別に自分の技で割ってもよかったのだが、今の彼はそんな気にはなれなかったし、余計な罪を重ねたくなかった。
彼にとって島で過ごすのは三ヶ月だけでよかったし、その加減の仕方は彼自身が重々承知していた。
 すぐにエアームドの警官が人混みを鋭い羽でかき分けながら息を切らしてやってきた。
しかしユーロは逃げなかった。手をポケットに入れて、じっと立ち、そしてほほえんだのだ。
「これをやったやつはどいつだ?」
と警官は興奮してたずねた。
大胆不敵にも「あんたはおれがこれと何か関係があったとは思わないかい?」とユーロは言った。
警官はまわりを注意深く見回すだけでユーロの言葉に耳を貸さなかった。
なぜなら窓を割ったような人は決してその場所にとどまらないだろうと思ったからだ。
それから警官は女性のピジョットがあわてた様子でその場を飛び去ったのを見て、無線で何かを言った後、彼女の後を追っていった。
ユーロはまた失敗してしまったのだ。
ユーロはたまらずその場を走って後にした。



 どれくらい時間がたっただろう。
ユーロはところかまわず歩き回った。夜が来ていた。突然の恐怖が彼をとらえた。
あまりの不運(幸運)加減に彼は自分が決して逮捕されないのではないかと思いさえした。この思いが彼を少々うろたえさせた。
そのとき彼は別の警官がラムウ大劇場の前に立っているのを見た。
全く突然に彼は別の考えを思いついた。
ニヤッと不適に笑った彼は「風紀を乱す行為」をしてみようと決めた。
 歩道の上で、ユーロは酔っぱらったかのようにできる限り大声で叫び始めた。彼は踊ったり、わめいたり、うなったりした。帽子を片手にやんややんやの一人舞台を演じて見せた。
少し困り顔のオーダイルの警官はユーロに背を向けて一人の市民にこう言った。
「彼は大学の学生の一人だ。彼はセブンブルグ国際大学に対する自分の勝利を祝ってるにちがいない。彼はうるさいが、害はない。そのうち大人しく帰るだろうから逮捕はしない。みなさんもあまり気にかけないようお願いします。」
ユーロは落胆した。
警官は民衆に一礼した後のそのそと去っていった。
酔っぱらったふりをするのをやめたユーロは警官の後を追うように大人しく大劇場から離れ、闇に溶けるように消えていった。



 「警官どもは決しておれを逮捕しないのだろうか?」
ユーロは冷たい風に対して彼のうすいコートのボタンをかけた。
彼は補修中の道路をわざとガシガシ鳴らして道路を通って東へ歩いた。
彼は自分の失敗についての怒りでいっぱいであった。
道路に転がっている小石達にあたってみても、警官に対して怒りの言葉をつぶやいても彼の気分はこの寒空のように黒くしずんでいた。
彼は彼らに逮捕されなかった。
その事実だけが彼の頭の中でネオンのようにチカチカしていた。
警官たちはユーロを不正をすることのできない王様と見なしているように思われた。
 ついに彼は東へ向かう大通りの一つにやって来たが、そこはより静かで、街灯もさらに薄暗かった。
彼はこの通りを歩いてテルスル・スクエアの方に戻って行った。
というのは広場のベンチが彼には最もふさわしい場所に思われたからである。
ホーホーが鳴くとりわけ静かな街角で、彼は古い教会の前で立ち止まった。



 ユーロにはステンドグラスの窓の一枚を通して柔らかな光が見えた。
彼が立ち止まった理由である。
さらに彼には教会から快い音楽が流れ出ているのが聞こえた。
彼の象徴である月は上空にあり、明るく穏やかだった。あたかも事の成り行きをそっと見守っているようだった。
それはいなかの教会の庭のようだった。
そしてオルガン奏者がひく賛美歌がユーロを鉄柵にくぎずけにした。
かつて彼の生活が希望にあふれていたころ、彼はよくこの賛美歌を歌ったものだった。
鉄柵を乗り越えて教会に近づき窓から中をのぞくと、一人の女性のエーフィがシスターの服を身にまといオルガンで例の賛美歌をひいていた。
服で体全体はあまりみえなかったが、ほっそりとした身で鍵盤を力強く叩くその様は健気で儚く、しかしどこかたくましさを感じさせた。
ユーロはそこに根を張るでもつかったかのようにその場から動かず彼女が奏でる音色に耳を傾け、その姿にうっとりしていた。
しばらくして音が止まり彼女がこちらを振り向いてきたので彼は現実に引き戻され、しずかに暗くなった教会から離れた。
幸い彼女はなにごともなかったかのうような足取りで教会の奥の方へ消えていった。
妙にドキドキしながら歩いて広場にたどりつきベンチにドサッと腰掛けた。
そして先程までの出来事が夢でないことを確かめていた。
彼は一瞬だけ目があった彼女の輝く瞳と形容しがたい美貌、そしてあの賛美歌の音色を浮かべて体が熱くなるのを感じながら再び体を丸めるのだった。
  彼女のオルガンの音色が彼の魂に突然のそしてすばらしい変化をもたらした。
彼は自分が落ちてしまっていた穴を恐怖を感じながら覗いた。
彼は自分の恥ずべき欲望や、捨て去った希望、無駄にした才能を思った。
彼は突然自分の運命を変えたくなった。
そしてこうつぶやいた。それは声こそ小さいが彼の力を存分に湛えていた。

「おれは自分の心の中に住んでいる悪に打ち勝たなければいけないな。時間はある、おれはまだ若いんだ!!」



 ユーロは昔熱望したことを追い求めたかった。彼は昔の夢を実現させたかった。
あの荘厳だが快いオルガンの調べが彼の中に変革を引き起こしたのだった。
『明日、おれは繁華街へ行って仕事を見つけよう』
と希望の炎に燃えた彼は思った。
木の実の輸入業者がかつて彼に運転手の職をすすめてくれたのだ。
彼は顔を上げて立ち上がった。その両目はもう曇ってはいなかった。心も体も軽くなったかのようだった。
そして闇夜に片腕を高々と挙げて力いっぱいさけんだ。もう彼に迷いはなく、彼を止めるのは何もない勢いだった。

「おれは明日あの勤め口を頼もう!! おれは世の中でひとかどの人間になるぞ!! おれは・・・・・」
 
 ユーロは誰かの手が自分の肩の上に置かれるのを感じた。
びっくりして急いで振り向くとずんぐりしたグランブルの警官が目に入った。
「君はここで一体なにをしているのだね? 近くの人から通報をうけてきたんだが。まったくこんな夜中に・・・」
と警官が言った。
ユーロには後半部分はよく聞こえなかった。
どうやら仮眠をとっていた時に叩き起こされてきたらしかった。
「別に何も」
とユーロは言った。
「それなら私は浮浪罪で君を逮捕する。抵抗はするなよ? ついてこい。」
と警官は言った。
翌朝、警察裁判にて判事がユーロに判決を下した。



「キャンパス島で3ヶ月」
 


一応完結です。続編は気が向いたらということで
気の利いたオチが思いつきませんでした。すみません

感想、助言、罵言なんでもどうぞ





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Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
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