ポケモン小説wiki
腰痛になりまして

/腰痛になりまして

大会は終了しました。このプラグインは外してくださってかまいません。
ご参加ありがとうございました。

詳細な結果はこちら
エントリー作品一覧




なんと、とても分厚い仮面のあの人が作者だったのです!

 やらかしてしまった。ちょっと面倒くさくなって、重いものを一度に二つ持っていこうとしたのが悪かったのだろうか? いきなり背中に走った激痛で俺はあえなくその場にダウンしてしまった。
 リビングで眠っていたパルスが叫び声に心配して現れてくるも、しかし残念ながら頭はあまりよくない。
「クゥーン……」
 腰に走る電撃のような痛みに、全く動けないでいるおかげで、パルスワンが鼻を鳴らして心配する。顔をのぞき込む表情がいかにもしおらしい。心配してくれるのは嬉しいのだけれど、彼が心配して行うのは顔を舐めることだけ。ペロペロペロペロペロペロ……今まで躾をまじめにやってこなかった自分を呪う。
 放っておけば飽きるまで顔を舐めてくるから、こちらが動けないのをいいことに、一時間でも二時間でも顔を舐めてくるだろう。
「あの……パルス……ちょっと腰をやっちゃって、俺動けないんだけれど……」
 こうなったら救急車を呼ぶとかするべきなのかもしれないけれど、まずスマホは充電中で、取りに行くために這うことすら難しいほどに痛い。
「なぁ、パルス。スマホとか、持ってこれるかな……?」
 ペロペロペロペロペロペロペロ……
「スマホ、持ってこれる?」
「……ワフッ」
 ペロペロペロペロペロペロペロ……
「ダメそうだね……っていうか、こんな時にマンゴスは何やってるんだ……ご主人のピンチだってのに……」
 ポケモンによっては、主人の言葉を的確に理解してこういう頼みごとに応じてくれる個体もいるとのことだが、こいつはダメそうだ。パルスワンのほかにアマージョとも一緒に暮らしているのだけれど、あいつは来てくれない。寝てるのかなんだか知らないが、もしも起きているのならば薄情な奴である。
 こんなことなら、スマホの充電が要らず、頼めば救急車まで呼んでくれるロトムスマホにでも変えておくべきであった。そのスマホも充電中でベッドの上なのだが……
 しかしどうするべきか? パルスがスマホを取ってきてくれないとなったら自力で取らなければいけないわけだが、ピクリとでも動けばあの痛みが襲ってくるかと思うと、うかつに動くことすらできやしない。というか、身震いしただけでも声が抑えられないほどの激痛が走ってしまう。
 しばらくこのまま死んだふりをしたように休んでいれば痛みは引くのだろうか? それともずっとこのままなのだろうか、先行きが不安になってくる。そんな時、名案が浮かんだ。そういえば世の中には電気治療で腰痛を治すということが出来るという。
「パルス、ちょっと手加減して腰にほっぺすりすりをしてくれるか? あと、舐めるのはやめて……」
「ワゥッ!」
 今度は俺の言葉をきちんと理解してくれたらしい、パルスはかなり手加減をしてほっぺすりすりをして腰に電気を流してくれる。なるほど、いい感じだ。昔子供のころに入ったホテルの浴場には電気が流れる風呂があって、小さい頃はそれの価値が全く分からなかったが、この電気のびりびりする感じは心地いい。
 少しだけ痛いのだが、その鈍く淡い痛みが腰に走る衝撃的な激痛を少しだけ和らげてくれるようだ。感覚が鈍くなっているだけで実際に治っているわけではないのかもしれないけれど……
「よし、ありがとうパルス……いい感じだからもっとやってくれ」
「イヌヌワン!」
 パルスは嬉しそうに吠えて、もっとやってくれた。そう、もっと……
 
 
 
 ……
 ………………ハッ!?
 ……そこから先は痛みのせいで何があったか記憶がないくらいだ。バトルにも使える程度の高圧電流をいきなりあてられてしまい、不可抗力的に筋肉が収縮、体が跳ねた。
 それによって、急激な動きを強要させられた俺の腰回りの神経細胞は、脳へと向かって『痛い』という信号を容赦なく送り付ける。漏れ出すというよりははじけ飛ぶように叫び声が出て、これにはパルスもドン引きである。さっと身をかわした後、荷物の陰に隠れてこちらの様子を伺っている。どうやら、意識を失っていたのはほんの一瞬だったようだ。
 しかし、パルスもそんなに驚くくらいならも少し気を付けてやってくれ……平時ならなんてことのない電気でも、今の状況できついんだ。
「あのなぁ、パルス……そういうんじゃなくって、もう少し手加減してくれ、お願い……」
 やはりこいつ、とんちんかんだ。パルスワンは牧羊犬として人気のワンパチから進化しているし、かのずる賢いフォクスライとライバルになるという賢いポケモンのはずだが、ダメだこいつは。
「パルス、さっきみたいに手加減してほっぺすりすりを……」
「ウワンッ!」
 さっきのように高圧電流を流すのは危ないと理解してくれたのだろう、今度はちゃんと痛みが和らぐ気がする。救急車が呼べないのは困ったことだが、家でこうやってゆっくりと安静に出来る状況でよかった。少しでもいいからこのまま楽になってくれればいいのだけれど。
「そうそう、手加減してくれていれば気持ちいいから……」
 パルスに言ってしばらく彼の電気マッサージに任せてみる。バカ犬とはいえ、きちんと主人を心配してくれるのは忠誠心の高い、いぬポケモンといったところだろうか。こんなによくしてもらったのだから、撫でてあげるくらいはしてあげたいのに、今は撫でてあげられないのが少し申し訳ないくらいだ。

 しばらくそうしてもらったら、ようやく痛みも引いてきた。まだ立って歩くことは難しいが、ハイハイくらいならなんとかできる。これなら救急車は必要なさそうだ。とりあえず、これはタクシーを呼ぶのが正解だろうけれど、まだ赤ちゃんのように這うことしかできない状況で病院に行くというのもなんである。
 とりあえず、ベッドで横になって、もう少し痛みが落ち着いたら病院に行こう。何にせよ、スマホはベッドで充電しているので、どちらにせよベッドに行かないとタクシーを呼ぶことすらできなそうだ。赤ん坊のようになりながらベッドへと向かう。家が一人暮らしなのでそんなに広くもないのが、こんな時だけは幸いだ。
 その間、パルスは心配そうに隣を歩いてくれる。結果的に何の解決にもなっていないとはいえ、心配してくれることに関しては嬉しい。さて、寝室にたどり着いてみると、アマージョのマンゴスは防音のための耳当てを着けたままぐっすりと俺のベッドを占領していた。窓際のカーテンを開けっぱなしにしておけばここには日が差し込むので、眠りながら光合成をしているのだろう。

「あの、マンゴス……ちょっと、俺も横になるよ……」
 俺がベッドに上がり込んだことで目を覚ましてしまったマンゴスは、いきなり起こされて非常に不機嫌そうだ。じろりと睨まれた挙句に、ウー……と、低い声で唸られる。雌だよね、君?
「ご、ごめん……ちょっと、腰を痛めて……」
「マジ?」
「うん、マジ……あ、そうだ。マンゴス、ちょっと痛みを和らげるツボとか突けないかな……? ちょっと、腰を傷めちゃってさ」
「チッ……」
 マンゴスは腰を痛めた自分のことを、まるでゴミでも見るかのような目で見ている。人間の言葉は喋れないくせに的確に舌打ちだけという感情表現だけは上手いのはやめてほしい。ぎっくり腰程度でそこまで見下すようなことしなくてもいいじゃないか……。マンゴスは深くため息をつくと、『仕方ないわね……』とでも言いたげに、俺の背中のツボを、その美しい赤紫色のすらりとしたおみ足でギャー!

 ……
 ………………ハッ!?
 ……痛みは引いたのだろうか、今度はさっきと違ってしばらく気を失っていたようで、気づくとパルスが俺の顔を舐めていたし、マンゴスは耳当てをしたまま再び眠っている。普段はありがたいけれど、怪我人のツボを突く方法が踏みつけとか、あまりにも乱暴すぎる……アマージョなんて飼うんじゃなかった。

 ともかく、ベッドの上で休みながら気を取り直してスマホで調べてみると、このままじっとしていると逆に腰には良くないらしいので、少しずつ動かすのがいいのだという。ベッドの上で寝転がったまま、体をくねらせたり少しだけ力を籠めたり。心配そうな顔をしたパルスがこれでもかと顔を舐めてくるので、顎を掴んで押しのけたりしながら少しずつ体を動かしていく。
 朝方にぎっくり腰になったというのに、今はもう夕方だ。声が出そうな痛みはようやくなくなったが、それでも眠るのに支障が出そうなほどの痛みが熱を持って腰回りに疼いている。やはり、こうなった以上は医者に行くしかないだろう……立つのはかなりきついけれど、何とかなる。近くに病院はないが診療所はあった。衛生的にポケモンを出すことは憚られるので、二匹はモンスターボールの中に入れて、呼んだタクシーにヘロヘロのまま乗り込み、倒れこむように座る。

 そうして、タクシーの運転手に心配されながら近所の診療所に向かう途中、運転手は苦笑しながら診療所へ向かう理由を聞いてきた。ぎっくり腰です、と言うと納得してくれた。どうやら、タクシーの運転手は数年前に一回だけ似たようなことで呼び出された経験があるらしい。
 そうして、医者にかかってみると、受付にいたタブンネが優しく手を引いてくれた。
「あぁ、ありがとう……」
 声をかけてあげると、タブンネは天使のようなほほえみを返してくれる。癒しの波導を使われなくても癒される気分だった。
「ここに来るまで大変だったでしょう? ぎっくり腰は腰の捻挫ですからね、腰回りどころか全身が痛いのでは?」
 待ち時間もほとんどないままに案内された診察室で、医者は苦笑しながら俺にそういった。
「はぁ、どうも……ここまで来るのも大変でした……自分のポケモンに電気治療とかしてもらったり、ツボをついてもらったりして、何とか……」
 俺がそう説明すると、お医者さんは頭を抱えていた。
「あ、そういう治療は絶対にやめてくださいね? 素人がやると大変なことになりかねませんし」
「え、あ、はい……」
 お医者さんには割と強い口調で怒られた。当然のことかもしれないけれど怒られてしまった。藁にもすがりたいくらいに心細かったとはいえ、たしかにそうだよなぁ。これは反省しなければいけない。
「とりあえず、今日一日は冷やしながらしばらく安静にした後、炎症が収まってきたら少しずつ運動をしてください。あと、湿布を処方しますので、それを一日二か所に貼ることですね。この程度なら二週間以内に治りますからね」
 医者からの説明では、この湿布は市販されていないものだそうで、その分成分も強いのでよく効くものなのだという。それを貼り付けた後は、タブンネの癒しの波導で少しだけ炎症を抑え、痛みを和らげる治療をしてくれた。あぁ、やっぱり医療従事者になれるようにきちんと調教されたポケモンは、頭の良さも礼儀正しさ、そして優しさも含めて、何から何まで違うなぁと思いながら癒しの波導を浴びていると、ふと思い浮かぶのは、自分の手持ちの二匹の顔。もう少し頭がよくなるように、優しくなれるように躾するべきなのだろうか?
 最後に処方してもらった湿布を貼ると、とてもよく効く……タブンネの癒しの波導と比べると、湿布には即効性はないけれど持続性があるので、効果はこちらのほうに大きく軍配が上がるだろう。徐々に痛みは収まるし、熱を帯びた腰回りも少しひんやりしている、ぎっくり腰は患部を冷やすのが大事と聞いたが、よく考えれば電気なんて流したら逆に熱を帯びてしまうだろう。ツボをつくのだって、下手したら悪化する可能性もありそうだ。
 たしかに、素人が妙なことを試すのは良くないのかもしれない。結局、下手に訓練も受けていないポケモンに頼るよりも、湿布を貼るとか、しばらく安静にするほうがよっぽどいいのであった。


あとがき 


 こんばんは、今回も分厚い仮面に定評があった……分厚い仮面に定評があった……分厚い仮面に定評があった! リングです。
 自分は腰痛になったことはありませんが、昔の職場で上司が腰痛になったことがありまして、事務仕事がメインだったにもかかわらず何日もお休みになりまして。さすがに民間療法をやったりはしませんでしたが、てもとにポケモンがいたらそういうことを試してしまうような、藁にもすがる思いだったかと思います。
 本当に痛いらしいので、腰痛にならないように普段から気を付けて生活しなければいけませんね。

 ちなみに私は腰痛やぎっくり腰になったことはないです。

>腰痛いと大変ですよね。お大事に (2021/04/28(水) 18:59)

大変だそうですね。私は腰痛にならないように気を付けて生活しています。

>20ある作品の中でも短いぶりに入っていると思いますので、コメントも簡潔に行きます。
「お大事に」 (2021/04/30(金) 14:51)
今回は確かに1万文字に収まっているのかどうか怪しく思えるくらいに長い作品が多かったですね。それだけ皆さんの密度が濃くて素敵な作品ばかりだったと思います。あと、腰痛は大丈夫です。

>主人公が微妙に変態だったことになんかツボをつかれるような物語でした。実際、こういう風に素人が勝手なことをすると医者は怒るものなんですかね? (2021/05/01(土) 22:36)
『普段はありがたいけれど』!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

コメント [#8KsI7q8] 

投票ページのコメント以外に何かありましたらよろしくお願いします。
え、インテレオンって陸上グループなんか……

コメントはありません。 Comments/腰痛になりまして ?

お名前:

トップページ   編集 凍結 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2021-05-03 (月) 00:01:00
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.