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脇道3 炎の風来坊

/脇道3 炎の風来坊

writer is 双牙連刃

新光脇道3本目にございます。が、今作の主人公は本編では名前しか出てきておりませんです。
それで脇道と呼んでいいのか? とも思いましたが、あるキャラに密接に関わるキャラクターなので、お目こぼし頂ければ幸いです。
それでは、↓よりスタートにございます。お読み頂ければ幸いです。



 崖の上で朝日を浴びるってなぁやっぱり気持ちが良いねぇ。一日の始まりにはきちんとお天道さんに挨拶せにゃあな。
さて、ちょいと一発遊覧飛行と洒落込むか。一気に勢いを付けるなら……これが一番だな!

「そーら、よぉ!」

 崖から飛び降りて、空中で姿勢を整える。頭を下にして羽を広げれば……下の緑に届く前に俺の体は空にって寸法だ!
羽が風を捉えて、それを斬りながら進んでいく。見よ! 青空に映える俺の炎の色の体を! そこ、ただのオレンジ色とか言うなよ!
しっかし良い天気だぜ。……あいつが旅に出たのも、こんな青空の日だったかな。
あいつは今頃何してんのかねぇ……あれ以来師匠の俺に一度も顔見せに来ないなんてふてぇ弟子だぜまったく。
ま、お互いに野良をやってんだから会える訳も無し、か。へっ、柄にもなく昔を懐かしむたぁ俺も歳取ったかねぇ。
なぁ、ゼロ助……お前も、元気でやってるよな?



「きょっおーもいっちにっちそっらを飛びー、にーしへひっがしーへてっき当にーっと」

 見知らぬ土地へ来たものの、ここは一体何処じゃいな? 目印になるようなものも無いからさっぱり分からんわい。
ぶっちゃけ目印があっても何か分からんがな。本当にここは何処じゃいな?
やれやれ……ん? なんじゃありゃ? でかい穴が空いてるぞ? うーん、こりゃあ降りてみるしかないか。
ひゅーっと降りてスタッと着地。我ながら完璧だ。
……ここは、なんだこりゃ? 周りの土は普通の色なのに、この穴の中だけ真っ白な砂が詰まってる。それに……穴、デカっ! どう考えても普通じゃ出来ない規模だぞ。
ポケモンが暴れたにしても、大きな湖が一個出来るレベルの穴を作れるポケモンってなんだよ。んなの居るのか?
でも人間がこれをしたとは到底思えんよな。そんな人間もう伝説のポケモンと同格じゃねぇか。んなもんおっかなくて近寄りたくねぇっての。
ちっと手が届く範囲の砂に触れてみたが、砂って言うより粉みたいだなこりゃ。それに穴の淵にまったく傷が無い。こんな馬鹿でかい穴を作るのに無傷ってのはどう考えてもおかしいな。

「こいつぁ一体どうなってんだかなぁ……ん?」

 穴の真ん中辺りから足跡が続いてやがんな。妙にふらついたような足跡だが、この穴が出来た時に巻き込まれた奴のか?
軽く飛んで後を追ってみると、淵の反対側に続いてやがった。そっから穴の外に……!?

「なんだ?! 誰か倒れてやがる!」

 あれは、サンダースか!? まさか、こいつが穴から這い上がった奴!?
近くに降りてみたが……痩せてる感じからして、何も食わずに一週間ってところか? 倒れた理由は衰弱で間違い無さそうだな。

「おい、おいっ! 生きてるか!?」
「……うっ……」
「イエスだな!? どげんとする俺よ!」

 もちろん助けるでファイナルアンサーでレディゴー! とりあえず水と食いもんを見つけないと、お話にならんぜよ!
こいつは背中に乗っけて……軽っ! これは早くなんとかせんといけんな。マジでダイする一日前って感じだ!
木ーの実は何処だ~……別にキーの実限定で探してる訳じゃないぞ。色々探してるからな。
とりあえず抱えられる程度には集まったが、足りるかね? 後は水、川なんかがあって休めそうな場所があればマックスでナイスなんだがな。

「わ~る~い~こ~は~、じゃなくて、休める場所は何処じゃー」

 むぅーん、お! 良さげな穴を発見! 降りて確認レッツゴー!
ここは……誰かが掘った横穴だな。前の居住者はもう居なさそうだし、近くに川もあるのは確認済み。飛べるってのはメリットぜよ!
とりあえずまずは水だな。川へ向かって飲ませるか。

「もうちっと待ってろよ。今水飲ませてやるからな」
「……」

 反応がナッシング!? 待て待て、もうちょっと待ってろ!
川着いたー! そんでこいつをゴー、シュゥゥゥト! って、何やってんだ俺!?

「!? ぶはぁ!?」
「うぉぉ、悪い、焦って投げちまった! 大丈夫か!?」

 おぉ、見事にキョトンとしとる。いやそりゃ倒れて気を失ってるところからいきなり川ダイブじゃそうなるわな。

「こ、こは?」
「あー、うん、知らん! 適当に飛んでここまで来ちまったからなぁ」
「……あんたは?」
「ん、俺か? よくぞ聞いた! 俺はお節介焼きで有名な風来坊、リザードンのラルゴってんだ!」

 ここでこう、自分にビシッと指を向けたかったんだが、木の実抱えてるからそれは割愛だ。

「お節介焼き? ……なるほど、それで俺なんかを助けたのか?」
「おりょ? いきなり川へ放り込んだのに助けようとしたと認識してくれんのか?」
「見ず知らずの俺をここまで運んでくれたんだ、襲うんならとっくに俺は殺されてる。違うか?」
「あーなるほど。冷静な分析サンキューであります」

 ん、なんだ? 川の水面をじーっと見てる。んー……もしかして、水面に写ってる自分を見てるのか?

「おーい、大丈夫か?」
「……俺、進化したんだな……じゃあ、あれはやっぱり……」

 なんか呟いてるけど川のせせらぎでじぇんじぇん聞こえまっせーん。進化がどうのとかはギリギリ聞こえたが?

「なぁあんた、俺を見つけた場所、おかしくなってなかったか?」
「あん? 馬鹿でっかい穴はあったけど、周りは特に何も無かったぜ?」
「そうか……」

 うわぁお、物凄い分かり易く凹んでる。どうやら、こいつがあの穴と関係あるのは間違い無さそうだな。
ちっと事情を聞きたいような気もするが、それは今は無理っぽいかね? より凹ませても面倒そうだし、とりあえずはいいか。

「ん~、よくは分からんが、とりあえず上がって来いよ。体冷えるぞー」
「……」

 だんまりッスか!? 止めておくれよぅ!
仕方ない、ここは強硬手段DA!

「出てくる気~が無いのなら~、強制て~きに出しましょね~!」
「!? う、うわ!?」

 ジタバッタすっるっなよ、そのやせ細った体で何が出来ると言うのかね?
ザブザブ川に入ってそのまま野郎をピックアップ! 木の実は川縁に置いてきた。

「よっこいせーっと、まずはそれ食って落ち着けよ。衰弱したいならそれからにしてくれ」
「……言ってる事無茶苦茶だな、あんた」
「あんな、俺はお前を助けたいの! 助かって自由に動けるようになったら何してもいいが、俺の目が届く範囲に居る間にそんな事にはさせんぜよ!」
「やっぱり、無茶苦茶じゃないか」
「黙って食えぃ! じゃないと今度は、この木の実体の穴という穴から詰め込んじまうぞ!」
「や、止めてくれ」

 よしよし、大人しく食い始めたな。腹減ってると気分が沈むんだ、そんな状態で何言ってもネガティブな事しか出てこんのよ。
俺も何個か食うかね。結局ノンストップで探し回って、俺自身の体力が減ってる事を完全に無視してたもんな。

「……落ち着いたか?」
「まぁ、多少は」
「よろしい。まったく、せっせと集めてやったんだからしっかり食えよな」
「……済まない」
「そこはありがとうでアンサーして欲しいもんだねぇ」

 あらら、それにはぷいっと顔を逸らしますか。しゃあないねぇ。
でも食欲はあるようで何よりだ。これで「俺には生きる資格が無い」とか言ってきたら本当に木の実詰めてやるところだったぜ。

「……何故か今、寒気がしたんだが」
「川に浸かり過ぎたんだろ。後で火でも起こしてやるよ」

 ふっ、自分の身の危険を察知するとは、なかなかやるようだな。見知らぬサンダースよ。

「……そういやお前の名前は? そんくらい聞いてもいいだろ?」
「俺の名前……」
「あんれ? 俺、不味い事聞いたか?」
「いや、ゼロ……そう呼ばれていた」
「ゼロか、了解だ。そんじゃゼロ助」
「いきなり名前を変えられてる!?」
「気にすんなって。んでゼロ助、とりあえず瀕死の状態から帰還おめでとう」
「ありがとう……なのか?」

 知らん! が、良い事なのは確かだ。ありがとうは間違いではないぜ。

「で、こっからが本題だ」
「……俺がなんであそこに居たか、か?」
「いや? これからどうするかだが?」

 おぉ、見事なコケっぷりだ。そういう素質もありそうだなこいつ。

「いや、聞かなくていいのか?」
「話したかったら聞いてやるけど? それよりもお前がこれからどうするのかの方が気になるところだな」
「……どう、すればいいんだろうな」
「ふむ、その分だとお前、野良のポケモンでは無さそうだな。なら野良暮らしも分からないよなぁ」
「いや、あの?」
「よし、お前今日から俺の弟子! んで、しばらく野良での暮らし方を教えてしんぜよう!」
「うぇぇ!?」

 驚いてるようだが、決定は覆りません。覆させません。ほっとくとなんかヤヴァイ事になりそうだし。

「よーし、そうとなれば明日からはビシッと野良で生きれるようにしてやるからな! 今日は休むぞ!」
「お、俺の意見は!?」
「聞く気ナッシング! どーせやる事も無いんだろ? ちょっと付き合いなさいなって」
「……何故か不安なんだが」
「気にすんな♪」

 そんなら適当に薪でも拾って、見つけた横穴にでも持ってくかね。ゼロ助が逃げようとしてたんでもちろん捕獲した。
まずは飯の探し方からだな。生きる為には食べねばならん事だし。
教える事は大分あるが、なんとなくこいつ賢そうだしなんとかなるだろ。なんとかならんくても、時間掛ければいけるだろうし。



 ん……うーん、横穴で起きるなんて何時ぶりだったかな。屋根のある場所で寝るのもたまにはいいやな。
まぁでもあくまで簡易な寝床だからして、いつまでも使うって訳ではない。俺が根付くにはいまいちだし。
焚き火の燃えカスの向こう側では大人しくゼロ助が寝る振りして休んでる。もう起きてるのは分かるが、逃げ出さなかったのは賞賛しよう。

「んで、弟子よ。いつまで寝た振りしてるんだ?」
「……気付いてるならもう少し早く声を掛けて欲しかった」
「なっはっは、まぁ気にするな」
「……入口を塞ぐような形で眠り始めなければ夜中の内に抜け出せてた筈だったのに」
「んなもん想定済みだ。ってか、逃げてどうするんだよ。お前、野良での生活の仕方知らないんだろ? それだと周りのポケモンに迷惑を掛けかねん。それはお前も望んでないっしょ?」
「うっ、まぁ……迷惑は掛けたくないが」
「だしょ? どう生活するにしても俺の教えは知ってて困らない筈だぜ!」
「その根拠は?」
「俺がとりあえず誰にも迷惑を掛けてない! 筈!」

 おうふ、溜め息つかれた。いやだって分かんねぇんだもん。俺ってば一つのところにあんま長く居ないし、現地の奴とも挨拶くらいしか出来ねぇしな。

「とにかく野良で生きてる期間は俺のが長いんだし、ただで色々教えてやるんだから遠慮すんなって♪」
「……俺には何も無いんだし、あんたに付き合うしかないか……」
「そうそう。あ、それと俺の事は師匠と呼べぃ!」
「んな? あんたの名前はラルゴだろ?」
「弟子は師匠の事を名前やあんたとは呼ばんだろ。ってか俺が呼ばれたいんで呼んでくださいお願いします!」
「……師匠が弟子に頭下げるなよ」

 こんなやり取りをし終わって、横穴から外に出た。ふむ、ちと雲は掛かってるが天気は良好だな。

「さてゼロ助、とりあえずお前は野良の知識はゼロって事でいいんだよな?」
「ある程度木の実やそれが生る木についての知識はある。それと、ポケモンについても」
「さよけ。そんならまぁとりあえず飯を探しながらこの辺を見て回るかね」

 ってか昨日木の実を取りまくった事をこの辺のポケモンに謝っていかんとならんなぁ。あんな抱える程の木の実を取っちまうと、この辺りに暮らしてるポケモンの食事事情にも結構関わってくるんだよ。
そんじゃまゼロ助を連れて行くとするかね。まずは交流して親密度を上げねば。

「そういやゼロ助、体は大丈夫か?」
「特に異常は無い。万全とまではいかないが」
「……普通なら、あんだけ弱ってると一日やそこらでそこまで回復する筈無いんだけどなぁ? ま、元気になったんならそれでいいやな」
「それでいいのか? 自分で言うのもあれだが、相当怪しい奴だと思うんだが、俺」
「胡散臭い奴なんて、今までに散々会ってきたって。お前さんはそういう奴等に比べたら怪しくもなんともねぇな」

 意外そうな顔してるゼロ助にニヤッと笑って見せて、ついて来るように手招きしてやった。大人しくついて来たって事は、多少俺の事を見直したかね?
しっかしゼロ助が居るとなると飛べんのが不便だな。背負って飛んでもいいが、それじゃあ意味が無いと判断した。
ま、たまにはゆっくり歩いてくのもありだろ。飛ばなきゃ死ぬ訳でもあるめぇし。
おっと、第一現地ポケモン発けーん。見た目からして虫タイプのポケモンかね。

「よぉ、こんちは」
「ん? この辺りでは見掛けないポケモンだね?」
「あぁ、放浪者なんでね。リザードンのラルゴってんだ」
「放浪者……なるほど。で、そちらは?」
「俺は……」
「俺の連れでゼロ助ってんだ。見た通りのサンダースさね」
「……自己紹介くらい自分で出来る」

 なっはっは、ゼロ助はむくれちまったが先に言っちまったもんねー。まぁでも細かい事は気にすんなって。

「……どうやら、君達は友好的な流れ者のようだね」
「もっちろん! って、その言い方だと友好的じゃない奴が居るみたいだな?」
「うむ……最近この辺りのポケモンが見知らぬポケモンに襲われるという話が噂として広まっていてね、実際襲われたと言う話もされているから警戒しているんだよ」

 なんと、そんな事件が起こっていたとは。捨て置けん話だのぉ。

「あんた、えーっと?」
「……コロトックだ、師匠」
「おぉ、ナイスだ弟子。んでコロトックさん、その話、もう少し詳しく知ってたりしねぇかい?」
「今の話を、かい? いや、私もこれ以上は分からないな」

 うーむ、分からないものをこれ以上聞く事は出来んか。まったく、現地のポケモンを襲うとは放浪者の風上に置けん奴だな。
そういう輩を成敗するのは同じ放浪者の役目、ここは一丁、一肌脱ぐしかあるめぇよ。

「分からんものを無理に聞く訳にはいかんな。よし、他の誰かに聞いてみっか」
「どうするつもりなんだ、師匠」
「決まってんだろ、そういうおかしな事をする放浪者を退治すんのも同じ放浪者の役目ってこった」
「なんだって? まさか……」
「おう! そういうふてぇ輩はジャッジメントだぜ!」
「なんでも、かなり強いポケモンだったそうだが……」
「それなら俺だってかなり戦れるぜ。伊達に放浪してる訳じゃねぇし」

 なんたって一応リザードンだぜ? 実力はある方なんだなーこれが。

「……それなら、君達の事はこの辺りのポケモンに話しておこう。そうすれば情報も集めやすい筈だ」
「おっ、助かるぜ。警戒されてたんじゃ動きにくくて仕方ないからな」
「協力してくれるものには、こちらもそれなりに協力させてもらうよ」
「すまねぇな。よし、そんなら次行くぜゼロ助!」
「あっ、待ってくれ!」

 うーん、とりあえずその襲われたっていうポケモンを見つけて話を聞いた方が良さそうだな。相手の姿も分からんのは打つ手が無いに等しい。

「待ってくれって。どういう事なんだ?」
「たまに居るんだよ、現地のポケモンを襲って飯を奪ったりする奴。そういう奴が増えると、同じように放浪者をしてる俺みたいなポケモンはどうなるかな?」
「……なるほど、立場的に同類として扱われるのか」
「その通り。するってぇと放浪者が動きが取りにくくなる、だからそういう輩を成敗するのは同じ放浪者の役目って訳さ」
「放浪者がやらなければ信用の回復にはならないって事か」
「物分りがいいやねぇ。そういうこった」

 まぁ、こんな事やるのは俺くらいだろうけどな。基本的に誰でも、他の奴の問題にまで首突っ込んでる余裕なんて無いだろうし。
だ・が、俺はガンガン首突っ込んでいくスタイルだ。困ってる奴を放っておいちゃあお節介焼きの名が廃るってな!
それに、今回はゼロ助に色々見せる良いチャンスだぜ。こいつがどんな生き方を選ぶにしても、選ばせたくない生き方を見せるのはありだろ。

「にしても、ちゃーんと俺の事師匠って呼んでるじゃないか。やれば出来るねぇ」
「あ、あんたが呼べって言ったんじゃないか。だから呼んだだけだ」
「はっはっは、素直な奴は嫌いじゃないぜ」
「う、煩いな」

 照れてる照れてる。可愛い奴め。
しかし、昨日の俺の乱れ採集はそんなに問題になってないみたいだな。まぁ、そんな問題が起きてれば二の次か。
ってかまず何か食いたいところだなー。腹が減ってはなんとやらって昔から言うし。

「ん、カゴの実か」
「おぉ、よく見つけた弟子! 朝飯はこれだな」
「了解」

 って、おぉ!? 飛んだ!? そのまま木に生ってる木の実を前足で叩いて落とした。

「……凄い事出来るねゼロ助」
「そうか? 大した事じゃないと思うけど」
「あ、あのな……普通跳躍で木の上まで行ける奴ってそんなに居ないからね?」
「ふむ……まぁ、便利だし」
「確かに、便利だな」

 あんまりゼロ助自身が気にしてないし、俺も気にしないでおこう……。
さて、ゼロ助が落としてくれたカゴの実を拾ってと。渋い実だが贅沢言わずに食っとくか。
堅ぇ……い、いや、噛むだけ満腹になるって事にしとこう!

「よし、これ食ったら他の奴にも話聞いていくぜ」
「さっきの襲ってくるポケモンっていうのの事だな」
「おうともさ。それに、野良の放浪者は現地のポケモンとのコミュニケーションも大事だ。上手くいけばその辺に生ってる木の実の位置なんかを聞ける事もあるしな。だから俺が話してる様子をきちんと見ているように!」
「あ、あぁ……」

 なんで微妙に戸惑ってるし? シャイ? シャイなの? でも渡世にコミュニケーションは必須、恥ずかしがってないでどんどん話せるようにならんとな!
ん? でも俺とは普通に喋ってるよな。あれ、俺の勘違い? それとも俺が喋り過ぎ? ……後者でない事を祈ろう。



「結局分かったのは、襲われるのは夕方から夜の間で、どうやら相手は一匹では無さそうって事か?」
「だなぁ。襲われたっていうポケモンから話を聞いた感じ、どーも見た目にバラつきがあるもんなぁ」

 今日の調査を切り上げて、あの横穴に戻って来たところだ。この問題を解決するまでの拠点はここだな。

「一匹は白くて、爪を持つポケモン。それから電気を使う尻尾の長いポケモンにもう一匹……」
「そのニ匹にボスって呼ばれてるポケモン、か」

 今日集まった情報によると、襲撃犯の目的は食料みたいだ。それをボスって奴に持っていく為に現地のポケモンを襲ってるらしい。
となると、相手はある程度集まった集団だろうな。こりゃあちょこっと厄介かもしれんなぁ。

「師匠、相手を止めるにはそのボスを倒さないとならない、と思っていいんだな?」
「だろうなぁ。そいつが何処に居るかが分からんと難しいが」
「……まずはポケモンを襲ってる奴を見つけて、そいつから聞き出すって事か」
「その通り。夕方から夜ってのがネックだな、恐らくこの辺のポケモンが住処に戻るのを待って襲ってるんだろうが、こっちが探すには面倒だぞ」

 下手に動けばそいつ等に俺達が探してるっていうのがバレるし、そうなると逆に俺達がそいつ等に襲われるって可能性がある。
こうなると面倒だ。数によってはボスを探してる暇が無くなるし、そのボスに逃げられる可能性も出てくる。逃げられたらまた別の場所で同じ事をするだろうし、近くに居るって分かってる今決着をつけたいよな。

「いや、その必要は無いんじゃないか? 師匠の言ってる事が正しかったとしたら、奴らは相手の住処を見つける為に、狙ってる対象を尾行してるんじゃないかと思う」
「おぉ、確かに」
「だとしたら、昼間でも奴等を見つけられるだろ。今日も、妙な気配がした時もあった」
「マジで?」
「あぁ」

 わお、どんだけ高性能なのゼロ助? そんなのに気付いてたとは……俺はさっぱり分からんかったぜ!
となると、明日はゼロ助の感じた妙な気配って奴を追いかけてみるか。襲撃犯じゃなくても、何か分かるかもしれんし。

「ん? 妙な気配ってそもそもどんな感じだったん?」
「……思ってたが、その言葉遣いはなんなんだ? なんというか、辺りをずっとウロウロしてるような気配があった。それが獲物を探す為だったとしたら、もしかしたらポケモンを探してうろついてたのかもしれない」
「俺の話し方については気にすんな。ふーむ、うろつくポケモンか。とにかくなんでも調べてみようかいね」
「そうだな」

 言葉遣いはなんなんだ、か……大分前にどっかのヒトカゲがそんな事言ってたっけな。俺と同じ喋り方の奴に。
……止め止め! 辛気臭いのは俺のキャラじゃないぜ! 今はとにかく、この辺の悩みの種を消してやらんとな。
燃える焚き火の中に薪を放り込んで、ゼロ助の方を向いてみた。
炎を眺めながらぼんやりしてるな。もう逃げる気は無いのか、警戒する様子は無いみたいだ。

「なぁ、師匠」
「んぁ? どした?」
「……もしかしたらなんだが、元々は誰か人間と一緒に暮らしてたんじゃないか?」
「……どうしてそう思った?」
「野生のポケモンがこうして焚き火をするのにも違和感があるし、ヒトカゲ種はそうそう野生に居ない珍しい種だ。それが単体で、群れも作らずに居るのに疑問がある」
「鋭いねぇ……」

 んー別に話しても悪い事じゃないし、まいっか。

「ご名答。俺は元々トレーナー付きさ。ちょいと事情があって捨てられちまったんだけどな」
「そう、だったのか」
「お前さんは? こっちに聞いたんだから話してくれてもいいっしょ?」
「俺は……トレーナーじゃないけど、人間と一緒に居た。生まれた時から」
「やっぱり。野良で生きた事無いって当てた俺の勘も捨てたもんじゃねぇな」

 ありゃ、ケラケラ笑ってみせたんだが、ゼロ助の奴神妙な顔しちまった。

「師匠は、人間を恨んだりはしてないのか?」
「あん? 別に恨んだりなんだりって事はねぇけど?」
「どうしてだ? 捨てられたんだろ?」
「まぁー、俺を捨てたのは俺のトレーナーだった奴じゃないし、理由も分かるからなぁ」
「理由?」
「……俺のトレーナー、死んだんよ。病気でポックリな」

 そりゃあ呆気無いくらい簡単に逝っちまった。前日まで、笑いながら話なんかもしてたのにな。
んで、一緒に旅してた俺や俺の仲間はそいつの家族に引き取られたんだが、あいつを思い出すのが辛いとかで全員捨てられた。今思うと相当理不尽だよなぁ。
しかも、仲間を全員違う場所に捨てるとか嫌がらせか? と思うような事もされてたり。……他の奴には話してないが、どうやらそれぞれが暮らし易いであろうところを選んだって事らしかったがな。
そういや、別れた後はまったく音沙汰もねぇけど、あいつ等生きてんのかねぇ? 俺と違ってあいつに依存したような生き方してたし、大丈夫だったんかね?

「まぁそんな事もあって、こうして野良をやってるって訳だ」
「そうなのか……」
「群れを作ったり入ったりしないのは、そいつとの厄介な約束の所為ってとこだな」
「約束?」
「……夢を、継いでやるってな。死ぬ前日に無理やりさせられちまったのよ」

 多分、あん時にもう自分が長くないって分かってたんだろうな。だから俺に全部おっかぶせたんだろう。

「その、夢って?」
「ポケモンと人が本当に仲良く暮らせる明日を作る。その為に、まずは困ってるポケモンを助けるんだー、だとさ」

 本当に厄介だろ? んな無茶な夢を俺だけでどうしろと? って何度思った事か。
でも、夢を託された以上投げ出す事も出来んくてな、こうして放浪者になったってこった。お節介焼きなんて名乗りながらな。

「……師匠、本当に……そんな夢を叶えられると思ってるの?」
「さぁてな。まぁ、ぶっちゃけ俺だけじゃ無理だろ絶対」
「分かっててどうして」
「やるか、か? そんなの決まってるだろ」

 あいつもよく言ってたよ。分からないを分からないのままにしておいたら、それは絶対に分かる事は無い。分からない事を分かるようにするのが面白いんだろうってな。
『分からない』に向かっていく冒険、それがあるから、生きてるのは楽しいんだってな。

「俺だけで出来ないのは分かってても完全に出来ないかは分かってないだろ? 俺が助けた奴や、知り合った奴。そんでそいつ等の知り合いとか子供とかがよ、俺の事ちっとでも覚えてて、こんな馬鹿に乗ってくれればその内叶うかもしれんだろ」
「途方もない話だな。賭けにしても勝ち目が無さ過ぎる」
「へへっ、博打ってのは冒険するから面白いんだぜ? 何事も冒険を楽しまねぇとな」
「冒険を楽しむ、か。俺にはよく分からないよ」
「だっはっは! ゼロ助にも分かる時は必ず来るぜ。なんてったって俺の弟子なんだからな、お前さんは」
「無理矢理にしただけじゃないか……」
「切っ掛けなんてどうでもいいんだっての。いいか? 冒険心ってなぁ誰にでも、いつだってあるもんなんだ。俺の口車に乗って一歩踏み込んだ時点で、お前さんの冒険心ももう仕事してんだよ」
「師匠の弟子になるのが冒険なのかよ……」

 会って間もない相手について行くなんて冒険以外の何者でもあるめぇよ。俺じゃなかったら美味しく頂かれてるところだぜ。どう頂かれたかは知らんが。
呆れながらも、ゼロ助の顔も穏やかになった。しかめっ面なんかしててもなーんも面白くないんだ。いずれ、腹から笑わしてやるさ。

「さっ、明日もやる事目白押しだ。そろそろ寝るぞー」
「了解。じゃあ、その……お、お休み」
「……なんでそんな照れ具合なの?」
「い、言い慣れてないんだ! もうお休み!」

 あらら、誤魔化して寝ちまったよ。まったく……喋り方なんかで勘違いしたが、まだそう大人って訳でも無さそうだな。可愛げのあるガキンチョっぽさもあるんでねぇの。
ゼロ助の意外な一面も見れたし、今日は別に逃げないように見張りつつ寝なくても良さそうだな。ゆっくり横になって寝るとするかいねー。



「ふんふふーん、あっさーのみっずあっびさっいこっうだーっと」
「……水浴びの好きなリザードンってどうなんだ?」
「いいじゃねぇかよ。気持ちいいだろ? ほれ」
「ぷぁっ!? み、水を足で弾くな!」

 顔に掛かった水を前足で拭いてるゼロ助を眺めつつ、川のせせらぎに座り込む。いやー、気持ちが良いやねぇ。

「……ところで師匠、尻尾も水に浸かってるように見えるんだが……」
「見えてるんじゃなくて浸けてるんよ?」
「いや、それ駄目だろ!? ヒトカゲ種の尻尾の炎は!」
「命の炎よ? ……あぁ、俺のパゥワフリャーな命が、川に浸かった程度で消える訳が無いっしょ?」

 ゼロ助の目の前に尻尾を持って行って、徐ろに尻尾を川へダイブさせる。おぉ、驚いてる驚いてる。
そもそもだな、俺達ヒトカゲ種が死んだ時にこの炎が消えるからと言って、この炎を消したら俺達が死ぬってなるのはちょーっと誤大妄想なんじゃね? と俺は思うんよ。
普通の炎はだ、空気を燃焼させるからして水で消える訳だ。主に窒息効果でな。
その点、この火が燃やしてるのは俺の体力とか……とにかく生命力であってだな、水に触れて俺自身が弱って火が小さくなる事はあっても、水に浸けること自体が原因で炎が消える事は無い訳だ。

「水の中で、炎が燃えてる……」
「綺麗っしょ? だーい丈夫、弟子が一人立ちするまでは絶対に死んではやらんからさ!」
「も、元々そんな心配はしてない!」
「あんれー? 俺が水に尻尾浸けて慌ててたのは何処の誰だったかなー?」
「う、煩いよ!」

 ちょっとデレるとゼロ助は本当に面白いな。それに、かなり良い奴だ。
ま、流石にあんまり冷えると弱ってくるから、そろそろ上がるかね。炎タイプでこれだけ水に耐性あるならなかなかのもんだろ? 普通なら川に浸かるなんて絶対にしないだろうし。

「よっし、十分体は洗ったか? そろそろ動き出すぜ」
「了解。……ん? 師匠、誰かがこっちを見てる」
「なぬ? どこぞ?」
「こっち……みたいだな」

 ほう、俺達を見てるなんて何処のどいつだぁ? この辺に居ないから珍しくて見てたって可能性も大いにありはするが。
ゼロ助の後を追って歩いていくと、どうやら相手が逃げ始めたらしい。なら、間違い無く俺達を見てたって事で間違い無いだろうな。

「追うか?」
「そうだなぁ……よし、俺は空から行くから、ゼロ助はこのまま追ってくれ。サンダースの瞬足、頼りにしてるぜ?」
「了解だ」

 ってな訳でフライアップ。うーん、木の鬱蒼とした感じでなんとなく予想はしてたが、見えんなぁ、ゼロ助もゼロ助が追ってる奴も。
んや? なんか光の玉が森から上がったぞ? ……まさか、ゼロ助か?
とりあえず、あの光の玉の下に降りてみるか。ゼロ助じゃなくても、俺に何か用がある奴の仕業だろうからな。

「すぃーっと来てどーん」
「なんだよその着地の台詞……」
「あ、やっぱりゼロ助だったか。……んで、そこで伸びてるポケモンはなんぞ?」
「追いついたけど、そのまま逃げ続けられるのも厄介だと思って気絶させたんだ」

 気絶させたって……どうやって? ってか俺飛んで数十秒しか経ってないのにそんな芸当してたんすか!?
お、恐るべしゼロ助。絶対敵には回したくないぜ。

「……んで、こいつはなんぞ?」
「ビッパだな。ここ、シンオウではポピュラーなポケモンだ」
「へぇー、ってかここってシンオウって地方なん?」
「師匠、それも知らないで来たのかここに?」
「だーって俺ってば大体行くところ気分で決めてるから、行く先なんて確認しないし」
「……無計画過ぎるのも危険だと思うぞ?」
「今更今更。しかし、気絶してるとなると起きるまで待たないとならないか」

 ありゃ、俺が喋った後すぐにゼロ助が気絶したビッパに近付いて、背中をぐいっと押した。何してんだ?

「ふぁ……」
「ぬぉ!? 目ぇ覚ました!?」
「ふむ、上手くいったかな」

 気絶させるのも起こすのも自在って、あなたは何処ぞの拳法家ですか? 
目をパチパチさせてるところを見ると、気絶してた以外に異常は無さそうだな。さて、どういう事情があって俺達を見てたか聞くとしますか。

「はーい、グッモーニン」
「え……うわぁぁぁぁ!?」
「いやいや逃がさんよ。どっちにしろ、このサンダースがデュクシってやったらお前さんは気絶しちまうんだし」
「変な擬音付けないでくれ……」
「こ、こうなったら……でやぁ!」

 あ、体当たりしてきた。んで、俺にぶつかってころころころーっと。……流石に体の大きさが違い過ぎんだろ。

「う、うぅ……」
「まぁ……」
「そうなるわなぁ」
「うわぁぁぁぁん! お母さぁぁぁぁん!」

 あー、泣き出しちまったよ。何もしてないのに罪悪感で胸がズキズキ。

「おいおい泣くなって。別にお兄ちゃん達何もしねぇからよ」
「……師匠、何か来る」
「へぁ? どうしべりゃ!?」

 ぐほぉ、横っ腹にダイレクトダメージ……体が横にくの字になったぞくの字に。

「……大丈夫か?」
「も……もちっと早く警告してねゼロ助……」
「あ、あんた達、うちの息子に手を出したら、うっ……」
「お母さん!? お母さん大丈夫!?」

 んぁ? 何がどうしたんだ? なんか弱々しい声が聞こえたが。
体を起こしてみると、俺が居た場所に一匹のポケモンが倒れてる。んで、さっきのビッパがそれに泣きついてるって事は、こいつの母親か。

「……! 不味い師匠、このビーダル、大きめの傷がある」
「なんですと!? ……こりゃあ不味いな、傷から何か毒が入ってる。放っておくと手遅れだ」
「うぐっ……」

 傷が出来たのは、恐らく昨日の夜だな。毒の所為で化膿が始まって傷口が塞がらなかったのか。こんな状態で無理をする……。

「ゼロ助、お前はこいつを川へ連れて行って傷口をなんとか洗ってくれ。幸い、傷口は広いが浅い。洗っても平気な筈だ」
「分かった、師匠は治療用の木の実を」
「言われんでも。坊主、お前の母ちゃんは絶対俺達が助けてやるからな! だからこの兄ちゃんと一緒に、母ちゃんの背中を洗ってやるんだぞ」
「ふぇ? う、うん」

 とは言ったもののゼロ助でこのビーダルとかいうポケモンを運ぶのは……あ、背中に乗せれんのね。あれ、こんなにサンダースってパワフルだったっけ?
いやまぁ今はそんな事言ってる場合じゃねぇか。あっちはとにかくゼロ助に任せて、俺は木の実を集めんと。えっと? 毒消しのモモンの実と怪我の治療用にオレンかオボンの実、それと炎症止めにチーゴの実か? ぬぅ、そのものか、類似した効果のある木の実が見つかってくれればいいんだがな。
とにかく、あまり時間は無さそうだ。急いで探すとするか!

 ……し、死ぬ、死んでしまう。全力で飛び回ってたから俺の体力がレッドアラームだぜ。
でもなんとかそれらしい木の実は集められた。……中にはなんか見た事も無い木の実もあったがまぁよし。使うの以外は晩飯にでもしよう。
いつもの川に戻ってきたが……居た、ゼロ助とあの二匹だ。間に合ったよな? な!?

「ゼロ助ー!」
「! 師匠、集まったのか!?」
「なんとかな。そっちは?」
「膿は洗い落としたが、出血性の毒なのか血が止まらないんだ。先に解毒を!」
「おっしゃ任せぃ! ちょっと待ってろよー……」

 俺のトレーナーはちょっと凄い事が出来てな、なんと木の実と水を混ぜて薬を作るなんて事が出来ちゃったのよ。
んで、それを俺も教わってんだなーこれが。まぁ、本格的にではないけどさ。
手頃な川の石を岩砕きで粉砕! ……よし、器はこれでいいな。
これにまずは川の水を汲んでーっと。それにまずは硬い実から順に放り込んで、石で潰しながら混ぜるっと。
本来なら薬効のある木の枝とかでやれればベストだが、この際贅沢は言えんな。石の欠片が混ざらないようにある程度慎重にやらねば。
よし、オレンの実とラムの実は完全に混ざったな。ラムの実なんてあったのはマジでスーパーラッキーだったぜ。
そいつに次はチーゴの実を入れてグリグリ……んで最後にモモンの実を裂いて、食べれる果肉の部分をこいつに入れて混ぜ混ぜ……おっし、こんなもんだろ。

「俺印の木の実薬ってな! ゼロ助、ちょっとそいつを起こして支えててくれ」
「わ、分かった」

 よーし、こいつを少しずつ口の中へ流し込むっと。……なんとかまだ飲み込む力は残ってたみたいだな。上手く飲んでくれたぜ。

「ぐっ!?」
「おっと我慢してくれよ? 味は保証出来んからな」

 汗の出方からして、体温も上がってそうだな。マジで見つけてよかったラムの実。自然の万能薬の効果は伊達じゃあないぜ。
数回に分けて、石の器に入った薬は全部ビーダルが飲み込んだ。……ちっと舐めてみたら、モモンの実が入ってるとはいえ表現に困る味だったぜ。

「う、ふぅ……」
「お母さん……」
「……効いた、みたいだな」
「我ながらなんというスキルでしょ。自分の才能が怖いぜー」
「ただ適当に木の実を混ぜてただけに見えたが……」
「まぁ、大体はな。でもベースにしたい効果の木の実兼硬い木の実を先に潰して、後から硬度の低い木の実とか味の良い木の実を入れたりとか結構考えてんだぜ?」

 んで次は傷口に塗る塗り薬をば。こいつには木の実だけじゃなく、ある葉っぱを使います。ぶっちゃけ、飛び回ってる時に崖に生えてたのを偶然見つけたんだが。
取り入出しまするは激マズの定番、復活草! 食うのはマジ勘弁だが、塗り薬にすればあら大変。傷口から薬効が体に染み込み、傷の修復を早めてくれるのだ! わーお素敵効果!
それにさっきの余りのオレンの実を加えてまたグリグリと。あ、今回は飲むんじゃないからより石の破片が入らないように考慮して、先にオレンの実はクラッシュしております。
それに今度はー、もう1回モモンの実を入れて粘り気と毒消しの効果を混ぜ混ぜ。……ん、こんなもんかな。

「そんじゃまこいつをぺたぺたと」
「う、うあぁ!」
「お母さん!?」
「そーりゃ今まで血を流してた傷口に塗るんだ、痛みも強いだろうが我慢しろよ? 別段毒を塗りたくってる訳じゃねぇから」

 うっし、傷口全体に塗ったぜ。これだけの素材を集められたんだ、相当参ってたって良くなるだろうさ。

「くっ、はぁっ、はぁっ……」
「……ん、呼吸も落ち着いてきたかね? 後は落ち着ける場所で休ませるしかねぇかな」
「もう大丈夫なのか?」
「うんにゃ、まだ油断は出来ねぇよ。傷口が大分傷んじまってたし、幾ら復活草使ったと言っても回復には時間掛かるだろ。まぁ、使ったもん的にこれ以上悪くはならないだろ」

 とりあえずこいつをおんぶしてっと。まぁ、ここなら俺達の横穴が1番近いわな。そこで休ませるか。

「それで、あれはどうするんだ?」
「……おーい、お前の母さんはこっちで休ませるからな。坊主も来たかったら来いよー」

 母親は心配だが、俺達への警戒もしなきゃならなくて半身出しながら木の陰に隠れてるってところか。こう言っておけば後で来るだろ。
あまり動かしたくは無いが、なんとか横穴まで運んだぜ。横にさせてっと。

「ふぃー、あー疲れた」
「治療用の素材探しからだからな。大丈夫か師匠」
「流石にちっとしんどいわ。収集はやっぱり短時間でやるもんじゃねぇなぁ」
「なら今日は休むか? そのビーダルの容態も看てないといけないだろうし」
「そうだな。ゼロ助が昨日感じた気配って奴を調べたいが……仕方ねぇか」
「……なぁ師匠、もしかしたら、このビーダルも被害者なんじゃないか?」
「ゼロ助もそう思うか? 多分そうだろうとは俺も思ってたとこだ」

 相手を切りつけて、その傷口に毒を流し込むたぁえげつない事をしてくれるじゃないの。マジで下衆だな。
しかし、そんな技あったかな? 技を特定出来れば相手の正体も分かるんだがなぁ。

「お、お前ら! お母さんを返せ!」
「ん? あぁ坊主か。お前の母さんは……うん、眠ってる。このまま休んでれば大丈夫、元気になるぞ」
「え、ほ、本当?」
「おう。こっち来て傍に居てやりな」
「うっ、お、お前等は昨日の奴等の仲間じゃないの?」
「……昨日の奴等? やっぱり、何かあったのか?」
「お母さんと一緒に、寝てるところに帰ったら急に後ろから襲ってきた変な奴等が居たんだ。僕を庇ってお母さんが怪我して……」

 そしてこうなったと。子供を守って大怪我たぁ親としては鏡だが、ちょいと無茶し過ぎやなぁ。

「安心しな。俺達はそいつ等の仲間じゃねぇよ。それどころか……」
「そいつ等を退治しようとしてる、って事だ」
「え、あいつ等をやっつけるの?」
「多分そうなるだろう。だよな、師匠」
「おうともさ! お前の母ちゃんがやられた分はきっちり返してやるぜ」

 俺を見上げてる坊主の頭を撫でて、にっこり笑い掛けてやる。子供を安心させるには、これが1番だろ。

「あ、あのね、昨日襲ってきた奴等の一匹、お母さんに怪我させられてるんだ! 硬そうな青いポケモン!」
「硬そうな青いポケモン……また違うポケモンだな」
「それと、紫色のどろどろしたポケモンも居た!」
「! ……毒は間違い無くそいつの所為だな」
「あぁ、ベトベトンだと確定して良さそうだ」

 不味いな……そんな奴が居ると、下手するとここの水源であるあの川が汚染される危険がある。そうなったら洒落にならんレベルでこの辺に被害が出ちまうな。
そいつだけでも早々に倒す必要があるな。ただでさえ、襲った相手を死なせかねないような事までしたのは、俺的に完全にアウトだ。

「……!」
「ゼロ助、言わんでもいいぜ。どうやらしつこい輩に手傷を負わせちまったみたいだな、坊主の母さんは」
「え?」
「坊主、ここに居て母ちゃんをちゃーんと見ててやるんだぞ? 俺達は、ちょいと仕事だゼロ助」
「了解だ」

 横穴を出ると、そこには二匹のポケモンが近付いてきてた。滴った血の跡を追ってきたんだな。
一匹は何か分からんが、一匹は想定通りベトベトンだ。……もしかしてこいつ等、ある程度組で動いてるのか?
まずは様子見と行くか。まぁ、大体相手の反応に予想は出来てっけど。

「ん? なんだお前等、俺の住処に何か用か?」
「なんだぁお前は? てめぇなんかに用はねぇんだよ! そこ退け!」
「だからここは俺の住処だって言ってんだろ。なんで訳の分からん奴を入れにゃならん」
「……なるほど、つまりあなたが私のパートナーに傷を負わせたビーダルを保護したと言う訳ですか」

 でろでろした見た目してる癖に妙に丁寧な喋り方する奴だな。ま、喋り方なんかで態度は変える気は無いが。

「……するってぇと、あのビーダルをやったのはお前等って事か」
「あの野郎、俺の腕の装甲を噛み砕きやがって……ただじゃおかねぇ!」
「もう既に私の毒で虫の息な筈、匿わずに私達にお引渡し下さい。看取るのもお辛いでしょう」
「ざけんな。俺が拾った奴はどんな奴であろうと助ける。死に掛けだろうと生きる気力が無かろうと例外はねぇな」

 ぴくっとゼロ助の耳が反応した。まぁ、ゼロ助に向けて言った言葉だからな。

「てめぇ……邪魔するつもりか」
「てめぇ等こそ邪魔なんだよ。さっさと消えろ、さもなくば……」

 ちょーっと本気になってる俺ってば、手が早いんよなー。

「は? げぶぅ!?」

 加速をつーけて一気にどーん! おぉ、回転しながら吹っ飛んでったよ。

「ぶん殴る!」
「……え? アーマルド!?」
「師匠……それもう殴ってる」

 ふーん、こいつはアーマルドってのか。まぁもう木に引っかかって気絶してるだろうからどうでもいいか。
しっかし硬かったなー。こいつの装甲を噛み砕くとは、あのビーダルやるねぇ。

「い、いきなりな……が……」
「お前は麻痺させてもらった。触れて毒を浴びるのも嫌なんでな」
「おぉ、やるねぇゼロ助。まぁこれでじっくり話が出来るって訳だ」

 動けなくなったベトベトンに俺達がにじり寄ると、麻痺した奴は怯えたような顔をしてる。これがビーダルに止めを刺しに来たとは、笑わせてくれるなぁ。

「さて、動けないまま消し炭に変えられる訳だが、言い残す事はあるか?」
「こぉ、ぁ、ぁい、ぇ……」
「……少し電磁波が強すぎたか? 始めて使ったから加減が出来なかったみたいだな」
「ありゃ、そうだったのか。まぁこれから慣れるしかねぇやな」

 手も動かせないほど痺れてるんじゃどうにもならないわな。さて、どうするか。
話が出来ない以上こいつと話す意味は無し。そんなら……こうするしかないわな。

「お前等……流れ者だな?」

 必死になって頷いてる。この状態で答えなかったり妙な事をしようとすれば消されるだけなんだし、そりゃあ逆らわんわいな。

「なんでビーダルの命を取ろうとした? 流れ者がんな事すればどうなるか、知らない訳は無いよな?」

 だんまりか……。ま、この質問には元々答えられんのは分かってる。喋れないんだし。

「やり放題出来るようなバックがあるって事だな。そうだろ?」

 一瞬目が泳いだな、組織的に動いてる奴等が居るのはこれで間違い無い。

「ご立派な仲間を連れてしたい放題たぁ良い話だな。生きやすくていいだろ」
「! そぉき、あぅなぁ、なぁま、いえぅ」
「その気があるなら仲間に入れるって言いたいみたいだな」

 ははっ、頷いてる頷いてる。……んなもん入るかクソ野郎が。

「一つだけ、教えてやるよ」
「?」
「俺はな、てめぇ等みてぇな奴が大ッ嫌いなんだよ」

 思いっきり息を吸ってー。ゆっくりとなんて言わずに一気に吐き出すー。
ほんのりと加減をした火炎放射がベトベトンを飲み込んだ。殺しはしねぇよ、こいつ等と同類にゃあなりたくねぇからな。
ま、これだけ焦げれば当分動けないだろ。ピクピクしてるし。
んじゃま、こいつ等の根城を割り出す作業に入りますか。こっからの俺は普段のお節介焼きとは一味違うぞ?

「さーてと、もう一匹から必要な情報を引き出すとするかいねー」
「ベトベトンはもういいのか?」
「どーせもう虫の息だ、放っておいても何も出来ねぇよ」

 アーマルドとか言う奴はっと。あぁ、居た居た。俺のワンパンで気絶すんなら実力も大した事ねぇな。
そうだな……とりあえずもう2、3発殴れば起きるか。どか、ばき、ごすっと。

「ぐぶ、がぁ……」
「グッモーニ~ン。お目覚めはいかがですか~?」
「て、めぇ……こんな、事して……ただで済むと……ぶぁ!?」
「余計な事言わなくていいんだよ。お前がこれから喋るのは俺からの質問の答えだけだ。それ以外を喋れば、お前さんの相棒の後を追う事になるぜ?」

 ベトベトンの目の前に投げてやると、見る影も無くなった姿の相棒を見て震えだした。悪いやね、俺ってばこういう奴等に容赦しねぇから。
倒れ込んでるアーマルドの頭に足を振り下ろす。足の向こうから見える奴の目は、恐怖通り越して涙が滲んでるぜ。

「チャンスは一度だ。よーく思い出して言えよ? ……お前等の仲間と、お前等のボスは何処に居る?」
「こ、ここから川を超えて進んだ先の、木々が拓けた場所……」
「オーケー、で? お前等のボスはなんだ?」
「一匹のドンカラスだ……頼む、もう止めてくれ……」

 あらら、泣き出しちまったか。まぁ別に聞きたい事も聞いたし、こいつにもう用はねぇな。
頭から足を外して……無防備になってる腹を思い切り蹴って吹き飛ばしてやった。もう一度木に叩きつけられたら、立つ事も出来んだろ。

「ご苦労さん。それはお前らに殺されかけたビーダルの分だ。よかったな、ビーダルが死んでたらこんなもんじゃ済まさなかったところだぜ」

 もう聞こえちゃいねぇだろうが、とりあえず締めの一言だ。ここまでやりゃあ二度と俺に向かってこようとはしねぇだろ。

「……師匠、強かったんだな」
「なっはっは。世の中な、お節介焼きの良い奴ってだけで居られないこともあるんよ。ってかさ、カッコつけたところで一個いい?」
「どうしたんだよ?」
「足めっちゃいってぇー! 硬過ぎんだよあいつ、反則だろ!」
「……締まらないな……」

 こうなってくると、ゼロ助が感じた気配は俺達の読み通り、こいつらの仲間がここの現地ポケモンを探してる気配で間違いはあるめぇよ。
そして、こいつ等を放っておいたら誰かを死なせる可能性がある事も分かった。残念だな……完全に叩き潰すつもりは無かったのに。
だが、こいつ等はやっていい事の範疇を完全に逸脱してる。ここまでいった奴等を止める方法はただ一つだ。殲滅、それだけしかない。

「……やれやれ、まーたしばらく後味の悪い日が続くなー」
「なら、止めるか?」
「止めねぇよ。寧ろ、俺がやらにゃならんのよ。他の誰かが、同じように思わないようにな」

 そう、俺がやらなきゃならんのだ。余計なもんを背負うのは俺だけで十分だ。



 パチパチと音を立てながら、薪は燃え続ける。寝るまでは明るくしておきたくて、この焚き火は毎日しちまうんだよな。

「う、ん……ここ、は?」
「お母さん!」
「よぉ、無事に目は覚めたみたいだな」
「!?」
「おっとあまり動くなよ? やっと塞がった背中の怪我、また開いちまうぜ?」

 背中の怪我って言葉で、何が起こったか思い出したみたいだな。粉骨砕身して治したんだ、無理してまた傷口がパックリは止めてくれよ?

「な、なんであたしを治したんだい」
「お母さん違うよ。この二匹は、お母さんに酷い事した奴等をやっつけてくれたの」
「やったのは、ほぼ師匠だけどな」

 ゼロ助達の話を聞いて、ビーダルはこっちを向いた。傷を治してやったのは事実だし、それで納得してもらいたいもんだな。

「……あのニ匹は、どうなったんだい?」
「死んではいないだろうが、もうこっちを襲ってくる事はねぇだろうさ。八分殺しってところだな」
「なら、迷惑を掛けちゃったのはこっちのようだね。ありがとう、お陰で命拾い出来たよ」
「いいってことよ。しかし、酷い目に遭ったみたいだな」
「いきなりこの子を襲われそうになって、咄嗟に庇ったまでは覚えてるんだけど……」

 なら、俺に体当たりしたのも無意識に坊主を守ろうと……いやぁ、凄いもんだな。

「その分だと、しばらく安静にしてれば今まで通り動けるぜ。俺の薬もなかなかのもんじゃねぇか、なぁ」
「同意を求められても……まぁ、きちんと効いてるみたいだけど」
「でも……なんであたしはあんた達に?」
「あ、あのね……お母さんに怪我させた奴が、明るくなったらまた来るって言ってたから、僕心配になって外歩いてたの。来たら、お母さんと遭わないように」
「そん時に俺達がその坊主を見つけて、それを無意識に追い掛けてきたあんたに俺が体当たりを喰らって、って流れさね」
「そ、そうだったのかい? 当たった場所は?」
「なぁに心配要らねぇよ。大した事は無かったさ」

 どうせただの体当たりだしな。んなもんでどうにかなる体じゃねぇさ。

「でも、どうしてあたし達が襲われるような目に……ここで静かに暮らしてただけだっていうのに」
「……そうだよなぁ。あんた達はここで暮らしてただけなんだ。それが、こんな理不尽を受けなきゃならない理由はねぇよな」

 それも、明日までだ。こんな理不尽を振りまくだけの奴らは、俺が……潰す。かつて、相手が人間だとはいえ、同じ事をしていた俺のトレーナーの夢を、俺は継いでるんだからな。

「だーい丈夫さ。明日から、あんた等はまた今までと同じように暮らせるようになる。俺が保証してやろうぞ!」
「……あんた、この辺りで見掛けないポケモンだって事は流れ者なんだろ? どうしてここで暮らしてるポケモンの面倒まで見てるんだい?」
「ははっ、そりゃあ俺が馬鹿なお節介焼きだからさ。ようは、俺がやりたいからやっただけだ」
「随分変わったポケモンだね……お連れの相棒は、あんたと違って必要な事しかしないようだけど」
「ま、そいつは今俺の弟子でね、まだまだ世の中の事勉強中なのさ。いずれ俺みたいになるだろうけど♪」
「……なんでそうなる」
「だぁって、弟子ってなぁ意識しなくても師匠に似ちまうもんなんよ! それに例外はございませーん」

 ぬぉ、ビーダルとゼロ助両方から溜め息つかれたし。なじぇなじぇ?

「そんな事より、あんたは無くなった体力を回復する事に集中しな。早く元気になって坊主を安心させろよ」
「……折角助けてもらった命だものね。そうさせてもらうよ」
「お母さん……」
「あたしなら大丈夫だよ。今日はここに泊めてもらうけど、明日からはいつもの寝床で寝ようね」
「うん!」

 ビッパの坊主は、ビーダルに抱かれながら眠りに入っていった。ビーダルの方も目を閉じたし、こっからは静かにしてるとするかいね。
……揺れる炎を見ながら、今日の事を思い出す。ビーダルを助けて、アーマルドとかいう奴等を倒して……まったく逆の事してるよなぁ。

「……なぁ、ゼロ助。困ってるポケモンを助けるって……大変だよなぁ」
「どうしたんだよ。……そりゃあ、今日のあんたの様子を見たら、誰だってそう言うと思うぞ」
「そうか? 正直、あのベトベトンやアーマルドって奴等にやった事はやり過ぎだったろ?」
「……さぁな。俺は、あいつ等がそのビーダルの命を取ろうとしてたって事は分かるし、その報いを師匠があいつ等に与えたって認識してるよ」

 ……そっか、そういう風に捉えてくれたか。まぁ……ちょこっと救われたかな。
後から様子を見に行ったが、あいつ等の姿は無かった。恐らく仲間の元に戻ったか、何処かに逃げて行ったんだろう。アーマルドの奴に聞いた事から、どうなるかは分かるだろうしな。
俺がやった事は正しい事かと聞かれたら、俺はノーって答える。どんな理由があれ、相手を瀕死の状態にするのが良い事だなんて、間違っても言われちゃならない。
そして、明日俺がやろうとしてる事もだ。数に頼らないだけで、俺がやろうとしてるのは奴等と同じ蹂躙だ。この場所を蹂躙しようとしてる奴等を俺が蹂躙する。矛盾でしかねぇよ。

「ゼロ助、一個だけ言っておくな」
「なんだ?」
「もしお前が俺の事を間違ってると思ったら……迷わず、俺の元から去ってくれ。お前に生き方は教えてやりたいが、俺の考え方まで押し付けたくはねぇからな」
「無理やり弟子にしておいて、今更な事言うな」
「……悪ぃ」

 まだ会って二日間しか経ってないが、こいつが良い奴だってことは十分に分かった。間違っても、明日俺が戦りあう奴等みたいにはならねぇだろう。
でも……俺みたいに生きて欲しくもない。俺のように生きれば、必ず誰かに恨まれながら生きていく事になる。それは、かなり辛ぇ事だ。
ゼロ助には俺と同じところじゃなくて、俺が目指している先で生きていってほしい。人もポケモンも仲良く生きていける、俺みたいな存在が居る必要のない……そんなところで。

「なぁ師匠、誰かを殺すって事は罪だよな」
「ん? あ、あぁ……」
「……師匠が俺を見つけたところにあった穴、あそこには……一つの研究所があったんだ」
「なんと? でも、そんなもの影も形も……」
「あぁ、痕跡を何も残さずに消えた。……あれを、あの穴を作ったのは……俺なんだ」

 ゼロ助が、あの穴を……。

「俺自身、何があったのか今でも分からないんだ。でも、俺があれをやったって事は漠然と分かるんだ。俺は、あの場所を……消滅させたんだって」
「消滅、させたか……」
「……その研究所には、人間もポケモンも沢山居たんだ。そして、俺を育ててくれた恩人も……」

 マジ、かよ……そんなの、辛すぎるじゃねぇか。

「気が付いた時、俺はこのサンダースの姿になってた。この姿で、あの穴の真ん中で倒れてた。……俺の進化が、あれを引き起こしたんだ」
「んな馬鹿な。ポケモン、ってかイーブイが進化する時にんな事になるってんなら、今頃世界中穴だらけだぞ?」

 ゼロ助は静かに首を横に振る。……ゼロ助自身には、進化で何か起こったのかが分かってるのか?

「俺っていう存在が居たから……多くの命が消えたんだ。間違いなく、明日戦う相手よりも凶悪な存在だ」
「ゼロ助……」
「そんな俺に、師匠がやっている事を非難する権利なんて、ある筈無い。だって、師匠がやってる事は、必ず救われる誰かが居るんだから」
「寂しい事言うなよ……何があったかは俺には分からんけど、お前さんが凶悪なんていうような奴じゃないのは俺にだって分かるぜ?」
「……優しいな、師匠は」

 火の向こうに居たゼロ助が、俺の隣に来て座り込んだ。その顔は、泣きそうなような悲しいような……なんとも言えん表情になってた。

「自分が許せなくて死のうとしてた俺を、師匠は救ってくれた。俺がやった事を考えると、それを素直に喜んでいいかは分からないけど……今俺は、師匠と知り合えた事は良かったと思ってる」
「な、なんだよ急に」
「最初は変なリザードンだと思ったけど、一緒に居てみて、やってる事を見て、俺は師匠の事を凄いと思った。誰かの為に本気で動けるってこういうのなんだなって」

 そ、そんな事言われると照れちまうじゃねぇか。んな事言われた事ねぇんだもん。

「俺も……生きるなら、そうやって生きたい。贖罪にはならないかもしれないけど、せめて、もう何も失わせない為に」
「……しんどい事しか無いぞ?」
「分かってるよ、見てたから」

 やれやれ、俺以外にこんな苦労性な奴が居るとは思わなかったぜ。自分から俺みたいな生き方をしたいなんて言うとはな。
横にあるゼロ助の頭を撫でてやると、横目に恥ずかしいとは訴えてきたが、逃げる素振りは無かったから継続してやった。

「そんなら、まだまだゼロ助の師匠で居るとするか! 今度は、こういう生き方の先輩としてな」
「う、うん……明日、頑張ろうな」
「おうよ! 頼むぜ相棒」
「弟子じゃなかったのかよ」
「なぁに、ニ匹だけで大喧嘩しに行くんだ。背中を任せる相手くらい相棒って呼ばせろよ♪」
「な、なんか恥ずかしいってば」
「なっはっは! 照ーれちゃって可愛いねぇ」
「う、煩い! もう寝る!」
「おう。お休み」
「……お休み、師匠」

 ……ちっと、気が楽になったかな。サンキュ、ゼロ助。
ははっ、俺に色々教えようとしたあんたの気持ち、ちっとだけ分かったかもしれんわ。自分と同じところを、一緒に目指してくれる奴が居るって、やっぱり嬉しいもんだな。
小さかった俺を救って、傍に置いてくれたあんたの頼みだからって理由をこじつけて始めたこの生き方だけどよ、もちっと頑張ってみるわ。
こうして俺の生き方を目指してくれる奴が出来たしな。……かつての、悪事を働く人間と戦い続けたあんたに憧れた俺みたいに。
……よし! 明日は大仕事だ! 俺も寝てしっかり休むとするか!



 足取りは重くないし、なかなか良い感じに気も高まってる。悪くない状態だな。
いつもなら気が重くて歩も進まんのだが、今は俺の弟子が隣に居るんだ。情けないところは見せられんぜよ。

「あそこ、だな」
「間違いあるめぇよ。うへぇ、結構居るなぁ」

 ざっと見、二十匹くらいのポケモンがそこには集まってた。守りを固めてる辺り、どうやらあのニ匹はここに戻ってたみたいだな。

「どうする、このまま行くのか?」
「もちのろんよ。正々堂々ぶっとばして、胸張ってあのコロトックとビーダルに報告に行こうぜ!」
「ふっ……了解だ!」

 木々の間を抜けて、森の拓けた空間に出た。おぉ、めっちゃ見てるのぉ。

「……なるほど、お前達があの二匹を倒した者か」
「するってぇと、俺達の事は分かってるみたいだな。あのベトベトンとアーマルドは何処へ行ったん?」
「怯えた様子で逃げていった。治らぬ体を引きずってな」
「懸命な判断だ。あれだけやってまーだ俺達に向かってくるならお馬鹿さんここに極まれりって感じだもんよ」

 ほーん、この黒い鳥野郎がドンカラスか。面構えからして、ここの奴らが迷惑してるのなんて何処吹く風くらいにしか思ってないみたいだな。

「分からないのは、何故我らの仲間をお前達が襲ったかだ」
「んなもんあいつ等がこっちの住処に休ませてたビーダルを襲いに来たからに決まってんだろうが。元々はそっちから吹っ掛けてきた喧嘩だぞ」
「聞いた話では、食料を集めるのを邪魔され、手傷を負わされたと言う事だった。我らに敵意のあるものを放ってはおけない」
「はっ! さも自分達が偉いもんだとでも言いたげじゃねぇか。この辺りのポケモンを襲って食料を奪ってる輩がよぉ!」
「……それを言うと、師匠も危ういよな?」
「んな!? ちょっとゼロ助~、お師匠さんがカッコよーく決めようとしてるところの腰をバキッとせんでや~」
「あぁ、ごめんごめん」

 あ、あの二回の木の実乱獲は瀕死のポケモンを回復する為であったからして……ノーカンでお願いしやす!
って、漫才やってる場合じゃなかった。気を取り直して……。ドンカラスの奴が何か言いたそうだから聞いてやるとするか。

「……仕方のない犠牲だ。我らは、ポケモンに自由を与える為に行動している。その為に役立つのなら、多少の犠牲には目を瞑る」
「……はぁ?」
「我らの目的は一つ。人間にポケモンの力の強大さを見せつけ、服従させる事だ! 今人間がポケモンにしているように!」

 あ、馬鹿だわこいつ等。居るんだよねーこういう馬鹿集団、寄り集まって盛り上がって人間倒すぞーって言い出す奴等。
まぁそれを自分達だけであれこれするならどうでもいい。が、こいつ等みたいに、誰に言われたでもなくそれを自分達の使命か何かだと勘違いして、しかもそれがポケモン全体の願いだとまで勘違いしちゃってる奴等は大迷惑でしかない。

「はぁー……」
「何故溜め息をつく。人間を服従させられれば」
「だーれがんな事やってくれなんて言った。誰がその為にポケモン全体が協力するって言った。誰がその為の犠牲になるなら喜んでなるって言ったぁ!」
「!?」
「てめぇ等の誤大妄想に周りを巻き込むんじゃねぇ! やるなら自分達で勝手にやれ、他の奴を巻き込むな! 見知らぬ相手を襲うなんて言語道断だボケ共!」
「なっ、貴様に何が分かる!」
「分からないねぇ、分かりたくもない! これ以上馬鹿な真似をし続けるってんなら、俺達がてめぇ等を叩き潰す!」

 俺の一言でゼロ助も臨戦状態に入る。口で言って考えを改める様子もない相手にちまちま付き合う道理は、俺は持ち合わせてねぇんでな。

「この数を相手にニ匹で挑むつもりか……同士よ、こいつ等を倒せ! ただし、命までは取る必要はない」
「随分余裕だな? 雑魚が手加減なんかすっとロクな事にゃあならんぜ?」
「共に旅をすれば、我らの考えの正しさも理解出来るだろう。最初は捕らえた状態にはなるだろうがな……」
「あぁ……そうかい!」

 集まっていたポケモン達が一斉に襲いかかって来た。こりゃあ、地方はバラバラだな。見知ってるポケモンも居りゃあ知らん奴も混ざってる。ま、今はんなの気にする必要もねぇけどさ。
手近に迫ってきたライチュウの腹にまずは一撃。アーマルドのクソ硬い顔面も殴った拳だ、その柔らかそうな腹で耐えきれるかな?

「ぶぇ!? げぼぉ……」
「……悪ぃな、加減は……してやらんぜ?」

 悶絶して倒れたライチュウの様子を見て、俺に向かってこようとしてる奴等が顔を引きつらせて止まった。
それに俺は腕をぐーるぐる回しながらゆっくり迫っていく。力の違い、見せてやろうじゃん?

「おら、威勢が無くなってるぜ? 来ねぇなら……俺から行っちゃうよん♪」

 翼を羽ばたかせて、空に舞い上がった……と同時に連中の一匹をロックオン。はーい、リザードンの急降下キックでございまーす。

「ダァァァイブ、キィーック!」
「ぶほぉ!?」
「アーンド燃えてけバーニングゥ!」

 俺を中心に炎の渦を生み出す。敵陣に飛び込んでる状態でこんな事をするとどうなるか……なーんて分かりきってるわなぁ。

『うわぁぁぁぁぁ!?』
「なっはっは! 燃えたろ?」

 周囲を囲んでた奴らが渦をまともに喰らいましたとさ。めでたしめでたし。
ま、炎の渦の威力じゃあ倒せる奴なんて居やしない。けどま、驚かせてパニックになってくれりゃあ……。

「ひぃぃ……」
「ま~ず~は~お~ま~え~じゃ~」
「う、うわぁ!? べへぇ!?」

 俺の拳も当て放題ってな。ま、このリザードンナッコォは技じゃないから威力は腕力依存でそんなでもないが、加減して相手を倒すくらいなら十分だぜ。
そんな訳で、怯える相手に嫌らしい笑みを向けながら殴っていく。そりゃあもうボッコボコに。我ながらえげつない戦法だぜ~。

「ひっ、嫌、こ、来ないで……」
「怯える事はない。痛いのは、一瞬だぜ?」
「う、うわ、うわぁぁぁ!」

 ありゃ、脅かしただけで気絶しちった。やり過ぎたかね?

「……俺が真面目に戦ってたのに師匠は……遊ぶなよ」
「ん? なんだゼロ助、もう終わったん? んー……全員麻痺してるっぽいな」
「俺が攻撃して下手な部分に当たると、相手に甚大なダメージを与えかねないからそうしたんだ」
「……ゼロ助、戦闘中の手加減の勉強しような」
「わ、分かってるよ」

 しかし、傷一つ無く十匹近く居たポケモンを全員麻痺させるたぁゼロ助もなかなかテクニカルな事すんじゃねぇの。

「……」
「あんれま、大将口開けて固まってやんの」
「井の中の蛙大海を知らず、だったかな? まさにそれだな」
「確かに何もしてないポケモンよりゃあ統率も取れてたみたいだが……所詮はそこ止まりだったってこったな」
「あ、ありえない……こんな事、あって堪るか! 何なんだお前達は!」
「知りたいか? 俺ぁリザードンのラルゴ。困ってるポケモンを放っておけねぇ大のお節介焼きたぁ俺の事よ」
「その弟子、サンダースのゼロ。弟子になったのは最近だが……お前達のような奴が気に入らないという点は師匠と一致した」
「ぐっ……!? ラルゴ、だと!?」

 ん? 俺の名に聞き覚えでもあったんかいね?

「まさか、多くのポケモンを屠りながら流離う悪魔、紅蓮の翼!?」
「……師匠、そんな名で呼ばれてるのか?」
「あー……まぁその、今日みたいな事をやってるとだな、悪名も広がっちまって尾鰭がついてだな、その……」
「紅蓮の翼、ねぇ?」
「な、なんだよぅ! 俺が名乗った訳じゃねぇんだよぅ! だからそんな恥ずかしいものを見るような目付きをしないで下さい死んでしまいます!」

 うぅ、知られたくなかった真実が……なんだよ紅蓮の翼って。それ付ける相手ファイヤーとかでしょ? なして俺なん。
炎タイプですよ? 飛行タイプですよ? 羽もありますよ? でもそんな恥ずかしい通り名付けなくてもいいじゃないですか。何? 俺にやられた腹いせ?
お陰でその名を聞かされる度にこっちは軽く凹むんだよ! しかももう定着しちゃって返上出来なくなっちゃってるし! お節介焼きで通してたのにぃ!
この野郎……この恥ずかしさはこの場からエスケープしようとしてるドンカラスに全部ぶつけてやらぁ!

「くのぉ、逃がすかボケ鳥ぃ! ゆけぃゼロ助!」
「はいはい、紅蓮の翼様」
「お願いだから止めてぇ! 師匠死んじゃう!」
「うっ、嫌だ、止めろぉ!」

 ドンカラスの奴が叫んでる間にゼロ助が回り込んで、どうやら電磁波を当てたらしい。急なショックで体が硬直したのが見て分かる。ってかゼロ助早っ!
それが……こっちに飛んで来た。ならば、この胸に去来する虚しさを一撃に込める!

「くそぉぉぉ……ド畜生めぇぇ!」

 麻痺してるのを加味して、顔面ではなく横っ腹に俺の拳を食い込ませた。きっついぞー。

「!!?」
「うわ……至るところからなんか吹き出たぞ」
「死にゃあしないから気にすんな……はぁ、虚しいぜ……」

 ま、これだけ格上が居るってところを見せつけりゃ、もうおかしな真似をするような事も無いだろ。ボスのこいつは念入りに心折れたみたいだし。
やれやれ、ニ匹だったのもあるが、こいつ等弱過ぎだろ。これでどうやって人間を服従なんてさせるつもりだったんだか?

「……帰るか」
「そうだな。……師匠、これからはどうするんだ?」
「そうさな、しばらくあの横穴に留まって、こいつ等がまた悪さしたら今度は全力で! 潰しに来るとするか」

 ははっ、ゼロ助、良いダメ押しだ。こうやって言っておけば、これだけ完璧にしてやられてんのにもう一回馬鹿な真似をしようとする輩は居ないだろ。
現にゼロ助が痺れさせた奴何匹かがビクッて反応しやがった。分かりやすい事は良い事だぜ。
そんなら、本当に帰るとするか。これなら今日中にコロトックを探して報告も出来そうだな。



 あれから一週間、毎日飯を探しながら見回りをしてたが……どうやら異常は無くなったらしい。コロトックからも、ぱたりと襲われたポケモンが出たって話を聞かなくなったって言ってたっけな。
ゼロ助も、もう妙な気配は感じないって言ってたし俺も奴等を見掛ける事はなかった。少なくとも、この辺から居なくなったのは確かだな。
つー事で、そろそろまた旅に出るかって話をゼロ助に昨日の夜話したら、もちろんついて行くぞっていう嬉しい返答を頂きました。……まぁ、ゼロ助の場合ここに居るのも辛い、ってのもあるかもしれんがな。
ゼロ助が居るって事は、これからは陸路での旅だな。ま、必要ならゼロ助乗せて飛ぶだけだけど。

「この横穴ともお別れかー。そんなに長く居た訳じゃないが、ちっと感慨深いねぇ」
「居たのは、十日くらいか。師匠、これからの寝泊りはどうなるんだ?」
「んー、なんとも言えねぇかな。ここみたいに誰も居ない横穴とか洞窟とかがありゃあそこで寝れるけど、大半は野宿になる。ま、これからゆっくり慣れりゃあいいさ」
「なるほど、了解だ」

 そんじゃ出るか。……ん? あれは?

「……コロトックから聞いたよ。今日発つんだって?」
「ビーダルか。ん? 坊主と……あんたは旦那かい?」
「えぇ、レントラーと申します。妻を救って下さって、ありがとうございました」

 あんれま、カッコイイ旦那連れてるじゃねぇの。畜生め、イケメンリア獣爆ぜろ。寧ろ爆ぜさせたろか。
とまぁ冗談は置いといて、見送り……って訳でもなさそうだな。

「んで、どうしたんよ?」
「泊まらせてもらった時に、住処に良さそうだと思ってさ。あんた等が抜けるなら、住処をこっちに移そうかと思った訳さ」
「あぁ、そういう事か。なんだ、言えばすぐに出てやったのに」
「命の救われた相手にそんな失礼な事出来るかい……」
「なーんも気にしなくてよかったんに。どうせこっちは風来坊、ここに根付くつもりも無かったんだし」
「……やっぱり、ここに残るつもりは無いみたいだね」
「へへっ、やらなきゃならん事が世界中にあるもんでな」

 今回みたいな馬鹿も居るし、人間に困らされてる奴等も居る。お節介焼きに休んでる暇なんか無いってな。

「……あんたみたいな流れ者、始めて会ったよ。流れ者が皆あんたみたいな奴だったら、世の中面白いだろうね」
「みーんな一緒じゃ詰まらんて。俺みたいな変わり者は俺と……こいつくらいで丁度いいさ」
「俺まで変わり者かよ……まぁ、いいけどさ」

 ゼロ助の方見て笑ってやると、こっちをチラッと見てゼロ助もちょこっとだけ笑った。

「……妻には聞いていたけど、なるほど、確かに一緒に居て面白いなと思う方々だ」
「おぅ。お望みなら漫才も披露してしんぜよう!」
「絶対にしないからな」
「ってか、旦那さんよ? あんたビーダルが大変な時に何処に居たん。マジで大変だったんだぜ?」
「それについては妻にどれだけ詫びてもしきれないよ……幾らここのポケモンが襲われているから対策を立てようとしていたとはいえ、離れるべきではなかった」

 ……なるほど、そういう事だったか。俺達も動いてたが、ここのポケモンも何もしてなかったって訳じゃなかったんだな。

「君達に代わり、これからは私が妻と息子を守るよ。傍で、必ず」
「……ちぇ、これじゃあ俺ってば勝ち目ねぇじゃねぇのよ。カッコよくて優しいなんてずっりぃのー」
「ははっ、うちの旦那ほどじゃないけど、あんただって十分そうじゃないかい?」
「おだてたってなーんにも出ないぜ?」

 そしてさり気なくビーダルの一言で照れる旦那。まったく、良い夫婦だよあんた等。

「お兄ちゃん……行っちゃうの?」
「あぁ、師匠にこれからも教わりたい事があるから」
「……ありがとう、お母さんの事、一緒に助けてくれて」
「いや、俺は何もしてないよ。君のお母さんを助けたのは……君だ。俺は、少しだけ手伝っただけ」

 んや? こっちで話してたらゼロ助は坊主と話してたみたいだな。
ぽふっとゼロ助の前足が坊主の頭に乗って、優しく撫でてやってる。

「これからも、お母さんの事……自分の大切なもの、守ってあげるんだぞ?」
「う、うん!」

 ゼロ助……そういや、自分を育ててくれた恩人ってのを、こいつは自分で……。
少しだけ寂しそうに笑い掛けた後、ゼロ助の前足は坊主から降ろされた。……俺も、ゼロ助の事気にかけてやらんとならんな。

「おや、どうやら間に合ったようだね」
「ん? おぉ、なんだコロトックじゃねぇか。見送りに来てくれたのか?」
「もちろん。恩返しも出来ないんだ、せめて見送りくらいさせてもらわないと」
「気にする事ねぇのに。俺が好きでやったんだし」
「……ふぅ、でも少し以外だったよ。噂で聞いていた……紅蓮の翼が、君のようなポケモンだったなんて」

 ぶっ!? な、なんでその事を!?

「紅蓮の……!? 通った後には血の道が出来上がるという赤き死神とも呼ばれるあの!?」
「や、止めてくれぇ! マジで恥ずいのその通り名!」
「じ、じゃあ本当にあんたが!?」
「……まぁその、お節介を焼いてると、悪名も立っちまうって事なのよ」

 こらゼロ助、笑いを堪えるんじゃない。師匠泣いちゃうぞ!?

「でも納得したよ。何故紅蓮の翼の噂が二つあるのかという謎の答えが」
「あん? 二つ?」
「一つは、レントラー君が言った通りポケモンを屠る破滅の面。もう一つは、多くは語られぬ……ポケモンの窮地を救う、慈悲深き救いの面。救われぬ筈だった命すら再び燃え上がらせる、救い運ぶ命の焔」
「うぇぇ!? 当事者である俺だって、そんなの聞いた事ねぇぞ!?」
「それはそうだろうね。ポケモンを屠る姿の方が派手ではあるし、救われた者はそれぞれの土地に暮らしている者が殆どだと聞いたよ。だから、救いの面はあまり広がっていないんだろうね」

 まぁ……確かにボコボコにしてやった奴はその場所から離れて俺の事を話すだろうから、そっちの方が広がり易いのは当然か。

「でも、なんであんたは両方知ってるんだ?」
「こう見えて噂好きでね、ここに来た流れ者に話を聞くのが好きなんだよ。友好的の者にだけになるがね。その中に、紅蓮の翼のもう一つの姿を知る者が居た、という事さ。君に救われた者が、ね」
「俺が助けた奴が、流れ者に?」
「……君がやっている事を継ぎたい。君に与えられた優しさを、他の誰かに分けたいと思う者も君が救ったポケモンの中に居るという事だよ。君とは少し形は変わってしまうかもしれないがね」

 ……んな事になってるとは、思いもしなかったな。俺がやってる事も無駄じゃなかったって事なのかね。
そういや、あいつも言ってたっけな。俺が誰かを助けるのには、俺の生き様を誰かに見せるって理由もあるって。それは、こういう事なんかねぇ……。
行く先々で楽じゃないってぇ事は言ってきた筈なんだがなぁ……。

「慈悲深き命の焔、か……あながち間違ってないし、そういう生き方に憧れるのも悪い話じゃあないのかもしれないね」
「実際、妻は生死の境にあったのを君に救われた。そして……救えるのなら、私も誰かを救う事を選びたいと思う」
「ちょちょ、お、俺のはそういう大袈裟なもんじゃなくてだな!?」
「大袈裟も大袈裟じゃないか、最終目標を考えれば。人もポケモンも、本当に笑える世界を作るんだろ?」
「いやまぁそうだけどよぉ……」
「誰かを助ける事で相手が笑顔になり、自分も笑える。そしてその輪が広がっていく。君のやっている事は、間違いじゃないと私は思うよ」

 も、もぉ、そんなに言われるとなんて言ったらいいか分からんじゃないか。俺はあいつの夢を継いだだけなんだし。
でも……俺も一緒なのかもしれないな、俺と同じ事をやりたいと思った連中と。
夢なんて継がないで生きていく事も出来た、それがどれだけ大変なのかも知っていた。
でも、俺はこうして生きてる。それって結局、俺があいつの生き方をしたいって思ったからなんだよな。
……なら、今度は俺が継いでいってもらう番なのかもな。この夢を繋げて、いつか……叶える為に。

「ま、まぁ、選んじまった事に俺は関われない事だし? そういう奴が増えてくれれば俺も楽出来るんだしまぁいっか!」
「楽出来ると言っても、師匠の場合楽になった分更にお節介焼きに行きそうだけどな」
「そういう性分なんだからしゃあないって。ゼロ助も俺の弟子なんだから、そうなっても文句言うなよー?」
「今は自分で師匠の弟子で居る事を選んだんだ。文句なんて言わないよ」
「……どうやら独りではなくなったようだし、紅蓮の翼が死神ではなく、救いの翼と呼ばれる時が来るのも遠くはないのかもしれないね」
「ならこっちも嬉しいんだけどねぇ。ってか恥ずかしいからその名で呼ばんでくれよぅ!」

 集まった面々で一頻り笑って、ちっと名残惜しいが……ゼロ助と一緒に歩き出した。
またここに戻って来れるかは分からんが、もし戻ってこれたら、また皆で笑い話でもしたいもんだな。

「師匠、これから何処に向かうんだ?」
「さぁてな。気が向いた方に行きたいだけ行くってのが俺の方針だからなぁ」
「まったく、適当だな」
「いいじゃねぇかよ、風来坊を楽しもうぜ。ま、とりあえず……まーっすぐ行ってみっか!」
「あぁ、了解だ」



 ……そうやって、俺とゼロ助の旅は始まったんだったかな。無茶苦茶な出会い方したのに、結構良いコンビだったろ?
それからどれくらいだったかなぁ、ゼロ助と一緒に旅したのは。いやぁ、あの頃は結構二匹で馬鹿もしたし楽しかったなぁ。
まぁ、今も一匹にはなったが馬鹿はしてるんだが。だって俺だし。

「……皆、元気にしてるかねぇ……」

 つっても、あれから十年も経ってる訳でなし、多分皆元気にしてるだろ。ゼロ助は恐らく絶対に。
あいつの力は俺なんかより段違いで高いし、気の良い奴だしな。以外と今頃、誰か連れて旅してたりしてな。
俺もまた誰か弟子にでもするかなぁ。ゼロ助が独り立ちしてからはずーっと一匹で放浪してるから、ちびっと寂しい。……柄じゃないか。

「ま、放浪者続けてればいずれまた会えるだろ、うん!」

 それまで、弟子に負けてる訳にはいかんからな。俺は生涯現役だー! なんてな。
んじゃま、今日も一日風任せ。吹かれて気ままに行くとするかいね。
……にしても、いつもながら……。

「ここは、何処なんじゃろねぇ?」

 むぅーん、ん? なんじゃこりゃ、地面にバカでっかい穴があるぞ?
その下にも木なんかが見えるな……ま、ゼロ助が作った穴とはそりゃ違うわな。あいつ、もう力使いたくないって言ってたし。
でもなんか面白そうだな。ゼロ助見つけたのも穴の近くだったし、またなんかあるかもな。

「よーし、ポコッとここに入るのに決定! なーにがあるかいねっと」

 へへっ、何があってもウェルカムだけどな、俺の場合。
風来坊に拒むもの無し! さーて、今日も冒険と洒落込むかぁ!


後書き~

主人公ラルゴ、そしてその弟子ゼロ助(ゼロ)の物語、いかがでしたでしょうか?
もうお分かりかと思いますが、これは本編主人公ライトの野良生活が始まった時の物語にございます。視点は師匠のラルゴでしたが。
だから現在のライトよりも幼い感じにしてみたのですが……作者自身の中で違和感がw ちょっと子供っぽ過ぎたかなーとも思っております。
お楽しみ頂けましたでしょうか? それならば何より。ありがとうございます。
あまり速度は早く出来ませんがこれからも頑張っていければと思っております。それでは、次回作まで…ご機嫌よう。

本編14話目へはこちら

最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • 三作目の脇道は、ラルゴさんが来ましたか!!

    今でこそ、あれ程いろいろ知っていて、大人の雰囲気を醸し出しているライトですが、以前はかなりかわいいと言うか幼い感じがいいですね♪
    ――通りすがりの傍観者 ? 2013-08-06 (火) 16:05:55
  • ネタだらけで面白かったです。ライト君、いい師匠と出会えましたね。もし会っていなかったら…新光の物語はできなかったでしょうね。
    ところでカゴの実は「苦い」ではなく「渋い」ではないのでしょうか?
    ――シュガー ? 2013-08-06 (火) 20:22:19
  • ラルゴさんとライトの会話に笑ってしまいました。ライトの喋り方はラルゴさんが理由だったんですね。それにしてもライトはいつ自分の名前を決めたんだろ。そしてなぜかとあるの白井さんを思い出しました。
    双牙連刃さんの作品は面白くて毎回楽しく読ませてもらってます。執筆頑張ってください!応援してます!
    ――196 ? 2013-08-06 (火) 20:40:15
  • 本当に師匠に似るもんですね
    ―― 2013-08-06 (火) 21:32:51
  • ライトもといゼロ、ゼロもといライト……まだ子供っぽいからすっごい可愛いと思ったのは自分だけじゃないはず
    ―― 2013-08-07 (水) 06:44:04
  • >>通りすがりの傍観者さん
    はい、これは白い陽炎を書きながらこうしようと思っていた作品なのです。思わせぶりに名前も出してましたしね。
    この話は、ある意味で『ライト』の始まりの物語ですからね。まだまだ世間を知らない子供な感じにしましたが、よかったでしょうか。ありがとうございます。

    >>シュガーさん
    師匠がラルゴでなければ、間違い無く新光の物語にはならないでしょう。そもそもリィを助けたかどうか怪しくなってきますし。
    ……orz はい、確認したところバッチリ味を間違えておりました。ご報告、感謝です。

    >>196さん
    ラルゴ達の会話を楽しんで頂けたようで何よりです。まぁ、特徴的な喋り方って聞けば聞くほど頭に残りますから、ライトにもいつの間にか伝染ってしまったのでしょうね。
    ゼロ助が何時ライトになったか、それはもう少し先で語りたいと計画中です。…なんで白井さんを彷彿させたんでしょうね? ラルゴとそれ以外との接し方の差からかな? あれほど過剰じゃないけど近い、かなぁ?

    >>08-06の名無しさん
    今のライトとラルゴは確かに似てますね。まぁ、師匠ほどフランクにならなかったのはライトらしさ、といったところでしょうかw

    >>08-07の名無しさん
    ライトにもあった子供時代! 今に通じるものは持ってますが、まだ成長前のようなものですからね。可愛いところも無いと嫌な子になってしまいそうでw ゼロ助を可愛いと思って頂けるのは嬉しいですね♪
    ――双牙連刃 2013-08-09 (金) 10:23:28
  • 誤字発見です!!

    ラルゴがゼロ助を川から引っ張りあげるシーンで、『強硬手段DA』→『強行手段DA』だと思います!!
    ――通りすがりの傍観者 ? 2013-10-30 (水) 15:49:53
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Last-modified: 2013-08-06 (火) 00:00:00
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