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聖戦 混沌への序曲

/聖戦 混沌への序曲

南十字

!!注意!!
流血、死、生々しい描写というかエグい表現があるかもしれません。
官能描写がありますっ。もうお決まりですね(ぇ
だけど表現力と文章力が欠乏していて目も当てられないですorz






テンガン山を挟んで東側の麓に1匹の海の化身が青ざめた顔をして、しかし、額にはくっきりと青筋を浮かべ怒りを必死に抑えようとしているのか両の手を強く握り歯を食いしばり小さい翼を動かし味方の元へと急ぐ。
短い足が地面へと近づくと風圧で辺りに砂塵が円状に広がる。そこに待っていたのは1匹の砂龍。緑色の体に目には橙色の目を保護するフィルターが付いている。まっすぐとカイリューを見つめるとカイリューは足を地面へと着ける前に慌てたように目の前のポケモンの名を呼んだ。

「フォルテッ!フォルテェッ!」
「ん?どうしたのスフォルツァ。 ……まさかっ…」
「あぁ、………ミヤビが死んだ…。新世軍のやつらに……殺された」
「………っくそぉっ!」
スフォツァの低い声がより一層低く辺りに響く。フォルテと呼ばれたポケモンは地面に自分の拳を強く叩き付けた。そして憎しみを満ち溢れさせた瞳で宙を睨みつけて言った。

「奴等も………殺してやるっ…。血祭りにあげてやる……」
「フォルテ……俺も同じ思いだ。  ……準備は任せろ」
「分かった。  私がダークライに話を通しておく。その間に楽団の戦闘態勢を整えておいてほしい」

そう言うとスフォルツァに背を向け東を目指しフォルテはとび立つ。スフォルツァは楽団をまとめ出した。各々のポケモンは楽器を静かに置くと赤いスカーフを体の一部にきつく巻いたのだった。




「ダークライ様、どうか出撃の許可をっ………」
本陣へと全速力へと飛んだフォルテは息が整わないうちにダークライへと話を通そうとしていた。ダークライは先ほどから黙りこくりフォルテは焦燥感を募らせる。背を向けていた黒い影がやっとフォルテの方を向き青白く光るその目でフォルテを見据えた。
「……いい目だ。 よし、行って来い。ただし、条件がある……」
「はい、何でしょう」
今すぐにでも出撃したいフォルテにとって1分1秒も無駄にはできないのだとダークライに促すような視線を送った。ダークライの条件にもよるが出撃できるのだと昂る気持ちは抑えきれなかったのかもしれない。ダークライは口元を釣り上げると言った。
「敵の地に血の雨を降らせてきたまえ。良い報告を期待している」
そう言い終えるかおえないかのうちにフォルテは「はいっ!」と返事をしさっさと本陣を飛び立ってしまった。ダークライは静かに口元を釣り上げたまま呟いた。
「いい餌になってくれた……。指揮者よ、感謝だな……」



「こちらテンガン山山頂」「風は追い風」「天候は晴れ、変化する心配はなし」

エスパーポケモンによる本陣との通信。フォルテとスフォルツァは新世軍の陣を真上から睨みつける。フォルテが地図を取り出すと敵の陣に向けて一直線に乱暴な線を引いた。ま後ろには強力なポケモンたち。ミヤビが拾い育ててきた屈強な楽団の一員達。皆が皆ぎらぎらと怒りのまなざしを虚空へと向け出撃の時を今か今かと待っていた。
スフォルツァと一通り情報交換し終えたフォルテは楽団の仲間たちの方へと向き直り言い放った。
「いいかい。今回は総員突撃だよ。下手な小細工はせずに力で相手を押しきる。
 であった敵兵は…………殺せ!情けなどいらないっ。出遭い次第殺すんだ。
 戦端は私たちが切り開く。他の者たちは奇襲部隊、討ち漏らしを頼む。
 じゃあ……いくよっ!!」


――――――我ら亜空楽団   新世軍に死の序曲を
    われらの勝ちどきを新世軍の鎮魂曲に――――――

いざ……進めぇっ!!




砂龍の声とともに死の旋律が山を降っていった…。怒りと狂気に満ちた魂の不協和音が山の側面を覆った。









さて、リーフ小隊はいったいどうしていたのかと言えばそれを語るのには少しばかり時間を戻さなければならない。フォルテ達がミヤビの知らせを聞く大体3日前ほどであろうか。

「新兵のミスリルです。よろしくお願いします」
「医療班から移動となりましたエイリンです。よろしくお願いします」
グレイシアとエーフィがリーフの前で丁寧に頭を下げる。その様子に焦っているリーフ。内心、そんなに固くなられても困る。と文句を言っていたところであった。こういったときどうやって返せばいいのか。今まで森で暮していたただのリーフィアが知るはずもない。リーフがあれやこれやと考えているうちにレイが口をはさんだのだった。
「そんな固くならなくてもいいぜ。リーフの売りはフレンドリーなところだからなッ!」
「そう、ならいいわ」
「と、言うことはお薬飲ませ放題…?」
レイが見事に緊張の糸と言うか場の雰囲気をぶち壊してくれたおかげでリーフに軽く頭を下げる。グレイシアは短くレイの言葉に反応するととスカーフをするりと首から抜きさっさと与えられたテントの中へと入っていってしまった。エーフィはというとニヤニヤと黒い笑みを浮かべながら持ってきたバッグの中身を見て考え事をしているようであった。
もう少し小隊長としての威厳があっていいのに。そんなことを思いながらリーフはため息をつきながら頭を振る。まあ、これくらいが私たちにはちょうどいいのかもしれない。そう思い直すと増えた隊員から再び見張り番のローテーションを決めなければならないことを思い出しテントの中へと戻っていった。

テントの中には書類を書くための木箱、後は毛布と白紙の束。それと小腹が空いた時のためにモモンの実が数個入ったバスケットが置いてある。バスケットの下に敷かれている楽譜。ミヤビがレイとフレイを倒して堂々とモモンの実を持っていった時に書き残されたこの楽譜。音符の上に無理やり書いたのか少し読みにくいが微笑ましいその内容。まるで友達のようだったミヤビ。
思えばミヤビとの戦いがもうすでに懐かしく感じるようであった。実質そこまで長い時は経っていない。それでも懐かしく感じるのはなぜだろう。そんなことを思いながら楽譜を見つめる。

でも今は、もういない。死んでしまった。この戦争のせいで殺されてしまった。味方がミヤビを酷い殺し方で死に追いやったのは腹立たしかったがいつかは殺されるか利用される定めだった。それは理解している。
これからも犠牲は出るのだろう。それはもしかしたら私自身かもしれない。などと考えているうちに背中に悪寒を感じた。また独りになるのはもういやだ。
そうだ、今はローテーションを決めなければ。そう自分に言い聞かせるとリーフはせっせと分担を決め始めた。




「敵、数は120。軍団編成は………ドラゴンタイプが主軸……?
 国境警備ゴウカザル隊に向かって真っすぐと向かっています!
 進軍速度は……早いです!」
フォルテ達が山頂で蜂起した後に新世軍にもエスパ-同士の念話による情報伝達がされていた。内地にいるリーフたちだがそれでも本拠地よりはテンガン山よりの方へと配置されておりこちらに来る可能性も0ではない。エイリンが傷薬をオレンの実から作りながらリーフへと念話の内容を伝えてゆく。
いきなりの侵攻により全く迎撃の準備が整っていない。そんな中エスパーの念話が大きな力となりうる。相手の侵攻ルートが瞬時に分かるだけでも大違いなのだ。
念話をまとめていたのは他でもないクレセリアであった。ゴウカザル隊のネイティオからの情報を分かりやすく各隊へと伝えながらこれからの戦略を練る。正面からぶつかってゆくか新世軍の領土に引きつけてから国境警備隊も動員して敵軍を包み込むか。
今回は敵の数も多くゴウカザル隊を後退させてもきっと追いつかれて後ろから突き崩されるだろうと考えをまとめるとゴウカザル隊の援護をしながら押し返そうかと指示を出そうとしたが、亜空楽団にどうやら先を越されたようだった。


「セロは右!リュートは左で頼むよ!
 スフォルツァは私と一緒に正面突破ぁッ!」
『おう!』
ゴウカザル隊の目前まで迫った亜空楽団は素早く2匹のガブリアスが左右へと展開するとそれに続いて後ろのポケモンたちも素早く陣形を整える。フォルテの後ろを飛んでいたスフォルツァもフォルテの横へと並ぶ。
この殺気の塊のような軍団を迎え撃つのは業火を操る猿と格闘を中心とした部隊であった。

先に仕掛けたのはゴウカザル隊の方であった。気合球と波動弾、青と橙の球体を一斉にドラゴンたちへと向けてはなったのだが、フォルテ達は恐れることなく前へと進み続ける。一瞬当たりに来るのかと期待したゴウカザルは次の瞬間あっけにとられてしまった。軍団をリードしている4匹のポケモンの後ろから火焔や雷、水が一斉に噴き出し格闘の技の中でトップクラスのはずの気合球ですら簡単に相殺してしまった。いや、相殺と言うには少し語弊があるかもしれないとゴウカザルは悟った。明らかにこちらが押し返されてしまった。先手を取ったはずのゴウカザル達はすっかり意気消沈せざるを得なかった。
こんなやつらに敵うのか。その思いは誰の中にでもあったはずである。しかし、退くことは許されない。数匹の命拾いのために大軍を犠牲にしてはならないとゴウカザルは腹を括るしかなかった。

「うおぉぉぉぉぉぉっ!!」
雄たけびとともに両軍が急接近した。ドラゴンたちは鋭利な爪や強靭な牙を剥き出しに戦闘の瞬間を臨もうとしていた。



その戦闘は惨たらしかった。ここまで一方的に蹂躙される戦闘はそうないであろう。所詮は国境警備隊でしかなかったのか数も火力も士気も圧倒的に足りていなかった。そもそも、出鼻のくじかれ方がゴウカザル隊に大きな恐怖を植え付けさせたのだった。
最初に敵の軍へと突撃したのはゴウカザルだった。得意のインファイトで敵を沈めようとしていたのかもしれなかった。周りのポケモンも援護に回ったのだがフォルテと2匹のガブリアスから放たれた3方向からくる地震に足を取られ大きく機動力の鈍ったゴウカザル隊へと送られた第二撃。天から降らされた青く燃え盛る岩。龍にのみ許され最高の絆をもつものが習得する秘技とも呼べる技、己の攻撃力と引き換えに地上に存在する全てを破壊し、消し去る技、龍星群。
降り注ぐ岩そのものに直撃したものはなんと表現していいのかは分からない。消し飛んだという認識をポケモンたちはせざるを得なかった。その場には削れた大地と少量の炭がただあるばかりであった。これにひるんだゴウカザル隊は将であるゴウカザルを見捨てて逃げ出したのであった。もっとも、森などの見晴らしの悪い場所に飛び込もうとする前にあらゆる技で体力を失うものが大半だったが。
一人ドラゴンたちの前に取り残されたゴウカザル。目の前には静かに怒りと殺気を露わにするフライゴンとカイリューが浮いている。多くの戦闘をくぐりぬけてきたゴウカザル。しかし、これまでの窮地、いや既に死地と言うべき場所まで追いつめられたのは初めてであった。目の前のフライゴンに首を掴まれうっと声を上げる。目の前に浮かぶフォルテは空いた右手に力を籠める。ふつうはフライゴンと言う種族には見られることのない爪が青紫色の光を放つ龍の力によって形成されてゆく。
その後は、一瞬だった。フォルテはにやりと黒い笑みを浮かべると何の躊躇いもなく右手をゴウカザルの肩から反対の脇腹まで振り下ろした。不思議な力で創り出されたドラゴンクローは使用者の意思に忠実にその惨劇をもたらしたのか、体を守るために生えている白い体毛と黄色の飾りをえぐり白き体毛を朱に染めてゆく。
「がぁっ、ぐわぁぁぁぁぁ……っ」
「どう?痛い?苦しい? 私のリーダーはもっと苦しい思いをしていたんだ……っ!」
血肉を下へと払い落とし先ほど斬った方向と逆の方向に再び爪を当てる。ゴウカザルが小さく口から何か言葉の様なものを漏らしたがそんなものを聞いていられるほどフォルテは冷静でいれなかった。爪をゴウカザルの右肩につきたてる。先ほどよりも深く、更に大きな憎しみをぶつけるかのように突き立てた爪を右下へと一気に振り払う。フォルテが手を離し地面に落ちたゴウカザル。斜め十字に切り払われたその体からはどくどくと血が溢れ出す。既に生命維持が難しいであろうゴウカザルの腹部にスフォルツァは大きくしならせた尾を打ちつけた、重い地響きに似たような音が辺りに広がり砂煙が巻き起こる。
視界が晴れると地面には歪な円を描いた血痕と生気を失った目を宙に向けるゴウカザル。フォルテがそっと首筋に手を当てる。既に生きている証の脈は途絶えている。それにたまらなく安堵感を感じたのだった。ミヤビの仇をこれからこうやって討っていくのだと。さっと後ろへ振り向き、返り血が顔の半分を朱に染めたままで言った。
「だんちょの仇を……討ちにいくよ…。  はぁぁぁぁぁっ!」
そう言うが早いか羽を激しく羽ばたかせ逃げ惑う兵たちの方へと突っ込むフォルテ。それに雄たけびを上げながら負けじと飛ぶ他の団員。屈強で剛直なドラゴンたちは右へ駆け左へ飛び、縦横無尽に戦場を駆け抜ける。強力な技は憎しみに任せて撃ち放たれその強大なエネルギーと圧倒的な手数によって命を落とす者は後を絶たなかった。そんな中、森の中でよろよろとよろけているポケモンがいた。念話による情報交換を行っていたネイティオは力なく気に右翼を押しつけ力く寄りかかる。
「はい……はい…。もう壊滅状態です…これ以上は………
 う、うぁぁ…。私の死が…最期が見える……。近づいてくる…。助けてくれ……
 助け………うっ、うわぁぁああぁぁあぁあああああっ!!!!!」
クレセリアに前線からの連絡が途絶えたのはネイティオの心臓が後ろから刺し貫かれた瞬間、その時であった。血濡れた鉤爪をぺろりと舐めるガブリアス。満足げに口元を釣り上げさらに数回ネイティオの屍を弄ぶと更なる仇を探してその場を後にした……。

ガブリアスが見晴らしの悪い森から外へ出る。そこには新世の訪れを謳う青きスカーフを身につけし者たちの屍山血河がただただ広がっているのみであった。既に1つの部隊を丸々潰したであろうその数に思わず笑みをこぼす。亜空楽団はもう陣形すら崩し敵の方へと斬り込みに行ったようだった。両翼を力強く広げ地を強く蹴る。ふわりと浮きあがったガブリアスは更に山を下る。平地まで、新世軍の拠点まではあと少しであった。



「くっ……。ゴウカザル隊、多分、だめですね」
「な、なに……。………早急に次の策を」
「と、言いたいところなのですが……敵が散開して進んでいるため今敵がどの位置にいるのか把握できないです。
 仕方がありませんし、部隊をテンガン山に向けて壁になるように配置いたしましょう」
「……わかった」

ディアルガは悔しそうに顔を持ち上げ宙を睨む。亜空楽団と名乗っていることから例のミヤビの件の報復かと歯軋りする。いつ交戦状態に陥っても不思議ではない空気だったのは確かだったが今回のように将らしい将を構えることなく急襲させてくるとは思いもしなかったのだった。おかげで手痛い損害を被ったディアルガは兵たちの無事を祈りクレセリアの念話のサポートを続けた。

「リーフ隊長。出撃命令がきたよ。敵が近いみたい……」
「え…。もうそんなに?」
リーフ小隊にも出撃の命令が来た。クレセリアが慌てた様子で用件をエイリンに伝えるとさっさと念話を切られてしまったそうだった。一応出撃の準備はしていたものの出る幕は無いだろうと踏んでいたリーフの予想は外れピリピリとした緊張感からどっと不安が噴き出した。
今回は防衛戦。いつものように敵に突っ込むことはできない。それに、敵は散開してこちらに向かっているとクレセリアは言っていたそうだ。常時警戒していなければならないのだという緊張感を出撃前から感じてしまっているリーフは首横に振った。リラックスしなければ。ドラゴンだろうがなんだろうが追いかえさなければ負けてしまう。一生懸命自分を落ち着けようと心の中で自分の意思へと語りかける。
やがてみんなが集まり出したころエイリンの印のつけた地図を小隊の兵たちに見せ言った。
「敵の種族はドラゴン。でも、散開してこちらに向かってきているみたい。確実に、個々を倒していこう。……じゃあ、準備はいい?」
レイの「おうっ」という返事に小隊の兵士たちは続いて力強く返事をした。スープやエイリン、ミスリルは多少不安げな顔をしながらも覚悟を決めたかのように顔を引き締めリーフに続き目的地へと向かってゆく。


新世軍の布陣の中のリーフ小隊に割り当てられた場所。そこは隣に林の広がる平地であった。不意打ちを食らわされるとすれば林からだと全員で話し合い平地への監視と同じほどの監視を林の方へと潜ませた。エイリンは味方を治癒するためにリーフの隣へと控えている。今回は隊長が先に戦闘不能になっては示しが付かないとフレイに諭されて小隊の中でも後ろに下がった位置にいる。
ドラゴンが相手ならばとレイがスープとミスリルを前線に押し出してその後ろからフレイとレイが援護に回る布陣となった。テンガン山からくる敵を全て受け止めなければならないために長く壁状に部隊を配置したのか隣の部隊に救援を求めようにも多少無理があるほど部隊同士が空いている。今回はどうやら自分たちの力で勝たなければならないのかとリーフは生唾を飲み込んだ。じきに、敵の兵がちらほらと見えてくる。一直線に本拠地を目指しているのか、それとも自分の力によほど自信があるのか姿を隠そうともせず小隊へと向かってくる。
ガブリアス、チルタリス、キングドラ。視認できる3匹がリーフ小隊に近づいてきた。レイが声高に叫んだ。
「いけーっ!狙ってけよ~っ!」
言うが早いか渾身の十万ボルトを敵のドラゴンへと浴びせかける。敵も馬鹿ではないのかガブリアスが矢面に立ってそれを受け止める。その脇から2匹のドラゴンが前へと出る。グレイシアが一番危険だと判断したのかキングドラがグレイシアへと急接近する。しかし、直線的な加速でグレイシアの放った冷凍ビームを腹部へと受けたのだった。よろけているキングドラへと追い打ちをしかけたのはフレイだった。間に合わずに体勢を立て直されていたら水の技を受けたであろうにフレイはそれを恐れずにキングドラの頭部へと硬化させた重い尾を振りおろしたのだった。怯んだ隙に横からレイが電撃を浴びせかける。それで相手の意識を奪うには充分であったようだ。ばたりとキングドラはその場へと倒れ込む。
その時であった。妙な地響きを感じ取ってミスリルとフレイがさっとスープたちの方を向
くとスープが必死に激流を作り出していたのだった。澄んだ水を濁り淀ませてから相手を押し流す荒ぶる波を作り出す技、濁流。それが地響きの原因だったとは2匹は思いもしなかった。後方で様子を見ていたリーフでさえも少しだけ前へ出て様子をうかがってしまうほどだった。他の兵と同じように配置したはずのスープが今、初めて見せる強大な水の力。
それに呆気にとられていたリーフたちははっと現実へと戻される。それでもスープの技はどことなく押しが弱かった。敵を十分遠くまで押し流してはくれたが致命的なダメージには至らない。これはやはりスープの気質が表れているのだろうか。
スープによって全身びしょぬれになった相手へのとどめの技。ミスリルが冷気を作り風に乗せる。それは相手の体を芯から凍てつかせる自然の恐怖をそのまま作り出す技、じきに霰が降り始めその技の本質を見せ始める氷最強の技、吹雪。体勢を立て直す間もなく濡れた体に冷気を吹き付けられ徐々に水は状態を変え氷へと固まってゆき体の自由を奪われていく。目を閉じたのが最後、2匹の敵兵は意識を失ったのだった。

「よぉしっ!いいぞっ!」
レイがスープとミスリルに笑顔を見せる。フレイはさっと辺りを確認する。敵はまだ向かってはこないと判断し少しだけ後退する。 後方にいたリーフも2匹の敵兵を犠牲なく倒せたのに安堵した。腰をおろしてホッとしているうちにレイの声が聞こえた。
「リーフ!敵は約10!どうするっ!?」
10体。決して多くは無い数。むしろ数でいえばこちらが有利。でも相手は死をも恐れずにこちらを殺すものたち。それが10体などと一体どうすればいいのか分からない。目を凝らして見るとものすごいスピードでこちらに接近しているようである。
「私も前に出る!持ちこたえて!!」
そう叫ぶと前へと駆けてゆく。周りの兵たちにも一緒に前へ出るようにと指示を出しながら走ってゆく。混戦はあまり好ましくないとわかっていながらもどうこうする策は無い。既に前線では遠距離技の撃ち合いが始まっている。そこへ向けてリーフは駆ける。もう死んでほしくは無い。敵も味方も、誰も死んでほしくは無いのだった。

前線では炎、氷、水、電撃が飛び交っていた。こちらが放てばあちらが相殺。あちらの攻撃はこちらが受け止めるとしながらも確実に相手はこちらへと押し寄せてきている。そして、ついに両軍がぶつかった。近寄った分お互いの技は強力になり当たりやすくもなる。その中の、いったい誰が放ったのであろう。空気がピリピリと張り詰める。戦闘経験の浅い兵士たちは気が付くことさえできなかった空気の動きをレイただ一匹が見逃さなかった。
「!! 龍星群だ!散れっ! 散れぇぇっ!!」
両軍共に巻き込まれまいと無秩序に辺りへと拡散する。これがねらいであったのか散った兵士たちは単体で破壊力のあるドラゴンに敵うことなく次々に倒れてゆく。ミスリルもじりじりと寄る一匹のカイリューに怯えているところであった。
「……亜空楽団、打楽器パートリーダー スフォルツァ。主君の形を討たせてもらうっ!」
大技とは思えない速さで大文字を放つ。目を瞑ることしかできなかったミスリルの体を何者かが突き飛ばした。ゴロゴロと転がされ自分は助かったのだと体をすぐさま確認する。大文字を放たれていた場所は黒く焼け焦げていたがそこに一匹のポケモンが静かに立っていた。黒い体に黄色のライン、漆黒の中に映える紅蓮の瞳。確かブラッキーと言う種族だったようなと思っているとそのブラッキーが立っていた位置だけ焼けてはいないことに気が付いた。スフォルツァと名乗ったカイリューはなぜかブラッキーを気に掛けずに全く違う方向へと飛んでゆく。不思議なことに火炎を放ちながら。
ふとブラッキー方へとミスリルは視線を戻す。ふらりと森の中へ消えようとするブラッキーを呼びとめて言った。
「待って!  ……新世軍の兵…?」
「……違う」
「そう…。まだいっぱい兵が残ってるわ。 悪いことは言わないからここにいてちょうだい。まだ沢山のドラゴンたちがいるわ……」
「……」
黙ってミスリルの方へと歩いてくるブラッキー。ミスリルは初めて目の前のブラッキーを間近に見て気がついたがそのブラッキーの大きさは異常なまでに小さかった。まるで、進化をするべき時期ではないのにもかかわらず無理をして進化したかのようなその体長は50cmあるかどうか怪しいほどであった。
ミスリルはブラッキーの姿に驚いていたがさっと味方の方へと視線を戻す。多くの兵が倒れている。その中に、レイとフレイの姿があった。スープは散った敵兵を遠くに流すために水の技を繰り出していたがその効率もイマイチである。やはり先ほどのように戦闘不能にしてしまう方が早いと判断したミスリルは冷凍ビームと吹雪を次々と繰り出す。炎を吐かれたときにはミスリルは目を瞑ったがすぐ後ろに存在を消して立つブラッキーが異様に範囲の広い護るを放ちその攻撃からミスリルを守る。ミスリルは軽くお礼を言うとすぐに攻撃へとかかる。

善戦しているであろうミスリル達とは打って変わってフレイたちは分が悪いことこの上なかった。敵は残り一体。しかしその相手はレイの攻撃を無力化させるガブリアス。先ほどガブリアスに向けて何度目か分からない火炎放射を放ったフレイはすっかり疲れ切っており息は完全に上がりきっていた。そこをガブリアスにつかれたのかガブリアスの強靭なけりが顔面へと向けて払われる。フレイは前足を十字に構えて受け止める。しかし、それは同時にフレイの受け身を不可能にした。地面へと転がされたフレイの脇腹の肉を何かがえぐった。
「がぁっ!あぁぁぁああああぁぁぁっ!!!」
血飛沫がガブリアスの目の前で舞った。それは地面を汚しフレイの視界を暗く濁らせた。



「フレイっ!?」
リーフが前線についたのはまさにフレイが地面から突きだした鋭利な岩に斬り裂かれたその時であった。その瞬間、悲しみにも怒りにも似つかぬ何かがリーフを襲った。心に悪感情が生まれ、ありとあらゆる良心を殺してゆく。その中でもリーフはフレイを想う心だけは無くさずにいられた。それがさらにリーフをある衝動へと突き動かす。
気が付けばリーフは地を力強く蹴っていた。何も考えず、ガブリアスへ向かって飛びかかる。ガブリアスはフレイに止めを刺すために構えていたであろうドラゴンクローをリーフに向けて振りおろそうとした。  が、それを成し遂げることはリーフの左前脚に光る新緑の剣によって阻まれる。ガブリアスはとっさに後ろへと下がる。その隙にレイはフレイを後ろへと引きずってゆく。ガブリアスの胸には先ほどリーフが空振ったであろうリーフブレードの傷跡ができていた。しかし、それでは勝負は終わらない。リーフの闇はそれだけでは止まらなかった。
草の力を体の中心に集めて複数の技を同時発動する。草結びはガブリアスの足を絡め取りリーフの前足は光を宿す。それは先ほどから使っているリーフブレード発動の証であった。それだけではリーフは終わらせなかった。素早く戦いの舞を踊りだす。まるで自分の意気を高めるかのように体についている刃で宙を斬り裂きその剣をより鋭く鋭利なものへと変える。ガブリアスはあわてることしかできなかった。目の前にいる小さき者から放たれる殺気に怯えを抱かざるを得なかった。
全ての準備は整った。リーフはガブリアスの前へと飛び出しその刃を振りかざす。ガブリアスも死を恐れてかドラゴンクローで守りへと移る。しかしリーフの攻撃は早く確実にガブリアスの体を切り結んでいく。徐々に出血が目立つようになったガブリアスの喉に向けてリーフは恐るべき速さで跳んだ。空中で宙返りをしガブリアスの背後の地面へと美しく着地する。
その瞬間、ガブリアスの喉から赤黒い血が噴き出す。ガブリアスの急所へとリーフはその刃を当てて見せたのだった。いくら生命力が高いとはいえ急所と呼ばれる致命傷を与えることのできる場所は存在するものだ。ガブリアスは力なく仰向けに倒れる。  確実に死んだ。そう思わせる出血の量は兵たちに悪寒を感じさせた。フレイはスープが使用した願いごとによって血は止まっていたが意識は戻ってはいなかった。リーフはそんなフレイの元へと駆け寄る。
「フレイ……起きて、起きてよ……」
リーフがフレイの体をやさしく揺する。やはり起きることなく目をつぶったままのフレイになおもリーフは呼びかける。前線の兵が少ないと判断した後方の兵が駆け付けたのだが戦える兵はまだ少なかった。そんな中、レイがぼそりという。
「おい…リーフ……。敵、来てるぞぉ…?」
「えっ…?」
リーフが思わず訊き返す。振り返ってみると確かに数匹のポケモンがこちらに向かってきている。退くわけにはいかない。でも勝ち目もない。こんな状況で果たしてどうするのか。リーフがあれやこれや考えていると上空で妙な轟音と一陣の温かい風が吹いた。空を見ると何やら雲のようなものが残っている。
次の瞬間、敵の戦線で火柱が立つ。ひっ と怯えた声を出すリーフの前に降り立ったのは紛れもない新世軍の将、レシラムだった。
「よく耐えた。後は、この私に任せるがよい」
それだけ言うとふわりと地面から浮遊し敵の前線へと向かってゆくのをリーフたちは見届ける。前線にまで出てきたエイリンが兵たちの治療を始める。リーフたちは敵への警戒は続けながらも実質その戦闘を終えたのだった。


(敵の数は……大体後方にいるのは30か)
レシラムは尾から発せられる熱を推進力に敵の前線へと向かい飛んでいった。敵の目の前で優雅に一回転すると再び灼熱を口からはいた。迎撃するために撃たれたであろう技は炎に呑まれレシラムまでは届くことなくレシラムの炎は地上を焼き払う。

「うぉぉぉおおおおぉぉおぉぉぉっ!!」
煙の中から飛び出してきたのは一匹のフライゴン、フォルテであった。フォルテのドラゴンクローを翼の先の手の甲のようになっている部分で受け止める。
「砂地獄っ」
フォルテが後ろへ飛ぶと両腕を広げる。辺りから砂塵が巻き起こりレシラムの体を砂が傷つけるように飛び交う。両翼で目を守りながら砂の隙間からフォルテの動きをうかがおうとする。しかし、姿を確認する前に腹部に鈍い痛みを覚える。何事かと思っているうちに自分が地面に向かって叩き落とされたのだと気が付く。急降下中に体勢を整えようと尾から炎を噴き出す。地面すれすれでレシラムは浮遊し両翼の傷を確認する。風を切ると痛むが仕方があるまいとフォルテの方を向く。
「なかなかの技…。しかし………クロスフレイムッ」
レシラムが息を吸い込み吐き出したい気に不思議な力を燈す。吐きだされた炎は空中でその形を変え十字をかたどり激しく燃え盛る。フォルテはその炎に向け羽ばたく。十字の隙間を飛びレシラムへと向かう。右翼は燃え、焼けただれているのにもかかわらず最期のドラゴンクローをレシラムへと向ける。
「哀切なる者よ……せめてもの情けだ。私が、待ち人の元へと送ってやろう…。
 彼の送り火となりたまえ……碧い焔よ……」
レシラムが宙で右翼を踊らせる。碧き炎が右翼の先に燈る。そこに息を吹きかけると碧い焔はレシラムの吐息に乗りフォルテをその炎でからめ捕り遥か上空へとさらってゆく。
声にもならない悲鳴を上げるフォルテ。その身を黒く焼いてゆく神聖な焔。フォルテは炎の力でさらに上へと昇ってゆく。 しばらくしたのち、レシラムは右翼の先に息を吹きかけるのをやめる。途端に天高く昇る火柱は根元から消え去った。そこにフォルテの姿はなかった。
「三途の川、無事にわたりなさい……」
レシラムがそう呟くとところどころ出血している両翼を撫でる。翼を痛めるであろう小石を取り払うとふと顔を上げる。先ほどまで火柱が上がっていた空にルギアの姿も見える。きっと仕事を終えて帰還してきたのだろうとレシラムは優しく微笑む。
「こちらも、スフォルツァと名乗る将の撃破を確認したよ」

一応仕事上お互いの戦果を伝え合う。右翼をかばいながら飛んでいたルギアだったがその顔は勝ち誇っていた。
2匹はふわりと翼を反転させると戦場を後にしたのだった。


フォルテとスフォルツァの両雄が死ぬことにより今回の戦いは終わった。
結果は新世軍の勝利だったが、その代価はあまりにも多すぎるものだった。ディアルガは泣きながら戦果を記したのであろう。ところどころ、インクが滲んでいる報告書が、今も遺されている。


【創世暦5000年 6月】
テンガン山麓、ハクタイ平原にて
亜空楽団と戦闘。
敵将を打ち取り辛勝。

死者  76匹
撃破数 47匹





ディアルガの計らいにより味方の遺体も敵の遺体も回収できるだけ回収してきた。味方と敵、それぞれて厚く弔うようにディアルガは指示した。新世軍の領土に倒れていた兵も捕虜にはせずに放逐した。
そんなディアルガだけでなく軍全体が慌ただしかった一日の夜。リーフは夜風に当たろうと外に出たとき、美しい歌声を聴いたのだった。
なんだろう、とリーフは声の響く方角へと歩いてゆく。しばらくして戦死者を埋めた場所ではないのかと少しおびえたがそれでもその歌声にひかれるかのようにして先へ進む。

「あ………」
リーフは思わず声を上げる。墓と言うにはまだまだ粗末なその場所の中心に座り込みその旋律を奏でていたのは紛れもない、ディアルガだった。異国語で飾られたその歌詞の意味はリーフにはわからなかったが愁いを帯びた旋律にディアルガの温かい声が乗せられる。それは、とてもとても不思議な音色だとリーフは思った。
「……やぁ。リーフ」
ディアルガが切のいいところまで歌い終えたのか歌うのをやめリーフの方へと振り向く。
「今のは……いったい?」
「弔歌って呼ばれる歌…。死者を弔うことぐらいしか生きている私たちにはできないからね…」
「………」
「リーフも、一緒に」
「私は…」
「草笛でいいからさ」
「………はい」
リーフは言われるがままにガブリアスのその命を奪ったであろう前足の草に触れる。そこにかるく口をつけディアルガが歌うのを待つ。ディアルガの歌う弔歌は歌詞は違えど同じフレーズの繰り返しであると先ほどから聞き続けているリーフも分かっていた。ならば、そこに正しい伴奏を入れるだけ。リーフは静かに息を吸い込む。

Kui te ei parane
Ma laulan, sest see

Kui teil on võimalik salvestada
Ma palvetan, mistõttu

Meil on see kõik elusorganismid
Ma armastan teile saata viimane.


ディアルガの奏でるメロディーに草笛の()を重ねる。吹く息の量を調節し音に高低をつける。そして奏でられる弔歌。

それに惹かれたものが1匹いた。それは彼らに気づかれることなく彼らと違う次元からそれを聞く。それは、もっと聞きたいと願ったのか。次元を歪めその場に姿を現した。
「……?  う、うわぁっ!」
「?」
リーフが情けない声をあげて尻もちをつく。ディアルガの背後に赤い目、黒い影がゆらりと動いて見えたのだった。
「お、おば……お、おばけ……っ?」
リーフが半ばパニックになりながら涙目になってディアルガの後ろを見る。影は一瞬震えたかと思ったら大きな声をあげて笑ったのだった。
「あ~っはっはっはっはっはっ!  ははっ!はははははっ!!」
何が起きていたのか全く分からなかったディアルガはあわてて後ろへ振り向くとため息をついた。
「……はぁ…。ギラティナ。悪戯もそこまでにして」
「いや~、だって~…はははっ!  戦場じゃあ、そこまですごいのにこの有様~……はははははっ!」
影が空中へと霧散して姿を露わにしたのは何となく雰囲気がディアルガに似ている黄色い飾り以外は暗くあまりよくリーフは確認できなかった。だが、その中でも少ない光を吸い込むかのような黒い翼は何となく恐怖に近いものを感じる姿……だったが、すっかり笑い転げており威圧感を感じさせない恰好であった。笑い泣きした涙を翼で拭うと口角を上げたままディアルガに話しかける。
「ふぅ~……とりあえず、おひさ~」
「ん、ひさしぶり」
「あ、あれ?おばけじゃないの…?」
リーフが和気藹々とする2匹に恐る恐るそう尋ねる。するとギラティナと呼ばれたポケモンがかるーく答える。
「ん~。ゴーストタイプだし~、寿命もないからおばけかもね~」
「ひっ……」
「コラ、驚かさないの。  こんなこといってるけど、一応このギラティナは死を司る神なんだよ?」
そうディアルガが言うとギラティナはリーフに向けてにこりと笑う。しかし、全くリーフは笑えなかった。こういう得体のしれないものと対峙できるほどリーフは胆が座っているわけではなかったし、なにより登場の仕方が不味かったのだろう。すっかり耳は垂れてしまっているうえに尻尾も元気がなくなっている。
「ところでギラティナ。なんでいきなりこっちに?」
「そうそう~、いきなりたくさんの魂が来てね~。仕事増やされた文句言いに来た~。でも、さっきの弔歌に免じて許す~。
 あ、そ~だ~。だいぶ前から預かってたんだけど~。そこのリーフィアに当ててお届け物~」
「わ、私に?」
「うん~。翡翠っていう名前の魂から宛てられてたんだ~。面倒だったから捨てようかと思ってたけど~、ちょうどいい機会~」
そう言って翼をふわりと動かすと鮮やかな緑色の光を放つ何かを取り出した。
「にぃから…。 それは?」
リーフがギラティナに聞く。ディアルガも首を傾げてそれを見る。そんな2匹の様子を見てギラティナがのんびりした口調で話す。
「うん~。死者はね~、形ある物を送っちゃだめって、ルールがあるから~多分何かの記憶じゃない~?」
そう言ってその光をふわりとリーフの方へと飛ばす。リーフの額に当たりそうになった時にその光はすぅっとリーフの中へと吸い込まれてゆく。リーフが心の準備もできていないまま受け取ったこの贈り物。リーフに光が吸い込まれて言った瞬間。リーフの脳内にある一つの動きが刷り込まれてゆく。その動きに何か懐かしいものを覚えそっとリーフは翡翠の使用していた技の名を口にする。
「新緑の……舞…」
「……んじゃ~。まだ魂の誘導が残ってるから~、帰る~」
「えっ? もう少しゆっくりしていったら?」
「そういうわけにもいかないよ~。だって新世軍の兵とか将じゃないし~」
「えっ? じゃあ敵?」
リーフが驚いてそう訊く。しかしギラティナはのったりとした動きで首を横に振ると短く「中立だよ~」と言った。リーフは内心安堵してギラティナの姿を改めてちゃんと見た。ギラティナは暗い空間に身を投じようとしており翼で手を振るような格好をするとディアルガもギラティナに別れを告げる。リーフも小さな声で別れを告げるとディアルガにも別れを告げ墓場を後にする。

翡翠からの贈り物。それはリーフにとってこの上ない喜びだった。たとえ形はなくとも、翡翠の使っていた奥の手、新緑の舞を使用することができるようになったというのはまるで翡翠と共に戦えるような感覚を抱かざるを得なかった。リーフはにこりと笑って一つのテントをめくる。
「あっと、ここはレイのテントだった……」
「んぅ………」
リーフはテントをめくって中に寝転がる黄色いとげを見て言った。これだからみんな同じ色のテントだとわけが分からなくなる……。と心の中で悪態をついてテントを後にしようと思ったその時。レイがのそりと動いた。リーフが振り返ると目を薄く開けている。テントを間違えた上に睡眠妨害までするだなんて、とリーフは自分のミスにため息をついてレイの元に歩み寄る。
「起しちゃったかな…?」
「あ……ん~……。ユウ…?」
「え?」
レイの口から出てきたのは全く違うポケモンの名前。でも、その名に聞き覚えがないわけではなかった。リーフにレイが抱きついてきた時の衝撃の初対面。その時レイがリーフを見て間違えたその名。それをリーフは何となく思い出していた。抱きつくまで気が付かないということは余程よく似ているのかな。などと考えていた。
レイは薄目を開けながらリーフを見る。まだあまりはっきりとしない意識の中でリーフの首に両前足をかける。あっけにとられていたリーフはそのままぐいと前足で頭を引かれその唇をレイに奪われる。そのまま舌を口内に入れられ舌を絡められ歯の裏までも口内を隅々に舐められる。流石のリーフも驚いてしまったがここで抵抗もできなかった。フレイからも何度か聞いたことがあるユウと言う名のリーフィア。それがレイの彼女であることぐらいはリーフも知っていた。ならば、なおさらここで止めてしまうのは、とも思いながらレイがどこまでいってしまうのか。そこに対する疑問も抱きながらレイに唇を預けていた。
じきにレイが唇を離す。目は寝ぼけ眼ではなくなりつつあるようだった。リーフは今からでもいいから自分がリーフであることに気が付いてくれるだろうか。と思いレイの返事を待つがそんな様子はなくどうやら本当に頭は寝ぼけているようだった。
これはまずい。流石にまず過ぎる。そう思ったリーフは慌てて自分がリーフであるということを伝えようとする。すると、先にレイがとんでもないことを言い出したのだ。
「ユゥ~、久しぶりにヤろうぜ……」
「えっ……」
顔を赤くしながらそう言ってリーフの体をまさぐりだすレイ。リーフは嫌だと跳びのこうかとした時にバチンッという音共にリーフの体の自由が奪われる。レイが興奮して発した電気だろうか。レイの方に倒れてしまったリーフを受け止めてにやりと不敵な笑みを浮かべるレイ。リーフの耳元でレイは静かに囁いた。
「ユウも恥ずかしがらなくっていいぜ…」
「いや、私はリーフだって…。起きてよレイ……」
体が痺れているためかうまく呂律が回っていなかったがとりあえず伝えられたはずだとリーフはレイの様子を確認する。レイは首を傾げるとリーフの首筋を舌でなぞりながら静かに話す。
「リーフなわけないじゃん…。スカーフつけてないし、俺のキスでこんなに顔が赤いぜ……」
「んぐっ……ひゃぁっ…」
首筋を舐められ体を震わせるリーフ。普通にしていれば耐えられそうな喘ぎ声を痺れているためか思わずあげてしまう。それが余計にレイを興奮させる。
戦争によるストレス、離れ離れになった彼女、雌の割合が異常に高いこの部隊。雄の性欲を発散するにはこれほど過酷な環境はないかもしれない。その分が爆発している。リーフはレイに対抗する術もなく言葉通りにされるがままの状態であった。レイの這う舌が徐々に胸の方へと下げられてゆく。リーフは焦りながらも体はいうことを聞かない。レイの電気のせいで動けないのも確かだったが雌の敏感な部分を的確に攻めてくるレイの舌のせいで体の力を奪われていることも確かだった。レイの舌が胸へと到達する。それと同時にリーフの秘所にレイの前足が置かれる。
「きゃぁっ」
「今日は少し声が高いな…。そんなに嬉しいのか?」
リーフは首を振る振ると横に振りながら声を堪えようと試みる。しかし、フレイのようにぎこちない動きではなく激しくも優しいレイのその前足と舌の動きについつい声が出てしまう。すぐ隣のテントはフレイが寝ている。もしもこの声で起きてしまったら、と嫌なことが頭をよぎるがその考えはすぐに快楽に飲み込まれる。
「や、やだっ。やめっ……」
「こんなに濡れてるのにやめても平気なのか?」
そう言ってリーフの目の前に先ほどまで秘所を弄っていた前足を持ってくる。レイの前足の肉球のあたりはすっかり濡れている。そんなものを意地悪く見せられてリーフは顔を赤くして俯くしかなかった。レイは再び秘所に前足を宛がう。ぐしょぐしょに濡れたリーフの秘所にその前足の先はいとも簡単に侵入する。
「きゃふっ。ふぁぁぁ……」
「もっとその声を聞かせてくれ……」
そういうとともに前足の動きを速める。もしかしたらレイは焦っているのかもしれない。そうリーフが感じるほどであった。それでも痛くならない程度に膣壁を強く刺激してくるレイの手つきはまさに手慣れていると言った雰囲気。それは身動きの取れないうえに経験も少ないリーフを絶頂へ導くには充分だったのかもしれない。
「あっあっ……。ひゃっ。きゃぁぁぁっ…!!」
大きく体を震わせるとリーフは体を反りかえらせる。体力の残っていないリーフにはかなり大きな負担となってしまったのか、全身を痙攣させ目の焦点が一気にぶれる。
「ひ………ぁぁ……」
リーフは口からそう漏らすとレイが自分の体の上に乗ってくるのを感じながらそのまま目を閉じてしまった。


それから数時間後、リーフがうっすらと目を開けた。テントの外はまだ暗いようだ。何か体が重い。だるさのようなものも感じるのだが質量のある重み。そう言えば昨夜何かあったのかと思い返してみて顔から火が出そうになる。
徐々に意識がはっきりしてきたところで下半身に違和感を感じたのだった。腹部が下から押し上げられているような感覚に一瞬くらっとしながら下を見る。すると、下半身は汗なのか、それ以外の何かでべたついている。密着したレイとリーフの体が何かで繋がっている。
「わわわっ!」
リーフはそれがレイの一物であることに気が付くと再び顔を赤く染める。それと同時に下半身の感覚がしっかりと戻り始めてくる。その感覚が快感に変わろうとしていることに焦りを覚えるリーフ。引き抜こうと試みるのだがレイの鼓動に合わせて震えるそれと抜くときに強い刺激を送ってくる雁首にリーフは何を思ったのか再びその一物を中へと収めてしまった。
「はぅぅ……」
うっとりと瞳を閉じてため息をつくリーフ。再び引き抜こうとしてまた中へと戻す。息が荒くなり理性を失いかけたリーフを現実に引き戻したのはレイであった。静かに寝息を立てていたレイがびくっと震えリーフは理性を取り戻す。
「わ、私のバカバカッ……」
そう呟くと慌てて一物を引き抜くとドロリと白濁色の液が割れ目から漏れる。それを前足で押さえるとぎこちない動きでテントの外へと出る。外はまだ暗い。どうやら思っていたよりも早起きだったようだ。
リーフは辺りをきょろきょろと見回しながらこそこそと水場へと歩いてゆく。早くに体についた精液や汗、愛液などの匂いのきついべたついたものを落とすためスジを押さえている前足の他の3本の足でぴょんぴょんととびながら進む。

水場のふちまで来るとさっと水の中へと飛び込む。冷たい水が全身を包み顔だけ水面から上げる。すぐさま下半身を前足でごしごしと擦り毛に絡みついた液を落としてゆく。ぬるぬるとした感覚はなかなかとれずに焦りながら毛を擦り合わせてその液を落とそうと試みる。
日が昇り始め、リーフはやっと体中についた液を取ると体についた水気を飛ばすとフレイのテントへと歩を進める。何となくすっきりしたかのような感覚を覚えながらリーフは軽い足取りでフレイのテントの中へと入った。

リーフがフレイのテントに戻ってから1時間ほど経った後にフレイがやっとその目を開けた。手当てを施したエイリンから気絶しているだけと言ってはいたのだがそれでも目を覚ましてくれたのはリーフに大きな安心感のようなものを与えてくれたのだろう。リーフはフレイに小さく「おはよう」と声をかけるとそっと抱きついてその胸元の毛に顔を埋めた。




それから、リーフ小隊は各々のテントの外に集まる。フレイの復活に各隊員が安堵しているようだった。フレイの傷はすでにエイリンの用意した薬の効果で完全にふさがっており、その完治の具合にはリーフも驚いたほどである。
全員が外に集まった頃にリーフはディアルガの使いから渡されていたまだ開封していない手紙の内容を伝えるべくリーフは手紙を開ける。中から取り出した手紙をリーフは黙読すると内容をまとめて部隊の兵たちに伝えた。
「えっと……。まず一つ目…。今日、この部隊に新たに1匹の兵が派遣されてくるみたい。
 それと、私たちに出撃命令。場所はカンナギ。日時は今からちょうど2週間後だよ。 以上」
それを言い終えると手紙をもと入れてあった紙の袋に戻す。派遣されてくる兵にも興味があったがそれよりもこれから初の侵攻戦が始まる。それを思うとリーフの闘争心を大きく掻き立てるものがあった。
そんな気持ちを昂らせているリーフにスープが声をかけると言った。
「あの……新しい兵の方は、いついらっしゃるのでしょうか?」
「手紙だと午前中に来るらしいけれど……」
「そうなんですか? 意外と早いんですね」
そういうと満面の笑みを浮かべるスープ。奥手のような性格ゆえに味方が増えるのは心強さが増すようである。その様子を見てリーフもつられて笑う。心強い味方が来ると手紙には記されていた。この戦争で、森の者たちの仇を討つこと。それがリーフの目指していることである。それをなしえるためには他の者の助けは必要不可欠である。

それからしばらくしてリーフがきょろきょろとあたりを見回すとミスリルやエイリンはリーフの話を聞き終えたのちにテントに戻ってしまったようである。スープもテントに戻っている。十数匹の兵の中のフレイとレイがリーフの目に付いた。このままテントに戻っても面倒な戦功の報告書は終わらせてしまったあとで特にやることもない。フレイたちの会話に混ぜてもらうことにしたリーフはフレイたちの元へと歩みよってゆく。徐々にはっきりと聞こえてくる2匹に耳をそば立てた。
「でさでさ、やっぱり夢の中でもユウは最高なんだぜ~」
「うぅ…。レイの話を聞いてると僕の未熟さがよくわかるよ……」
フレイが顔を赤らめながらそんなことを言っている。レイは昨日のリーフとの一件、レイにしてみるとユウと性行為をしていた夢と捉えられているようだった。リーフは2匹の言葉を聞いて顔を真っ赤にしていた。
リーフは逃げるようにして自分のテントへ戻る。気を静めるために甘いモモンのみの果実をかじった。レイが喜んでくれているのなら何となくうれしいのだがフレイに悪いような気がするのも確かであった。とりあえずフレイにもレイにも黙っておこうと決めるリーフだった。


リーフが書類を眺めながらぐだぐだとしているとエイリンがテントの中へと入ってくる。リーフが頭に乗せてバランスをとって遊んでいたモモンの実を慌てて机の上へと置く。その様子に苦笑しながらエイリンはリーフに用件を伝える。
「隊長。レシラム様が新隊員をわざわざ連れてきてくださったようですわ」
「え、レシラムさんが?」
そう言うと慌てて外へと出る。リーフが空を見上げるとレシラムは未だに上空にいるようだ。尾から出されている炎を少しづつ消して降り立とうとしているところであった。その背には何か茶色いものが乗っている。レシラムが地に足を着ける前にその背に乗っている何かはレシラムの背から飛び降り宙返りをしながら地に下りた。かなりの高さから飛び降りたにもかかわらず着地する音を立てないというのはどういうことであろうか。エスパーを操る種族のポケモンならまだしもリーフたちの前に下りた者は誰も予想をしていなかった小さきものであった。
「イー…ブイ…?」
リーフが驚きの眼差しでそのポケモンを見つめる。それは他の兵たちも同じであった。静まり返ったリーフの部隊にレシラムが降り立つ。レシラムはリーフに軽く頭を下げると新兵の書類を渡すと忙しいようで軽く挨拶を済ませるとすぐに飛び立ってしまった。その間始終無言だったイーブイの方へ徐々に人だかりができてゆく。
フレイは目の前で目を瞑り蒼い布を口元にかけ両耳の後ろ側からも布をたらしている古来の魔術師の様な姿をしているイーブイに声をかけた。
「……君、名前は?」
恐る恐る聞いたフレイの声に目の前のイーブイはその目をゆっくりと開けた。栗色の体毛に同化してしまいそうなその瞳でリーフ小隊の兵を見回すと言った。
「余か?余の名はサマエル。サマエル・イノセンサーじゃ」
イーブイに見られる幼く高い声で目の前のイーブイは名乗った。古風な話し方で兵たちの興味が一気に集まる。その中でレイがサマエルに声をかけた。
「サマエルか……。下の名があるってことは異国のポケモンか」
「そうじゃな。余の故郷はイッシュじゃからのう」
しみじみと目を閉じレイにそう返答する。リーフはその様子を遠くから見てため息をつく。どうにもこの部隊には癖の強いポケモンが多くなる。そう思うと自然と笑みがこみあげてきた。頭の後ろを軽く掻くとレシラムから渡された書類に目を通し始めた。

【創世歴5000年 6月】
リーフ小隊にサマエル・イノセンサー加入。

新世軍、カンナギ侵攻戦を計画





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Last-modified: 2013-03-19 (火) 00:00:00
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