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聖戦 動き出す戦局

/聖戦 動き出す戦局

南十字


!!注意!!
今回はコ ?作となっております。
キャラを貸してくださったトランスさんに全力で感謝ですっ!!
エロいかもしれません。
グロいです。





サマエルがやってきて2週間後。ついに侵攻戦の日をリーフ達は迎えた。2週間食料や薬やらの用意でてんてこ舞いになっており、実践訓練など行っている暇すらなかった。サマエルの力なども把握できずにリーフ隊はテンガン山の洞窟へ繰り出すこととなる。
暗い洞窟の中をレイが放つ明かりをもとに進んで行く。洞窟を抜ければすぐそこは敵地である。今までのような防衛戦とはまるでわけが違う。敵を壊滅させることが目的である。今までのように敵の諦めを待つような戦闘ではない。そのため、こちらの陣容もかなりのものである。 リーフ隊は最前線に配置されている小隊の一つであり、その後ろには大部隊がいくつか詰めている。更にその後ろ、最前線の正体が敵地に侵入しあらかたの布陣が終えればテンガン山をレシラム率いる飛行部隊が越えて後詰めを行う手筈になっている。キッサキを守るための砦でもあるカンナギは守りが厚いと考えての新世軍の陣容である。

リーフ小隊はじきにテンガン山を抜ける道を目の前にしてその歩を止める。後ろに振りかえると緊張した面持ちの面々。リーフは静かに頷いて見せると隊員もそれに応える。リーフは洞窟の出口まで進むと外を確認する。兵の様子、迎撃してくるための技、罠が仕掛けられている様子はない。素早く手招きをするとリーフ小隊はカンナギへと足を踏み入れる。それを合図に他の部隊の者達もカンナギへと攻め入る。
カンナギ侵攻戦の始まりであった。




新世軍の布陣もほぼ完成して始めているその時、レシラムがテンガン山より後ろに降り立った。敵の迎撃する態勢が整っていなかったのか、それとも迎え撃つ気でいるのか。どの道ここまで来て後戻りをする気はない。レシラムが片翼を上げ声高に叫んだ。
「……総員、パルキア連合軍カンナギ駐屯兵達を一掃せよ!」
その声と共に各小隊へ出撃の合図が出される。リーフ達も出撃を始める。青いスカーフが風を切りたなびいた。

「………陣を展開。これより作戦を開始する!」
赤いスカーフを耳に縛りつけたサンダースがそう叫ぶ。そのポケモンはため息をつくと言った。
「慣れないことは言うもんじゃないな…。……ミヤビ、仇は討つからな。安心して眠ってくれよ……?」
味方が木の影や茂みに隠れるのを見るとそのポケモンは木の影から姿を現し大軍を望む。黄色く滑らかな体毛を鋭くとがらせると言った。
「防衛隊長ライト=アード=サンダース。  出陣だぜっ」
そう自分に言い聞かせるかのように言うと、高速移動を始め自らの素早さを高めてゆく。目の前にはリーフ隊が迫っていた…。


リーフは後ろの隊員を止めると前に静かに佇むサンダースを見据えた。赤いスカーフを身につけていることから敵であることに間違いはない。リーフはきっと目の前の敵を睨みつける。リーフが目の前のサンダースに飛びかかるために大地を強く踏みしめたその時、目の前のポケモンは言った。
「お前がリーフか?  俺はライト。防衛隊長兼調理班長だ。お前らに言いてぇことがあるんだよ…」
「…なに?」
リーフが訝しげにそう訊くと目の前のサンダースは全身の体毛を鋭くとがらせて怒鳴った。
「…お前達は、生かすべきやつもわかんねぇのかよ!……あいつは、生きていても……良かっただろ…。殺すことはなかっただろ…」
「…………」
「話すことはそれだけか?」
リーフの後ろに控え今すぐにでも暴れたいのか、うずうずしているレイがそう言い放った。ライトは歯軋りをすると話すことを諦めた。代わりに何も声を出せなかったリーフを睨みつけると静かに力を辺りへと放出してゆく。
ライトが放出した気は影分身として本物のライトとは見分けのつかない姿を形作りその場に何体も現れる。
「行くぜ……。…電光石火っ!」
大勢の影分身とともにリーフ隊へと突っ込んでくるライト。部隊の間をすり抜け疾風のように駆け抜けるそれはとても目に追える速さではなくリーフが何度も発動する草結びを軽くかわしてしまう。そうこうしているうちにもライトはさらに分身を作り出してゆく。それがあらゆる隊に潜り込んでは新世軍の兵達を撹乱させていった。
「ちっ。小賢しいことを……おい、スープ!濁流を……スープ…?」
レイがスープに向けて指示を出そうとしたが、スープはうずくまっており動かない。レイが慌てて影分身の間をすり抜けスープの元へ駆け寄るとどうやら電磁波で動けなくなっているようであった。
「うっ…く……。 申し訳…ありませ……」
スープが無理をして話そうとする。電撃で撃たれなかっただけ運が良かったというのに泣きそうな顔をする。そんなスープを軽く励ますと無尽蔵に増える影分身を見た。
「何とかならねぇもんか……」
レイが顔をしかめそう呟く。しかし、刻々とその状況を変える戦場はレイに考える時間を与えてはくれなかった。木々の間に隠れたシャワーズにライトが近付く。すでに、敵の部隊の中に本物のライトはいない。撹乱を行っているのは全て分身であり、その発動時間の限界は近い。シャワーズがライトの姿を確認するとそっと合図を出す。それと同時に撹乱している新世軍の兵の中へ2つの影を先頭に多くのポケモンが飛び出した。
「ぐわぁぁっ!」「うぉぉっ!」
兵士の悲鳴がところどころから聞こえ始める。それは明らかに味方のものである。それを悟ったリーフは焦燥感を募らせて当たりを見やる。
視界の隅に見えたのは赤いスカーフを身に付けたリーフィアであった。リーフは赤いスカーフを更に開けに染めているリーフィアに向けて飛びかかる。殺戮行為は行ってはいない分よかったが味方が戦闘不能に追いやられるのは困る。
「な、なんやっ!?」
リーフの放つシザークロスを間一髪でよけるリーフィア。リーフがすぐさま体勢を直すと目の前のリーフィアを眺める。戦場であるため笑顔でいるわけではなかったのだがそれでも、目の前のリーフィアには明るさがあった。リーフはつくづく羨ましく思った。ミヤビもそうであったように、明るい者には惹かれるものだ。しかし、今は戦場に立つ一兵士。敵を殲滅することを課された戦士。普通のポケモンとしての心を追いやり目の前のリーフィアに名乗った。
「私はリーフ。新世軍小隊長のリーフ」
「ほんまか!? 自分は隊長さんか~。ウチはフォレス=エルファ=リーフィアや。ゆうとくけどウチは強いで~!」
このように戦場でも自信を失わないでいる者。それはすなわち強者であることを示す。目の前のリーフィア、フォレスと名乗る者は強い。そう感じ取ったリーフは地を強く踏む。
フォレスもリーフが力むのを感じ取ったのか姿勢を低くし構える。リーフが踏み出すのと同時にフォレスも跳びかかった。互いの草刃がぶつかりあい、互いに違う動きを見せてゆく。
フォレスの放つ草刃は流れるようで前足の動きすべてが攻撃へと変換されリーフに襲いかかる。リーフはどちらかと言えば一閃ずつ振り切り単発の威力を求めるがためにフォレスの動きには苦戦を見せ始める。だが、それはフォレスにとっても同じであった。
(あかん。弾き返されたらウチは隙だらけや…)
冷や汗を互いに流し鍔迫り合いのような動きを見せるこの戦いを先に切り替えたのはフォレスの方であった。リーフブレードで宙を斬った後に連続切りへと切り替える。手数が多く素早さに特化したその連続切り。まだ軽いうちの3発を体に受け流血を気にせず歯を食いしばるリーフ。4発目。まさにくらいそうになったその瞬間。リーフは宙返りとともに下方からシザークロスを決める。連続切りとシザークロス。虫の技がぶつかり合い弾かれたのはフォレスの方であった。フォレスが体勢を崩したのを宙で確認するリーフ。弾いただけであり、ダメージはゼロである。リーフは着地と同時に地を蹴り追い打ちと言わんばかりの燕返しを浴びせる。しかし、フォレスも崩れた体勢からアイアンテールを発動する。それを振ると同時に燕返しがフォレスへと直撃した。燕返しを受けたフォレスは大きく吹き飛ばされリーフとの距離を大きくとった。フォレスは吹き飛ばされたからか冷静さを取り戻すと呟いた。
「ほんま隊長さんなんやな…。ウチも結構自信あったさかいに、ショックやわ…。
 でも、まだ戦争はおわっとらん。今回は退くのもウチの仕事や…」
脇腹にフォレスのアイアンテールを受け前足で押さえているリーフを少しだけ振り返るとさっと木々の間へと消えて行った。

リーフがフォレスと戦っていた時間。少し離れた場所でももう一つの戦いが起きていた。
サマエルがその目で鋭く敵を見やる。目の前のイーブイもまた、鋭い目つきでサマエルを見据える。そこに未進化であるハンデなどと言うものは存在しなかった。その威圧感は、最終進化という名誉を受けた者達も顔負けであるほどであった。他方は青き布で顔の至る部位を覆う魔術師、サマエル。他方はサマエルよりも一回り大きく凛とした表情で相手を望む戦士、アルト。彼女達は互いに名乗り終えると同時にその能力、明らかに他のポケモンたちとは異色であるその能力を発揮させた。
先に仕掛けたのはアルトである。その身軽なフットワークで距離を詰める。スピードスターを纏い電光石火で近づく。サマエルも颯と電光石火を駆使しそれを避ける。アルトが身に纏わせたスピードスターをアルトに向けるも、軽くかわされたその星は後ろに立つ木々に当たり粉々に砕け散る。アルトは内心舌を巻くと目の前のイーブイに向けて言い放つ。
「特性ゆえか逃げ脚だけは上等なようですね。いつまで逃げ続けるおつもりで?」
「戯言は勝負を汚す。早々に口を閉じるのじゃ」
互いに毒舌を相手に向けてはくと戦意を体の底から湧かせてゆく。そしてついに、サマエルが見せたその力。周りの兵、そしてアルトまでも思わず口を開けてしまったその力。

「これが余の力じゃ…。勝利の星は…余が詠むのじゃ……!」
眼前で膨らませていくそのエネルギー。それは火球を形作っていた。イーブイには扱うことのできない力。それをサマエルは扱っている。口元を覆う布は焼き切れ住みとなって宙を飛んだ。そしてサマエルは地を踏むとその技を、放った。
「火炎弾!」

火炎弾。それは勝利を与えるとされる幻のポケモンの持つ技であり、決してイーブイが放つ技ではなかった。なぜそのような技を扱うことができるのか。それは後に語ることになるだろう。 火球はまっすぐアルトの方へと向かって飛んでゆく。いつまでも驚いていても勝てるわけではない。アルトは目の前の火球を電光石火を駆使して避ける。華麗なステップを決めて爆風からも身をかわす。サマエルがそんなアルトへと放った第二撃はエスパーの力であった。サマエルの目が怪しく青白い光を燈す。アルトは避けながらもサマエルの動きを常に意識していたのか念力に捕まる前に電光石火で再びサマエルへと急接近を試みる。
サマエルは再び火炎弾を作り上げるが一度放たれた技の癖をアルトは完璧に見きっていた。火炎弾そのものを避けたのちに爆風を利用しサマエルへと近づく力を大きくさせる。それをサマエルは予想できていなかったのかアルトに眼前へと迫られる。サマエルの隙を逃さなかったアルトは適応力により増幅された渾身の八つ当たりをサマエルへとぶつける。
ただで食らうわけにもいかないサマエルはとっさに念力を作ろうと試みる。しかし、大気へと放出された念力はアルトの八つ当たりから身を守るには薄すぎるものだった。
「くっ……!」
「……」
サマエルの念力が作用し弱化された八つ当たり。それでも同族を大きく吹き飛ばすそれはかなりのダメージがあるものなのだと周りが思うほどだった。しかし、アルトは内心歯軋りした。念力の壁を作って体をかばうほど、サマエルは馬鹿ではなかった。
(念力で自分の体を後ろへ飛ばしましたか……)
サマエルは再び念力を発動し地べたへと足をつける。しかし、右前脚をかばっているのをアルトは見逃さなかった。大技発動直後の隙だらけな時に放った技を完璧に受け流されたわけではないのを確認し妙な安堵感が心の中に広がってゆくのを感じた。
「……余が…。傷つけられるなど……」
サマエルはそうアルトには聞こえないよう呟くと歯軋りをした。同じ種族なのが余計に悔しさを駆り立てる。だがそれを決して表には出さずにアルトを見据える。口元を覆う布がなくともサマエルの表情は全く読めない。
アルトが第二撃を加えようかと地を踏んだが、味方のポケモン。フォレスの退く姿を確認した。流石のアルトでも多勢に無勢では力を発揮しきれるとも限らない。徐々に味方が退いてゆくのを感じ取りアルトもそれに乗じる。 振り返り一度だけサマエルと目を合わせる。サマエルのほんの少しだけ紅の映る瞳を見ると口を開くことなく去っていった。

前線部隊の消耗は想像以上に大きかった。初めの影分身による撹乱に続き後から見晴らしの悪い林から飛び出してきたポケモン達。ある部隊は氷漬けにされ、ある部隊は大炎上していたようである。なかなかの広範囲に敵の部隊が展開していたのを全く感づかれることなくここまで誘き出させるということは敵の司令塔のような者は相当のやり手なのだと感心する他なかった。
そして、リーフ小隊。最前線でリーフはその刃を構え直した。目の前のライトと名乗ったサンダースは覚悟を決めてリーフと対峙する。周囲は見晴らしの悪い林。リーフにとっては地の利はあっても光がない。それでも、目の前に敵がいれば斬るだけである。たとえ相手が愁いに満ちた瞳をしていようが。
「……せやぁぁっ!!」
リーフはリーフブレードを発動するとライトへと接近する。右前脚を振りかぶり無駄のない動きでライトへとその刃を振り降ろそうとする。ライトはその素早さを生かして後ろへと身を退く。リーフが素早さで勝てないと諦めると燕返しの構えへと瞬時に移る。燕返し、刃を相手に直接当てることがその技の主力であるが、少し鍛錬を積めばそれに加えて真空派のようなものを作り出すことができる。飛距離はないものの瞬時に創り出される見えない刃が燕返しの命中精度を物語っている。
しかし、ライトは当たる寸前に護るを発動させる。真空派はライトに届くことなく消滅し燕返しは不発へと終わる。こうなったら仕方がない。そうリーフが覚悟を決めるとライトが護りを解く前にリーフブレードを発動しその青く輝く半透明の壁に刃を打ち付ける。
どんな攻撃にも耐えうるその壁はもともと長時間の発動は不可能であり時間とともに維持が難しくなってゆく。ライトがそろそろ後ろへ下がろうと考えているうちにもその壁はリーフによって突破された。ガラスの砕けるような音共にライトの眼前にリーフが迫る。次の技を発動するには技に力を使いすぎていてライトはたじろぐことしかできずにリーフの草刃を体に受けたのだった。それから二撃、三撃とライトに向けて刃が振り下ろされる。
(もしあれが俺だったら…もう事切れてるよな…)
レイは正直見ていてぞっとした。心の中でご冥福を祈ろうなどと考えているうちにリーフが攻撃の手を止めた。リーフはさっとライトと名乗ったサンダースが倒れているのを確認して引き上げようとする。レイはもう一度心の中で合唱するとリーフを労った。あれだけの攻撃を受けて生きているかどうかも分からず、ましてや再び立つことなど。そう油断しきっていたリーフに後ろから不思議な球体が飛んできた。レイが慌ててリーフに異変を伝えようとしたが既に遅かった。
被弾した尾と左後脚は見る見るうちに凍りついてゆく。体重を大きく支えるはずの後脚の感覚がなくなってゆき凍りついた部位からは血が滲み始める。当然立っていられるはずもなく呻き声のようなものをあげて前に倒れ込む。フォレスとの戦闘の傷も癒えていないうちに追い打ちのうように掛けられた相性の悪い技はリーフの体力を大きく削いでしまった。前のめりに倒れたリーフをレイが慌てて受け止めるとライトを見据えた。血だらけのはずなのに、間違いなく立っている。
「おいおい……不死身(アンデッド)サンダースとか、冗談じゃねぇ……」
「これしき、いつものやり取りに比べればぬるいもんだぜ…」
レイの驚く様子を気に掛けずにケロリとした表情で立っているライト。そして、その視線はリーフに向けられている。ふと、ライトは空を見上げた。そろそろ空も赤く染まる。そんな時間であった。

「んじゃ、俺らはそろそろ帰るぜ」
「なんだと?  おい、こら。待てっ!」
レイが追おうとするもライトは相変わらずの速さで間合いを取り、息を整え地面に一本の線を描く。
「俺は傷つけなくても済むやつには傷つけない性質(たち)だぜ?」
そういうとライトの体が光り出す。普通の技とは違う、なにか大きな技か特殊な技を発動させようとしているのだとレイが気が付いたときにはもう遅かった。ライトはその力を広範囲に広げるとその技を発動した。
「電磁障壁っ」
電撃がその場の空気に帯電し目の前に立ちはだかった。普通にしていれば電気は他の空気を伝わりすぐに痛みを感じない程度の電気になってしまうというのに目の前に立ちはだかる"電磁障壁"はその場に電気が残り続けている。しかも周りを見渡すと見晴らしの悪い林の中でもある程度の高さを持つこの壁はどこまで広がっているのかよく分かる。相当強い意志を持って発動しなければ体が疲れ切ってしまいそうなまでに多くのエネルギーが使われているそれの場所へフレイ達も到着する。
「あ、レイ。さっき敵が退いてったけど何かあったの……って、リーフさん!」
氷は溶けているものの止血をそこらへんの草を使って締め付けただけのその姿は痛々しかった。リーフに意識があるのを確認して一安心するとフレイはライトの作った置き土産、電磁障壁を眺めた。
「これは……」
「敵のサンダース。ライトとか言うやつが作っていったやつだ」
「……すごいね」
そう言うと静かに電撃で形成されたその壁に近づく。口元で小さな火球を形成すると大の字に展開しながら壁に向けてはいた。しかし、それは電撃に届く前に2分の1の大きさになって肝心の電撃に当たりかき消されてしまった。
「………」
「…多分の光の壁で雷か十万ボルトか何かを閉じ込めて形成されてるな。同族とは思えない技の使い方だぜ」
ため息をつくレイと電撃の壁を交互に見てフレイが思いついたように言った。
「っていうことは下から行けば…?」
「多分な。 でも、もう日が落ちる。後方では陣を構える準備がもう大体終わってるころだろ。帰るぜ」
そう言うとさっさと踵を返して林を抜けるために歩きだす。フレイはリーフを背に乗せるとその頬を一舐めして微笑みかけた。リーフもフレイに笑って見せると安心したのかフレイは確かな足取りで自陣へと引き上げてゆくのだった。



「……」
リーフはテントの中で険しい目を宙へと向ける。エイリンの薬の効果は実に大きかった。傷を瞬時に回復させてゆくその薬はまるで魔法のようにも思えてくる。しかし安静にしていることを勧められ、更にはさらしまで巻かれてしまってリーフにしてみれば不甲斐ないことこの上ない。それでもフレイはリーフのことを気にかけてリーフに寄り添う。ここ、テンガン山よりのカンナギは風の影響でキッサキの冷気が乗せられてきておりハクタイよりも気温が低い。時折リーフが震えるのを見ては温めてやるフレイのおかげでリーフは気が付けば苛立ちを忘れて寝入ってしまっていた。



リーフは暗い空間に立っていた。黒と表現するには少し生ぬるいかもしれない。光のない、まさに闇。その中にリーフは放り出されていた。
「リーフっ」
そう後ろから明るく場違いな声が聞こえる。リーフが慌てて振り向くとそこには闇と同化してしまいそうなサザンドラ。忘れることなどない、ミヤビがそこにいた。
リーフはミヤビの方へと歩みよっていく。この闇だけの世界でどれだけ明るさが恋しかったのだろう。自分は暗い。この闇のように果てしなく暗い。それを知っているリーフは自分に無い何かを求める子供のようにミヤビに縋りつこうとした。しかし、そんなリーフの首を右腕で噛みつくように掴む。そしてミヤビはリーフを持ち上げ目線を合わせると言った。
「君のせいで、私達。死んじゃったよ?」
「…え……。私の…せい?」
「そうだよ?   リーフ。リーフは、破壊することしかできないんだね」
「そんな…私……」
「誰も救えない。リーフが作るのは幸せじゃなくって屍の山だよね」
「いや…やめて……私だって……私だって……っ」
ミヤビの言葉が心に深く突き刺さりリーフは気が付けば涙が出ていた。
気が付いている。知っている。自分自身がやっていることは復讐であり殺戮であり、戦争状態だからこそ許される罪だということを。
しかし、彼女の心の奥に生き続けている友人達、家族。今を生き守るべき仲間達。それを思うとパルキアが憎くてたまらない。そんな矛盾だらけの板挟みに気持ちが押しつぶされてしまいそうだった。
「不幸の芽は摘み取るよ?いいね?」
そうミヤビが明るく言う。リーフはすでに言葉が出なかった。視界が滲んでミヤビの顔もよく分からない。そんな中、ミヤビが口を開け火をちらつかせる。リーフにとってはそれが怖くてたまらなかった。何もかも奪う炎が憎く、そして何よりも怖かった。滲んだ視界がさらに滲み目尻から筋を描いて地へと悲しみの結晶が落ちる。
自身の身が炎で包まれ紅蓮の中に身を沈められてゆく。そこでリーフの意識は途切れた。


「う、うぁぁぁぁっ!!」
リーフが体の上に置かれている毛布を取っ払うと勢い良く起き上がった。荒い息をそのままにテントの中を見回す。隣にはフレイが寝ている。起こさなくてよかったと安心するリーフは自分の頬が濡れているのに気が付いた。何かひどい悪夢を見ていたような気がする。心がもやもやする。起きたばかりだというのに悪夢を見ていたということしか覚えていない。不思議なこともあるものだと、ふとフレイを見るとフレイが小さく唸り声をあげているのに気が付いた。額に汗をかきもがくような動きをしている。うなされているのかとリーフはフレイの体を揺する。同じタイミングで2匹とも悪夢を見ていることに疑問を感じながら。
「ねぇ。起きて」
更に体を揺する。フレイがより一層大きな唸り声をあげたかと思うといきなり目を見開いてリーフの喉元に鋭爪を突きつけた。あと少しで喉を切り払える。その位置まで突きつけてからフレイは我に返る。
「あ………」
「…フレイ?」
「その…。ご、ごめん…」
フレイは申し訳なさそうな顔をして爪をひっこめ俯く。リーフは冷や汗を拭うとフレイに気にしないように言った。何度も謝るフレイにやはり悪夢を見ていたのだということを聞いた。しかし、リーフ同様、内容がはっきりしない。リーフの中でさらに違和感が膨れ上がる。しかし、その違和感の正体がいまいちよくつかめない。
首を傾げながら再び横になろうとするリーフ。しかし、寝転がる寸前にリーフ達を地響きを伴う砲声が襲った。パルキア連合軍の逆襲だった。



「……くくっ」
「よし、俺はもう行くぞ」
「ああ。レシラムの白い体毛を朱に染めてやれ」
「……そのつもりだ」
暗闇の林の中で青い瞳と赤い眼光が光る。先にはすでに先行した兵達が撹乱を始める。広範囲に被害の出る技を放ち混乱を誘う。この隠れるのにうってつけな場所にライトを配置していたのもこの地まで占領されないためであった。おかげで精神的ダメージの大きいナイトメアの発動圏内に敵を丸ごと収めることに成功した。
ゼクロムは布陣とナイトメアの発動に協力した軍師ダークライに軽く礼を言うと尾に電気をため始める。感電してはかなわないとダークライは影になって姿をその場からくらました。ゼクロムが放電し、その力で体を前へと押してゆく。尾だけでなく全身に電撃を帯び青白い球体のような姿になるとまっすぐ敵の陣へと突っ込んで行く。すでに戦闘を開始しようとしている前線の敵兵を感電させ吹き飛ばしながらまっすぐ奥へと突き進む。強力な電撃を纏いながら通った場所はひどく焼け焦げたテントの残骸ばかりが残っているのみであった。

「うっ…く。こんなときに……」
悪夢にうなされていたのは一般の兵だけではなかった。レシラムは軽く頭を横に振ると重い息を吐き出し自身のテントから飛び出る。すでに戦闘は始まっていた。その中に一つの青い球体が見える。それはまっすぐとこちらに向かってきている。何度も何度も、目にしてきた技。クロスサンダ―。迎え撃つ技は決まっている。しかし炎を出そうと試みるがどんよりとした気分に邪魔されうまく炎を出すことができない。いつもよりも一回り小さい火球を吐くのが今のレシラムには精一杯であった。
2匹が放つとそれはお互い吸い寄せられるようにしてぶつかり合う。もともと一つだったポケモンの持つ違う性質の技が絡み合い発動するデュアルクロス。イッシュ地方を一度無に帰した合体技。しかし、レシラムの放ったクロスフレイムがクロスサンダ―に耐えきれず消滅してしまう。クロスフレイムに共鳴して威力と速さの増したクロスサンダ―がレシラムにその牙を向いた。電撃を纏ったゼクロムの体がレシラムの腹部に直撃する。
「かはぁっ……」
空気が漏れたような声を上げながらあまりの痛みに目を見開く。物理攻撃が専門のゼクロムの得意技を正面から受け大きく体力を削られる。何故レシラムが弱っているのか、ナイトメアを使用したのを知っているゼクロムはあまり気持ちのいい戦いではなかった。今まで何度も手合わせしてきて至近距離に持ち込めないような立ち回りを見せつけてきたレシラムと今のレシラムはまるで別のポケモンのようである。レシラムの苦手なドラゴンの力を宿した爪を振り下ろす。翼の先の手の甲のような部分で巧みに受け止めるはずのレシラム。しかし、痛みと気分の悪さにそれどころではなかった。 クロスサンダ―を受け止めた腹部を切り払われる。
「うぐぅぁあぁぁぁっ!!」
「どうしたレシラム…!」
悲痛な叫び声をあげるレシラム。どうしたもこうしたもないことぐらい分かっていながらも種明かしは相手の冷静さを取り戻すことにつながりかねないためにダークライからナイトメアのことは口を封じられている。仰向けに倒れ込んだレシラムの右翼を乱暴に踏みつける。命までは奪う気はないが、しばらく動けない体にはなってもらうつもりであった。卑怯なやり方の上にここまで深く傷つけるのに心が痛むが軍として負けるわけにはいかない。
ボロボロの羽根を辺りに散らし少量の吐血が見られるレシラムに背を向けゼクロムが雷撃で合図を出す。多くの飛行ポケモンが暴風、風起こしを連発する。新世軍の兵は散り散りに飛ばされ無様な撤退を余儀なくされるのだった。

ゼクロムを合図に放たれた暴風。それはリーフ達の部隊をも例外なく襲っていた。テントの外で迎撃態勢を整えようとしていたリーフ達だったが突如吹き荒れた風にそれどころではなくなっていた。既にレシラムが深手を負って撤退を始めていることも重なり、迎撃よりも撤退の方が先だと判断せざるを得なかった兵達は我先にとテンガン山の洞窟へ戻ろうと後退を始める。
皆が逃げるのを確認してから後へと続くリーフ。テンガン山の方へと駆けてゆくフレイは時折後ろを振り返りつつ逃げてゆく。あと少しで敵の攻撃範囲外に出られる。その瞬間、リーフに止めと言わんばかりの特大の暴風が襲いかかった。
「わあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
地から足が離れ体が空へとさらわれてゆく。前足をばたつかせて叫んでみるものの軽いその体は円状に荒れ狂う風に捕らわれ、一緒に暴風に巻き上げられている布切れ同様に強い風の中で弄ばれたのちに敵地の林へと吹き飛ばされたのだった。 フレイはふと後ろを向く。何か聞こえたような気がした。しかし、相変わらず風の音は強くよく分からない。だが、リーフの姿が見えない。敵の手に落ちている様子もない。左右は逃げてゆく多くのポケモン達。足の速いリーフのことだ、きっとこの中に紛れて逃げているのだと自分に言って聞かせると一抹の不安を抱えながら再び走り出すのだった。

鈍い音と共に背中が痛んだ。口の中に血の味が広がり視界が狭まってゆく。林の中の木に背中を強打して意識を失ったリーフはその場に崩れ落ちるようにして倒れた。


【創世暦5000年 7月】
カンナギ侵攻戦決行。
パルキア連合軍所属カンナギ駐屯兵によりこれを撃退される。
レシラム・エルファイア負傷。

死者 12匹
行方不明者 1匹
撃破数 22匹










「どういうことだ。なんでリーフさんがいない!」
「落ち着けフレイ……」
「落ち着いていられるか!」
テンガン山を抜け結局自陣のベースキャンプに戻ってきたフレイ達。しかし、そこにリーフの姿だけが見つからなかったのだった。誰かに当たったところで解決する問題ではなかったがいつもの穏やかなフレイが冷静さを失い、誰かれ構わず威嚇を続ける様子に周りのメンバー達も何と声をかけていいのか分からずにいた。
「その…私達が至らないばかりに……すみませんでした」
スープがフレイになぜか謝るがそれで事態は解決してれるわけでもない。それに、スープも誰も、今回のことに関して悪い者はいないのだ。しかし、責任は隊長であるリーフがいない今、全員に等しくのしかかってくる。
これからどうしていくか。考えるまでもない。もしこのままリーフが戻ってくることがなければリーフ隊は解散。当然その場合はリーフが生きていることはないだろう。 もし仮にリーフが戻ってくれば最もいいのだが敵地に取り残された可能性の高い今はどうしようもない。結局彼らにはどうしようもなかった。レイが忍び込んだところで広大なカンナギの中でリーフを見つけられる可能性は限りなく零に近いうえにレイまでも迷ってしまっては元も子もない。
ディアルガの指示は2週間リーフの帰りを待つこと、だった。今、カンナギは緊張した雰囲気を壊してはいないし再び兵を発するにしても兵力も物資も回復しきっていない中で出撃しても、結果は日を見るより明らかであった。もし2週間たってリーフが帰ってこなければ、その時はディアルガの手でリーフ隊を解体することとなる。
部隊の解散については正直どうでもいいとフレイは感じていた。リーフの安否、それだけが気がかりでその日の夜は眠ることすらできずにこれからのことについて案じ、リーフの生還を祈るのだった。


「う……あれ……」
目を開けるとやはりそこは林の中であった。背中がずきりと痛み口の中の血を地面に向けて吐き出す。一緒に砂も地面に吐き出してようやく口の中の違和感がなくなりつつある。どうやら飛ばされて木に体をぶつけたときに口の中を切ったようだ。右頬の内側が痛い。
ゆっくりと立ち上がり削れ切った体力のままで右も左も分からない林の中を歩きだす。今欲しいのは食糧と水と温かいものだった。キッサキから流れ来る冷風に身を震わせて林の中を彷徨い始めた。
「ん?」
しばらく歩くと美味しそうな匂いが漂ってきているのに気が付いた。きっと敵のものだろうが構わない。さっさと盗んでこようか。ふらふらの足でもそう考えてしまうのはやはり寒さと空腹で判断力が鈍っていたためであろうか。しかし、見慣れないタイプのテントの近くに用意されていた料理の出来栄えについ息をのんだ。周りは誰もいない、その場で食べてしまいたいほどその料理を前にして考える力を奪われたのだった。
一歩リーフが足を踏み出した。その時、パキンッと小枝の折れる音が辺りに響いた。はっと周りを見渡したが遅かった。横合いから電撃が飛んできてリーフは痺れてその場に倒れ込んだ。攻撃用の電撃ではなく体の自由を奪うものらしい。こんなシチュエーション、前にも似たようなものを味わってる。そんなことをリーフは考え駆け寄ってくるポケモンの影を見る。同じ4足歩行のものだった。が、乱暴に体を転がされ仰向けにさせられた。両前足を踏まれとうとう身動きのとれなくなったリーフを見下ろしていたのはライトであった。
「よお、久しぶり」
一度無様に負かされたサンダースが目の前にいるのに何も自分は抵抗できていないことに急にいら立ちを覚える。足を動かそうと試みるものの当然動かせるわけもない。
「……なぁ、あの時お前は黙ったままだったけど。お前は本当にミヤビを殺したのか?」
ライトの目が急に揺らいだ。ライト自身、こうして敵を押さえつけるのも電撃を浴びせるのも好きではない。しかし、それ以上にミヤビを傷つけた者は好きではない。むしろ嫌悪すべき存在であると考えていた。調理班長であるがゆえに何度も亜空楽団にも料理をふるまってきたライト。その度にミヤビが笑ってくれていた。何度も感謝して頭を撫でてくれていた。自分の得意分野で感謝してくれている者がいる。それなりのお金ももらっていたのだがそれ以上にミヤビの笑顔が力を与えてくれていた。その笑顔を急に奪われて心にあいた空白感、虚無感。それを目の前のリーフが理解しているはずもなかった。わけだなんてどうでもいい。今はミヤビを殺した者を探し出し、一杯喰わせないと気が済まなかった。ましてや今、亜空楽団が探し求めていたかもしれないミヤビの仇にリーチをかけているのだ。
でも、人違いだったら。ライトはそう思うと押さえつける力を緩めてしまいそうで怖かった。傷つけるべきでない奴は傷つけない。敵のサンダースに言った通り、今もそれは変わっていない。自分自身がそういう性分でないのを十分理解したうえで。そして、目の前のリーフィアが最期までミヤビと戦っていたという確かな情報を得たうえで今こうしている。
興奮し毛が逆立ち鋭くなり始めているライトの体に触れ続けリーフの体の痺れがより一層ひどいものとなる。この状態で放置されたら半日は動けなさそうである。リーフがミヤビのことに関してうんともすんとも言わずにただ目に涙を溜めるだけの様子に痺れを切らしたのか、ライトはリーフの前足から抑えていた自分の前足を離しそれを首の方へと持っていこうとする。まさかミヤビを殺したのがこんな根性無しだったとは。ライトは奥歯を食いしばり荒い息を押さえつけるとその首に前足を置こうとゆっくり動かす。リーフはいよいよ恐怖に押しつぶされそうになっていた。しっとりと体が冷や汗で濡れ始め痺れているはずの体が震え始めた。ここで死んでしまうのか。そんなことを思い目を瞑る。固く閉ざされた目の目尻から頬を沿って綺麗な弧を描いて涙がこぼれた。ライトの前足が喉に触れたその瞬間。
「待ちなさい」
鋭く芯のある声が林の一角に響いた。リーフが動かない首を必死に動かして横を見ようとする。しかし当然動くはずもなく声の主の姿を見れない。
「……ソルか」
「その子はミヤビを殺してなんかいないわよ」
「なっ」
バツが悪そうに声の主の名を呟くライト。そのライトに間髪入れずに言った言葉。それは確信に満ち溢れた声でありハッタリでないことを物語っていた。リーフが混乱してるうちにその声の主がリーフを覗き込んだ。その姿はリーフも見慣れているエーフィであった。エスパータイプの中には読心術を得意とする者がいる。それをはっと思いだし自分の幸運に感謝した。それと同時に真実を伝えられなかった自分が苛立たしく思えてきた。ミヤビのことに関しては触れられたくない過去の傷のようなものになっていたためうまく言いだせなかったことがここまで誤解を大きくするとは。これはリーフも予想外であった。
ライトがソルに詳しく話を聞こうとリーフの上から下りる。リーフはほっと一息つき再び冷静さを取り戻せた。そうだ、ここは敵地。どの道こんなところに転がされていては身柄を引き渡されるかこの場で殺されるかのどちらかしか残っていない。捕虜になって何らかの形で利用されるぐらいだったら舌を噛み切る方がましであった。そんな緊張をぶち壊すかのように明るい声が立て続けに響き渡った。
「あれ~? 隊長さんやないか?」
「本当ですね。新世軍小部隊隊長のリーフさんじゃありませんか?」
「僕まだ顔合わせてないよっ?  うわ~っ。思ってたよりもちっちゃい!」
「ところでライトとソルは何をやってるさー?」
リーフィアが木の横から顔を出し驚いたような声を上げ、その後ろからゆっくりと歩み寄ってきたシャワーズが状況を冷静に把握する。ブースターはいきなり飛び出してきてリーフの姿を観察し、この様子を遠巻きに眺めながらブラッキーは頭に疑問符を浮かべる。
「え?え? 隊長さんがいるの? なんでなんでっ?」
「はぁ……。なんですかこの騒ぎは」
グレイシアが更に頭の上に疑問符を浮かべて疑問を口から漏らす。当然のことながら誰も答えないこの騒がしい状況にため息をついたイーブイ。
一瞬にして緊張の糸をほどかれてしまったリーフ。自分の周りで繰り広げられているやりとり。何が起きているのか分からないうちにクラボの実をブースターに差し出された。
「はい。痺れて動けないでしょ?」
「な……んで…、てき…なのに……」
リーフがそう訊くとブースターは頭の後ろを掻きながら言った。
「いや、なんでって訊かれても……。ほら、僕達、そう言うの慣れてないしさっ。食べなよ」
そう言って口元にクラボの実を持ってくる。痺れてて食べにくかったが、何とか口を開ける。しかし果肉を噛み切れずにつるつるとした表面はリーフの牙を避けてしまう。
「あ。少し小さくした方が良かったかな……」
「口移しはどうですか?」
「アホ。会って早々そんなことするかっ」
「会ってしばらくしたらするんですね。その時は私にも見させてください」
会話に混ざってきたシャワーズの言葉を聞いて頬を赤らめるリーフ。つい目の前のブースターと口移しでクラボの実を食べさせてもらう光景を想像してさらに頬が熱くなる。その様子を見てシャワーズが「今期待しましたね」と呟く。もちろん聞かなかったふりをしてブースターに切り分けられてもらったクラボの実を口の中に放りこんでもらった。痺れがとれて辺りをよく見回す。本当にここが敵陣中なのか目を疑いたくなる賑やかさであった。リーフは目の前でにこりと笑ったブースターに二コリと微笑み返した。賑やかな林の中での出会いと再会だった。


それから出会ったばかりのポケモン達に覚えられるはずもない自己紹介をいっぺんにやられた後に混乱しきった頭をどうにかフル回転させて頭の中を整理していく。
まず、自己紹介で覚えられたのはもともと知っていたライトとフォレスの2匹。それからエーフィのソルとブースターのフレアはおぼえられることができたが他はどうにも覚えられているか怪しかった。そもそも、リーフ達のように名前が短ければいいのだが何せ名前が長い。あまり見かけない、というか今まで生きてきた中でリーフが一度も目にしてきたことのない名前の作りで違和感ばかりであった。
そんなことを考えているとリーフのおなかから小気味いい音が辺りに響いた。リーフの体が必死に疲労と空腹を伝えてきている音だったのだが初めて会ったばかりのポケモン達の前だったのもあって顔を真っ赤にしてリーフはおなかを押さえた。
「誰かさんの腹の虫がなったようですね」
「おぅ。作ったシチューも冷めちまうし、一緒に食べようぜ」
「そうやそうやっ。自分も一緒に食べようや~」
「え、うぅ…うん」
恥ずかしさと複雑な気持ちで小さな声で返事を返すと食事の用意のしてある方へと手招きしているノリノリフレアの方へと歩んでゆく。


「わ、わぁぁ……」
香る匂いもなかなか素晴らしいものだったがいざ料理を目の前にすると遠くから眺めた時とは違う息をのむ出来栄えであった。豪勢、確かに量や見た目はそうであったのだがそれだけではなかった。食欲をそそる何かがその料理には備わっていた。匂いをかいだだけでリーフが普段するはずもない油断をやらかすほどの料理である、つまりはそれほどのものであった。リーフが目を輝かせるのも無理はないのかもしれない。
リーフを取り囲んでいたみんなは皿に分けられている料理の前に座る。前足を合わせると若干ばらばらな風があったが「いただきます」と言った。リーフにはそういった習慣を持ち合わせてはおらずただあたりをきょろきょろと見回し、首を傾げるばかりであった。やはり、何かが私達とは違うのだとリーフはみんなの顔を見るのだった。
「……おいしぃ…」
リーフが最初に口をつけたのはサラダであったがこんなにも丁寧な味付けの施されたものを今まで食べたことがあっただろうか。しばらく言葉も発せずに茫然としてサラダの盛りつけられていた皿を眺めていた。もふもふ、もぐもぐ、ばきばきばきっどぐしゃぁぁあ。何の音かとはっとリーフが顔をあげてみるがみんな楽しそうに食事をしているのみである。首を傾げ再び食事に戻るリーフだった。その顔には少しの笑顔が戻っていた。



「………」
フレイは昨日とは打って変わってしょげているのみでった。両耳を垂らし元気がない。隣ではエイリンが黙々と植物の根の粉末を調合している。リーフのいない寂しさと部隊のみんなに当たってしまった罪悪感で何となく他のメンバーのところでは居心地が悪かったのだった。そんな中で正直エイリンが自分のテントの中まで入れてくれるとは思っていなかった分ほんの少し安心できていた。
フレイがテントの中を眺めるが怪しい色の液体が試験管の中に入れられたものやら粉末の入れられているであろう袋が所狭しと置かれている。正直2匹はいるといっぱいいっぱいなテントである。エイリンの念力でいくつかの粉末の入った袋が浮いておりエイリンの敷いた紙の上でそれが少しずつ混ぜられてゆく。エイリンが何度も本と自身の筆記したメモを交互に見ながら薬を作り上げてゆく。
ある程度自分の満足する薬ができたのか混ぜられた粉末を空の袋の中へ入れ良く振って自分の目の前ににおいた。エイリンがさっと振り返るとフレイに向けて言った。
「それで、どうしたいのかしら?」
「そ、それは……」
フレイが俯いて口ごもる。リーフを助けにいきたいのは山々だがどこにいるのか見当もつかない。それに、リーフ隊に所属している以上勝手なことはできない。しかし、待っているだけではどうかしてしまいそうだった。
「……いらついても何も変わらないわ。待つことも大事だと思うわ」
「……」
「もし、どうしてもだめなら精神安定剤を渡すわよ?」
そう言って先ほどから作っていた薬をちらりと見る。フレイは俯きながら首を横に振った。
「…リーフさんも頑張ってるんだ。僕だけ、甘えるわけにはいかないよ……」
「そう。でも、無理はだめよ。辛くなったらまた来なさい」
「うん……」
そう返事を返すと腰を上げてエイリンのテントから出るため歩を進める。ふぅとため息をつくとフレイは頭を軽く振ると顔を上げた。その時、茂みの中の一つの影と目があった。自陣の中に兵だかよく分からない者がいてフレイは少し驚いたがそのポケモンへと近づこうと歩を進める。黄色いラインに赤い瞳、少し小さいのが気になったがブラッキーだとフレイが確認したときにそのブラッキーはさっと茂みの中に消えてしまった。それに続いてもう一つの影が動いた。全く黒い体をしていたのかそれは確認できずに姿をくらましてしまった。
慌てて逃げている風でもなかったし今は追いかけるには疲れている。消えた先の茂みを少し眺めるとフレイは自分のテントへと戻った。







結局、あれからごちそうしてもらった後にリーフは寝場所まで与えられたのだった。フレアのすぐ隣に横になる。長い間気絶していたもののやはり疲れているのだった。しかし、すぐに寝られるものかと思えばそうでもなかった。これからどうしていこうか。それを考えざるを得なかった。いつまでも甘えるわけにはいかないが正直右も左も分からない林を一匹だけで行ける自信などもない。食料と水もそれなりに無ければ途中で力尽きてしまう可能性もある。
だが、いつリーフの存在が敵に伝わるか分からない。小隊長を捕縛したとなればそれなりの戦功が付くに違いない。つまるところ信じ切れてなどいない。ここに居続ければいつ始末されるかなどわかったものではない。 正直、同じ食事をした者達は信じれるがライトの防衛部隊は他の者達も所属している。その者達がいつどんな気を起こすかは分からない。
もし自分が死ねば、そんなことをリーフが思うと真っ先にフレイと兄の顔が思い浮かんだ。それから仲間達が思い浮かび、家族の顔を思い出した。今を生きる仲間達のためにも、死ねない。 パルキアに復讐するためではなく、今を生きる仲間達、ポケモン達のために生き抜こう。そう初めて思った瞬間だった。

リーフが体を震わせる。北寄りの林に飛ばされたためか以前までいた場所よりも若干寒かったのもあるが、もしかすると寂しかったのかもしれなかった。
フレアはまだ起きていたようでごろりとリーフの方へと向くとふわりとした体毛でリーフを温めたのだった。
フレアの鼓動と温かさを感じ、生きてるってこういうことなんだ。とぼーっと考え息苦しくない程度にフレアの体毛に身を埋めるのだった。


次の日の朝、リーフは早めに起きた。隣に寝ているフレアを起こさないように立ち上がるとそっとテントを出た。うっそうとした林の中に作られたライト隊の陣。その中をきょろきょろと見回す。起きたてなのもあって伸びと欠伸をいっぺんにやると再びフレアのテントに戻ろうかと踵を返そうとしたその時。
「よく寝れたか?」
横から声が聞こえてきた。それも聞き慣れた声、ライトのものだった。
「…? うん」
そう素っ気なく答えてライトの方を向く。ライトは少し口ごもった後に顔をあげて言った。
「な、なあ、朝っぱらからわりぃんだけど。ちょっといいか?」
「……?」
リーフが首を傾げてライトの元によるとライトが頭を下げて言った。
「……ごめん」
「え?」
「俺…お前に酷いことしちまった。 本当に、悪かった」
「ちょ、ちょっと……」
流石にリーフもなんて答えればいいのか分からなくなってしまった。敵同士、攻撃しあうのは当然。むしろここにおいてもらえただけでも運がいいというのに。
ミヤビの件に関しても、リーフも守れなかった責任を感じている。確かに直接的に命は奪っていないがライトに責められるのは必然だと諦めを感じていた。 そう、それなのに、なんで謝るの? リーフは頭を下げられてもどうしていいのか分からない。あたふたとするしかできないリーフにライトは未だに頭を上げる気配を見せない。リーフは必死に頭を働かせて言葉を選んだ。
「え、えっと……とりあえずさ。顔上げてよ。ね?」
「……」
相変わらず申し訳なさそうにしてらしくないライトにリーフは言った。
「…今、こうしてここに居させてもらってるし。 ミヤビのことは……私にも責任がある。
 だから、私のことはもう気にしないで?」
「……リーフがそう言うなら…。分かった」
ライトは明らかに腑に落ちていない顔をしながらもそう言った。その後に重い沈黙が訪れ2匹とも言葉に詰まる。その中でリーフが思い出したかのように口を開いた。
「そ、そうだ。これからのことなんだけど……」
「あぁ。……自分の部隊に戻るんだろ?」
「うん……。でも帰るための道分からないし…」
「警邏の兵もいるからテンガン山も危ないな」
「……うん…」
「…とりあえず。地図は用意しておくぜ。もしかしたら抜け道があるかもしれないしな」
「あ、ありがと……」
踵を返してライトが照れくさそうに笑うと「礼なんていいって」と言い自分のテントへと戻っていくのだった。胸の中の靄が少し晴れたリーフは再びテントに戻ろうと振り返る。


その日もライト達に食事をごちそうしてもらい、のんびりとした一日を送っていた。お昼の時にライトから地図を受け取り夕方までライト隊のメンバーと楽しく話をしていた。夕方になってリーフはその地図を眺めて首を傾げていた。これだけを見ていても抜け道などは見つからない上に警邏の動きが分からないため半ば匙を投げている状態であった。そうこうしているうちに辺りは暗くなってゆく。少し夜風に当たってから寝ようかと外に出て伸びをする。地図をずっと眺めていて固まった体をほぐして辺りを見る。
辺りはやはり右も左も分からない林。夜動くなどと持っての他でもあることを再び確認して体が冷えないうちに再びフレアの元に潜り込んだのであった。




「おい、警邏の兵は大丈夫か?」
「……今、きっと…違う世界、見てる」
「…本当に末恐ろしい技を使うんだな」
「………別に」
2つの黒い影が夜の闇をもろともせずにテンガン山の洞窟を抜けた先のカンナギ寄りの林を歩いてゆく。テンガン山の自然洞窟を抜けてきたであろう彼らの体に神の軍の証であるスカーフは見当たらない。しかし、パルキア連合の兵を警戒し先へと進む。戦闘区域に指定されてるこの地で見つかればただでは済まないのは2匹も理解しているようであった。息を潜め全身の感覚を研ぎ澄ませて敵の位置を探る。先ほどから何匹かの兵の目をくらませて侵入した2匹であったが彼らの本当の目的は侵入ではなかった。暗い色の体を生かし夜の闇に溶け込むようにして姿勢を低くしたグラエナはその持前の嗅覚と観察力で地面に刻まれた生物の痕跡を探る。
「ミヅキ。ここに兵が巡回してきた様子はないぞ」
「ああ。 ……でも、多分…この先」
「部隊の近くだというのに兵が警邏していないというのはどういうことだ?」
「…さぁ。 ただ、テンガン山……からの道、兵が…いる」
「内部の方にまで割く兵力がないのか? カンナギの戦いはかなり有利に戦えたという話だったが……」
考え込んでしまったグラエナに眉をひそめたミヅキと呼ばれたブラッキーはグラエナの頬の毛をくいと引っ張った。グラエナが振り返るとミヅキは先へと促した。
「ハウンドが、いかないと…。道、分からない」
「ああ、すまん。行こう」
ハウンドと呼ばれたグラエナはおもむろに木の根元に爪で傷をつけるとさらに東へと歩んで行く。その先にほんの少しだけ明かりが見える。どこかの部隊の兵士が眠っているのだろう。ハウンドがミヅキを後ろにつける形で身を屈め進んで行く。ハウンドが茂みの間からテントを眺める。息をひそめそっと一匹の雌を見やる。
「スカーフ無しのリーフィアだ」
「……間違い、ない。あれが、リーフ」
隣から同じく気配を消して茂みからリーフィアを眺めたミヅキは紅の目を輝かせて言った。隣のハウンドもほっと一息ついた。 リーフが一際大きなあくびをするとテントの中へと戻っていった。それを確認すると音を完全に消して茂みから離れる。陰の濃い場所を選びミヅキとハウンドはお互いに赤く輝く目を合わせる。
「よし、リーフは見つけた。後は安全な脱出経路を確認して来よう」
「うん」
ハウンドはさっとテントのあるこの場から離れる。ミヅキはその表情に何も浮かべずにテントの方を振り返った。
「……咏凛姉」
ぼそりとそう呟くとハウンドと共に夜の闇に再び紛れた。誰にも悟られず、誰の協力もなく、黒き2匹の侵入は続いた。




リーフが隊からいなくなって5日目。リーフ隊のメンバーにも不安がよぎり始めた。徐々に空気の重くなるリーフ隊。一応束ねているのはレイであったがそのレイもしまいには不安でいらつくさまである。他のメンバー達の中には荷物をまとめる者まで出てきてレイが電撃を浴びせたのがそもそもの原因だったのだが。
それ以来雰囲気がとても悪い。今日はサマエルがリーフは何不自由することもなく生き延びているとタロットを見つめ呟いたのに対してレイが「気休めなんかいらねぇっ」と掴みかかったのをコテンパンにされていた。涼しげな表情のまま放たれた念力を受けたレイは今もまだ夢の中だとエイリンに聞かされ溜め息の出るフレイだった。まるで、数日前の自分を見ているような気がしたのだった。
エイリンいわく光合成の行える草ポケモンは生存率が高いが5日の間何も口に入れなかった場合は動けなくなるということだそうだ。木の実をとって生きているにしても敵の食料を盗んで生きているにしても帰ってこられない可能性もある。そう冷静に分析するエイリンの目も少しだけ曇っていた。やはりこんな雰囲気の中疲れているのだろうとフレイは思いかえしてそう感じた。

フレイは夜風に首元の毛を揺らしながら部隊のテントとは少し外れた位置にある平べったい石の上に腰かけた。この場所から見える星は綺麗であった。もともと星を見るのが好きなフレイはじっと空を眺める。そういえば、リーフさんとひとつになったのも星を見ようと外に出た時だったな…。そんなことを思うとフレイは急に寂しくなった。隣には愛すべきリーフがいない。生きてるのかすら分からない。
現状を冷静に把握していくごとに目頭が熱くなり視界が潤んだ。気が付けばフレイの涙は止まらなくなっていた。静かに流れてゆく涙を感じ急にむせ込むような感覚に陥り息が荒くなり、流れる涙を両前足で拭おうとした。拭いきれずに零れ落ちた涙は下腹部を濡らしてゆく。拭う前足の動きも鈍くなりさらに涙は零れた。
ひとしきり泣き続け泣き腫らした目を空へと向ける。綺麗な星の光が滲んで見えた。なんて情けないことをしているのだろうと自分に言い聞かせるがリーフの顔を思い描くだけで自然と涙腺が緩んでゆく。


「はぁっ……はぁっ…」
夜も更けた頃にリーフ隊のテントからは少し外れた場所で荒い息をついているのはフレイであった。自身の肉棒を右前脚で抱え込みそれを上下に動かし扱いている。リーフのいない寂しさを紛らわすためとはいえ、何をやっているんだと自責の念に駆られながらも一度刺激を与えた肉棒は更なる刺激を渇欲する。徐々に前足を動かす速さも速くなってゆきフレイの鼓動も大きく、心音の間隔を狭めてゆく。先端には透明な液が溢れている。それが前足を濡らし更に扱くスピードを上げさせてゆく。口から喘ぎ声のようなものを漏らすとフレイは肉棒を捉えている前足を激しく上下させた。
フレイの体がびくんっと跳ね上がり肉棒の先端から白濁色の液体が吐きだされた。それは前かがみのような体勢になったフレイの腹部を汚してゆく。荒い息を整えて腹部にかかった精液に触れる。処理していなかったせいなのか半液状で粘り気も強く、当然臭いも強かった。フレイは精液に触れた前足をそっとよけると余韻に浸った。その気配を感じるまでは……。

「フレイさん?  どうかされましたか?  ……大丈夫ですか?」
フレイの後ろから聞こえてきたのは瑞々しいソプラノボイス。はっと後ろを振り返るとそこには心配そうな顔をしたスープがいた。スープは泣き腫らした眼と荒い息を押さえこんでいるフレイを見て心配になったのか更に近寄りフレイの隣に座った。フレイの肉棒は未だ萎えておらず精液もそのままである。気が気でないフレイは隣に座ったスープと目を合わせたまま硬直してしまった。
「そういえば……変な臭いがしますね……。いったいどこから………」
と、そこまでいいかけたとき、今度はスープの方が硬直してしまった。その大きめの瞳はしっかりと月明かりに照らされているフレイの肉棒を捉えていたのだった。
顔を真っ赤にしたスープはなんて言ってよいのか分からずに口をパクパクさせている。フレイはため息をつくと言った。
「……軽蔑した…よね」
「そ、そんなことは……」
カチカチにかたまっているスープが必死に口を動かしてそう言った。しかし、フレイはもう何も信じられなかった。
「いいよ、もう…。僕のことは放って……」
「違います!」
フレイが全てをなげうって立ち上がろうとした時スープがそう強く言った。顔が赤く染まって目が泳いでいるがスープの発した言葉には芯があった。
「私は…軽蔑したりしません」
「……どうして?」
「私は……フレイさんが、好きだからです」
俯き気味でそう言った。フレイは耳を疑った。なんでこのタイミングで、こんな場所で、この状況で?あらゆる疑問が湧いては答えも出せないままにさらなる疑問は湧き上がり判断力を奪ってゆく。
「……冗談はよしてよ」
冗談であってくれと願って言った。しかし、それはスープの意外な言葉によって否定された。
「……リーフ隊長とフレイさんがお付き合いしていることは、知っています。
 私はフレイさんが大好きです。でも、私が好きなのは……」
そこでいったん間をおいてスープは続けた。
「リーフさんを一途に思って、頑張るフレイさんが好きなんです」
そう言ったスープの瞳は動揺していた時とは打って変わってフレイの目をしっかりと捉えていた強い目だった。
「だから、軽蔑なんてしません。その、ちょっと驚いたり、恥ずかしかったりはしますけれど……」
そう言って目を逸らして赤面した頬を押さえるスープ。フレイはそれを見てどきんと脈打たせる。先ほど興奮していたのがまた戻って来たような感覚にフレイの体はそれにどんどん順応してゆく。
「あの……フレイさん?」
「な、なに?」
完全にスープのペースにはまってしまったフレイは興奮で火照る体を感じながらスープに目を向けた。
「私でよろしければ……使っていただいて結構ですよ…?」
その言葉はフレイの理性を吹き飛ばすには充分だったのかもしれない。リーフのいない寂しさを埋め合わせるかのように。他の者の温もりを偽物でもいいから味わいたいという願いに。正当な理由を得ることのできたフレイに我慢なんてものはできるはずもなかった。ついにフレイはスープを押し倒してしまった。


「にゃぁっ!?」
「……」
背丈のそれなりに低い草の上にスープは仰向けに倒れた。その上にフレイが優しく覆い被さる。ふさふさな体毛がスープの腹部をくすぐる。お互いの吐息を顔に感じるほどまでに顔を近づけ合う2匹。フレイがスープの赤に染まった頬を舌でなぞるように舐めた。スープが体を震わせると目を閉じた。フレイはそれをいいことに更にスープの頬を舌先で舐める。びくりと頭にある鰭をふるわせ口から熱い吐息が漏れた。フレイがそっと顔を下に向けスープの首筋にその舌を這わせた。
「あっ…ふにゃぅ……っ」
スープのつるりとした肌に舌先をなぞらせてゆくフレイ。徐々に下へとその位置をずらしてゆく。ふいに2つの膨らみがあるのに気が付く。それに左前脚を乗せるととても柔らかいことに気が付いた。フレイが馬乗りのような体勢にするため上体を起こすと改めてスープの体に触れる。リーフにはなかったはずの胸を両前足で揉みほぐしてゆく。フレイはその柔らかさに興奮せざるを得なかった。体の作り的に掴むには無理のある体勢だったがフレイは初めて触れる雌の柔らかさに感動し、気持ちを昂らせていた。スープの体とリーフの体は全く違うんだとフレイは思い比べながらスープの体をなぞってゆく。スープの体はどこを触っても基本的に柔らかく肌もつるりとしている。余分な肉のなく引き締まったリーフの体で柔らかいところと言えば頬と尻ぐらいであったし、全身には身を守るための体毛があった。フレイのそれほど長くはなかったが多少毛を掻きわけないとリーフの素肌には触れられなかった。スープにはその必要が全くない上に無防備な姿を曝け出しているということは雄にとってはこの上ない興奮を呼ぶものであった。
フレイが渇いた口元を舌で舐めるとスープの胸のふくらみに吸いついたのだった。瑞々しく甘い声を上げるスープが体を震わせるのを余所にフレイは胸に吸いつきピンとたったその突起に舌を絡め、甘噛みをする。
「んぅぅっ……!」
目と口を閉じて快感によって上げそうになる嬌声を必死に堪えるスープ。しかし、他者に触られたことのなかった胸をいきなり揉みしだかれ敏感な乳頭を甘噛みされて堪えられるはずもなかった。リーフよりも数段高い声の高さは辺りに響いた後に草や木々に吸い込まれお互いの吐息を感じさせる。
フレイが貪るように吸いついていた胸からやっと口を離しスープのぷにぷにと弾力のある腹部を舐め(ほぞ)の周りに舌を這わせ更にその下、恥丘の部位にその舌を到達させるとそこでフレイは舌を離した。
スープのその場所はリーフのとまったく違った。いや、正確に言うとリーフのはあまり視認できていなかったというのが強かったのだがスープのそれはフレイが月明かりの明るいもとで見るには刺激が強かった。毛などの邪魔する物も全くなくすべすべの素肌に切れ込みを入れたかのようなその恥部。愛液が滲み月明かりがそこを照らす。雄を惑わす魅惑の匂いがフレイの鼻をついた。まるで息苦しくなったのかのようにフレイの息が荒くなる。
吸い込まれるようにスープのその切れ込みに右前脚を近付ける。割れ目をなぞるように下から上へと前足を動かす。スープが声を上げるのを確認してフレイは前足だけではと舌を這わせる。湿っぽいスープの割れ目を堪能するフレイ。リーフの味よりも少しだけ甘みが強いように感じるフレイだった。ひとしきり舐めるとそっと口を離し両前足を使ってスープの恥部を左右に広げたのだった。
「んにゃぁっ! ひ、広げないでくださ…んぁぁっ!」
スープが言い終える前に広げたその恥部に鼻を突っ込んだフレイ。厭らしい水音と共に鼻先がぐっしょりと濡れた。鼻が麻痺しそうなほどの強烈な雌の匂い。しかし、それすらも心地よかったフレイは鼻先を抜くと代わりに舌を中へと再び挿入したのだった。愛液が滴り口元をさらに濡らしてゆく。水タイプだからだろうか、愛液の量もリーフから溢れてくる量とは全く違っている。フレイは舌を突っ込みながらぼーっとリーフのことを考え出してしまった。先ほどからスープに触れるたびにリーフと比較している自分に何となく嫌気がさして来たようであった。フレイがそれを振り払うかのように目を閉じて鼻から深呼吸する。当然のように鼻から入ってくるは理性を掻き乱すスープの匂い。なんとか今はスープだけを見ようとしての試みだったのだろう。後から襲ってくるであろう罪悪感を気にすることができるほど今のフレイは冷静でいられていなかったのだろう。再びフレイは舌でスープの恥部を責め始めた。

「はぁ…はぁ…」
お互い、月の下で汗をぐっしょりとかきながら見つめ合う。スープの上に覆いかぶさるような体勢のフレイ。行為を始める前には抵抗感があってできなかった口付けをついにスープと交わしてしまう。興奮を互いに抑えきれないまでに昂らせており、もちろん軽いものであるはずもなかった。舌を絡め合わせ唾液を交換し、お互いの口内を舐めてゆく。
互いが口を離し再び見つめ合う。スープが顔を赤らめたままにこりと笑って見せる。それにつられてフレイも微笑む。しばらくして、2匹が互いの恥部へと視線をそそぐ。その意味は、紛れもない性交の意であった。
フレイが自身の収まりが付かなくなった肉棒に前足を添えるとスープの割れ目に当てる。スープがそっと目を閉じるのを確認してフレイは一気にその猛り立つ肉棒を根元まで収めてしまった。
「はぅぅぅっ……!!」
貫かれた瞬間、スープが驚き目を見開く。歯を食いしばって草を前足で握る。フレイはその様子を見て驚いた後に申し訳なさそうな顔になりスープに訊いた。
「も、もしかして……初めてだった…?」
「は、はい……」
苦しそうな顔をして答えるスープ。悪いことをしてしまったとフレイが困っているうちにスープの体が淡く光り始めた。スープの荒い息が徐々に穏やかなものへと変わってゆくのを確認してフレイは訊いた。
「今のは?」
「…願い事です。もう傷は平気ですので、どうぞ……」
そう言って再び目を閉じる。フレイがスープの額に軽く口付けをすると腰を引き深くまで埋めていた肉棒をゆっくり抜いてゆく。肉棒を優しく包み込むようなスープの膣壁を堪能するように再びゆっくりと挿しこんで行く。スープの恥部からとめどなく溢れる蜜からは粘着質のある液体特有の音が発せられ淫靡な空気を醸し出す。興奮に掻き立てられ徐々に腰を動かすスピードを上げてゆくフレイ。そのフレイの絶頂を誘うかのように淫らに腰を振るスープ。既に2匹の理性は欠片も残っておらずただただ快感を求めてその行為を重ねてゆく。

「あっあっ!  にゃぁぁっ!!」
既に2匹にまわりは見えておらずスープの黄色い声が美しく響く。フレイの腰を振るスピードもすでに限界に達していた。額に汗を浮かべてスープの奥を何度も何度も突く。その度に快感の波がスープに押し寄せ喘ぎ声を上げさせる。
「んっ、んやぅっ!  も、もう、ムリですぅぅっ!」
スープが余裕のない声でフレイにそう告げるが早いか、スープは全身を痙攣させながらフレイに抱きついた。スープが絶頂を迎えフレイに止めと言わんばかりに膣内が一気に収縮する。当然耐えられるはずもなくフレイが下半身を震わせると同時に子種をスープの中へと注ぎこんだ。
「うっ…んんっ……! はぁ…はぁ……」
フレイが膣内を精液で満たすとゆっくり肉棒をスープの恥部から離す。息を整えつつ未だに痙攣の収まらないスープの頬を舐める。スープがゆっくりと目を開けると頬を舐めるフレイの舌に自分の舌を触れさせた。
そして息が落ち着き抱きあうとスープはフレイの耳元で囁いた。
「あの…、今日でしたら…大丈夫な日ですし、いくらでもお付き合いいたしますよ……」

夜も更け陽が昇り始めるまで2匹は互いの寂しさを埋めあうのだった…。






翌日、夜がまだ更けきる前。リーフは夜風にあたり新鮮な木々の空気を胸一杯に吸う。そして、地面に跡を付けながら何かを数えだした。
(……もうこれで6日目の夜…)
そう思うと急に寂しくなった。フレイの顔が浮かんでは今何をしているのか、今日は何を食べたのか、誰と話しているのか。些細なことがとても気になり出しそれと同時に胸がきゅうきゅう締め付けられるような感覚に陥っていた。
フレア達は楽しい。しかし、やっぱり寂しかった。リーフの居場所を作ってくれたフレア達には悪かったが、やはりリーフはここに居場所があるように思えなかった。 フレアの体に触れて、今を生きる仲間達のために生きることを決心して今に至るのだがその決心のせいで余計に胸が苦しいのも何となく理解していた。復讐だけに翻弄され無慈悲に仇を引き裂くことだけを夢見るリーフ、それは今のリーフにとってはなりたくない存在であった。敵の温かみも、味方の温かさも知ってしまった。ならば、それを守る者でいたい。最終的にパルキアは始末する存在になりうるはずだが守るためだと決意新たにすると心の支えがとれるような気がしたのだった。
夜風が少し肌寒く感じてきてリーフはやっとそこで考えを巡らせるのを止める。最後にふっと浮かんだはフレイの顔。にっこりと微笑む優しいフレイの顔。リーフを守ると約束した強いフレイの顔。愛すべきフレイの顔。  ここにいたらもう二度と会えないかもしれない。テントの前でリーフは足を止めた。奥歯をがちがちと震わせる。寒かった。体温が下がる意味の寒さではなかった。 心が温もりを求めていた。今リーフを温めてくれるポケモン、そんな者いるはずもない。脳内で強く否定しフレイを大きく肯定した。リーフはこんな状況でフレイしか見えなくなってしまったのか。すっとリーフは覚束ない足取りでテントに入った。
「? リーフちゃん、今日は長く外に居……ど、どうしたの!?」
フレアが慌ててリーフの元に駆け寄る。無理もなかった、リーフは嗚咽すら上げずに目から大量の涙を流していた。そう、まるで無意識のうちに溢れてきたかのような涙だった。ぽたりと、頬を伝わった一際大きな雫が重力に従いリーフの栗色の小さなソックスをはいたような前足に落ちた。フレアが慌てて拭う物を探そうとするがリーフは何故そんなことをフレアがしているのか不思議でならずにいた。ふと、自分の前足が濡らしたそれをぺろりと舐める。 塩のような味がした。そこで初めて自分の頬に前足を当てる。ぐっしょりと濡れている頬に更に上から水滴が伝う。リーフはそこで初めて気が付いた。視界がぼやけていることに、自分が涙を流していることに。

フレアはあわててひっくり返して見つけた軍の予備用スカーフでリーフの顔の右半分を覆うようにして拭うと左半分は自らの体毛で拭おうとした。フレアはリーフの背をトントンと前足で軽く叩くと優しい声で言った。
「どうしたの? リーフちゃん?」
その声は温かかった。フレアの体も温かい。なぜだろう、なぜだろう。ああ、そうか。やっぱりそうか。やっぱり、似てるんだ。何となく、そう思った
「フレイッ……!フレイ…ッ!」
リーフの嗚咽も混じり始めた。冷え切ったリーフの心を取り巻く氷、それがフレアの熱が溶かしてゆく。行き場を失った寂しさという氷は涙となってリーフの瞳から溢れ出る。いったん溢れ出した涙はひくことを知らなかった。しかし、悲しくて泣いているのではない。安心できる場所にたどり着けた安堵の涙に近かった。
「……寂しいの?」
そっとリーフの体を抱きしめる。リーフのその体はリーフィアにしては小さく、この時はとても小隊長の重荷を担ぎながら歩けるような屈強な体には見えなかった。普段でも小さい体がさらに小さく見えた。それに、カタカタと震えている。
「フレイに……会いたいぃ…。みんなのところに帰りたいぃ……っ」
駄々をこねる子供のような泣き声でフレアにそう訴えかけるリーフの声は悲痛そのものであった。残念ながらフレアに同じ気持ちは分からない。なぜか記憶があいまいとしたまま"こちら"に放り出されていたために仲間のことは分かっていても他のことが一切合財記憶から抜け落ちていた。ただ、仲間がいるからこそこちらの世界でやれていたのもある。気が付けばパルキア連合軍の厄介になっていた。
フレアには確かにリーフの気持ちを理解しきれるかは分からなかった。しかし、フレアはそれを分かろうとする優しさがあった。 泣きながら想いを寄せるポケモンの名を噛み締めるように口から漏らすリーフ。そのリーフを抱きよせる。


しばらくして嗚咽も大体落ち着かせたリーフがフレアにもたれかかっていた。泣き腫らした眼を擦りんがらフレアに何度も頭を下げていた。
「いいんだって。リーフちゃんは悪くないんだってば。寂しかったんでしょ?」
「う、うん……。  フレアちゃんと、その…似てて」
「僕と?」
首を傾げるフレアにリーフは宙を眺めながら答えた。
「なんか、体つきとか、声とか、もちろん性格も違うけれど…。私にはない温かさがある」
「……?」
フレアが首を傾げるのを見てリーフは急いで「な、何となくだから」と付け足した。フレアが再び首を傾げてからあまり深く考えるのをやめてリーフの頭を撫でた。
それから、フレイのことを話しだしたリーフの言葉に耳を傾けるフレア。リーフからの話は惚気られていないと言えば嘘になるが少なくともそういう感情を込めて話しているような口ぶりではなかった。フレイのことを離すにしても一歩引いた位置からフレイを見たときの感想や笑い話を語ってくれていた。しかし、恋人と言うには距離が離れている。そう疑問を抱かざるを得ないフレアだった。


それからフレアの体毛に包まれてその夜も過ごすのだった。温もりを感じながらリーフは夢の世界へと誘われるのであった。





「よし。いくぞ」
「……うん」
リーフが寝てからそのテントの外の茂みに隠れていた2つの影は動きだした。連日の夜間行動にすっかり生活リズムが狂ったと頭を掻き一つ欠伸をするグラエナ、ハウンドは隣で気配を消しているミヅキを視認しながら声をかけた。ミヅキが小さく首肯するのを確認してハウンドの後に続いた。
足音を消し、気配を隠し、息を悟られない程まで小さく保ちそのテントの前までやってくる。内地なだけあって部隊に警備がいないのは既に把握しておりそのテントの入口を少しだけ開ける。
中ではフレアの体毛にくるまったリーフの姿を確認できる。2匹の赤い瞳がテントの中を見まわす。少し厄介な体勢であったが今日助け出さなければ明日にはどうなっているか分からない。昨日まで安全なルートを調べていた苦労も水の泡になりかねない。
ハウンドとミヅキは音も無くテントへと忍び込む。フレアとリーフが起きる様子はない。それを確認してハウンドはリーフの前足に触れる。フレアが先に起きては厄介になると考えたのだろう、その判断も間違えてはいなかった。
「ん……ぅぅ…」
リーフが口から声を漏らすと目を擦りハウンド達を見上げた。
「だ、だれ?」
寝ぼけているのかライト隊の兵か何かと間違えているようだった。そんなリーフにハウンドは静かに言った。
「俺達は連合軍の兵でも新世軍の兵でもない。今はな」
「え?」
その言葉を聞いてようやく目の焦点が合い始めたリーフ。今目の前にいるのは敵でも味方でもない中立の存在のはず。何故そんな存在がここにいるのか、寝起きのリーフの頭では現実味ある答えを見出せないままハウンドの言葉を聞く。
「ただ、お前を新世軍の陣へ戻すために来た」
「え、えぇっ」
素っ頓狂な声をリーフが上げるとすぐそばで寝ていたフレアの体が揺れた。ハウンドがびくりとしてフレアを見る。
「んー…。なに?うるさいよ……」
「……動く、な…」
目を擦って半分寝ぼけたような状況のフレア。そのフレアをミヅキは睨みつける。途端に足が硬直するような不思議な感覚に襲われる。明らかな異変を察知しフレアは侵入者2匹を睨みつけた。
「ちょ、ちょっと、これはどういうつもり?」
「フ、フレアちゃん落ち着いて…」
今にも焼こうかと言わんばかりにフレアは怒気を発する。一抹の不安はありながらもチャンスが来てくれたかもしれないと希望を抱くリーフは少し申し訳ないような気がしながらもフレアを宥める。しぶしぶ口をつぐみ静かにミヅキの表情のない横顔を睨む。
ハウンドはやれやれと言いたいのを必死に堪え気だるそうなため息を吐いた後にリーフに向き直る。
「それで……私は新世軍に帰れるの?」
「ああ」
「安全な……道は、ボクらが……見つけ…た」
みじかく相槌を打って静かに首肯するハウンドに続けてミヅキが言葉を選びつつそう言った。フレアは目を丸くしてこのテントに勝手に上がり込んできた黒い2匹を見た。
「え、なに?お迎えだったの?」
「そういう…わけじゃ……」
ミヅキが歯切れ悪そうに言った。そんな様子を見ていてハウンドは言った。
「とにかく、騒ぎが大きくなってからじゃ厄介だ。早く決めてくれ、リーフ隊長」
「え、えと……」
「……はやく…」
ミヅキにも急かされ困った顔を浮かべるリーフ。急な助け船に乗ってもいいのか。それが不安でフレアの方に助けを求めるような目で見た。
「リーフちゃん…。ここに居ても、やっぱり……」
そこまで言いかけたフレアはつい俯いてしまった。敵だと分かっていながらも名残惜しさを感じてしまう。それは敵対してる限り叶うはずもない小さな友情。しかし、それを振り切りフレアは顔をあげて行った。
「次っ。次会うときは戦場だよっ! また会おうねっ……」
「うん……。うんっ。フレアちゃんも、約束だよっ…」
「……さあ、時間がない。夜明けには向こうに着きたいんだ。行くぞ」
ハウンドの声に促されテントの外へと出るリーフ。一緒に外へと出たフレアは林の中へと消えてゆくリーフを見送った。



林の中は木々に月明かりを遮られ全くの暗闇であった。その中を迷いなく突き進む黒い2匹。その2匹の背をリーフは必死に追ってゆく。素早さはリーフの方がありそうであったが暗い獣道でもない林の中、木の根に足をとられ何度も転びそうになるリーフを後ろに迷いなくその赤い瞳で道を見極め着実に進む2匹。リーフが見失ったときに目の前を行く小さきブラッキー、ミヅキがその耳の黄色いラインを弱く発光させるため迷子になることはなさそうであった。
しばらく小走りのような姿で歩き続け、やっと林を抜けたリーフ達の前に聳え立っていたのは東西を分けるテンガン山であった。ぽっかりと空いた空洞が顔をのぞかせその中は更に深い闇で満ちていた。恐怖すら覚える夜の洞窟。冷や汗が垂れるのを感じながら進もうとしたところハウンドに声をかけられて歩みを止めるリーフ。振り返るとハウンドは木の根元に座り込みゆったりとしている。ミヅキの姿は見えずに辺りをきょろきょろするリーフにハウンドは言った。
「少し休んでおくといいぞ。今ミヅキが…うぉっ!?」
「あ……」
座り込んでいたハウンドの背中にミヅキが木からの見事な着地を決めた。それなりの高さから落ちてきたためかミヅキが小さくともかなり痛そうに背中をさするハウンド。そんなハウンドの背中から降りようとしないで咥えていた木の実を地面に下ろすミヅキ。そんな2匹を見て少しだけ緊張が解けたのか微笑み、リーフもその場に腰を下ろした。
「そういや、紹介がまだだったかな?」
痛む背中をさすり姿勢をそれなりに直すと名乗った。結局背中から降りないミヅキもその場で名乗る。
「俺はハウンド。見ての通りグラエナだ。 よろしくなリーフ隊長」
「ボクは…、ミヅキ」
「あ、うん。よろしく……。  …ねぇ、なんで私を助けたの?」
「あぁ…それは……」

「確かこの辺だ」
「声が?」
「ああ」


ハウンドが言いかけた途端後ろから小さく声が聞こえた。
「…くそ。警邏の連中に聞こえたか…」
「ハウンド……我慢、しない、から……」
「ぐぅ……」
兵の話し声はどんどん近付いてくる。その足音の数から兵の数は2であろうか。リーフは身を屈め茂みに潜む。そんなリーフにハウンドは囁いた。
「リーフ隊長、お前の体じゃ目立ちすぎる。 ここは俺達に任せろ」
「……ふふ」
ハウンドは険しい表情をして巡回兵であろうオオタチとミルホッグを見る。ミルホッグは索敵能力に優れている。早めに打って出ないと後手に回る…。そうリーフが脳内分析しているうちにリーフの前に潜んでいた黒い影は2つとも消えていた。

「うっ……」
2匹が少し離れ、お互いが見えておいないほんの一瞬に、得体のしれない光がオオタチへと吸い込まれてゆく。するとオオタチは青ざめた顔を見せ、辺りをきょろきょろしたかと思えば何度も転びながら全速力でもとへと来た道へ逃げだしてしまった。リーフが顔を上げればミヅキが木の上で相も変わらずの無表情で頷いているのが見えた。
当然、取り残されたミルホッグは訳も分からずオオタチの飛んで行った方向を見て唖然とする。その後ろに黒い猟犬が忍び寄っていることも知らずに。
音も無く地を蹴り、ハウンドが飛び上がった高さはミルホッグの首の位置。体を右向きへ回転させ鋼鉄と化した尾を撓らせその首元へと打ち据える。鈍い音と共にミルホッグがうつ伏せに倒れる。気絶しているのを確認するとハウンドは茂みの中で鮮やかな戦い方を見せた2匹に口を開きっぱなしになってるリーフを引っ張り出して先を急ぐ旨を伝える。
ミヅキがハウンドの背中へと着地したときにとっていた木の実をリーフに渡して暗い洞窟の中へとハウンド達は繰り出したのだった。



洞窟の中は真っ暗闇で中に入れば右も左も、自分の足が付いてるはずの地面さえ分からない程であった。そこをミヅキの明かりで突き進んで行く。完全に地形を把握している2匹はミヅキを先頭にしリーフに付き添うような形でハウンドが進んで行く。自然にできた洞窟故に危険が多い。暗闇の中の地形を正確に読み取ることのできる2匹のようにはいかないリーフが洞窟の中で怪我をしないように気遣いながらハウンドはリーフを誘導してゆく。
しばらく暗闇の中を闇雲に歩くような感覚に襲われつつ付いてゆくリーフであったが、じきに外からの光が射しているのに気が付いた。まだ外は夜であろうが洞窟の中の暗闇に月の光を運んでくる。だいぶ歩き続け、光合成に頼ったエネルギー回復もできずにふらふらになっているリーフにとっては外の光が希望の光に見えたのだった。
ミヅキは足場を確保しながら洞窟を抜けるための道を示し歩き続ける。小さい体を活かして器用に岩場を登るミヅキをハウンドとリーフが追う。そしてついに洞窟の外へとリーフ達は到達する。
そこでハウンドは再び小休止をとることにしたのか木の下へ寝そべる。リーフも続いてハウンドの隣に座り込んだ。ミヅキは木に上ると手頃な木の実を見つけて下へと2つ落としてよこした。上を見るとミヅキも疲れたのか枝に器用に腰かけて木の実をほおばっている。落としてよこされた木の実はモモンのみであった。大振りで食べごたえもありそうである。一口かじれば瑞々しい果汁が口の中へと広がり程よい甘みを味あわせてくれる。体が欲していた糖分と水分をどちらも補給し終えある程度休むと月の傾き具合を見てハウンドが言った。
「そろそろ行くぞ。もう平気か?」
ハウンドがリーフにそう訊くとリーフは首肯して見せる。それに安心したのかハウンドも頷く。ハウンドは星の位置を確認し、自分の行くべき方角を見定め歩き出す。向かう先はリーフ隊の駐屯している地域である。隊長不在により内地へ陣を下げたために忍び込むには少し迂回しながら進んでいくしかない。夜での行動ですこしは目立たないとは思うがそれでも慎重に行かねばテンガン山洞窟入り口付近の時のようなことになりかねない。
陣が構えられている場所を避けリーフ隊の場所を見つけ出す。茂みに面して開けた平原にそのテントの集まりはあった。目を凝らして見ればフレイとサマエルが並んで星を見ている。その話し声が微かにハウンド達の耳へと届いた。
「……はぁ」
「溜め息を付くでない。幸せが逃げるぞ?」
「……うん。…でも……」
「"でも"は、なしじゃ」
そう呟くように言うとサマエルが星を見て言った。
「もうすぐじゃ。もうすぐ全てが上手くゆくのじゃ…。全てがそろうのじゃ……」
「サマエル…?」
そう意味深なことを言い、星に向けて前足を伸ばす。不気味で抽象的な言葉を紡ぐサマエルの表情はどこか確信に満ちており少しだけ不安にかられるフレイであった。
そんなサマエルはすっとあらぬ方向を向き、座る。フレイが何が何だか分からないと言った様子で慌てたがもっと慌てた者がリーフの目の前にいた。
「お、おい。イーブイがこっち向いてるぞ」
「……なん、で?」
「わ、分からない。ただ、居場所が割れてるようではなさそうだ…」
確かにサマエルは確信して向いているのではなさそうだ。こちらという方向だけを眺めているように見える。ハウンドは頭を掻きながらリーフに言った。
「……リーフ隊長、俺達が先に出るとややこしいだろうからな。先行ってくれ」
「へ…。わ、わかった」
リーフが恐る恐る茂みから出てくる。それを確認してサマエルはフレイの毛を引っ張る。文句を言おうと開きかけた口はサマエルの方を向いて言葉を発することなく固まった。そこにはスカーフを失くしながらも生きて帰って来たリーフの姿があった。
「リーフさん……? リーフさん!」
だっとその場から駆けだすフレイに蹴られそうになるのを危うく避けたサマエルは顔をしかめながらも満足そうな表情でその2匹を見た。フレイが勢い良く抱きつきリーフが堪え切れずに情けない声と共に草むらの上へと転げる。転げたリーフに覆いかぶさるように抱きつき強くその体を抱きしめるフレイ。その瞳が若干潤んでいるようにも見えたリーフはふさふさのフレイの体毛ごと抱きしめ、その頭を撫でた。
「会いたかった……会いたかったよ、リーフさん……!」
「私もだよ……フレイ」

【創世暦5000年 7月】
行方不明者帰還。リーフ小隊、存続を受諾。
物資、兵ともに補給完了。

第2次カンナギ侵攻戦を計画。





「……さあ、いくぞ。ミヅキ」
茂みの中に姿をかくしていたハウンドは遠目にリーフが半ば押し倒される形で抱きつかれているのを眺め、少し顔を赤らめながらミヅキにそう言った。ミヅキはとくに何も思っていないのか無表情のままハウンドを見て首肯する。
ハウンドは茂みから姿を現し抱きあう2人の方へと歩いてゆく。サマエルはそれを確認するとゆったりとハウンド達の方へと行く。リーフがハウンド達に気が付きフレイに離れてくれるように頼み立ち上がる。フレイは見知らぬ2匹に対面して首を傾げる。
「えっと…、この2匹はハウンドとミヅキ。私をここまで連れてきてくれたんだよ」
「えっ…。敵地から…?」
「うん」
リーフは簡単に敵地でライト達がかくまってくれていたこと、そこにハウンド達が来てここまで送ってきたことをフレイに伝えた。フレイは目を皿のようにして黒い2匹を見る。しばらくぽかんとした表情を見せた後にフレイは深々と頭を下げて行った。
「リーフさんを…助けてくれて、ホントにありがとうっ」
「どう…いたし、まして」
フレイの言葉に照れるハウンドと条件反射のように答えるミヅキ。相も変わらずその表情は無表情であったが隣のハウンドは照れくさそうに頭を掻いている。見れば見るほどのデコボココンビであるように見えてならない2匹にサマエルは歩み寄る。
「ふむ…。では、余が部隊の者に伝えてくるからのぅ。そなたらは……」
「あぁっと、それはちょっと待ってくれないか?」
「…なぜじゃ?」
慌てて止めるハウンドにサマエルは少しだけ眉をひそめその瞳をハウンドへと向ける。ハウンドは肩を竦めるとサマエルに言った。
「交換条件……じゃないけれどな、その代わりにミヅキをお前の部隊に入れてやってほしいんだ」
「なんじゃと?」
「……普通に仕官すればいいじゃん」
訝しげな眼をするサマエルと正論を言うフレイ。だが、ハウンドはその2匹に溜め息をついて訳を話したのだった。
「ミヅキはこんななりだからな……士官に通らなかったんだよ…」
「………」
サマエルとフレイの目がすっとミヅキに向けられる。確かに、ブラッキーとしてあるべきはずの大きさには到底達していない。年齢的に見るのならばサマエルと同年代ほどに思われても全く不思議はない大きさである。これは確かに門前払い食らってもよいレベルであろう。ハウンドは続けて言った。
「ミヅキ自身、子供じゃないのは俺も分かってるしな、それにどうしても入隊したい理由がミヅキにはあるんだ。頼む、この通りだ」
ハウンドが頭を下げるのを見てミヅキも少しだけ頭を下げて見せる。そのやり取りを見てリーフが顔を見合わせているフレイとサマエルに向けて言った。
「私がディアルガさんに言っておくよ。……もっとも、隊長職を剥奪されてなければ…だけれど」
「それについては心配ないのぅ。2週間中に戻れば隊は解散されることはないはずじゃ」
「そうなの? よかったぁ……」
ホッと安堵のため息を漏らすリーフを見てミヅキは少しだけ目を輝かせて見せた。ハウンドも「よかったな」と言ってミヅキの頭をぽんぽんと撫でている。こう見てみると父親とその子供に見えなくもない。微笑ましく、妙な一体感のようなものを感じるこの2匹をリーフは眺めているとその右目に明るい光を感じた。

陽もリーフの帰りを祝わんとばかりにその祝福の光を彼女の頬に照りつけた。
長い間陽の光を感じることもなく動き続けていた体中の葉がピンと立ち、その光を受け止めた。
なんと明るいのであろう。リーフは太陽に向けて微笑んで見せたのだった……。







やっと終わりました~。




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Last-modified: 2013-07-05 (金) 00:00:00
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