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作者:俺だよ俺
「カロス地方に出張ですか?」
ポケモンの専用道具全般を扱う企業、『エンジュ・グローバル製作商業』に勤める男、カタバミは上司からの突然の出張命令を受けた。
来年の10月より、カロス地方のポケモンの輸出入規制が解除されるとあって、カロス地方にはポケモントレーナーの急激な増加が予想される。それにあたり、このエンジュ・グローバル商業もカロス地方に事業進出しようと言う、この会社にとっては非常に重要なプロジェクトの一端を担う話。
同期の誰よりも先に出張命令が下ったと言うことは出世のチャンスに他ならない。
「分かりました。やらせていただきます!」
カタバミは、上司に向かって力強く答えた。これで出世間違い無しだと意気込みも良し、今までの仕事に対する態度も真面目であったために、上司にとっては安心して任せられる逸材である。
「と、言ったは良いものの……どうすっかな」
しかし、だ……気がかりなこともある。来年の10月に輸出入が解禁ということは、逆に言えばそれまでポケモンを持ち込んではいけないという事になる。一部の渡り鳥や渡り龍、広域に生息地のある海のポケモンなどは例外ではあるものの、カタバミのポケモンはペラップ
カロス地方には野生で存在していないポケモンであるために、持ち込みは禁止である。
「ただいま、
「オカエリーカタバミ」
カタバミが所有するペラップ、アザヤは賢いポケモンである。彼の声をただ真似するだけではなく、状況に応じて挨拶を変えてくれる。基本的に朝はおはよう、食事のときはいただきます、送るときには行ってらっしゃいといった感じで、基本的な挨拶は全て押さえている。
そんな賢く愛らしい子。出張の期間は約半年ほどになるのだが、その間アザヤを一体どうするべきか? 取り合えず、脈がありそうな同僚にメールを送ってみれば、すぐに快い返事が返ってきたので、早速その友人に頼む事にした。
そして、出張に向けて日々は過ぎ、預かって欲ほしいとの連絡をしてから約二週間。
「すまんな、コウジ。ポケモンを押し付ける事になっちゃって」
出張の前日であるこの日、カタバミはアザヤを預けるべく、同僚であるコウジの家に訪れた。
「いやいや、俺は小さいポケモン好きだし、問題ないよ」
同僚は、自称するとおりに小さいポケモンが好きで、とりわけエモンガとか、アイアントに対する愛情は深い。ビクティニのオブジェなんかも部屋に飾られていて、希少なポケモンでなければそういったポケモンも手持ちに入っていたことだろう。
ペラップも、彼にとっては非常に嬉しいポケモンであるに違いない。そう感じたからこそのチョイスであり、きっと間違いは無いだろう。
「で、まぁ……お前なら問題ないと思うけれど、ペラップの世話の仕方とか、色々書いておいたから。まぁ、結構なんでも食べるし、人懐っこい子だから問題はないと思うけれど、縄張り争いなんかはさせないでくれよ? こいつ、弱いから」
アザヤが入ったモンスターボールを差し出し、カタバミは言った。
「その点なら大丈夫だって。俺の子達は全員温厚だから」
笑いながらコウジはボールからアザヤを出す。
「コンバンハー」
アザヤは早速以って挨拶を披露してから、普段とは違う部屋にいる事を感じて周囲の様子を探る。コウジを観察したアザヤは、敵意が無い事を感じて、尻尾を振りながら愛想を振りまいた。
「お、可愛いなぁ、こいつ」
「だろ? ブリーダーが戦闘には役に立たないって言っていたけれど、こいつを選んでよかったと思っているよ」
どうやら、初対面では互いに好印象のようである。これからカタバミが出張でいなくなる事に最初は戸惑うだろうが、きっと上手くやってくれるだろう。
そう安心して、翌日カタバミはアザヤを残してカロス地方に旅立った。
それからと言うもの、コウジはメールでやり取りをし、手渡しで餌を受け取るようになった報告や、コウジのエモンガと一緒に滑空飛行をする写真などを送ってカタバミを安心させていた。出張中、カタバミは体を壊さない程度に良く働き、現地の人にも一緒に出張に来た上司にも褒められるような働き振りを披露した。
充実した日々をすごしたカタバミの時間はあっという間に過ぎて行き、半年がたった。カタバミは、旅行用の大きなキャリーバッグを手にジョウトへと帰国し、リニアモーターカーを利用して本社のあるエンジュへと舞い戻る。
帰還報告を済ませたら、自分の家に帰る前に仕事中のコウジからアザヤが入ったモンスターボールを受け取った。そしてその帰り道。カタバミは家に戻る間すら惜しく、早速アザヤをボールから繰り出す。
「ただいま、アザヤ。久しぶりだね」
「お帰り、カタバミ。寂しかったよ」
と、アザヤは言う。文字にしてみれば嬉しい事なのだが、その声が明らかにおかしい。おかしいのだ。
どのようにおかしいかと言えば、なんというかまるでニヤニヤ動画などによく歌を投稿されているボーカロイドのような。それも、小さな子供の声をイメージした
「ちょ……おま……アザヤ、お前どんな言葉仕込まれたんだ」
尋ねると、アザヤは首を傾げていた。いや、そんな表情をされても困ると、カタバミも絶句するばかり。怪訝に思ったまま、車を走らせ家に帰る。
「ただいまー」
「お帰りなさいカタバミ。ご飯にする? お風呂にする? それとも私?」
「どれもいらねーよ!!」
どうやら、アザヤはやはり変な言葉を仕込まれていたらしい。怒られたアザヤは驚き、怯えている。
「す、すまん」
言い過ぎたかとカタバミも反省する。アザヤは悪くないのだと言い聞かせて、深呼吸をして彼は落ち着きを取り戻した。
「ごめん……」
今度は、声色だけは確かに人間のそれではないものの、普通の言葉。
「というか、お前本当に何を仕込まれたんだ……?」
ため息混じりに、カタバミは意気消沈した。そのあと、時差ぼけで疲れて眠るまでの間も、その声は何を仕込まれたかも知らない舌っ足らずで甘いロリ声である。どうしてこうなった……
その夜。
「こら、コウジ! お前アザヤに何を教えているんだ!」
「あぁ、すまん……ちょっとノリで一ヶ月くらい教えてみたんだが……そのままなぜか忘れてくれなくって……」
「忘れられなくってじゃねーよ! 何ヶ月前の話だ!!」
「四ヶ月……」
ボソッとした声でコウジは言う。
「多分、ペラップの地声って結構甲高いから……人間の男の声は真似しにくいんじゃないかな……で、ボーカロイドのロリ声が気に入っちゃったと」
「いやいやいや、おかしいおかしい」
「まぁ、あれだ。そのうち慣れるさ!」
「慣れねーよ!」
「お、俺は一週間で慣れたから……いや、本当にごめん」
なんと適当な返答だろうと、怒りを覚えてカタバミは言うも、電話の向こうでコウジも困っている。
「実際、すぐに戻すつもりだったんだよ……でも、本当に気に入っているようで……喉に負担がかからないのかな」
「うーん……」
「まぁほら、アレだ。声に負担がかからない分、ストレスなくなりそうで良いことじゃないか」
「もう少しセリフをまともに出来なかったのか……」
「なぜか気にいちゃって」
「またそれか……はぁ、もういいや。取りあえず戻せるように努力してみる」
と言って電話を切ってみたは良いものの、結局は特に変わる様子もなく……。
「ご馳走様、美味しかったよ。次は貴方を味見したいなぁ」
食事をすればこの調子。
「お休み。一緒に眠ってもいい?」
就寝前はこの調子。
「おはよう。お目覚めのチューは?」
朝起きればこんな感じ。甘ったるい声で語られる挨拶に、最初こそうんざりしていたが、一週間もすれば彼は――
「おはよう。お目覚めのチューは?」
「はい、おはようのチュー」
コウジの言うとおり、慣れていた。しかも、ご丁寧にクチバシに軽くキスをするような積極性も一緒に携えて。まさしくどうしてこうなったと言えるべき劇的な変化である。
そんな日常生活を送りながら、彼は思うのである。
「なんか、危ないジャンルに目覚めそうだ……」
鳥を見る目が変わってきた彼は、バシャーモの画像なんかをネットで閲覧し始めるようになってしまった。その時点でもう手遅れだし、バシャーモはタマゴグループが陸上グループであることは触れてはいけない。
ちなみに、いまさらだがアザヤは雄だ。
きっと私が作者だなんてみんな思いもしなかったことでしょうね! でしょうね!
今回、挨拶というテーマを見て、最初に思い浮かんだのがオウムでした。オウムに挨拶を覚えさせると、オハヨーだとか喋ってくれる仕草がとても愛らしいですよね。
しかし、そのかわいらしい台詞が下品な言葉に返られていたりとかすれば、テンションが下がることは間違い無しでしょう。今回は、変なせりふを覚えさせてみたというコンセプトで突っ走った結果、こうなりました。
いやぁ、私が作者だなんてみんな思いもしなかったことでしょうね! でしょうね!
なんとなく (2013/06/23(日) 16:43)
ありがとうございます。直感で選んでくれたのですね。
やはり直接耳に届く言葉の力は大きいと言うことなのでしょうか。何かに目覚めてしまったトレーナーの今後が気になります (2013/06/29(土) 20:40)
ケモナーの世界へ仲間入りです、タブンネ!
ペラップに惚れましたとです。 (2013/06/29(土) 20:40)
さぁ、次の作品を書くのです! 需要はきっとありますよ
ツボにはまったので一票! (2013/06/29(土) 22:52)
どうもありがとうございました。かなりの隙間産業になりましたが。これからも頑張ります。
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