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縁人のニンフィア

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作者:きっとだれもよそうがつかなかったであろうあのひと


 私の名前はクリス! 数え年*1で5歳となる今日。私はこの海の神と陸の神が結ばれた地、『温泉島』の縁結びの役目を背負って、この山のポケモン達に不滅の仲を授ける役目を任されました。
 今まで、同年代の子たちが次々と進化していくのを、首に下げた変わらずの石のせいで見送らざるを得なかった日々。その辛い日々を終えて、晴れて進化の許可を得た私は首と額にリボンが靡く、麗しきニンフィアへと進化を遂げました。
 薄赤い桃色の、やさしい色合い。ターコイズブルーの目は、優しく澄み渡り、風になびくリボンは私の機嫌ひとつでこまやかに揺れて、見る者の視線を引いていきます。ぶっちゃけ、イーブイはどれに進化してもそれぞれの魅力があるのですけれど、縁結びの役割を持つことを許されるのはこの姿のみ、そして5歳以降まで進化せずに耐えた者のみの特権です。
 と、言うのも、私は他人の恋愛を応援するのが好きなのです。両親はいつも仲が良く、そのイチャラブっぷりを見ていると自然に顔がほころんだもので、その仲の良さの秘訣が、嘘か本当か私のようなニンフィアに縁結びの誓いの儀をしてもらったからだそうです。そんな両親を誇らしく思い、また夫婦を長く添い遂げさせることの尊さを思い、私はこの道を選びました。この年まで進化できないのは辛かったけれど、これで晴れて私も縁人(えにしびと)の仲間入り。さて、今日からお仕事がんばるぞぉ!!

アーケオスとデンチュラの奇妙な縁 


 ドラピオンの妻を失って、数日が過ぎた。水中3のグループのポケモンのみにはやりだしたこの病。今もまだ感染が続いているが、僕は何とか無事で今ここにいる。妻を失い、いまだ僕の気分は沈んだままだが、それでも残された子供のために、自分は強く生きていかねばならない。死んだ妻が待っている場所へ、私は子供を連れて行きたくはないし、私自身、まだまだ会うのは先のほうがいいと思っている。
 だから今はただ、大木の中ほどに(上るのが大変)作られた自分たちの巣の中で卵を温め孵化を待ち続けている。
「はぁ……おなかすいたな……」
 メスが卵を温め、オスが餌を持ってくる。それが普通だと思っていた自分には、こうして卵を温めるというのは思ってもみなかった経験だ。卵のそばを離れるわけにもいかないので、ずっと温めているのだけれど、さすがにつらい。ため息交じりに餌を届けてもらうのを待っていると、かさかさと木の幹を這い登る足音が聞こえる。
「すまん、サイカ。ちょっと遅れちまった!」
「遅いよー……もうおなかペコペコだぞ」
 僕に餌を運んできてくれたのは、父親の姿を受け継いで生まれたデンチュラの雄であるスラッシュ。母の姿を受け継いで生まれたドラピオンであり、僕の妻スライスの兄であり、いまだ独身の寂しい男だ。妹を失った彼もまた大いに悲しんだものの、前向きに生きようと、現在は男2人で頑張っている最中だ。ともかく、子供が孵化するまでは一緒にいてくれる約束で、こうして餌を届けに来てくれるのはありがたい。
「いや、悪いね……今日はちょっと雨のせいか、虫ポケモンたちがあんまり飛んでいなくってさ。でも、きちんととってきたよ。これ、アイアントな、一緒に食べようぜ!」
 このスラッシュという男は気のいい兄である。どうしてモテないのかはわからないが、異性とは妹と母親以外はほとんど話したことがないというのが主な原因かもしれない。
「いいね、妻も好きだったんだ」
「だろう? 夫婦そろって好みが同じだって聞いたから、頑張って探したんだ。妹もこいつが好きでさ」
「子供の時から好きだって言っていたもんね」
 僕持ち前の怪力でアイアントを真っ二つに切断して2人で大口を開けてそれを食む。普段の僕ならば豪快に大口を開けて食べるところだけれど、しかし最近はなんだか変だ。スラッシュに見つめられていると、何だか食事が喉を通らなくなってしまいちびちびと食べるしかないのだ。デンチュラの彼は、消化液を獲物にぶっかけてから、少しずつ溶かしたものをペロペロと舐めとって食べているので、こちらは普段から非常に食べるのが遅い。
 そのおかげなのか、ちびちび食べている僕もスラッシュとそれほど変わらないスピードで食べることになる。スラッシュの餌が小さくなって、自身の胃液で食事に使う前足を汚しながら食べてくるころになると、ようやく僕も緊張が取れて勢いよく食べられるようになる。
 なんでなんだろうと考えた結果、そういえば昔にスライスと付き合った直後もこんな感じだったのを思い出す。女性を知らなかった自分は、いつも緊張して食事が喉を通らなかったものだ。と、いう事はこの感情は恋なのだろうかと、ふと脳裏に浮かんでしまう。そんなはずはないと思いつつも、妻であるスライスと出会った時の心境を考えれば恋なのかもしれない。
「どうした、サイカ?」
「いや、こうやってゆっくり食べるのもいいもんだなて思って……妻と一緒に食べていた時は、いつも僕が先に食べ終わっちゃったから」
「おいおい、寂しいことをしているなぁ。足並み合わせて食ってやれよぉ。天国の妹……お前にとっては妻と、一緒に食べ始めて、一緒に食べ終わるつもりでさ」
「うん、この子がもし食べるのが遅かったら……そうしてあげようかな……」
 僕は2つある卵を見つめて言う。
「そうしてやれよ……子供とは、足並みそろえて一緒に成長してやれ」
 ゆっくり食べながら、ゆっくりとそんな会話。こうして卵を温めていると、時間が過ぎるのが遅いから、何だかのんびりとしたおおらかな気分になれる。あぁ、こんなのも悪くないかも。

 スラッシュと一緒にいる時間が終わり、ずっと温めている最中にうとうとしてきて睡眠をとると、いつもとは違い謎の息苦しさで目が覚める。いや、眼が覚めた時にはもう遅かった。声が出ない、起き上がれない。妻の命を奪った病気は急速に進行して命を奪う病だとは聞いたが、これほどまでにすさまじいとは思いもしなかった。自分の命よりも卵が心配だと最後に脳裏に浮かんだが、しかし、何か対策が出来るはずもなく、僕の意識はゆっくりと閉ざされていった。


 もう二度と目覚める事がないかもしれない。それほど厄介な病気に感染してから何日たったのだろうか。意味がないとは思いつつも、最後に卵だけは抱きしめたまま意識を失って、目覚めたその時に目に映ったのは、あざやかな山吹色と青の体色、スラッシュの体であった。
「あ……スラッシュ?」
 震える小さな声しか出なかったが、それでもスラッシュはかすかな音すら見逃さなかった。
「おい、いま……おい、サイカ。生きてるのか? よかった……峠は越えたぞ!! 子供も無事だ!」
 その嬉しそうな顔、声色。そして僕にとって何よりも嬉しい朗報を聞かされ、僕は安心した。無理を押して目覚めている必要もないと思った僕は、ありがとうとかろうじて声に出して、また眠ってしまう。次に目覚めたときは、その次の日であった。
「あ、アーケンだ……」
 目を覚ました時、最初に目にしたのは鮮やかな青色がまぶしい、アーケンである。次は妻に似た(いや、そもそも形態が全く違うから似てないか……スコルピ時代のことは知らないし)容姿で生まれたスコルピも見かける事が出来、うまい具合に種族がわかれたものだと、僕はうまく働かない頭で思う。
「……う、ん……おいで、2人とも」
 と、僕は2人を手招きするが、どうにも警戒されているようで近づいてくれない。特にアーケンはひどいもので、完全におびえてしまっている。体もうまく動かないので、仕方がないからスラッシュを待って、数分。
「起きてたのか……よかった」
 カサカサという音が聞こえてきたかと思うと、オレンの実や、罠でとらえた獲物を持ってきて、スラッシュが安堵のため息をついた。

「ごめんな……アーケンなんだけれど、俺を親と認識しちゃったみたいでさ……すり込みって言うんだっけか……そのせいで俺からじゃないと餌を受け取らないんだよね……」
 オレンの実を僕に食べさせながら、スラッシュが語る。
「そういうわけで、一緒にいるのは卵が産まれるまでって約束だったけれど……こうなったらもう、俺もとことんまで付き合う。物心がついて、親という存在が誰であるかが分かってくれるまでさ!」
「本当に?」
 無意識のうちに声が弾み、顔が笑顔になる。
「ふふ、本当だよ。ってか、嬉しそうだなお前。そんな笑顔を見せられたら妹が惚れるわけだよ……」
 スラッシュもまた笑顔になってそんなことを言う、そんなに、笑顔だったかな……僕。少し照れてしまって、僕はうつむく。
「男と暮らすなんて思ってもみなかったけれど、寂しい独り者同士ちょうどいいのかもしれないなぁ」
 なんてスラッシュは笑いながら、僕の肩を叩いた。少しだけ、幸せな気分がしてきた。

 共同生活の中で分かったけれど、僕に似た姿のアーケンの子供はとっても甘えん坊。ただ千切っただけの餌では食べようとせず、ママの代わりであるスラッシュが胃液で溶かして食べやすくしたものしか食べない。餌は細かくちぎっているから、巣を汚さないためにも手で掴んだまま胃液を掛けなければならず、そのせいで前足を汚しながらも懸命にスラッシュは消化液をかけて、それをサイクスと名付けたアーケンは嬉々として食べていた。妻に似たスコルピのシンクは、受け取ればすぐにでも食べ始めるというのに……不思議なものである。
 僕もいまだに、スラッシュと一緒にいると緊張してしまうのだけれど、なぜかは分からないが解決する方法がある。『病気の時にはこういう風に口移しでオレンの実を飲ませてやって看病していたんだぞ』と、ふざけてスラッシュに口づけをされた時は、僕も緊張がほどけて食事が喉を通るようになったりして。あぁ、魔法のようなキスなんだなと。むしろ、スラッシュのキスは魔法なんだと感じるくらいに、スラッシュが魅力的に思えてならない。自分たちは男同士なのに、こんな気持ちを抱いてしまうなんて、はしたないというかおかしいというか、自分の正気を疑ってしまうときもある。

 けれど、口づけをすれば弱気な僕も強気になれるような気がして、僕は今日、勇気を出してスラッシュにに口づけし……
「ね、ねぇ……スラッシュ。僕、君のことが好きなんだ……なんというか、その……君に見つめられていると、食事も喉をとおらなくなるような……そんな気がして……でも、今みたいにキスをすれば、なんというか、とっても勇気づけられるっていうかさ……すごく、やる気になってくる。君がいると、なんというか僕……すごく強くなれるような、自然体でいられるような気がするんだ。
 だから、なのかな……僕、ずっとスラッシュと一緒にいたいな。子供が巣立っても、ずっと……男同士で、気持ち悪いと思ったら、すまないけれど……」
 ものすごく照れくさいうえに、男同士というあたりものすごく背徳的。それでも、キスをするだけでなぜだか安心するこの気持ち……この込みあがる気持ちが愛じゃないなら、何が愛か分からないほどだ。
「……やーっと言ってくれたかぁ」
 安心したようにつぶやく声がスラッシュから漏れる。瞬間、驚いて顔を上げた俺に待ち構えていたのは笑顔だった。
「いや、なぁ……嫌いだったらこちらからキスなんてすることもないし……お前からキスをされたら怒っているよ……だから、その……それを言いたくても言い出せない俺の代わりに、言ってくれて……ありがとうな」
「……大好き!!」
 予想外なことに、僕たちは両想いだったようで。嬉しくて嬉しくて、僕は格好つけた言葉も言えず、単純な一言を口にしながら思わず抱きしめてしまった。
「ねぇ、スラッシュ……僕たち、ニンフィア達に縁結びの依頼をしようよ。ずっと一緒にいよう」
「そうだな。俺達、ずっと一緒だ!」

あ、あの……それはとっても言いにくいのですが 


 やってきました、私の初仕事! 先輩方から縁結びのやり方を何度も教わって、見学も何度もしましたが、今日は初めて私が行う仕事になります。一応先輩が見守ってはくれますが、自分がやらなければならないというこの緊張する状況……果たして上手くできるでしょうか。なぁに、練習どおりやれば大丈夫なはずです! 頑張れ私、ファイトだ私!
 さぁ、目的の巣が近づいてきた。エアームドの翼で一周に1日の4半日*2かかる広大な島の中、温泉の湧く大きな休火山のふもとにある森の奥深く。アーケオスとデンチュラの2人組が住んでいるという場所が。卵グループが違うようですが、それはつまるところ、卵グループが違ったとしても生涯添い遂げたい。そんな気持ちを持った素敵なカップルという事なのでしょう。
「こんにちは! 本日縁結びの儀を執り行う縁人。ニンフィアの、クリスです!」
「同じく、付き添いのローズです、今日は、新人さんのお仕事になりますので、粗相があってもどうかご容赦を……」
 まずは、ご依頼人に元気にあいさつ。笑顔は基本、はきはきとした言葉づかいで、これから結ばれるポケモン達を勇気づけるぐらいの気持ちで力強く喋りましょう!
「おや、こんにちは、ニンフィアの皆さん」
「こんにちは、今日はよろしくお願いします」
 よーし、初仕事だ!!
 ┗(^o^;)┓どんなカップルかな????www
 ┏(;^o^)┛やっぱりラブラブなのかな????www
 こ…これ…これは…………同性カップルかつ卵グループ違いだあああああ┗(^o^)┛wwwww┏(^o^)┓ドコドコドコドコwwwww

 初仕事から男同士とはどういう了見なのか……いやいやいやいや、卵グループの件と同じです!! 例え同性であっても一生一緒にいたい、結ばれたいという思いがあるのは、なんというかあれです、本能を超えた愛じゃないですか、素晴らしいです、きっとそうです! それにまず、同性愛自体は結構普通にあることじゃないですか!
 巣の中ですやすやと眠っている子供達はとてもかわいいですし、私は元気にはきはきし喋りつつも、起こさないように注意が必要ですね。
「私たちのなれ初めなんですが……私が妻に先立たれてしまってからというもの……こちらの、スラッシュが良くしてくれまして」
 なるほどなるほど……それぞれにとっての妻と妹が例の流行病で失われてからというもの、仲良くなったわけですか……
「そうして食事時になると、なぜかは分かりませんが食事が喉も通らないような思いでして……」
 いやいやいや、それはきっと多分おそらくあれです。デンチュラの緊張感の特性は普通は戦闘中にしか発揮されませんが、アーケオスの持ち前の弱気のせいで常時発動されちゃっているだけですってばそれ! 胃液がスラッシュさんの手についたりして緊張感の特性が消えたり、キスした時にサイカさんの弱気の特性が消えているだけですからそれ、多分おそらくきっと。
「けれど、キスされることで僕は勇気をもらえるんです。弱気だった自分が強気になれるくらい安心できる相手……きっと、運命の相手なのだと僕は確信しました!」
「なるほど、素晴らしい絆ですね!」
 ローズ先輩、色々突っ込みどころ満載ですが、スルースキル半端じゃないですね。
「よかったじゃないの、クリス。こんな素敵な2人が初仕事だなんて、やっぱり親方の依頼審査の目は確かね!」
 いや、むしろ普通のカップルの依頼をしたかったのですけれど……何の間違いで男同士なんかに……いいや、難しいことは考えてはいけません。男同士の愛だろうと、幸せな2人を見ていればきっと私も幸せな気分になるはず、頑張れ私、ファイトだ私!
「そうですね、先輩。これほどの絆で結ばれた2人の縁結びをできるなんて、誇らしい気分です」
 えぇい、もうどうにでもなれ。私は股間についているものとか、そんな細かいことよりも愛の大きさだけを見ることにします。
「お2人とも、さっそく縁結びの準備に入りましょう」
「はい、お願いします」
「僕も、準備OKです!」
 スラッシュさんとサイカさんが元気よく答えてくれました。これは俄然やる気も出るというものです。
 私達、ニンフィアが行う縁結びの儀式は、額や首回りについたこのリボンを用いて行われます。もともとは、私達ニンフィアが好きな人への求愛の方法として使ってきたものですが、お爺さんのお爺さんのそのまたお爺さんの……そうして何百世代も前の気が遠くなるくらい昔の話。この温泉島は、陸の神と海の神が結ばれたことで、何の変哲も無いこの島に温泉が沸き出たそうなのです。その時、二柱の神を結びつけたのが、私達のニンフィアだったらしく、今でもこの縁結びは決して相容れない仲の者たちでさえ結びつける儀式として、存在しているのです。
 そんな誇り高いこの職業を背負う身になったのです、先輩達の顔に泥を塗らないように、初仕事頑張るぞぉ!
「では、じっとしていてくださいな。今より、新たに結ばれる2人へ、祝福の縁結びを行います。体から力を抜いてください」
 私の言葉に応じて、2人は体から力を抜きます。リラックスした2人の体に、私はリボンをするりと巻いて、2人の体を繋げます。こうして体を繋げて目をそっと閉じれば、まるで2人の気持ちが分かるよう。色々心の中で突っ込みましたが、2人は性行為にも及んでおらず、本当にプラトニックに会い押し合っている中というのがひしひしと伝わってきます。
 おそらくは勘違いから始まった恋なのでしょうが、大切な人の子供を2人で世話するにあたって絆が芽生えたのでしょう。伝わってくる鼓動の波は、友情と恋慕、安心が感じられますが、セクシャルはごくわずか……うんうんそれでこそ! 2人とも感情の波が似通っているあたり、きっと馬が合う2人なんですね。
「お2人さん、ずいぶんと相性がよさそうな感じですね……こうしてリボンを巻きつけるだけでそれが分かります」
「ど、どうも」
「やっぱりか……へへへ」
 私が褒めると、お2人さんは照れて微笑んでいました。照れあう2人の感情は、揺れ動くほのかなレッド。ほほえましい2人ですね。
「では、誓いのキスを」
 2人の感情をリボンで感じながら、私は緩く巻き付けたリボンで2人に近寄るように促しそっと口づけを交わさせる。これで例の胃液のあれがああなるのだと思いますが、本人たちが幸せならそれで良しとしましょうか。2人の感情の波には喜びが最高潮に高まっているのを感じます。リボンから伝わるこの感触、とても心地が良いですね。
 私がギュッと2人を抱きしめれば、そっと息を吸ってから行われたその口づけ(虫タイプは気門から呼吸しているから無限にキスできるけれど)。アーケオスのサイカさんが苦しくなるまで、まるで花びらをめでるかのように優しく行われ、静かに、暖かな時を感じながら鼓動を刻むような、長い長い口づけが終わると、2人は幸せそうな顔でお互いの顔を見合います。2人から伝わる感情の波は、喜びに満ち溢れていました。
「これにて、縁結びの儀式は終わりです。2人の(えにし)が、永久(とこしえ)に続きますように、我らニンフィア一同お祈り申し上げます。」
「はい、ありがとうございました」
 私が恭しく頭を下げるのに応じて、2人からお礼の声が飛んでくる。いえいえ、これが仕事なんですもの、趣味と実益を兼ねた仕事なら、やめられませんね!
「それでは、こちらをお受け取りください」
 と、サイカさんが差し出してくれたのは、チイラの実。ありがたく頂かせてもらいましょう。


「どうもありがとうございます。大切に食べますね」
 渾身のスマイルとともにお礼を言って、私達は依頼人の住処を後にしました。

「ふー……どうでしょうか、ローズ先輩。私、うまくできていました?」
「大丈夫大丈夫、練習通りきちんとできていたよ。もう少し一緒に付き添わせてもらうけれど、この調子なら早いうちに1人でも大丈夫になるわね」
「本当ですか? それじゃあ、クオリティを下げないように精一杯頑張りますね!!」
 ともかく、初めての仕事は成功です! 明日もまたがんばりましょう!

ギギギアルの夫婦 


 

 初めは、ただの好奇心だった。
 この温泉島にある最大の洞窟。『深淵洞窟』の中はその名の通り暗くて、その先には何があるかわからない。ギギギアルの長老さんが言うには、洞窟の奥深くは地獄につながっていて、そこに行くと陸の神でも海の神でもない、破壊の神様に地獄へ連れて行かれちゃうのだという。
 そんな場所ならば怖いもの見たさで入ってみたいと思って、話を聞いた翌日に洞窟へもぐりこんでみたけれど、まずいことになった……帰り道が分からない。この島には、温泉の熱を利用して光を放つ石があるけれど、こうやって奥へ奥へと進んでいくうちにそれもなくなってしまう。それだけならば、顔に手(?)を付けたまま歩けば大丈夫だと思ったけれど、それは平面の迷路だけに限られた話であって、天井も床もうねうねと曲がりくねったこの洞窟では、そんな手段を駆使していても迷ってしまった。
 ふわふわと浮き上がりながら、ぼくはあたりを見回してみるけれど、当然一切の光が入らないこの闇の中では何も見えることがなく。不安で不安で泣きそうなとき、僕は同じような気分で泣いていたのだろう子の鳴き声を察知する。
「どこにいるの、君? 泣いてるの?」
 話しかけてみると、驚いて飛び上がったのだろう、ゴツンと洞窟の内壁にぶつかる音が聞こえた。直後聞こえる、痛そうな声。
「大丈夫?」
 近づいてみると、回転の音が聞こえる。あぁ、この子もギアルで、一緒に長老のお話を聞いていたのだろうなという事が分かった。
「もしかして、君もギアルで昨日の長老のお話を聞いてきたの?」
「う、うん……」
 相手のギアルはうなずいたのだろうか、音がぶれる。
「お互い馬鹿みたいね……俺はルル。お前は?」
「アリエッタ……」
「そうか……なんとか、ここから出ないとな……」
「無理だよ……どれだけ出口を探しても、どこにも出られないし……蒸し暑くって、もうへとへとに疲れちゃってるし……」
 何とも弱気な調子でアリエッタが言う。
「頑張ろうよ、2人で一緒に……ほら、疲れたなら僕が回転させてあげるからさ!」
 なんていって、俺はアリエッタのギアに自分のギアをかませて、回転させる。不思議と、回転の方向やギアを噛み合わせるタイミングはこの暗闇の中でもはっきりとわかり、まるで何度も練習したかのようにうまく噛み合った。
「あ……きゃ、激し……お父様(?)よりも力強くって……あぁ、体がほてっちゃう……う、うぅん……だ、だめ……私おかしくなっちゃう……」
「よし、そろそろいい具合だな……歯の部分もオイルで濡れて、こっちまで匂いが漂ってくる……嫌がっていても体は正直だな」
 ギアの回転で、俺は彼女(?)に一気に元気を取り戻してもらう。元気になってもらった証拠に、彼女の体はもうオイルでしっとりと濡れている。
「元気を出すんだ、きっとここを出られるから……」
「う、うん」
 疲れていたところにいきなり元気を注入された彼女(?)は突然のことにまだ戸惑い気味だったけれど、少しは絶望的な気分も晴れたようで、俺達は2人で頑張って出口を探したのである。

痛い痛い、裂けちゃう! 

 第2回の仕事は、ギギギアル同士の正統派カップルです! ただし、無性別かつ無機質というなんだかとってもなじみのない組み合わせです。火山の中腹にある、もとは海だったがゆえに岩塩と酸化鉄が眠っている洞窟エリアにて、その2人は出会ったそうです。何でも2人は磁石のように引き合う仲だったらしく……それ、特性がプラスとマイナスだっただけじゃないですかね?
 まぁ、特性も相性のうちですよね! 何でも、特性がプラスとマイナスだと、歯車の回転が逆になるらしく……なるほど、確かにギアルは時計回りの人と、反時計回りの人がいますね。同じ部分の歯車は同じ特性同士ではかみ合わないことになりますが、こうして特性が逆であれば、同じ部分同士を噛み合わせて回せるので、交尾とかいろいろスムーズにいくのだとか!
 なんでも、ギアル同士が一定の速度を保ちつつ回転運動をすることによって、周囲に無限大のエネルギーがスパークして発生するのですが、そのエネルギーが回転運動をしている場所から一定の距離でゼロになる特異点にて、ホワイトホールが発生し、そこからギアルの子供が生まれるってニンフィアの長が言ってました!
 意味が分からないけれど回転していればとりあえず子供が出来るんですね、生命の神秘ってすごいです! そういうわけで特性が違うギアル同士は相性がいいそうなのです、はい。

 冬は体温が高いのが助かるとかで、炎タイプと一緒になって冬を温かく過ごすリーフィアの知り合いなんかもいますし、最初の仕事と同じく特性も相性の一つと考えて、プラス思考でまいりましょう!
 どうにも、2人は洞窟の奥地、当然太陽の光の届かない場所の中でも、さらに奥地。この島の洞窟には、温泉の熱を利用してほのかに光を放つ石があるのですが、それすらないような奥地の奥地、破壊の神が目覚めを待つ場所まで突き進んでしまったときに出会ったそうです。2人はその頃はまだギアルだったそうで、子供の好奇心でどこまでいけるか試していたそうで。お互い姿も見えないままに勇気づけあい、なんとかココロモリの人たちに発見されて、外まで案内してもらったのだとか。
 勇気づけあう際は、互いのギアを噛み合わせて、グルグルグルグルと、互いの鼓動(?)を感じ合っていたそうで……いいですねぇ!! 私も、このまま真っ暗なところで迷って、信頼できる人と一緒にリボンを巻きつけながら脱出とか、そんな心の躍る経験をしてみたいものです。

「では、これより縁結びの儀式を……」
 あ、これどうしよう……
「せ、先輩リボンどうやって巻きましょう?」
 あんなのにリボン巻きつけたら、私のリボン千切れちゃいますよ。一応リボンはかなり長く伸びはしますけれど……からまって取れなかったら悲惨です、悲惨です!
「あー……ギアル族の回転は呼吸に等しいから止めると死んじゃうのよねー逆回転は健康に悪いし」
 先輩、死ねってことですかそれ。私か、このカップルに。
「俺達、数十秒なら回転を止められるけれど……」
 と、ルルという名前のギギギアルが言います
「その数十秒で済ませなければ、アタイらゴースト・鋼タイプになっちゃうわね、ルル」
「ヒトツキ族みたいでイカスじゃないか、アリエッタ!」
「え、えーと……それじゃあ、回転を止めている間に全部やれば問題ないわけですね……きつそう」
 な、なんというかいろいろ大変そうですけれど、とにかくもうやるしかないのです、やるしか!

「では、これより縁結びの儀式を始めます……えと、その呼吸を止めてください……」
「ちょーとまってねー。今のうちにたくさん回転しちゃうから」
 と、ルルさんが言います。
「私もー!」
 アリエッタさんも一緒になって、2人と揃ってのギアチェンジ……2人は歯車のうちの2つある顔のような部分の片方を噛み合わせる位置を変えます。今まで小さなもの同士かみ合っていた部分を、大きな部分と顔のような部分とで噛み合わせることにより、理想的な速度を得る……高速回転しだしたギアルの顔のような部分の片割れは、その素早さで顔が見えないほど。あれがどんなふうに呼吸に等しいのかはよくわかりませんが、とりあえずあれのおかげで長く息を止めていられるのでしょうか?
 よくわからないですけれどそう信じましょうか!
「では、始めます……本来なら適度な間をとりますが、今回は急ぎ足でいきますよ! では、体の力を抜かずにそのまま行きます」
 まずはリボンを、まきつけてと……あぁ、もう感情なんて読んでいる暇がありません。
「では誓いのキスをしてくださいって、口がねぇ!」
_人人人人人人人人_
> 口がねぇ!! <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
「あー、口なら……おっとごめん」
 アリエッタさん動いてます、引っ張られて痛いです。
「ギギ、お前動いているぞ……俺もか」
 お前もかルル!!
「痛い痛い痛い!」
 2人そろって無駄口叩いて動かないでください、割とマジで切実に!! 裂ける裂ける!! 裂けるのだけは、避けたいってか無理、痛い!
「動かないでください、いやマジやばい、いいからとっとと終わらせろ馬鹿!」
 2人のギアの顔のような部分が本体から外れ、それがお互いに重なります。あれ取れるんですねぇ……って痛い痛い! ちょっとずつ動いているしマジ痛い! あぁ、口づけし終わったな、うん。
「縁結びの儀式終了です終わりぃぃぃ!!」
 このままリボンが引きちぎられる前に、私は急いで儀式を終わらせます。一瞬素が出てしまいましたね……はしたない。
「ハァ……ハァ……ハァ……ふぅ」
 あー痛かった……裂けるかと思いました。こうなったのもきちんとオイルで潤滑させていないから……いても無駄か。凸凹に引っかかってしまって、結局引っ張られますし。
「はぁはぁはぁ……」
「ごめんねー、痛かった?」
「ギギ、俺ら息を止めるの慣れていないものでな……」
「だ、大丈夫です。これがニンフィアの仕事ですから……」
 もう2度とやりたくないですけれど、大丈夫です、うん。
「それではこちら、お礼のオレン、モモン、クラボ、チーゴ、キーの実と、アイアント肉の詰め合わせセットです。どうもありがとうございました」
 どうやって収穫して、どうやってこの洞窟まで持ってきたのかはわかりませんが、ありがたく受け取り……木の実を包んでいる大きな木の葉の籠が勢いよく回転していて触れるのが怖い。籠が回転していてつかみにくい……ってか、回転止めて!!
「あ、あの……回転を止めていただけると嬉しいのですが」
「おや、これは失礼……では、改めて……」
 ルルさんが、私の目の前にぴたりと籠を止め差し出します。思えば……ギギギアルは不便な体していますね。

「はぁ……今回はいろいろと……疲れました」
「うーん、もっと凶悪なポケモンもいるから、ギギギアル程度でまいっていちゃ仕事にならないわよぉ。でも、クリス。今日はよくできたわね。上出来だったわぁ」
「ありがとうございます……」
 そんなに作業をしていないはずなのに、今日はひどく疲れてしまった……もぅマヂムリ。ねょ……。

光物が大好き 


 洞窟の中には、温泉のに暖められた熱を利用して光を放つ石がある。いや、砂があるといったほうが正しいか。光る砂の混ざる土ならば、あるにはあるのだけれど、石と呼べるほど大きな物は、奥地の奥地にごくまれにしか存在しないしかし、プレゼントのためには危険を冒さねばと思い、俺は洞窟の中を突き進んだ。手元には、光る砂を多めに含んでいる石。くそ重い割に明かりとしてはあまり光の量が足りず、また地震の体温も低いために定期的に炎で温めなければ使えない使い勝手の悪さだが、無いよりはましである。
 もともと俺も洞穴に住む種族で、夜目は聞く方ではあるが、ここまで光がない場所はさすがにきつい。迷ってしまわないうちに早いところ抜けてしまわねば……そんなことを考えながらたどり着いた。炎を吹いてその場所にある石に熱を加えれば、闇夜の中でもはっきり見えるこの眼ですら光を認識できな完全な暗黒に、ほのかな白色の光が灯る。
 まるで夜空に舞い上がったかのように幻想的な光景だ。美しい白色は、洞窟の内部を照らして、静かに佇んでいる。こんな洞窟の奥底だ、自分が立てる物音以外は一切の音がしない。静かに光を放つ石達は、例えようもなく神秘的で、思わずこぼれ出た『おぉ……』という感嘆の声が反響して響く。ただそれだけの音にさえ、この光たちは(いろどり)をくれるようだ。
 その石を必要な分だけ持ち帰る。石は光る砂の混じった粘土よりもはるかに多くの光を放つため、少しの炎で温めただけでも、明るく洞窟内を照らしてくれる。行きは非常に頼りなかった足取りは、今やもう自由自在のように思えた。今はまだ無加工で不格好な無造作な石。加工するのは時間がかかるだろうが、きっと気に入ってもらえるはずだ。

「ふぅー……疲れたぁ」
 大きくため息をついて、どっかりと座りこむ。小さな翼と尻尾から力が抜ける気分であった。
 俺の彼女はガブリアス。ガバイトに進化したころから光物が大好きで、よくアイアントの甲殻を磨いて巣に飾っていたり、貝殻の裏側の真珠層の輝きが気に入って巣に飾ってみたり、光物が好きで好きでたまらない子である。そんな子と付き合うにあたって、俺は海で裏側が綺麗な貝殻を探してプレゼントしたり、ヤミラミを狩ってきてきてあげたりなど、いつだって尽くしてきた。
 彼女はわがままではないから、そういうことをしなくとも特に不満はないようだが、やっぱり彼女が無邪気に喜んでくれる様子ほど嬉しいものはなくって……だから俺はついつい頑張ってしまう。そして、頑張った結果が、今手に持っているこれである。大陸のポケモンが作った透明なガラス瓶、それを粘土で蓋をして、中には粉々に砕いた光の石。つまるところ光の粉が入れられている。
 ビンを振ればさらさらと音を立て、太陽光を照り返して煌めく砂。それは日中でもなお十分な美しさを誇る代物だが、焼け付くような太陽の日差しに当てたり、温泉の近くで温めることでそれは暗闇の中で静かに光を放つようになる。闇夜に持ち出すか洞窟に持ち込むことで、それは燦然(さんぜん)と存在を誇示する地上の星となるのだ。今、季節は夏。夏と言えば、交尾! 活動的になれるこの時期は、非常に気持ちが高ぶってしまうので、それを落ち着けるためにも、そろそろ伴侶がほしいと思っていたところ。
 彼女への告白には、この送り物さえあれば成功するはず、俺はそう信じて止まなかった。


「ねぇ、ガーちゃん」
 彼女の名前はガーベラ・テトラ。皆からはガーちゃんという愛称で呼ばれている。ガーちゃんは昨日獲物を狩り取ったばっかりらしく、あまりエネルギーを消費しないために、今日は昼から眠っているようであった。木漏れ日を浴びて光輝くアイアントの甲殻や割れたビンを抱いて眠る彼女の姿は非常に愛らしく、アイアントの甲殻に場所を代わって欲しいくらいである。
「んー……何かしら、シュート?」
 俺はビンに入れた光の粉と、木の実をプレゼントとしてガーちゃんの縄張りを訪ねれば、彼女は眠そうに目をこすりながらこちらを見て、俺の名前を呼ぶ。アイアントの甲殻や刺されば痛そうな割れたビンを抱いて眠る姿は、非常に艶めかしく扇情的。そのビンの切っ先をものともしない彼女の分厚く丈夫な鱗、そして割れたガラスにも負けない鋭さが、彼女の魅力であった。彼女の緩やかな曲線を描く太もも、毛羽立った背中。切れ込みのない背びれのつややかなこと。彼女自身が光物であるかのような光沢をもつ、その魅力的な肢体に生唾を飲みながら、僕は単刀直入にここへ来た目的を語ろうと口を開く。
「……実は、今日はお願いがあってさ」
「何かしら、改まって?」
 真剣な面持ちになった俺から、まじめに聞くべきという雰囲気を読んでいるのか、ガーちゃんはきちんと座りなおして俺のほうへと微笑む。
「俺と、つがいになってほしいんだ! これ、そのために用意した贈り物!」
 と、言って、背中に隠していた木の実と光の粉を差し出して見せる。ガーちゃんはそれを食い入るように見つめ……そっと両の手でつかみ取った。
「素敵……混じりけのないきれいな光の粉……」
「君のために、洞窟の奥深くで見つけた物を、削って入れてみたんだ」
 ぼんやりと光を放つそれは、まだ穴倉の浅い所。光が届く箇所だから、それほどのありがたみは感じられない。しかし、これが穴倉の奥地であればその光の心地よさ、美しさは、思わず息をのむ程だ。光物好きの彼女ともなれば、それは一塩だろう。
「わざわざ、私のために苦労してくれたのね……嬉しい」
 そう言って、ガーちゃんは木の実には目もくれず俺の体を抱いて、そのごつごつとした魅惑のサメ肌を俺のサメ肌に押し付け、口づけをかわす。一気に俺の劣情が膨れ上がるが、耐えろ! 耐エロ! 耐えるんだ俺!
「ねぇ、私の縄張りの奥深くに、一緒に潜っていかないかしら? 温泉が湧いているから、その熱で生まれる光の粉の光に抱かれながら、私たち2人も抱き合わないかしら?」
「……それって要するに、つがいになってくれるって事?」」
「うふっ、もちろんよ。あなたの事、これがなくても好きだったし、これのおかげでもっと好きになれたし、それに……男だけじゃないのよ、今の季節苦しいのは……いいタイミングだったわ」
 一度口を離したガーちゃんだけれど、彼女は再び口づけをかわす。それも、ざらりとしたその舌を遠慮なしに突っ込んで、俺の味覚に自身の味をにじませる。方や日向を歩いて火照った体、方や洞窟の入り口眠っていて冷めた体。少しだけ低い彼女の体温と同じ温度の唾液が、舌の上で確かに異物と認識され、然しその異物の感覚が心地よい。
 普段はスリットの中に隠されていた、俺の暴れん棒は、すぐにでも行為に移りたいと自己主張を始めるが、ダメだ……せめて縄張りの奥深く、人目につかない穴倉まで移動してからだ。
 ぐいぐいと押し倒すような口づけに、俺の上半身は反り返り、体重は尻尾のほうへと移動していく。逃げているわけでもないのに執拗に押し付けるこのガーちゃんの動き、彼女もまた待ちきれないかのよう。鋭く並んだ牙にもまるで物怖じしない彼女の舌は、徐々に熱を帯びて俺の舌と同化するように同じ温度。一足先に一つとなった喜びを、嫉妬するように下半身はいきり立っていた。まだまだ耐えなければいけないというのが非常に辛いが、心は、それに比例して高ぶっている。
 立ち上がり、腰をかがめて口づけするガーちゃんと、座ったまま気圧されるようにキスを受け入れる俺。悔しいが、狩りの腕も喧嘩の腕もあちらのほうが上だから、主導権を握られてしまうのは仕方がない。押し付けるようなキスが剥がれるように終了すると、粘った唾液が口の周りにこびりついていた。それを舌なめずりで拭い取ると、ガーちゃんが甘い声で俺にささやく。

「こっちよ」
 と。あぁ、言われなくとも……と、立ち上がって縄張りである穴倉の奥に。すでに膨張しきってしまった暴れん棒を、じめじめした湿気の含んだ空気にさらす。温泉が出ている奥に向かっているせいか、非常に蒸し暑い。けれど、たぎった情欲を萎えさせるには。そんな暑さでは到底足りなかった。ガーちゃんは一足先に温泉に飛び込み、ぬるま湯の中に漬かって俺を手招きする。
 ざぶんと、水しぶきを立てて飛び込めば、顔に水がかかったガーちゃんが、顔に付いた水をヒレで拭いつつ、手ビレを使ってこっちに水をぶっかけてきたやり返そうと思っていたら、その間に距離を詰めていたガーちゃんが、スリットからいきり立つ暴れん棒を左手ビレでなぜる。しばらく洗っていなかったそれにこびりついた汚れをこそげ取るような手つき、サメ肌の特性を持つ彼女がなるべくとげのない所を選んでごしごしとこすり、洗い流してゆく。
 弱点をまさぐられ、下手に動けばサメ肌に弱い粘膜をえぐられそうなので、俺はその行動に身を任せるまま。弱く、不器用で無骨な刺激では、欲情はしても快感は得られず、劣情ばかりが募ってゆく。
「すぐにでも始めたいって感じだねぇ?」
「そ、そりゃあ、もう……」
「私もだよ? でも、こういうのはせっかくだから長い時間楽しまないとねぇ」
 腰をかがめながらの上目づかい。温泉の熱で温められて光を放つ粉に照らされた扇情的なその目の輝きが、怪しく俺の心を躍らせる。すぐにでも暴走してみたい気分は、彼女がペースを握っているがゆえに成就することはおそらくない。ただ、彼女の許可を待って耐えなければいけない。そんな心地よい地獄の時間。至福の時を今か今かと待ち構えるのは、辛いけれど嫌じゃない。
 ヒレでは満足な刺激を与えることは難しく。自身の短い腕を必死に届かせての自慰よりもずっともどかしい。寸止めのような意地悪をされないだけましだが、そのじれったさ、快感が快感と認識できないようなむず痒い刺激は、どうにも体に悪いようだ。温泉の熱で程よく温められ、鋭敏にになった感覚は、更なる刺激を求めている。こんな風にじれったいこすりつけではなく、もっともっと包み込むような、触れる面積が最大になるように。
「綺麗になったかしら?」
 なんて言いながら、ガーちゃんはお湯の中からヒレを出す。
「それにしても立派ね」
 ごしごし洗っているうちにいきり立ったものを見て、ガーちゃんが笑みを浮かべる。お湯に浸かったおかげで、お互い体温もいい感じに上がったところで彼女は立ち上がり、お湯から出て手招きする。そちらの方には、よく均された土の床があった。変にでこぼこしていないから眠るのにはぴったり、寒い季節になればここで眠れば体温も保たれるので行動しやすく、英気を養うにはもってこいの場所である。
 そこにたどり着いたら、ガーちゃんは横向きに寝ころび、こっちに来てと手招きする。背びれや足は横に投げ出され、その姿の色っぽい事。俺は向き合うように横たわり、2人とも横を向いたままに抱き合う。ぴったりと寄り添えば、固く鋭いサメ肌同士がこすれ合う、感触。ゴツリゴツリと固く無機質な音が、少しでも姿勢を変えるたびに起こり、その音の振動が体内に伝わる感覚がまた愛おしい。
 あぁ、抱かれることで満たされているのだなぁとしみじみと感じ、そうしている内にも、自身のゆっくりとした鼓動に合わせて揺れる暴れん棒。いかにサメ肌なガーちゃんの肌といえど腹の鱗はさすがにとげとげしくなく、しっとりとしたガーちゃんの腹に触れてこすれる暴れん棒は、まるで陸上グループの乳飲み子のように甘えている。収まるところを探して、鳴き声よりもやかましく俺に訴えかけてくる。
 抱き合って、キスをして。湿った空気の中で濡れた体、こびりついた泥の中で情欲にまみれ。しかしまだ本番は始まらない。キスをするその舌、眼で我慢が出来ないことを訴えても、ガーちゃんはそれに気づいていないかのように振舞うばかり。それどころか、執拗に下半身を押し付けてくるので、こっちとしては劣情が募るばかりである。
「あの、ガーちゃん」
 耐えきれず、俺は口に出す。
「あれ、シュートはもう耐えられない?」
「ご、ごめん」
「いいのよ。私だって我慢は辛いし……ただ、焦らしたほうがより激しく熱くなれると思って」
 もう、ウォーミングアップは十分すぎるほどだ。こちらは準備万端、ガーちゃんの方も匂いが普段とは全く違う雌の匂い。持ってきた光の粉がなくてもわかるくらいには、様子がおかしい匂いをしている。様子がおかしいといっても、もちろんそれは自然の摂理。子孫を残そうという本能が仕事をした証。つまるところ、ガーちゃんはすでに準備万端という事だ。
 今度のキスは激しかった。まるで食われるんじゃないかと思うくらいに大口を上け、鼻先にある黄色い模様を強調するように口を重ね合わせる。抱きしめる力は、木の枝を折り取らんばかり。ぎゅうっと締め付けられることで、彼女のしっとりとした腹に暴れん棒が吸い付いて、否が応なしに高鳴る鼓動、募る劣情。ドクンと脈打ったその感触、彼女にもきっと伝わったことだろう。
 息切れするくらいに激しく長いキスが終わり、さぁ本番だ。
 ガーちゃんがゆるゆると体制を変えると、ヒレを立てて四つん這いになる。バランスをとるための大きな尻尾を抱くようにして、はち切れんばかりの暴れん棒が彼女の中を目指せるようにお膳立て。確かな筋肉が封じ込められた尻尾を持ち上げてみるが、さて、俺の位置からじゃどこに突っ込めばいいのか見えないぞ。本能的にここまで来たが、同種族同士じゃないとここから感覚じゃがよくわからない。
 かといってそれを口に出すのもなんだか恥ずかしいので、適当に彼女の体を探ってみる。そうすれば、明らかに感触の違う場所があったので、そこへ力を込めて押し出せば。最初はよくわからない感触。触られた、圧迫されたという感触は、痛みや熱のように鋭く訴えるような感触ではないため、相当強く圧迫されたのでもない限り、理解するのには時間がかかる。
 ただ、全体が彼女の膣の中で揉まれそれを奥に押し込むことで、こすられ、圧迫される部位が変わり、反応したガーちゃんの体の脈動が伝われば、自分が今彼女を貫いていると実感するには十分で。あいまいな圧迫の感覚は、確かな快感を与えてくれる。
「だ、大丈夫?」
「ん、なんとか」
 体格差ゆえか、細身の彼女の中に挿入しても、それほど痛みはなかったようで。そういえば自分は初めて自分の暴れん棒に触れたときは、痛みに敏感だったなぁと振り返る。つまり、痛みに鈍感な彼女は俺と同じく自分で何度もやっていたのだろうかという邪推と、その光景が脳裏に思い浮かび、その想像がまたいい刺激になる。自分のために、というわけではないが、この日に備えて自慰のようなことをしていたのだと思えば、今日この時を迎えられた男として冥利に尽きるというもの。
 調子に乗って腰を引き、押し込む。その動作を行えば、1回や2回では感じ取れないくらいに積み重なってゆく快感の渦。
「ガーちゃん、どう?」
 しばらく夢中になって、ふっと思い出したように声を掛ければ、言葉ではなく甘い吐息が返って来る。しばらくそのまま続けていれば、絞り出すような声で――
「いいよ、もっと」
 の声。あぁ、こんなことを言われれば、男として攻めないわけにはいかず。洞窟の奥、甘い声と体が躍動し、叩き付けるような音を響かせながら、男の役目と女の役目を、ただひたすらに果たし合う。積み重なった快感は、やがて溢れそうなものとなり、決壊を目前に、俺は尋ねる。
「このまま、中に出しちゃっていいんだよね」
 そう尋ねれば、
「当……然」
 と、息も絶え絶えに答えるガーちゃんの声。2人は結ばれ、つがいとなったのである、その結果が子育てになろうと、何を恐れることがあるものか。俺は彼女の中に射精するべく、これまでで一番奥まで暴れん棒を押し込んで、彼女の奥深くに流し込んだ。痙攣する暴れん棒から、液体が流動していく。彼女の中に注いでいく。腹の中を満たされていく彼女は、粘液が漏れ出すたびに快感を受け取り、甘い息を漏らした。
「はぁ……幸せ」
 四つん這いのままにそっとつぶやくガーちゃんを、俺はそっと抱き占めた。
「俺もだよ」
 耳元でささやいた声が洞窟の中で反響する。いつまでも、いつまでも快感の余韻に浸っていたかった。

私、初めてなんですからもっと優しく、ゆっくりやって下さいってば! マジ痛いんです、いやマジでほんとに。 



( ^o^) クリス「さぁ、今度こそ男女のつがいで卵グループも同じだって聞きました!」
( -_-) 。o(どんな人たちですかねー? ドラゴン同士ですし、荒々しい感じなのでしょうか)
|住処|┗(^o^ )┓三┗(^o^ )┓三
( ^_^)→ ローズ「あ、言い忘れていたけれど2人とも特性はサメ肌よ」
【【【【【(ψωψ)】】】】】うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
「なんでそんな厄介そうな人たちばかり続くんですかぁ……」
 また痛そうじゃないですか! ですか!
「種族が違えばみんな厄介なものよ、クリス」
 諭すように先輩は言います。えぇ、分かりましたよ、やればいいんでしょうやれば。

「こんにちは! ニンフィアの縁結び、お待ちどう様です! こちら、縁人のクリスと申します。今日もばっちり縁を結ばせてもらいますよ!」
「付き添いのローズと申します。まだ未熟者ですが、これまでの仕事は問題なくできておりますので、温かく見守ってあげてくださいな」
 私と先輩とで、ぺこりと挨拶。うわぁ……さすがガブリアス、大きいなぁ。ドラゴンだからあんまり怖くないけれど、この閉所で地震を起こされらと考えると、ガブリアスはやっぱり怖いですねぇ。
「おぉ、こんにちは。かわいいニンフィアさんね。私はガーベラ・テトラ。ガーちゃんって呼んでくださいね。ローズさんとは花の名前でお揃いですね」
「どうも……俺の名前はシュートっす。えーと、クリスさんは男の子? 女の子?」
「縁結びに性別なんて関係ないので、性別は不詳です! 実際、性別がばれないように腹巻きまでしている人もいるのですもの、ニンフィアの性別を気にするなんて無粋ですよ?」
「おっとっと、悪かったね。ってことは。ローズさんも、女性に見えるけれど……」
「秘密ですよぉ。この見た目で男というのもなかなか味があっていいのでは?」
 ローズ先輩は額のリボンで口もをとかくし、妖しく笑いながら言って見せる。
「あはは、シュートが誘惑されそうでされなくっていいですね、そういうのも」
 ガーちゃんはおかしそうに笑っていました。しかし、そう言われると気になるなぁ……ローズ先輩の性別。まぁ、どっちでもいいか。
「客人をもてなす木の実やお肉もありますが……食べます? ゴンブトダイオウミミズの大文字焼きですの」
 そう言って差し出された、1.5cmはありそうな極太のミミズ。生でもクリームたっぷりでとてもおいしいし、焼けば口の中でとろりととろけるゼラチン質が非常に美味なのですが、それを食べるのは仕事の後にしましょう。
「いえ、すみません。仕事の後でお願いします」
「そっか、縁結びが終わったら一緒に食べましょうね」
 できれば、オレンの実が食べたいです! 割と切実に、その肌のせいで私のリボンが傷つきそうですから……。
「あらあら、どうしたの? 緊張しているの? サメ肌は初めてかしら? 大丈夫よ、力を抜けば痛くないから、
 多分」
 そのさりげなく付け加えた『多分』ってなんですか! 多分って!
「え、えぇ……まぁ」
「だーいじょうぶよぉ。私のお母さんも私と似た体で私を抱きしめていたんですもの」
 そ、それって、体の内側で抱きしめるんですよね? おんぶとかしないですよね? よね?
「そうそう、俺もおっかあの腹に抱きしめられたりなんかして、その時は随分寝心地が良かったりしたもんだ」
 だからそれ、ごつごつした背中は全く触れていないのですよね? ダメじゃないですか、私は背中も触れるんですよ? それじゃあ意味ないです、はい。そんな2人が知り合う前の思い出話から、やがて2人のなれ初めの思い出話へとシフトします2人が出会ったのは、親元を離れて新しい巣を探しに来た時の事。よさげな巣をほぼ同時に見つけた2人は、喧嘩相撲で巣を取り合ったそうです。
 がっつりと真剣勝負で戦えばガーちゃんのほうが強いのですが、『組み合ったまま、相手に尻餅をつかせたら勝利』というルールの喧嘩相撲では、線が太く重心も低く、なおかつ体重も重いクリムガンにはガブリアスでは勝てなかったようで(喧嘩相撲はオノノクスが最強らしいです)、ココロモリが使っていた温泉の湧く洞穴はシュートの物に。けれど、こうして出会ったのも何かの縁だと、シュートはその洞窟にマーキング(立ちション)をすると、ガーちゃんの住処探しを手伝ってあげたそうで。
 そうして、葉っぱを持ち帰ってはその温泉から立ち上る湿気と温度を利用してキノコ栽培をしていたアイアントの巣を乗っ取り、2人は晴れて巣を手にする事が出来たそうです。何でもガーちゃんの巣はシュートさんの住処よりも条件がいい場所だそうで、だからこうして縁結びはガーちゃんの住処で行うそうです。なるほど、その辺に散らばっているアイアントの甲殻は、かつての住人だったのですね。歴史を感じさせますね。
 住処探しをしている内に仲良くなった2人は、どちらかが不猟の時は食糧なんかを分け合うようになり、こうして今に至るとか。

「なるほどぉ、素敵な仲なんですねぇ……そちらの光の粉も、すっごく美しいです」
「当たり前だぜ、俺が苦労して取ってきたんだ」
「さぁ、そろそろ思い出話もいいでしょう。シュートと私に縁結びを! クリスさん」
「は、はい……どうも」
 すさまじく鋭い棘をあしらった肌。サンドパンのように長い棘よりも、短くすることでより折れにくく、そして鋭くを追求した棘の肌。それは、ひとたび触れれば相手の拳や爪を引き裂き、血まみれにさせる凶器。これを用いてドラゴンダイブを扱うガブリアスもいて、わざわざ肌をこすりつけ、えぐり取るような体当たりをかましてくるガブリアスの攻撃力は、筆舌に尽くしがたい。
 サメ肌のガブリアスはまさしく攻防一体の鎧なのです。あいにく、その特性を持っていると、砂嵐の時に砂をまといにくくなるため砂隠れの特性もなくなってしまうのだが、どっちにしても恐ろしい特性には変わりないそうで……。そして、クリムガン……力づくの特性は生かしにくいものが多いためにあまりあてに出来ないし、力づくの特性はオノノクスの劣化になりやすいですが、サメ肌は非常に強力です。特に個体によってはナットレイの頭蓋を帽子にしてツタ草で顎紐をつけ、頭部を守りつつ頭突きを強力にするゴツゴツメットなどという代物を被り、全身刺々しいドラゴンになる者もいて……そのクリムガンの恐ろしさはこの温泉島の全土に広がっておりますです。
 ドラゴンタイプは怖くない……怖くないのですが、あの刺々しい2人に触れるのは怖いです。割と切実にマジで。
 えぇい、それでも! あの2人の絆はきっと本物! 私が縁を結んであげなきゃ、他のニンフィア達に示しがつきません。縁結びの仕事はニンフィアの誇り、頑張らないと!
「すみません……貴方達自身が良くわかっていると思いますが、きっと貴方達の鋭い鮫肌で、私のリボンは傷つきます……」
「う、うん……それはごめんね? 私達もゆっくりと動くから……」
 と言うガーちゃんは、少々申し訳なさそうな顔をしていた。
「えぇ、そうして頂けると嬉しいです。ですが……」
「なんだ?」
 私の言葉に、シュートさんが首を傾げます。
「その分幸せになるって約束してくださいよ! 私、期待していますから」
「当たり前よ」
「保障するわ」
 2人が微笑む。その笑顔を見るだけで、ヤル気が漲ります。そして痛みに耐える勇気と、決意が熱く燃え上がります。
「ふぅー……」
 一度の深呼吸。
「やりましょう、縁結び」
 スマイルスマイル! 基本をおろそかにせず、頑張りましょう!

「では、お2人さん。向かい合って並んでください」
「はい」
「おう」
「今からリボンを巻きつけますので力を抜いてくださいな」
 2人が並び立ちます。先輩たちや、ローブシンが作ってくれた石像相手に何度も練習を繰り返してきた行為ですが、ギアルの時といい……非常に痛そうです。締め付けないようにやんわりとリボンを巻きつけて、できるだけとげが刺さらないように。
 まぁ、この状態ならばたいして怖いものでもないのですが、本当に怖いのは興奮した時。たまーにいるんですよね、臨戦状態になると全身の毛を逆立てるポケモン。この方たちの堅い鱗同士ならともかく、私のリボンは傷つくこと必至。口づけの際に興奮したりしなければいいのですが。
 ただ、そんな堅い鱗の中からでも2人の感情は伝わってきます。2人の間に流れるのは深い絆。肉欲とか、そういうのがないわけでもないのですが、それ以上に絆の深さに驚かされます。
 互いに食料を持ち寄ることで次第に絆を深めていったのでしょう、この2人ならばきっと夫婦として、家族としてもうまくやって行けることでしょう。
「お2人の深い絆、伝わってきます。貴方たちがどれほど互いを愛し合っているか、手に取るように……全身を冷たい水に浸からせて、それでいて呼吸が出来ているような、そんな心地よい気分。あぁ、まだこのお仕事を初めて3日目ですが、それでも……こうして仕事ができるのが誇らしく思えるような、そんなお2人です」
「だってさ。俺らいい夫婦みたいだぜ?」
「照れちゃうね」
 2人が会話をするだけで、感情の波は心地よく揺蕩う。その波に揺られながら、私は深呼吸。
「では、お2人さん。誓いの口づけをどうぞ」
 さぁ、ここでいよいよ正念場。2人がゆっくりと動くのですが、刺々しい肌はその下にある筋肉が動くたびに、感覚を狭め、または広げて、巻きつけたリボンを抉り、傷つけ、穴をあける。
 チクチクとした痛みが鋭い痛みに変わり、思わず歯を食いしばって耐え抜抜こうと必死になって。そんな私を気遣ってか、2人はゆっくりと緩慢な動作でした。2人が互いの肩に手を掛けます。痛みをこらえていると、肉球に嫌な汗がにじみます。
 ですが、ここは……ギュッと2人を抱きしめ、2人の愛の興奮を抱きしめ、閉じ込め、永遠に夫婦の物としてそこにあるようにしなければいけません。そのために力を入れる事、どれだけ痛い事か……でも、やるしかないのならば!!
 ギュッと2人を抱きしめてあげると、すでに悲鳴を上げる私のリボン。もう感情の波を感じることも出来ないですが、それでも何とか、声一つ上げずに2人の口づけを見守ります。
 長く分厚い舌。ざらついたそれを互いが口に含み、ゆっくりと飲み込み、踊るさまを黙って見続けます。肉球にぐっと力を籠め、歯を食いしばり、体が震えて今すぎにでもリボンを解きたいのをこらえて、十数秒。2人は理性を抑えて肌を毛羽立たせることなく、静かに口づけをしています。初めての相手を気遣って優しくしてくれていますが、それでも痛いものは痛いです……。
 やっとのことで2人の口が離れたのを感じて、ようやく力を緩めて安堵の息をつく。ズキズキと痛むリボンからはところどころから血が滲み、自分が先ほどまでやっていた行為を思いださせます。思えば無茶をしたものですね。
「これにて、縁結びの儀式は終わりです。2人の縁が、永久に続きますように、我らニンフィア一同お祈り申し上げます」
 痛みをこらえて礼をすると、2人からはありがとうの声が飛んでくる。リボンを巻き付けなくともわかる、感謝の気持ちのこもった声でした。
「そんなに傷つけてしまってすみません……こちらは、心ばかりのお礼です。6種の味を楽しめる、回復木の実セットですが……嫌いな味とかあります?」
「いえいえ、私はまじめでがんばり屋ですので、好き嫌いはありませんよ」
「では、これを」
 シュートが大きな木の葉に包んだ木の実を差し出します。オレンじゃないけれど、こういう回復する木の実はいろんな味が楽しめるので大好きです。なにから食べるか迷っちゃいますね。


「どうでした、ローズさん。私……上手くできましたかね?」
 2人の住処を後にして、私は今日の一連の流れに粗相がなかったかを先輩へ尋ねます。
「痛かったでしょう? それでもぐっと耐えている顔にそそったわ」
「そそらないでください!」
 私は肩をすくめて引きます。ローズ先輩はカラカラと笑いました。
「正直に言うと、よかったわよ。あんなに痛いのに、文句を一つも言わずに……貴方は優秀ね、これからもがんばりましょう」
「はい! もっともっと、頑張ります!」
 いまだリボンの傷は痛いけれど、木の実のおかげで傷は癒えつつありますし、もっともっとこのリボンを過酷な相手にも慣れるようにしませんとね。

量は多いから選び放題 



 エモンガに生まれた僕は、空が好き。木の実を集めておなかいっぱい食べられた日は高い山に繰り出したりなんかして、吹き上げる上昇気流に乗っていつまでもいつまでも滑空飛行していたものだ。そうして培った飛行能力は、誰にも負ける気がしないし、肉食のポケモンが僕を空中でとらえようとしてきたところで、身をかわし、逆に電撃で痺れさせてやる事なんて朝飯前である。
 小さいからって甘く見ている奴には手痛いお仕置き、体が大きいだけのでくの坊なんて、僕は軽くあしらってやる。世の中、飯をたくさん食べて運動をたくさんして、たっぷり眠った奴が強いんだ。それを忠実に実行している僕が、負けるところなんて想像できないね。そんな自信に満ち溢れた態度と、その態度に見合うだけの実力。たくさん食べているおかげで見た目も良いので、僕は異性に恵まれていた。

 だがしかし、僕はエモンガ同士の結婚では満足できない。ピカチュウやパチリスとの縁談もあったが、それもダメ。僕の情欲は一切刺激されることはなかった。
 僕は、変り者だった。どれくらい変わり者かというと、それはもう好みの異性の話をすれば友人がドン引きするくらい。僕の好みは、もっと高尚なものだ。それは、アイアントだ!
 あの美しい金属光沢。そして、この温泉島にいおける人口比率において最も上に位置する繁殖力。何よりあの鋭い顎が、僕の感性を刺激する。あぁ、あの顎のなんと美しい事か。歩く際になるカチカチという音は聞いていて心地よく、太陽の光を照り返せばまぶしく光るあのボディ。
 他の虫タイプのポケモン達と比べても、一段上の光沢はなんといっても魅惑的。光沢自体はシュバルゴやハッサムにも言えることかもしれないけれど、サイズが近いほうが安心するのだけは、縁談を持ちかけてきたやつらに同意だ。あぁ、アイアント……麗しき虫タイプのポケモン。彼らは人口が多い……ゆえに、僕と似たような性癖を持つものだっているはず! 僕のように、エモンガを愛するアイアント。何とも甘美な響きではないか。
 そんなものがいれば、僕たちは間違いなく相思相愛になれると確信している。相手が性別にこだわりがある場合は残念だが、どうせ卵グループも違うのだ、僕にとって性別のこだわりなどない。この広大な面積を持つ温泉島ならば、一匹くらいはいるはずだ、エモンガが好きなアイアント……もう僕もそろそろ嫁探しを始めていい年である。この飛翔能力を生かして、颯爽と嫁探しに出発しようではないか!

 そんな気分で意気揚々と始めた嫁さがし。最初は住処を離れることに恐怖心はあったものの、旅から旅へのその日暮らしも悪くない。毎日が違う景色、いろんな地形を楽しむ事が出来るし、果樹園を作っているボスゴドラの縄張りから収穫をくすねるのも刺激的で楽しいもんだ。満腹になったところでようやく気付いたおまぬけなボスゴドラの追跡を振り切って山を下り、アイアントの巣を探して北へ南へ、東へ西へ。
 時折獲物扱いされて、アイアントに狩られそうになることもあるけれど、そんな手癖の悪いアイアントを嫁にするのはごめんだ。僕と同じく変り者のアイアント以外は、眼中にないのさ。

「ねぇ、君がアイアントが好きっていう変り者のエモンガ?」
 ある日、木の枝の上で昼寝をしている最中に、僕に話しかける声。この金属製の顎をカチカチと鳴らしながらしゃべる声は、まさしくアイアント。
「そうだよ、君も変り者かい?」
 変り者であることを期待して尋ねてみる。
「えぇ、そんなところ……エモンガだけってわけじゃないけれど、エモンガも好きだよ……」
 えへへ、とばかりに照れた様子でアイアントは言う。
「……なんて言っていいのかわからないけれど。変り者同士……興味を惹かれちゃってね。君は、アイアントのどんなところが好きなの?」
「おぉっと、それを語り合うのもいいけれど、まずはお互い自己紹介といこうや。僕の名前はエレン。君は?」
「アイラよ……貴方の名前はエレンね、覚えたわ」
「アイラかぁ……なるほど、僕も記憶したよ。そうねぇ、さっきの質問だけれど、あの金属光沢とか、ボンキュッボンなあの体型とか。その顎も魅力的……真っ赤なじと目の可愛らしさは息を飲むほどで。その目で見つめられたら、僕はもう抱きしめてしまいたい気分になってしまう」
「こんな風に?」
 僕の言葉に合わせて、エモンガは僕の方を見る。いや、見つめると言った方が正しいか。その視線が真っ直ぐに僕の方へと向かい、心臓を射抜くような熱い視線。見つめられたら、それだけでもとろけそうな気分になるというのに、相手は上目遣いまで駆使して僕を悩殺する
 あぁ、このままメロメロになってどこまでも落ちて行きたいと、それくらいの興奮を僕に与えてくれた。
「なんて魅力的な視線なんだ……甘く、官能的で、それでいて優しい。そんな視線で見つめられたら沸騰しちゃうよ」
「あらあら、でも貴方もまた素敵ですよ? そのまんまるのほっぺ、思わずつつきまわしてしまいたいくらいに可愛らしくって、その真っ白い毛皮も柔らかそう。あたしたちアイアントには無い柔らかさ……抱きしめたら柔らかそうで、気持ちよさそう。
 それだけじゃない……貴方の飛膜、その垂れ下がった皮膚の滑らかそうな肌触り……生まれてから一度でいいから触ってみたくって……その、いいかな?」
 アイラは先程と同じ上目遣いで、もじもじとしながらもしっかりとこちらを見据える。そんな目で見られてしまったら、男として応えないわけには行かず。まるで捕食されるような体勢で覆いかぶさられ、しかし喰われることはなくその至福を味わった。

 いわゆる一目惚れの相思相愛という奴であった僕達は、まずは見た目や手触りと言った、外見的なものから好きになった。変わり者同士お互いがお互いに寛容な部分は寛容で、アイアントとエモンガで食べる物も、睡眠のとり方も足並みが揃いにくいが、それをお互い妥協しあう形で上手く付き合っていく。
 会えば、いつものように下らない話題、抱き合ってその感触を確かめ合っては、互いの種族にあって自分たちの種族には無い部分を味わいあった。紛れもなく幸せの日々、同棲して、それで互いに不満や喧嘩がなければ結婚しようなんて、冗談めかして言い合っていたのも今となってはもう過去のこと。
 幾度となく繰り返されたじゃれあいは、いまや行くところまで行き着いていた。昨夜ようやく結婚を誓い合った僕らは、穴を掘って作った急ごしらえの隠れ家にて、そっと体を重ね合わせている。これをやってしまえばお互い依存してしまうと言う事がわかっているから、自分達の相性を長期間確かめないことには踏み込まなかった領域。
 どうせ子供は出来ないのだとわかっていてもお互いが依存して、分かれたくても別れられないような泥沼状態を作らないために、この行為にいたるまでは慎重に仲を深めてきたけれど、そろそろいいだろう。僕達ならば、この先ちょっとやそっとのことじゃ仲たがいはするまいと、そう確信できるくらいには僕たちも時間を重ねてきた。
 そうして時と共に募る思い。どうしようもなく相手の体を求めてしまう本能と、そうでない異常な性癖の混ざり物。けれど、愛があればこそしたいと思う欲求だ。ここまで来るのに月が何度も満ちては欠けた。どれだけ相手の体に触れたとしても、お互いの約束で一線を越えないと誓ったため、非常にやきもきしたものだけれど。
 今は、狭い室内で僕とアイラが2人きり。あまり光は差し込まないから、見詰め合う2人の顔は影がさしているけれど、2人のう初心な心が最大限に高潮しているのが分かる。これから行われる行為に照れを隠せず、快感への期待に浮き足立つ体を隠せず、滾る期待は行為を前にして、すでにその象徴に準備を行わせている。
 狭い穴倉の中、僕はいつものように彼女を抱きしめてるだけだというのに、約束してしまったその内容が内容なだけに、心も体もいつものようにとは行かない。
「もう準備万端なの?」
「まぁね……」
 テレながらも口にして抱きしめ、頭をなでる。アイラは僕の柔らかな手でなでられるのが大好きで、それをしてあげると、いつもご機嫌そうに頭を寄せて甘えて来る。今日の彼女はご機嫌以上の感情表現で、僕の体に圧し掛かり、マーキングのためのフェロモンがたっぷりと詰まったおしりを摺り寄せてくる。
 仲間へと餌のありかを伝えるためのそのフェロモンは僕の体の上に滴り、まるで僕が餌だとでも言いたげだ。地表近くの蒸された土の上でそのフェロモンは揮発し、むせ返るような香りの穴倉の中。
 キスすら難しい鍬形の顎をアイラは賢明に僕の中に押し込んでゆく。無言のまま、差し出されるに応じてそれを受け入れると、広がるのは血の様な鉄臭い味。口の中に広がるその味を舌で、顎で揺らして混ぜてしっかりと味わう。ごくりと飲み込んでその喉越しを味わえば、アイラの思いが伝わってくるようであった。
「ねぇ、もっと強く抱きしめて」
「う、うん」
 でっぷりとしたおしりをこすり付けられて、あまえた声で擦り寄られ、こちらのほうとしては我慢が限界。短い手足でアイラを抱きしめ、顎に噛み付くようにしゃぶりついた。アイラの顎はとても硬くて、一度かじりつけば木の枝どころか骨も、角もひとたまりも無いだろう。その顎が、殺意も何も篭らないままに僕の思うがまま、されるがままに任せている。
 こんな幸福他にあろうはずも無い。硬い顎の鉄の味をかみ締め、舐め回し。彼女を自分のものだと刻み付けるような舌使いで味わう。彼女も感じているのか、いつものようにあまえる仕草にもずっと熱が入っている。
 やがて、前哨戦を終えた僕達2人は黙ったまま抱き合い、その体の感触を感じあう。そのまったりした時間もあまり長くは続かず、あくまで小休止。次へ移るための準備に過ぎない。休んで呼吸を整え、そうすれば後は求めるままに乱れてしまえばいい。彼女に圧し掛かられる体制から脱出して、心地よい圧迫感から開放されれば、少しだけ伸びをして体の血流を整える。
 今まで悪かった血の巡りが一気に良くなるのを感じて、全身に生気がみなぎる気分だ。そうして僅かなリフレッシュから今度は僕がアイラの後ろに回る。
「いいよね、アイラ?」
「うん、大丈夫……」
 子作りではなく、子作りの真似事でしかないけれどお互いを満足させるだけなら出来る。アイラには僕の雄の象徴を受け入れる場所は無い。もちろん、虫同士で交尾をする以上、精液を受け入れる場所はあるけれど、どうも虫タイプのポケモンには僕達のように分かりやすい雄の証も無いようで、そのため雌も深く差し込むような場所が存在しない。
 けれど、それならそれでこすり付けるだけでもあっちは快感を得られると言うこと。出来ることなら彼女の中で果てたい僕としては、そこに関しては不満だけれど、そればっかりはアイアントを愛してしまった以上仕方ないことだ。
 彼女の大きくてセクシーなおしりを、皮膜で包み込むようにして抱きかかえ、ぴったりと寄り添う。いよいよ行為を目の前にして、昂ぶった僕の雄の象徴は、すでに腰が砕け暴発してしまいそうだ。このまま、僅かな刺激で達してしまうのは男として非常に格好悪い事になってしまいそうだが、だからと言って心を落ち着けようにも、目の前にいる女性を見てしまえば、落ち着きなんてものは空の彼方だ。
 溢れかえるような快感を今か今かと待ち望み、振るえ、決壊しそうな男根をアイラに押し付ける。蟲同士の交尾に使うその割れ目はすでに火照っており、金属特有の熱の伝わりやすさで、僕の雄に熱を委ねる。押し付け、こすり付けるとその硬さゆえに、まるで石を相手にしているかのようだ。けれど、割れ目からかすかに覗く彼女の肉が、甲殻の硬さの中に、一部分だけ肉の柔らかさを与え、それが天にも上る気分で心地よく。
 軽く押し付けて往復しているだけでも、もう収まりはつかなかった。興奮して、すでに触れられる前から限界寸前だった僕は、すぐに達してしまた。全身の力が抜け、腰を押し付けて快感を最大限に得ようとする体勢。
 お互い体は小さいし、鋼タイプのアイラに比べれば僕の体重は軽いから、そこまで負担破瓜からなっただろうけれど、ずいぶん遠慮無しに体重をあ受けてしまったものである。
「早いなぁ……まだ満足していないよ?」
 覆いかぶさったまま余韻に浸っている時間、無言だった僕に、挑発的な視線を交えてアイラが言う。煽情的な流し目、すぐには無理だけれど、しばらくすればまだまだ頑張れる。でっぷりしたお尻をなでて、もっともっと相手の気分を高めてあげて、今度こそ絶頂まで連れて行ってあげられるように頑張らねば。
 そうして、僕らは乱れ、何度も体を求め合った。土ぼこりの舞う急ごしらえの穴倉の中で、フェロモンや雄の香りを撒き散らしながら、何度も何度も。
 疲れ果てて眠った僕らは、今まで最も深い眠りだと思えるくらいに、目覚めるまで時間が掛かっていた。

もう驚きませんよ 


 立て続けに一癖も二癖もあるような人たちと出会いましたからね、もう驚きませんよ。今、私達は山肌に作られた穴倉を出て、白日の下で会話をしております。昨日のシュートさんやガーベラ・テトラさんのように、集団生活をしていたアイアントの巣ではなく、2人暮らしで丁度いいサイズなので、私たちニンフィアは這ってようやく通れる程度。それでは縁結びの儀式も出来ないので、こうして外で行う事に。
 小さな2人組、なんだか今では見下ろす身長になってしまったイーブイの弟を見ているみたいで微笑ましい気分になります。私もこんな風に、兄にとっては可愛らしい*****3だったのでしょうかねぇ?
 ここまで小さく、そして小さい分成長も早いのでしょうか、3歳と言う若さの2人を縁結びするというのは初めてなので、なんだか不思議な気分です。若い子を体験したという事は、いつかはは老夫婦とかの縁結びをするのかなぁ、そういうのも早く体験してみたい気分ですね!

 今回の依頼人はエモンガとアイアント。タマゴグループが違いますが、へへーんだ。別にギギギアルとかサメ肌コンビみたいに痛くないからもう大丈夫だもんね。暑くも無いし毒も無いし、冷たくも無い。何の問題もありませんとも、えぇ。もう開き直りましたとも、えぇ。
「ふむふむ、お互い、自分たちの種族ではなく、自分たちにないものを持っている種族に惚れたと言うことですかぁ。いいですねえ、確かに、身近にないものというのは魅力的に思えるものです。
 かくいう私も、小さい頃から恋愛に興味はあっても、その興味を満たすような相手とはまったく出会えませんで……いつか貴方達のような素敵な恋をしてみたいと思いつつも、この年になっても色恋沙汰の一つにすらめぐり合えない恋に恋するような状況なのです。
 そういう意味では、貴方たちのように、見た目から内面までその人をどっぷりと好き気に慣れるということはとても素敵です、憧れます」
「へぇ、ニンフィアの皆さんもやっぱり自分の恋愛はしてみたいのですか? あぁ……でも、貴方の性別は……」
「不明です!!」
「ごめんなさいね、不明と名乗るのが縁人の鉄の掟なの」
 アイラさんからの質問に対し、私とローズ先輩は元気よく答えます! そう、不明です!! ニンフィア以外の全ての進化系が揃った、見栄えのために将来を捨てた馬鹿共が跳梁跋扈するブイズ7人兄弟姉妹の男女どちらからも好意をもたれているので、不明でも構わないはずですから!
「不明かー……確かにどっちか分からないけれど。でも、そんなんじゃあんまり異性が寄りつかないんじゃ……」
 エレンさん、鋭いところを付きますね
「あー、それなんですけれど、もう性別無しのカップルとか、同性のカップルとかでもすばらしい仲になれる事が分かったので、どうでもいい気がしてきました。まだ3件しか依頼はこなしていないですけれど、先輩達から話を聞いた限りじゃ、珍しいことじゃないみたいなんで……」
「へぇ、思い切ったものだねぇ。クリスさんもいつか素敵な恋人が出来るといいね。それが彼女か彼氏かは分からないけれど」
「はい、頑張って探します! 私も、皆さんのように素敵な恋をしてみたいので!」
 励まされると、なんだかとってもヤル気が出ますね!
「さて、そろそろ縁結びの儀式を始めましょうか!」
「頑張りなさいよ、クリス!」
「よーし、それじゃあ――」
 次の瞬間、アイアントがムクホークに浚われました!
「いーよっしゃぁぁぁぁぁ! 明日の縁結びに向けて幸先がいいぜぇぇぇぇぇぇぇ(ドップラー効果による低い声)」
「あ、あー……」
_人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人_
> 縁結びの儀式の最中だと言うのに、誰も予想だにしない突然の展開!! <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
「おー……縁結びの儀式を間近に控えたポケモンは、縁結びの儀式に臨む鳥ポケたちにとっては縁起物だからねぇ。いやぁ、幸先がいいことね、あのムクホークも」
「それ以前に何か言う事があるでしょうがぁぁぁぁぁ!」
 ローズ先輩は暢気すぎます。まずは慰める事が先でしょうが!
「さてクリス。帰りましょうか!」
「ちょちょ、ちょっと! 帰っちゃって良いんですかこれ!? ローズ先輩! まずはエレンさんを慰めたほうがいいんじゃ……」
 エレンさんに目をやれば、呆然としたまま妻が連れ去られた方向をずっと見ている。
「クリス。世の中、弱肉強食なのよ……私も貴方も、こうして縁人となることは、身を守る一つの手段といえる。縁人のニンフィアを襲ってはならないという不可侵条約がこの島にはあるからね。
 それに、あれは『幸福略奪』という文化で、鳥ポケモンにとって一つの試練! 『こうしてアイアントを浚ったということは、さっきのムクホークは明日、私達の客となるということ。彼女を取り戻したいなら、尾行しなさい、エモンガ!』 と、落ち着いてエレンさんに言うべきなのよ、クリス。
 ふふ、入って4日目のあなたにはまだ刺激がきついかもしれないけれど、仕事に慣れないといけないわよ。これからこんなことは何度でもあるのよ、先輩が言うのだから間違いないわ! 
 ともかく、あのアイアントは明日の縁結びの儀式が終わるまでは生かされているけれど、それが終わったら私達の胃袋よ!」
 あー、もう……アイアントの味は嫌いじゃないですけれど、幸せの絶頂のアイアントを食べちゃうのは気が引けますよぉ……というか。人口が多い分、アイアントの被害が多すぎな気がしますねぇ。
「く……明日までは生きているんだな?」
「えぇ、あのムクホークとの一騎打ちよ! それで返り討ちにあえば、貴方も仲良く胃袋の中で鳥のついでに縁結びよ。助けるために向かうならば、覚悟しなさい」
 と、ローズ先輩は毅然とした態度で言う。さすが先輩、手馴れている……っていうか、あの口ぶりだとほかにもさらわれたポケモンがいるって事ですよね。縁人の世界は奥が深いですね……と、ともかく……今日は帰って明日まで待つしかないですね。
 

少なくとも無垢では無い 


 気付けば俺もいい年になっていた。最終進化系になってムクホークとして第3の人生を歩んでいたが、そこから先、俺には彼女と言うものが一切出来なかったのだ。
 そりゃ、要領が悪くって、いつも肉食獣の食べ残しを漁っている俺には確かに魅力が無いかもしれないけれど……他の残飯漁りが到着すればすぐ尾羽巻いて逃げ出してしまうのは格好悪いかもしれないけれど、それを面白おかしく噂にして、俺を避けるなんて酷いじゃないか!
 全てはおしゃべりなペラップが広めたことだけれど、真実だから異議はたてられないし、それにそのペラップは各地で色々恨みを買っているけれど、渡り鳥だったというオオスバメの彼が怖くって誰も手を出せない。人間が遺した火炎珠という道具で自発的に火傷状態になる彼氏の強さは相当なもので、今は寒くなっても南の地方に渡らずに、温泉が近くにある地熱で暖かい場所に巣を設け、愛人のペラップと一緒にのんびりしているのが憎くてたまらない。
 けれど、口出しできない俺は、ヘタレムクホークのレッテルを貼られたままに、卑屈になって生きるしかなかった。

 そんな僕にも、チャンスは巡ってきた。例のオオスバメと同じく、渡り鳥であるスワンナの女の子。ここなら温泉のおかげで冬でも寒くないから定住出来るかもしれないという噂を聞いて、この湖に降り立ってくれたのだ。いくつかの仲間を引き連れて降り立ったスワンナの集団には、当然俺のヘタレな噂は広まっておらず。
 一人、気弱でおどおどした感じのスワンナを見つけた俺は、思い切って話しかけてみる。
「定住したいの? だったら、いろいろな場所を知っているよ」
 僕は、逃げ回ったり隠れたりしているうちに、よさげなところはいくつか見つけている。温泉が近くにあって、冬でも暖かく過ごせる場所。餌となる水草が抱負に生えている湖。それらの場所に案内をしてみると、彼女は眼を輝かせて素敵な場所ですねと笑ってくれる。あぁ、なんという……天使のような笑顔。純白の羽毛が輝いて見える。
 けれど、そうやって数日かけて親密になったつもりが――
「ごめんなさい、私達のリーダーが、ここじゃ餌が美味しくないからって……」
「え……」
 何でも、彼女が言うにはスワンナたちの中でも、リーダー的な存在である男が、食料が気に入らないからこの温泉島はダメだというらしい。季節に応じた食材を季節に応じた場所で食べる至福は遠くまで飛んでいく労力に見合うだけの魅力はあるのだという。
 で、リーダー曰く……別にここに残る者たちには、ついてくる事を強要はしないとのことだが、他のスワンナが一切いないこの土地で暮らすのは何かと不安だから、私も一緒にリーダーについていきたいとのこと」。
「いや、それなら……俺と一緒に暮らさない? ルインちゃん」
「で、でも……実際、ここはあんまり私の好みの食料は少ないし、それに……小耳に挟んだんだけれど、ヘタレムクホークのレオンって、貴方のことよね……?」
「……う、うん」
 かなりの長い無言を挟んで上手い言い訳を考えたが、結局浮かばず。むしろこの間のせいで、言い訳を考えていた不誠実な男に思われてしまったんじゃないか?
「頼りになる人と一緒ならともかく……私は、なぁ……えーと、ヘタレと一緒に暮らすのは不安、かな?」
 ヘタレって言われた。ハッキリといわれた! せっかく新しく来てくれたこの群れならば、言われないと思ったのに……飛行できるポケモンは縄張りが広いから、噂話も島全土に伝わって困る……なんてレベルじゃないぞ。

 ただでさえ俺は同級生や兄弟の仲で、もう童貞なのは俺だけだと嘲笑されているんだ。今度こそ卒業するチャンスだと思ったのに……これじゃあ。今度同じような集団が来たとしても、同じような結果が待っているってことじゃないか。自分がこの子についていくというのもありだけれど、俺は寒いところは苦手だし……こうなったらなりふりは構っていられなかった。
「お願いだ!」
 前方へ向かって大きく突き出した自慢の前髪を地面にこすりつける勢いで土下座する。
「別れるだなんて言わないでくれ、俺は生まれてこの方、全然彼女が出来なくって、未だに童貞なんだ」
「え、えーと……そ、そんな事を言われても、なぁ。私は……その、不安じゃなければここで暮らしてもいいんだけれど……そういえば、この島にはなんか変な風習があったのを聞いたわ。
 たしか、縁結びを目前にしたカップルをさらって、そいつを倒すことで力を示すのが最近の鳥ポケモン達のトレンドだって。確かそう……そうやって嫁のハートを射止めたっていうヨルノズクが言っていたわ。それで強さを証明してくれるなら……ヘタレじゃないって証明が出来れば、それでいいかも」
「わ、分かった……やる、やってやる!」
「嘘でしょ!?」
 いや、その反応はなんだよ……
「噂じゃヘタレオンはパラセクトからも逃げ回るレベルのヘタレだからこう言えば諦めると思ったのに……」
 いや、事実だけれど酷いよ。誰、そんな噂流したの……
「こんな時に限って何で勇敢を気取っているんですか、レオンさん。大体、本当にそれをやったら可愛そうですし……」
 ちょ、酷い! 俺そこまでヘタレだと思われているのかよ……
「いやいやいや、自分の言葉には責任持ってよ!」
「えー……わかりました。物凄く嫌ですけれど、そうしてあげます」
 酷い物言いだよ……はぁ。
「よし、約束だからな!! それと……その、アレだ……俺も、色々餌場とかに案内したんだから……一回でいいんだ、やらせてくれ!」
「え、え、え? そ、そんなの聞いていないよぉ……」
「分かってる……筋違いかもしれないけれどさ、このチャンスを逃したらもう、俺は一生童貞かもしれなくって……」
「うーん……そ、それは可哀想ですけれど……」
 ルインちゃんは悩んでいる。もう一押しだ……。
「もしかしたらさ、ほら……さっき言っていたトレンド、幸福略奪っていう文化なんだけれど……それで、悪くしたら死ぬかもしれないし、そのために一回だけでも……経験しておきたいし」
「うーん、わ、分かりました……でも、一回だけですよ? その、今は卵が出来る季節じゃないからいいですけれど、やっぱり色々不安ですし……」
「分かってるよ……縁結びの儀式をしない限りは、それでいいさ……」
「うぅぅぅ……でもなぁ……いや、でも確かにここまで案内してくれたんだから、断ると悪いし……」
 スワンナ仲間から聞いた限りじゃ、ルインは頼まれたら断れない性格だと聞いたが……なるほど、その通りに頼まれたら断れない性格のようだ。今も、彼女は眼を逸らしながらおどおどとした態度を取っている。
「大丈夫……優しくするから」
「ぜ、絶対ですよ……乱暴にしたらこっちも本気出しますからね……」
 やった……これで念願の童貞卒業だ。もうプライドとか何でもいいから、頼んでみるもんだなぁ。よし、明日からも何とか頑張れそうな気がしてきた!


 そういうわけで、俺の巣までルインを引きずり込んだ。今でもまだおどおどしているが、この子、処女なのだろうか……ヤバイ、処女と童貞じゃどうすればいいのかいまいちわからんぞ。
 ま、まぁ……俺の視力はとってもいいから、遠くのポケモンを覗いてどうすればいいのかは半分くらいはわかっている。だから大丈夫、きっと大丈夫なはずだ。
「まぁまぁ、羽を休めて力を抜いて……」
「は、はい」
 体はまだガチガチに固まっている。ルインは緊張しているのだろう……まずは、それをほぐしてあげなきゃダメだよね……ど、どうしよう? と、ともかくそっと抱きしめてあげよう。
 黙って抱きしめると、ルインは震える呼吸を整えるように黙って呼吸をしている。待てよ、いつまでこうしていればいいんだ……これで相手が恋人とかなら、相手がこう、俺の胸に顔を寄せてきたりとかするんだろうけれど、俺らまだそういう関係になってきてないし……えーと、うん。
 ちょっと強引に顔を寄せてみると、少し嫌そうに抵抗したけれど、俺の胸にすっぽりと収まってくれた。けれど、彼女のほうが背が高いから、かなり首を傾けているし……なんか情けない。ただ、俺の胸は自慢の胸。腐ってもムクホークだから、胸板の厚さには自信があるんだ。鍛え上げられた胸筋に、それを彩るもさもさの羽。
 はと胸のルインだけれど、俺だってそれなら負けていない。だけれど、ルインは本当に体がガチガチに固まっている。うーん、本当にどうしようか……
「あ、あの……キスでもしないかい?」
「えと、その……レオンさん。もうそういうのいいですから、早いところ終わらせちゃいましょうよ」
 ……絶句した。いや、ね。陸上グループや怪獣、ドラゴンあたりはこう、アレだ。俺らには無いチンコとか言うものを持っている。アレはいろいろ恥ずかしそうだし、女性は痛そうだし、大変だなぁとは思っていた。俺達にはそんなものが無いから女性を痛がらせることなんてない……と、自慢げに兄弟が語っていたのを思い出すが……痛がらない分、女性が時間をかけてくれないというデメリットがあるとは!
 えぇい、もうままよ……言われたとおり早く済ませてやろうじゃないか、この野郎。俺はルインの後ろ側に回ると、その総排出孔を探り当て、俺の総排出孔と重ね合わせる。普段は触れることのないその部分の、なれない感覚を頼りに探り当てる。苦労したが、目視で探り当てぴたりとくっつけてみれば、彼女の鼓動が感じられる。
 なんだかんだいって、緊張している分普段よりも感覚が敏感になっているのかもしれない、ビクリと体を震わせる仕草は……うん、警戒されているんだな。もう悲しいけれど、それでいいよ。ぐいっと互いの孔を押し付けると、それに応じて高まる快感。
 小刻みに揺らして、射精をせんと刺激をしてみれば、あっという間に僕は絶頂してしまった。
「あ、あの……終わりました?」
 ルインは全然楽しそうじゃないし……どうせ俺はもてませんよ、もういいよ……
「終わったよ……ありがとう、最高だったよ」
「はぁ……どうも」
 ルインちゃん全然嬉しそうじゃないよ。もう無理して『どうも』とか言われても半端に俺が傷つくだけだこりゃ。はぁ……

さぁ、決戦です 


 そんなこんなで、たどり着いたムクホークの巣。こんな山奥に巣を作りやがって、まったく……エアームドの運び屋さんにおせわになっちゃったじゃないですかぁ。
 この戦いで負けてしまえば、2人とも仲良く胃袋の中と聞いて、エレンさんの顔は自然と険しくなってしまいます。自身の力を高めるべく、彼の持ち物はダゲキから預かった達人の帯。腹に巻くと飛行を阻害してしまうので、頭に巻いて鉢巻代わりにして、目指すは勝利。
 相手は有利なタイプとはいえ何倍も大きな相手です、エレンさんは勝てるでしょうか?
 ローズ先輩が言うには、どちらが勝利しようとも、私達ニンフィアは縁結びの儀式をしなければいけないそうです……うぅ、幸せそうな2人を殺す事になるムクホークを、私は素直に祝えるかなぁ? なんというか、縁結びの儀式に迷いが生じそうな気がしてなりません。
 ただ、どんな奴が相手でも、縁結びをするのが私達の仕事。それを破るわけには行きませんね! ローズ先輩や、他の先輩もこういったことは何回か体験しているらしいので、私も試練だと思って乗り越えませんと! ファイトだ私、頑張れ私!

「ここが指定された住処よ! 幸福略奪に抗うつもりなら、頑張りなさいよ! 私はここで見ているから」
 巣の目前まで飛んで降り立つと、エアームドのおばさんは翼を広げてさわやかに声を掛けてくれます。応援してくれるのは嬉しいですねぇ
「エアームドのお姉さんは、鳥仲間よりも僕を応援してくれるんですか?」
 エレンさんが尋ねます。確かに、そうですねぇ……同じ飛行グループの肩を持つかと思いきや、驚きです。
「あー……アタイら達鳥の仲間の中でも、あの文化を嫌っている奴は多いのよ。何も幸福の真っ只中にいる小さなポケモンをいたぶるわけだもの。アタイらも肉食だから、えらそうなことは言えないけれど、流石に新婚さんを食べようってほど、仁義を失っているつもりは無いわぁ」
「そんな野蛮な文化を考えたのは誰なんですかねぇ」
「大方持てない男じゃないの? 強さは男の重要な要素だけれど、それでしか男の価値を示せない、哀れな奴よ」
「ふん、逆に俺が強さを証明してやる」
 憎々しげに、エレンさんが吐き捨てます。闘志はばっちり、これならきっと負けませんね。

「おい、ムクホークの野郎! 来てやったぞ、俺と戦いやがれ!!」
 怒気に満ちた声を響かせ、エレンさんが吼えます! エアームドに乗っていた私達を見ていたムクホークは、急降下してエレンさんの前に立ちはだかりました!!
「そんな小さな体でいきがっているんじゃねーぜ、エモンガの野郎」
「大きな体で勝負に挑む貴方も相当ダサいと思いますが……」
「クリス、本当の事を言っちゃダメよ。本人もきっと自覚しているんだから、可哀想でしょ?」
「あう、ローズ先輩……すみません」
「縁結びのニンフィアは黙ってろよぉぉぉ」
 ざんねんなこえをだされても、訂正はしないですよ!
「煽り体勢ないぞーヘタレオン! どうせ返り討ちにあうから今のうちに謝っちゃえよー」
 おや、エアームドのおばさんはこのムクホークの事を知っているのですね、へぇ、このムクホークヘタレなんだ。
「エレン……負けないで!」
 巣の中からは、アイラちゃんの悲痛な叫び。これは絶対に勝たなきゃダメですよ。エレンさん!

ネタバレ注意:エモンガが勝ってムクホークが負ける。 

 
「いやぁ、『エレンは何も道具を持っていなかったというのに、レオンは飛行のジュエルを持ち出しておいて、挙句の果てにそれを奪われてから、エレンのアクロバットで一撃で勝負がつくという、弱点の技である電気タイプの攻撃も使われぬままに、なんらよいところも見せられずに瞬殺と言う表現が相応しい、なんとも情けなく、期待はずれで、それでいてムクホーク全体の名を落とし、末代までの恥になるような』白熱した戦いでしたね!」
「あの、クリスさん……意外と口悪いのですね」
「そうでしょうかルインさん? 正直に言っただけなのですが……」
「え、いや……そう思うのは外部から来たスワンナだけなのかね……ここの住人では普通なんですか? ……いや、その、えーと……」
「あぁ、実際クリスは口が悪いから大丈夫よ。その認識は正しいわ。でも、言っていることは間違っていないのよねぇ……これが。まず、初手から何の考えもなしにブレイブバードで突っ込んで、かわされてターンをするその隙に、カウンターの『欲しがる』が炸裂。首にかけられたジュエルをつかみとり、首を絞められたムクホークはすってんころりん。
 起き上がる前に達人の帯を脱ぎ捨てたエレンのアクロバットを顔面に食らって負けたんだもの、歴史に残る大敗である事は疑いようも無いわけだし、口が悪いって言っても、馬鹿正直なだけなのよ、クリスは」
 え、そうなんですか? 私自分の口が悪いだなんて知らなかったなぁ。さて、勝った2人に眼をやれば……
「エレン! 怖かったぁ!!」
「俺も、お前と2度と合えないかもと思って、凄く怖かったぞ!!」
 エレンとアイラ、2人はしっかりと抱き合いその無事を確かめあいます。うんうん、いい光景ですねぇ。幸福略奪を行って返り討ちにあう、ボロ雑巾にすら価値が劣るクソ雑魚のヘタレとは大違いです。

「よし、クリス。それじゃあこのまま、エレンとアイラの縁結びの続きをやるわよ!」
「はい、ローズ先輩! ところで、ルインさんはどうします?」
 無様な敗者の嫁予定であったルインさんは、彼のことなどそっちのけで私たちの事を不安げに見ていました。
「いえ、半ば無理矢理縁談に持ち込まれたので……もうヘタレは放って置きます」
 と、ルインさんは言いました。
「おやおや、悪い男に引っかかっちゃダメですよぉ? あんなヘタレに結婚してあげるだなんて、もはや慈善事業じゃないですかぁ」
「そうですね……人生最大の汚点です。それで……あの、厚かましいとは思いますが……縁結びの光景を見ていきたいんですが……もし、エレンさんとアイラさんがよろしければ……」
 ルインさんは、なんにせよ縁結びの儀式に興味がある様子。
「あぁ、僕は構わないよ。アイラに格好いいところも見せられたし……しかし、あんなに弱いくせに強引に縁談とか……ふてぶてしい野郎だなぁ」
「私も、縁結びを見せるのは構いませんよ。どうせエレンが勝つのは分かっていましたし。それにしても、ルインさん……もっと自分の意見はきちんと言わなきゃだめですよぉ。あんな弱いの相手に、黙ってちゃだめです。だって、巣についた時に私が抵抗したら、ストーンエッジ一発であのヘタレがノックアウトしちゃったのは見ていたでしょう? 女は男の道具じゃないんです、もっと抵抗しましょう!」
「是非そうしましょう! こうやって素敵なカップルを見て、もうあんなヘタレに騙されないようにしましょうね!」
「はい! ヘタレはもうこりごりです!」
「おう、私も見物させてもらっていいかい? 昔を思い出しちゃってねぇ」
 エアームドのおばさんが言いました。もちろんですとも。エレンさんとアイラさんが良しと言うのなら、喜んで!
「皆大っ嫌いだぁぁぁぁぁ!!」
 あ、叫びながらヘタレが逃げた。えーと、あのムクホークの名前なんだっけ? というか、私達の会話を聞いていたのですねぇ。


 そんなこんなで、見物人がいる中での縁結びの儀式です。部外者に見られるのはちょっと恥ずかしいですが、頑張ります!
「では、お互い向き合ってください」
 改めて、エレンさんとアイラさんの縁結び。体は小さいですが、お互いの信頼は強いですし、何より喧嘩も強いのがいいですね! 昨日のように突然の捕食者相手に油断することなく、きっちりと外敵から身を守ってあげられるように、頑張ってほしいものです、はい。
「では、リボンを巻き付けます。お2人とも、体の力を抜いて下さいね」
 私の額と首にあるリボンが伸び、しゅるしゅると2人の体に巻きつきます巻き付ける前から分かっていたことですが、この2人、お互いへの信頼がすごいですね、最初は見た目というか、種族で好きになったようですが、それでも一緒にいた時間はうそをつかないし、お互いがお互いの種族に飽きなかったのですね。
 一緒に暮らしてみたらイメージと違って、それでお互い倦怠期に突入という事もなく、出会った時と同じか、それ以上の情熱でもって愛しているのでしょう。この調子を、2人が年老いてゆくまでずっと保ってゆけたら……たとえ死が2人を別っても、同じ墓に骨(?)を埋められるように、仲睦まじく生きてほしいものですね。
 あぁ、心地よい絆の感覚。これこそ、私の求めていた感覚です。
「それではお2人さん、誓いの口づけをお願いします」
「ついに、ね」
「あぁ、この日をお互い忘れないように……」
 穏やかな2人の声。これからの幸福を約束されたような2人には、私も誠心誠意縁結びをしなくては。ギュッと強く抱きしめる。そうすることでますます伝わる2人の気持ち。ゆったりと歩いていた2人が口づけを交わせば、そこにあるのは純粋な喜び。なんて混じりけのない、無垢な感情……あぁ、結びつけている私まで幸せな気分になってしまいそう。
 口づけと言っても、アイアントは口の形が独特だから、エモンガが一方的にキスをしている感じだけれど、そんな細かいことは気にしない。満足するまで長い口づけをしていた2人がそっと口を離せば、ふわりと溶けるように幸福の余韻が揺れています。
「縁結びは終わりです」
 今までで一番いい気分でそれを言い終え、リボンを巻き戻す。
「おめでとうございます。これからは貴方たち。夫婦ですよ! 2人の縁が、とこしえに続きますように、我らニンフィア一同お祈り申し上げます」
 私が言うに合わせて、ルインさんは翼を合わせて憧れのまなざし、エアームドのおばさんは、うんうんと頷いています。
「ふふ、なんか照れるね」
「俺たちの新たな門出を祝ってくれているんだ、もっと喜ぼうぜ」
「あぁ、いいねぇ。私の若い頃を思い出すよ。昔、縁結びをしてもらった夫とは、今も仲が良くってねぇ……」
 エアームドのおばさんの昔ばなしが飛び出しました。へぇ、この人も縁結びをしてもらったのですね。
「えっ、本当ですか? 聞きましたか? エレンさんにアイラさん。貴方たちも、同じように仲良くいてくださいね」
 私が縁を結んだわけじゃなくっても、こういうお話を聞くと嬉しいですね!

「あの、クリスさん、ローズさん」
「はい、何でしょう?」
「あら、何かしら?」
 ルインさんの言葉に、私たち2人は振り返ります。
「もしも、渡った先で恋人が出来たら、その時はここで縁結びの儀式を行ってもいいでしょうか……? 」
「もちろんです。この温泉島は、何の変哲もない島に立ち寄った、陸の神と海の神の力で温泉が湧いた島。よそ者だって大歓迎ですとも!」
「そうよぉ。私達ニンフィアは、依頼とお礼さえあれば誰にだって力を貸すわ」
「ありがとうございます。そうだ、巣の上に貴方への報酬予定だった木の実がありますので持ってきますね!」
 そうして受け取ったのは、とっても大きなカイスの実。わお、美味しそうです! あとでローズ先輩と一緒に食べましょう!

ドロドロの恋愛模様 


 この温泉島には、大陸のポケモンが遠くの浜辺で捨てたゴミが、潮の流れに乗ってこちらにたどり着くことがある。そのゴミを体に取り込み、有毒ガスが立ち上り他のタイプのポケモンでは入れないような場所を寝床とする。私達ベトベトンは決して強い種族ではないけれど、そうすることで自分の身を守っているのだ。
 私達の体は誰も食べたくなくなるような悪臭、縄張りを奪われえる事のない住処。その分、同じグループのポケモンであっても避けられてしまう悲しさはあったが、どろどろの体は私達特有の魅力。どろどろじゃない奴らに魅力なんて感じなかったから、同種だけがつがいの候補でも、何ら問題はなかった。
 私達ベトベトンは、海岸に届くゴミの他に、腐った食べ残しやなどを餌にしているため、必然的に多種のポケモンの縄張りを犯すことになっちゃう。ただ、私達を下手に刺激すれば悪臭をばらまくことになるし、刺激をしないで食べ残しを食わせるに任せておけば、腐った食べ物から発せられる悪臭を持ち帰ってもらえるので、縄張りを犯されることがあろうとも、目くじらを立てることなく緩やかな共生関係が築かれているんだ。
 もちろん、他人の縄張りを歩くときは我が物顔というわけではなく、奥ゆかしい態度で通らなければ、攻撃されても文句は言えない。だから私はゆったりゆっくりと歩きながら、今日は温泉島の有毒ガスが湧き出る場所へ。鋼タイプのポケモンが住んでいるはずのその場所で見たのは、火山から湧き出る有毒ガスにやられて倒れているマグカルゴ。
「ねー、大丈夫?」
 別に、私としては死んでいても生きていてもどちらでもよかった。
「あのー、すみませーん、ナットレイのみなさーん」
 死んでいるなら、食べ残した部分を数日後にもらえるだろうし。生きているならば恩を売れる。
「おうおう。ドロミちゃんじゃないかい、どうしたんだい?」
 奥のほうへ声をかけると、ナットレイ皆さんが目を覚まし、こちらを覗いてくれました。
「えーとぉ、なんかマグカルゴを見つけたんですけれどぉ……なんかこの子、返事がないからただのしかばねっぽいですが、どうしますー?」
「あー、そいつかぁ。なんか、勝手に縄張りに入ってきたから、俺が岩に穴をあけて毒ガスを出したんだけれど、そのせいで逃げかえる途中で力尽きていたんだね。いいよいいよ、持って行っちゃって。腐ると悪臭が面倒だし。それに俺らは炎タイプは苦手なんだ」
「いいのですかー? 持って帰っちゃっても?」
「いいよいいよ。ドロミちゃんのおかげですが清潔に保たれているから、みんな感謝しているんだ。今日はサービスだよ」
「あら、それはどうもありがとうございますー。自宅で腐らせてゆっくり食べますねー」
 ナットレイの皆さんは、洞窟内に滴る栄養を含んだ水を飲み、たまに外へ出て光合成をしたり、他の植物から栄養をもらったりして生きている方々。枯れ散らばり、カビが生えた木の枝などを私は食糧に出来るので、いつもはそのおこぼれをもらっているのですが、今日は思いがけずいい獲物が手に入ったね。
 進化してから一人暮らしを始めたけれど、こんなに大きな獲物が手に入ったのは久しぶり。しばらくはこれで食いつなげそうだと小躍りして家に持ち帰ると、どうやらマグカルゴはまだ生きているのか、かすかに呻く声が聞こえます。
「うーん、大丈夫ですかぁ?」
 死んでいるのであれば、別に気兼ねなく食べられるけれど、私は臆病なもので、生きている奴を殺したのは虫くらいなんだよなぁ。このままとどめを刺して餌にするべきだろうかと、ぐったりしていたマグカルゴに毒を吹きかけようか迷ったけれど、明るい所で改めて見てみると、やだ……イケメン。いかにも毒がありそうな、アリアドスにも似た真っ赤な警戒色。むしろこれは炎タイプの色だけれどが、まぁ、それは置いといて。腐ってぐずぐずになった同種と違って、まだ生きているマグカルゴのつぶらな瞳。どろどろの中に確かに形を持った黄色い瞳は虚ろですが、これが意識をはっきりさせればくりくりとしたかわいらしい眼になりそう。ベトベターのかわいらしい弟を思い出すなぁ。
 顔も、どろどろ具合がとてもクール! 熱いけど。今まで、まじまじとマグカルゴの顔を見る事なんてなかったから知らなかったけれど、この色、このドロドロ。案外悪くないし……何よりこの大きな目が魅力的。まるで子供のようでかわいらしい。これは、介抱して恩を売って、そのまま若いスバメとして囲ってしまうのもありかなぁ。ちょうど、婿探しもしたいところだったし。
「そうと決まれば、解毒してあげましょうかねぇ……」
 せっかく手に入れた獲物だけど、私もいつかは子供を産まなきゃいけないし、それがこれくらいイケメンならば大丈夫よねぇ。問題は気が合うかどうかだけど、そこはのんびりゆったりお互い許し合っていけばいいよねぇ。

 地面に生えていた苦い薬草を手に取り、そのしぼり汁を強引に口に中に突っ込むと、ほどなくしてマグカルゴは目を覚ました。
「うーん……ここは?」
「おはよー。大丈夫?」
 どうやら薬が効いたのか、意識は朦朧としているものの、もう大丈夫そう。
「君、死にかけていたんだよー。私が助けたんだから感謝してよねー」
「ふぇ……? 死にかけていた?」
「そうだよぉ……有毒ガスの湧き出る洞窟に入り込んで、でも、毒ガスが出てきて引き返そうとしたのかなぁ、外に向かってぐったり倒れていて……」
「あ、そうだった!」
 ようやく自分のことを思い出したのか、驚いたようにマグカルゴが声を上げる。
「あの時、僕は意識を失って……そうかぁ、それを君が助けてくれたんだね?」
 自分の記憶をたどって今の状況を確認し、マグカルゴが尋ねる。
「そうだよぉ。顔が格好良くなかったら、腐らせて食べていたけれどねー」
「ちょ、怖いこと言わないでしょ」
「えー、だってぇ、腐らせたらおいしいんだもの」
「うぅぅ……好みの顔でよかった」
 私の正直な言葉に二重の死の危険を回避したマグカルゴは、安堵の息をつく。
「ところで、君の名前はー? 私、ドロミ」
「……僕の名前はコロナ。よろしく」
「うんうん、コロナねー。ところで君、あの穴に入って何をしようとしていたのー?」
「いや、縄張りをドリュウズに奪われちゃったから、当てもなくさまよっていて……よさげな洞窟を見つけたら、有毒ガスが噴き出してきて、あわてて引き返そうとしたけれど、そのまま……」
「そうだったんだー。大変だねー。私の家なら、有毒ガスは一部にしかたまっていないし、温かい温泉は湧いているし、一緒に住まないかしら? 悪臭の漂う毒の体をぶちまけてミネズミから奪い取った家だけれど、もう悪臭もそんなじゃないし、たぶん大丈夫だと思うよー」
「え、いいの?」
「もちろんいいよー。でも、食べ残しは頂戴ねぇ」
「あ、うん……岩以外の物を食べたら、譲るよ」
「うん、お願いねー」


 そんなこんなで始まった共同生活。コロナ君の食べ残しだけでは食料は足りないけれど、それでも家に1人同居しているだけで結構食糧集めは楽になった。私たちが出会った季節は冬。物の腐りやすい夏になると、その辺の草花を湿らせておくだけでもすぐに腐ってくれて食糧が手に入る。私達ベトベトンはそんな夏に子供が生まれるよう、冬の終わりごろには子作りを始めるのが一般的だ。
 月が2回ほど満ちてかけてを繰り返して、もう春は目前で、本能が子供を作れと求めてきている。マグカルゴも、子供は夏に生まれるのが一番都合がいいので、それに合わせて発情期が来るのだと聞いた。つまり、私達の生殖時期は一致している。これは朗報だよねぇ。ちょうど、体がうずく時期を迎え、私は眠っている彼の元に擦り寄り、口づけで目覚ましをする。
「ぬお、な、何?」
 驚いて目を見開くコロナ君の顔を大きな手で撫で、私は彼の目の前で微笑む。
「ねー、コロナ君。そろそろ子作りの時期じゃない?」
「え、いや、えーと……うん、確かにそうだね」
「あー、いきなりじゃ無理かな? でも、せっかく若い男女が同じ穴倉に暮らしているんだし、やることやらないともったいないよー」
「えー、いや……僕はその、夫婦のつもりで暮らしていたわけじゃないから……うーんでもなぁ」
 うーん、コロナ君ったら煮え切らないなぁ。
「私は君の見た目に一目ぼれしたけれど、君はそうじゃないのー?」
「いや、一目ぼれしてたのは知っているけれど……僕は、そこまでじゃないし」
「うーん、でも、惚れられた状態で同居していたら、いつかこういうことになるのは予想出来ていたよねぇ?」
「そ、そういわれると……反論できないけれど……」
「じゃあ、今すぐじゃなくってもいいけれど、子作りしようよー」
 こっちは命を助けた恩や、住処を分けた恩があるんだもの嫌とは言わせないよー。
「わ、分かった……でも、こっちは寝起きだから……もう少し待ってて」
「うん、いいよー。でも、絶対だからねー」
 とりあえず、約束も取り付けたことだし、時間がたつのを見送ろうかしらねー

「準備、できた……」
 あれから、コロナ君はしばらく眠って、まだ少し残っていた食糧を食べて、しばらくぼーっとしていたけれど、やがて覚悟を決めたらしい。少し硫黄のにおいがする私の部屋の外から、そう声をかけてきた。
「うーん、やっとかー。レディーを待たせちゃダメ―」
「そ、それはごめん……でも、こっちにも心の準備ってもんが……」
「大丈夫だよー。準備なんてしなくっても、男なんてやっているうちにその気になるって、オオスバメのお姉さんが言っていたし」
「そうかもしれないけれどさ……」
「つべこべ言わない。案ずるより産むがやすしだよ。さぁ、始めよー!」
 暖かな温泉が湧き出ているコロナ君の部屋で、私はコロナ君に覆いかぶさる。普段は卵を温めるのにちょうどいいくらいの温度のコロナ君は、全身で包み込んであげればとっても暖かい。私の方も、警戒しないでいられる家の中では悪臭は抑えている。同種出会いたいのであれば悪臭を振りまくのもありなんだけれど、それをやると顰蹙がひどいので、同種のみんなもほとんど悪臭を振りまくことはない。
 まぁ、そんなことはさておいて、抱きかかえていると、最初こそ消極的だったコロナ君も、こちらに体を預けてくれた。
「なにー、甘えちゃって?」
「い、いいでしょ……そっちが積極的なんだし、俺は受け身でも」
「ふふーん、どちらにせよ、やる気になってくれたならうれしいなぁ」
そのまま彼の体を私の上に乗っけて、いつも地を舐めている腹をかき回す。ドロドロになった不定形な体にも、確かに形を持った場所があって、神経の通う腹を刺激されていれば、男ならその証が顔を出すはず……。コロナ君には、私がよく知らないマグカルゴの体の構造も教えてもらっている。
 どこにペニスがあるかを教えるときはさすがに恥ずかしそうにしていたけれど、そういう恥ずかしい所もさらけ出しての夫婦だよね、うんうん。
「どう、気持ちいい?」
 どろどろの体で包み込んであげれば、心地よさそうに目を細めるコロナの顔。『うん』と控えめにうなずいて、私に答えてくれた。気持ちいいと言ってくれたのは嬉しいけれど、なんか違う気がするの。こう、男として気持ちいいとかそういう感じじゃなく、マッサージされて気持ちいいとかそんな感じで。
 それならばと、こちらも一番敏感そうな部分をがっつりと撫でてやる。がっついていると思われるかもしれないけれど、私はこの家の主なのだもの、主らしく主導権を握ってあげなきゃ気が済まない。それにこんなに活かしたドロドロと、つぶらな瞳が魅力のマグカルゴは、されるがままではもったいない。こちらから弄り、弄び、鳴かせてあげて、その表情をことごとく記憶する事こそ極上よねー。
 生殖器が収まっている腹の下をぐいぐいと刺激すれば、ペニスが交尾に備えてその質量を増してゆく。どろりとした手のひらの中でそれを感じてみると、コロナ君の口元が笑顔になる。
「もっと……」
 切なげに懇願する声。かわいいなぁ。
「もっとやってほしいの?」
 意地悪に問いかけると、コロナ君はおずおずと頷いた。あぁもう、可愛いんだから。最初は緊張していて乗り気じゃなかったくせに、今はもうすっかり虜になっている。この初物は一回限り、しっかり楽しまなきゃいけないなぁ。
「うん、気持ちいいから」
 なんて、嬉しいことを言ってくれるコロナ君に気を良くして、手のひらに込める力を強くする。すると、血液を巡らせたペニスは、信じられないほどの熱を帯びていて、さすがに火傷はしないけれど、長い時間握っていたら低温やけどになりそうだ。これが遠慮しない本来のマグカルゴの体温なんだと考えながら私は体の表面のドロドロを流動させ、一か所が高温にならないように注意する。
 その流動する感覚が気持ち良かったのか、そうすることで得られた反応は上々、甘い声をあげて善がるコロナ君の顔が、締まりがなくて無防備で。そんな表情、きっと他の誰にも見せられないだろうから、私だけに見せる表情なんだと思うともっともっとそんな表情を引きずり出してしまいたくなる。低温やけどをしないように、ドロドロを流動させながら、時折流動させる方向を逆にしたり、90度変えてみたり。その度に、触っていないとわからない程度にピクリと反応する。
 調子に乗ってガンガン攻めたててみる。熱を帯びたペニスはその鼓動をはっきりと感じさせてくれ、熱い液体も滴り落ちているのを感じる。
「ねぇ、僕はもうすぐ限界……このままでいいの?」
「そうだねー。じゃあ、ちょっとだけ待っていて」
 そうした兆候を見せた矢先に、コロナ君の自己申告。確かにこのまま終わらせちゃうのはもったいない。せっかくだから私も彼を丸ごと受け止めたくて、ドロドロの中にある子供を作る場所で、コロナ君のペニスを包み込んでみる。もともとドロドロしているから、かなり大きな物でも包み込めるし、すんなりと入る。けれど、締め付けようと思えばそれは伸縮自在。文字通り不定形なポケモンの強みで、痛くない程度に、相手が一番よさそうな強さを考えて締め付ける。
 柔らかい木の実を握るくらいの力加減で包み込んであげると、これまでじっとしていたコロナ君もゆったりのんびりと腰を振り始める。それに合わせて、私もペースを落として膣をゆっくりと動かす。動きがだんだんとシンクロしていくと、何だか2人の息があっているような気がして嬉しい。
「もう……無理。出すよ」
 私が気持ちよくなる前にコロナ君は達してしまう。うーん……ちょっとばかし消化不良だけれど、ゆっくりやっていけばいいよね、うん。
「ねー、コロナ君」
「なに?」
 射精して気持ちよさそうにその余韻に浸っているコロナ君を持ち上げ、私は話しかける。
「キスしてもいいかなぁ?」
 ちょっと順番が違う気もするけれど、恋人同士、やっぱりキスはするべきだよねぇ。
「い、いいよ……しよう」
「いいんだね? じゃあ……」
 了承も取れたところで、私は大口を開けてコロナ君の顔全体を覆うくらいのつもりで彼を飲み込む。キスと言うには少々凶暴かもしれないけれど彼を思う存分感じるのにはやっぱりこれだよねぇ。呼吸が出来なくなると困るので、顔全体を覆うのは数秒程度。熱を帯びた彼が暴れようか暴れまいか悩むように震える感覚は少し可愛かった。
 口を離すと、彼が安堵の息をつくのが聞こえた。
「ははは、いきなり今のはびっくりしたよ……」
「うん、次は普通にキスするよー」
「わかった……来て」
 コロナ君もこう言ってくれたことだし、キスの続き。彼の顔を抱き寄せて、口づけをかわす。お互いドロドロとした体だけれど、不思議とお互いの体はまじりあうことなく、触れるだけ、熱を持った体の奥のほうはさらに熱くなっていて、舌を入れると本当に熱いくらい。猫舌じゃないけれど、あまり長い時間入れてはいられないなと思い、私はその短い時間のキスを、忘れないように十分に刻み付ける、そして、時間で満足できない分、冷やしてはもう一度、冷やしてはもう一度と、回数を繰り返す。ドロドロの体内の中にある、確かな弾力のある口腔は、たとえ高熱を帯びていても愛おしく感じられた。
 同じ気持ちなのかな、無言でもコロナ君は私と同じように求めてくれた。そんなコロナ君の行動が嬉しくて、私は何度も何度もキスをして、それが終われば、また子作りを繰り返した。

意外と大したことないですね 


「この5日間、よく頑張ったわね。ぶっちゃけると、新人さんにはこれから先の仕事に耐えられるかを見極めるために、あえて変な客や、痛い思いをするお客さんが新人にまわされるんだけれど、よく耐えたわ」
「や、やっぱり……何か作為を感じると思いましたが……」
 同性のカップルであろうときちんと心から祝福できるのか? 痛かったりするような相手でも、きちんと嫌がらずに縁結びが出来るのか? 確かに、それは重要です。こうして性別が分からないようにしていると、自分自身雄と雌、どちらを好きになっていいのか迷いますが、もしも同性を好きになってしまったその時は、きちんと祝ってあげないと絶対にいけませんよね!
 そう考えると、最初のほうに特殊な例を持っていくというのはとても正しい選択なのかもしれません
「ま、まぁ……幸福略奪の件は予想外だったけれど。本来ならあの日は、マグカルゴとベトベトンの縁結びをやってもらうつもりだったんだけれどね」
「暑くて臭そうですね、それ……」
「そうなのよぉ。だから今日に振り替えられたのよぉ」
「わかっちゃいるけれど、面と向かって言われると憂鬱になりますね……はぁ」
 思わずため息が漏れちゃいます。でも、これは新人の通過儀礼なのですから、頑張りましょう!
「でも、これから先、そういうお客さんの縁結びをすることもあるから覚悟をしておきなさいよ?」
「そ、それはもちろんわかっています! どんな奴が相手だろうと、問題ありませんから! 男は愛嬌、女は度胸! 縁人はそのどちらも併せ持ち、そしてニンフィアは頑強がモットーですとも!!」
「ふふ、期待しているわぁ! それと、そんなに熱くもないし、臭くもないから安心なさい」
「そうなんですか?」
 その両種族とはあまりかかわりがないから知らなかったのですが、そんなものなんですねぇ。
「敵意を持たれたら暑くて臭くなるけれど私達が敵意を持たれることなんてありえないから、大丈夫よね?」
「それなら、ギギギアルやサメ肌コンビに比べれば何の問題もありませんとも! 頑張りますよ!」
「期待しているわよぉ。六日間の研修を終えたら、そこから先は一人だから、頑張るのよ」
「はい! 安心してもらえるように、今日も力いっぱい頑張りますよぉ」

 そうして歩いて歩いて、私達がたどり着いたのは小さな洞窟。少しばかり硫黄のにおいがしますが、かすかな匂いなので気にすることもないでしょう。
「こんにちは! 縁人のクリスと申します。今日はよろしくお願いします」
「同じく、付き添いのローズ。今日はよろしくね」
「おはよー。私はドロミ。今日はよろしくねー」
「えーと、夫のコロナです。奥では子供が寝ていますので、あまり騒がしくならないように……」
 おや、本当に熱さも匂いも意外と大したことがないですね。これならあんまり問題なさそうです。
「わぁ、子供がいるんですか? 今までは新婚さんばっかり縁結びしていましたが、子供がいるご家庭というのもいいですねぇ」
 どんな子なのかちょっと見てみたい気もしますけれど、警戒されて悪臭や熱気を出されたらたまったものではないので、そこはぐっとこらえて我慢しましょう。
「さてさて、まずは貴方たちのなれ初めなどを聞かせてもらえますかー?」
「うーん、それじゃあ私が話すねー」
 間延びした口調のドロミさんが、私のほうにのんびりゆったりとにじり寄ります。


「ふむふむ、それで子供も今は順調に育っているんですね?」
「素敵なお話。私が縁結びをしたくなるくらいだわ」
 ローズさんも言う通り、2人の仲は素敵です。何でも、ドロミさんは彼があまりにイケメンだったので、食べるのが惜しくって助けてしまったそうなのです。ふむふむ、そのままなし崩し的に子作りをしてしまったそうですが、夫婦仲も親子仲も悪くなく。のんびりゆったり暮らしているとはいい家族ですねぇ。子供が出来る前に縁結びを行うという人は少なくないですが、こんな風に子作りしてからしばらくたってする人ももちろんいます。
 子供が出来てから良くも悪くも変わってしまう人はいるもので、それを見極めてから縁結びをする人もいます。そういう人たちは、伴侶となる人を愛していないわけではなく、心配性と言うか慎重というか、そういう感じではないらしく、むしろ子供のためを思って縁結びをするという感覚の人が多いそうなんです。
 子供のための縁結び……確かに、夫婦仲が悪いと子供にも悪影響を及ぼしかねませんからねぇ。それを踏まえ、子供が出来てから縁結び。あぁ、恋が最高潮に燃え上がる子作り前の縁結びもいいですが、こういうのもアリですねぇ、はい。
「うんー、マグマッグが2人で、ベトベターがいないのが残念だけれど、可愛くって育て甲斐があるよー」
「どちらも自分に似ていて、なんというか、愛着が湧きます。ずっと、ドロミと育てていきたいなって、思いました」
「うーん、夫婦としても親子としても理想的。その愛、ずっと育んでいってほしいものですねぇ!」
「任せてよー。子供はきちんと育てるからねー」
 間延びした口調なので、あんまり頼りになる気はしませんが、同じようにおおらかな子供に育ってほしいものですね。こういう感じで穏やかな人のほうが、やっていてこちらも気持ちいいですし。
「それでは、話も分かりましたところで、さっそく縁結びを始めちゃいましょうか? 子持ちの人の縁結びは初めてですが、頑張っちゃいますよー!」
「おー、始めましょー」
「え、もう始まるの? 心の準備しなきゃ」
 相変わらずお気楽でマイペースなドロミさん。コロナさんは、なんというか気が弱いのですかね。でも、緊張する必要なんてないですから!
「だーいじょうぶですよ! 縁結びは肩の力を抜いて気楽にやればいいんです! 肩……どこだろ」
「そ、そうですよね……それじゃあ、お願いします」
「よし、それでは、2人は向かい合ってくださいな!」
「だってさー、コロナ君。私はこっちね」
「う、うん。ぼくはこっち」
 ドロミさんはゆったりと、コロナさんはぎこちない足取りで向かい合いました。
「それでは、体の力を抜いてください。私がリボンを巻き付けますので」
その2人を見据えながら私は額と首についたリボンを伸ばし、2人に絡ませます。さすがにマグカルゴ、コロナさんの体温は熱いです。緊張しているせいもあってか、長く続けていたら火傷してしまいそうな。少々厄介ですねこの人。
 でも、それだけ伝わってくる思いもあるというもの。ドロミさんはのんびりゆったり、なんとかなるさーという感じの楽観的な思考ですが、それはコロナや子供達への信頼の高さから来る感情。一片たりとも彼らを疑っていないのか、馬鹿なのか純粋なのか、それともコロナさんが本当に信頼に値する方なのか。こんなにのんびりしていながら、周囲とトラブルを起こしていないところを考えると、純粋なだけじゃなく世渡り上手なのかもしれません。
 コロナさんは、なんというか緊張をしているようですが、ドロミさんに対する信頼はかなりのものですね。まだ子供に対して扱いが分からず心配のようなものはありますが、それも些細なものでしょう。私の縁結びの儀式で、緊張をほぐしてあげましょう。熱いのをこらえて、ギュッと抱きしめます。どろどろとしていて手ごたえがないし、滑るので、やっぱり力を入れるのはやめにします。
 それにしても緊張はしていても、コロナさんもこの日を迎えることができた幸福をきちんと噛み締めているようですね。

「さぁ、誓いの口づけを」
 そう声を掛ければ、どろどろとした体の2人はどろどろとしながら前に進み、ドロドロの唇をどろどろと重ね合わせます。いやぁ、ドロドロです。正直、巻いているリボンがきちんと巻けているのか気になるくらいにドロドロです。なんだかそのドロドロがリボンの表面を流れるこの感触がちょっと気持ちよくなってきたのですが、それに流されちゃだめです! 人妻&旦那様なのですから、それに気持ちよくされちゃうのはだめです!
 2人のドロドロな口づけが収まると、ようやく私はリボンを離します。熱かったぁ……
「これで、縁結びの儀式は終了です。2人の縁が、とこしえに続きますように、我らニンフィア一同お祈り申し上げます」
 リボンの温度を下げるために、空中で振り乱してから礼をします。
「どうもありがとー」
「ありがとうございます。これから、妻とがんばっていこうと思います」
 それから、お礼にと渡されたのはモモンの実とチーゴの実をどっさりと。火傷と毒を治す木の実ばっかりですが自分たちがもしかしたらけがをさせてしまうかもという自覚があったのですかね? なんにせよ、怪我もせずに終えられましたし、木の実もたくさんもらえて嬉しいです。帰りは食べ歩きましょう!

研修の最終日 


「よく頑張ったわね、クリス。今日は研修最終日よ」
「今日の儀式の依頼人は知らされていないのですが、一体どんなお方なのですか?」
「見てからのお楽しみよ……さ、こっちね」
 ローズ先輩は意地悪なことに、私に依頼の詳しくを教えてはくれませんでした。ただ、お楽しみと言うからにはすごい大物との縁結びをさせてくれるのでしょう。さて、どんな人が来るのやら……来るのやら……ローズ先輩は行き先すらも教えてくれずにずんずんと歩いていきます。さて、どんな場所に行くのやら、行くのやら……っていうか、高い、寒い、空気薄い!!
 温泉島名物の高い山。この高い山の頂上付近はとっても寒いので、氷タイプや寒さに強いポケモンが住んでいます。例えばそれはゴーゴートであったり、ミミロップであったり、ユキメノコであったり。肉食のポケモンはグレイシアとムーランドくらいでしょうか。
 その山に登らされること数時間。ちょっとぉ、これ鳥ポケモンに送ってもらうべき距離ですよぉ! と、言いたいところですが、この高い山を登るためには鳥たちもものすごい苦労します。しかも、私を抱えて飛ぶとなれば、報酬と見合わなくなることもあるでしょうし、基本的に山の上の方のポケモンは降りてきて縁結びを受けるものなのですが、それをしないという事は、それはそれで癖のある人なのでしょう、きっと。
 苦労の果てに、山の山頂付近。いつもは遠くに眺めていた雲を見下ろし、雪帽子をかぶった山肌を超え、さらに踏み越える者も殆どいない地へとたどり着きます。途中、ゴーゴートのお兄さんに乗せてもらいながらも頑張ってたどり着きました! ローズ先輩も疲労困憊ですね……
 そこには誰も待っていない。ただ、薄紅色の花が雪を破って咲いているだけなのですが。いや、確かに感じる……生き物の気配。それがなんであるか、どこにあるかを必死で探しているうちに、ローズ先輩は――
「私は、縁人のローズ。新人のクリスを連れてまいりました! どうぞ、お姿をお見せ下さい!」
 いつになく真面目な声でローズ先輩が呼び出すと、雪を割って生えている草花の中から、もこもことしたポケモン達が1匹、2匹……計4匹。跳ねるように飛び出した。
「ふむ、君が新入りのニンフィアかい? こんにちは、僕の名前は、ハンシェルライト=レム=デ=シェイミと申します。ハンスと呼んでください」
 短い手足で、シェイミと言う種らしいポケモンは頭を下げます。小さくてかわいいですねぇ。 
「どうも、うちのハンスをよろしくお願いします」
「まぁ、あまり出来は良くないが」
「一応、弟なので、悪くしないであげてね」
 口々に言われて若干混乱しながら、頭で整理する。えと、つまり……今回の依頼人は……
「今回の依頼人は、この方たち……ハンスさんでよろしいのでしょうか?」
「えぇ。感謝ポケモンのシェイミ。この温泉島には常駐していないから知らないかもしれないけれど、いろんな場所にグラシデアと言う花を届ける伝説のポケモンよ。くれぐれも粗相のないようにね」
「は、はい」
 そんな無茶な……と、思いつつも、伝説のポケモンを相手にするという大仕事である。普段この島にいる伝説のポケモンと言えば、火山内部のエンテイ様くらい。しかし、常駐しないといっていたけれど、この人達どう見ても空は飛べそうにない。サイコキネシスで飛ぶのでしょうか?
「どうも、よろしくお願いします。私は、縁人のクリス。性別は明かせないため、本名の略称となりますが、なにとぞお許しくださいませ」
 深く頭を下げると、あちらのほうはうんうんと頷いており、微笑んでいる。
「ところで、今日縁結びをするのは……こちらのハンスさんの他に、誰を……縁結びすればよいのでしょうか」
「そのことなんですがね」
「はい」
 ハンスと名乗るシェイミの母親らしき女性が、一歩前に出て話を始めます。

 シェイミと言う種族は、グラシデアの花の花運びを行うポケモンで、彼らはグラシデアの花粉を体に取り入れることで、スカイフォルムという姿へフォルムチェンジを行う事が出来るそうです。なるほど、常駐していない理由もよくわかりました。そして、その花運びによってグラシデアの花をいろんな場所へと運び、生息域を広げていくのが彼らの生業だそうで。
 ゆえに、縁結びを行う相手とは――
「花と、縁結びを行うのですか?」
「はい。ここにある花から種をもらい、種を巻き、そうして育った花から種をもらう。この花自体とは、もはや今回限りで今生の別れとなりましょうが、しかしその種、その子供の子子孫孫をまた別の場所に連れてゆく。それこそ、我らがシェイミにとっては永遠の仲と表現するにふさわしい行為であるとされています。この温泉島には、そんな永遠の中を応援してくれるニンフィアがいると聞いて、私達の代より、こうして縁結びを行ってきたのです」
 母親は、自分たちの行為をそう説明しました。
「そうだったのですかぁ。ということは、貴方たちはすでにニンフィアの縁結びを?」
「そうよ。私は一昨年にそのローズさんに縁結びしてもらったの。あの時のローズさんは、まだ初めて一ヶ月くらいの新人だったね」
 ハンスさんの姉らしきシェイミはそう言って笑います。知り合いなんですねぇ、お2人さん
「ええもう、あの時は本当に緊張して、上手くできるか心配でしたよ」
「でも、きちんとやってくれたよね」
「普段通りやればなんとかなるののです……この子も、どんな相手でも物怖じしない子なので、ハンスさんの事はきっと大丈夫ですよ。そういうわけで、クリス。しっかりやりなさいよ、先輩命令よ!」
「はい! 誠心誠意やらせていただきます!!」
 花と縁結び、と言うのは練習したことすらありませんが、しかし……やってやれないことはないのです!
「それでは……ハンスさん自ら、私に花運びへの思い入れを語ってくださいませんか?」
「はい……なんというのですか、花運び自体は一応何回もやっているんです。最初は面倒でしたけれど、遠くまで旅をしてまた戻ってきても、同じ花があると嬉しくって……旅をしていると、いろんな人に会えるのが楽しいし、それでいて旅をした時に帰ってきたんだなぁって感じられるところが嬉しくってね。
 花運びは、ただ旅をしているだけじゃなく、僕が生きた証を残せるというところがね……誇りであり、生きがいだと思っている」
 私の方をまっすぐ見上げて、ハンスさんは言い放ちます。全く混じりけのない誇りが感じられますね。
「なるほど……それだけの思い入れがあるならば、縁結びしないわけにはいきませんね! それでは……ハンスさん、私の前へ」
「はい!」
 ハンスさんは私の前に立ちます。
「それでは、力を抜いてください」
 見下ろしたシェイミは非常に小さく、グラシデアの花はさらに小さく、手折れてしまいそうです。その花を傷つけないように、優しく包み込みます。伝わってくる感情は、前へと向く希望の感情。今よりも、未来を見据えているかのような……暖かくなるというよりはすごくすっきりとするような、さわやかな気持ちになれるような。
 そしてグラシデアの花は……花なのに、感謝の感情なのでしょうか。ほのかに、温かく、感じます。
「この花、思いが詰まっているのですね」
「あぁ、感謝の思いを込めて贈る花なんだ。だから、キルリアとかみたいな分かる奴が触れれば感謝の心を感じる事が出来る……だから好きなんだ。花運びを終えて帰って来た時に、お帰りって言ってくれるような、今年もありがとうって言ってくれるような。そんな感じがね」
「素敵な花ですね……ぜひ、世界中に伝えてくださいな」
 言って、私はハンスさんの体をぎゅっと抱きしめます。グラシデアの花は、そっと握り。
「それでは、誓いの口づけを」
 と、声をかける。ハンスさんは、トコトコと口を近づけ、短い後ろ足で懸命に立ち上がり、そっと口をつける。桃色の花弁と、小さな口が触れ合い、その花粉が彼の体にこびりつきました。すると、彼の体が光だし……痛い痛い痛い! 大きくなって痛い、やばい、伸びる、痛い千切れる! っていうかフォルムチェンジしたハンスさんもところどころくびれてたりへこんでるやばい!
「いたたたたぁ……」
 私は急いでリボンを解いて、ハンスさんを解放します。ハンスさんはぐったりしていますね……
「大丈夫ですか?」
「だめ……」
 正直私も大丈夫じゃないけれど、お客様第一です!
「あちゃー……注意するの忘れてたなぁ、いけないいけない」
「うん、忘れてたねー、ローズさん」
 ローズ先輩と姉らしきシェイミが言いますが、どう聞いても棒読みです! 知ってるならちゃんと言ってくださいよもう!
「フォルムチェンジするときは、このように体が大きくなるので、締め付けられないようにリボンは緩めに巻いておくべきなんですよ。へへ、ハンスも引っかかったー」
 姉らしきシェイミの言い分が酷いです。めっちゃひどいです。
「私も昔引っかかってねぇ……懐かしいわ」
 母親もですか。もう嫌ですこのシェイミ達。
「もう、そういう悪戯はよしてくださいよ! こっちはまじめに縁結びしているんですから!」
「いやぁ、うちの家族全員これを喰らっていてなぁ……ハンスだけがそれを喰らわないわけにはいかないと思って」
 父親もですか! ドジな家族ですね随分と。
「酷いよみんな……死ぬかと思った……」
 いや本当にその通り。私も随分と締め付けちゃいましたからねぇ。
「ともかく、これで縁結びは終わりです。貴方たちの縁が永久に続きますよう、我らニンフィア一同、お祈り申し上げます」
「なんにせよ、ありがとうございます。シェイミの恋人か友達が出来たら、その時はまた連れてくるよ」
 締め付けられた痛みから立ち直ったのか、ハンスさんはスカイフォルムの姿でそう言って、頭を下げました。はぁ、もう……さんざんですよ。
「それで、お礼の方なんですが……」
「はいな!」
「こちらにあるグラシデアの花を好きなだけ持って行ってくださいな。おそらく、手に余るくらいの量を積んでも十分に残るだけ咲いていると思いますので」
「わかりました。いっぱい摘んで持って帰りましょうね、ローズ先輩!」
「私は一本でいいわよ。今日仕事をしたのは貴方だし」
「そうですか。私はお世話になった人にたくさん送りたいと思います」
「ぜひ、使ってください」
「えぇ!」
 ハンスさんの言葉にうなずいていると、他の方たちもフォルムチェンジを始めました。
「皆さんは、これからさっそく花運びで?」
「いえ、少し山を下って食事と温泉を楽しもうかと」
「そうですか。温泉島、満喫してくださいね」
 挨拶をかわし、私達は徒歩で山を下り、シェイミ達は滑空して山を下ってゆきます。グラシデアの花……他の所にも咲き乱れるといいですね!

次の日からは一人で 


「これで、貴方も研修として私について回られる必要がなくなったわけだけれど……次からも、きちんとやれるかしら?」
「それはもちろん、任せてくださいよ! きちんとやり遂げて見せますので!」
「期待しているわよ。次の依頼は、三日後のオンバーンとトロピウスの夫婦だから、忘れちゃだめよ」
「はいな! 頑張ります!!」
 そう微笑み、ローズ先輩は自宅へ。私も自宅へと道を分かれました。野を超え山を越え、自宅へとたどり着けば、友達と同居している穴倉のわが家へ。明日と明後日はひさしぶりにゆっくりできますね。
「たっだいまー!」
 たくさん摘んだグラシデアの花をささげるべき相手に向かって、私は元気よく帰還を告げた。

あとがき 


 実はこれ官能作品じゃありませんでした! そして、この温泉島は正式名称ではなく、現在構想中の長編作品の舞台シッコク島の予定でもあります。四国地方っぽい場所になる予定です、多分。
 いや、本当はこれ、ニンフィアの苦難を描いたコメディ作品のつもりだったのですがね、しかし、短編大会が終わってすぐに募集されてしまったために、ネタがなかなか思い浮かばないという始末でした。そんな時に、あらすじだけ決めて書き途中だったこの作品。
 もともとこの作品のニンフィアは狂言回し的な立場にいて、愛の形は様々だが、それに振り回されるニンフィアはたまったものじゃないというスタンスの作品でした。しかし、この作品に無理やり官能シーンを挿入すれば、いろんな形のポケモンによるいろんなエロもかけるのではないかと思った次第、見事変態作品に生まれ変わったというわけでございます。
 もともとエロを想定していなかった結果、最初の二つにそういうシーンがないという事になっております。ニンフィアを裂けさせたいだけだったのですよ……まぁ、そんなわけで、ニンフィアの苦難を描いたこの作品、むしろ官能よりも縁結びのシーンを見てもらいたかったというのがあります。
 同族を『見栄えのために将来を捨てた馬鹿共が跳梁跋扈するブイズ7人兄弟姉妹』とか、ムクホークに対して毒舌の限りを尽くしたクリスの口の悪さとか、そういうのも魅力の一つだと思いますので、エロのみではなくそちらも楽しんでいただけた人がいるようなのは何よりでした。

 今回はブイズ作品が少なかったので、唯一のブイズ主人公でしたね。ブイズをエロには参加させないようにと思っていましたが、唯一の主人公になるのは意外な結果です。だかろちってブイズ票を獲得した感じでもなく、『上々な結果だと思います。
 投票数は9票で5位。投票してくださった皆さん、ありがとうございました。

 挿絵募集中です!

投票コメント返信 


>面白いと思い投票させていただきました。ニンフィアが面白可愛く表現されていた、と思いました。 (2013/09/01(日) 02:16)
どうもありがとうございます。映画を見てわかる情報だけで書き込んでみたので、ほとんど技も使えず地味な活躍でしたが、そう言ってもらえると嬉しいです。


>すけすけ仮面の方ですかな?w とにもかくにも大いに楽しませて頂いたので一票! (2013/09/01(日) 04:25)
 すけすけ……? いったいなんのことです?


>ネタに吹いたwwwwww (2013/09/01(日) 05:41)
どうもありがとうございます。今回もたくさんネタを仕込ませてもらいました。


>リーフィアに目覚めました(覚醒) (2013/09/02(月) 20:04)
 出ていません! 出たのはニンフィアです!


>さまざまなシチュと、時折はさまれるギャグのバランスがとてもよかったと思います (2013/09/05(木) 21:19)
 さまざまなシチュは、実は官能作品ではなかった頃の名残なのです……本当はすべてに官能を挟むべきかとも思いましたが


>様々なポケモンのエロとネタでお腹いっぱいですwエモンガとアイアント……ん?覚えがあるような( (2013/09/05(木) 22:30)
 いやぁ、人気のあるCPですものね! アイアントとエモンガは! 人気のあるCPですものね! ですものね!


>トゥイッターネタ?はともかく、変態選手権としてはガーちゃんのパートだけで一万点満点です。
直球なエロから変化球まで交えて、様々な種族の魅力をうまく表現してるなあと感激しました。
所々に挟まれるギャグもエロ一辺倒にさせずに効果的だったと思います。 (2013/09/05(木) 22:55)

ドラゴン同士の需要は考えず、今回は痛そうな組み合わせを考えたらこうなりました。結果的に今回のカップリングでは唯一まともなCPになってしまいましたがw


>顔文字やAAは乱用するわ、至る所誤字だらけだわと問題点も目立ちましたが、奇抜ながらも各ポケモンの特性や特徴を巧みに組み合わせたカップリング、緻密にしてエロチカルなポケモンの描写(特にアイアントw)、クスリとくるギャグネタで引っ張っておいて最後にシェイミ×グラシデアの花で綺麗に締める構成などの見所も多く、非常に楽しませてもらいました。 (2013/09/07(土) 02:05)
AAはTwitterでの流行のネタを使いました。ギャグを強調するために使いましたが、だからと言って、そのほかの表現で手抜きは全くしていないつもりです。誤字のほうは済みませぬ……時間がなくって……


>ポケモンごとの特徴がよく物語に機能していて、特にアイアントが攫われてからの流れは面白かったです。また、ツイッターで流行ってる表現をあなたのような方が小説内で使うのは意外や意外、という感じでした笑(2013/09/07(土) 23:37)
あああああああなたのような方とはいったい? まさか予想なんて出来るはずもないですしねぇ……

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*1 生まれた時点で1歳となり、年が明けるごとに1つ年を取る計算方式
*2 6時間ほど
*3 弟、もしくは妹

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Last-modified: 2013-09-08 (日) 00:00:00
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