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2010年5月4日 作品を投稿
むかしむかしあるところに、チビでデブな成人男性が一人おりました。チビでデブな成人男性はそれなりに裕福な暮らしをしていました。チビでデブな成人男性はいつも幸せに生きていました。
むかしむかしあるところに、小さな小さなレックウザが独りでおりました。小さな小さなレックウザは辛い辛い暮らしをしていました。小さな小さなレックウザはいつも寂しく生きていました。
チビでデブな成人男性はレックウザのご主人様として、レックウザはチビでデブな成人男性からの命令を受けて、一生懸命に働きます。
「やいレックウザ、今日は天気が悪くて洗濯物が乾かない。だからこのカゴの中にあるものを持って、雲の上までひとっとびしてくるんだ」
チビでデブな成人男性からの命令に勢いよく、しかし、とてもとても小さな声でレックウザは返事をしました。そしてそのままその小さな体を大きなカゴへと滑り込ませました。
だけれど上手くはいきませんでした。小さな小さなレックウザにとって、大きなカゴの中にある洗濯物は余りにも大きく、そして重過ぎました。
レックウザは一生懸命にその小さな小さな体に大きくて重い洗濯物を巻きつけました。でもそうしてしまうと、あっという間にレックウザは洗濯物に埋もれてしまい、飛び上がるどころか、カゴの中から出ることすらできなくなってしまうのです。
そんなレックウザを見て、チビでデブな成人男性はため息をつきます。洗濯物に埋もれながら、レックウザはそれを聞いて、とてもとても悲しくなりました。
「やいレックウザ、お前は本当に何にもできないどうしようもない奴だな」
チビでデブな成人男性は一生懸命に頑張るレックウザにとても冷たく言い放ちました。
冷たくて重い洗濯物の中で、レックウザはその小さな小さな体の中で、いっそう小さな目からポロポロと涙を零しました。そしてそれはチビでデブな成人男性の目に留まることなく、そのまま濡れきった洗濯物へと吸い込まれていってしまいました。
「やいレックウザ、洗濯物はもういいから、今度は庭のチルタリスを倒してくるんだ」
チビでデブな成人男性はどうにかしてカゴから出ようとしているレックウザにそう言いました。そしてレックウザはカゴから一生懸命に出ようとしつつ、その命令に小さくて甲高い悲鳴をあげました。
「やいレックウザ、この俺様の命令に従えないっていうのか。なんならお前を唐揚げにして食べてやろうか」
またしてもチビでデブな成人男性から放たれた残酷な言葉に、小さな小さなレックウザはガタガタと震えてしまいました。
レックウザは知っていました。チビでデブな成人男性は、いらなくなった自分の下僕を、いつもいつも唐揚げにしてペロリと食べてしまうのです。
「やいレックウザ、さっさと俺様の言うことを聞くんだ。さもないと本当に食べてしまうぞ」
チビでデブな成人男性からの最後の通告を受けて、小さな小さなレックウザはとても慌ててカゴから抜け出しました。そしてそのまま庭へと飛んで行きました。
小さな小さなレックウザが庭へと辿り着くと、そこにはレックウザよりもずっと大きなチルタリスがおりました。
小さな小さなレックウザにとって、大きなチルタリスはとてもとても強そうに見えました。きっと噛み付いても、爪を立てても、チルタリスの青い体には、さらにはふわふわとして柔らかな白い翼にすら、満足な傷一つつけることはできないでしょう。
小さな小さなレックウザはどうしていいかわかりません。このままではチビでデブな成人男性に唐揚げにされてしまいます。
とても困ったレックウザはまたポロポロと眼から涙を零しました。それはチビでデブな成人男性の目には留まらず、目の前にいるチルタリスの目にしか留まりませんでした。
「レックウザさん、レックウザさん、一体どうして泣いているのかな。私に教えてくれませんか」
とても綺麗なソプラノの声で、チルタリスが聞きました。レックウザは甲高くも細い声で、成人男性から命令されたことを伝えました。そうすることで、目の前のチルタリスが怒り、そのまま自分がやられてしまうかもしれなくても、レックウザにとって成人男性の言葉は絶対だったのです。
「レックウザさん、レックウザさん、お話はわかりました。ご主人様には私はもう必要ないのですね」
とても綺麗なソプラノの声でチルタリスは言いました。小さな小さなレックウザはどう答えていいのかわからず、ただその場でオロオロとしていました。
「レックウザさん、レックウザさん、私はこれから歌を歌います。でも、それを聴いてはいけません。絶対に最後まで聴いてはいけません」
とても綺麗なソプラノの声でチルタリスは言いました。小さな小さなレックウザはどうしてかと聞きました。どうして最後まで聴いてはいけないのかと聞きました。
「レックウザさん、レックウザさん、今のあなたにはわからないかもしれません。でもきっと後になったらわかると思います。どうして私が歌うのか」
そう言ったきり、チルタリスは黙ってしまいました。小さな小さなレックウザは少しだけ考えた後、チルタリスに別れを告げて庭から離れました。そうしている途中、小さな小さなレックウザの体の中で、いっそう小さな耳に、とても綺麗なソプラノの声が響いてきました。それは聴く者を惹きつけて止まぬ、とてもとても素晴らしい歌でした。
小さな小さなレックウザは一瞬止まりました。だけれど、チルタリスに言われたことを思い出して、慌てて歌が聞こえなくなるところまで離れていきました。
綺麗で、しかしどこか悲しげな歌が耳から離れてしばらくしてから、小さな小さなレックウザは庭へと戻ってきました。するとそこにはとても安らかな顔で眠っているチルタリスがおりました。
小さな小さなレックウザはチルタリスに声をかけます。けれども返事がありません。
小さな小さなレックウザはチルタリスに体を乗せます。けれども反応がありません。
小さな小さなレックウザはチルタリスに涙を零します。けれども誰も見てくれません。
レックウザはまた独りになってしまいました。けれどもレックウザはチビでデブな成人男性の命令を果たすことができました。そしてそれを報告しにいきました。
「やいレックウザ、お前にしては上出来だ。今日はもういい。とっとと明日の学校の準備をして寝るんだ」
チビでデブな成人男性からの賞賛を浴びて、小さな小さなレックウザは自分に与えられた小さな部屋に戻りました。
小さな小さなレックウザは自分よりも小さなカバンに明日の学校の時間割通りの教科書とノートを詰めました。それから小さなベッドで眠りました。そして小さく小さく泣きました。
「やいレックウザ、いつまで寝ているんだ。とっとと学校に行って来い」
チビでデブな成人男性にとても大きな声で起こされて、小さな小さなレックウザは慌てて鞄を持って学校へと向かいました。
小さな小さなレックウザは学校ではクラスの委員長をしていました。成績もとても優秀でした。友達もたくさんいました。
でも、小さな小さなレックウザはちっとも幸せではありませんでした。いつもいつも悲しそうにしていました。寂しそうにしていました。
小さな小さなレックウザはいつもいつも考えていたのです。一体どうしたらチビでデブな成人男性を喜ばせられるのかと。
学校での一日を追えて、小さな小さなレックウザは急いでチビでデブな成人男性の下へと帰りました。すると
「やいレックウザ、お前はもうここにいなくていい。いなくなるんだ」
チビでデブな成人男性はそう言いました。小さな小さなレックウザは何を言われたのかわからず、その小さな体の中でも、いっそう小さな手から鞄を落としてしまいました。
「やいレックウザ、聞こえなかったのか。ここから出て行くんだ。そしてこの紙に書いてある場所で働くんだ。二度と戻ってくるな」
チビでデブな成人男性はそう言いました。小さな小さなレックウザは震えながらもう一度聞きなおしました。
でも、チビでデブな成人男性からの答えは一緒でした。今までどれだけひどく罵られても、一度も出て行けとは言われなかったのに、とうとう小さな小さなレックウザはそう言われてしまったのです。
そして、レックウザは最後に一つだけ聞きました。
「ご主人様、ご主人様、私がそうしたら、ご主人様は喜んでくれますか」
チビでデブな成人男性は答えました。
「やいレックウザ、お前はわからないのか。ああそうだ。お前が出て行って、そして働いて、この俺様に金が届くのなら、俺様は喜んでやるともさ」
小さな小さなレックウザはそれを聞くと、一体どうしたのかその小さな小さな体が白く輝き始めました。
それから小さな小さなレックウザを取り巻く白い光はどんどん、どんどんと大きくなっていきました。それに合わせて、大きかった庭も、部屋も、そして何よりも大きかった者が小さくなっていきました。
バシャッと大きな音をたてて、チビでデブな成人男性に冷たくて塩辛い水がかかりました。それから、野太くて大きな声で、どこからでも誰にも届くような声で、小さかったレックウザは言いました。
「ご主人様、ご主人様、さようなら」
小さかったレックウザはないていました。ポロポロと零れる涙はいまやとても大きくて、一番見て欲しかった者に確かに届いたのです。
小さかったレックウザは飛んでいきました。どこまでも、どこまでも飛んでいきました。
小さかったレックウザはいなくなりました。その後には、腰を抜かして呆然としているチビでデブな成人男性がいるのみでした。
むかしむかしあるところに、チビでデブな成人男性が独りでおりました。チビでデブな成人男性はとてもとてもお金持ちでした。だけれど、チビでデブな成人男性はいつまでも独りでした。そしてそのまま寂しく生きていきました。
むかしむかしあるところに、大きな大きなレックウザが一人おりました。レックウザはその大きな体にたくさんの子どもを乗せていました。大きな大きなレックウザはいつまでも独りになりませんでした。そしてそのまま幸せに生きていきました。
おしまい
皆様こんにちは。こんばんは。おはようございます。初めまして。亀の万年堂でございます。
チャットが元で生まれる話もあるんだよ、ということをすでに実践されてきた先達の栄を追わせていただく形で、今回はお話を編ませていただきました。といっても、ある意味ではこれは私の妄想の成れの果てであるとも言えるわけですが。
なお、このお話は2010年5月2日に行われましたチャットの一部を引用し、生み、昔話風に精製させていただいたお話です。一応原材料といいますか、テーマには以下のようなものがありました。
・レックウザはあまり可愛くない。大きくて喧嘩っぱやそう。主人公にしにくそう。
→とりあえず小さくする。穏やかにしてみる。学校では委員長をするなどして優秀。
・チルタリスは焼き鳥にする。
→本編では唐揚げになりました。カラッ
・レックウザは日○昔ばなし風に子どもを背中に乗せて飛ぶ。
→そのまま採用。
・レックウザは洗濯物を干す
→できないことでダメっ子補正。
・チルタリスはソプラノの悪魔
→ほろびのうたー
他にもいくつかあったと思いますが(グラードンは洗濯物を燃やしてしまう等)、今回引用させていただいたのは主に上記の通りでした。
ちなみにこれらは複数名によって出されたものなので、私の捉え方必ずしもその方々に沿うものになっているかどうか、そして作品において表されているかどうかは確信を持って言えるものではありません。
チャットに参加されていた方々全てから許可を得る機会を十分には持てず、事後承諾という形をいくらか取る形で投稿してしまったことと合わせて、関係者の皆様に深くお詫び申し上げます。
作品の内容に入りますが、今回は実に「よくある昔話の形」をとらせていただきました。設定に大分無茶はあるものの、昔話というのは得てしてそういうものですから、きっと違和感なく読んでいただけるのではないか・・・と思います。思うことにします。
チビでデブな成人男性に虐げられる健気な小さな小さなレックウザ。男性は平均的な成人男性のそれを、レックウザはその手の上に乗る程度だと考えていただければと思います。
今回は全くキャラの容姿については説明を入れておりません。(チルタリスは少しありますが) 故に成人男性を見たことがない方、レックウザという愛すべきたらこ唇の龍と遊んだことが無い方には相当イメージがし辛いものとなってしまいました。
私は基本的に登場人物の死を直接明記するような表現はしません。しかしながら、今回は「唐揚げ」「生きていきました」「眠ったままでした」と大分それとわかる表現をつかわせていただきました。昔話というのは、もちろんご存知の方が大半だと思うのですが、簡単に人に動物、果ては幽霊や食器などというものが死にます。それもかなり残酷な死に方や殺され方をします。それには勧善懲悪を含めた教訓めいたものを示唆しているところが大きいと思うのですが、それ故に読むものには大きなインパクトを与えます。
ちなみに言わせていただくと、別に私はチビでデブな成人男性を嫌悪しているわけではありません。むしろ(不適切な表現があったため削除されました)です。禿げているとなお(不適切な表現があったため以下省略)です。どうでもいいことでした。
場合によってはもう二度とないかもしれませんが、特にマズいことが無ければ、またチャットで出た妄想、練られた暴走、この世の麗しき神秘からいんすぴれーしょんを得られた際には、このような形をもって生み出していければと思います。
それではいつもように長くなってきたのでこのあたりで締めたいと思います。ここまで読んでくださってありがとうございました。次回も私の世界に付き合っていただければと思います。亀の万年堂でした。
すぺしゃるさんくす
2010年5月2日にチャットを交わした方々
何かあったら投下どうぞ。
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