シオンがオダマキ博士のところへと挨拶しに行く事となったその日、早朝。
「…」
「あなた、忘れ物は?」
「大丈夫だ、問題ないよ」
父、センリがトウカシティのジムリーダーである為、基本的に彼らの朝は早くなる。
徒歩三十分の道のりではあるが、ジムの仕事は意外と多く、ただ単純に挑戦者の相手をするだけではなく、ポケモンの捕獲や相談、新米トレーナーの教育、挙句の果てには担当する町の問題などにも関与しなければならない為、ジムの掃除などを合わせるとどうしても出かけるのが早朝になってしまうのである。
「お前も、もう十七になるのだから、挨拶ぐらいはしっかりとしておけよ」
「あぁ…分かっているよ」
「やれやれ…それじゃあ、いってきます」
「はい、気をつけてね」
その為、シオンも自然と早起きとなり、引っ越したばかりでまだ仕事も見つからない為、嫌々ながらもこうして父親を見送らなければならなかった。
不機嫌そうな息子に、センリは半ば呆れた顔で再度、昨日と同じ言葉を繰り返し伝える。
決して目を合わせようとはせずに端的に答える息子に、センリはため息をつきながらもその息子と妻に声をかけて、自身のジムがあるトウカシティへと向かっていった。
※※※
「…さて、と、私はまだ引越しの後片付けがあるから今日一日家にいるけど、貴方はどうするの? 挨拶に行くにはまだ早いかもしれないけれど…」
「…昨日の夜、新聞のチラシにコトキタウンって町で、フレンドリィショップのアルバイト募集があったから、まずはそこに行ってみるよ。…近いし」
父、センリの姿が見えなくなってから、母親は未だに片付いていない家を振り返り、張り切った様子を見せ、息子の予定を伺う。
その振りが、用事が無いようだったら片づけを手伝わせる気だと悟ったシオンは、素早く新聞のチラシを出して母親に見せる。
「…あら、本当ね。…ふむふむ」
「…」
すると、母親はシオンからそのチラシを受け取ると、アルバイト募集欄に書かれている内容を読み始める。
普段はボケっとしている母親であったが、こういうところはしっかりとしているな、と熱心に黙読する母親に、シオンはやや感心する。
「…うん。簡単な面接があるみたいだけれど、シオンはジョウトでもショップアルバイトをしていたし、さらにポケモントレーナーの資格を持っているから、余裕で大丈夫ね」
「…募集内容をよく見ろよ。荷物の整理や搬入の際の仕分け、それとレジ係だけだ。ポケモントレーナーの資格は関係ないだろ」
すると、その内容を読み終えた母親は、チラシをシオンに返しながら、彼の経験と資格を口にしながら応援の言葉をかける。
だが、その言葉を聞いたシオンは、あからさまに不機嫌な顔になり、自分が持つ、ポケモンを扱う資格の中でも、ポケモンセンター等のポケモン専用医師免許の次に取得が難しいといわれているポケモントレーナーの免許はアルバイトに関係の無い事を吐き捨てるように言う。
「…で、でも折角大人でも習得が難しい免許を持っているのだから、それを見せればもっと時給も上がるし、待遇も大分違ってくるわよ?」
「…ポケモントレーナーでも無い俺が、こんなものを提示しても疑われるだけだ」
「それでも、半年に一回の定期適正検査や、二年に一度の免許更新にはしっかりと通っているし…」
「関係ないって言っているだろっ!!」
「ご…ごめん、なさい」
「~~~っ!! もういい、出かけてくる!! 朝ごはんもいらないから!!」
しかし、その免許を提示するだけで、一般人が入れないようなところへ入れたり、仕事の給与が上がったりする事を知っている母親は食い下がりながらも、息子がその免許を大事にしている事を交えつつ、説得をする。
すると、自分が免許を大事にしているという部分に触れられたシオンは隣の家にも聞こえるぐらいの怒鳴り声を上げ、謝る母親を無視してミシロタウンと、コトキタウンとを結ぶ101番道路へと向かっていった。
※※※
「…面接時間には早すぎたな」
101番道路へと続く道を歩きながら、チラシの内容を再度確認したシオンは、面接時間に指定があった事に気付き、その足を止めてため息をつく。
「…先に朝飯だけでも済ますか」
怒りに身を任せたとはいえ、朝ごはんを抜いたのは少々厳しかったのか、近くにあった柵に腰を掛けながら自分の財布の中身を確認し、まずは朝食を済ます事を優先した。
「よし、そうと決まれば…ん?」
即断、即決、即実行をモットーとしていたシオンは、その柵から腰を上げるとコトキタウンへと向かおうとして、再び足を止める。
「…」
「…おい、どうした?」
その視線の先には、小さい女の子が顔面蒼白になりながら101番道路の草むらを眺めており、それが気になったシオンは彼女に声をかけた。
「このさきでさけびごえがきこえるよ!? どうしよう? どうしたらいいかな? だれかたすけにいかなきゃ…」
「あ~? そう言われたら、確かに聞こえる…っ、ポケモン!!? まずい!!!!」
「あっ!! おにいちゃんっ!!?」
すると、声をかけられた少女は、ゆっくりとシオンのほうを向き、草むらへと指を向けながら状況を説明する。
それを聞いたシオンは、眉を顰めながら耳を澄ませる。
そして、人の叫び声にポケモンの鳴き声が混じっている事に気付いた彼は、幼い頃のトラウマを思い出しながら、思い切ってその声が聞こえるほうへと走っていった。
※※※
「はぁっ!! はぁっ!! 大丈夫ですかっ!!?」
「たっ、助けてくれ~っ!!」
走ってその現場にたどり着いたシオンは、大声で叫び声の主を探す。
すると、草むらから四十代ぐらいの男性が草むらから飛び出し、その後ろからポケモンがついてきている事も確認する。
「何だ、あのポケモンは…」
「おーい! そこの君! 助けておくれー!!」
「っ!? わ、分かりました!! すぐに人を呼んできます!!」
そして、今までジョウトとカントーにしかいなかった彼は、その男性を追いかける黒い犬のようなポケモンに目を奪われる。
だが、そのポケモン、ポチエナに襲われている男性の声を聞いて我に返ったシオンは、すぐにミシロタウンに戻って誰かポケモンを使えそうな人物をつれてこようと彼らに背中を向ける。
「ど、どこにいくんだい? 私を見捨ていないでおくれ~!!」
「っ!? ですがっ、俺はポケモンを持っていませんよ!? どうしろって言うんですか!!」
しかし、背中を向けるシオンに、見捨てられたと勘違いした男は、懇願するように叫び、それを聞いた彼は、ポケモンに対抗する為のポケモンを持っていない事を正直に話す。
「そこにある鞄の中に、モンスターボールが入っている!!」
「っ!!? で、でも俺は…」
すると、その男性は近くに落ちている鞄を指しながら、中にポケモンが入っているモンスターボールがある事を伝える。
だが、それを聞いたシオンは、体を痙攣させてその場で固まってしまう。
あの事件以来、自分からポケモンを持つ事は無く、また自分自身でもポケモンにはなるべく近づかず、触れないようにしていた為だった。
「ぎゃーっ!? は、早く助けてくれ~っ!!!!」
「っ!!? …っく、今回、今回だけだからな!!!!」
しかし、男性が転倒し、その上にポチエナが圧し掛かって噛み付こうとしたのを見て、シオンは下唇を噛みながら鞄に手を突っ込み、一個だけあったモンスターボールを彼らの近くに投げるのであった。
と、いうわけでお久しぶりです。アーベントです。
ようやくポケモンらしくなってきました…が、早速ポケモンの設定を勝手に変えてしまっているので簡単に説明をば、
文中にありました『ポケモントレーナー』の資格ですが、車の免許のようなものだとお考え下さい。
細かい設定は省きましたが、誰でも受ける事が出来るが、実際にその免許を手に出来るのは満十歳を超えたときであり、その前に取得した者についてはポケモン協会が預かる、という感じです。
主人公であるシオンは、大人でも難しい(バトルだけでなく、道具やポケモンの習性なども覚えなくてはならないので)免許を七歳の時に取得しており、それを十歳になる目前のとある事件によって五年間停止処分を受けていた為、今では知識だけしか残っていない状態です。
詳しい世界観については、作者ページを作った際にでも書こうかと思っておりますが、まずは話をある程度進めて、登場人物紹介が出来るぐらいになったら書こうかなって思っておりますので、お待ちください。
さらに言ってしまうと、登場人物の大体は何かしらの特殊能力を持っております(見た感じと行動で性格が分かる、ポケモンの急所が見える、ポケモンの感情が分かるなど)
よって、主人公も例に埋もれず、特殊能力を持っていますが…私は最初から強い主人公、という設定があまり好きではないので、彼には結構な数の負けバトルをしてもらいます(笑)
自分の中で、やっぱり最強はレッドさんしかいないです!!
…話が逸れてしまったところで終わります。よろしければまた次回も見てくださいm(_ _)m
あ、後、主人公の喋り方が安定しないのは、自分よりも年下や知り合いにはタメ口。自分よりも年上や、姿の見えない者、尊敬する者には敬語を使うという分かりやすい性格をしている為です。
分かりづらくて申し訳ありません。