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空白のメール

/空白のメール

by瀞竜

空白のメール

※微妙にホラー、官能表現もあり(シーンはありません。)



「空白のメールって知ってる?」
僕の隣にいる彼女、エモンガがいきなり話題を振ってきた。
「空白のメール?何それ?」
「私も最近知ったんだけどね…」
星空を見ながら、間をおいて話し始める。
「そのメールはね、自分が死んじゃったとき…最後に送ることが出来るメールなんだって」
「…それで?」
「うん…アドレスも件名も空白で本当に大切に思ってる人に、一言だけ送れるメール…それが」
「…空白のメール」
とてもしんみりとした内容に僕は暗い道を眺めるしかなかった。
「それとね、そのメールが届いたらしてはいけないことが1つだけあるの」
「…?」
「返信は、しちゃ駄目なんだって…」
「…どうして?」
僕がエモンガの顔を見ながら聞くと、彼女は唸りつつも答える。
「うーん…それは、わからないや」
にっこりと笑う彼女に僕も笑顔になる。
「…そのメールが来ないことを、祈るよ」
「そうだね…」
暗い帰り道に、また静寂が訪れる。…不意にエモンガが僕の腕にしがみ付く。
「……」
「…チラーミィ、私の家に…来る?」
「うん…」
僕らは関係を作って数ヶ月。体を重ねるようになったのも、つい最近のことだった。これ以上にない幸せを僕は感じている。
「ありがとう、チラーミィ」
「へへっ…」
行為を終えて僕は彼女の家の玄関先に立っている。お互いに見つめあい、そして唇を軽く重ねる。すぐに離れると、赤くなった彼女の顔がそこにはあった。
「じゃ、またね…」
「うん、また明日…」
そう言って、エモンガの家を後にする。帰り道、僕の顔には自然に笑顔が出来ていた。

…しかし、あんなことになろうとは。

翌日、朝起きて僕はいつものようにリビングに行くと母親の姿がなかった。
「あれ?…母さん?」
寝室や台所などを探してみるがいない。その時、家の電話が鳴った。誰もいない家で電話を出るのは、自然と僕になる。
「…もしもし?」
「…チラーミィ君?」
声の主は、エモンガの母親のようだ。かすかに声が震えている。
「あの、今…」
「…エモンガ…が…」
「…え?」
…時が止まった…気がした…。

昨晩のことらしい。僕と別れたエモンガは1人でコンビニまで歩いて行ったそうだ。その帰り道に…トラックに…撥ねられ…
「死…んだ?」
今、病院の一室…エモンガが寝ている部屋に来ている。僕の前には昨日まで笑顔を見せていたエモンガが白い布をかけて眠っている。
「…トラックの運転手は、まだ特定できていません」
「……」
母親や警察の話も途切れ途切れにしか耳に入ってこない。…どうやら、ひき逃げらしい。いや、そんなことより。
「エモンガ…」
僕はエモンガに近づく。布を取って顔を見る。…顔に傷はなく、とても死んでるようには思えない…。後ろから撥ねられて、後頭部を強く打ったんだ。
「エモンガ…どうしてっ…!」
ようやく、僕はエモンガのそばで涙を流した。これまでの思い出、彼女の声…顔…すべてが、走馬灯のように浮かび上がってくる。
「どうして…なんだっ…!!」
僕は泣き崩れた。涙が出なくても、泣きに泣いた…。一番大切に思う人が…いなくなってしまったのだ。
「……」
病院から家に帰る途中、夕日が落ちるのをぼんやりと眺めている。…エモンガと一緒に眺めたこともあった。
「エモンガ…」
いくら、名前を読んでも起きない。…せめて、もう一度だけ、彼女の声を…いや、言葉を…聞きたかった。
「……はぁ」
ため息をついた瞬間だった。メールの着信音が鳴り響く。僕はゆっくりとケータイを開く…そして、驚く。
「なんだ…これ?」
そのメールはアドレスも、件名も…何も書かれていない。…ただ、一言だけ本文が書いてある。
「『…ごめんね』」
「……」
僕は言葉が出なかった。きっとこれは、エモンガがいっていた空白のメールに違いない。僕はすぐにそのメールを返信しようとした。
「『謝らないで…キミは悪くないよ!』」
…エモンガは、返信してはならないといっていた。しかし、不思議な気持ちに僕はなっていた。
このメールを返せば、エモンガに逢える…!
何の確証もなかったけど、そんな気持ちに駆り立てられ…僕は…返信の…ボタンを…
「……っ!」
…押した。突如、急ブレーキのかかる音が鼓膜に届く。後ろを見ると、目の前には…トラックが迫っていた。
「えっ…」
そこからは…記憶がない。

(今日の午前10時ごろ、○○病院近くの道路でポケモンとトラックの衝突事故がありました。…この事故の容疑ポケモンは昨晩の事故と同一人物で、居眠り運転が引き起こした事故として警察が―――…)
ラジオから、そんなニュースが流れている…気がした。
ココがどこかもわからない。不思議なものだ。…自分が見える。
「『チラーミィ…』」
振り向くと、そこには一番大切な人…
「『エモンガ…』」
エモンガが手を差し伸べてくる。僕はそこに手を重ね、軽くなった体で、宙に浮かんでゆく。
そう僕は…死んだ。











空白のメール…
死んだ人が本当に大切に思う人に送れる最後のメール。
アドレスも、件名も、ない。
そして、決して…返信してはいけない。
なぜなら、返信した人は……死んだしまうからだ。

―END―


本当に短い短編です。
こんなメールがあったら、少し怖いな…。
そんなことを考えて作った作品です。
…小説の能力が低下してうまくかけていないです(個人的に)


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  • 個人的には好きです。
    話も纏まっていて、余計な脚色も無く読みやすいです。
    ―― 2011-08-18 (木) 07:27:15
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Last-modified: 2011-08-17 (水) 00:00:00
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