ポケモン小説wiki
空の特攻隊! たまには穏やかな日を

/空の特攻隊! たまには穏やかな日を

何時ぶりだ!? と自分でも思いながら、更新せずとも書いた分を置いて行かせて頂きます。
根幹のストーリーは完結まで出来ているので、出来れば完走したいもの……更新期間が長過ぎて信ぴょう性の無い目標ではありますが……。

目次はこちら


「え、今日の探検は三匹で行きたいの?」
「うん、いいかな? キーネ」

 えっと、現在朝礼が終わって、各弟子に今日の仕事の担当が割り振られたんだけど……。
なんでかアークとガディ、それにパズの三匹が私の前に並んで、そんな提案をしてきたところ。一体何があったのかな?

「別に構わないけど……どうしてまた急に?」
「オイラから説明するでゲス! 昨日のお尋ね者退治は、殆どキーネに先導してもらった形で終わったでゲス」
「そう? メンバーを二つに分けたりしたからそうでもないと思うけど」
「それでもキーネの功績は大きかっただろう。基本となる策や方針を思いついているのはキーネだしな」
「でも、それじゃあキーネが疲れちゃうでしょ? だから今日は、僕の探検隊としての経験を積む為に主に僕が率先して探検をしてみたいなと思って」
「未発見の探索エリアの捜索という事だったが、サポートは俺一匹で十分だろうしキーネには今日はゆっくり休んでもらおうという話になったんだ」
「で、あっしは昨日に引き続きブレイブの手伝いをやらせてもらいたいって事で、今日はアークと一緒に率先して探検をしてきたいって次第でゲス!」

 なるほどねぇ……別に休みなんて要らないけど、確かに私は探検に行っちゃうと余計な事をつらつら言っちゃうかも……それに、危険察知の勘を磨くなら、ある程度自分で何処に何があるって言うの見るのも勉強かぁ。
そういう点なら、私よりガディの方が適任かも。私みたいにガンガン進むタイプじゃなくて、一歩引いて安全を確認しながら進んでいくタイプみたいだし。

「んー……分かった、皆がそうしてみたいって言うなら、私は応援するよ」
「ありがとう! 頑張って、キーネの後ろじゃなくて隣で探検出来るようになりたいんだ、僕!」
「ちょ、急にそんな事言われるとなんだか照れちゃうなぁ……でも、無茶はしないでねアーク。ガディも、二匹の事お願いね」
「任されたよ。と言っても、そこまで心配はしてないがね」

 まぁね。なんだかんだ言ってパズもアークも私達について来れてたし、それなりにもう実力は芽生え始めてるっぽいからね。
さて、それじゃあって事で三匹は探検の準備に行っちゃったんだけど、私はどうしようか? 休めって言われても、実際そう疲れてる訳でもないんだよね。

「あれ、キーネ? アーク達ならタウンの方へ行ったけど、どうしたんだい?」
「んー、ちょっと急な休暇状態ってところかな。簡単に説明すると、私抜きで探検してみたいんだって、皆が」
「あぁー……まぁ、キーネが一匹居るだけで探検隊の質は相当上がるだろうからね。アークとしても、自分がどれだけ出来るのかを知りたくなったってところかな」

 へぇ、流石一番弟子って言ってるだけあるねハーモ。力量を見抜く目は確かみたいだわ。まぁ、私はそこまで出来るって言うつもりは無いけど。
……そうだ。ついでだし、今日はハーモの手伝いでもしようか。毎日大変そうだし、一日くらい手伝いが居ても、ハーモも悪くは思わないでしょ。

「ねぇハーモ、今日一日って事にはなるけど、アシスタントを付けてみない?」
「アシスタント? 確かに仕事の手伝いをやって貰えると助かるけど、弟子は皆出払って……あ」
「どう? ちょっと気性は粗めかもだけど」
「いやいやそんな! 優秀なアシスタントなら大歓迎だよ♪」
「買いかぶり過ぎだよ。とりあえず、今日は邪魔にならない程度に頑張るよ」
「あぁ、よろしく」

 ふふっ、今日限定の即席コンビってところかな。と言っても、別に探検に行く訳ではないけど。
じゃ、今日はしっかりアシスタントを務めるとしようか。ハーモが普段何をやってるかを知る良い機会でもあるしね。



「それじゃ今日は……手配書の分別から始めようか」
「分別? 貼るだけじゃ……あぁそっか、ランクね」
「当たり。ある程度ランクに分けておけば掲示の時も見る探検隊も楽でしょ? っていうか、分けないと貼るダドリが混乱しちゃってねぇ……」
「ダドリ? うーん、もしかして食事の時に居るダグドリオの事?」
「そうそう。ダグの父親なんだけど、ダドリの場合は弟子って言うよりそういう仕事に就いてるって考えてくれた方が確かかな」
「へぇ、ダグの……あれ? じゃあダグの母親は?」
「んー、ここに連れて来た事は無いけど、近くに暮らしてるらしいよ。たまにどっちも一緒に家に帰ってるし」

 そ、そうなんだ……トレジャータウンでもそれらしいポケモンに会った事無いし、本当に居るのかなぁ? まぁ、そんな事考えても仕方ないか。
とりあえずまずは作業を始めようか。えっと、各ランクに分けて、それをそれぞれに纏めればいいみたい。なら簡単かな。
半分くらいをハーモから受け取って、分別始めっと。えっと、ノーマルブロンズブロンズシルバーノーマル……。

「ほう、流石に飲み込みが早いね。前に手伝わせたサニーなんてキャーキャー間違えたって騒いでたものだよ」
「まぁ、余計な情報見ないでランクだけ見て仕分けてるからね。手配者の絵とか見てたら間違えそうだよ」
「そうなんだよ、その集中力が他の弟子にもあれば仕事を一部任せられるんだけどねぇ」

 なんて口を動かしつつハーモもきちんと仕分けていってる。流石ね。
せっせと二匹で分別中……よくよく思うと、何も地下二階のど真ん中でやる必要も無いような? と思ったけど、どうやらこれはハーモが他の弟子に目を光らせる為みたい。これは皆サボれない訳だわ。
ん、こんなものかな。大体三十枚くらいあった手配書の仕分け終わりっと。二匹でやったから、総数は60枚くらい? 結構来るのね。
最後に一応仕分けたそれぞれの山の確認をして……うん、我ながら完璧。

「よっと、そっちも順調に終わったみたいだね」
「うん。次は依頼書?」
「正解。じゃ、こっちも同じ手順でお願いするよ」
「了解」

 手配書はハーモが仕分けた山とそれぞれ一つにして、混ざらないように少し離して置いておいたわ。やり直しは面倒だから勘弁して欲しいし。
それじゃ今度は依頼書に着手開始。これもさっきと同じようにランクを見てパパパッとね。

「こうやって見ると、毎日結構な依頼とか手配書来てるんだね」
「実はそうじゃなくて……依頼は毎日こうだけど、手配書については今日がたまたま警察隊から届く日だったって話だったりするんだけどね」
「あ、そうだったの? なら良い時に手伝いを申し出たかな」
「本当助かるよ。いつもはベルゥなんかに少しだけ手伝わせたりするんだけど、このギルドの台所と受付を任せてるからなかなか手伝わせるのも偲びなくてさ」
「へぇ、受付ってこの依頼のでしょ? ベルゥって結構忙しくしてるんだ」
「このギルドの弟子の中でも、かなり忙しい部類に入るのは確かだね。他の弟子は探検に行くなりなんなりが主だしさ」

 なるほど、こういう裏方の仕事をしないと分からないことって結構あるものねぇ。

「ハーモさーん。手が空きましたけど今日は……って、あれ?」
「噂をすればだね。ベルゥ、今日はこの通りキーネが手伝ってくれてるから、受付の方を頼むヨ」
「はーい、分かりましたー。頑張ってね、キーネちゃん!」
「あはは、まぁそこそこにね。はい、終わり」
「は、話しながらでもこの仕事ぶり……ドゴ辺りに見習わせたいくらいだよ」

 そう? これくらいなら誰でもそう掛からないで終わると思うけどな? それにハーモもそう遅れずに終わったみたいだし、これで書類の分別は終わりかな。
あ、この分けた書類達はどうすればいいのかな? 何処かに運ぶとか?

「ハーモ、この手配書なんかはどうするの? 運ぶんなら運ぶけど」
「いや、それをやるのは……ダドリ! 仕分けたから持って行っておくれ!」
「了解!」
「うわぁ!?」
「っと、言う訳さ」

 い、いつの間に!? 地面から三つの頭がボコボコっと出てきたわ……。なるほど、貼るのはこのダドリなんだから、管理も彼に任せた方がいいって訳ね。

「呼ぶ前に何か一声あっても良かったんじゃない?」
「ははっ、ごめんごめん。じゃあここはダドリに任せるとして次は……」
「あ、なら食堂の食べ物の確認しちゃいません? 三匹でやればすぐ終わると思いますし」
「そう言えば、あれの数を確認してるのもハーモって聞いたね。やるならやろうか」
「ふむ……それじゃ、ベルゥもキーネも手伝いを頼むよ。やる事は一つ一つ終わらせよう」

 はい、そういう訳で食堂に移動ね。……しかし、乱雑に置かれてるよねぇ、ここの食べ物。ただ積んであるって言っても間違いじゃないよ。
これの個数をハーモは把握してるのね。なんというかそれは、職人芸と言うかなんと言うか……。

「じゃ、調べちゃおうか」
「調べるのもいいけど、整理しないここ? なんかこういうの見てると落ち着かないんだよね」
「確かに……いつもはハーモさんとだけでやってますけど、今はキーネちゃんもいますから、やってやれなくはないかな」
「整理すればより摘み食いの防止にもなるか……この際だから、徹底的にやろうか」
「賛成。じゃあ、私とベルゥさんで整理はやるから、ハーモは確認を主にやっていって。その方が多分早く終わるでしょ」
「分かった、じゃあ手分けしてやってしまおう」

 ……はっ、なんで私が仕切ってるんだろう。うーん、これはもう私の癖っていうか、ついなんでも口出ししちゃうんだよね。
これは、今日皆について行かなかったのは正解だったかも。多分間違い無く、また無意識に仕切っちゃってただろうなぁ。
とにかく、今はやる事をやろう。ベルゥさんと声を掛け合いながら、食べ物の山から同じ物を探して集めていく。こうやって見てると、各種木の実なんかも集まってるしなかなかの備蓄だね。
でも痛んでるのもある……これは除外しておいてもいいよね。もう、きちんと整理しておかないからこういう傷んだ木の実とかも出てくるんだよ。

「リンゴ、マトマ、チーゴと、こっちはこんなものかな」
「こっちも、仕分け終わったよ。……キーネちゃん、本当に作業早いね」
「こういうのに時間掛けてると、修行なんかの時間が減っちゃうからねー。面倒な事ほど、時間を掛けないでやるのがベストでしょ」
「うーん、痛んでる実をキーネが選別してくれたのを除いても、何個か足りない……誰か、また摘み食いしたな? まったく、ベルゥも難しいとは思うけど、ここの管理も出来るだけ頼むよ」

 ハーモの記憶力も相当だね。よくそういう細かな木の実の数まで覚えてるよ、しかも整理されてなかったのに。
あ、ベルゥさんからそっと聞いた事によると、どうやらこの木の実の買い付けをハーモがやってるから覚えてたみたい。そりゃ、何か種明かしが無いとこれを管理しておくのは無理だろうな。
買い付けるだけじゃなくて、皆が探検で集めてきた食べ物も中にはあるのかと思ったんだけど、それは無いみたい。皆、自分の小腹が空いたら食べちゃうんだって。依頼の分のお金はギルドに入るんだし、それくらいはお目溢ししてるって感じかな。だからこそ、摘み食いに厳しいんだろうけど。

「それで、お次はなんの仕事が待ってるのかな? 一番弟子様」
「おっとと、そうだった。んー、事務的な事は片付いたし、ギルド内の掃除に移ろうか。ベルゥは受付の仕事に戻っていいよ」
「分かりましたー。じゃあキーネちゃん、休憩の時にでもまた食堂に来て。何か出してあげるから」
「え、いいの? 勝手に食べたらハーモ怒るんじゃ?」
「勝手に、食べたらね。でも私も一緒に休憩するなら問題は無いんじゃないかな?」

 なるほど、それもそうだね。それじゃ、ギルド内の掃除に取り掛かろうか。

「……っていうか、そういうのって普通弟子の仕事でしょ? なんでわざわざハーモがしてるの?」
「キーネやブレイブの皆はともかくとして、他の探検隊が居るところでうちの粗相をひけらかせないでしょ? そういう事だよ」

 あー……なんというか、結構他の弟子の面々って抜けてるところありそうだもんね……。それを表にあまり出したくないと、そういう事か。

「全く、どうして皆外では結構しっかりしてるのにギルドではだらしないところが目立つのかなーもう……」
「それだけ、安心してここで過ごしてるってところなんじゃない? 食事の心配は無いし、こうしていつもギルドを気に掛けてる管理者も居る事だし。これも、ハーモの努力の結果なんじゃない?」
「だったらその結果をもっと他の利益になるところで感じたいものだよ。はぁ……」
「まぁまぁ。さ、お掃除お掃除。ね」
「……そうだね。今日はアシスタントも居ることだし、頑張っていこうか」

 こんな笑い話をしながらしてるからか、なんだかハーモの機嫌も良いみたい。手伝ったのは正解だったかな。
ふーん、布とか箒とか、ちゃんと掃除用具はあるんだ。これで窓拭いたり、毛なんかを集めて片付けるんだ。よし、気合い入れてやるとしようか。



 こうして掃除をしてみると、このギルドもなかなか広いわ。考えてみれば相当数の探検隊も居られるようになってるし、依頼の窓口にもなってるんだから当然と言えば当然なのかもね。

「いやーでも、こうしてキーネが手伝ってくれて本当に助かったよ。いつもより随分作業が捗るし、こうしてゆっくり休憩出来る時間も取れたしね」
「これはちょっと何か考えた方がいいよ、ハーモ。一匹でやってたらハーモが体調崩すって」
「分かってはいるんだけど……なかなかそこまで任せられる弟子が居なくてねぇ……」
「クク……言えば俺でも手伝いくらいはするがな」
「ならお前はもうちょっと愛想を良くする練習をしてよルガン。前に他の探検隊に気味悪がられてたのを忘れたとは言わせないヨ?」
「ククク……クククククククク……」

 なんで笑うだけなのかしらね。おまけにその笑い方が不気味な要素の一つだと思うんだけど、口にしたらなんか呪われそうだから止めとこ。
今は食堂でベルゥが用意してくれた木の実なんかを摘んで休んでるところよ。なんでかついでに居たルガンもついて来て休んでるけど。

「……ところで気になってたんだが、キーネ、その首から下げてるのはなんだ?」
「ん、これ? この前探検したトゲトゲ山で見つけたっていうのかな? とにかく、そこで手に入れた指輪だけど」
「気になる」
「え?」
「ちょっと見せろ」

 と、唐突に何を……まいっか、断る理由も無いし、見せるくらいいいか。
渡すと、予想外に丁寧な手つきで扱ってくれてる。あ、布なんか出して磨いてくれたりもしてるみたい。ちょっと以外かも。

「ほう……ククククククッ!」
「な、何? なんなの?」
「る、ルガン?」
「こういう物は出会うべくして主と出会うと聞くが……これだけのレア物を引くとは、面白い」

 布に乗せられた指輪がスッと差し出された。なんだったの一体?

「専用道具」
「へ?」
「それを持つべき者が持った時だけ特別な力を持ち主に与える道具……知ってるか?」

 私もハーモも、おまけでベルゥさんも首を横に振った。そんなのあるの?

「ククッ……まぁいい。とにかく、そういった道具がこの世界にはある」
「話の流れからして、これはそれ、なの?」
「……破邪の指輪。それの名前だ」
「破邪の……指輪」
「持ち主を邪なる念から守り力を授ける……古く、勇者と呼ばれる種族に力を与えていた道具」
「勇者? それって?」
「ずばり、種の名前はルカリオ。そして……リオルだ」

 それって……私!? じゃあこれは、私なら使えるって事?

「ククク、巡り合わせとは、だから面白い」
「で、でもそんな何か変わった感じは無いけどなぁ?」
「特定の条件がある。もしくは、まだ指輪が眠っているか……身に付けてれば、その内何かあるだろ、知らんが」
「だ、大事なのそこじゃないの? っていうか、なんでルガンはそんな事知ってるの?」
「そ、そうだ。私だってそんな話聞いた事無いよ! それをなんでお前が!?」
「ククククク! ……内緒だ」

 ガクッと来たわ。そこで内緒って……そりゃないでしょ。
あ、でももう本当に話す気無いみたい。ハーモが詰め寄っても笑って誤魔化してるし。

「とにかく、大事にしろ。もう二度と手に入らないかもしれないからな」
「う、うん……えっと、ありがとう」
「ククッ! 駄賃は、珍しい物を見せてくれたからタダにしておいてやる……また何かあれば見せに来い」
「あ、コラー! 意味深な事言って去っていくなー!」

 はぁ、この指輪がねぁ? 持った感じ、特殊な力とかは感じなかったけどな? ルガンが言ってた通り、何か発動に条件があるのかな。まぁ、教えてもらったんだし、無くさないように身に付けておこっと。

「へぇー、綺麗な指輪だけど、そんな力があるんだ、それ?」
「どうなんだろ? でも、ルガンが嘘を言ってるようには見えなかったし、あるんじゃないかな?」
「専用道具か……チリーンにもそういう道具、あるのかな?」
「あるぞ」
「うわぁ!?」
「ペラップにも、グレッグルにもな……ククッ!」

 い、いつの間に戻って来てたのよ……あ、マトマの実を持って今度こそ食堂から出て行った。な、謎だね、ルガンは。
若干心臓がバクバク言ってるけど、深呼吸深呼吸。ふぅ、落ち着いてきたかな。

「ま、まったく……謎過ぎるんだよルガンは! 私には何も言わないし!」
「え、ハーモも知らないの? ルガンの事」
「殆どね。フラリとこのギルドに来て、いつの間にか弟子になってたような気がするよ。悪い奴では無いんだけどね? ああ見えて結構ここを気に入ってるのか、たまに私の仕事手伝うし」
「へぇ~、私、まだここの皆の事よく知らないから、そういう話は結構貴重かも」
「それなら、良かったらだけど今度キーネちゃんも私達の部屋に来てお話しようよ。皆の事分かるし、きっと楽しいよ♪」
「ふむ、そうだね……目立った交流会みたいのを開くのも日頃の修行があって難しいし、その辺りの事はキーネ達の自由にしてくれて構わないよ」

 ふむふむ、これでなんとなーく入り難かった他の弟子の部屋にも入れるようになるかな。やっぱりこういう接点って必要だよね。
なかなか充実した休憩になったなぁ。ルガンか……今度また専用道具についてゆっくり聞いてみようかな。いつもあのツボの前で何してるかも気になるところだし。

「じゃ、そろそろ仕事再開しようか。後は何をするの?」
「うーん、いつもならこれから掃除の続きを終わらせて、それから食料管理に入るんだけど……どっちももう終わっちゃったしなぁ。あ、ギルドのお金銀行に預けて、追加の食料の注文とかしちゃおうかな」
「外回りの仕事ね。了解了解」
「なら、私は受付に戻ります。また晩御飯の時にね、キーネちゃん」
「うん。じゃあ行こうか、ハーモ」
「そうしよう。作業が捗ると、いつも以上の事が出来てやっぱりいいね」

 今日のをいつもは一匹でやってるんなら、そりゃあまだこの時間に終わってなくても仕方ないか。探検してなくても苦労してるね、ハーモも。
よし、それじゃあ外回りへ行くとしましょうか。と言っても、私が必要な事なんて無いだろうけどさ。

「あ、キーネにギルドのお金持つの任せていいかな? この羽で持つのって結構大変でね」

 ……そんな重大な事を、ギルド入りたての私に頼む事に少しは抵抗を感じて欲しいと思うんだけど、ハーモからの信頼って事で受け取ろうか。
お金があるのはギルドマスター、プクリンの部屋なんだって。1番安全と言えなくもない……のかな?
お金を取りに部屋に入ると、そこにはプクリンが……居なかった。あれ? 出掛けた姿を見掛けなかったんだけど?

「親方様、誰か友達にでも会いに行ったのかな?」
「友達?」
「ああ見えて親方様は、かなりの探検隊と知り合いでね。その知り合いが来ると、ふらりと出掛けてしまうんだよね」
「知り合いが来たって……誰かそういう探検隊来たっけ?」
「いや、なんでか親方様、そういう知り合いが来ると『友達が来たー!』って言って出掛けるんだよ。その辺り、私にもよく分からないんだよね」

 何その第六感。友達センサー? そう言えば、私とアークが探検隊になる時もしきりに友達って言ってたっけ。友達ねぇ……。
まぁいいや。ハーモが何かごそごそやったと思ったら、結構大きめの袋が出てきたわ。これがギルドで貯め込んでるお金、の一部ね。

「じゃ、これを頼むよ」
「分かった。確かに、この重みは羽で支えるのは結構辛いかも」
「そうなんだよ……それじゃあ行こうか」
「はーい」
 
 ……重さからの適当な判断にはなるけど、十万ポケくらいかな? かなり大金って言ってもおかしくはないかな。
それを持ってギルドを出る。特に何って言う事は無いけど、なんとなく警戒心2割増で。このタウン内で襲われる心配なんてそうそう無いけどさ。
ハーモに先導してもらう形で銀行までテクテクと。今日は割と穏やかな気候かな、風は割と良いし日は穏やかだし。
で、ヨマワル銀行到着っと。ヨマワルさん、今日もいつも通りな感じでお店番中かな。

「ヨマワルさん、こんにちは」
「! キーネちゃ……!!」
「こんにちはヨマワルさん。ん? 私の顔に何か付いてるかな?」
「い、いえ……」

 あー、基本的にお客さんには無口だったっけヨマワルさん。私はお客って言うより友達に近い認識だから話しかけようとして、ハーモを発見してどう反応すればいいか分からなくて戸惑ったのね。
ここは、ヨマワルさんの為にもハーモは少しだけ離れててもらおうか。

「ハーモ、こっちは私だけでいいから、カクレオンさんのお店への買い付け行っていいよ」
「え、そうかい?」
「うん。ギルドって事でこのお金預ければいいんだよね?」
「あ、うん……じゃあ、お願いするよ」
「任せて」

 悪い気はするけど、鳥払いはこれでよし。じゃ、ちょっとだけお話させてもらおうか。

「で、どうかした?」
「い、いやその、最近お家にも居ないし、探検隊の修行って大変なのかなって思って、心配で……」
「あはは、心配してくれてありがとう。家はあるのに修行でギルドで寝泊りだからどうも帰ってくる機会が無くてねぇ」

 思えば家開けっ放しなんだよね。他に誰か住んだりしてないといいけど……。

「……まだ、帰って来れない?」
「もうしばらくはダメかなぁ。私が勝手すると、チームの皆にも迷惑掛けちゃうし、元々誘ったのは私からだからね」
「じゃあ……あの家は、私達がそのままにしておく。だから、いつでも帰ってきて」
「……うん、ありがとう」

 私達、か。きっとガルーラさんやカクレオンさんも手伝ってくれてるんだろうなぁ。嬉しいけど、ちょっと気が引けるのも確かなんだよね。
こうしてタウンの皆が私を仲間として受け入れてくれるのを聞くと、胸が一杯になっちゃう。私は、ここに居ていいんだって、そう思えるから。

「でも、今度またゆっくり出来る時は家に戻ってくるから、その時にはお話でもしようよ。一緒に探検してる二匹の事も紹介したいし」
「確か……ニャースのアーク君、だったね。なんだか、不思議な感じのするポケモンだったけど」
「分かるの?」
「上手くは言えないけど、この世に居るのは確かだけど、向こうの世界にも近いような……そんな感じ」

 向こうって、ヨマワルさんが言うんだから向こう、よね? あ、アークって……。
っと、もっとお話してたいところだけど、ハーモが帰って来たみたい。この続きはまた今度ね。

「詳しく聞きたいところだけど、今はここまでみたい。じゃ、これお願い出来るかな?」
「あ、うん、プクリンさんのギルドのお金だね。これを合わせて……はい、今預かってるお金の総額」
「ありがとう。……うっわ、儲かってる……」

 総額が書かれた紙を見たんだけど、パッと見でゼロが一杯……いやまぁ、弟子が貰った報酬金の九割は持っていってるんだからこんな額にもなるか。結構な搾取だよね、あれ。
とりあえず証明書きは貰ったし、ハーモに合流しよう。目と鼻の先には居るけどさ。

「どう、そっちの買い付けは?」
「バッチリだよ。思えばブレイブの面々が増えてから追加の買い付けに来れてなかったからね、丁度良い機会だったよ♪」
「なるほどねぇ……っていうか、こんなに儲かってるんだから食べ物くらいもっと増やしてもいいんじゃない? 皆結構食べるし、足りないから摘み食いするんだろうしさ」
「それがねぇ……弟子の依頼失敗の埋め合わせなんかをするのに掛かるものもあるんだよ。日頃から貯蓄しておかないと、何時何があるか分からないからね」

 そういう事か。パズなんかこの前も失敗してたみたいだし、そういうのの埋め合わせで頭を悩ませてるのもまたハーモなのね……。
それを言わないで、自分が怒るだけって言うのもまたハーモの優しさなのかもね。独立したらそういう負担も自分に掛かるんだし、やっぱりギルドの弟子って恵まれてるのかも。
それに、お金で済む話ならまだいいとして、それじゃ済まない事態になった時の埋め合わせもハーモがやってるんでしょ、この分だと。一番弟子って苦労し通しだねぇ。

「辛いねぇ、管理職って」
「それを分かってくれる理解者がウチに来てくれたって言うだけマシだよ本当。あまり弟子にそういう事を言えないしね」
「私も一応弟子の一匹なんだけど?」
「それはその……ね?」
「やれやれ。ま、たまの愚痴の付き合いくらいはしてあげようか。一番弟子様の為に」
「そ、そう! たまには一番弟子を労いなさい!」
「ふふっ、はーい」

 じゃ、要件も済んだしギルドに戻ろうか。後は特にする事も無いしね。
お金が無くなって軽くなった袋を持って、来た道を戻っていく。なんだろうこの開放感、変な緊張感に苛まれないってやっぱり気楽でいいや。
ん? 十字路に誰か居る。あれは……パッチール、だったかな? この辺りでは見掛けないポケモンだね。何やってるんだろ?
ハーモも気付いてこっちを見てきてるけど、揃って首傾げちゃった。なんかブツブツ言ってるみたいだし、あまり関わらないでおこうか。
それは一先ず置いておいて、ギルドに戻ってきたよ。戻ってきたんだけど……?

「それは俺達が先に目を付けた依頼だ! 返せ!」
「ハンっ、お前達みたいな弱そうな連中にゴールドランクの依頼が出来るかよ。大人しくノーマルの依頼でも受けてるんだな!」
「何ぃ~!」
「……何、あれ?」
「あー、たまにあるんだよね。探検隊同士での依頼の取り合いって言うのかな? 比較的簡単そうで報酬の美味しい依頼なんかが来ると、ああやって取り合いになる事があるんだよ」

 ふーん、そうなんだ。私達は大体朝の早い時間に依頼を受けて探検に行ったからそういうのに今までかちあった事無かったけど、そんなトラブルが起こる事もあるんだ。へぇ~。
でも迷惑だなぁ。全く、他の探検隊も依頼を受けようとしてたりするんだからそういう口論は他所でやってもらいたいものだよ。
依頼の受付をしてたであろうベルゥさんも困ったようにオロオロしてる。……あの雰囲気からして、ほっといたらここで喧嘩でも始めそうよねぇ。

「どうする? ハーモ」
「はぁ……手を貸してくれるかい、キーネ」
「聞くまでも無いでしょ。私はハーモのアシスタントなんだから」
「助かるよ。それじゃあ、止めようか」
「オッケー、行こう」

 言い争ってる探検隊の間に割って入って、まずは両者を遠ざける。片方はバシャーモとピジョットのコンビ、もう片方はモウカザルとゴローンか。暑苦しい同士で喧嘩しないで欲しいものだよ。

「なんだお前達、邪魔するな!」
「そうはいかないヨ。私はここの一番弟子でペラップのハーモ、このギルド内でのトラブルは見逃せないね」
「1番は付かないけど、同じく弟子のリオル、キーネ。依頼の取り合いでもなんでもいいけど、そういうのは他の探検隊の邪魔にならないところでやってくれない? はっきり言って迷惑だわ」
「ギルドの弟子ぃ? ふん、一人前の探検隊にもなってない奴等が偉そうにノコノコ首を突っ込んでくるな!」

 むっ、ちょっとカチンと来る言い方ね? まぁ、これで頭に血を登らせる程短絡的じゃあないけど。

「はぁ~、もうどうでもいいから、とにかく迷惑な行為は止めておくれ。仕事が増えると迷惑なんだ」
「煩い! 俺達はそいつ等が奪った依頼を取り返す! 邪魔するんならお前等からだ!」
「とかあのバシャーモは言ってるけど、事の発端はその依頼なんでしょ? さっさとあっちの探検隊に返してくれない?」
「ふん、どう喚こうと今依頼書を持ってるのは俺達だ。そんな事をする謂われは無い!」

 なんというか、喧嘩っ早いのは損気だと思うけど? 相手の実力も分かってないみたいだし、手加減はしてあげようか。
ハーモに視線で同意を求めると、溜め息を吐きながらバシャーモの方を向いたわ。やっていいってことよね。じゃ、行きましょうか。
とりあえず、突っ込んで来たモウカザルをあしらおうか。ゴローンの方は、後でモウカザルを運んでもらうのに必要だしね。
握った拳に炎が纏われてるって事は、炎のパンチかな? なんにも考えてない単調な攻撃だなー、修行にもならないよこんなの避けるの。
突き出して来た腕を捕まえて、その勢いを受け流して、向かってきてた方に向き直させてポイっとね。

「うぉっ!?」
「やる気、ある?」
「な、こ、この!」
「全く……この程度でゴールドランクの探検隊とは、笑っちゃうよ」
「くそっ、ちょこまかと!」

 あーらら、頭から湯気出して怒っちゃった。ハーモの方も呆れるくらいの実力みたいだし、私達の敵ではないのは確かね。
ふむ、今度の技は僅かに拳が気を纏ってるのが分かるし、気合いパンチかな。力を溜めてる分速くなってるけど、言っちゃえばそこまで程度なんだよねー。
拳を受け流して、懐に入ると同時にモウカザルの胸にピタリと手を当てた。もうこうなったら相手に何されようと決められるよ。
地面を踏み込んで、モウカザルの体に気をねじ込んであげたわ。こんな相手、手加減した発勁で十分過ぎるくらいよ。あーぁ、暴走したガディくらいの相手じゃないと物足りないなー。

「ながっ!? ぐは……」
「はい終わり」
「クワァッ!」
「んぎゃあぁぁ!?」
「あっちも終わったみたいね。はい、そこのゴローンさん、相棒連れてさっさと出て行ってくれる? 依頼については、外で向こうの相方のピジョットと適当に話してよ」
「ひ、ひぃぃ! 強すぎる!」

 あらら、怯えて逃げて行っちゃった。まぁ、モウカザルは抱えていったし別にいいか。
どうやら向こうのピジョットもそうみたい。自分より体の小さいペラップに怯えて逃げるってのも無様よねぇ。因みにハーモの決まり手は、至近距離での騒ぐでしょうね。一鳴きでダウンさせるんだからかなりの威力だよ。

「一件落着、だね」
「あれで一人前の探検隊を名乗ってるんだからお笑いだよ。あれがゴールドランクなら、キーネなんかもうとっくにダイヤモンドランクだよ」
「それは言いすぎだったら。ま、あの程度でなれるんならそう遠くなくゴールドにはなれそうだけど」
「冗談に聞こえないところが、キーネの凄いところなんだろうねぇ」

 あら、なんてハーモと話してたら周りから歓声が聞こえてきちゃった。いやでも、周りに探検隊居る中でこんなことすれば当然か。
落ち着かないから、とりあえず下へ撤退。これだけやっておけば、もう今日馬鹿な事を企てる探検隊は居ないだろうしね。

「ふぅ、ハーモってもしかして、今みたいなトラブルの処理もしてるの?」
「滅多には無いんだけどね。私だって一番弟子になるくらいの実力はあるんだから、あのくらいの探検隊に遅れなんて取らないさ♪」
「さっすがー。頼りになるね」
「いやでもその、今日はキーネも居たから強気に出れたっていうのはある、かな」

 いや、なんでそこでそんなに照れたような反応をするのかな? そんな反応されても、こっちが反応に困るよ?

「クク……なかなか良いコンビなんじゃないか、お前達」
「えっ!? な、ななな何を急に言ってるんだルガン!」
「ハーモがパートナーか……それもなかなか面白いかもね」
「き、キーネ!? だ、だだ、ダメダメ! キーネにはアークが居るんだしブレイブのリーダーなんだから!」
「何でそんなに慌ててるのハーモ? ジョーク、冗談だよ?」
「以外と本当に脈有りか? クッククク」
「だー! 一番弟子をからかうんじゃない!」

 あらら、ルガンと追いかけっこ始めちゃった。動揺してるみたいだけど、本当にどうしたんだろうね?
なんだかんだ言って、ハーモとギルドの皆って仲良いんだね。ちょっと、安心しちゃった。今まで一緒の部屋で誰かと寝てた様子も無いし、孤立してたのかなーって思ってたから。
それも取り越し苦労だったみたいだし、手伝いも、これからも手が空いた時くらいで良さそうかな。今日大変そうならこれからもちょこちょこ手伝おうかとも思ったけど、それも心配無いだろうし。
ふふっ、しばらくは二匹のやり取りでも見てようかな。多分仕事も、今日はそう残ってないだろうし。



 日も傾いて、夕日に世界が照らされてる。うん、海も砂浜も綺麗……。

「良い風だねぇ……」
「ククッ、悪くない」
「ハーモは分かるけど、ルガンまで出てくるのはちょっと意外だったかなー。気分転換でもしたくなったの?」
「そんなところだ。深い意味なんて無い」

 そうですか。まぁいいや、結構付き合い良いって思っておくとしようか。
今日のギルドの仕事っていうのも滞り無く終わって、晩ご飯までの時間潰しに海岸に来てるところ。気晴らしに打って付けなのはここだものね。
で、やる事の無くなったハーモを誘ったんだけど、なんでかルガンも一緒に来たのよね。暇だったんだろうけど。

「いやーでも、こうして余裕を持って仕事を終えられたのはキーネのお陰だよ。今日はありがとう」
「どういたしまして。また探検の無い日には手伝ってあげようか?」
「そうしてもらえると非常に助かるよ。たまにこういう日があると、私も休めるしね」
「あまりサボると、一番弟子を誰かに取って変わられるぞ」
「なぁ!? 私以外に誰が一番弟子をやるって言うんだい!」
「今日のアシスタントは適任なんじゃないか?」
「私? ダメダメ、ハーモの手伝いならいいけど、それを自主的にやるのは勘弁」

 手を振って見せると、ハーモは苦笑いしてるわ。そんな顔されても、それが私の本心だもん。

「ず、随分はっきり言ってくれるね」
「適材適所でしょ? 私はそういう柄じゃないしね」
「そうは言っても、ブレイブのリーダーなんだろ? 適任だと思うがな、ククッ……」
「勘弁してよ、一番弟子とリーダーの兼任なんてやらされたら、それこそ体壊すったら」
「うっ、それもそうだね。むぅ」

 いや、なんでそんなに残念そうな顔してるのハーモ? もしかして、若干そう考えてたって事? お願いだから止めて欲しいわ。
そもそもブレイブのリーダーだって私からなるって言った訳じゃないし、皆から言われてそのままなったようなものだしさ。本当はそういう責任のある事ってあまりしたくないんだよね。……なんだかんだ言って断れないんだけどさ、やってって言われたら。

「全く、そういう一番弟子を継ぐのって、先輩弟子が先でしょ? なんだったらルガンがやれば?」
「クックック……俺も面倒は御免だ」
「ちょ! まだ私は一番弟子を誰かに譲るなんて言ってないよ! まだまだ皆頼りないんだし!」
「なら、まだまだハーモの事頼りにしないとね」
「うっ!? あぅ~」
「ククッ、そろそろ良い時間だし、戻るか」
「そうね。ほらハーモ、しょげてないで帰るよ」

 とぼとぼだけど、ハーモもついて来たし帰り足になろうか。そう言えばブレイブの皆は帰ってきてないけど、大丈夫かな?
っていうか、そもそも皆は何処へ行ったんだろ? 探検へ行かないから聞かなかったんだよね。失敗だったかも。

「ハーモ、今日ってブレイブの皆にどんな仕事を言いつけたの? 私内容知らないんだよね」
「ん? 今日はブレイブの皆には……ここから少し離れたところにある大きな滝に隠された洞窟があるっていう噂があるから、それの調査を頼んだんだ。噂だから、本当にあるかは分からないけどキーネ達なら何か見つけてくれるかと思って」
「あるか分からない洞窟の調査か。キーネはともかく、アークやパズには荷が重いんじゃないか?」
「いや、まさかアーク達がキーネ抜きで探検してみたいなんて言い出すとは思ってなかったから……」
「まぁ、ガディも居るし多分大丈夫だと思うけどね。そうだって知ってたらそれとなくついて行ってたんだけどなぁ」

 滝か……そんなところに洞窟があるとすれば、滝の裏とかかな? 私なら飛び込むなんて事もするけど、アーク達無茶してないといいけど。
なんて考え事しながら十字路まで戻ってきたら、なんだか意気消沈してるブレイブの皆がタウンに帰って来たところだった。何かあったのかな?

「皆? どうかしたの?」
「あ、キーネ……いやその、なんて言うか、後で話すよ……」
「……ガディ?」
「うん、まぁその……アークもパズも頑張ってたぞ。頑張ってた」

 凄く頼りない頑張ってたって一言だね。これは、何かあったと見ていいでしょ。
パズなんかぐったりして一言も喋らないよ。全く、何があった事やら。
とりあえず……ギルドに戻ろうか。ご飯食べれば皆も元気になるだろうし、そうすれば話してくれるでしょ。
ギルドに戻ると、他の弟子の皆も戻って来てた。多分私達が海岸に行ってる間に戻って来たんだろうね。
少しギルドでゆっくりした後、晩ご飯の時間に突入。皆がガツガツ食べるのを眺めながら、また私はゆっくりと木の実を食べる。……なんか、いつもよりアークとガディの食べ方が荒い気がする。分かり易いなぁ。

「おかわり!」
「おかわりだ!」
「おかわりでゲス!」

 おぉ、探検に行ってた三匹が荒れてる荒れてる。あまり暴食するとお腹壊すだろうけど、今は放っておこうか。
私は食べ終わったし、片付けて愚痴を聞く準備でもしよう。問題は、あっちから話してくれるかくらいかなぁ。
ハーモもおかわりに何も言わないって事は、何か知ってるね。私に内緒にするとは、ちょっと傷付くな。
まぁ、それなりの理由があるんだろうけどさ。ここは皆の面子を立てるとしましょうか。
片付けも終わらせて、アークがこっちをチラッと見てるのを感じながら地下二階の広間へ。こっちも視線送ってあげたし、いずれ来てくれるかな。
と思ったらすぐに来たわ。そんなに急がなくてよかったのに。

「キーネ! あ、あの」
「目配せはしたけど、そんなに急いで来る事も無かったのに。で、ご用件は?」
「あいや、その、き、キーネは今日何をしてたのかなと思って」
「私? 一日ハーモの手伝い。それなりにね」
「そ、そうなんだ」

 で、自分の事は話さないでモジモジしてる。ずるいなぁ、その感じ。
でもモジモジしてるアークもちょっと可愛いかも。リボンなんかしてるから余計にそう見えるのかなー。

「えっと、キーネはその、聞かないの?」
「聞かれたいの?」
「う……えっと……ごめん」

 謝るって事は、探検失敗しちゃった? その割にはガディも申し訳無いような感じじゃなく怒ってたし、微妙に違うのかな?

「んー……探検、失敗しちゃったの?」
「う、ううん! ちゃんと滝の裏にある洞窟は見つけたし、その洞窟も探検したの! でも……」
「でも?」
「その洞窟……前にプクリン親方が探検した事あったみたいで、新しい洞窟を見つけたって訳じゃなくなっちゃって」
「あー、それで調査が微妙な結果になっちゃったのね」
「それに、洞窟の最後で罠に掛かっちゃって、その近くにあった温泉から皆で噴き出すような事になっちゃって……皆を危険な目に遭わせちゃって」

 そっか、それで若干アークは落ち込んでたのね。探検隊を引っ張ってたのに、ミスで罠に掛かっちゃったか。
聞いたところによると、洞窟の奥で宝石みたいな石を見つけたんだけど、一際大きな石をパズが弄ってたら罠が発動して、急に水が流れてきて全員で流されちゃったって事だったみたいね。まぁ、運が無かったと言えばそれまでかな。パズの欲深が尾を引いちゃったか。

「僕……先に見えたんだ。プクリン親方が滝を超えて洞窟に入っていくのも、罠を動かして流されちゃったのも」
「それって、トゲトゲ山の時みたいの?」
「うん。それで分かってたのに、皆を危ない目に遭わせちゃって……僕がもっと、キーネみたいにちゃんと指示を出せてれば……」

 ……アークの力がまた発動したのは気になるけど、まずはアーク自身をどうにかしないとダメかな、これは。
俯いちゃってるアークの前に立って、そっと顔を覗き込んでみた。ふふっ、驚いてる驚いてる。

「き、キーネ?」
「どんな事でもね、下を向いてたら何も見えないんだよ」
「え、あ、うん……」
「アークは今、少し焦り過ぎかな。見えるものが、視野が狭くなっちゃってる」
「見えるものが、狭く?」
「そう。でも別に探検する場所が見えてないって事じゃないよ」

 アークが見えなくなってるのは、自分。私に追いつこう、私に並ぼうとする事で、大事なものが見えなくなっちゃってる。

「……アークはね、私みたいになる事は無いんだよ」
「え……?」
「私とアークはチームなんだから、アークが私の役をしようとしなくてもいいの。私に出来る事は、私に頼って」
「でも、それじゃあキーネばっかり……」
「ううん、違うよ。私が出来る事は私がやるから、アークはアークが出来る事をやって。それはきっと、私には出来ない事だから」
「キーネには出来なくて、僕には出来る事? そんなの、あるのかな?」
「もちろん。私は、アークみたいにルリリちゃんのピンチを見る事も出来ないし、どんな罠が先にあるかを見るなんて力は無い。それに、誰かに優しく接したり仲良くなるのはきっとアークの方が上手だよ」

 まだちょっと不安そうかな。それは、自分に何が出来るかをまだきちんと把握出来てない不安。でもね、誰だって、そうなんだよ。
こっちを見てるアークに、私はいつも通りの笑顔を向ける。アークと、これからも一緒に笑いながら探検をしたいから。

「私が困った時に、アークは私に力を貸してくれる?」
「え、う、うん! もちろん!」
「うん。それも、私が出来ないアークにしか出来ない事なんだよ。私を助けてくれる、助けたいって思ってるのは、今私の目の前に居るアークなんだから」
「僕にしか、出来ない事……」
「そうそう。皆一緒だったら、同じ間違いをしちゃうでしょ? 皆違うから、傍に居てくれる誰かが間違いを正してくれる。それが、並んで歩くって事なんじゃないかな。言ってて自分でもちょっと難しいんだけどね」
「ううん……ありがとう、キーネ……」
「どういたしまして、でいいかな」

 あ、ようやく笑ってくれた。ちょっとでも元気出てくれたみたいで良かった良かった。

「やはり流石だな、キーネ」
「あ、ガディ。やだ、聞いてたの? 恥ずかしいなぁ」
「恥ずかしがる事でも無いだろう。今の言葉、俺にも思うところがあるしな」

 いつの間にか、ガディも食堂から出てきてたみたい。他には誰かに……うん、聞かれてない。我ながら、言ってる時はそうでもないけど恥ずかしい事言ってたわ。

「今日は済まなかったな、アーク。俺ももう少し周囲を気にしておくべきだった」
「え? いや! 僕もパズ先輩を止めたり出来なかったし、ガディさんには色々アドバイスしてもらったんだから謝られる事なんて無かったです!」
「ま、チームのミスは連帯責任ってところかな。二匹ともまだまだね」
「ぐぬ、痛いところを突いてくるな」
「あう……」
「だから、今度は一緒に頑張ろ。皆でやって出来ない事なんか無いんだし、ミスだってフォローしあえばいいんだしさ」
「……やれやれ、リーダーには適わない、か」
「うん! 僕、キーネやガディさんの力になれるように、僕が出来る事、見つけるよ!」

 ふふっ、アークも立ち直ったみたいだし、ガディもこのチームに居てまんざらじゃなさそうだからオッケーでしょ。まだまだ出来たての探検隊なんだし、皆で頑張っていかないとね。
そう言えば、話の流れの中で出てきたアークの力についてももう少し聞いておこうか。今ならガディの意見も聞けるもんね。

「ところでアーク、さっきも気になったんだけど、また何か見えたんだよね?」
「うん、大きな滝にプクリン親方が飛び込んでいくところと、洞窟の奥で罠に掛かって流されて行くところを見たよ」
「どちらもさっきハーモに確認をしてもらったところ、プクリンが過去にあの洞窟を探検した時の出来事で間違い無いそうだ」
「なるほどね……これで、一つ分かった事があるわ」
「アークの力は、所謂予知の類ではないって事だな」

 ガディ正解。前に見たルリリちゃんのピンチは少し先の事を見ていたけど、今回のはどれくらいかは分からないけど過去の出来事をアークは垣間見てる。これが同じ力によるものだとすると、予知とは言えないわね。
過去に起こった事を見る、未来に起こるであろう事を見る……一体どういう事なのかしら? 性質的には真反対の事のように感じるのだけど……。
でも、実際それをアークは出来てる。何か、それらを繋ぐ何かがある筈なのよね。過去と未来、それを繋ぐ何かが……。

「……ダメね、まだ答えを出すには情報が足りないわ」
「うん……僕が見てるのって、一体なんなんだろう……?」
「やはり、アークの失った記憶に関係しているのかもしれないな。それほど特殊な力だ、滅多に持っている者は居ないだろうし、辿っていけばアークが何者かという答えにも繋がってるだろう」
「確かに。ま、でも焦って考えたって仕方無いしね。私もガディも協力するし、ゆっくりでいいから見つけて行こう。アークの記憶の手掛かり」
「……うん。二匹共、まだまだ迷惑掛けちゃうかもしれないけど、僕も頑張る。だから……これからも、よろしくお願いします」

 ふふっ、改めて畏まらなくたって、私もガディもそのつもりだよ。じゃなかったら、こんなに相談に乗ったりしないもの。
じゃ、とりあえず今日は二匹共頑張ったんだし、ゆっくり休むとしようか。明日からまた頑張らないとね。


感想等、もし御座いましたらこちらまで……

コメントはありません。 Comments/空の特攻隊! たまには穏やかな日を ?

お名前:

トップページ   編集 凍結 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2016-05-01 (日) 07:19:18
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.