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種を蒔くポケ

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作者 ?

・数年前に読んだ小説を参考にさせてもらっています。
(タイトルと作者名がわかりませんでした)
最近こういうの多いですね。次回からは完全オリジナルで。

・グロ表現アリです。



 ここは戦争のまっただ中。
 一方の国が相手の領地を奪い去らんと侵攻する。もう一方は愛する祖国、大切な人を守るために立ち上がる。
 そして二つは激突し、人々に新たなる変化を引き起こす。
 それが何なのかはその人次第である。
 

 数々の技が飛び交い、目まぐるしく天気が変わる中をファボス大尉率いる五番隊が一列になり足取り重く歩いている。もちろん列の先頭はファボスである。
 戦争は終局に近づき周りは死屍累々。
 雷にうたれ黒こげになっているものもあれば、双方の胸に深々と爪を突き刺したまま壮絶な最期を遂げてをいるものもある。その周辺には血がたまっていたようだが今の天気の影響で完全に乾ききっている。
 燃えさかる森の中で時折、敵のゲリラが必死の抵抗をするも、屈強ぞろいの五番隊の前にことごとく倒れた。
 その度に全員の命を奪った。命乞いをする者もいたが例外はなかった。
【敵兵に情けは無用】
 これが五番隊の鉄則だった。
 戦争で血を流すのは軍の中でも下の階級の兵ばかり。これはいつの世も変わらぬことである。


「ほんま戦争っちゅんはいややなぁ。良い事なんてわいら歩兵にはこれっぽっちもありゃせん。」
 ファボスの後ろ、五番隊の副隊長をまかされているエレモ少尉が言った。
「そうぼやくな。愛する妻と娘に会いたいんだろ? なら我慢しろ。」
 ファボスが押さえつけるように言った。
「はぁ~。こんなんなるんやったら軍隊なんて入らんどきゃぁよかったわー。」
「なんだ? 自分から家族を守りたいという理由で軍に入ってきたのはどこのどいつだよ。確かエレモっつう名前で、俺の記憶が正しければ俺の後ろで写真見てニヘニヘしてるやつだったような。」
 汚れてしわくちゃになったラルトスとサーナイトがうつった写真をニヘニヘしながら見ていたエレモはそれを素早くしまいもとのくたびれた顔に戻った。
「それは言わないって約束やったやろファボス大尉ー。副隊長としてのわいのメンツが。」
「あれ? そんなものがお前にあったか? なぁみんな。」
 その問いにエレモの後ろにいる何人かの部下はお互いに顔を見合わせてゲラゲラ笑い、そして一様に首を横にふった。
「なんやねんみんなして。そんなにわいをいじめたいんか。ええよ。わいは逃げも隠れもしまへんで!」
 そういってエレモは大の字に寝転がり吠えた。
 再び笑いの嵐が巻き起こった。なぜ戦場でこういうことをするのかというとエレモ曰く、隊の士気を高めるのに効果があるという。その効果は覿面だった。
 そのときファボスの持っていた無線機から連絡が入った。ファボスがそれに答えて言った。エレモ以下数名の部下達は静かになって固唾をのんでその答えを待ち受けた。
「おい喜べ。決着がついた。我々の勝利だとさ。」
 途端に大歓声が起きる。
 隊員達は今までの疲れはどこへやら。跳んだりはねたり回ったりの大騒ぎ。
 この様子を見ていたファボスも満足そうに頷く。
「んじゃ。はよ引き上げまひょ。二年ぶりの我が家や。ムーアちゃん待ってろよぉ、パパは今帰るさかいのぉ~。」
 ゾロゾロと皆が引き上げていくのを見てファボスもそれについていこうと歩き出した。
 そのときだった。
 背後の草むらから突然フワンテが現れ、ファボスの左腕に巻き付いた。
「なんだこいつ!!」
「隊長はん!」
 異変に気づいたエレモ達が引き返してきた。
「近づくな! 一人で何とかする!」
 とは言ってみたもののなかなか離れない。
「父ちゃんを殺したのはお前らだな!」
 フワンテが涙を流しながら叫んだ。体は小さく大人には程遠い。
 ファボスは心底驚いた。こんな子供が戦地にいることがとても不思議だった。
『確かに殺したな。』
 とファボスは思った。
 その証拠にフワンテの親であろうフワライドの残骸がファボスの近くにあった。
「あぁ殺した。しかしこれは戦争だ。いつどこで誰が死んでもおかしくない。」
 ファボスは冷淡に言った。
「気持ちはわからんでもないがこれが戦争だ。しかもこの戦争はもう終わったんだよ。君のような子供を殺したくはない。さぁ早く俺から離れてお家へ帰ってママと寝な。」
「母ちゃんも死んだ!! 全部お前らのせいだ!! お前らのせいで僕は・・・独りぼっちだ!!」
 フワンテが臆することなく言った。その瞳からは並々ならぬ覚悟が伝わってきた。
『いやな目だな。』
 ファボスは思った。
 なぜならこういう目をした者に限って真っ先に戦場で死んでいくからだ。
「だからさっきも言っただろ。ここは戦場だ。何が起きても___」
「そんなことあるもんか!!」
「うるさいガキだ。分からず屋の君にはこうだ。」
 ファボスが一撃のもとにフワンテを殺そうとしたがその手が止まった。
「そのかわり・・・」
『体が光っている!?』
「お前も道連れだ!」
「何!?」
 己の全エネルギーを爆発の力に変えて放つ大技、大爆発。その超絶的な威力と引き替えに放った者の命は永遠に失われる。
 未だかつてこの技を受けたことはない。ましてやこの至近距離で。
『この技はやばい!』
 と己の危機感知能力がそう言ったが遅かった。
 既にフワンテの体は直視出来ないほどに輝き膨らんでいた。

 そして・・・・・・・

 大轟音と激しい閃光と共にフワンテの体が炸裂した。
 その刹那
「父ちゃん、母ちゃん。」
 という言葉をファボスは確かに聞いた。
 そしてファボスの体は爆発の中へと消えていった。

 





 陽光が眩しい初夏の頃、一人の軍人の人生を変える物語が始まる
      人を殺める中で人は何を見いだすのだろうか
          その答えは今はわからない
              なぜなら物語はまだ始まったばかりなのだから   



 風で波打つ砂漠の上空を一匹のフライゴンが滑るように飛んでいた。
 手には荷物をぶら下げている。
 そしてその背中にはファボスの姿があった。傷こそ完治してはいたが、いつもの威厳タップリの表情は曇りきっていてあたりに程よい湿気を与えているようだ。
 かれこれ二時間ぐらい飛んでいた。しかしフライゴンは顔色一つ変えることなくヒュウヒュウと風を切る。
「旦那は軍人さんですか?」
 突然のフライゴンの質問に多少動揺しながらもしっかりと言った。
「いかにも。私は軍に籍を置いている者だが。どうしてわかったのです?」
「いやね。大きな戦争が起こるとそれから1、2ヶ月ぐらいの間、勝敗にかかわらずどこか遠くに送っていってくれっていう軍人さんが多いんですよ。しかもみんな何か気に病んでるようでね。ほら傷心の旅(センチメンタルジャーニー)ってやつですか? 丁度旦那みたいな感じでね。」
 それを聞いてファボスは驚嘆した。まさか自分と同じような境遇の人間(ポケ)がいるなんて。
「そういう輩が多い理由をあなたは知ってますか?」
「さぁー。私にはわからないですねー。ほぼ全ての人(ポケ)は聞いても、自分にはわからない、あなたは何かわかりますか? っていいますもん。やっぱり軍人の考えることは軍人にしかわからないもんなんですかねぇ。ハハハハハハハハハハハ」
 フライゴンの笑い声を遠くに聞きつつ、ファボスはここ一ヶ月間の出来事について振り返っていた。




 戦争の終結からしばらくたったある日の昼下がり。
 ファボスは軍営病院のベッドの上で目を覚ました。
 ゆっくり上体を起こすと体中、特に左半身に痛みが走った。
 包帯が邪魔でよく見えなかったが生憎、兵士ではない、ましてや子供につけられた傷なんて正直見たくもなかった。軍人としての彼のプライドが許さなかった。
 しかし痛いのは事実であり、目をそらしたからといって傷が治るわけでもない。
 だがそれ以上にフワンテの最期がファボスの心で大きなつっかい棒となり、彼がそのことについて心を閉じることをかたくなに拒んでいた。
 フワンテの必死の攻撃が瞼の裏に貼り付いて剥がれず、もう一度寝ようとしてもいやでも彼の行動について思考をめぐらしてしまう。
『あのガキはなんであんなことをしたんだ?』
 しかしいくら考えても、狭い病室にこの問いの答えがわからないファボス一人では半永久的に正解には辿りつけないだろう。
 仕方なく彼は窓の外の風景を見ることで気を紛らわす。
『本当にちっポケな国だなぁ』
 と、ファボスは思った。
 ファボス達の住むアージュワン国は4000m級の山々に囲まれた小さな国だ。もともとの国土が狭い上にその四分の一を軍部基地にとられては一般国民はたまったものではない。しかし彼らは文句一つ愚痴一つこぼすことはない。なぜなら国を守る自衛の手段を必要としているからだ。勿論、他の国も軍を所持しているのだが、アージュワンは先にも言ったように小さいので特別強力な軍隊が必要になってくる。アージュワンの国民が今まで平和に暮らしてこれたのも、その国策が功を奏しているからだ。
 だが、この小さな国の平和も不安定なこの時代の中では簡単に崩れてしまう。そこら辺のことを彼はちっポケと思ったのかもしれない。
「あっ、起きてたんですか。」
 一人黄昏ているファボスが乗っているベッドからすぐのドアからエレモが入ってきた。
 そして時計をチラリと見ていった。
「いやー1時なだけに一時はどうなるかと思いましたよ。あのファボス大尉が丸一日オネンネしてましたからねぇ。」
 そう言ってエレモはブレード状の前腕を合わせて顔をそれに乗せてわざとらしく目を閉じた。
「お前なぁ。そうやって俺や家族の前だけで口調を変えるのは構わんが、その生意気な態度をどうにかしろ。っというかお前たちは負傷してないのか?」
「いいじゃないですかー。こういう時ぐらいにしか大尉の攻撃をくらわなくて済むんですから。負傷の件ですが、大尉の命令で離れていたおかげで全員かすり傷ぐらいで済みましたよ。私も含めてね。」
「それは良かった。しかしお前だけは後からかすり傷よりひどい怪我を負うハメになっても知らんからな」
「まぁそれだけ言える元気があれば心配ないですね。いやぁーやっと家でゆっくり過ごせる。」
 その言葉に何か引っかかるものがあったので帰ろうとするエレモにファボスは聞いた。
「ということはお前は昨日から丸一日ここにいたのか?」
「はい。そうですよ。」
 エレモはドアを開きながら振り返って言った。
「ほかのやつらは?」
「私から私一人でいいと言って帰らせました。」
「そうか、すまんな。」
 エレモの家族思いはぶりは自分が一番よく知っていたので、ファボスは非常に申し訳ない気もちになった。エレモは一分一秒でも長く家族と過ごしたいに決まってる。
「いえいえそんなことはないですよ。その代わり・・・」
「その代わり何だ?」
「先ほどの無礼を帳消しに・・・」
「あぁ。考えておこう。」
 ファボスは笑顔で言った。それを聞いたエレモも笑顔だった。
「それじゃあ私はこれで・・・」
「そうだな。早く家に帰って家族サービスしてやれよ。」
「わかってますって。」
 エレモは疾風の如く病室から飛び出だしていった。
 閉まったドアのむこうから看護婦のハイパーボイスが聞こえてきた。
「病院内では走らないでくださぁーい!!」
 フッっと鼻で笑ったファボスは再び窓から見える風景に目を落とした。


 その後ファボスは怪我の回復に努めた。
 怪我は範囲こそ広いがあまり大したことは無かった。
 しかし軍医曰く、フワンテのレベルがもっと高かったら左半身が消し飛び命は無かったという。
 ファボスは軽度の火傷と、吹き飛んだ際の全身打撲、その他諸々で全治三週間と言い渡された。
 退院後、エレモの家にお礼がてら遊びに行った。エレモの家族はファボスを暖かく迎えてくれた。その際自分の悩みを打ち明けようとしたが、家族団欒に水を差ししたくなかったためやめておいた。
 それから家に帰りしばらく考えた後、ファボスは昔大きな戦争があったというセブンブルグという国に行くことにした。
 そこに今まで疑問に思っていた答えがあると推測したからだ。
 二ヶ月という休みの期間の約半分を病院で過ごしたファボスは急いで荷物をまとめて運び屋を訪ねたのである。

        

        日差しが厳しい真夏の頃
           一人の軍人は言い様が無い何かをつかみかけた
              しかし今はパズルのようにバラバラでモヤモヤと実体のない幽霊だ 
                 それはいずれ形を成して彼の心に宿るだろう
                     そう、多大なる犠牲をもって



 ファボスが現実世界に戻ると、フライゴンは速度を落とし着陸する体勢に入っていた。
 そして大地に柔らかく着地した。
 着地したときフライゴンが直立したことによりファボスはひっくり返ったが何事も無かったように起き上がり、思いっきり伸びをした。
「これはこれは失礼しました。セブンブルグに到着です。荷物をどうぞ。」
「ありがとう。」
 礼を言いながら、ファボスはフライゴンから自分の荷物を受け取った。
「ところで旦那。」
 その荷物を背負って、ファボスが代金を精算ために財布を出したときフライゴンが言った。
「ん、なんだ?」
 誤って小銭を地面に落としたファボスが拾い際に返事をする。
「旦那はどうしてこんな廃墟に行きたかったんです? 行くならもっとましな所があったでしょう? アスタラとかサーグレントとか。」
「あ~。」
 この突然の質問に、立ち上がったファボスは少し迷ったが
「この都市に興味があったんだよ。軍人としてね。」
 と嘘をついた。一般市民にはあまり縁の無い話だからだ。それに、言ったとしてもあまりいい反応をされないというのは百も承知だった。
「へー。」
 この言葉でフライゴンのカバー越しの目が途端に細くなったのをファボスは見逃さなかった。そしてもう少し気の利いた嘘をつくべきだったと思った。
「まっ、旦那がそういうんならそうなんでしょう。」
 代金を受け取って確認作業を終えたフライゴンがそのお金を袋に納めながら言った。
 若干まだファボスの返答に不満があったようだがそこは運び屋としての良心が働いたらしい。
 ファボスにとってはとても有り難かった。
「悪いね。」
「あまりお客様の敷居に踏み込むことはタブーですからね。」
「あれ? そう言ってる割には質問が多かったような気がするぞ。これは減給ものだな。ここから帰ったら報告に行かないと。」
 恩を仇で返すとはこのことであるが、実際にこうする気は毛頭ない。
 フライゴンの方もこのことを認識しているらしい。わざとらしく一本とられたという表情をし、翼を広げて飛び立つ体勢になった。
 ファボスもニヤリとして荷物を背負い直し、一歩後ろに下がった。
「わざわざこんな遠くまで付き合ってもらって申し訳ない。」
「いえいえ、それが私たちの仕事ですから。」
 フライゴンは気軽に答えた。
「それでは良き旅路を。」
「あぁ。」
 そしてあっという間に飛び上がり、あっという間に小さな影となり飛び去っていった。 しかし、その影はアージュワンとは反対方向の方角へと飛んでいった。
 ファボスはそれを疑問にも思わず、自分が今立っている場所から辺りを見回した。
 かつて栄華を極めたセブンブルグの面影は微塵も無く、ただ崩れて風化した町並みが広がっているだけであった。都市を囲んでいた壁がちらほらと見受けられ、その白い石が陽光を反射して鈍い光を発している。時折、一陣の突風が砂漠の砂を巻き上げ、セブンブルグを包み込み、吸収し、同化させようとする。そうなるのは果たして10年後か20年後か。とにかくそれほど長い時間はかからないだろう。
 どうやらファボスはその壁の外側にいるらしかった。
 ファボスはとりあえず壁の内側に入り都市の今の状況を把握することにした。
 


      

      軍人は歩き始めた
        歴史と砂に埋もれた過去の未来へ
          己の疑問の答えを求めて
            そして彼はあるものと出会い愕然とするだろう
              しかしそれはほんのきっかけにすぎない   
                運命という名の歯車が回りだすきっかけに 





『これはひどいな。』
 以前は石で舗装されていたであろう大きい通りを歩きながらファボスは思った。しかし、今は砂漠とほぼ同化し、所々にそれらしき装飾石がちらばっていた。
 昼下がりの日差しはファボスを厳しく照りつけた。
 ファボスはこの町からあまり歓迎されていないようだ。
 それはファボスが軍人だからだろうか。それとも何か別の理由があるのだろうか。
 陽炎もそれにつられてゆらゆらと丈の低い都市の各所で身を震わせていた。
 ファボスは持ってきた水の助けを借りつつ、この幽霊のような都市を探索し続した。
 



 日も大分傾いてきた時頃、ファボスは探索を止め寝床を探し始めた。
 今日の探索で分かったことは、五年前のあの大戦の影響が甚大だったこと、それにより生き残った国民がこの都市を捨ててしまいここが廃墟となってしまっていることだ。
 それに少なくともファボスはセブンブルグ出身の人と合ったことがない。
 粒子の小さい砂を踏みながら歩いていたファボスは遠くに潰れた民家に混じって四角い原型をとどめている一つの廃家をを見つけた。
 そのシルエットはファボスが近づくにつれ、だんだん大きくなり、いざそれを目の前にしてみると、結構な大きさだった。
 この五年の月日の中でこの一階建ての建物は一体この町に何を見てきたのだろうか。
 そう考えると(いささ)か感慨深い気持ちになった。
 


 荷物を置いてドアのない玄関をくぐると、なんとも虚しい空気が部屋を満たしていた。
 窓を開け放しているにも関わらず、それは長らくここに漂い、主の帰りをじっと待っているのであろう。
 しかし、その願いが叶わないのは明らかである。
 歴史の使者である砂が我が物顔で陣取っているのを見てファボスは顔をしかめた。
 とりあえずファボスは家中を見て回った。
 あくまでも寝床、としてだ。
 その過程で小さな棚の上に色褪せすぎた写真を見つけた。手にとってよく観察してみると親であろう体の大きな二人の間に小さな子供が挟まれるような形で写っているのが分かった。
 写真の中の三人は笑顔で、大戦前に撮ったもののようだった。
 斜陽にあたってそれはかすかに生気を取り戻したようだった。
 果たして彼らはこれから起こるであろう大戦を予想していたであろうか。それが起きても彼らはこのような笑顔をしていられたであろうか。
 写真を元の場所に戻しながらそのことを考えるとファボスは心が痛んだ。
 



 しばらくしてファボスは、家の一室に比較的大きなベッドを発見した。
 このベッドも長年の侵食にに耐えてきたのであろう。
 砂にまみれてたが、幸いにも作りは頑丈で砂を払ってファボスがその上に座ってもびくともしなかった。
 そして、ファボスはしばらくの間この家を探索の拠点にすることにした。
 家の外に出て置いてある自分の荷物を取り、中に戻ろうとした瞬間、ファボスの背中にファボスのものとは違う声が当たった。


「おい、お前。そこで何してる。」

 ファボスが驚いて飛びのいた。だが、軟らかい砂に足をとられてすっころんでしまった。慌てて声のした方を見ると、そこには夕陽を背に一人の男が立っていた。その大きなシルエットには幾多もの傷が白いシールのように貼り付いている。
「まだひとがいたなんて驚きだ・・・なっと」
 そう言いながらファボスが起き上がると、比較的遠くにいたはずの影が何か聞き取れない言葉を放ちながら徐々に大きくなってきていることに気づいた。
 勿論それは影が近づいてきていることを意味する。しかも急速に。
 さらに陰になっていてよく見えなかったが、額から二本のドリルが生えたその潰れた顔は何故か笑顔でいっぱいだった。
「え゛?」
 その傷跡だらけの体と表情との異様なギャップに
『このドサイドンはやばい!』
 そう直感したファボスだったが、もう目の前に丸太のような腕が迫ってきており身をかわす間もなく

「うおぉーーー生きてたのかお前ー!!まったく隊長のおれに心配かけさせやがってー!!」

「がっ!?」

そのまま彼に羽交い絞めにされ持ち上げられてしまった。
『なんだこいつ!? おれが生きてただって!? しかも隊長はおれ自身だぞ!?』
 状況を全く把握できないファボス。
 しかしその思考もドサイドンの加減知らずの抱っこにたちまち掻き消されてしまう。
「あっ・・・ガァ・・・」 
 全身の骨という骨がきしんで今にも砕けそうだ。
「はっ、はな゛ぜぇ・・・」
 やっとの思いで喉の奥底から捻り出した声も、自分を締め上げている彼の耳には力なさすぎて聞こえてはおらず、ファボスはただ地面から離れた足をばたつかせるだけで精一杯だった。
 ドサイドンの肩越しに見える夕陽は気の毒そうに、そそくさと瓦礫の山の向こうに沈もうとしている。
『くそっ。こんなところで訳も分からずにくたばってたまるか!!』
 その言葉だけが頭に浮かんだファボスは全身に力をこめてドサイドンの束縛を振りほどこうと試みる。
「そんなに暴れなくたっていいだろーよー。なぁ兄弟。」 
 ファボスの必死の抵抗もむなしくドサイドンの彼はさらに締め上げる。
「がっ・・・なっ・・・ぐぅ・・・」『兄弟・・・だと?』
 こうなってはもうファボスに自力でこのセルフ万力から抜け出せる術は無い。
 ファボスの意識は段々と薄らいできており、ドサイドンの
「本当に心配してたんだぞ! まったくどこをほっつき歩いてたんだよー! 我が兄弟【ファーシュ】よ!」
 っという大声を耳元で叫ばれている間も
『今日はやけに夕陽がきれいに見えルーーーー。』
 とか
『こいつ声デケーんだよ。』
 とか考えるだけで言った内容に関しては全く理解できていない。
 しかし、ファボスは最後のドサイドンが言った名前にだけは何か引っかかることがあった。しかもその名前は自分がとてもゆく知ってる人の名前だったような気がした。
 が、その間にもファボスの視界はどんどん暗くなっていき、ついにファボスの視界は真っ暗になってしまった。

  

      出会った
        形はどうであれ二人は出会った
          廃墟という名の地獄で
            そして軍人は地獄の住民から多くのことを学び、感じ、そして成長するだろう
              しかし成長することは必ずしも良いこととは限らない
                たまには間違った方向へ成長することもあるであろう
                  それらを乗り越えてこそ真に成長したといえるのではないだろうか
                 
                 
            


まだ続きます。

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Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
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