この作品は一部血などの表現が存在します。
また処女作であるため至らぬ事が多々あるかと思いますがご了承くださいませorz
照りつける日差しの中。
俺は今逃げている。
俺はただみんなに危険を知らせようとしただけなのに。
どうしてアブソルというだけで人間は攻撃してくるんだろう。
以前にも危険を知らせようとしたことがあったのだけど、「アブソルだ災いが来るぞ」等と騒ぎ、攻撃してきた。
あの時はなぜ襲われたのかわからなかったけど、
どうやら昔の風習のようだった。
っとそんな考えている暇なんてなかった。
後ろからは火炎やら雷撃やらがこちらへ向かって放たれる。
ふと後ろを振り返ると巨大な火炎が…!!
「っ…!」
俺は直ちに左ステップでその火炎を避ける。
すぐに俺の元いた位置は炎に包まれた…
「殺せ!災いが来るぞ!」
まただ。災いという言葉。
俺は知らせてるだけだというのに。
だけどこのままでは全身やけどどころか命が危ない。
俺は全速力で林道を駆け抜けるが不運なことに前方には…崖。
下を見ると滝つぼを確認したが…断崖絶壁とも言えるこの高さに、俺は立ちすくむ…
後ろには多数のトレーナーとそのポケモン達。
……行くしかないのかな。
俺は地面を蹴り、その断崖を滝つぼ目掛けて飛び込んだ。
後をついてきた者は誰一人いなかった。
「秘められたる思い」
作者オムレツ
………意識が……ある…?
うっすらと目を開けると、夕日でできた自身の影が伸びていた。
…川原に流れ着いているようだ。
俺はひどく咳き込んで肺に入った水を無理やり吐き出した。
足や胸の辺りが痛む…怪我をしているようだ。当たり前かな。
少し遠くを見るとそこには俺がいた山と村……。
ダメだ、もう間に合わない。
微細な振動を地面から感じた。
俺の角は災いがもう訪れたことを告げていた。
激しく揺れ出した大地。響く重低音。
流れ落ちる木々。その先には村。
音量を上げた地響きと共に村は大地に飲み込まれ…
もう……跡形もなかった。
次第に揺れが収まるが…
土砂と土煙が立ち込めて村の生存者は無に等しかった。
今回も救えなかった。
もうこんなの嫌だ。どうして救えない…どうして…
せっかく仲の良いポケモンも出来たのに……
ふと草木が音を立てたかと思うと、後ろを振り返れば夕日の中に人間の影…そして近くに大型ポケモンの影。
しかし足は僅かに動くのみで、立ち上がるだけの体力は残されていなかった。
もうダメか……
諦めというのだろうか。そう思った途端、意識は急に遠のいていった。
☆
……あれ……生きてる…の?
全身に感じる柔らかい感覚。
目を開けると真っ先に現れたのはウインディ。
思わず身を強張らせてしまう。
「気がついた?」
ウインディは目を覚ましたことに気がついたのか話しかけてきた。
…どうやら応急処置までしてもらっているらしい。
「あ、はい……ここは?」
「ここは私のご主人の家よ。山からは少しだけ離れたところにあるから…あの村のようにはならないと思う」
このウインディも村が流されてしまったところを見たらしいな。
地響きも大きかったから当然か。
「どうしてその…手当てまでしてくれてるんですか?」
「傷ついたポケモンを見たら放っておけない主人なのよ。目覚めたことを伝えてくるね」
そういってウインディはドアを押して出て行った。
なんだか申し訳ないな。
足の具合は…良くなってるのかな。
立ち上がり、部屋を見回す…
窓の外は真っ暗…夜まで気絶していたのだろうか。
……。
静かになった部屋。
それにしても助かった…
今まで目にしてきた奴らはすぐに攻撃して殺そうとしてきたというのに。
それとも今まで見てきた奴らが変わっていただけだというのだろうか。
そして俺が幼少の頃の光景を思い出した…
両親は俺が6歳になった頃に人間に襲われて命を散らした。
隠れていた茂みでその光景は今も頭から離れない。
明るい夕日。人間の影と四つの影。
噴き出した血飛沫。傾いていく二つの陰……
そこからは全て自分の力だけで生きて、戦った。
だめだ、また思い出してしまった…
どうしてなんだろう…どうして…
足音が聞こえてきた…ドアが開いた。
出てきたのは…人間の姿とあのウインディ。
人間の手には皿とオレンの実が数個。
しばらく人間は俺を見つめた後にようやく口を開いた
「……目が覚めた?ゆっくり体を休めるといいよ。食べ物も置いておくから良かったら食べてね」
いつもは人間を見てもこんなことはないのに…
体が震えて止まらない。恐怖。悲しみ。
「…まぁ僕は下にいるから……良かったらおいでよ」
…なにも喋れなかった。
そう言った後、人間は手に持った皿を置き部屋を出た。
「人には辛い思いをさせられてるようね…」
「……えぇ…なんたって俺はアブソル。怖い事や辛い事なんて…もう」
「そうなの…気持ちの整理がついたら下に来てね」
ウインディもそう言い残し部屋を後にした。
頭では判ってる。
人間が全員あんな奴らじゃないって事。やさしい人間もたくさんいるって事も。
だから人里に降りては災いを警告するが、追いかけられ、攻撃され、結局は救えない。
人間に会うことは普段はどうってことないんだ。
でも…昔の事を思い出した後しばらくは人間に会うと恐怖でいっぱいになってしまう。
……。
少し休もう。
俺は毛布の上で丸く横になりそのまま眠気に任せて瞼を閉じた。
☆
「ご主人…あの子どう思う…?」
川で倒れていたあの子を助けたのはいいのだけれど、人を見た瞬間あの反応…
きっと以前人になにかされたに違いなかった。
人を見た瞬間震えだして顔を恐怖で引きつらせてたから。
「あの子大丈夫なのかしら」
ご主人はどう思っているのだろう。
「……きっと人に怖い体験をさせられてるんだろう…でないと、あんな怖がり方はしないよ」
「やっぱりそうよね…アブソルって確か災いを持ち込むって聞いた事があるわ」
「……あ、あぁ。そんな話もよく聞くけどでたらめだよ。きっと」
何か考え事でもしていたのかな…あの子の反応の事もあるし仕方ないか。
でもやっぱりご主人も同じ事を考えてたみたい。
事情は後からでいいから、今はゆっくり休んで落ち着くことが得策よね。
その後ご主人は夕食の片付けをした後、アブソルが降りてこない事を心配しつつも就寝の時間になったから、
私たちも布団を敷いて眠ることにした。
結局あの子は2階から降りることなく、その日を終えた。
☆
朝日が目に差し込んでまぶしい…
もう朝…
俺はゆっくりと体を起こして伸びをする。
足の怪我のほうは処置してもらったおかげか、痛みが少し残るのみだった。
そういえば木の実まで置いていてくれたのを忘れていた。
おいしそうなオレンの実が目に入ると…口を汚さないように一口で食べた。
後の二つも同様に一口で食べてしまった。
もう少し味わうべきだったのだろうけど、お腹が空いてたから仕方ないよね。
「お礼…言わなくちゃね」
助けてもらった上に木の実までごちそうしてもらったとなると…やはり申し訳ない。
テレビの音が下から聞こえてくる。
どうやらもう起きているようだし、降りるとするか。
きっと今なら昨日のように震えだすことは無いだろうし。
頭の角でドアを傷つけないように手でドアを押すと簡単に開いた。
少し周りを見渡した後、俺は階段に向かって歩を進め、不慣れながらも、カク、カクと曲がった階段を降りていく。
…えらく大きい階段だ。あのウインディが上れるようにだろうか。
2回曲がった階段を降り終わると右には玄関、左に大きめのドアがあった…おそらくリビングと言う所かな。
この先には人間とあのウインディがいる……行こう。
そのまま左へ進み、ゆっくりと左前足でドアを押した…
ガチャリと音を立ててドアは開いた。
ゆっくりと顔だけ覗かせて部屋を見ると、カウンター越しにお皿を洗っている人間とテレビの前で横になっているあのウインディの姿が。
こちらに気づいたらしく顔を向けている。
と…とりあえず挨拶しなくちゃ。
「お……おはようございま…す」
「おはよう~。起きたのね」
「あ、おはようー」
えらく形式的になってしまった気がする…
「まぁとりあえず中においでよ。何か食べたいものとかあったらご主人に言ってね」
「あ、さっき昨日用意してくれた木の実を食べたんで大丈夫です」
「そうそう僕に何でも言ってね。よかったらソファーにでも座りなよ」
お皿を洗い終わったのか、人間も手を拭きながら椅子に腰掛けていた。
「それじゃあ…お言葉に甘えて」
俺はソファーに向かい飛び乗った後、小さく座った。
「アブソルは今いくつなの?」
「俺は…まだ16になったばかりですね」
「傷の具合もどう? 応急手当だけはしたけど…痛まない?」
「少し痛みますが最初よりとても痛みは引きました。
助けてもらったばかりか手当てや木の実までご馳走させてもらって…なんだか申し訳ないです」
「いいよいいよ~。まぁこれも仕事の一環だしね」
仕事…?俺にはなんの職か想像がつかないや…
「何のお仕事をなされてるんですか?」
「僕はポケモン保護団体に勤めててね。応急処置やそこらへんは得意なんだ。」
保護団体…そんな仕事があるんだ…
「でも昨日はなんであんな所に倒れていたんだい?」
そこから俺は山の危機を察知したこと。危険を知らせに行った事。村の人の事。
昨日の事を全て詳しく説明した。
人間も途中驚くような表情をしながら真剣に聞いてくれた…
「あの滝に飛び込んだと…通りで傷だらけなわけだ……」
「えぇ…そして俺がこの家で目が覚めてウインディさんがあなたを呼びに行ったときに…
…俺の両親が殺された時の事を思い出してしまったんです」
「もしかして…人間に……?」
「えぇ。昨日まともに喋ることができなかったのも…それで」
ダメだ…また思い出してしまう。
明るい夕日。人間の影と四つの影。
人間が…ポケモンに……指示をだし…
「わっ!」
俺は一瞬何が起きたのか理解できなかった。
しばらくすると人間が俺を抱きしめているのがわかった…
「辛かっただろう…。お前が話をしている時、どんどんお前の顔が歪んでいくのを見た。
ずっと一人で生きてきたんだろう…?ずっと辛い思いをしてきたんだろう…?」
「う…」
「…これから僕の所で暮らさないか?
僕たちはポケモン保護のために各地を回っているんだ。
一緒に危険を知らせて少しでも被害を減らしたいと思う…
ウインディもいいだろう?」
「私も喜んで歓迎するわ!」
この人たちは災いの元と言われるこの僕を…
暮らさないかと言ってくれた…
親がいなくなってから感じる事の無かったこの温かさ…
こんなに温かかったんだ…
「…えぇ……喜んでっ」
もう湧き上がる感情を堪えられなかった。
彼の胸を濡らしてしまったが彼は何度も頭を撫でてくれた。
泣きながらでもこれだけは言っておこうと俺は彼の前に座った。
「これからよろしくお願いしますね…ご主人!」
あとがき
初めましてオムレツと申します。
私の処女作となったこの作品ですが、
アブソルの悲しいものが多い中、救われるものもなければ…と思い執筆しました。
また、今現在加筆またはリメイクは未定です。
……とページの編集もなかなか緊張しますね。
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