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破壊の力 一、二話

/破壊の力 一、二話

written by cotton

二章 the story of breaker

【破壊者】龍族の抑制など、主に戦闘を専門とする勢力。戦闘力によって、「覇龍」「覇世」「覇女」に分けられる。

一,未熟な牙

 砂塵が舞い、視界を狭める。焼け付く程の熱風が飲み込んでゆく。昼の砂漠は過酷そのものだ。慣れない地での戦闘で、不利な状況に立たされていた。
 まいったな……こいつらを相手している場合じゃないのに。少しの時間も無駄にできないのに……、とか考えてみても、相手に退く様子は勿論無いわけで。
 ナックラーの群れ、十匹程が辺りを囲んでいる。逃げようにも……相手の包囲陣からはこの"逃げ足"でも抜けられそうにない。他の仲間の姿も見つからない。……まあその点は、いざとなれば鼻が利くんだけど。
 ナックラー、将来的に(ドラゴン)になる龍族。しかも、まだ未進化ではあるがその攻撃力は脅威……。
 手抜いて戦うことはできなさそうだ。四肢に力を込める。踏みしめた砂が脆く崩れめり込んだ。砂嵐が、灼熱が、徐々に体力を奪ってゆく。でも、そんなものに怯むわけにはいかない。

「一ノ牙:噛み付くッ!!」

 強く砂を蹴って、舞う砂塵の中へ飛び込んだ。目には敵の姿を映して。牙には破壊の使命を込めて--


--外を覗くと夜空が見える。星が散りばめられた藍色の空。それはちょうど、この砂漠によく似ている。数多の星が砂粒のように見えた。
 昼間とはうってかわって、砂漠の夜は予想以上に冷える。冷気が、被っている毛布を、隙間を通して入ってくる。しかも、救護用テントの中だから尚更寒い。呼吸の度に白い靄(もや)が現れ、すぐに消えた。
 ふと、入り口のカーテンが開いた。
「フェン、此処に来るの何回目?」
 彼はこちらを見て、あぁ、またかと溜め息をついた。ケール:チリーン、今回救護を担当することになった創造者。
「三回目です」
「三回? 遠征が始まって毎日じゃん……」
「それでも今日は本当にヤバかったんですって。十相手にヒトリッスよ?」
 念力で浮かせた紙に何かを記している。地面からじゃなにも見えないが。
「お前のことだ、どうせまた突撃し過ぎたんだろ?」
「そう言われましても……実技課題が終わりそうにないから急がないと……」
「実技課題? えーっと、群れのリーダーの撃破だっけ?」
「はい。今回は主にビブラーバ辺りがターゲットッスね」
 最近は龍族の侵攻が盛んになってきた。それに対抗して、今回のような課題を設定したのだろう。受験者は六匹。全員受かる可能性もあれば、その逆も有り得る。
 群れのリーダーも当然龍族だ。苦戦する事は目にみえている。だから、体力の残っている序盤のうちに決着をつけたい。……のはやまやまなのだが、
「……なんで一匹も見つけれないんスかね?」
「探し方が悪いだけじゃねぇの? ま、何にしてもだ。ポチエナ種は元々戦いが苦手な種族なんだから。そんな無茶な戦い方じゃ、上に行けても通じねぇぞ?」
「分かってますよぅ……」
 期限はあと四日。それまでにはクリアしないと。此処に来た意味がない。破壊者になった意味がない。……焦っていても仕方無いのは分かっているのに。
 白い溜め息は、舞い広がりすぐに消えた。

二,疑問 

 疲労は動く気力を奪う。暑さは動く体力を奪う。それでも踏みしめる砂が熱く、動かずにはいられない。……どちらかというと、そっちの方が好都合かもね。もう時間も残り少ないから。
 影はその大きさをあっという間に縮めてゆく。モタモタしてると、一週間なんてあっという間に過ぎてしまう。
 どれだけ探しても、砂と、陽炎の向こうの空以外はほとんど何も視界に入らない。ナックラー一匹でさえ、この砂の中から一輪、花を探すかのように難しかった。苛立たしさというより、虚しさを感じた。
 でも見つけられたとしても、自分が勝てる相手なんだろうか。これまでリーダー(ビブラーバ)を撃破するどころか、下っ端(ナックラー)の群れにさえ苦戦している。いくら未熟と言えど、俺にはその程度の力しか無いのだろうか?
 暑い。そんな愚痴は自分にも聞こえなかった。言っても仕方ないのは分かってはいる。それでも、無音の空間が寂しいのだ。
 俺はこのまま、何もできないまま無駄な時間を過ごすのか? 何をしにきたか分からないまま、此処を去らなければならないのか? ……いや。そんなことを考えるのは早い。今はただ行くしかない。何も無いこの砂の中を。何か有るこの砂漠を。

――何か有る……筈なのだが。
 四日の疲労は思った以上に重くのし掛かっていた。
 やはり砂漠の環境は伊達じゃない。それでも、こういう環境だからこそ、砂漠の生き物は強く育つのだろう。弱音を吐きたくなる自分はやはり未熟なのか。
 ……そうだろうな。戦ってもないのに、もう息が切れている。息を吸う度に、口の中が焼ける。
 強者と弱者の違いって何だろう。鞄を開き、木の実を取り出しながら考える。岩も何も見つからなかったため、日陰で休憩というわけにはいかなかった。
 強者と弱者。当然、強い者と弱い者だ。……じゃあ、強いと弱いって何だ? その境界線は何処だ? 何が違うんだ?
 考えるほど疑問が増える。考えるほど答えから遠ざかっている。いや、答えが何処なのかさえ分からない。かじりつく木の実の果汁が、砂の上に垂れた。小さな染みは、あっという間に消えて無くなった。
 影はもう東に向いていた。期間が半分を切った。焦りを思い出し、さっさと木の実を食べ終え、また歩き出した。

 何の変化もないことに慣れた目は、やっと新しい景色を映した。
 向こうに砂煙が上がっている。風にしては不自然過ぎた。一ヶ所しか見られなかった。明らかに誰かがいる。来たか、と、少し期待を抱く。
 急ぎ足が更に速くなる。やっと見つけたチャンス、逃がすもんか。
 標の元に近づいてゆく。やはり何かいた。しかも……待ち望んでいたターゲットだった。
 ああ、やっと見つけた。黄土色の中に不釣り合いな緑色、ビブラーバ。周りにはナックラーもいる。群れのようだ。
――……ん?
 一匹、違う赤色がいる。ナックラーの赤とは違う、炎の赤。あれは……
――ブースター……?
 砂がまだ舞い上がっているが、その間から確認できた。……間違いない、ブースターだ。そういえば候補生の中にいたような気が……。
 ……先を越されたか。急いでいた足が重くなる。やっと見つけたと思ったのに……。
 今日も駄目だったか。どっと疲れが出た。その戦いをただ眺めているしかなかった。
 戦い……?
 ……そこへ向かわずにはいられなかった。何か様子がおかしかった。行かなければならなかった。
 その倒れたブースターが動かなかったからだ。

破壊の力 三、四話へ。

気になった点などあれば


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Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
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