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砂漠の歌姫

/砂漠の歌姫

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作者:ユキザサ



 夜の砂漠に響くギターの旋律。旅の人々や商人、そしてその人々のポケモンたちの憩いの場として作られた小さな酒場だが、この砂漠唯一の人が集まる場所と言うことでほろ酔いの人間から、少なくなってきた旅費などを音楽等の技術で稼ぐのにも一手担っていた。たった今演奏している青年も一人旅の最中少なくなってきた資金を演奏で稼いでいるのであった。
「ふぅ…。ありがとうございました!」
 その直後に酒場からは歓声が沸き拍手が鳴り響いた。そんな状況を少し気恥ずかしそうにしていた青年であったが、しばらくしてギターケースに金を入れる人々が現れ始めた所でありがとうございますと、頭を下げた。

「これで、当分の間は平気かな」
 カウンターで先ほど受け取った金を数えて、当分の間の費用を手に入れた青年はふぅと小さくため息をついた。
「隣座っても良いか?」
「え、あっ、大丈夫ですよ」
 突然声を掛けられたため、少々青年は驚いたが別に断る理由もなく、良く顔を見ると先ほど一番に金を入れた男性であったことに気づき、隣の席に座らせた。
「久々に良い演奏を聞かせてもらったよ。何か一杯奢らせてくれ」
「いえ!さっきもうお金貰ってますし、悪いですよ!」
「いや、俺が誰かと飲みたいだけってのもあるから是非奢らせてくれ」
「じ、じゃあお言葉に甘えさせてもらいます」
 ここまで言われて引き下がるのも悪いと感じた青年は、男性からの酒を受け取り、コツンとグラスを軽く当てた。
「兄ちゃん、まだ若いのに何でこんな砂漠に?」
「探し物ですよ。簡単に言うとトレジャーハントって奴ですかね」
「トレジャーハント?俺はこの砂漠で宿屋やってるがそんなたいそうな物があるなんて話聞いたことないぜ?」
「太古の文明の楽譜。最近、この近くに音楽が発展していた文明があったことが発見されて」
 貰った酒のグラスを傾けながら、薄暗い酒場の照明の下で青年の話を聞いた男性は少し考え始めた。
「へぇ、そんな文明がねぇ。で、兄ちゃんはそれを探していると」
「はい、なにか情報がないかと思ってここに来たんですけど、成果はあんまりで…」
「ほぉー。そうだ、楽譜そのものに関係あるか分かんねぇが、砂漠の歌姫って噂なら知ってるぜ」
「く、詳しく聞いても良いですか!?」
 知らないうちに頼まれていた二杯目のグラスを傾けている男性が発した言葉に、この砂漠に来てからというもの、全くと言っていいほど関係のある情報がなかったため、やっと見つけた手掛かりになるかもしれない情報を青年は逃すわけにはいかなかった。
「この酒場から北に少し歩いたところに、割と大きめのオアシスがあるんだよ。そこで夜になると突然歌声が聞こえるんだってよ」
「歌声ですか?」
「おう。そして、その歌声につられた奴がそこに近づくと、突如意識を失って気づいたら食料の類が無くなってるって話だ。まぁ、そいつのおかげで夜に出歩く奴が少なくなって宿屋の俺は儲けてるけどな」
「砂漠の歌姫…ありがとうございます。今から行ってみます」
「おいおい、正気か?」
「はい。やっとそれっぽい情報を見つけたんです。行動は早いうちにしといた方がいいと思って」
 もう酒場を出ようと足早に準備を始めている青年にはぁ、とため息をついてから。青年に話を続けた。
「なんか訳があるっぽいし、止めはしないが、せめて拠点くらいは必要なんじゃないか?」
 その言葉を聞き、最初はポカンとしていた青年だったが、その後の男の発言でその意味を理解した。
「タダとは言わんが、兄ちゃんなら半額でいい。その砂漠の歌姫に関してしっかり分かるまで、ウチを使いな」
「そ、そんな悪いですよ。それに野宿ぐらいできますから!」
「食べ物を奪うかもしれないやつが近くに居るかもしれないのにおちおち寝てられるのか?その方が色々と減りは早いと思うけどな」
 男の言葉を聞き、良く考えてみると全ての物資を持ちながらの野宿と、費用はかかるとは言え重要な物は全部置いていける宿。しかも半額ともなればどちらの方が良いかは明らかであった。
「じ、じゃあ、よろしくお願いします」
「よっしゃ!じゃあ自己紹介だな。俺はウィルよろしくな!」
「ヨグです。よろしくお願いします」

 その後、ウィルの宿屋に荷物を置くとすぐにそのオアシスに向かった。幸いに先ほどいた酒場と例のオアシスの丁度中間にウィルの宿屋があったためそれほど時間は掛からずに到着し、担いでいたギターを降ろした。ウィルからはそれも置いていったらどうだと言われたが、食料しか奪わないという情報と出来たらその歌姫の歌を採譜してやろうという気持ちから、ヨグはギターだけは持って来たのであった。
「ここだよね?想像以上に大きいなぁ」
 到着したヨグが感じたことは、そのオアシスの大きさだけではなく。オアシスだというのに、誰一人、人の姿が見えない点であった。
「皆、歌姫の噂を聞いて近づかないのか」
 そう呟きながら、オアシスの水辺の近くまで近づくと突然、透き通った歌声がオアシスに響いた。そして、その歌声を聞いたヨグはその歌声が人の物ではない事と、なぜ、この歌声を聞いた人間たちが倒れたのかの理由を瞬時に理解した。
「なるほどね。でも、僕は安心してこの歌の採譜が出来るわけだ」
 ちょうど良い所にあった倒木に腰を掛けて、ギターケースの中から白紙の五線譜とペンを取り出して、ヨグは続いている演奏に耳を傾けてながら。五線譜の上にコードとメロディを書き足していった。
「あれ?」
 しかし、その歌声が突如止まってしまった。すると、その直後にオアシスの中から一匹のアシカによく似たポケモンが顔を出した。
「久々にご飯にありつけるぅ!…ってあれ?」
「こんばんは。君が砂漠の歌姫の正体かな?」
「なんで!?私の歌を聞いてなんで眠ってないの!?」
 ヨグが無事と分かるとあからさまに落ち着きを無くしたポケモンにあははと笑いながらヨグはその理由をポケモンに答えた。
「ごめんね、僕って生まれた時から歌うとか草笛みたいな音色で状態異常を引き起こす技が効かない体質なんだ」
「そんなぁ…久々にちゃんとしたご飯食べれると思ったのに…」
 その直後、オアシスに歌声ではなく、グーという腹の音が響き、その発生源であるポケモンは顔を赤らめた。
「えっと、お腹すいてるなら、あんまり量はないけど食べる?」
「い、いいの…?」
 ヨグから差し出されたおにぎりを見ながら少し気まずそうにそう答えたポケモンに対して、ヨグはもちろんと答えた。
「ありがとう!最近人が来なくてご飯にありつけなかったからもうそろそろ空腹で死ぬかと思ったよー!」
「あはは、あっ、食べてからで良いからさっきの歌をもう一回聞かせてもらっても良いかな?」
「そんな事なら好きなだけ歌うよ!」
 おにぎりを食べながら、言葉を返すポケモンに心の中で歌姫っぽくないと思ったヨグだったが、噂の真偽を確かめるために言葉を続けた。
「ここで、商人とかの食料を奪ってたのは君ってことで良いんだよね?」
「うっ!そうだよ…ここだと食料が無くて悪い事してるとは思うんだけど、生きるためには仕方なくて」
 おにぎりを食べ終わったポケモンは罪悪感の籠ったとした声でそう答えた。
「あなた名前は?」
「僕はヨグ。探し物でここに来たんだ」
「へぇー、私名前はないけど、一応種族名はアシレーヌって言うんだ」
 よろしくね、と右鰭を差し出してくるアシレーヌにヨグも右手を差し出した。鰭の大きさ的に完璧な握手では無かったが。
「じゃあ挨拶も食事も済んだし、歌おうか!」
 先ほど聞いた旋律が響いていく。今度は先ほどとは違い他人に危害を加えるための音ではないためか、先ほどよりも綺麗な歌声が響いていく。歌声だけではなく時折吹く風や、その風によってなる水面の音や木のさざめき。夜空の星々も相まってオアシスは幻想的な場になっていた。しかし、なぜか歌は途中で終わってしまった。
「あれっ?」
「ごめんね、私ここまでしか歌えないの」
「どうして?」
「この歌の楽譜がここまでしか載ってないんだ」
「楽譜?」
 そうだよ。と答えたのちにアシレーヌはオアシスの中に潜っていき、一つの石板を自らが作ったであろう水のバルーンで運びながら戻ってきた。
「はい。ここで見つけたんだけど、多分もう一個どこかにあるんじゃないかな?」
「えっと、これアシレーヌは読めるの?」
「えっ?あぁ、ポケモンなら読めるんじゃないかな?」
 石板に書かれた文字はとてもじゃないが人間が読めるような文字ではなく、ヨグ自身も読むことが出来なかった。しかし、アシレーヌの言う通り、石板には不自然に右半分が欠けて無くなっている事は分かった。
「私としては、逆にこっちの楽譜は読めないかな」
 振り返るとアシレーヌが先ほどまで採譜していた五線譜を見つめていた。
「もしかしたら、これが探してる楽譜かも」
「探し物って楽譜だったんだ」
 石板を見ながらうんと頷いたヨグはここまで来た経緯の全てをアシレーヌに話し、そのついでに、ここが噂になっていた事も一緒に伝えた。
「なるほどねぇ。最近人が全然来なかったのはそういう理由だったんだねぇ…」
「はは、流石に被害が出てるって分かったら対策はされるよ」
「だよねぇ。でも、これからどうしよう。私砂漠は一人じゃあまり動けないし…」
「動けない?」
「私たちの種族って喉が乾燥すると身を守る手段が無くなっちゃうから、こんな乾燥しやすい所だと水辺から動けないんだよねぇ」
「うーん。じゃあ、もう一つの石板が見つかったらまた歌ってくれるなら、夜にご飯くらいなら持ってくるよ?」
 その言葉を聞いた瞬間にアシレーヌが目をキラキラと輝かせながら、ヨグに詰め寄ってきた。
「本当に!?そんなので良いの?」
「うん。この文字だと僕じゃ読めないし。君が歌ってくれたら採譜もしやすいしね」
「なら任せてよ!私もここをもう少しちゃんと調べてみるから!」
「後もう一つだけ条件、今後ここに人が来ても食料を奪うために歌わないこと」
「ヨグがご飯持ってきてくれるならもうする意味もないし絶対にしない!」
「じゃあ、改めて。よろしく」
「うん!よろしくね。ヨグ!」
 もう一度、満点の星空の下で握手をした一人と一匹はまた明日ここで会う事を約束すると、その日は別れた。

 それからのヨグは日中には楽譜の情報を調べることや、資金集めのための演奏をして。夜にはオアシスのアシレーヌに食事を持っていき、たまに一緒に演奏や何気ない会話を楽しんでいた。
「そういえば、アシレーヌはここで生まれたの?」
 もう何度目の夜かも数えられないほどの時間が過ぎていた。夜の静寂の中、突如ヨグから投げられた、質問に対してアシレーヌは少し表情が固まり、その表情を見たヨグは隣にいるアシレーヌの姿を不安そうに見つめて言葉を続けた
「ごめん、言いたくないなら言わなくて良いよ?」
「ううん、ヨグならちゃんと聞いてくれるから話すよ。私ここに捨てられたの」
「捨てられた?」
 うん、と言葉を続けるアシレーヌの目にはほんの少し涙が滲んでいた。
「私バトルとか苦手で、私の元ご主人は強いポケモンじゃなきゃいらないって。それでここに」
 アシレーヌの過去を聞き、そのトレーナーが許せないのと同時に、軽い気持ちでこの質問をした、自分が恥ずかしくなり、眼前に広がるオアシスを静かに見つめた。すると横に座っていたアシレーヌが頭を肩にもたれ掛けてきた。
「やっぱりヨグ優しいね。今も私の事考えてたでしょ?」
「ごめん。軽率だった」
「ううん、でも今度は私が質問してもいい?ヨグはなんであの楽譜を探してるの?」
 今度は、ヨグが言葉を詰まらせ、アシレーヌが不安な表情を浮かべるという先ほどとは真逆の状況になっていたが、やがて、ゆっくりとヨグは口を開いた。
「アシレーヌに会った時のこと覚えてる?」
「私の歌で眠らなかった事?」
「そう。その理由なんだけどね、信じられないかもしれないけど僕には本当に少しだけポケモンの血が流れてるらしいんだ。それで、その楽譜は僕の先祖が作ったかもしれないってね」
「ポケモンの血…?」
「ポケモンには読めるはずの字が読めない位薄くなってるし、信じられないよね?」
 うーん、と唸りながら考えていたアシレーヌであったが。その後に先ほどのようにヨグの肩に頭をもたれ掛けさせて、少し恥ずかしそうに答えた。
「じ、じゃあヨグは私の事どう思う?」
「?どう思うって?」
「だ、だから、その、あの私の事、異性として」
「へっ?」
 その質問を投げかけたアシレーヌの頬は真っ赤に染まっており、ヨグと目が合うとすぐに目線を外し、パッとヨグから身を離して、オアシスに向かって走り出してしまった。
「ごめん!忘れてぇ!」
「あっ!行っちゃった…」
 オアシスの水中に戻っていったアシレーヌを見つめながら。火照った体を夜風で冷ましながら先ほどのアシレーヌの質問の答えを探していた。そして、今までのアシレーヌが見せてくれた、様々な表情が脳裏をよぎり、宿に戻ってからもその質問の答えを探しながら浅い眠りについた。
そしてその翌日、ついにもう一つの石板の情報がヨグの耳に入ってきた。

「おーい、ヨグー」
「あっ、ウィルさん、おはようございます」
「なんだ、お前眠そうだな。それより、見つかったぞ。例の石板」
「本当ですか!?」
 その一言で眠気は吹き飛び、食い気味でヨグはウィルの発言に食いついた。この期間中ヨグ自身も調査は続けていたが。それとは別にウィルも商人などの人脈を頼りにヨグの石板探しを手伝っていたのであった。
「今朝方、出発した商人団が見つけたらしい。明日の夕方には戻ってくるってさ」
「何から何まですみません。商人団の方々にまで声を掛けていただいて」
「いや、その代わり曲が完成したら、ちゃんと聞かせてくれよ?」
「はい!あっ、あとすみません一つ聞きたいことがあるんですけど」
「ん?」
 質問を聞いてウィルは少し驚いた表情をしたが、すぐにいつもの笑顔に戻りヨグにメモを手渡した。メモを受け取ったヨグは笑顔で礼を言って足早に宿を出たのであった。
 そして、時刻は夕方を過ぎ帰還した商人団から石板を受け取ったヨグは、いつもの待ち合わせの場所に急いで向かっていた。
「アシレーヌ!」
「ヨ、ヨグ…?」
 いつもの集合場所である倒木の場所にいつもならヨグが来てから、出てくるアシレーヌが今日は先に居た。しかし、ヨグの姿を見ると急に両目から涙をこぼした。
「よかったぁ!きてくれたぁ!」
「ど、どうしたの?」
「昨日変なこと聞いたから、嫌われたかと思って……」
「そんな訳ないでしょ?今日は二つ伝えたいことがあってきたんだ」
「ふたつ?」
 涙を拭って、きょとんとした様子で見つめているアシレーヌにヨグは満面の笑みである物を見せる。
「それって…もう一つの楽譜?」
「そうだよ。色んな人の協力があって、やっと見つけることが出来たんだ」
「良かったね。ヨグ!」
 そう言いながら、アシレーヌはヨグに抱き着いた。すぐに自分がやったことに羞恥心を感じて離れようとしたが、今度はヨグがアシレーヌの体に腕を回したため離れることが出来なかった。
「ヨ、ヨグ?」
「もう一つの伝えたいことはね、昨日アシレーヌが言ったことの答え」
 昨日の答えと聞いて、少し身をビクッとさせたアシレーヌだったが、ヨグの抱き寄せる力が強くなったことを感じて静かに目を閉じて答えを待った。
「僕はアシレーヌが好きだ。もちろん友人としてじゃなく異性として、今日までアシレーヌが見せてくれた色んな表情や仕草。その全部が愛おしいんだ」
 オアシスに響く風の音はまるで初めて二人が出会った日のようであった。その心地よい風はたった今、愛の告白を行ったヨグの体の熱を冷ましていった。そして、ポケットから一つのモンスターボールを取り出したヨグはまっすぐにアシレーヌを見て言葉を続けた。
「僕と一緒に来てくれませんか?」
「もちろん…!」
 そして、ヨグの持っていたモンスターボールにアシレーヌは自ら入っていった。
 その後、宿に戻った二人は楽譜の採譜をすると、ウィルを含めた大勢の観客の前で演奏を行い、今は部屋に戻り二人でくつろいでいた。
「ふう、あんなに大勢の前で歌うのなんて初めてだったし、緊張しちゃった。それに、私が砂漠の歌姫の正体ってばれちゃったし…」
「ま、まぁ、皆今日の演奏で許してくれるって言ってたし。ね?」
 観客の中には今までアシレーヌに食料を奪われたことのある商人もいた。演奏前にアシレーヌの顔色を見て気づいたヨグが砂漠の歌姫の正体とその悪事の理由を説明した上、二人で謝罪をした。そして、その姿を見た商人達も最高の演奏を聞かせる事を条件に水に流したのだった。
「まさか、ヨグがあそこで全部言っちゃうとは思わなかったなぁ」
「でも、あの状態でいつも通りに歌えた?」
「うっ、それは…」
「でしょ?」
 そんな会話をしていると突然、部屋の扉をノックされた。ヨグが扉を開けるとそこにはウィルの姿があった。
「おぉ!さっきの演奏マジで良かったよ!」
「あ、ありがとうございます!」
 少し酔いが回っているのか、いつもより幾分か高いテンションでヨグの肩をポンポンと叩くウィルであったが。机の上に置いてあったアシレーヌのボールを見て笑みを浮かべた。
「いやぁ、ヨグ良かったなぁ。ちゃんとその子とパートナーになれて!」
「ヨ、ヨグ?」
「あの時は本当にありがとうございました!」
 今朝方にヨグがウィルに尋ねた事は、この砂漠の近くでモンスターボールを売っている場所があるかという事だった。ウィルの言ったパートナーという言葉は単純なパートナーといった意味であったが、ゲットされる前にヨグから告白されたアシレーヌはその言葉を番といった意味に取り、恥ずかしさから顔を紅潮させてしまった。
「アシレーヌ?顔が赤いよ?」
「だ、だって…」
 そう言ってもじもじとしていたアシレーヌを不思議そうに見ていた二人だったが、ウィルがそういえばと言葉を続けた。
「お前の目的は達成した訳だけど、これからどうするんだ?」
「一度故郷に帰ろうと思います」
「そうか。発つ日はもう決めてるのか?」
「準備をして、明日にはもう発とうと思います」
「じゃあ、明日の昼はご馳走にするか!」
「そ、そんなお構いなく!」
 俺がやりたいからやるだけだと言ってひらひらと手を振りながら一階に下がっていったウィルに礼を言ってからドアを閉め、腕を伸ばした。
「疲れちゃったし、今日は寝ようか。明日は忙しくなるし」
「な、なら、私ボールに戻るね」
「えっ?別に二人共ベッドでいいんじゃない?」
 そのヨグの発言に多少の落ち着きを取り戻していたアシレーヌは再び顔を赤らめることとなった。
「わ、私、体大きいしヨグの邪魔になっちゃうからボールで良いよ!」
「詰めれば平気だと思うよ。それに一緒に寝たほうが暖かいんじゃないかな?」
「ウゥ…」
「アシレーヌが嫌なら無理には言わないけど」
「…分かった。一緒に寝る。でも、一つお願いがあるの」
 そう言ってヨグよりも一足先にベッドの上に飛び乗ったアシレーヌはヨグを隣に来るように言った。そして、隣に座ったヨグの右手の上に自信の鰭を重ねて言葉を続けた。
「私の名前決めて欲しいな」
「名前?」
 そう。と小さく呟き、まっすぐにヨグを見つめるアシレーヌの表情はほんの少しだけ恥ずかしさと哀愁を含んでいた。
「私って生まれてからずっとアシレーヌって言う種族名でしか呼ばれたことないから、ヨグが決めてくれたら嬉しいなって」
「…分かった。考えておくね」
「ふふっ、期待しとくね?じゃあ寝よっか」
「うん、おやすみ」
 部屋の明かりを消し、お互いに向き合った状態で寄り添い合って両目を閉じる。しばらくするとスウスウと小さく寝息が聞こえてくる。その寝息の主の頭をヨグはやさしくなでていく。そして、時折気持ちよさそうに表情を緩める彼女が今までどれだけ辛く大変な思いをしていたのかと考えていた。もしも、自分と出会わなければずっとあの場所に一人でいたのだろうか?そもそも、飢えていき誰にも看取られることのなくこの世を去ってしまっていたかもしれない。そう思うとヨグは自分の胸が締め付けられるように感じ、知らず知らずのうちに頭をなでていた手で彼女を抱き寄せた。その感触で眠りに落ちていたアシレーヌも目を覚ました。
「ヨグ…?どうしたの?」
「あっ、ごめん。起こしちゃった?」
「だって急に抱き寄せられるんだもん、驚いちゃった」
「ごめんね。でも、なんか離しちゃいけないと思って。それに、気に入るか分からないけど名前決めたから」
「本当?」
「うん。君の名前は…」
 すぅと息を吸って、抱き寄せる力をほんの少し強くしながらヨグはその名前を口にした。
「エミュ。音楽記号で『感情を込めて』っていう意味なんだ」
「エミュ…」
「僕は君の優しい感情が込められている歌が好きだから。気に入らないかな?」
 そう不安そうに口にするヨグにアシレーヌ…エミュは口付けという形で答えを返した。突然の口付けに驚いた様子のヨグであったが、すぐに落ち着きを取り戻し、エミュを抱き寄せる。お互いの口を触れ合わせるだけの短い口付けを終え、エミュは瞳を潤ませながら言葉を続けた。
「気に入らない訳ないよ。ヨグが考えてくれた名前だもん。すっごく嬉しい」
「良かった。でも、突然あんなことされるとは思わなかったよ…」
「わ、私だって十分恥ずかしかったんだよ!」
「でも、僕たちもうそういう関係なんだしこういうのも慣れていかないとね」
「ヨグ?」
 その刹那、今度はヨグがエミュの唇を奪った。先ほどのキスがヨグの何かのスイッチを押したのか、今度は触れさせるだけではなく、お互いの舌を絡ませる深い口付けであった。最初は拙い動きであったが少しずつお互いに瞳を閉じた口付けの感触に意識を集中させた。しばらくして二人が口を離すと、お互いの口を繋ぐ銀の糸が月光に照らされていたが、その糸はすぐに切れてしまった。
「エミュ、この続きしても良いよね?」
「…ヨグの馬鹿。ここまで火つけたんだから責任取ってよ」
「うん、ちゃんと責任は取るよ」
 ヨグは優しい笑顔をエミュに向けると、もう一度深く口付けをしながらエミュの割れ目へと手を伸ばしていき、その割れ目にゆっくりと指を侵入させていった。
「んんっ…!」
「気持ちいい?」
「う、ん」
 ヨグが指を動かした瞬間、エミュが小さく声を上げた。そしてさらにヨグが指を中に侵入させながらその動きを速めていくと今度は、エミュの嬌声と共に水音も大きくなっていく。
「あう…ひぅ!」
「エミュ、凄く良い声だよ。可愛い」
「よ、ぐぅ…!」
「我慢しなくていいよ」
「あぁぁぁ…!」
 その嬌声の直後にエミュの体が激しく跳ね、その秘所から小さなしぶきが上がった。絶頂を迎えて息を切らしているエミュの髪の毛を束ねている髪飾りのようなものを取ってヨグは少し汗ばむエミュの頬を撫でてから、その髪の毛を優しくとかした。その感触にほんの少し嬉しそうにエミュは口元を緩め、鰭をヨグの首に回した。
「もっとよぐのこといっぱいほしいな?」
「大丈夫、ちゃんと最後までやるから」
 自身の服を脱いだヨグはエミュと向かい合うような形になった。ヨグ自身今までの行為で興奮していたのかその逸物は怒張し天を向いていた。
「よぐのおっきくなってる…」
「触ってみる?」
「う、うん」
 そう言ってベッドの淵に腰かけたヨグの物をエミュは不安そうな面持ちで触り始める。ぷにぷにとした鰭で物全体を優しく撫でるように触っていき、最終的には両方の鰭で包み込むように触った。その感触は興奮が高まっているヨグには刺激が少し強く、ヨグは小さく声を出した。
「くっ…」
「い、いたい?」
「だ、大丈夫」
「じゃあ、がまんしなくていいんだよ?」
 先ほどヨグがエミュに言った言葉を今度はエミュがヨグに言う形となり、まさに形勢逆転となった。そしてエミュは少し意地悪そうに笑みを浮かべながらぺろりとヨグの物を舐めた。
「エ、エミュ!?汚いからそこまでしなくて良いって!」
「よぐのだからきたなくないもん」
 まるで駄々っ子のようにそう言い返しながら、エミュは再び物を舐め始める。決して上手とは言えない拙い動きだが、今のヨグには十分な刺激であり、限界を迎えるのも時間の問題であった。
「エミュ…!せめて、顔離して。もう出るっ…!」
「…むぅ。んっ!」
「ちょっ!?うあっ…!」
「んんん…!」
「エミュ!ほら吐き出して!」
「んっ!はぁ…」
 限界が来たヨグはせめてエミュの顔を汚さないように忠告をした。が、その忠告をエミュは聞かずに今までは舐めていただけの物を口全体で咥えてしまった。その刺激によって限界を迎えたヨグはエミュの口の中へと自身の欲望を吐き出してしまった。その瞬間すぐに我に返り。苦しそうに顔を歪めるエミュに自身が出した物を吐きだすように促したが、エミュはそれを飲み込んだ。
「よかった。ちゃんときもちよかったんだね」
「飲み込まなくても良かったのに…」
「よぐのだから。でも…」
 そう言いながらエミュは顔を赤らめながら、ヨグを上目遣いで見上げながら言葉を続けた。
「つぎはわたしのなかにほしいな…?」
「っ…!」
 その表情は先ほど絶頂を迎え冷静になっていたヨグを再び興奮させるには十分であった。そしてすぐにヨグはエミュを優しく押し倒し、口付けをした。
「じゃあ、入れるよ?」
「うん。でもやさしくしてね…?私初めてだし…」
「ぜ、善処します」
 そう言って、ヨグは自身の物をゆっくりとエミュの中へと押し込んでいった。途中まで何の問題もなく進んでいたが、ある場所を超えようとすると、何かに阻まれた。
「い、今更だけど良いんだよね?僕が初めて貰って」
「あはは、ほんとにいまさらだね。…もちろん」
 その答えを聞き、ヨグはゆっくりとその先へと力を入れて侵入させていった。少しずつ奥に進んでいくにつれて、エミュの表情がどんどんと険しくなっていき、その目には涙が微かに浮かんでいた。
「うあぁぁぁぁ…!」
「よく頑張ったね、エミュ。全部入ったよ」
「あっ、よ、ぐぅ!ぎゅって、ぎゅってしてぇ…!」
 ヨグは分かったと呟きながら。言われた通りに息を荒げながら震えるエミュを抱き寄せながら、優しく頭を撫でた。しばらくして、エミュが落ち着き始めると、少しずつヨグは自身の腰を前後させ始めた。その動きに敏感に反応したエミュは目を見開きながらその快感に体を震わせた。
「ひあっ!ま、ってぇ!あぁぁ!」
「ごめん!僕もう我慢できそうに、ない!」
 最初の内はゆっくりとした動きで、エミュの中を行き来していたヨグであったが、その心地よい快感で少しずつ理性を飛ばしていた。そしてどんどんと激しくなるヨグの攻めにエミュは嬌声を上げながら、ヨグの体を強く抱きしめて歯を食いしばり耐えるしかなかった。
「よ、ぐぅ…!もう、だ、めぇ!」
「僕も、もう、出るっ!」
 両者共に限界が近く、お互いを強く抱きしめながらより深く体を繋げる。そして、ついにその時は訪れた。
「エミュっ!」
「ふぁぁあぁ!」
 ヨグが一際深くエミュの奥に物を押し込むと、自身の欲望を吐き出しエミュの中を満たしていった。ほぼ同時に絶頂に至ったエミュだらしなく口を開けて未だ欲望を吐き出し続けているヨグの物をきつく締め付けながら恍惚な表情を浮かべていた。
「ふぅ…エミュ、お疲れ様」
「ふぁ、おなかあったかいよぉ…」
「ごめんね。今抜くから」
 ヨグが自身の物を引き抜こうと力を入れると二人の繋がっていた部分からトロリと白濁とした液が零れた。ヨグの物が自分の体から抜けていく感覚にエミュは咄嗟に両鰭をヨグの首に回した。
「ぬいちゃ、やぁ…きょうはこのままでいて?」
 お願い。と小さく言ってからヨグに軽く口付けをするとエミュはゆっくりと目を閉じていき、少し経つとすうすうと寝息を立て始めた。その寝顔を優しそうな表情で見つめていたヨグも今までの行為で疲弊していたため、おやすみと小さく言うとすぐに眠りに落ちた。

 翌朝二人が目を覚ましたのは、今までにヨグがいつも起きていた時間の一時間ほど後の事であった。そのため、二人で後始末を行っている所を、起きてこないヨグを心配になり覗きに来たウィルに見られてしまい、昨夜にあった事の説明とその謝罪から始まった。そんな二人を見て苦笑いを浮かべながらも、ウィルは二人の関係を祝ってくれた。そして、時刻は夕方を回り、ついに二人の旅立ちの時が来た。
「ウィルさん。今までありがとうございました」
「あぁ!また近くに寄ったら何時でも頼ってくれ。お前らなら大歓迎だ」
「あ、あの。朝はごめんなさい…」
「あぁ!良いってことよ!ただ、あんまりヨグに迷惑かけるなよ?」
「むぅ!」
「あはは!じゃあそろそろ…」
「おう。じゃあ元気でな!」
「はい!」
 そうして、二人はウィルと別れヨグの故郷へ向かって歩き始めた。しばらく歩いていると。二人の目の前には二人が最初に出会ったオアシスが広がっていた。
「ここにもしばらく来れなくなるね…」
「まぁ、今生の別れじゃないよ」
 ほんの少し寂しそうな表情をしながらそう呟くエミュに優しく微笑みかけるヨグ。その時二人の間にふわりと風が吹いた。
「ヨーグ?ちょっとこっち向いて?」
「?」
 その言葉にヨグがエミュの方を向いた瞬間、エミュはヨグの頬にキスをした。
「大好きだよ!」
「何かと思ったら…でも、僕も大好きだよ」
「ふふ!ほら、行こう!」
「ちょっ!待ってって!」
 先に走り出したエミュを追いかけて走り出すヨグ。演奏家と歌い手として、そして、それ以上の絆を持った二人の演奏は今始まったのだった。

後書き 

 皆様初めまして、ユキザサと申します。今回の選手権で初めてこのwikiに作品を投稿させていただきました。大変遅くなりましたが、お読みいただいた皆様、投票してくださった皆様本当にありがとうございます!これからもペースは遅いと思いますが、頑張って作品を投稿していきたいと思っておりますので、どうかよろしくお願いいたします!

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Last-modified: 2018-04-08 (日) 00:38:01
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