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真昼と夜中の溶け合う時間

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真昼と夜中の溶け合う時間=春はあけぼの
R18です



「ン……」
 
 春の明け方。
 だんだん白んでくる山の際が明るくなってきて、紫がかった雲が細くたなびいている。
 
 いい夢を見た。
 つがいの彼に目いっぱい愛される夢。
 彼は夜中の生物で、僕は昼間の生物だから、やっぱりそういう面でお互いに満たされるのは難しい。
 彼が夕方に起きて一発やるか、夜明けすぎまで朝更かしして安眠に落ちるか二つにひとつ。

 だって春だから。僕の中のそういう欲が昂るんだろうなって。
 そう、だからこれは高確率で僕の夢。

「……おい」
「なんだい、いたのか、キミ」

 淫靡で甘美な夢は夢の中だけで満足。まどろみの中の意識が徐々にこちらの世界に引きずられるにつれ、頭の感覚だけでなく体の感覚も明瞭になってきた。
 ようは夢の中で抱かれて、起きたら本当に彼に抱かれている。
 これは望外。いい方に妄想を裏切られた。ついでに、幸せだなあ、なんて思ってしまった。
 それから、胎の中にまだ入ってる肉棒とか、ぶちまけられた白濁液の感触が伝わってきて、最後に彼の姿を認めた。彼より彼の性器の方が大事なんじゃないかって? それはそれ、これはこれ。

「やあ、おはよう」

 赤く尾を引く目線が左右に踊り、返答に困る彼を助けてやった。
 眠るつがいの胎に肉棒を突っ込み、夜が明けるまでずっと好き勝手犯していました。
 そりゃあいくら悪ぶってる彼でも居心地が悪い。といっても彼は彼でただでさえ明け方まで頑張ってくれていたわけでもあるし。
 彼は僕と目を合わせず……おはよう、と吐き捨てるように言った。 

「ははは……まさか一晩中抱いてくれてたのかい?」
「バカ抜かせ。寝る前のひと働きだ」
「へー。胎の中ダボダボなんだけど、ひと働きでどれだけ出せるんだい、キミ?」

 春は、昼の時間と夜の時間がちょうど半分になる。
 活動時間と休息時間が台頭になる。つまり、僕と彼も対等。
 支配や被支配に興味がないわけではないが、やっぱり彼とは対等がいいかな、なんてずっと思っていた。
 唸る彼が肉棒を抜く。それはぬるりと滑らかに。同じ穴から子種液もどんどん溢れてきた。自分の体ながらちょっと引く。

「さすがに眠ってる間に欲望の捌け口にするなんて、つがい相手じゃなかったら引き裂かれてるぞ」
「おめーだってちょっと前まで同じことしてたじゃねえか」
「それはキミが眠りながら勃起させてて可哀そうだったからだなあ」

 真昼の姿には首周りに鋭い槍がある。真夜中の姿にはそれはないが前足が自由で夜目が利く。
 互いに愛情表現をしたら昼間が夜中をズタズタにしてしまう奇妙な関係。神様は昼と夜がとけあうことを想定していなかったのだろう。ああでも僕が上になる分には問題ないか。神様も割かしバカではなかったのかもしれない。
 せっかく彼が注いでくれたものをこぼすのも悪いと思ったから、体を丸める。毛繕いだ。股の間の。彼に征服されてすっかりその味にされていた。
 刺激の強い光景にすっかり目をそらして、座り込んで喉を鳴らしている。上りゆく太陽なんか見ずに、僕の方を見ててもらいたいものだけどね。

「ソレは飲みもんじゃねえぞ」
「キミがこんなに出すからじゃないか。ああもったいない」

 チッ、と、まるで火打ち石が擦れたようなキレのある舌打ちが響く。

「ルガルガンだけに岩のようにカチカチになってた犬ちんはおいしかったよ」
「……そりゃどうも。寝てるのに真昼のように暖かくてガチガチした岩犬のあなもうまかったぜ」

 水でも浴びに行こうとしたのか、赤白いからだが立ち上がる。が、前足、というか、両手を地面から話したところで大きくぐらついた。

「だめだ眠い」

 倒れてきた体は本当に睡魔に犯されて自力ではどうにもならないといった硬直をしていた。
 既に体温が低くなりゴツゴツした部分も弛緩して緩くなっていた。

「……ああ、お休み。また夕方」

 嫌がらないのをいいことに上半身全てを預けられると、自身を枕に絡みついてきた。今は自分も寝転がっているけどいつかは立たねばならぬのだが、彼はそんなことを考えている余裕もないらしい。前足……というか。腕をがっちり回してきた。
 仕方がない。彼が完全に寝付くまで体を貸してやった。眠っているうちに犯されたことと言い、貸しを作ってばっかりだ。




「これはこれは……眠気に効く餌ばっかり取ってきて、どうしようってんだい?」

 数日後の明け方。
 彼が採ってきたぞと言って並べた食料はヤマノイモ。山菜。眠気覚ましに効果のある……カゴとか言った青い木の実。川魚。

「いよいよ本格的にタマゴが欲しくなったかい」
「それもいいな」
「胎に子供がいる間キミが我慢できないでしょう」

 タマゴが出来るかどうかなんて選びようがないけど、今春の終わりに一つできればいいかな、なんて薄っすらとした願望はある。彼には伝えていない。恐らくそうかとしか言わないから。

「出来るものならとっくにデキてる気がするな」
「だったら尚更スキキライせずに栄養摂りやがれ」

 珍しく上手に言い返されてしまった。彼自身は夜のうちに肉でも狩ってきたのか血色よく腹も膨らんで健康そうだ。
 寝起きから生肉を食んで生き血をすするのは嫌いではないが、こうして相方が用意してくれた下心満載の食事を共にするのもまた乙なものではないか。

「しかし残念だな。僕がもう少し不摂生できる体なら、もっと君と仲良くなれたのに」
「今でも十分仲良しだろ」
「一晩中夜更かしっての、やってみたいじゃん」
「……俺が昼間じゅう起きてる努力すらぁよ」
「ほう、そのためのこの食料」

 まずは木の実からだ。腐ってさえいなければ大抵のものは食える。オオカミのあごは強い。口に合うか合わないかは別として。

「まずい」

 だめだ。口に合わない。逆に目がさえる。噛むたびに果肉からあふれる果汁が腔内を蹂躙して一気に気分が悪くなる。
 耐えきれずに、彼の口に全部預けた。色気も何もない口移しになったが、吐き出すよりいいだろ。
 同じ蹂躙されるなら彼の体液の方がいい。
 
「あのなあ」
「眠気覚ましが必要なのはキミだろう。ちょうどいいじゃないか」

 そして山菜に目をつける。ワラビだの、ゼンマイだの、コゴミだの、人間が集めてそうなものを二足歩行のオオカミがせっせと摘んでいる姿を想像すると笑う。

「ん? なんだいこれ」
「ああー……じゅんさいとかいうらしい。ドロバンコに教えてもらった」
「そいつは食わなかったのか」
「持って帰れないだろ」

 中身が芽吹いたランクルスかと思った。プルプルの透明な膜につつまれた芽生えが転がっているもんだから。これが食えるのかというから食えるらしいといわれた。

「うわ、えっち」
「どこ見てんだ」

 とろりと糸を引いた外側の透明部分はよくないものを連想させる。噛むたびにそれは透明な糸を引きオオカミの突き出た腔内を彩っている。彼の食事姿に煽情されて、別のところが透明な糸を引きそうだ。ぬめりも光沢も申し分がない。
 ほかの山菜の味なんてわかりゃしない。あ、今木の実食べればよかったな。

「本気汁みたいだな」
「どんな発想してやがる」

 どこから採ってきたかもわからないヤマノイモに口をつける。ルガルガンとはいえ所詮は岩の犬だから穴を掘るのはやぶさかではない。特に前足の立派な爪が使える真夜中の姿。秋のうちに取りつくされなかった残りを偶然見つけてくれたんだろう。

「な、皮剥こう。ってか擦ろうぜ」
「おい、どこで……って!」

 そうなんだ。目の前にちょうどいいものがある。揺れる赤い目をよそに、上に乗っかり、芋を咥える。
 岩のオオカミの腹は、ところどころ岩が露出しているものだから。
 
 ガシガシガシ!

 力任せにイモをこすり付けた。彼が呆れたようにため息を吐くと、そっとイモに手を添え、すりおろすのに協力してくれた。
 体勢的にはいかがわしいことしてるのと変わらないが。

「すげー積極的」
「キミが悪い」

 腹のところから重力に沿って股の間へ。早く食べないともったいないが、腹の上で僕が楽しんでいる以上彼が自分で舐めとることはできない。
 加えていたイモを放し、毛羽立った上に出来上がった白いドロドロを舐めていく。
 腹の真ん中から、脇腹へ、そして下腹部、股の下と。
 そうら出た。赤黒い雄の象徴が耐えきれずに飛び出してきて、白い粘液に彩られ自己主張。

「勃たせてるのはいいけど、舐めとらないと痒すぎて発狂するぞ」
「……よろしくお願いします」

 痒みを感じているのかいつもよりも脈動がすごい。敏感なところに痒いものが塗られるとこうなるのか。そういえば性感帯も普段はくすぐったいだけだしな。我ながらエグイ攻めを開発してしまった。
 付け根の膨らんだところから丹念に味わっていく。砂の無味と雄の塩辛いようなもともとの味、香りも重要な要素になるがここほど強く主張してくる部位はない。頭がおかしくなりそうだ。
 肉棒は舐めるだけでも楽しい。彼が何か言っているが聞いてやるものか。反応するたびに感じているのはよくわかるからとにかく続けてしまう。
 とろろを舐めとっているのにそこにまた白いドロドロの液体を勝手に追加されてはいつまでも奇麗にならないではないか。
 それもどんどん噴射してくる。きついほどの匂いと口に入らなくなるほどの体積を以て僕を逆に追い詰めてくる。棒の先を咥えた。
 出てくるところから全部吸い出してやればいいんだ。

「ごちそうさまでした……」
「おそまつさまでした……」

 ルガルガンの吐精は長い。僕はずっと咥え続けて、彼はずっとびくびくしていた。すべて吐ききるまでどれくらいの時間がたっただろうか、腹はパンパンに膨れた。
 腹の中に入った空気を押し出したら精液ととろろの混じった味がした。美味しくはないが、癖になる。機会があったらまたやろう。彼はきたねえなとぼやいた。

「まだ魚が残ってたな……」

 精液の生臭さで放置していた魚の臭さは遥かに和らいでいた。これなら丸呑みできるな、と白濁液まみれの姿で冗談めかして言ったらいやな調理法だと彼はぼやいていた。僕は発明だと思うけど。
 膨れた腹でもほとんどは液体なので、固形物はまだ入る。生臭さを嫌がる彼には精液の味になった僕の口でつみれにしてから飲み込ませてやった。自分が出したものだ、ざまあみろ。
 太陽は既に珍しく高くまで登っていた。
 



 また少しの日が経って。
 久しぶりに夢を見ずに目が覚めた。すなわち、彼が私に手を(足を?)出さなかったということ。
 そんな不健全なことはない。
 何らかの事故なら問題ないが……不安に駆られて寝起きの毛繕いもせずに巣穴を飛び出した。一番ぞっとしたのは彼が自分への興味を失った可能性だった。
 ニオイは覚えてる。というか毎日ずっと一緒にいたんだから忘れるわけがない。なんなら自分の匂いもついてるはずだからそれを追えばいい。
 刈られた不安とは裏腹に、彼はすぐ見つかった。組み伏せられていた。雌に。異種族ながら同じ四足歩行で、さらに言えば私たちから見ても見目麗しい淑女と呼べるような四つ足の悪に。

「なんだよ、嫁付きかよ」
「悪いなあ。そいつは私の旦那なんだ。放してやってくれ」

 夜が明けて弱体化したせいもあるのだろう。力なく押さえつけられる彼は僕の姿を認めて弱弱しく吠えた。
 情けないとは思わない。ずっと一緒にいたから。

「お前も雌なら分かるだろう。この時期は雄日照りでな、性器だけでも貸してほしいんだが」
「お生憎様、もっと他の奴を探してくれ。僕以外じゃ勃ちませんってさ」

 空気が張り詰める。後ろ足に力を込めて頭を下げる。彼女を突飛ばせるように。彼女にとっては片方は下した雄とはいえ二対一だ。不利には違いない。

「わかったよ。別のを探すさ」

 そういって彼を解放した。僕が再開を喜んでいる間に彼女はもう消えていた。
 まさか春のあけぼの、夢や幻ではなかろうが。

「キミは律儀だな。泥棒ネコだか盗人ギツネだかにも一切ムスコが反応しないなんて」

 とはいえ嬉しいのは事実。操を通した旦那に頬ずりして、顔を嘗め回す。土の味がしたがそんなことは気にしない。彼の味の方がする。

「うっせ……眠気が勝って起たねえんだよ」

 嘘だというのがすぐにわかる。僕の匂いを嗅いだら眠いのは事実だろうが同時に下半身に血流が言っているのが感覚でわかる。そりゃあくっついていればね。
 ちゃんと雌の匂いにはあてられていたのだ。
 もっと溺れさせようと、さっきまでされていたよりもより強力に。上から押しつぶすようにして圧し掛かった。
 何も言わず、お互いがお互いで埋まる。心の安寧には持ってこい。

 しばらくこうしていると、胎の外側から彼の肉棒が突き刺さるのを感じた。

「なあ、前からやってくれないか?」
「お前が辛いだけだろ」
「試してみなきゃわからないだろ」

 真昼の姿は後ろから突かれるのが前提のつくりをしているけど、背中側にも石が露出しているところがある。胎を出した服従のポーズで彼の前に転がってみた。

「べとべとじゃねえか」
「キミだって朝勃ちするだろう。朝濡れだってするさ」
「初めて聞いたが」

 まあ朝勃ちもするけど、彼の趣味じゃないらしいし。
 僕も彼も準備は万端、

 顔見えるのいいな、だろう。なんて余裕を見せつつ、

 結局満足してもしばらくこうしてつながってなきゃいけないんだ。いつもの背中合わせより、こうした腹合わせは新鮮で、もう一度体を密着させる。

「両手でさ、こう、頭をぽんぽんってしてさ」
「人間みたいに?」
「人間みたいに」

 春はあけぼの。
 春が過ぎたら夏になる。
 夏は夜。
 彼の時間だ。
 日が長くなって、僕の時間が彼の時間に重なるようになる。じりじり焼かれるような暑さが和らいだころに起きだして、一緒に仲良くできる。つがいの活動もする。

「でもまだしばらく春のままでいいかな」
「何が?」
「キミと一緒に過ごすなら、って話さ」

 ただ、どうしても春ほどの欲は薄れてしまうし彼も暑い中動くのは好きじゃない。やっぱり春じゃないと。
 だからこの幸せな季節はまた来年だ。それまでお互いに無事でいられればいい。
 そうかい、と小さく吐き捨てた彼は、また怪しく輝く赤い軌跡を残して、明後日の方向を向いてしまった。

あとがき 

春はあけぼの やうやう白くなりゆく 山際少し明かりて 紫立ちたる雲の細くたなびきたる
でした。正直そっちより山芋擦ってる大根おろし便乗じゃねえのかって方がいつ糾弾されるかとビクビクしてます。それでも4位を頂けました!

>「肉棒は舐めるだけでも楽しい。」
犬ちんを綺麗にするこの一文に、二匹の春を感じます。 (2021/04/30(金) 05:09)

気分が乗ってる春と乗らないそれ以外の季節だと同じものを舐めるのにも違う印象を持つかなあと……

>両者の活動時間のギャップからくる、真昼と夜中のルガルガン夫婦の気怠げながら幸福な日常。寝セックスで、気軽に互いのカラダを貸し合う関係性がグサッときました。山芋を腹の岩で擦るくだりには紛うことなき「大根おろし事件」リスペクト(?)が感じられて、さらに良かったです。 (2021/04/30(金) 23:00)

大根おろしの便乗だと思われるのにビビってたんだ!!!!仕方ないけど!!!


>真昼と真夜中のルガルガンの絡みが素敵でした (2021/04/30(金) 23:03)

 ありがとうごぜえます


>るがるが。 (2021/05/01(土) 20:59)

がるがるあおーん

>日常に官能が溶け込んでいるようで、個人的に良かったです。 (2021/05/01(土) 22:15)

私官能それしか書けんので……!!!

☆裏話
本当はテーマが『はる』なので日馬富士で書きたかったけどポケモン関連で何一つ思い浮かばなかったので『春は曙(横綱曙太郎の方。実際にはそんな支配力はなかった)』でやろうと思ってもどうにもならんかったのでじゃあ夜中と昼間で溶かして曙兼黄昏になってもらうかとなりました。

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Last-modified: 2021-05-04 (火) 01:01:52
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