Writer:Lem
この小説には人×ポケ、同性愛の表現、流血表現が含まれています。苦手な人はお引取り下さい。
Epilogue.
ふと、小鳥の囀りが聴こえた。一羽、二羽……全部で六羽。内一羽がテラスの辺りで残りは近くの木々。夜が明けたらしい。
しかし睡魔は未だ僕の意識を離さない。起きなくてはと思うのだが身体はやけに気だるく、気だるさを振り払おうと右へ左へと寝返りを打っては繰り返す。最初は一定だったものの徐々に落ちていくペースへ、睡魔が再び僕の傍へと忍び寄ってくる。
まるで何か、重要な事から逃避させようとでもしている様に……重要?
突如跳ね起きると同時に僕は彼の者を呼ぶ。しかし返答はない。頭が痛い。それもそのはずだ。低血圧だろうが高血圧だろうが、こんな起き方をしては身体に悪い。
痛む頭に手を置いて落ち着くのを待つ。その間、夕べの事を思い出そうと記憶を巡ったり、周囲に異変がないか探ってみたりと意識を傾ける。
夕べの出来事は夢じゃない。その名残と痕跡が部屋に幾つか残っており、その他異変に気づいた事からそれは間違いない。では何故、こんなにも静かなのだろう。外に居る小鳥の囀り以外、何も聞き取る事ができない。小鳥……。
そういえば風の通りが感じられない。テラスの窓が閉じられているという事は……帰ってしまったのだろうか。
「…………」
はぁ、とため息をつく。やっちゃった、かなぁ。それもそうだろう。僕はあの子を知らず知らずに傷つけたばかりか、追い込んでしまっていたのだから。
最初はそう思っていなかった。自覚がなかった。あると思っていたのにそれは思い込みでしかなくて。あの子の気持を無視して自分の気持に合わせてしまっていた。盲目――だった。
――御前は優しい。だが優し過ぎる――
そうだろうか。僕は君の方がよっぽど優し過ぎる気がする。確かに君の言う通り、僕は誰に対してもこういう性格かもしれない。けれど君だけは別なのに。特別なのに。
「特別……か。何が僕は君を所有しない、なんだろうね」
思いっきり、所有しようとしてるじゃないか。酷い口だけのものがあったものだ。そう思うと夕べの自分の行動はどうかしてる。
思いつめてしまっているから、なんてのは言い訳かもしれない。でもそうとしか言えない。それ程、僕の思考には余裕が無かった。あの子を思いつめる余りに、だ。
人の想いは気持が伝わらなければ重荷にしかならない。まして死人の想いなら尚の事。
同情のつもりはなかった。初めはそうだとしても、あの子に対する興味はそれだけではなかった。
言うなればそれは責任の様なものだろうか。遺言、かもしれない。何にしても放置しておける程、僕は非情になりきれなかった。
弱いからこそ、自覚しているからこそ、僕には嘘が必要だった。
あの子が真実を知りたいと望んだ時……僕はそれを言葉にできるかどうか自信はない。けれど貫き通すなら……僕は遣り通したい。
それが弟の遺した、託した最初で最後の甘えであるならば。
にしては公私混同をし過ぎている感も、やや否めない所ではあるのだけど。
あの子は己の爪を根底から引き抜き、果てはそれを飲み下した。最初は解らなかった。何故そんな事をしたのか、何度も問い詰めた。
「……警告、だったんだろうなぁ」
或いはあの子なりの誠意でもあったのかもしれない。どこかしかで二の舞になる危険性を感じていたのかもしれない。
僕もあの子も似たもの同士だと、お互いそう感じてはいたのだと思う。
或いは――兄弟であると見抜いていての決別だったのかもしれない。
真偽は解らない。問い質そうにもあの子はここに居ない。又来るのかどうか返事すらも聞けない侭だ。
「……はぁ」
やるせない気分に僕はベッドへ倒れ込んだ。スプリングの音が反射しては木霊する。ゆらゆらと揺れる波を感じていると、あの子の挨拶が何だか懐かしく、無性に寂しくなってくる。
ごろり、と寝返りを打つとドアをノックする音が聞こえ、続いて「坊ちゃま、朝湯の準備ができてますよ」と侍女の声。
「うん、ありがとう」
「もう一人の方の用意もできてますからね」
「……ああ、うん……うん?」
「入浴中の間に御部屋を御掃除致しますから、ゆっくり浸かって下さいね。付き人はどうなさいますか?」
「ああ、うん。大丈夫」
「それでは失礼致します」
簡易な会話を交わし、侍女の足音が聞こえなくなった所。
「……居るの?」
「突然ベッドに倒れ込むな。耳がじんじんする」
「だって、居るとは思わなかったから……そもそも、何でベッドの下にいるの?」
「私は明るい所が苦手なんだ。影のある場所といったらここしかない」
声の主は何一つ変わる事無く、僕の傍に付添っていた。
安心したからなのか、おかしいからなのか。人生の内で一番笑った日だった。
「ねぇ」
「何だ」
「君を所有してもいい?」
「それが望みならば」
あとがき。
初めに謝っておきます。この物語は一篇ではなく、前後篇となっております。
初めて筆を取った時は何からやればいいか分からなく、嘆いている所へ良いマニュアルへのリンクが張ってあり、そこを参考にしながらちくちくと執筆していました。
そこで私の最も壁となるのが主人公の切替です。切替しながらの話というのはどうしても感情移入するに当たって複数の気持が入り乱れる為、主観である語り部に集中しにくいのが私の感想でした。
どうしたものかなぁと試行錯誤した挙句、前後篇という次第であります……が。
予想以上に話が長引いてしまってページが重くなってしまったり(Epilogue入れるとフリーズするの何の……)と、少し話の区切りを考えようかと反省。
前篇で大量にばら撒いた複線を後篇で回収という作戦でしたが、本音言っていいでしょうか。
モチベーションの維持が大変過ぎる!(自業自得です)
後篇では彼の主観になります。名前もそちらで明らかになります。
後もうひとつ本音言っていいでしょうか。
実は筆者はBLよりGLの方が好きです。じゃあなんでBL書いたんだよ!って話ですね。
何ででしょうね……多分、気の迷い。うん。
次回作品は百合モノを書きたいので、後篇は二作目以降となります。申し訳ない……。
最後に。ここまで読んで下さった方、コメント下さったり励ましてくださった方、更新が滞っててもちょくちょく足を運んで下さった方。
そしてBL街道まっしぐらの親友へ。ありがとうございます。
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