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白と黒の聖夜

/白と黒の聖夜

Writer:&fervor


今年もまた、クリスマスがやってきた。なんでも、神様が生まれた日、らしい。
けど、そんなものどうでもいい。神様なんて、ただの役立たずだ。…私の病気一つ治せないくせに。
外では白い斑点が降り注ぎ、それは建物の黒とのコントラストで、より一層輝きを増す。
今年はどうやらホワイトクリスマス、らしい。でも、そんなものは私には意味のない物。

――私の世界には、白と黒しかないのだから。ただ、明るいか暗いか。それだけしかないのだから。

…「緑」と呼ばれる色を持つ木も、「赤」と呼ばれる色を持つサンタクロースも、私の世界では白黒になる。
私は白と黒しか知らない。…この目のせいで、一体どれだけ嘆き悲しんだだろう。どれだけこの目を恨んだだろう。
降り注ぐ真っ白な雪も、ばらまかれた小さな砂の礫も、遠くから見れば同じものにしか見えない。二色の世界に…感動なんて無い。

こんな…意味のない世界から逃げ出したい。こんな…貧相な世界から飛び出したい。
サンタクロースは、子ども達に「プレゼント」を配って回るらしい。
私ももう、この年で子どもは卒業。いよいよ最後の、子どもとしてのクリスマス。
私は毎年サンタクロースに、あるものを頼んでいた。…でも、いつもその願いは届かなかった。

どれだけ望んだだろう。どれだけ願っただろう。どれだけ憧れただろう。どれだけ求めただろう。
私は…誰もが持っている、当たり前のものが欲しかった。みんなが住んでいる、普通の世界に生きたかった。

――私に、「色のある世界」を下さい。

何度願っても、結果は同じだったのに。いつもの世界で、同じように目が覚めるだけだったのに。
分かっていても、願ってしまう。今年こそ、と。今度こそ、と。今宵こそ、と。
…もう…嫌なの。こんな世界なんて…。


私は…みんなと同じ、色のある世界に住みたい。みんなと同じ目で、世界を見たいの。
『君が望むなら…』
私は望んでる。本当の…本当の「色」の世界を。
『叶えてあげるよ』
…本当に?本当に…叶えてくれるの?貴方が…?
『さあ、3秒経ったら目を開けて。…君の夢見た、新しい世界が見えるから』
…3、…2、…1、…。

眼前に広がるのは、公園の広い原っぱ。いつも私がひなたぼっこに出かける、いつもの場所。
でも、いつもとは様子が違った。空も、大地も。…分からないけど、とにかくまぶしい。

そこにあるのは、今まで見てきた濃淡の世界じゃなかった。
空は深く、静かに輝いている。大地の草、木々の木の葉は、優しく輝いている。
ぽつりぽつりと咲く花々も、それぞれの輝きを持っている。単なる白と黒じゃない。…これが、色…?

私は一番近くにあったひまわりの花を眺めた。…この、ちょっとまぶしい、快活な輝き…。
みんなが言う「黄色」って、これのことなのだろうか。…なんて言うか、凄い。凄く…綺麗。

続いて、もう一度空を眺める。澄んだ、落ち着いた輝きが、絶えず降り注ぐ。
みんなが言う「青色」って、これのことなのだろうか。…なんて言うか、凄い。凄く…綺麗。

他にもたくさんの「色」がそこにはあった。遠くに見える建物の屋根の、滾るような輝きの「赤」。
原っぱを、そして木々の枝を覆い尽くす、優しい輝きの「緑」。私の頭にも、同じような「緑」の葉っぱが生えていた。

見る物全てが美しかった。見る物全てが新しかった。見る物全てに感動を覚えた。
「色」…これが、「色」…。
いくつもの「色」の中を私は駆け、跳び、転がった。
…幸せが、私の心を満たしていく。…神様からの贈り物に、私はただはしゃぎ回っていた。


「これが契約分の金だ。ありがとさん」
言葉を発したのは、静かに寝ているチコリータを抱きかかえているそのポケモン。屈強な四本の腕が彼の強さを物語る。
「いえいえ、こちらこそありがとうございます。おかげで上質の食事にありつけそうです」
言葉を返したのは、ふわふわと浮くそのポケモン。首にはいくつかの赤い玉がくっついている。それが放つはある種の怨念。
「しっかし、こんな上玉も久しぶりだな。売り甲斐がありそうだ」
「私も、このような不幸なお方を久しぶりに見つけました。再びその喜びから突き落とせば…さぞかし美味な恐怖が味わえることでしょう」
彼らはそう言うと、再び進入した窓から出て行く。おそらくは誰も、二度と戻ってくることはないであろうその家から。

彼の腕の中で…何も知らない彼女は、幸せそうに笑っていた。それがまやかしの喜びだとも知らないで。

――このまま眠っていられたら、彼女はどんなに幸せだっただろうか。

白い雪が、まだ灯されている僅かな街頭に照らされて、暗闇の中に浮かび上がる。
その中を進む彼らの姿は、やがて雪と同じように、どこへともなく消えていくばかりであった。



最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • 現実に即して考えると犬型は色盲かつ近視ですよね。
    チコリータは色が見える種族なのに色が見えない、そのことが不幸に繋がってしまったのでしょう。 -- 2008-12-25 (木) 05:52:38
  • ムウマージはそんなに悪いポケモンではない!! と、ある人の影響でムウマージ好きになった私が言ってみます
     さて、色のない世界に住んでいた者に色の感動を表現させる。それは並大抵な表現力では無理そうですね。私も出来る気がしませんし、今回は少し物足りなさを感じました。

     さて、2行にわたって批判してしまいましたが、今回よかったと思う点を一つ。ひまわりの花が咲いていたことにその出来事が夢である伏線を張っていたことに3回読んでようやく気がつきました。以外と巧みな技法をお使いなさるようで……これがわかった時は『流石だな』と感じました。
     こういった鬱になる話も浮かれすぎなクリスマスにはちょうどいいお話ですね。執筆お疲れ様でした。 -- リング 2008-12-25 (木) 18:29:49
  • >>↑↑
    ポケモンがどうかは分かりませんが、確かに犬は色が分かりませんよね。
    色が見えない、というのはやはり辛い物でしょうね。それのせいでさらなる仕打ちを…。

    >>リングさん
    もちろん、ムウマージは自分も大好きです。ただ、今回は許して下さい(汗
    やはり表現不足は否めません。題材選びから既に失敗した気も…。精進します。

    コメント、どうもありがとうございました。 -- &fervor 2008-12-25 (木) 22:18:01
  • 読ませていただきました。私このような話が好きでして、単純な意見ですみませんがよかったと思います。
    あと、私はこのムウマージはこれはこれで結構好きです。
    執筆御苦労様でした。これからも頑張ってください。 -- 鴟鵂 2008-12-27 (土) 02:03:12
  • >>鴟鵂さん
    読んでいただけただけでありがたいです。良かった、と言ってくださるだけでも十分ですよ。
    たまには悪いムウマージが居てもいいんじゃないかな、ということで出してみましたが、気に入っていただけたようで何よりです。
    これからも頑張らせていただきます。コメントありがとうございました。 -- &fervor 2008-12-28 (日) 16:37:37
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Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
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