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癪の種

/癪の種

閲覧の前の注意。

この作品は残念なことに読み手を選ぶ内容となっております。

近親相姦
プチSM
ロリあるいはショタ
かなりぼやかした流血表現
脱線した意味の理解できない日本語

これらのものに不快感を覚える方は閲覧をお控えください。




 幼いアブソルは土の上に寝転がっていた。土は程よく冷えて湿り気を帯びている。まるで、雨が大地を濡らし始めた瞬間に立ち込めるような匂いを放っている。洞窟は暗闇に支配されているはずなのだが、薄っすらと差し込む月明かりが、幼子の輪郭を浮かび上がらせていた。
 同時に、幼子よりも更に大きいグラエナの姿も映している。グラエナはアブソルの父親だった。
 
 アブソルはグラエナのことを愛していた。彼は何でも知っていた。どの木の実が熟れていて食べごろなのか、食べられる木の実と食べられない木の実の違い。夕焼けの色と匂いで明日の天気を当てることも出来る。
 それらは野生で生きていれば出来ることだが、星の名前や星座の名前。木々の名前に住んでいる地名など、野生で生きているポケモンでは知りえない事も知っていた。
 まだ幼いアブソルが、憧れの眼差しを向けるには十分な資質を持っていた。

 グラエナが教えることは全て難しいことだった。なんせアブソルは幼い。本来なら、日の出と共に目を覚まし、同じ年代の仔ども達と外の世界で遊ぶほうが楽しい、と思えるような年頃だ。
 そんな仔どもが簡単に覚えられる内容ばかりではなかった。それでもグラエナは無理に教えた。その知識はいつか役に立つ、と。アブソルが一人でも生きていけるように、と。いつ自分が居なくなっても良いように、と。
 グラエナは、仔育てに関して不慣れだった。また、苦楽を共にするような牝も居なかった。その所為で、アブソルの教育について相談する相手は居なかった。

 狭い洞窟の中に閉じ込められ、自由に外に出ることも出来ず、たまに外へ出る時だっていつもグラエナと一緒。難しい事柄を覚えるように強要され、覚えられないと折檻される。
 反面、覚えると褒めてくれる。洞窟に閉じ込めているときでさえ、いつも話しかけてくれる。気に掛けてくれる。食事をくれないわけでもない。いきなり殴りつけれるわけでもない。

 結果、アブソルが父を嫌うことはなかった。
 次第にアブソルは、グラエナに対して歪な感情を抱き始めた。
 それはグラエナも同じだった。

「パパ……。今日は、しないの?」
 最初に誘ったのはアブソルからだった。いや、それは誘惑と呼べる類のものとは違う。父と娘だけの生活の中で、心を許せる存在が、グラエナだけだったという事実。アブソルは端的にその気持ちを述べただけ。
 ただ自分の思った通りに好き、と伝えただけ。それは父親として、あるいは理想の牡像として。尊敬に値する一匹のポケモンとして。
 もちろん、その好きという意味は告白などではなく、グラエナの事を異性として意識している訳でもない。それはグラエナも解っているつもりだった。
 だが、彼は孤独であった。独りぼっちという意味ではない。確かに娘のアブソルは居たとしても、心の空白を埋めてくれる“牝”という存在は居なかった。いつもアブソルと一緒に過ごしていても、寂しい気持ちは満たされることは無かった。肌を求められることも、牝特有の包み込むような優しさも、まだアブソルは持ち合わせていない。牝の芽が萌芽していてとしても、まだ成長しきっていない。まだ、幼い仔どもでしかない。
 それなのに。
 牝の役割を娘に求めてしまった。
「お前は本当に、好きだな……。誰に似たんだか」
 そういうと、グラエナはアブソルに覆いかぶさる。自然と目が合う。アブソルはすぐに目線を逸らす。
 グラエナは“幼仔”に欲情しているわけではない。確かに幼い娘なのだが、どうしても異性としてアブソルを見てしまっていた。
 大人の牝として意識していた。だから、何度もこの行為を繰り返した。
 
 反応がいかにも純粋無垢に思えて、グラエナは興奮した。アブソルの反応は初めての時とさほど変わらない。怯えている様な、何かに期待をしているような瞳を覗かせている。
 そっとアブソルの耳に舌を這わせる。
 彼女の吐息がグラエナの頬に吐き出される。
「だって、パパがぎゅってしてくれるの、好きなんだもん」
 まだアブソルは成熟していないはずだというのに、泥や汗の臭いの中から微かながらも牝の匂いが漂ってきた。
 本来なら踏み止まらなければならない。父親として、大人として、まだ年端もいかない仔どもと交わらないように努めなければならない。
 初めは、その努めを守ろうとした。アブソルは幼仔である前に娘である。自分と血を分けた唯一の肉親である。その娘と交わることだけは絶対に許されない。
 理解はしていた。娘に手を出すなんて最低だ、と思ってもいた。
 それでも情に流されてしまったのは、やはり娘をどうしても牝と意識してしまったからだろう。
 娘に伴侶の姿を重ねてしまったからであろう。

 身体の関係を持つと、もう後戻りなんて出来なかった。その漠然とした姿は娘という新しい像を結び、心の中に植えつけられてしまった。
 グラエナは、もう娘をただの幼仔として見ることは不可能だった。必死で娘としてみようと努力しても、やはりどこかで新しい伴侶として見つめてしまう。
 前足を背中に回されるとグラエナは、もう自分たちが親子であることをすっかりと忘れてしまう。刹那的に得られる快楽に満たされたいばかりになる。
 それは牡の性なのであろう。初めのうちにあった、躊躇いや罪悪感は消え失せてしまっている。
 幼い伴侶が自分の身体を求めている。
 グラエナにはその事実だけが残っていた。

「パパぁ……。おちんちん舐めて欲しいよぉ」
「女の仔にはおちんちんなんて付いてないよ」
 確かに、名称までは教えていなかった気がする。ただ、その秘めたる場所が何のためのに付いているのかだけ教えてやったのは覚えている。
 ちゃんとした名前を教えるのが面倒だったのか、淫猥な会話に興奮していたのか、グラエナはただ、“女の仔のおちんちん”と適当に教えてやった。 
 当の本人も忘れてしまっているようなことだった。

「私、ちゃんと練習してたよ。パパが居ないときに……」
 すごく気持ちよかった、とアブソルは付け加える。
 グラエナはアブソルとの密着を解くと、立ち上がり後ずさりする。
 頭の中では、アブソルをとうやって罵ろうかと考えながら目の前にある未熟な性器に顔を埋めた。それは形や大きさこそ未熟なのだが、機能としては成熟している。
 何度も挿入を繰り返しているうちに、グラエナの陰茎を飲み込むほど広がるようになった。まだ根元までは入りきらないのだが、もう少し成長すれば完全に結合できるだろう。
 品定めでもするように、陰裂に舌を食い込ませる。
「そこじゃないよ、おちんちん」
 催促の仕方は、まだ牝らしくない。それもまたグラエナを興奮させた。
 アブソルが求めるとおりに陰核を口に含んでやった。

 本当に気持ちいのだろうか、それとも偽りか。アブソルは何も話さず、ただ呼吸を荒げている。ただ、陰裂はじわじわと愛液を満たし始めている。
 グラエナにはその表情を見る術がない。陰核に口を付け、舌で刺激を与えるだけ。
 そいういう経験に乏しいわけではないが、まだ仔を成す能力すらないような牝でも快感を覚えたり秘所を濡らしたりするという事にグラエナは面白みを感じた。
 
「パパ……。おちんちん、ちょうだい。パパのミルクが飲みたいよぉ」
 グラエナはアブソルの股座から顔を上げて、身体を持ち上げ、望みどおりに陰茎を口元に宛がう。
 腰を埋没させるまでもなく、アブソルはそれを口に含んだ。躊躇いのようなものは微塵もない。
 
 それは初めて契った時とは違う。
 最初は屹立とした陰茎に怯え、それを触ることすら怖がっていた。口に含むのなんて到底無理な話で、舌先で舐めることすら出来なかった。
 今では、どうも慣れてしまっている。慣れているどころか自ら求めてくる。
 
 グラエナの陰茎は、アブソルの口には大きすぎるようで根元まで咥え込むことは出来ない。だから、細くなった先端の部分をしゃぶっている。その部分がもっとも性感を強く感じることを知っているのだろう。
 アブソルは陰茎の先を口に含むと、舌先で突付いたり、嘗め回したりした。
 たまに口から吐き出して、根元の方から先端までを舐めたりした。
 陰茎の更にしたにある皮袋を甘く噛んだりもした。 
 グラエナは色々な刺激を与えられるたびに、くぐもった息を吐いた。それは感嘆から来るため息も交えていた。
 自分が教えた行為だとしても、ぎこちなさは程よく消え、嫌がる素振りも見せず、むしろ楽しそうに、幸せそうに微笑を交えて行われる淫行。愛する対象がそんなにも献身的に尽くしてくれていることを喜ばない牡は居ないだろう。ならば、これがどんなに幸せなことか。
 グラエナはまた溜め息をついた。
 
 アブソルはグラエナの興奮が高まっているということを感じ、前足を使って陰茎を扱きはじめる。根元の方は前足で、先端は自分の口で、という具合に。アブソルもいくらか昂ぶっているのか、目は虚ろにで、頬を紅色に染め、まるで色情魔のような卑らしい顔つきをしていた。

 グラエナは固く目を閉じ、歯を食いしばり、射精を我慢しようとしていた。もう少し、この幼い伴侶を焦らしてやりたかった。
 生理現象にそんな願いが叶うはずもなく。それに、グラエナが射精欲を抑えようと尽力すれば、アブソルは手の動きを早め、口の動きを複雑にし、更なる快楽を与えようと必死になるものだから、耐えられるはずがない。

 グラエナは咄嗟にアブソルの顔を抑え、陰茎を喉の奥に埋没させようとした。
 苦しそうな声を出し暴れるアブソル。
 そのアブソルの喉に、容赦なく醜い欲望を吐き出した。もちろん、アブソルはむせ返し、口から白濁した液体を零している。
 陰茎を抜くと、グラエナを覆っていた熱が少しばかりさめた。

 少しばかり休憩を挟んだ。どうしても牡は精子を放出すると虚無感に襲われる。
 この相手で本当に良いのだろうか、彼女は幸せだろうか、と考えてしまう。
 それは杞憂なのかも知れない。それでも抱かずには居られない気持ち。何よりも親子であるという事実がグラエナを苦しめた。本当なら、こんなことはもっと成熟した牝と行う行為であって。いくらアブソルのことを愛しているといっても、やはり性的な能力には欠けている。精神的には満たされても、身体の欲求を満たせるわけではない。やはり、性交をしていることには変わりないのだが、自分の欲望の半分も叶えていない。
 それをしてしまうと、間違いなくアブソルは不能になってしまう。膣を裂いてしまうかも知れない。子宮を破壊してしまうかも知れない。なんせ、本来ならまだ挿入すら出来ないような年なのだから。
 グラエナはアブソルの瞳を見れなかった。
 身体を見ることすら億劫だった。
 
 今までの盛り上がりは嘘のように消えてしまい、重苦しい雰囲気だけが残っていた。
 
 けれど、それも僅かな間だけだった。
 グラエナは軽く口付けを交わすと腰を丸めて、陰茎をアブソルの膣へと重ねる。
 無理な体勢から上手く挿入するのは難しいのだが、グラエナはそれを意図も簡単にやってのける。慣れているからだろう。どの程度までならアブソルの中に埋めても大丈夫か知っている。挿入するのは先端の部分だけでいい。
 
 アブソルの顔を見ると、苦痛に歪んでいるのが見て取れた。例え濡れていたとしても、膣はかなり狭い。それが押し広げられ、大人の陰茎を咥えさせられているのだから、無理はない。
 歯を食いしばり挿入の痛みに耐えている。

 グラエナの目には、献身的で、性的に興奮させられる情景として写る。
 歯軋りの音が洞窟の中に響く。
 可愛らしい、とグラエナは思った。
 ゆっくりと腰を動かす。大事な娘を壊さないように。愛しい伴侶を傷つけないように。激しく突き上げたい衝動をかみ殺す。アブソルとの時間を少しでも長く楽しめるように。
 それだけ動きを遅くしていても、アブソルの痛みは消えないようだった。
 グラエナの方を見つめることはなく、ただ目を瞑り、溢れてくる涙を零さないように必死になっている。涙は既に溢れ始めているのだが、それでも目蓋は閉じたままだった。
 
 グラエナは抜いてやろうか、とも思ったのだがその気持ちは悪魔の囁きによって掻き消された。これ以上に興奮する瞬間をグラエナは知らない。自分の満たされない欲求に一番近い行為をしているというのに、止めることが出来るだろうか。
 それに、身体のことは気遣ってやっている。膣が裂けてしまわないように動きも遅くしている。陰茎が子宮を貫かないように、突き上げる力も加減してる。
 これ以上、我慢する必要があるのだろか。
 少しぐらい、わがままを言っても許されるのではないか。
 
 せめて、繋がっていることだけは、許されても良いのではないか。 
 全て、グラエナの身勝手な欲望だった。

「痛いか?」
「そ、そんなことないよっ。 すごく……きもちいい」
 アブソルは嘘をついていた。
 例えば、そのどもりが。
 例えば、その返答への躊躇が。
 例えば、悲しげなその表情や声色が、嘘であることを物語っていた。
 どんな関係に堕ちてしまっても、親子は親子である。アブソルの嘘くらいはグラエナでも容易に見抜けた。

「嘘なんかつかなくてもいい」
 グラエナは、アブソルを前足で抱え身体を捻らせる。二匹の結合が解ける。
 体勢は入れ替わり、グラエナは地面に寝そべり、アブソルが上になった。 

「自分で挿れてごらん」
 そういわれて、アブソルは自らの性器をグラエナの陰茎に擦り付けてみた、が上手く挿入出来ない。
 陰裂は大きな口を開けて牡の性器を飲み込む準備が出来ているというのに、アブソルは肝心な位置が解らずに居た。どこに腰を下ろせば挿入出来るのか、なんて受動的な性交しかした事のない彼女に解るわけもない。

 絶えかねたグラエナは、前足で陰茎をささえアブソルの膣を目掛けて腰を振った。
 陰茎は一瞬だけアブソルの中に入り込み、再び外気に触れた。
 
 アブソルがもう一度挿入を試した時には、簡単に繋がることが出来た。
 それからアブソルは一心不乱に腰を振った。振り方はよく解らなかった。グラエナに気持ちよくなって欲しいという思いばかりが先走っていた。

「可愛い。可愛いよ、アブソル」 
 グラエナは、うわ言のように零した。
 それを聞いてアブソルは顔を俯け、恥ずかしそうに腰を振っている。
 二匹の息遣いが洞窟に響く。
 




 グラエナは薄々気付いていた。この関係は長く続かないだろう、と。
 まだアブソルは幼い。自分のことを愛してくれる成熟した牝が現れたら、この関係が続くとは思えないところがある。もしかしたら、アブソル自身がこの関係を拒絶するかも知れない。
 幾ら愛しているとはいえ、親子は親子。本来ならば成就してはいけない関係。
 
 グラエナは、白濁した液に塗れ、腹の上で眠る娘を抱きしめた。
 溢れてくる不安を拭うかのように。




   *   *


 私はふと、何のために生きているのか解らなくなる。誰だってそうだろう。生きるということはきっと死ぬよりも辛いことだ。死ぬのは一瞬だけど、生きるということは長く続くことだから。
 だから、迷ってしまう時がある。だから、逃げ出したくなる時がある。
 今がその時だった。
 もう夜は更けている。私は寝床に帰るのが億劫だった。家出でもしてみたい気分だった。それが出来たらどんなに楽しいことなのだろうか。誰も私のことを知らない土地で暮らし、知らない誰かと下らない会話でもして、あまりおいしくない木の実を知らない誰かと一緒に食べる。夜になったら、星でも眺めて、またつまらない話をする。そんな日常に憧れていた。
 口に銜えた木の実を力いっぱいかみ締めると、甘い香りが舌の上を転がっていった。それは私の食事では無かったのだけど、今はもう構いたくない。
 風が冷たくなり始めていた。住処に残してきたルクシオはどうしているのだろうか。まだ幼い彼の事だからきっと寒さに震えていることだろう。そう思うと胸が痛んだ。自由は欲しかったのだけど、彼を見捨てるのは忍びないことだった。でも、自由を蝕んでいるのも彼だった。そう考えると複雑な気持ちになった。
 なぜ私なのだろうか。
 なぜ私が彼の面倒を見ているのだろうか。
 成り行きなんかは確りと覚えている。きっと一生忘れられるものじゃない。
 でも、なぜルクシオの世話係が私なのだろう。
 彼に家族が居なくなってしまったから? それとも私にも家族がないから?
 違うだろう。
 私が望んだからだろう。私がルクシオを奪ったからだろう。なのに私は彼を疎んじている。
 彼の母親のように。
 夜空を見上げると、たくさんの星が一生懸命に輝いていた。でも私はあの星のようには輝けない。私はもう、汚い大人の世界を知ってしまった。醜い痴情に関わってしまった。だから、私には輝く権利なんてない。 
 気管にコルクの栓でも詰まってしまったかのように、息が苦しかった。鼓動は激しくなって、身体中が熱くなっていくのが解った。血の巡りでも良くなっているのだろうか、拍動と共に、頭が軋んでいる。耳元で凍りついた空気の振動が溶け出してくる。もう何度も忘れようとしているのに、その音は消して忘れることが出来なかった。思い出したくない、と心の中で叫んでみても、身を捩じらして苦しんでみても、それは変わらなかった。
 吸い込まれた空気が大きなクチからこぼれ出る音。
 間欠泉のように噴出しては、重力に逆らいきれずに地面に叩きつけられる液体の音。
 ヤミカラス達の高笑いと、私の叫び声。嗚咽交じりの泣き声。
 そんなモノが頭の中で強制的に繰り返された。何度も、何度も、気が狂ってしまうのではないか、と恐怖するほどに。

 それでも、私は戻らないといけない。ルクシオの待つ洞窟の中に帰らないといけない。
 私はきっと彼を疎んじているのではない。彼に会わせる顔がないのだろう。彼の仇のはずだから。
 なんでこんなことになってしまったのだろうか。私はただ、幸せに暮らしたかっただけなのに。
 こみ上げてきた感情は抑えることが出来ないものだった。

 なんて馬鹿なことを考えていたのだろうか。なぜ彼を捨ててしまおうと考えていたのだろうか。これでは彼の母親と同じではないか。
 私は叫びたくなった。ともかく、この気持ちをどこかにぶつけたかった。あの雌とは違うのだと、証明したかった。
 空に向かって大声を張り上げた。喉が力強く震えた。森のほうから、鳥たちが一斉に逃げ出すのが見えた。
 どれくらい叫んだのかは解らなかったのだけど、かなり喉が痛くなるくらい叫んでいた。喉の調子が変だった。咳払いをして治そうと思ったのだが、余計悪くなった。
 空に向かって放った声は、ルクシオの母親にまで届いているのだろうか。
 届いていて欲しく無かった。この声が聞こえているなら、彼女は私のことを心底馬鹿にしているに違いない。軽蔑の眼差しで見ているに違いない。その様子を思い浮かべると、私の心は引き裂かれてしまいそうだった。

 ともかく帰ろう。ルクシオの待つあの場所へ

   *   *

 
 洞窟に着いたときには、もう夜は更けていた。ホーホーたちの赤い目が木の枝々から私を見つめている。
 その一つと目が会ったのだが、それはすぐに私を見るのをやめた。
 それほど怖ろしい形相をしていたのだろうか、それとも災いポケモンと云うのは人間がレッテルを貼っているだけではなくて、ポケモンにも浸透しているということなのだろうか。どちらにしても、歓迎はされていないようだった。
 この辺りでは私は有名だった。実の父親に瀕死になるほどの怪我を負わせて、看病もせず見殺しにした鬼のような娘として。
 そもそも、瀕死の状態になるまで切り付けておいて、手当てをするほうが常軌から逸脱している。そういう意味では私は正常なはずだ。
 ここは人間の住む町じゃない。大自然の中。弱肉強食が唯一のルール。
 死んだのなら、それは相手が弱かっただけ。何も私は悪くない。
 目をそらしたホーホーに向かって、私は少しばかり威嚇をした。ホーホーは驚いて逃げ出した。
 あのホーホーの選択は間違っていない。弱いものは逃げることしか出来ないのだから。

 洞窟は相変わらず真っ暗に近かった。申し訳程度に月明かりが差し込んで、中途半端に照らしていた。ルクシオはその月の光を身体いっぱいに浴びて、横たわっていた。
 もう、眠ってしまったのだろうか。
 私はその頬にそっと口付けをした。スキンシップみたいなものだ。得に深い意味はない。母親からは愛情をもらえなかったであろう彼には、こういう些細な身体のふれあいが必要だと思うのだ。
 一回だけではなく、二回、三回と、小さなキスを繰り返した。そのうち、ルクシオは目を擦りながら、「おかえりなさい」と一言だけ話した。そして、彼は立ち上がると続け様に、お腹が減ったと言った。
 彼に持ってくるはずだった木の実はもうどこにも無い。それは噛み砕いて地面にはき捨ててしまった。
 私はただ、木の実を見つけられなったと言って謝った。でも彼の不機嫌は収まらなかった。
 元々、晩の木の実を取りに行くといって出掛けたのだから、仕方ないかも知れない。けれど少し立場を考えてもらいたかった。
 ルクシオは、私に何を与えてくれるのだろうか。
 安らぎを与えるのだろうか。
 自由を許してくれるのだろうか。
 愛してくれるのだろうか。
 私の望むモノを、ルクシオは与えてくれない。
 当たり前だ。相手はまだ年端も行かない子どもなのだ。そんなことが出来る訳ない。頭ではわかっているのに、なぜか彼に対してそのようなイライラを募らせていた。
「アブソルのうそつき。きのみ取ってきてくれるって言ったのに」
「探したけど、無かったの。だから我慢しなさい。また、明日になったら探してきてあげるから」
 宥めようとしたのだが、ルクシオは聞く耳を持たなかった。頬をぷぃっと膨らましてそっぽを向いてしまった。
 それがなんだか面白くなかった。
 始めの時はもっと可愛かったのに。弟みたいで、むしろ小さな恋人みたいで、目に入れても痛くないと思えたのに。今ではただ憎たらしいだけだった。
 私は必死の思いで、今にも爆発しそうなくらいに膨らんだイライラを抑えていた。毎日同じようなことの繰り返しで、我慢の限界が近づいていた。
「お母さんはいつ帰ってくるの? 早く帰ってこないかなぁ」
 その言葉は私にとって、致命的なものだった。今まではそんなことを一言も話さなかったのに。私と一緒に暮らせて嬉しい、と言ってくれていたのに。なぜ、今になってそんなことを言うのだろうか。確かにルクシオは知らなかった。母親が遠くの世界へ逝ってしまったことなど、知る由もなかった。私も事実を教えては居なかった。
 遠くに居るお父さんのところへ行ったんだ、とだけ教えていた。
 嘘だった。
 
 私の中で何かが音を立てて崩れていくような気がした。
 こんなに愛しているのに、なぜルクシオは気づいてくれないのだろうか。一体、私のどこが気に食わないのだろうか。
 私は助けてやったではないか。罵声と暴力の日々から解放してやったじゃないか。優しさを与えたではないか。辛いことは忘れるように、と諭してやったではないか。
 こんなにも身を粉にして尽くしているではないか。
 なのに、なぜ私を拒絶するのだ。
 そんなことばかりが頭の中をぐるぐると駆け巡った。
 所詮、私も子どもなのだ。誰をあやめたって、誰を奪ったって、結局それは強がりなだけ。私は何も出来ない子どもなのだ。
 
 もうだめだった。もう我慢なんて出来ない。無理だったんだ。初めから無理だったんだ。
 彼を助けるなんて、出来ないことだったんだ。
 もう、どうでもいいや……。
 
 私は吼えた。
 一度くらいではない。何度も、何度も。あの星空の下のときよりも強く吼えた。叫んでいたのかも知れない。
 ルクシオはビクリと跳ねあがり、洞窟の隅へ逃げた。とは云え、狭い洞窟だ。行く手はすぐに壁に阻まれ、身動きが取れないようだった。この場所から逃げ切れる訳がない。
 仮に逃げれたとしても、彼に追いつくのなんて、簡単なことだ。何も気にすることはない。相手は幼子だ。非力な子どもだ。
「ルクシオ。もう、お母さんの話はしないって、約束しよう」
 ルクシオに向かって牙をむき出し、いつでも飛びかかれるよう身体を低く構えていた。右の米神にある大きな角で、その喉元をいつでも貫けるような態勢だった。それはもう、脅しと変わらなかった。
「なんで、お母さんの話をしちゃいけないの?」
 彼の声は震えていた。
 弱弱しくて、暴力に怯えているような声だった。
 それはどんな音よりも、心地のいいものだった。
「お母さんは、もう帰ってこないからだよ」
 けれど、私はイライラしていた。彼が母親のことを尋ねてくるのが気に食わなかった。 
 思い通りにならない事に癇癪を起しているだけか、あるいは彼女に嫉妬しているのかも知れない。
「うそつき。また、そうやって、アブソルはうそを付くんだ」
 ルクシオは必死になって、私の言葉を否定していた。
 薄々、自分でも母親に愛されていないのだ、と気付いていたのかも知れない。
 その不安を払拭したいのだろう。それで、私を責めるのだろう。なんて、可愛い仔なのだろうか。
 だがそれがあの雌に向けられているものだと思うと、憎たらしく見えた。
「嘘じゃない。本当に帰ってこないんだよ」
「うそだ。うそに決まってる」
 その言葉を聴いて、とうとう私は爆発してしまった。突きつけた角を大きく振りかぶり、一気に振り下ろした。それは周りの空気を一瞬で押し退けて、ルクシオの横を掠めていった。何度も、何度もそれを繰り返した。
 彼は凍り付いていた。
 後ろにある壁は、轟音を立てながらその身を地面へと落していった。細かい粉塵が洞窟の中に立ち込めた。

「嘘じゃない。お前は捨てられたんだよ。もう、お前の面倒見るのは飽きたんだってさ。だから、私が面倒を見てやってんだよ。あんまりナマ言ってんじゃないよ。殺すよ」
 嘘だ。全部嘘だった。
 けれどルクシオは泣き崩れていた。身体を土くれに埋め大声を張り上げていた。それは洞窟の中にはよく響いた。
 泣き声ではなくて、悲鳴だったのかもしれない。ともかくそれは、なかなか収まるものではなかった。
 
 真っ赤に顔を紅潮させ、涙を瞳いっぱいに溜めていた。
 そこからあふれ出した雫は頬を伝って地面に落ちた。キラキラと輝くそれはどんな星よりも、どんな宝石よりも美しく映った。
 私はその光景に強く惹かれた。
 ルクシオの泣き顔にそそられた。
 
 今、解った気がする。なぜ、ルクシオを奪ったのか。なぜ、彼と一緒に暮らしたかったのか。
 私は彼を独占しているような錯覚に陥っていた。いや、それは錯覚ではなくて、現実になっていた。彼は私の物なのだ。
 もう、角を突き付けたりはしなかった。
 もう十分なのだ。
 
   *   *  
  
 私は涙で濡れた頬に舌を這わせた。ルクシオは抵抗しない。
 涙はしょっぱい味がした。それがルクシオの涙だと思うと、胸が高鳴った。唇はどんな感触だろう、どんな味なのだろう。どんな風に泣いてくれるのだろう。そんなことが脳裏に浮かんでは消えていった。その妄想だけで、満足してしまいそうだった。
 私は無言で彼の唇を奪った。こんなに小さくて、無知な子どもにイタズラをしているのが堪らなく刺激的だった。背徳感が興奮を煽った。
 ルクシオの口に舌を入れ、貪るように動かした。目と目が会うと、また彼は涙し始めた。小さい歯の一本ずつを確かめるかのように嘗め回した。彼の舌は私を抵抗し、外へ押し出そうとしていた。けれど、その感触が良かった。
 ルクシオにとっては抵抗なのだろうが、私にとっては好んで舌を絡めてきているに等しかった。
 口を離すと、唾液が透明な橋となって私達の間に掛かった。それはすぐ消えてしまったが、少しだけ幸せな気分になれた。
「やぁ……」
 か細い声で、ルクシオは言った。
 こういうキスは初めてだったのだろう。今までは子どもがするソレに習って、頬に一瞬だけ唇をつけるだけだった。
 ディープキスなんて、誰だっていつかは経験することなのだ。ただ、ルクシオは他のポケモンよりも早いだけ。
 押し寄せてくる罪悪感なんて、いくらでも宥め賺すことが出来た。それよりも湧き上がってくる情欲の方が強かった。
 ルクシオの意思なんてどうでも良かった。ただ、溜まったイライラを発散したいだけだった。
 私は彼に飛びついた。ルクシオはバランスを崩して地べたに倒れこんだ。肌と肌が密着する。彼と私の繊維質が複雑に絡まっていくのが判った。体毛越しに彼の鼓動を感じ取れた。
 視線を下に落とすと、股座に小さな突起があった。まだ尖った先のほうしか覗かせないそれは、脈動と一緒にひくひくと動いていた。
 間違いなくルクシオの性器だった。透き通った空のような青と、深い夜の黒をした体毛には似合わない、綺麗な桃色をしていた。
 まだ幼い為か、太さも長さも無かった。ペニスらしい不気味な感じもなかった。
 こんなモノを見せられたら、私の興奮はキスなんかで治まるはずがない。胸の奥のほうから、強い劣情が湧き上がってくるのが解った。
 ルクシオの性器をそっと舐めた。傷口を舐めるときのように、優しくした。そのたびに、ルクシオは息を切らして嬌声を上げていた。
 彼の顔を見ると、まだ頬が湿っていた。
 この仔の泣き顔は、なぜこんなにも可愛らしいのだろうか。こんなに可愛いのなら、もっと泣かせたくなる。もっと虐めてやりたくなる。この渇きを満たすのは、きっとルクシオの涙だ。
 先の尖った部分を口に頬張った。舌先で転がすように刺激すると、ルクシオは突然暴れだした。嗚咽を交えながら、はっきりと拒絶を示していた。
「やめて。やめて」、と何度も懇願していたのだが、力任せに押さえつけた。股座から顔を離そうとはしなかった。この位置で性器を咥えている限り、彼は逃げることは出来ないだろう。
 
 ルクシオはもう子どもを作れる身体なのだろうか、ふと気になった。見た限りでは、まだ生殖能力はなさそうだった。まだ骨格も発達していない。股座にあるモノだけ隠してしまえば、オスなのか、メスなのか見分けは付かない。きっとまだそこまで成長していないに違いない。解りきっていることだった。
 けれども、早い仔はそろそろ精通があっても不思議ではない歳だった。だから少しばかり期待していた。
 初めての射精を私が導いてやるのなら、それはどんなに素敵なことなのだろう。嫌がるルクシオを無理やりオスにしようとしている。これ以上に私の想いを掻き立てるものは無かった。
 私は舌を動かすのをやめた。舌先に触れている小さな突起からは、塩のような味が染み出てきているようだった。少しばかり口の中が粘り気を帯びていた。
 彼の性器を口で扱くと、先走りの味も、口の粘り気もより強くなっていった。もしかすると、本当に射精できるのかも知れない。
 ルクシオも男の仔ではなくて、すでに一匹のオスなのか、と思うと複雑な気持ちになった。
 私は口の動きを激しくした。ルクシオの抵抗なんて、全く怖ろしくはなかった。涙で顔を歪め、快楽に頬を紅潮させて、必死になって何か言葉にならない叫びを上げ、無差別に電撃を放っている。
 これを見て、どう怖れろというのだろうか。可愛らしいじゃないか。
 余計に加虐心がこみ上げてくるだけだった。

 その中の一撃が私に浴びせられた。別段痛くも無い。だけど、それは癪に障った。ルクシオは私の所有物だというのに。ただの人形が持ち主に対して威嚇ではな、くほんとうに攻撃するとはどういうつもりなのだろうか。
 私は再び彼の頬に角を突きつけた。今度はその頬に少しばかり傷をつけた。彼の血液が周りの空気に溶け込んでいった。
 何も話さなかった。会話は必要なかった。ただ、ルクシオの性器に歯を宛がった。痛くないように、それで居て恐怖心を煽るように。いつでもコレを食い千切れるのだぞ、とアピールしておきたかった。
 ルクシオは思い通りに大人しくなった。もう、彼は抵抗しようとはしないようだった。

「もう、やめてよぉ……。おしっこ、でちゃうよぉ」
 嗚咽と涙を交えていた。その訴えは、私を余計に興奮させた、私は無視をした。変わりに角を喉に突きつけたまま、牙や切歯で傷つけないように顎を広げ、唇を硬く閉ざした。性器から精液を絞る取るように、吸い出すようにしていた。
 ルクシオは顔を両手で覆い隠していたから、目を見ることは出来なかった。
 けれども、そんなものは必要としなかった。今は、この悲鳴を聞くことが出来れば、それで十分だった。
 口の中で、ルクシオの性器が爆ぜていた。小さなそれは激しく痙攣していた。今までのような拍動とは全く違っていた。けれど、彼の性器からは、あの白濁した液体は出てこなかった。精液の味は全くしなかった。変わりに、先走りの味が濃くなった。
 痙攣はなかなか止まないようだった。私は震えている性器を舌で突いてみた。
 また、ルクシオは悲鳴を上げた。
「やめてっ、痛いっ」
 まだ、これ以上の快楽を覚えられる身体ではないようだった。快楽と痛みが彼の頭の中で混線していることから容易に窺い知れた。
 なら、今は少しだけ勘弁してあげようか、という気持ちになった。
 咥えていた小さな突起を吐き出すと、先走りと唾液の混ざったものが淫猥な光を作り出していた。
 そのままルクシオの口元まで近づいて、一気に唇を奪った、貪るように無理やり舌を進入させた。最初のときのように、舌が絡まる感覚は無かった。彼は脱力していた。



「おしっこが出そうになった時、どんな感じがした? 」
 耳元で囁いた。ルクシオが汗ばんでいるのが解った。一度イってしまったはずなのに幼い性器は、まだ膨らんでいた。それが私の膣に密着していた。早く彼を押し倒したかった。
 彼は答えようとしなかった。そっぽを向いて、顔を隠していた。
「気持ちよかったでしょ」
 彼は大きく首を横に振った。両手の隙間から見えた頬の色は、ヒメリの実のように真っ赤になっていた。恥ずかしがっているのか、それとも、もっと弄って欲しいのか。どちらでも良かった。ルクシオの全ての行動が愛くるしくて、堪らなかった。
「答えるのは恥ずかしい?」
 ルクシオは首を縦に振る。
 恥ずかしいということは、気持ちよかったということじゃないか。口では嫌がっていても、身体は素直に感じていたということじゃないか。射精すら出来ない子どもでも感じることが出来るのなら、彼を性の虜にして、堕ちる所まで堕としてやりたい、と思った。
 私は腰を少しだけ浮かせた。彼と一つになろうとした。けれど、どちらも粘りを帯びているためか、なかなか上手く入らなかった。無理に入れようとすると、滑ってしまうのだ。
 ルクシオの性器がクリトリスと擦れるたびに、じれったい気持ちは強くなっていく。
 彼は私の腕の中で、息を荒げながら何度も首を横に振っていた。今までとは違う快楽が私の中に沸いてきた。イタズラをしているんじゃなくて、犯しているんだと思うと、はやる気持ちを抑え切れなかった。
 強引に、何度も、何度も腰を打ちつけ、膣にルクシオを入れようとした。勢いをつけていては、きっとなかなか入らないのだろうけれど、冷静になる余裕も無かった。 
 切ない気持ちがこみ上げてきて、頭の中が真っ白になる。目の前にある快楽のみに突き進んでいて、周りのことはよく見えてなかった。
 ルクシオが何かを叫んでいるようだった。必死になって、私を止めようとしていた。顔を隠していた両手は、私の身体を押し退けようとしていた。身体を捻らせて重なり合う場所を変えようとしているみたいだった。でも非力な彼にそんなことが出来るはず無かった。私は一人で駆け上がっていた。

 唐突に、私の中に電撃が走った。身体が言うことを聞かない。今までが嘘だったように重だるい。
 秘所からルクシオの拍動を感じた。小さな突起はまた、暴れていた。きっと彼にもこの電撃は走っていたのだろう。
 一度でも果てたら、疲れてしまって痴情は治まっていくはずなのに、興奮は冷め止まなかった。それどころか疼きがひどくなるばかりだった。
 ルクシオが欲しかった。
 もう一度、ルクシオと繋がろうと試みた。心の中で何度も、冷静になれと唱えた。ルクシオの小さい性器は、楽に挿入できる程の大きさがないから、上手くいかないのかも知れない。無駄に込められた力を抜いて、出来うる限り膣を広げようとお腹に力を入れた。ゆっくりと腰を降ろしたのだが思ったようにはいかなかった。けれど、数回ほど繰り返すと、ちゃんと繋がることが出来た。
 これで本当にルクシオは私のものになった。それだけで深い快楽を得ることが出来た。
 もちろん物理的には気持ちよくは無い。挿入できたといっても、かなり浅い。腰を振ればすぐに解けてしまいそうな結びつきだった。太さも無いから、挿入されている感じも強くない。はっきり言えば物足りない。
 でも、愛しいルクシオを犯しているのだ、と思うと話は別だった。歯を食いしばり、初めてのメスの感触に身を震わせている彼は、とてもいい光景だった。
 ルクシオと身体を温めあっても、本当の快楽を得ることなんて無理だった。そんなことは解っていた。

 冷静になって解った。ただ、私は欲しかったのだ。私の身体を受け入れてくれる相手が欲しかったのだ。
 快楽が欲しかった訳ではない。こういう方法でしか愛情を感じられなかったのだ。私は彼に愛されたかったのだ。
 私はゆっくりと腰を振り始めた。結合が解けてしまわないように往復運動は全くしなかった。クリトリスをこすり付けるように、腰を揺すった。あと一回だけ、ルクシオに快楽を与えたかった。こういう尺度でしか、愛情を表現できなかった。

 もしかしたら、彼の母親も暴力でしか愛情を表現できなかったのかも知れない。私の表現も暴力に似たようなものなのかも知れない。
 ついさっきまで宥め賺していた罪悪感が枷となって私の身体に食い込んだ。けれども動きを止めなかった。

 ルクシオの身体を力いっぱいに抱き締めた。肌を完全に密着させた時、結合は解けてしまった。それでも腰の動きは止めたくなかった。
 彼にとっては最大の屈辱かも知れない。恐怖かも知れない。私は軽蔑されてしまうかも知れない。
 もう口も利いてくれないかも知れない。
 それも仕方ないことだ。それよりも、今はこうしてルクシオの温度を感じたかった。
「愛している」

 なんて残虐な響き。愛していなくたって、男は抱けるのに。結局、彼の幼さを弄んでいるだけなのに。
 なぜ白々しく、こんなことが言えてしまったのだろうか。
 私はそっとキスをした。貪るようにではない。恐怖心を煽るようにではない。
 何度も、何度も頬に口をつけた。
 
 意識が遠のいていきそうになる。
 疲労が溜まっていたのか、ルクシオを支配してしまって欲望が満たされたからか。そのどちらでもいい。彼のぬくもりを感じていたかった。
 私は最後にルクシオの頭を撫でた。
 そして、世界が暗転した。
 少しだけ、幸せを感じた。
 

   *   * 


 眼を覚ますと、ルクシオは私の胸の中でうずくまっていた。私と目が会っても怖れるそぶりも見せない。何事も無かったかの様に振舞っていた。
 けれど、私は知っていた。
 幼子にとってあの行為がどれだけの破壊力を持っていたのか……。

 性を弄ばれると、自分の存在を肯定出来なくなる。
 強制的に快楽を与えてしまうと、それを罪悪のように感じてしまう。
 望まない相手に犯され、愛を囁かれると、愛情の形が歪んでしまう。

 彼の母親は、ルクシオのことを嫌っていた。誰が父親か解らない息子に愛着がもてなかったみたいだった。
 彼女はこの辺りで有名なポケモンだった。彼女はいつも違うオスと一緒にいた。彼女の側では毎夜、気持ちの悪い嬌声が聞こえていた。
 だから、ルクシオのことが邪魔だったのだろう。いつも彼を虐めていた。
 そんな生活に耐えていた彼だから、きっと私との生活にも耐えるだろう。でも、それではダメだ。彼も私と同じになってしまう。 
 私は彼の前から消えなければいけない。私と一緒に居ては、彼の為にならない。
 私はこの場所を出ることを決めた。洞窟を出ようと起き上がった。
 けれど、何かに止められた。ルクシオが私の尻尾を咥えて、離そうとはしなかった。

 私がその場に座り込むと、彼は口を離した。立ち上がると、また身動きが取れなくなった。
 仕方なくないと思い、座り込み、彼に訳を聞いてみた。
「捨てないで……。ママみたいに捨てないで。一人にしないで」
 彼は泣いていた。昨日のような大きな声で湧き喚くわけではなく、悲しみをかみ殺そうとしているのか、すすり泣いていた。 
 私は、それを見て嬉しいと思ってしまった。これほどまでに酷い仕打ちをしたというのに、擦り寄ってくれる彼が愛おしかった。

 結局、私はただのわがままな子どもだったみたいだ。
 勝手にルクシオを奪って、勝手にイライラして、勝手に捨てようとして。なんてことだろう。これではまるで、あの雌よりも劣っているみたいじゃないか

 なんでこんな事をしてしまったのだろうか。まだそんな汚いことを知らなくてもいいような子どもに、何をしていたのだろう。
 なぜ、自分がされて嫌だったことをルクシオにしてしまったのだろう。なぜ、父と同じようなことをしてしまったのだろう
 頭が痛くなってくる。
 思い出したくない記憶がよみがえって来る。私の汚れがよみがえって来る。愛してるなんて残酷な言葉を突きつけて、私の身体を弄んでいた父の記憶がこみ上げてくる。忌み者だった頃の記憶が戻ってくる。

 …………。

 私はその場に泣き崩れた。父みたいな大人には成らないと誓ったのに。
 彼の母親みたいに、ルクシオを悲しませないと決めたのに。
 年甲斐もなく大声で泣いた。
 恥ずかしくは無かった。ただ、ルクシオに対して申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
 彼の心を察すると何かこみ上げてくるものがあった。
 軽蔑していた大人だったのに、自分も彼らと同じになっていたのが悔しかった。

 顔に温かいものを感じた。頬が何かと密着している。それはとても温かくて柔らかい。目を開くと、そこにはルクシオが居た。
 彼の顔は涙で崩れていた。
「泣かないで」
 そういわれても、涙を止めることは出来なかった。私は自分の罪悪にあえぎ苦しんでいた。同時に彼の眩しい瞳を見ていると、涙がこみ上げてくるのだった。
「愛してるって言ってくれて、ありがとう……。僕、昨日のこと、怒ってないよ。大好きな男の仔と女の仔がすることだもん。怖かったけど、嬉しかったよ」
 私は返事が出来なかった。ルクシオを歪めてしまった。彼の純粋を弄んでしまった。
 まるで同じではないか。暴力に怯え、快楽に溺れ、父との関係を続けてしまった私と変わらないではないか。

 私は謝った。何度も謝った。ルクシオは首を傾げていたのだけれど、それでも謝り続けた。
  
 ――こんな私でもいいのなら、絶対に幸せにするから。絶対に裏切ったりしないから。

 心の中で呟いたその声は一体誰のものだったのだろう。


あとがき。

作品に対して特筆することなにもなし。
表現したいものを表現し切れなかったのは自分の実力不足です。
10箇所以上推敲する必要がある場所を見つけたので近いうちに体力があれば直そうと思います。
投票してくださった三名の方、本当にありがとうございます。
また閲覧してくださった方もありがとうございます。
なによりこの作品を生み出すきっかけを与えてくださった主催者様、ありがとうございました。

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  •  長らく放置してすみません。ご指摘の通りこの小説の大きな区分(三人称から一人称へ変わる部分)ではかなりの時間的な隔たりがあります。元々、中篇程度が作れるくらいの設定を作りこんだ作品を無理やり短編に収めたが故に起きた現象です。一番の見せ場というか、一番官能表現が強い部分のみを抽出して書き上げたので、物語としては欠落した重要箇所が多いです。例えば残虐な場面とか、憂鬱になりそうな場面とか……。努力して陰鬱な箇所は薄めたので、軽い鬱系として見ていただけたのは有難いです。
     自分なりに物語の欠落を補うため、アブソル姉さんの感情を動かしたり叫んで貰ったりして、設定を説明させたのですが、どうも上手くいかなかったみたいです。

     ですが、情報を開示しなかったことについては間違っていないと思います。ストーリを円滑に進ませるために情報を開示し始めると、それはもう小説ではなくなり、ただの設定発表文章まで成り下がってしまう気がしたのです。だから、アブソルという器が「見た・感じた」世界を描写しようと思いまして、このような形になりました。設定の雰囲気といいますか、香りだけ感じてもらって、後は読者様の妄想に委ねようと思いまして。
     妄想に託すといえば聞こえが言いですが、正直丸投げ状態なので、ここも反省仮題です。
     あとがきにも書いてありますが、これらの現象は単に私の努力、文章能力・構成力、持久力などの不足です。これは改善するまで時間が掛かるかもしれませんが、少しずつ治して行けたら良いな、と思います。
     貴重なご意見、有難うございました。
    ――柘榴石 2010-10-10 (日) 22:48:30
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Last-modified: 2010-09-30 (木) 00:00:00
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