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疾走するvision

/疾走するvision

 


注意※この作品には官能描写は含まれませんが、流血や戦闘などの表現が使われます。

 それを理解した上でお読み下さい。



  written by 多比ネ才氏









 ――夜明け前の樹海。

 まだ日も射さない木々の間を、一匹のサンダースが駆け抜けていた。
 ひたすらに前を目指すその姿は、暗い樹海の中でも尚、己の黄色を周囲に主張していて。それは、さながら一筋の流星のようにも見える。


「と、父ちゃん。一体どこまで走らなきゃなんだ?」


 その背中にしがみついているイーブイが、サンダースに向けて問い掛ける。父ちゃん、と呼んでいたところから察するに父子なのだろうか。


「それは……俺にも分からない。とにかく遠く、遠くまで行かなくては……」

「分からないって何なんだよ父ちゃん! 遠くって、もっと具体的な日数とかはないのかよ!」

「仕方ないだろ。追っ手がどこまで情報を手に入れたか分からないんだ、出来るだけ遠くまで逃げておかなきゃならないだろう?」


 サンダースの声には焦りが混じり、明朝の森の独特な不気味さもあってか不安な空気を醸し出す。
 どうやらこの二匹、何者かに追われている様子。何か悪事でもしでかしたのだろうか?


「で、でも、俺そろそろお腹が……」


 イーブイが全て言い切るより先に、風を切る音さえも押しのけて、ぐきゅるるるるという音が聞こえた。


「……しょうがない。一旦休むとするか」


 サンダースは適当に大きな木の根元で脚を止めると、背中のイーブイを地面に降ろした。


「何か木の実でも採ってくるから、大人しくここで待ってろよ」


 それだけ言うと、イーブイの答えの聞かずに木を登っていくサンダース。


「どこかにオレンでも生っていればいいんだが……とにかく、誰かと遭遇する前に探さなければな」


 木の頂上に近い枝に脚をかけて言い放つと同時に、サンダースの全身は虹色の光に包まれた。



「俺達の種族の誇りと伝統を汚さぬ為にも……」



 その光が晴れた時、既にそこにサンダースの姿は無く、






「絶対に、捕まる訳にはいかない……」







 紅蓮の髪をたなびかせる灰褐色のポケモン。

 ……後に語られる事になる、ゾロアークの姿が、そこにあった。













 そよぐ風に踊る木の葉が、燦々と降り注ぐ日を不規則に遮る。木の枝が幾重にも張り巡らされているとは言え、辺りはすっかりと明るくなっている。

 そんな木々の間に、2つの声が反響していた。



「父ちゃん~、遊ぼーよ~」

「……あのなぁ……お前は、さっきはイーブイに化けてただけだから疲れてないだろうけど、俺は散々走った後だぜ? もっと寝かせてくれよ……」


 大きな樹の虚の中から聞こえるそれらは明朝に樹海を疾走していたものと同じ。
 しかし、その中にいた生き物の姿は全く違うものだった。


「さっきまで寝てたので十分だよ! だから、俺と遊ぼ!」


 まだまだ幼く可愛げな声を発するのは、首周りに黒く豊かな体毛を携え全身は灰褐色の毛皮に包まれた四足のポケモン――ゾロア。


「これからどうなるのか分からないんだから、用心して体力は温存しといた方がいいだろ。って事で、お前も寝とけ」


 聞き手に渋めの印象を作るハスキーな低音で喋るのは、紅蓮に煌めく髪と爪とを持ち全体的にはゾロアと似たような色の毛皮を纏う二足のポケモン――ゾロアーク。


「呑気に寝てるほうが不用心だろーっ! それに、暇すぎて暇すぎて耐えらんないんだよぉ~」

「下手に体力を使って疲れるよりもましだろ。全く、口が達者なとこばっかアイツに似やがって……屁理屈言ってないで早く寝ろ」

「眠たくないもんー! ひまー! 暇すぎてしぬ――っ!!」

「ぐずるな騒ぐな駄々こねるなっ! いい子だから、大人しくしろ!」


 ゾロアークは仰向けになって前脚をばたつかせるゾロアをむんずと掴み、両腕で抱きかかえる。


「わ、わ!? 父ちゃ、なにすんっ!」

「お前が寝るまで、絶対に離さないからな?」

「わか、分かったからっ! 寝るから、腕離してよっ」

「嘘だな。ほらほら、さっさと寝ないといつまで経っても離さないぞ~」

「じゃあせめて、力緩めて! 首の毛が当たって暑い……ひぁっ!?」

「何か言ったかー? うりうり、わがままなイルにはお仕置きだなっ」

「にぁっ、や、くすぐんっにゃははぁっっ!」


 自分が寝たがっていた事もすっかり忘れて我が子をくすぐるゾロアーク。対するゾロアは全身をひくつかせながらじたばたと暴れようとする。


「母さんには自分から抱きつきにいったりしてたのに、俺に抱きつかれるのは嫌かー?」

「っっ!? ひ、ぁっっ、ひゃぁ!」

「ほらほら、なんとか言えよ。ま、くすぐられてんだから何もいえないか――って、あ?」

「ひ、ひっく……ぁ、はぅっ」

「イル……?」

「……ふぇ、ひぐっ、うぇっっ……ふぇぇぇ……」


 イル、と呼ばれたゾロアは、いつの間にか泣いていた。


(ちょっと度が過ぎたか……?)


「イル、ごめん」

「ひぐ……」

「父さん、ふざけ過ぎたな。本当ごめん」

「……父ちゃん」

「ん?」





「なん、で……母ちゃんは、殺されたんだ……?」





(ああ……そういうことか)

 くすぐり過ぎて泣いてしまったのかと思ったが、どうやら理由は違ったらしい。
 「母さん」という単語を俺が言ったせいで、あの瞬間を思い出してしまったのだろう。

 仕方ないか。


 自分の目の前で、実の母親が、自分をかばって殺されたんだ。



「イル」

「……ぅ、う」

「我慢、しなくていいぞ」

「…………」

「父さんだって、悲しい時は思いっきり泣くさ。だから、そんなに我慢する必要ない」

「……とう、ちゃ……う、ぁ、ああぁぁぁあぁぁ。ふぇぇぇええぇえぇぇぇん……」


 ゾロアークは、自分の毛に顔を埋めながら号泣する息子を優しく包み込んでやり、数日前の出来事を回想した。










「みんな、逃げろ!!」


 群の長の叫び声。

 深夜にも関わらず煌々と光る木々。

 自身が溶けてしまいそうな程に熱い空気。


 集落が、燃えていた。



「奴らを捕まえろ! 一匹だけでも構わん、死なない程度にならいたぶる事も許可する!」


 人間の怒鳴り声。



「くらぇえっ!」


 俺に向かって攻撃してくる、ドクロッグ。

 避けきれずに、転倒。


「ノイス!!」

 俺の名前を呼ぶ、妻の声。



「トドメだ!!」


 俺に突っ込んでくるドクロッグ。





「父ちゃんをいじめるな!!」


 不意に、右横から視界に飛び込んできたイル。


「ぐぁあ!!」


 イルの体当たりが、ドクロッグの左目を直撃。



「こ、の、がきゃあぁあ!!」



 左目を抑えたドクロッグが、体勢の崩れたイルに毒爪を振りかざす。



「危ない――!!」



 妻がイルを突き飛ばし、ドクロッグの爪は妻の胸を貫通。



 妻の血は、やけに赤かった。




















「…………ん?」



 ノイスは、イルを抱きかかえた状態で寝ていた。


 あぁ、なるほど。イルを慰めてる間に寝てしまったのか。イルも、俺の毛の上に乗っかりながらスヤスヤ寝てるし。

 ……なんだか。


(悪い夢みたいだよな……)


 数日前の出来事とは言え、しっかりと記憶されているあの光景。

 集落が燃えたり、人間が接触してきたり、しかも捕獲されそうになったり。



 そして、妻が殺されたり。






 人間が俺達を襲った理由。

 それは恐らく、今まで俺達の存在が確認されていなかったから。
 そして、違う生き物に“化ける事”が出来るからだろう。

 長は、そうならないように頑張ってたみたいだけど。
 定期的に集落の位置を変えたり、集落外に出る時は出来る限り他のポケモンに化けるように言ったり。


 でも、見つかってしまった。


 しかも、だ。
 どうやら、それなりに多い数の追っ手が俺達を狙っているようだった。

『奴らを捕まえろ! 一匹だけでも構わん、死なない程度にならいたぶる事も許可する!』

 ……数日が経っても追っ手が来るって事は、きっと相手側は俺達二人に狙いを絞ったのだろう。
 とりあえず仲間の安全は確保されたが、その分だけ俺達が逃げづらくなってるっていう事だ。


「参ったな……」


 どこまでいけるか。どこまで耐えられるか。

 ノイスには、逃げ切れる自信は無かった。





 と、



「……待てよ」



 静かすぎる。
 森が、静まり返っている。

 寝てる間に夜には入ってしまったようだが、それでもまだ遅い時間ではないはずだ。
 なのに、外から音が聞こえない。

(嫌な予感がするな……)


「イル、起きろ」


 危険を感じたノイスは、イルの体を揺さぶった。


「んぁ……父ちゃ……な……?」

「寝ぼけてる場合じゃないぞ」


 恐らく、敵が追いついた。


「……イル、ちょっと待ってろ」

「? 一体何を……」


 イルの返事も待たずにノイスは虚から躍り出て、体を虹のヴェールに包む。

 想う身体は獅子。魅せる色は黒。惑わす力は雷。
 総てを貫く瞳を持つ種族――レントラー。

 膜が取れた時には既に、紛れもないその姿が顕現化されている。


「……ち、マニューラか……っっ!」


 その瞳が森の奥に捉えたのは、紅い冠と首飾りを付けた濃紺の猫。
 追跡、特攻、暗殺を得意とする『龍殺し(ドラゴンキラー)』。
 それが、四匹も。


(……まずいぞ)


 種族的な素早さ上、あの猫から逃げ切れる姿は限られてくる。
 サンダースは……駄目だ、数で圧倒されてしまう。
 飛行タイプは相性が悪いし、いや、でもプテラなら……駄目だ駄目だ。あの種族は現存の個体数が少ないから、空を飛ぶには目立ちすぎる。

 とすると。


(このまま、迎え撃つしかないか……)


 体を再び光で包み込み、元の姿に。
 そして虚の中に戻ると、まだボケッとしている息子を掴み上げる。


「わ、な、なにすんっっ!?」

「静かに。しっかり掴まってろ」


 自分の肩にイルを乗せると、勢いよく虚の中を飛び出した。
 助走をつけて一番近くの木に突進し、その幹を蹴りつけて跳躍。跳んだ先にあった木にも同じ事をして、最終的に五回のジャンプをして止まった。

 虚がある木の枝と枝の間に身を隠し、紺猫が来るのを待ち構える。



 木々の間を縫って駈ける音が、徐々に大きくなる。


「お前ら、止まれ!」


 もうすぐ姿が見える、というところで、どすの効いた低い声がした。多分、猫のリーダー格の奴の声だろう。


「あの木の虚の辺りから、ゾロアークの反応がする。――一斉に突入するぞ」


 虚を取り囲むようにでも立っているのだろうか。若干草を踏む音がした以外には、何の音もしない。


 ノイスは、イルを肩から下ろした。


「……3」

「……2」

「……い」


 リーダーの猫が1と言い切る前に、ノイスは木から飛び降りた。



「「「「!!!!」」」」


「だらぁぁああぁあぁぁ!!」


 大声を出しながら両手に力を込め、着地と同時に両手を振り下ろす。

 ゾロアーク達に代々伝わる技。人間には『ナイトバースト』とよばれるそれを、ノイスは渾身の力で放った。



「「「「う゛にぁああぁあぁ!!!?」」」」



 紅を帯びた衝撃波が、猫達の体を吹き飛ばす。
 タイプ的な相性のせいでダメージ自体はあまり食らわないだろうが……タイミングを合わせられたせいで、猫達の目は確実に潰されていた。


 そこに畳み掛けるようにして、ノイスは一番近くに飛ばされたマニューラに接近する。


「ぐ、にゃぁっっ!」


 まだ起き上がらないそれを蹴り上げ、目の前にきたところを殴りつけた。
 地面に転がった紺色の体は痙攣している。瀕死。


「にぎゃぁ!」


 更にもう一匹の猫を標的に定め、起き上がろうとしていたその背中に踵落としをキメた。
 一撃でぐったりと四肢を投げ出す姿は、哀れ。意識不明。


「うみゃ、ぁ゛っっ……」


 三匹目の濃紺には、インファイト。目が見えないのだから避けれる筈もない。
 体を木に叩きつけられた追跡者は、そのままずるずると地に伏した。戦闘不能。



「…………」


 そして最後の一匹は……。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………あ?」


 仰向けになったまま、気絶していた。


「……まさか、最初の一撃で?」


 確かに、当たりどころが悪ければ気絶ぐらいはするだろうが……


「……まあいいか」


 とりあえず追っ手を全員倒す事は出来たが、このままここに長居するのは危険だ。
 早く、逃げよう。



「イル。行くぞ」

「ま、まってよ父ちゃん……てやっ!」


 木から落ちてきたイルを抱き止め、二人の体は同時に虹色を纏う。





 黄色い姿をした幻影は、自由を求めて疾走する。












 さてさて、毎度(?)恒例のあとがきっぽいものをかきますか。
 とはいえ、この話はまだまだ続きがあるので「あとがきって言ってもなぁ……」って感じです。なら書くな。はい、そのとおりです。だが断る←

 こういう連続ものって、最初が一番盛り上がってて回を追う毎にどんどんマンネリ化していく事が多いはずなのに、どうして一話目からこんなにグダグダなんでしょうか。作者の文章力が無いからだ? いや、そんな分かりきった事を言わないで下さいよ。傷つくんで。

 まあ、他の人の作品とは比べる事すら恐れ多い位にダメダメな話しか書けませんが、生暖かい目でスルーしてやって下さると嬉しいです。はい。

 そんなこんなであとがきは終わりかな……。
 もしよければ、今後も僕の奇行にお付き合い願えると嬉しいです。
 では。これにて。






 ……妙に話が短く感じるのは、気のせいだと思いたい……orz



 ……誤脱字報告や感想・批評を頂けたら、奇声を発して喜びます←

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Last-modified: 2010-08-14 (土) 00:00:00
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