猫探偵トトの事件簿
――――作者:てるてる
※この小説にはグロテスクな表現が含まれています。
――三月十九日、午後八時五〇分――
どん、と上の階から音がしたのはこれで何度目だろうか。テレビの前で座椅子に腰掛けていたイクミは迷惑げに天井を睨み据えると、立ち上がり、手近にあった部屋用の
イクミは大家だった。駅から少し離れた住宅街にあるアパートに住んでいる。歳のわりには元気なほうではあるが、やはり還暦を過ぎた体に立ち座りの動作はつらいのか、しきりに腰をさすっている。
「まったく、なんなんだろうねえ」
怒り混じりにそう言って、壁に掛けた時計に視線を移す。針は午後九時にさしかかろうとしている。昼間ならともかく、こんな時間に暴れられたらたまったものではない。それでなくても古い木造アパートは音が響きやすいのだ。
そうこうしているうちに、また上から音がした。今回は何かが倒れたような衝撃すらあった。天井と電灯が揺れ、傘に積もったほこりが降ってくる。ちゃぶ台に置いた湯のみを慌てて取り上げながら、イクミはいらいらと鼻を鳴らして身を起こすと、窓を開け、次いで雨戸を開け放つ。
「ちょっとヒサヤスさん。いい加減にしなさいよ!」
イクミは窓から顔だけ出すと、上の階に向かって金切り声を上げる。イクミの位置からは二階の部屋は
「そんな暴れ回って。わたしに文句でもあるのかい。文句があるなら出てって貰うよ。いいわね!」
それだけ言って、思い切り窓を閉めた。ヒサヤスはアパートの住民のひとりで、イクミのちょうど真上の部屋に住んでいる。感じの良い青年で、たしかポケモンを数匹持っていたか。
閉めた雨戸に手をかけたまま様子をうかがっていたが、さっきまでの騒々しさが嘘のように、それきり物音がすることはなくなった。ようやく静かになってくれたらしい二階の住人にため息を漏らしつつ、座椅子に戻ろうとしたときだった。玄関の呼び鈴が鳴った。
またか、とイクミは玄関扉を睨め付ける。誰だい、と呼びかけようとして、ふと思い当たる節を感じて押し黙る。静かになった二階の住人。夜中の訪問者。誰が訪ねてきたのか、想像するのはたやすいことだった。おおかた、怒鳴られたことに腹を立てて文句を言いに来たのだろう。
イクミは投げ捨てた箒をつかみ取ると、手の中で持ち替えながら玄関に忍び寄る。ドアノブに手を置き、しっかり握りしめる。二度目の呼び鈴が鳴る。それに合わせてイクミは勢いよくドアを押し開けた。呼び鈴のボタンに指を置いていた男が驚いて飛び退るのがちらと見えた。イクミはすかさず男に向かって箒の柄を突きつけると、男はよろめくようにして後ろの壁にぶつかった。逃げ場がなくなり、顔をかばおうとする男にイクミは箒を振り上げようとして、ふとイクミは男がヒサヤスではないことに気づいた。
「あら、あんた」
イクミが声をかけると、男はおそるおそる顔を覆った手をどける。
「に、二階のマコトです。……何でそんなものを?」
マコトと名乗った男に指摘されて、イクミはそそくさと箒を背中に隠した。ヒサヤスに同じく、マコトは二階の入居者だ。細身で背の低いこの男はヒサヤスの部屋のとなりに住んでいる。
「何だって良いじゃないかい。ところで何の用?」
イクミが促すと、マコトはちらちらと箒のほうを気にしながら答えた。
「はあ。隣の部屋――ヒサヤスさんの部屋のことなんですけど」
「ああ、はいはい。それならもう大丈夫よ。あたしが怒鳴りつけてやったんだから」
イクミが自信満々に行ったのに対し、マコトはしかし首を横に振った。
「そうじゃなくて。どうも変な音がしてるんですよ」
「だから、それならさっきあたしが怒鳴ってやったからもうしてないでしょうが」
「そっちじゃなくて。なんか、するんですよ。最後のどたーんって音の前後くらいかな。なんかこう、ひっかいてるみたいな音が」
「ひっかいてるみたいな音だって?」
言って、イクミは上を見上げる。アパートの狭い通路。通路でしかないそこの両端に壁はなく、外を流れる風の音がかすかに聞こえる。それ以外の物音はとくにしない。
「するかい。そんな音」
「ここからは聞こえませんけど。隣同士だと結構響くんですよね。それで、ちょっと注意していただきたいんですけど」
「あんたがやったら良いじゃないかい」
そうイクミは言ってみたが、当のマコトは首を縦に振ろうとしなかった。部屋が隣同士だから、大家であるイクミが言ったほうが聞いてくれるから、と理屈を並べ立ててなんとしてでもイクミに行かせようとするマコトに、仕舞いに根負けしたイクミはしぶしぶドアの端に箒を投げ捨てると、マコトと共に二階に上がることにした。
外付け階段を上がり、ヒサヤスの部屋の前に立ったイクミ。念のため耳を澄ましてみると、たしかにかすかに物音がしているようだった。
「ちょっとヒサヤスさん。こそこそ何してるんだい」
ドアをたたきながらイクミは言った。ベニヤのドアはたたかれるたびに大きな音を立てたが、それにヒサヤスが応じる気配はなかった。イクミは再度同じことを言いながらドアをたたいて、ふとノブに手をかけた。鍵はかかっていないようだ。
「ヒサヤスさん? 開けるよ」
またも返事はない。居留守でも使ってるのかとマコトと言い合いながら、イクミはドアを引き開けた。
「ヒサヤスさん。何して……」
言いかけて、イクミは鼻を覆った。部屋の中から異様なにおいがした。むせ返るようなそれに思わずあとずさる。イクミの様子にただならぬ気配を感じたマコトは、部屋に飛び込もうとして、同じように鼻をふさぐ。
「大家さん……、これは」
マコトが唖然としながら言ってきたのに、イクミは咳き込みながら頷いた。さびた鉄のような、鼻をつんざいてくる刺激臭――血のにおいだ。間取りの関係上、廊下からは部屋の大部分は見えなかったが、部屋の中で何かがあったことは間違いない。それも、部屋中に血のにおいを充満させるような種類の何かが。
想像して、イクミは口元を押さえてうずくまる。胃の中のものがせり上がってきそうだった。放心したように立ちすくむマコトに代わって救急車を呼びにいこうと壁に手をついて立ち上がろうとする。そのときだった、部屋の中からくぐもったうなり声が聞こえてきたのは。
獣の怒ったようなうなり声。それに水気を帯びた足音が伴う。二人が音のほうを見ると、そこには、ちょうど部屋の死角からポケモンが姿を現したところだった。それがヒサヤスの手持ちのペルシアンだったと気づくのが遅れたのは、その風貌が異様なまでに赤く染まっていたからだ。異様に目をぎらつかせるペルシアン。牙のあいだから流れるよだれが畳の上に血色の斑点を落とす。その光景を、イクミはどうして良いかわからず立ちすくむ。冬の凍てついた空気、蛍光灯の立てる虫が鳴くような音。廊下に横たわる日常が明らかなだけに、ドアの向こうの非日常は理解の範囲を超えるものだったからだ。
そうこうしてるうちに、ペルシアンがイクミのほうをゆっくりと振り返る。逃げなければ、やっとのことでそう思い至ったイクミが立ち上がろうとするが、それより先にペルシアンの憑かれたような瞳がイクミをとらえた。低いうなり声を上げて体勢を低くするペルシアン。イクミに向かって飛びかかるすんでのところで、マコトが叩き付けるようにドアを閉めた。締め切った瞬間、ペルシアンのドアにぶつかる大きな音がした。衝撃でマコトがよろめく。その間にも外に出ようとペルシアンはさらに暴れる。がたがたと音を立てるドア。蝶番が軋む。呆然とそれらを見渡すイクミに、マコトはドアに背中をぴったりと貼り付けて押さえ込みながら、叫んだ。
「警察と救急車。早く!」
「トト。現像、終わったぞ」
駆け込むようにして事務所に入ってきたコースケは、照明の点いていない部屋の中、年相応のハリのある声で開口一番にそう言うと、脇に抱えた封筒を机の上に投げ出した。トトと言われたエネコロロはソファから飛び起きると、すぐさま机に飛び乗った。封筒を前足と口でこじ開けようとすると、コースケが封筒を取り上げる。
「ポケモンがこんなの見たってわからんだろ。ほら、おりろ」
言って、トトを机から追い立てる。しぶしぶ床に降りたトトを確認してから、コースケは羽織っていたコートを脱ぎ捨ててスタンドに明かりを点すと机の上に封筒の中身をばらまいた。大量の写真が机の上で山積みになる。それらを一通り平らにならすと、コースケは満足げに腕を組む。
「何日も尾行したり張り込んだ甲斐があったってもんだ。しかしなあ……」
コースケは山の中から一枚の写真を手に取って軽く息をつく。
「久しぶりの仕事がストーカー調査なんてな。もうちょっと名探偵らしいことしたかったよな。たとえば殺人とか誘拐とか」
ため息混じりにつぶやいて、もう一方の手を机の上に乗せて頬杖をつくコースケ。その様子を遠目に見ていたトトは、呆れたように首を振った。
カネダ コースケはここ、カネダ探偵事務所を立ち上げた私立探偵だ。開業したのはつい最近で、それまでは別の仕事をしていた彼だったが、根っからの探偵好きが災いして、事務所を開設するだけの資金が貯まるやいなや、さっさと仕事をやめて探偵になってしまったのだ。以来、ろくな依頼が舞い込むことなく今に至る。というより、依頼が来てもコースケ自身が断ってしまうのだ。詳しい理由は知らないが、おおかた、依頼される探偵としての仕事が自分の想像する探偵業とは違っているからだろう。最近は生活費もままならないのか、夜間ですらよっぽどのことがない限り電気を点けようとしない上、トトのモンスターボールも壊れたままになっている。
ため息を吐く代わりに、トトはコースケに冷ややかな視線を送る。写真から顔を上げたコースケと目が合った。
「なんだよ、その目は」
コースケが言ってきたのに、トトは「ばっかみたい」と短く鳴いてそっぽを向いた。意味が通じたのか、コースケは顔をしかめる。
「いいじゃねえか。俺は探偵になりたかったんじゃなく、探偵モノの主人公みたいになりたかったんだよ。生意気してると今にメシ抜きにしてやるからな」
まったく、とコースケは吐き捨てると、おもむろにイスから立ち上がる。面倒くさそうに着衣のズレを正しながら部屋を横切っていくコースケは、そのまま事務所スペースから間仕切りなしで繋がっている台所に入っていった。
「そういや昼から何も食ってなかったよな。何かあるかな……」
ぶつぶつと独り言をつぶやきながらトトに背中を向けて冷蔵庫を漁るコースケ。一人暮らしが長いせいだろうか、独り言が多くなってきているのは気のせいではないはずだ。
その様子を耳だけ向けて様子をうかがっていたトトは、この隙に忍び足で机に近寄った。うまくイスがきしまないようによじ登り、机上に並んだ写真の山を凝視する。ストーカー調査という、珍しく探偵らしいことをしたコースケのことが気になったからだ。
適当に山を崩しながら写真を観察していると、どの写真にも被写体に一人の女が映り込んでいるのに気がついた。細身で色白な長い髪の女。写真によって服装が違うのは、日付が違うからだろう。が、どの写真でも、女はやや下を向いており、サングラスと目深にかぶった帽子で顔を隠している。ポケモンのトトから見ても、明らかに怪しい身振りだ。
こいつがストーカーか。トトは思いながら、もっと顔を判別できる写真はないものかと机の上を見回し、ふと写真の入っていた封筒が目に入った。中に何か残ってるかもしれない。トトは自分の位置から反対側にある封筒を取ろうと机に前足を置いて身を乗り出したそのときだった。後ろ足を乗せていたイスが後ろに下がり出した。油の切れたキャスターが甲高い音を立てる。それに気づいたコースケが振り返りかけたのが見えて、焦ったトトは思わず机に飛び乗ろうとしたが、距離が足らず、盛大な音を立てて
「おいトト、なにやってんだ!」
ようやく起き上がったところに、コースケが駆け寄ってくる。明らかに怒ってる様子のそれにトトは急いでその場を離れようとしたが、コースケに後ろ足を捕まれてしまう。
「また性懲りもなく乗っかりやがって。写真に傷でもついたらどうするんだ。言っても聞かないやつはこうしてやるからな!」
ひとしきり怒鳴った後、片手を振り上げたコースケだったが、しかしその手がトトに振り下ろされることはなかった。
机の上の電話が鳴った。トトがおびえてつぶった目を開けてみると、コースケは振り下ろそうとした手を止めて電話機と時計を見比べていた。時刻は九時を回っている。こんな時間に電話がかかってくることなど今までなかった。
「こんな時間に。誰なんだよ」
舌打ち混じりに毒づいたコースケは、乱暴に握っていたトトの足を放すと、受話器を取り上げた。
「はい、こちらカネダ探偵事務所。……ああ、おれだけど」
いかにも不機嫌そうな応対をするコースケ。意識が自分から逸れたのを見て、やれやれとトトがソファに飛び乗って乱れた毛並みを整えようとしたとき、なにっ、とコースケが驚いたような声を上げた。振り返ってみると、いつになく神妙な顔つきで受話器の向こうに意識を傾けているコースケが見えた。
「ああ。ああ、わかった。……すぐ行く。明日? 明日じゃ遅すぎるだろ、……二十分くらいで着けると思う。……そんなこと言ってる場合かよ、それじゃ」
言って、電話を切ったコースケ。何事かと目を丸くするトトをよそにはじかれたようにその場から立ち上がると、床に落ちた写真も含めて一纏めにすると封筒の中に押し込んだ。コートを拾い上げて再び羽織ると、机の引き出しを開けて中身をまさぐる。『何があったの?』と何度も訪ねるトトの鳴き声も無視して、引き出しの中のものを次から次へとポケットにしまい込んでいく。無視され続け、腹を立てたトトはソファから直接机に乗り移ると、目の前のコースケの顔をのぞき込むようにして視線を塞いだ。
『ねえってば。何があったのって聞いてるの!』
そういう思いの元、不満を込めて低く長く鳴いてみせると、前触れなくコースケはトトを抱き寄せた。
「やった。やったぜトト。ついに来たんだ」
抱きかかえられ、かろうじて机のついている後ろ足でバランスを取りながら動揺するトトをよそに、まるで子供のようにはしゃぐコースケ。その声には、先ほどの真剣な様子は一切見られなかった。
「殺人事件だよ、殺人事件。しかも殺されたのはおれの依頼人だ。やっとおれが夢見てたことが舞い込んで来たんだ。夢みたいだよなあ」
なに、とコースケの言葉に耳を疑ったトトはコースケの顔をまじまじと見つめる。いまいち状況が飲み込めなかった。つまり、今の電話はコースケに殺人事件を伝えるものだったのだろうか。トトを床に下ろし、再び身支度を始めるコースケを見守りながらトトは思う。ふつう
そうこうしているうちに支度が完了したコースケは、コートのボタンを閉めながら窓の施錠を確認していく。
「ガスの元栓も閉めないと。窓の鍵も。事件が事件だけにしはらく帰ってこられなくなるだろうから、戸締まりはしっかりしとかないとな。それと――」
そこまで言って、思い出したようにトトのほうを振り返った。首をかしげるトトに、コースケは面倒くさそうに引き出しを漁ると、ポケモン用のハーネスとリードを取り出す。
「おまえを一人にしたってろくなことがねえからな。来い」
現場のアパートに駆けつけてみると、そこにはすでにツートンカラーの車体が何台も待ち構えていた。警光灯の赤い閃光が回転し、何事かと集まった野次馬とそれを押しとどめようとする警察官を容赦なく照らしている。そこからやや離れたところに乗ってきたスクーターを止めたコースケは、サイドカーのフックにくくりつけたトトのリードを外す。
「待ってろ難事件。名探偵のご到着だぜ」
コースケはそう言うと、リードを掴んでトトを引きずるような形で現場に向かう。見物人をかき分け、黄色い立ち入り禁止テープをくぐり抜けようとしたところで、見張りに立っていた若い警察官に呼び止められた。
「ちょっと。現場に入らないでください」
警察はコースケの前に立ちふさがった。それをコースケは押しのけようとする。
「どいてくれ。中に用事があるんだ」
「何のこと言ってるんです? 困りますってば」
「あんたが困ろうと知ったこっちゃないね。いいからどいてくれ」
前へ行こうとするコースケと、それを押しとどめようとする警官。二人の押し問答を見物人たちが興味津々に見守りだしたのに、トトは前足で顔を覆う。大人げない。恥ずかしくないのだろうか。トトが手のあいだからコースケを恨みがましく睨みつけていたときだった。アパートの中から別の刑事が現れた。よれよれのトレンチコートの男は目の前の騒ぎを捉え、めんどくさそうにため息を吐く。
「おい。カネダ」
くたびれた風貌に反し、その声は若い。脇にファイルを挟んだ刑事がそう言うと、コースケは、おや、と表情を破顔させる。
「おお、ミヤタか。久しぶりだな。どうだ、調子は?」
おどけたように騒ぐコースケに、彼を抑えていた警官は怪訝そうにミヤタと呼ばれた刑事を振り返る。
「ミヤタ刑事が呼んだんですか」
「ああ。明日来いと伝えたつもりだったんだが……」
そう顔を
「早いほうが良いだろ。で、何があったんだ? 事件があったの、このアパートだろ。早いとこ教えてくれよ」
ポケットから手帳とペンを出して問いかけてくるコースケに、刑事と警官は顔を見合わせて何事か話し込むと、ミヤタはコースケをアパートの地所の中に連れて行く。地所には、庭とまではいかないものの空間があった。アパートとブロック塀に挟まれたそこにコースケを招いたミヤタは、あからさまにため息を吐いた。
「なあ。頼むからもうちょっとおとなしくしててくれないか」
塀にもたれ、腕を組むミヤタ。トトに位置からでは表情まではわからなかったが、主人の行動に迷惑がってることだけは痛いほど理解できた。
「来てくれたのはありがたいんだけど、そう興奮しないでくれよ。おれにも面目ってのがあるし」
「良いじゃねえか。幼なじみだろ?」
「それが問題なんだよ……」
ミヤタは肩を落として嘆いた。探偵と刑事。職種が違うとはいえ、コースケとミヤタは仲が良い。それは小さいころからの遊び仲間だったからだ。トトも何度か会ったことがあった。
「で、おれは何をすりゃ良いんだ?」
再び手帳を掲げるコースケに、ミヤタは、ああ、と脇のファイルを手に取る。
「まず、
「別に大したことじゃねえよ。おれはそのヒサヤスってやつに依頼を受けてたんだ」
「依頼? どんな?」
「ストーカー調査だよ。最近、帰り道とかで誰かにつけられることがあるんで、調べてほしいと。ここ数日はポストまで荒らされてたとかなんとか」
「ああ、ポストのことなら第一発見者の大家から聞いてるよ」
「イクミさんが見つけたのか」
「大家を知ってるのか」
まあな、と自信ありげにしてみせるコースケ。それもそのはず、ヒサヤスのストーカー調査のときにイクミとは何度か顔を合わせている。
「……まあとにかく、その気味悪いってんで警察に相談を勧めたそうだが当の本人が嫌がったらしくて。それで印象に残ったらしい」
ミヤタの説明を足下で聞いていたトトは、ふと疑問を感じて首をかしげる。なぜ警察に言わなかったのだろうか。つきまとわれるだけならともかく、ポストを荒らされるような被害を受けたにもかかわらず、相談した相手が探偵というのはどうにも納得できない。
へえ、と関心なさそうに相づちを打つコースケ。
「つーことは、あれか。ヒサヤスを殺したのはそのストーカーってことか」
ミヤタは当惑したように言葉尻を濁す。
「まだ決まった訳じゃない。が、まあ……そうなるのかもな」
「どうかしたか?」
「いや……なんでもない。そ、そうだ。念のため聞いておきたいんだが、今日の九時頃どこにいた?」
「自分の事務所にいたよ。その直前に写真の現像に出てたからアリバイだってちゃんとあるが……」
そう、とファイルに挟んだ書類に何事かを書き込むミヤタ。ちらちらとコースケの顔色をうかがってるのが気になる。
一通り書き込んで、ミヤタはファイルから顔を上げた。怪訝そうな顔つきのコースケと目が合い、咄嗟に作り笑いを浮かべる。
「よしっ、お疲れさん。おかげで早く済んだよ。いやー、まったく良い友達を持つと助かる」
まくし立てながら元来たほうへ押し返そうとするミヤタ。それをコースケを押し返す。
「ちょい待ち。帰れってどういうことだよ。おれに用事があったんじゃないのか?」
「用事?」
「ほら。探偵が事件現場に呼ばれたら、色々することがあんだろ」
ミヤタは一瞬何のことを言ってるのか分からないという風な間を開けた後、ああ、と手を叩いて苦笑する。
「……なあカネダ。おまえここに呼ばれたのは参考人としてだけなんだよ。探偵は必要ないんだ」
参考人とは事件があった際、被疑者とまではいかないものの、その事件にある程度まで関わった可能性のある人間のことだ。なるほど、とトトは思った。ということは、事務所に掛かってきた電話は単にコースケの事情聴取が目的だったわけだ。そもそも刑事が殺人事件の捜査協力を探偵に頼むという時点でおかしい。落ち着いて考えてみればすぐに分かるようなことを。
やれやれとトトはコースケを見上げる。ミヤタの言葉に呆然と立ち尽くすコースケ。ミヤタがさあ、と元来た道を示す。
「あとは警察が何とかするから。一般人は帰ってくれって。な?」
「そんな。頼むミヤタ。ここまで来させといてそりゃないだろ」
「勝手に押しかけてきたんだろが。オレは明日でもいいって言ったぞ」
「じゃあせめて部屋を見せてくれよ。オレとヒサヤスとはつい最近会ったことあるんだぜ。もしかしたら何か役に立てるかも知れないだろ。な?」
食ってかかるコースケに、ミヤタは首を振る。そうでなくても事件で忙しいのに、その上こんなのまで相手にしてたら仕事にならない。ミヤタはコースケの背中に手を回すと、強引に入り口の方へ押していく。
「おまえは一般人だろ。そんなことするわけにはいかないよ」
「ああ。一般人さ。だけど名探偵でもあるのさ」
踏ん張ろうとしてよろよろしながらコースケは名刺取り出した。それをミヤタは空いている方の手でひったくると、無造作にコートのポケットに突っこんだ。
「事件を解決するのは警察の領分だ。とっとと帰ってくれ。じゃないと公務執行妨害で逮捕するぞ」
半ば強引に入り口へと引き戻したミヤタは、見張りの警官が持ち上げてくれた立ち入り禁止テープの外へコースケを突き飛ばした。勢い余って転びそうになるコースケをよそに、ミヤタはポケットに入れた名刺をまじまじと眺めたあと、ファイルに挟みなおした。
「まあ、もしかしたら後日詳しい話を聞くことになるかもな。とりあえずこいつは預かっておく。だからそれまではおとなしくしてろ。いいな」
言って、ミヤタは警官に礼を言うとさっさとアパートの方へ引き返していく。おい待て、とまだ追いすがろうとするコースケ。
さすがに見ていられない。トトは、彼のズボンの裾に噛みつくと無理矢理バイクの方へ引っ張った。コースケが不満を漏らすのも構わず、なんとか人だかりだから脱っすると、コースケは強引のトトをズボンから引き剥がした。ゲンコツが飛んでくると思って目をつぶるが、あにいく彼は怒りはミヤタへの怒りで一杯一杯だったようだ。コースケはアパートを見上げて舌打ちする。
「くっそ。何なんだよ……ミヤタのヤロー。自分が警察だからってでかい態度取りやがって」
憎々しげなコースケの声に、トトはやれやれと首を振った。コースケが自分のことをどう思ってるかに関わらず、あくまでコースケは被害者と多少の面識がある程度の一般人なのだ。警察であるミヤタが彼を拒むのも当然だし、仮に彼が中に入ったとして、そこから何か分かる保証なんてないだろうに。
「せめて中で何があったか分かればなあ……。なあトト。こっそり忍び込んで中の様子見てきてくれないか」
なにバカなことを言ってるのか、トトは何度目か分からないため息をコースケにぶつけると、さっさとバイクのサイドカーに飛び乗った。すいません、と見知らぬ人の声を聞いたのは、丁度そのときだった。
「すいません……、あの、その」
トトが振り返ると、若い女の姿が見えた。位置から考えて、おそらくアパートの入り口前の人だかりからやってきたのだろう。
「何か?」
相変わらず機嫌の悪いコースケの口ぶりはいかにもとげとげしい。刺すような視線に、女はひるんだように肩をすくめた。
「あの、すいません……。あなた、探偵なんですよね」
言いながら、女は団子のように後ろでくくった髪をしきりに気にしている。はあ、と気のない返事をするコースケ。
「実はお仕事の依頼をお願いしたいんですけど」
「悪いけど営業時間を過ぎちまってるんだ。明日また出直してくれよ」
不機嫌そうなのは、まだミヤタ刑事のことを引きずっているからだろう。女の返事を待たずにバイクにまたがろうとするコースケにトトが冷えた視線を送っていると、女はバイクのハンドルを掴んだ。
「頼むから……」
「とにかく話だけでも聞いてください! でないと、わたし……」
そこまで聞いて、コースケとトトはこの女が泣いているのに気がついた。赤く泣き腫らした目を潤ませて懇願するのに、コースケはわかったとバイクのエンジンを切った。
「わかった。わかったから。で、依頼ってのは何なんだよ」
ホッとしたように女が息を吐く。ありがとうございます、と言おうとした言葉は嗚咽に掻き消された。安心したのだろう。顔を押さえて泣き出したのに、やれやれとコースケとトトが顔を見合わせていたときだった。彼女の言葉に二人は思わず驚愕した。
「……犯人を、探して欲しいんです。ヒサヤスを、私の彼を殺した犯人を」
――三月二十日、午前九時丁度――
トトが時間を確認していると、茶器をトレーに乗せたコースケが応接室に入ってきた。女――名前を
「いいよいいよ座ったままで。汚いところだけど、まぁ、掛けてくれ。仕事は大丈夫なのかい?」
紅茶の入ったティーカップを差し出しながらコースケが尋ねる。平日の九時。年中暇をもて余してるカネダ探偵事務所の外の通りからは、通勤通学に行き交う人々の喧騒が聞こえてくる。
「……職場には休むと伝えました。昨日のこともありましたので、店長もしばらくゆっくりするように言ってくれました」
「仕事って?」
「フラワーコーディネーターです。お花屋さんですね。小さいお店なんで、わたしがしばらくいなくても大丈夫だと思います」
へえ、とコースケは相づちを打ちながら自分のティーカップに口をつける。
他愛もない世間話が続く。トトはそっとミカの座っているソファに飛び乗ると、書類の並べられたテーブルを覗き込んだ。昨日の夜、とりあえずその場で聞いた内容を書き起こしたものだった。名前や仕事内容などが、簡単に走り書きされている。
(彼女の言ってる内容との相違はなし、と)
読めない漢字は飛ばし飛ばしに読むしかないものの、おおよそ言動との矛盾はなさそうだった。人間と長いこと暮らしてるポケモンは文字が読めるようになるというが、自分がこうして読めている辺り、あながち間違いではないだろう。
当然コースケも確認してるだろうが、念のため内容に目を通しておく。ポケモンが協力できることなどたかが知れてるが、久しぶりの仕事なのだ。コースケには無事終わらせてもらわなければならない。
夢中になって読み進めていると、それを見たミカが小さく微笑んできた。
「かわいらしい子ですね」
「ただのタダ飯食いだよ。仕事してるといつもこうやって覗きにくるんだよ」
「手伝ってくれてるつもりなのかしら」
つもりじゃないんだけどね、と心の中で苦笑していると、まさか、コースケが膝を叩いた。
「探偵はポケモンが手伝えるほど簡単な仕事じゃないんだ。ほらしっしっ、邪魔だ。降りろ」
「いいじゃないですか。わたしのヒサヤスもよくこうしてポケモンと一緒にいましたよ。何かをしてくれるわけじゃないけど、いると仕事が捗るんだって、彼いつも言ってましたっけ……」
手に持ったティーカップを見下ろすミカの目に、憂いの色が浮かび上がる。コースケは居住まいを正すと、ミカの方へ正対する。
「ミカさん。つらいと思うけど、そろそろ本題に入らせてもらっても構わないかな」
「……構いません。そのつもりでここにきたんですから」
「まず、ヒサヤスさんとの関係を教えてくれないかな」
「彼とは幼なじみでした。高校は別々のところだったんですが、二年ほど前から交際を始めました……」
就職を機に都会に移り、仕事に慣れた頃に立ち寄ったポケモンの保護施設で偶然出会ったのが交際のキッカケだった。お互いにポケモンを欲しがっていたこともあり、同郷だったことも手伝ってすぐに関係を持つようになった。
「保護施設っすか」
「はい。多頭飼いで手に終えなくなった子や売れ残りで大きくなりすぎたりした子がたくさんいまして」
「すると、ミカさんが今持ってるっていうニャースはそのときに引き取ったものなのかい」
「はい。ヒサヤスとわたしとでペルシアンとニャースの兄弟を引き取ったんです。仲のいい兄弟だったので、お互いに記念になるだろうってヒサヤスはよく言ってました……」
「……今回のことは残念です」
はい。と絞り出すような囁くような声。スカートの上の手が震える。押し殺すように握られた拳は、死んだ彼を偲んでのことか。トトは励ますように頬をミカに当てるとゴロゴロとのどを鳴らした。ふっと笑むような気配とともにぎこちなく撫で返す彼女の手つきに、寄る辺を失った者の悲哀を感じた。最愛の人をなくし、悲しみの最奥へ落ち込んだ彼女。
彼女を救うには、真実を明らかにすることだけなのだ。
――三月二十日、正午――
事情を聞き終え、ミカを帰したその日の正午、コースケとトトは事件のあったアパートを訪れた。昨夜の人だかりは消え、警備を当たる警察官が数人、敷地の入り口や外階段など要所要所で立哨している。真新しく張り巡らされた規制線が黄色く照り返し、古めかしいアパートとの対比で不自然に浮かび上がっていた。
「くっそ。まだ警察がうようよしてるな。とっくにいないと思ってたのにな」
遠目にアパートを見ていたコースケがイライラと呟くのに、トトは冷ややかに見上げる。うようよしてるも何も事件性がある以上、昨日の今日では現場を野ざらしにしたりはしないだろう。楽観的なのも大概にして欲しいものだ。
そんなトトの思考を感じ取ったのか、にしても、とコースケは不機嫌そうにトトを見下ろす。
「どうしてそうお前はついてきたがるんだ。留守番なりしてくれてりゃいいのによ」
『あんただけじゃ頼りないからでしょうが』
そう一声鳴いてみせると、ふん、とお互い鼻を鳴らして再びアパートの方へ目をやった。
「とにかく、どうにかして中に入らないとな」
ぐるりと地所を周り、忍び込める場所がないことを確認するコースケ。敷地の入口に立っていた若い警官が、コースケたちを認めて声を漏らす。
「またあなたですか……」
コースケが足を止めて振り返る。一瞬、警官にしまったという表情が浮かんだのは見間違いではないはずだ。
「ああ、私立探偵のカネダコースケだ。あれから捜査は進んでるのかい?」
「部外者にお話しできることはありません」
どこか辟易したような口ぶりなのは昨日の押し問答があるからだろう。それを知って知らずか、ずかずかと隙あらば入ってやろうと言わんばかりの勢いでアパート方をのぞき込むコースケ。
「つれないこと言うなって。名探偵のカンってやつで何か新しい発見があるかもだろ」
「ダメです。ミヤタさんから捜査の邪魔はさせるなと厳命されてるんです。お願いですから帰ってくださいよ」
拝むようにするコースケと、それを拒む警官。やれやれとそんなやり取りを横目に見ながら、トトは思案する。ヒサヤスが殺されたという情報しかない以上、現場を見る必要があるというのがコースケの意見だったが、当然のごとく、中には入れそうにない。コースケの言うとおり、今の自分たちの手駒はほとんどないに等しい状態だ。コースケが注意を引いてくれてる間に自分だけ入ってもいいが、それでは肝心のコースケが何もわからないままになってしまう。
トトは息を吐く。こういうとき、人とポケモンとの間にある距離を感じずにはいられない。
そんなことを考えているときだった。何気なしに眺めていた一階に立ち並ぶ部屋の中に、イクミの表札があるのを見つけた。
(そういえば、コースケのやつ。大家に会ったことがあるって言ってなかったっけ)
話に夢中になってる二人を置いて、そっとアパートの方へ歩み寄る。ドア越しに人の気配があるのを確認し、足下の箒――なぜか無造作に転がっていた――に念力を掛けてインターホンを押してやる。しばらくしてのっそりと顔を出した老婆は、トトを見つけて顔をしかめる。その表情にぎょっとしたように息を飲んだ気配を感じたのは気のせいか。
「……なんだい」
『ちょっとこっちに来て』
トトが一声あげてコースケの方を振り返ってみせる。視線を追ったイクミが彼らの姿を認め、あら、と声を漏らす。
「何してるんだろうね、まったく」
言うが早いか、履き古したサンダルで出てきたイクミは声を荒げながら二人に詰め寄った。剣幕に後ずさるコースケの喉に、顎をすり付けるようにして睨み付ける。
「あたしのアパートに一体何の用だい。人の殺されたアパートがそんなに珍しいのかい。こっちは昨日から警察に行ったりして大変だってのに。騒がしくするんじゃないよ! ……あんたもあんたよ。まったく近頃の若いのときたら意気地がない。追い返すんならもっとぱぱっとやりなさいったらね!」
「……ああ。誰かと思ったらイクミさんか」
怒りの矛先が逸れて余裕ができたのか、コースケが両手を打つ。殴りかからんばかりに警官に詰め寄っていたイクミが、振り返って目を眇る。
「はてね。おまえさん、どこかで会ったかいね」
「探偵のカネダコースケだよ。ちょっと前にヒサヤスさんと一度話をしに行った」
ややあって、ようやく思い至ることのできたイクミが素っ頓狂な声を上げた。
「ああ、誰かと思えば。今日はまたどうしたんだい」
「ええ、ちょっとヒサヤスさんの……」
さすがのコースケもピンとくるものがあったらしい。ちらりと警官のほうを伺うと、いかにも困り果てたと言わんばかりに肩をすくめる。
「ヒサヤスさんへストーカーの件の報告にきたんだけど、何かあったのか入れてくれなくてね」
「何かって、あんた知らないのかい」
驚くイクミの反応にトトはしめたと思った。うまいこと大家と話をしにきた体にすれば入り口だけは突破できるだろう。
「教えてやるから入ってといで。ストーカーの話も聞きたいしね」
「ダメですよイクミさん。部外者を現場に入れたら」
割って入ろうとする警官を、イクミが鼻をならして睨め付ける。
「現場じゃなくて自分ちに行くんだよ。あんたらはお客も家に入れちゃいけないっていうんかい」
「それは……。しかし、事件の話はまずいですよ。まだ公式発表もまだなんですから」
「分かった、分かったよ。詳しい話はしないよ。それじゃ"別件"で訪ねてきたお客さんのためにも、とっとと道を空けとくれな」
言い澱む警官を尻目に、押し退けるようにして部屋へ戻っていくイクミ。それに続くコースケとトト。すっかり気後れした警官がひとり、その場に残されたのだった。
「それで、あんたは本当にストーカーの報告に来たのかい」
イクミと共に部屋へ入り、ちゃぶ台に案内されたコースケ。向かいに座ったイクミが開口一番に身を乗り出してきた。食べかけの煎餅の袋が乾いた音を立てて畳に落ちる。老人の独り暮らし。アパートができてからずっと生活してるであろうその部屋は、外観同様質素なものだった。
「本当のところを教えてちょうだいよ」
「実を言うと、今日ここに来たのは殺人事件の調査のためなんだ。ある人に依頼されてね」
イクミが感嘆したように息を吐く。
「そんなドラマみたいなことがねぇ」
「しかもだぜ。驚いて腰を抜かさないでくれよ。その依頼人ってのがだな」
『あんたには守秘義務ってのがないの?』
コースケとイクミが振り返る。居間と玄関を繋ぐ廊下の入り口で不機嫌そうに尻尾を揺らすエネコロロと目があった。ああ、とコースケが肩をすくめる。
「そういえば前は俺一人だったもんな。こいつはおれのポケモンのトトだ。本当は置いてくるつもりだったんだがな」
さも迷惑そうな口ぶりのコースケにトトがぷいと顔をそらした。
「まぁとにかく。その依頼者ってのが、なんとヒサヤスさんの彼女なんだぜ――」
そこから事件の経緯について順を追って説明していく。熱弁を振るうコースケと、それをワクワク顔で聞き入るイクミ。まるでワイドショーの司会者と視聴者だ。
こんなのを聞いててもしょうがない。現場でも見に行こうかとアクビ混じりに考えてるときだった。
「――しかし怖いねェ。だからあれほど警察に相談しなって言ったのに」
「ん? ヒサヤスさん。警察に行かなかったのか」
「そうなんだよォ。郵便受けが荒らされたって聞いたときに、あたしゃ真っ先に警察に行きなって言ったんだよ。ほら最近物騒じゃないかい。でもヒサヤスさんったら、行こうとしなくて……」
トトは首をかしげた。なぜ、ヒサヤスは警察に相談しなかったんだろうか。断られると思っていた? しかし郵便受けまで荒らされて、それでも行こうとしなかったのは気になる。
取っ手に念力を掛けてドアを開けて、現場のある二階へ上がる。ヒサヤスの部屋はすぐに分かった。くたびれたアパートに、黄色い規制線はよく目立つ。念入りに封鎖された入り口から中を覗き込めば、血の跡が点々と落ちた廊下がよく見える。
見張りの警官の姿は見えない。初期捜査も終えているから多少毛を落としても問題ないだろう。そう考え、トトは現場に足を踏み入れた。まだ強く残る血の臭いが顔を打つ。
(うわぁ……)
廊下を抜け、犯行のあった部屋に足を踏み入れたトトは、想像を絶する光景に胃の中をかき混ぜられる思いがした。
現場はまさに壮絶だった。壁や天井を含めた部屋全体に血液がまだらに染まっている。テレビは割られ、本棚からは中身が吹き飛び、原型を残しているものはなく、そのどれもが血が付着している。カーテンがピッタリと閉じられているため、蛍光灯の色褪せた明かりにだけ照らされた室内はひどく不気味に浮かんで見える。
(犯行はここで行われた……)
むせかえるような血の臭いと衝撃にくらくらしそうになりながら、トトは現場の様子を確認していく。
(ちゃぶ台に腰かけていたヒサヤスは、廊下からやってきた犯人に襲われた)
ちゃぶ台周辺にしぶいた血液が壁を染めている。勢いから察するに、一撃目は首だ。血の跡が低い位置にあるのは、座った状態で襲われたからか。
(驚いたヒサヤスは立ち上がり、壁に手をついて後ずさる)
壁に残る手のひらの形をした血痕を目で追っていく。部屋をぐるりと半周する手の跡。手と手の間隔はバラバラ。部屋に残る血の跡から察するに、何度も追撃を受けたようだ。そして、最後の追撃から数歩の距離を進んだところで、唐突に血痕は下向きに掠れている。――その下の畳には大きな血だまりと人の形に貼られた白いテープが。
(押し倒され、ここで止めを刺された……)
死体の状態が不明のため、想像するしかないが、周囲の惨状から察するにヒサヤスが絶命したあとも何度も攻撃を繰り返したようだ。相当な恨みがあったのだろう。
(なんて……むごい)
血みどろの室内。えずきそうになるのを必死に堪えながら、朝食を食べてこなかったことに感謝した。コースケの万年貧乏がこんなところで役に立つとは……。
一度外の空気を吸ってこよう。フラフラとおぼつかない足で出口に向かいかけた途中、ふと廊下の途中にある洗面所が目に入った。洗面台の鏡が割れている。床に落ちた破片から察するに、犯行の前後に割られたようだった。
(ヒサヤスを殺した犯人が割った? でもなぜ?)
殺した後なら血痕が着いてないのが妙だし、そもそも割る理由がわからない。かといって殺す前だとしても、わざわざ犯行前にヒサヤスの注意を引きかねないことをするだろうか。
考えながら廊下に出たときだった。階下から人の話し声が聞こえてくる。何事かと様子を見に行くと、コースケと刑事のミヤタが言い争っているのが見えた。
「見張りの警官から要請を貰って来てみれば。まったくお前ってやつは……」
「いいじゃねえか。一応俺だってこの事件の関係者なんだ。手伝わせてくれよ」
「だからダメだっての。ただでさえややこしい事件だってのに、邪魔しないでくれよ」
「聞いたぜ。ヒサヤスさん。自分の手持ちに殺されたんだってな」
なるほど、と話を聞いていたトトが納得する。殺意に対してヒサヤスが長く生存していたのはそのせいか。爪や牙や、刃物に比べて殺傷能力に劣るもので攻撃されたから、初撃からとどめを刺されるまでに部屋を動き回れたのか。――その過程でヒサヤスの受けた苦痛を考えると吐きそうになるが。
はあ、とミヤタが大きなため息をもらす。
「あのばあさん。ホント全部話しやがったんだな。せめて公式発表まで待ってくれって言ったのに……」
「まあまあ。そういうわけなんで、俺にもちょっと手伝わせてくれよ」
「何がそういう訳なんだよ……。とにかく、ヒサヤスさんが殺された今、お前は部外者なんだ。絶対にダメだ」
ふん、とコースケが自信あり気に鼻をならす。
「完全に部外者ってわけじゃないんだよなあ、これが」
コースケがミカから受けた依頼のことを話す。殺されたヒサヤスの彼女であるノウト ミカ。彼女から殺しの真相を解明してほしいと依頼があったということ。
「お前、ミカさんのこと、知ってるのか」
ミヤタが食いつく。コースケが自信満々に頷く。
「ああ。と、いうわけで、俺も晴れて関係者の仲間入りってわけだ。だから捜査を」
「捜査権は警察にある。一般人にやらせるわけにはいかないんだよ」
食い気味にコースケの言い分を黙らせるミヤタ。憮然とコースケが肩を怒らせる。
「なんだよ」
「怒るなって。だけど、ちょっと個人的に頼みたいことがあるんだ」
ミヤタが言う。
「依頼があったってことは、連絡先も知ってるんだろ。ちょっとミカさんに事情聴取に来てもらえるよう説得してくれないか。ずっと連絡してるんだが、聞く耳を持ってくれないんだ」
コースケが首をひねる。
「事情聴取に来ない? あんなに犯人を探して欲しがってたのに?」
「俺もよくわからないんだ。なんせ電話に出てくれないんだからな。まったく、ヒサヤスさんといい、ミカさんといい。どうしてこう、警察を避けるんだが」
「くそったれが……」
帰っていくミヤタのパトカーを見つめて、コースケがこぼす。背後のアパートの入り口には、見張りの警官が大量に貼り付けられている。じっとコースケのことを睨んでくる辺り、明らかにコースケ対策に増員されたのだろう。
「頼むだけ頼んどいて、用が終わればすぐに帰っちまう。なんだってんだ」
はあ。とため息混じりに携帯電話を取り出したコースケは、バイクに乗り込みながらミカの電話番号をタップする。腹立たしいことこの上ないが、友人の頼みなら無視するわけにもいかない。
「ほら、帰るぞトト」
よそ見をしながら言ったコースケは、しかし返事がないことに周囲を見渡した。アパートの前、付近にエネコロロの姿はどこにもない。
「あれ? あいつ、どこいった?」
それからしばらく。見張りの警官を交えてのトト捜索が始まるのであった。
――三月二十日、正午過ぎ――
狭いトランクの中。車が止まり、エンジンが切られる気配がした。車から降りたミヤタの足音が遠ざかっていくのを確認し、トトはトランクの鍵穴に爪を差し込んだ。
ガタリと音を立てて開いたトランクの隙間から周囲の様子を伺う。警察署の地下駐車場。整然と並んだパトカーが見えるだけで、人の気配はない。
(よし)
するりとトランクをすり抜けたトトは、物音を立てないようにトランクを閉めたあと、静かに通用口のほうへ向かった。
幸いなことに通用口にも誰もいなかった。記憶を頼りにエレベーターホールの隣の非常階段へ向かい、目的の階へと移動していく。途中何人かの警察関係者と目があった気がしたが、特に気にしてる様子はなかった。それもそのはず、トトはコースケに連れられてよく警察署を訪れていた。例のミヤタと話すあいだ、手持ち無沙汰で署内をウロウロしていると、いつの間にか名物のように扱われるようになっていたのだ。
階段を登り廊下を渡り、″ポケモン舎″と札の掛かった部屋のドアを押し開ける。
それなりの広さのある室内。鍵付きのロッカーにはそれぞれたくさんのモンスターボールが保管されているのが見える。
入り口に近い所に据え付けられた机で新聞紙を広げていたヒゲの男がちらりとトトに目をやる。
「あん? おまえはカネダの手持ちの」
ニャアと挨拶がわりに鳴いて男の足元にすり寄る。
「あの男、また自分のポケモンほっぽりだして世間話に明け暮れてるな。まったく……」
トトの喉を撫でてやりながら、男はため息混じりにぼやく。そして、
「いいぜ。ご主人の用事が終わるまで好きなだけ遊んでな」
立ち上がり、男はミヤタと名前の書かれたロッカーを開ける。ポケモン舎には警察関係者の手持ちポケモンが預けられている。コースケに付き合わされて暇そうにしている自身を見かねたミヤタが、自分の手持ちを話し相手にできるよう調整してくれたのだ。
(ホント。あのコースケにはもったいないくらい素敵な友達よね……)
そうひとりごちていたトトの目の前に、ミヤタのボールが投げ込まれる。光と共に飛び出してきたそれは、昼寝から目覚めてトトの姿を見るなり『よお』と手をあげた。
『よおトト。久しぶりじゃねえか。またコースケに放ったらかしにされてんのか』
やや腹の出たグラエナが陽気そうに笑う。片や万年貧乏な私立探偵。片や公務員。主人が違えば摂取カロリーも違うってやつか。
『今日は違うわ。昨日の事件のことで話を聞きに来たの』
『昨日のっていうとあの、アパートで男が殺された事件か。なんでまたお前が調べてるんだ?』
トトが肩をすくめる。
『その事件に、コースケの依頼が絡んでるのよ。久しぶりの仕事なんだし、しっかり解決して貰うためにも、こうして協力してるのよ』
『なるほどねぇ。お前も苦労してるんだな……』
『――以上が事件のあらましだ』
署内の廊下を歩きながら、隣のトトにグラエナが語りかける。彼の語る事件の概要に、トトは相づちを打っていく。
『ヒサヤスって男は手持ちのポケモンに殺された。で、殺される直前、ストーカーの調査依頼を行っていた』
『捜査本部ん中じゃ、そのストーカーが犯人である線が濃厚だと考えてるらしい。何らかのキッカケで殺意を抱いたストーカーが、ヒサヤスの手持ちをあやつって食い殺させた。何せ事件が事件だからな。警察犬の間でももっぱらの噂だよ』
主人の立場的に、グラエナは警察犬――ガーディなど、鼻が効くポケモンたちのことだ――と仲がいい。よくこうして勝手にポケモン舎を抜け出して会いに行っているのだ。
『食い殺したって……』
『現場を実際見たヤツが言ってんだよ。全身グチャグチャではっきりとは分からなかったけど、明らかにパーツが足りねえってな』
トトは憮然と鼻を鳴らす。
『ということは、ヒサヤスの手持ちは操られて主人を殺害させられたうえに、その死体を食べてしまったと』
『ああ……吐き気がするだろ。犯人は相当な人でなしに違いないぜ』
トトが同意の意味を込めて頷いた。現場の様子からある程度予想できていたつもりだったが、ここまで悲惨とは思わなかった。遅かれ早かれ、警察から報道クラブ向けに公式発表があるだろう。そこから展開される世論のことを考えると頭が痛くなる。
『にしても、よく現場に警察犬が行ってるって分かったな』
『規制線用のテープに毛がくっついってたの。封鎖された現場に入るようなポケモンなんて、それぐらいじゃない? そう考えたのよ』
『やるねえ。――っと、ここだぜ』
グラエナが口笛を吹くマネをし、ふとある部屋の前で立ち止まる。証拠保管室、そう印字されたプレートが近くに掛かっている。
『お目当ての相手はこの中だぜ』
トトが眉根を寄せる。
『証拠保管室、か。あくまで証拠扱いってことね』
『人間なら重要参考人なんて大層な肩書きがつくんだろうがな。しょせんポケモンなんてそんなもんだ』
さあ、とトトの機嫌を窺うように、グラエナがのっそりとドアに掴まり立つと、ノブを咥えて器用に開ける。ドアを潜ったトトは、突然室内から轟いた悲鳴に思わずたじろいだ。
『これは……!?』
尋ねられたグラエナの表情は暗い。ドアを閉め、一言『ついてこい』とだけ言うと、意を決したように室内を突き進んでいく。
部屋名の通り、証拠を保管するための部屋だけあってかなり広い。広い室内がパーテーションで区画ごとに区切られており、隙間から雑多な物がちらちらと見える。おそらく他の事件のものだろう。
グラエナの後を追いながらキョロキョロと見回していると、とある一角でグラエナが立ち止まった。そのとき、また悲鳴が室内に響き渡った。金属と金属をぶつける固い音と啜り泣く声がそれに混じる。かなり近い。グラエナがちらりとそばのパーテーションを示した。――悲鳴の聞こえた場所だった。
『……ここにいる』
『グラエナ。これって……』
恐る恐る尋ねるトトに、グラエナは顔を逸らす。
『お前の会おうとしてるやつのだよ。ペルシアン。オス。六才。ミアズ ヒサヤスを殺害した重要証拠物件だ』
そのポケモンは檻の中にいた。ペルシアンが不自由なく動けるとは言いがたい小さな囲いの中をぐるぐると落ち着きなく歩き回っている。時おり気が触れたように絶叫を上げては、手足を頭を鉄格子や天板に打ち付けている。ガビガビに毛並みの乱れた額や指先がさらに赤味を増す。来訪者であるトトやグラエナの姿を見てもまったく意に介していない様子だ。
『ずっとこの調子だ』
圧倒されるトトの気持ちを引き起こすように、グラエナが呟く。
『うちの精神鑑定官殿が再三情報を読み取ろうとしたらしいが、どのポケモンを使用しても完全にお手上げだったらしい。一貫して″おれがやった″としか言わなかったそうだ』
ポケモンが事件の重要な情報を有している場合、証拠を聞き出すため――あくまで証拠を見つけるためであり証言を得るわけではない――精神鑑定が実施される。それは動作や仕草などの行動を分析する簡易鑑定から、訓練を受けたエスパータイプを用いた感情や精神を分析する高度鑑定まで様々な測定法がある。
『……うちの専門家がお手上げだったものを、お前が本当に聞き出せるのか?』
『分からないわ。だから試してみるのよ』
トトはゆっくりと檻の方へ歩み寄った。ツンと血液の臭気が顔に触れる。ヒサヤスの部屋で嫌と言うほど味わったのと同種のものだった。
『ペルシアン』
鉄格子に触れるか触れられないかの距離からトトが呼び掛けるが、果たしてペルシアンは反応らしき反応を示さない。そもそも声が聞こえていないようだ。トトは足を踏み変え、声を張る。
『ペルシアン。私に協力して。事件のこと、あそこで何があったのか、私に教えて欲しいの』
事件と口にしたとき、ペルシアンの体がぴくりと震えて足を止めた。やつれ果てた相貌がゆっくりとトトを振り返る。
『……何があったか?』
声にならない掠れた声でペルシアンが呟いた。頷くトト。ペルシアンの焦点の定まらない瞳が一瞬しっかりとトトを捉えた。
次の瞬間、ペルシアンの体がトトに向かって倒れてきた。それが飛びかかってきたのだと理解したのは、グラエナに思いきり後方に引き戻され、トトのいた場所をペルシアンの鋭い爪が一閃したあとだった。
『何があったかだと! おまえも知ってるんだろ! おれがやったんだ、おれが! おれが!』
うなじをグラエナに噛まれたまま呆然とするトトの眼前で、鉄格子に顔を押し付けてペルシアンが絶叫する。トトに掴みかかろうと、伸ばした腕を振り回す。割れた爪先から飛沫いた血が点々と床を汚す。
『おれが食ったんだ! 殺して食った……。肉があったんだ。だから殺して食った。分からなかった、気づいたら肉がヒサヤスに変わってた。おれが食ったのはヒサヤスだった、なんで……』
そこまで言って、ペルシアンが手を口に持っていくと喉奥に思いきり押し込んだ。呻きながら胃液を吐き戻す。檻の中の状況から、おそらく何度も繰り返していることがわかった。もう吐くものは残っていないだろう。
一頻り胃をひっくり返し、その場に崩れ落ちる。一層掠れた声で何事かを呟きながら啜り泣く。トトは身を捻ってグラエナを振りほどくと、制止する声を聞かずに檻に駆け寄る。
『あなたは操られてた。何者かに』
泣き崩れるペルシアンにトトが叫びかける。僅かに頷いたのに、トトはさらに続けた。
『一体誰に操られたの!』
ペルシアンが顔をあげる。また襲われるのか。身構えようとしたトトに、しかしペルシアンは口許を歪めただけだった。
『……おれにだよ』
それは壊れた精神による歪んだ自責の感情か。嘲笑するようにペルシアンは呟いた。
それからトトは根気よく質問を繰り返したが、結局なにも得られなかった。諦めて証拠保管室を出ようか考えていたそのとき、ペルシアンの隣の檻に目がいった。同じ作りの檻の中に、人間の衣類が山になって積まれている。
『ヒサヤスにはペルシアンのほかにもう一匹手持ちがいる』
グラエナが檻を示して言う。
『アブソル。メス。五才。ペルシアンの後に飼われ、事件当時はモンスターボールの中にいたため、目撃しておらず』
概要を諳じるグラエナの声に呼応するように、衣服の山がもぞもぞと揺れる。体を起こしたアブソルが姿を表すと、泣き腫らした目で二人を見つめる。
トトが簡単な自己紹介をする。事件を解決するためにここに来た。そう言葉を強めたものの、アブソルは興味なさげに再び衣類に横たわってしまった。
『こっちはこっちでずっとこの調子なんだ。まあ無理もないだろう。なんせ、気づいたらご主人があんなになっちまったんだからな』
グラエナの不憫そうな言葉に、トトは痛ましい思いでアブソルを見下ろした。白い背中が時おり震えている。声を殺して泣いているのが一層憐れだった。
かたや殺人の片棒を担がされ、かたや知らぬところで大切な人を奪われ。果たして二人が救われることがあるのだろうか。
『この服はヒサヤスの?』
グラエナが頷く。
『ああ。落ち着かせるために、二人に差し入れたんだ』
『二人に?』
トトはペルシアンの檻を振り返る。どこにもそれらしきものは見当たらない。そのことをグラエナに尋ねると、辛そうに顔をしかめる。
『当のペルシアンが嫌がったんだよ。……きっと思いだして辛くなっちまうんだろうなぁ』
『……そう』
それだけ言って、二人は証拠保管室を後にした。
□なかがき
・次回の更新 も 遅くなるかもしれないです。
□作品紹介
・おそらく覚えてる方はきっと皆無なこの作品。かなり前、第四回仮面小説大会にエントリーしたものの、期日までに書き上げることができずに途中辞退させていただいたものです…。あれから数年、じわじわと書き続けて何となく完成しそうな塩梅となりました。
完成させてから今一度大会に出品をとも考えたのですが、さすがに途中辞退させていただいた上に年月も経ってしまった以上、今更エントリーするのは申し訳ないと思いましたため、通常の作品としてアップさせていただこうと思います。不定期的にアップするつもりですので、どうかお付き合いよろしくお願いいたします。
何かありましたならば、お気軽にお願いします。
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