作者:オレ
強姦+薬の要素が含まれます。
閲覧注意でお願いします。
徐々に山へ通りゆく西日が、東の大海を照らします。徐々に赤みがかる世界を先取りするように、赤を基調とした肌を持つ竜が飛んでいます。
「もうすぐ夕暮れね。今日はあそこの村に泊まろう。なんか面白い話とか聞けるといいな」
少し先に目を向けると、森が開けて村になっているのが見えます。ああいう村ではさまざまな伝承を見聞きできることがあるというのは、ラティアスの経験則です。各地を巡り様々な伝承を集めることは、彼女のライフワークなのです。
「あれ?」
ラティアスはふと、首筋に冷たい物が落ちたのを感じました。日差しの明るい夕暮れで、雨など降るとは思えません。しかしすぐにその考えはひっくり返されました。なおも日が照っているというのに、一気に雨が降り出したのです。
「わっ! うわっ!」
ラティアスの周りには雨除けになる物はありません。眼下には道の周りに並ぶ木々があるものの、そこに降りて雨宿りをするには若干の抵抗があります。目線の先の村までは案外距離があるため、雨宿りのために減速しては夜までに到達できない危険があるからです。ラティアスは暗いところが苦手なのです。
「ええい、仕方ない!」
ラティアスは意を決して、さらに加速します。晴れている間の少しの通り雨なら、そこまで濡れずに済むかもしれないと思ったからです。
「うわあ……ずぶ濡れ!」
無理に飛ばした甲斐あって、ラティアスは日没寸前というところで村に到着しました。彼女を迎えてくれた村の明かりは優しく温かいものでしたが、それとは反対に彼女の体はすっかり冷え切っています。
「とりあえず近くに宿でもとって……寒い!」
道を進んでいけばそのうち宿の看板が見れると思ったのですが、そもそも進もうという気持ちも萎えるほどでした。彼女にそんな仕打ちを下したというのに、夕暮れの空は素知らぬ顔。雨が降ったとは思えないような明るい空のままです。
「誰かに声を掛けないと」
ラティアスは周囲を見回し、行き交う住民たちの中から救いの手を探します。その目線の先で、数匹のポケモンたちの話している姿が見えました。
「リュムさん、いつもお世話様です」
「気にすんなっての。親父さん、大切にしてやれよ?」
荒っぽい態度ながらも、屈託のない笑顔のカイリューが他のポケモンたちにお礼を言われていました。その様子を遠目で見る住民たちも、一様に微笑みを浮かべています。
「ん? そこの見ない奴、団長に用か?」
「え? え?」
恐らくそのカイリューを救いの手と見たのでしょうか、ラティアスは注視してしまっていたようです。後ろから掛けられるまで声の主に気付かず、すっかりと慌てふためいてしまいました。
「どうした、野郎ども? 買い出しは終わったのか?」
「万端ですぜ、団長! で、結局用があるのか?」
急な展開に対応すべく、ラティアスは深呼吸しました。カイリューもそうですが、その取り巻きと思われるハクリューやオノンドも無骨な雰囲気です。ハクリューの方など顔に大きな傷があり、どう見ても善良な市民ではなさそうです。
「お前ら……せめて取り囲む位置取りはやめろよ」
「へえ……すんません」
ハクリューとオノンドは罰が悪そうに萎縮し、カイリューの後ろに引っ込んでいきます。それを見る周りの住民たちの苦笑交じりの微笑を見ても、彼らが慕われていることはよくわかります。
「俺は名前はリュムだ。この辺の警護団の団長をしている。よろしくな」
「あ、よろしくお願いします」
先程の会話を聞いていたため知ってはいたのですが、改めて名乗られたためラティアスの緊張も少し落ち着いたようです。見た目はまかり間違っても善良には見えない分、警護という仕事で負った傷だと思うと逆の意味で善良とは思えなくなりました。言うなればもっと大きなものを持っているような、善良にとどまらない覚悟とでもいうべきものを。
「失礼しました。私はスーティーと言います。多分私と同じ種族を見たことは無いと思うのですが……」
「ひょっとしてラティアスじゃねえか? ラティ一族は雄雌でラティオスとラティアスに分かれるって聞いていたが」
これにはラティアスも驚いたらしく、思わず目を丸めた後に何度もうなずいてしまいました。今まで旅をしていた中でも自分たちラティ一族のことを知っているポケモンには会ってきましたが、今回は初めての状況です。何しろ今まではラティアスの姿を見せていなかったのですから。
「普段は姿を変えていて本来の姿はお目にかかれないって聞いていたが……ずぶ濡れで消耗して姿を変える余力がねえか?」
「凄いです! そこまで知っているんですか!」
あまり数が多くないラティの種族のことは、知らない者の方が多いくらいです。それを知っていると言われてスーティーはすっかり嬉しくなり、自らの体の冷えも忘れて声を上げていました。そんな姿を見て、取り巻きのハクリューとオノンドは口笛を鳴らしました。リュムは顔を染め上げ彼らを尾で薙ぎ払いますが、周りの住民たちも既に尻馬に乗っかっていました。
「まったく……。とりあえずうちに来い。いつまでも『狐の嫁入り』で濡れたままの体でいたい趣味はねえだろ?」
「あ、はい。ありがとうございます!」
にわか雨で濡れて冷え切っていた彼女の体は、迎えてくれた村の温かさが癒してくれました。スーティーが喜んで見上げるリュムの顔は、つられるようにほころんでいました。
「つっ……団長、結局家に連れ帰って……」
「詰所だ!」
ハクリューの傷はさらに増える結果になりましたが。彼の顔の傷が任務中の負傷であるかの疑問は沸き始めましたが、スーティーにそれを構おうという発想はありませんでした。
「……『狐の嫁入り』?」
思わぬ形で飛び込んできた聞き慣れない単語の方に、疑問の中心が移っていたからです。目の前で痙攣しているポケモンがいてもそれを忘れさせるほど、伝承巡りの旅は彼女にとって大切な物なのです。
「ところでリュムさん、さっき言っていた『狐の嫁入り』ってなんなんですか?」
ところ変わって、ここはリュムが言っていた詰所です。特別大きな村というわけでもありませんが、なかなかしっかりした建物を構えています。この村をしっかり守っていきたいというポケモンたちの気概が、否が応でも伝わってきます。
「ん? ああ、この辺では夕方のにわか雨をそう言うんだ」
何よりも頼もしいのは、老若男女問わずいろんなポケモンたちが詰所にいることです。彼らの中には「後方支援」等の別の役割のポケモンや、スーティーのように保護されたポケモンもいると聞かされました。この村を愛し守っていきたい気持ちもそうですし、力強い雄ばかりの詰所だと雌のスーティーには入りづらかったことでしょう。
「よくわかりませんけど、狐って……」
そんな和気あいあいとした雰囲気にすっかり打ち解けたのもあり、スーティーは上機嫌で話を切り出しました。内容はもちろん先程の言葉です。リュムの口から唐突にこぼれた「狐の嫁入り」という一言に、スーティーは直感的に何かの伝承があるのではないかと感じ取っていました。
「ああ。この村から少し外れたところに住んでいる、キュウコンの一族のことだ」
リュムが言い始める前から、スーティーは既に疑問を持ち始めていました。一般に「狐」と呼ばれるポケモンには、キュウコンやゾロアークやフォッコがいます。スーティーとてかなりの知識があるとは自負していましたが、これらのポケモンとの雨と直通する能力は聞いたことはありません。
「キュウコン? え? 彼女たちはむしろ晴れさせる力を持つくらいではないのですか?」
それどころかスーティーが言った通り、キュウコンやフォッコは「強い日差し」の元で力を発揮する「炎」タイプです。これだとむしろ雨を降らせるなどもってのほかでしょう。スーティーも驚きを隠せません。
「まあ、驚くわな。あいつらは確かに晴れさせることを身上にしてんだけどよ、嫁入りのときは逆に雨になっちまうんだよ。これが」
「なんでですか? 嫁入りのときにわざわざ雨を降らせる目的があるんですか?」
嫁入りならば周りの者たちに祝われることが考えられますが、しかしそうであればむしろ晴れさせるはずでしょう。種族によるからこそ炎タイプの嫁入りに雨などということは、どこまでも嫌がらせに等しいのです。嫉妬を昇華させて盛り上げる風習もあるのはスーティーも知っていましたが、それには謂われもきちんとあるのも知っています。そんな謂われある風習の気配をスーティーが逃すはずもなく。
「いや、逆。嫁入りして相手のことに力を使い始めると、元々雨の多かったこの辺は雨が降りやすくなるんだ」
「そうなんですか。なんだか一匹の力でっていうのも、すごい話ですよね?」
結局スーティーの興味は空振りで終わってしまいましたが、これはこれで興味を惹かれる話でした。リュムの言う「相手のこと」というのは、子供には説明しづらい「そういうこと」であるなどとは知らないままだというのにです。とはいえスーティーを見た目だけ子供と分類していいかは、リュムにもいささか疑問が残っているようですが。
「おいおい、一匹でこの一帯全部なんて無理な話だ。でも頭数が減って均衡が破れるから、当然可能性は強くなる」
「あ、それで『降りやすく』ってことなんですね!」
スーティーも言われた時に特に意識したわけではありませんでしたが、よく気を付けると含みある言い回しだったのを思い出しました。その前の一匹で地域全体などという誤解には「子供っぽい見ての通りか」と呆れ顔だったリュムも、意外に細かく聞いているものだという驚きは隠せませんでした。
「そういうことだ。どっちにしても雨に当たりたくねえなら、この辺にいる間は夕暮れ時は外出は控えろよ?」
「はい、わかりました」
スーティーはリュムからの歓迎に宙返りをして喜びを示します。その姿にやはり子供らしさを感じたらしく、リュムは微笑を見せます。
リュムの瞳がそんな微笑とはまったく逆の暗い色に染まっているなど、誰も気付いていませんでした。
今回はここまで。これの完結の前に、もう一つ別の時候ネタ作品を予定しているんですよね。XY発売とかいろいろあるので、まずは時候ネタに遅刻しないようにしなければ。
なお、今回は試しに改行を増やしています。小手先かもしれませんが見やすくなるならいいんですがね。
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