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煌く星の奥底に

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煌く星の奥底に 

writer――――カゲフミ

「なあアステル、これ見てくれよ」
「んー」
 休みの日、といっても特にすることがなく家でごろごろ。この暑い中ではちょっと外を歩こうかという気も起こらず、エアコンの効いた部屋で腐ったように横になっているのは僕と僕のトレーナーのエトワ。部屋に一つしかないベッドの上に二人も乗ると狭いし暑苦しいしあらぬ誤解を招きそうなので、僕は床に敷いた布団の上に寝転がっていた。どうせまたろくでもないことなんじゃないかなと予想しつつも、暇だった僕はそのままエトワから手渡された雑誌を手に取った。
「……ふーん」
 何となく想像はしていた。雑誌のページには雌のミミロップが物欲しげな表情で指を舐めてこちらに視線を送っている写真が。ベタな構図とは言えなかなか悪くない。この雑誌がこうした趣向のためにあつらえられたものだと僕は知っている。まあ、人間で言うグラビア雑誌とかいうやつに近いものだろう。それにしちゃ割と、というかかなりきわどい写真も少なくなかったりするのだが。
「これ、エトワのタイプ? 僕はできれば水タイプの雌のほうが……」
「いやお前の好みとか聞いてねえし。ほら、ここのところよ」
 エトワが指さしたのはミミロップの股の部分。直接的に表現するのがまずい箇所は見えないように修正が施されている。見えないのは残念ではあるが、ポケモンでこういう雑誌となるとかなりぎりぎりで、一歩間違えば規制対象になりかねないラインで出回ってるってエトワが話してなかったっけか。ならば修正が入るのは苦肉の策とも考えられる。これに文句を言うのはお門違いでは。
「もしかして雌かどうか疑ってる?」
「それは雑誌の仕入れ先に確認したから大丈夫だ」
 ポケモンは人間と違って雄と雌の体の違いが分かりづらい。局部に修正を入れてしまえばどちらか見分けが付かなくなる可能性も有り得る。性別は気にしないという雑食ならともかく、僕もエトワも異性にしか興味がなかった。だからこそ、その点は真っ先に確認していたのだろう。変なところで抜かりがない。
「なんでこれ星マークになったんだろうなあ」
「星?」
「昔はハートマークだったんだよ。ほれ」
 エトワから渡されたのは三年ほど前の少し古い雑誌。そんなに前からあったのか。お、おお……これは、シャワーズじゃないか。艶っぽく笑いながら大胆に仰向けに寝転がっている。本来なら丸見えであろう大事な部分はやはりしっかりとピンクのハートでガードされている。うーん残念だ、残念だけど可愛いなこの仔。もしかしたらちょっとだけ見えたりしてないだろうか、と僕はついつい目を凝らして見入ってしまっていた。
「結構好みなんじゃね? 勃ったんじゃねえか」
「うるさい。勃っててもエトワには言わないし」
 フローゼルの僕は基本的には二足歩行。その気になれば四足で動き回ることもできるけど、日常生活ではそんな場面はほとんどない。なのでうっかり反応しようものならば手で隠しでもしない限り丸見え。それこそ修正マークが必要な事態になりかねない。ま、今更隠す間柄でもないし、エトワも雄にはこれっぽっちも興味ないしで、その辺りは対して気にはしていない。デリカシーがないとも言える。実際のところ、不意打ちのシャワーズはなかなかに刺激的でちょっとだけ反応はしてしまっていた。仕方ない。
「なんで星マークになったんだろーなあ」
「別にどっちだっていいじゃん、見えないのは一緒だし」
 ハートが星になったところで隠れてる事実に変わりはない。もし三年前の雑誌が無修正だったりしたら、僕はエトワを大いに評価していたのだけれども。
「こういうのって気にしだしたら気にならないか?」
「ならない」
「釣れねえなーアステル。なら俺だけで星の秘密を解き明かしてやるよ」
 言ってることは高尚に聞こえるが、やってることはエロ雑誌の修正マークが変わった理由を気にしてるだけだからな。物事も言い方次第で随分と印象が違ってくる。エトワは早速パソコンを立ち上げて、経緯を調べ始めるらしい。熱心なことで。そんな彼を尻目に、僕はさりげなくさっきのシャワーズが載っていた雑誌を手に取って部屋をあとにしたのだ。

 次の日の夕方。エトワの部屋に呼び出された僕。これでもかというくらいのしたり顔で思わず顔面に水鉄砲をぶつけたくなるくらいだった。
「謎が解けたぜ」
「……何の?」
「星だよ星」
 どうせそんなことだろうとは思っていたけど、もしかして昨日から一日中調べてたのか。だとしたら呆れを通り越して逆に感心してしまう。
「そんな顔するなって、結構面白い話が聞けたぜ」
 僕のなにか言いたげな視線を感じ取ったのか、苦笑いしながら答えるエトワ。ここで聞かずに部屋を出て行ったりしたら、いくらなんでも彼がみじめに感じられてくるので僕は仕方なく相手をしてやることにした。まあ昨日から引き続き暇を持て余してるのはかわりないし。
「アステル、ハートマークから連想するのってどんなことだ?」
「え、いきなり言われても」
 唐突だな。それが星に変わったことと何か関係があるのだろうか。ハート、ハートマークならラブカスかな。一応性別は雌の方が多いみたいだけど水タイプとはいえ残念ながら僕の守備範囲外……と、たぶんエトワが求めているのはこういうことじゃないだろう。
「そうだなあ、恋愛とか好きの気持ちとか……ちょっと踏み込めば卑猥な印象も受けるかもしれない」
「だよな。ハートマークが持つ一般的なイメージって割と一辺倒なんだよ。まあ、ああいう雑誌の修正マークには打って付けだったから以前はそれで通してたんだと」
「それが星マークになったのはどうして?」
 よくぞ聞いてくれました、と言わんばかりににやりとするエトワ。僕はそのドヤ顔に何だかイラッとする。
「ふふふ、じゃあアステル。星マークからはどんなことを想像する?」
 ハートの次は星か。星、星なあ……。ハートに比べると結構漠然としていて考えが纏まらない。身近な星というと空に輝いている星かなあ。星に近い姿のスターミーもいるにはいるけどこれは修正マークとは全く関係がないように思える。
「何だかはっきりしない。強いて言うなら、輝いてる感じはする」
「それも間違いじゃない。でも、星にしたのは俺たちがこの雑誌を見るときに追い求めてるロマンがそこにあるから、だそうだ」
「……なにそれ」
「股を開いてるポケモンの星マークをじっくり凝視したり、その奥を想像してにやにやしたり。単純なハートマークでは表現しきれない想いがこの星マークには込められてるんだよ。俺たちの追い求めてるロマンが、この星にぎっちり詰まってるんだよっ」
 やたら早口で熱弁するエトワ。こんなくだらないことに必死になって気持ち悪い、とは言うまい。根本的な部分では僕もエトワと同じ。雑誌のポケモンを見てどきどきして、星マークの奥がどうなっているか妄想を掻き立てている。それを考えるとハートから星へ変えた理由も何となく理解できるような気がしてきた。単なる情欲やエロスをイメージさせるハートマークとは違う、もっと壮大な何かが星マークには凝縮されているように感じられる。
「パソコンで調べてたけど情報が錯綜してて埒があかなかったから、結局雑誌の編集会社に問い合わせて聞いたからな。向こうの人も思いのほか熱く語ってくれたよ。謎が解けてすっきりしたぜ」
「ロマン……かあ」
 僕はおもむろに机の上に置いてあった雑誌を手に取って広げてみる。例によって艶かしいポーズの雌のポケモンたちばかり。やはり局部には厳重に星マークが施されている。やはり見えない、見えそうでも見えない。ギリギリのラインだった。エトワから話を効いた後だと、星へ対する気持ちも変わってくる。
「んっ……」
 思わず手が止まってしまったのはダイケンキのページ。雌のダイケンキなんて珍しい。ベッドの上で横向きに寝転がったダイケンキが気だるそうな表情で流し目をしている。熟成された大人の魅力というやつなのか、相当色っぽい。そこまで体を鍛えていないのか少しお腹がたるんでしわになっている箇所もあった。これくらい肉付きがいいのも僕としてはじゅうぶんありだ。もちろん投げ出された後ろ足の間には星マークはあったけど、柔らかそうなお腹とかむっちりとした太ももとか、楽しめそうな部分は多い。シャワーズも良かったけどダイケンキもなかなかのもの。
「いいよなーダイケンキ。こう、尻尾の付け根のあたりとかそそられるだろ」
「かなり」
「今日発売の新刊だからな。使うなら使っていいぜー。シャワーズの時より楽しめるかもな」
「余計なお世話だ、と言いたいところだけど、……じゃ、遠慮なく」
 昨日はあの後、トイレでちゃっかりシャワーズにお世話になったのだがやはりエトワにはばれていたか。水タイプの雌で、こういう雑誌に選ばれるような仔が出てくるとたいへん股間に優しくないのだ。僕は雑誌のダイケンキを舐めるように眺めながら、エトワの部屋を後にした。

 おしまい


・あとがき

 昔どこかで見た女性の写真で、はだけた胸が見えないように星マークで修正されていたのをふと思い出したのが執筆のきっかけです。テーマに絡めて、とてもくだらないことを一生懸命やる男共のお話を書きました。官能表現こそありませんが、割と下品な仕上がりになりました(

以下、コメント返し

>追い求めている星のロマンに強く共感できましたw (2016/09/24(土) 21:47)の方

見えないものはロマンです。隠すことで更に夢が広がります。

>とても面白かったです。会話が健全な思春期男子の会話でほっこりしました。見えないからこそ滾りますよね…ごちそうさまでした! (2016/09/24(土) 22:36)の方

冷静な突っ込み役ポジションであるアステルも普通にやることはやってます。年頃だから仕方ないね。こういう緩い話もたまには。

>ミルタンクの乳首にも★で修正を……

は置いといて、追い求めたくなるのが生き物の性ですよね。 (2016/09/24(土) 23:40)の方

ミルタンクは公式絵で既にアウト感が。無修正で許されているからなおけしからんですね。
おそらくミルタンクが雑誌に載っていても乳首に修正はされていないでしょう……。

投票してくださった方々、最後まで読んでくださった方々、ありがとうございました。

【原稿用紙(20×20行)】10.7(枚)
【総文字数】3635(字)
【行数】59(行)
【台詞:地の文】27:72(%)|1009:2626(字)
【漢字:かな:カナ:他】30:60:9:0(%)|1124:2215:329:-33(字)


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Last-modified: 2016-09-25 (日) 19:20:39
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