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無題 第3話~第4話

/無題 第3話~第4話

レキ
3.高名な探検隊と出会って
その後、チーム名の話に花を咲かせすぎたため354号室を探すのを忘れたことに気付いた2匹は、慌てて通ってきた道を戻り、部屋を見つけて荷物を置いた。
部屋はこざっぱりとしており、簡素なベッドや物置、テーブル等が配置されている。
2匹はテーブルにあった、<~仮~探検隊証明バッヂ>と記入されたバッヂ2個と、多くのアイテムを入れられる長方形の赤い『トレジャーバッグ』を持ち まったりとギルドの見物をすませ、町へ買出しに行く。
この付近は基本的に穏やかな気候、緩やかな地形。様々なポケモン達が生息する。
それゆえ類は友を呼ぶといった風に、派手なものが好きな種族、落ち着いた雰囲気を好む種族、湿った所を好む種族、という風にそれぞれ好みの合う者が一箇所に集まる。
この町はよく日が差し込み、日光を遮らない程度に緑もある為、温和な性格の者や、日光を好む者が多く生息している。
「ふぇ……さっきはギルド登録のことで頭がいっぱいだったけど、こうして見ると明るい町だね」
「うん、ほんと。…あ、あそこ何だろう?」
シグルドが指差した先には、多くのポケモンが集まっていた。内容は聞き取れないが、その中心から威勢の良い声と、それと正反対の淡々とした低い声が聞こえてくる。
気になった2匹は、ポケモンとポケモンの間を何とかすり抜け、最前列へ進んだ。
「さあいらっしゃい!新製品『むらさきグミ』が入荷したよ!おっと兄ぃちゃん、そいつは105ポケだ!」
「……『ヘドロばくだん』、7500ポケ。まいどあり」
そこでは頭に鉢巻を巻いた『忍びポケモン』テッカニンと、紫色の球を抱えた『抜け殻ポケモン』ヌケニンが忙しそうに働いていた。
「ヘイ、そこのお二人さん!お二人さんは探検隊の資格は持っているかい?」
「……ここは探検隊のための店。一般人には扱いにくいものや、旅の助けになるアイテムを売っている……と、上客だ」
ヌケニンがそう言うと、店を囲んでいたポケモン達が道を空けた。それにつられるように2匹も道を空ける。
「あ、皆さんありがとうございます。…今回は遠くの地だから少し多めがいいかな」
冷静に購入アイテムを吟味し、肩から提げた青いトレジャーバッグを開くニャース、
「珍しいアイテムがあるといいなっ!もう今から楽しみだよ!」
未知のアイテムへの期待に目を輝かせ、辺りを跳ね回るゴンベ、
「今回の依頼は今の俺達にはラクショーだろうし、とっとと終わらせようぜ!」
大きく伸びをしながら、ピリピリと頬袋の電気の量を調整するピカチュウ。
その3匹の首に巻かれた、青いバンダナに施された金の刺繍を見たグラエナが目を見開く。

「『セイバーズ』だ……!」

彼がそう言うと、他の皆もいっせいに騒ぎ始める。
「まさか、あの最高ランクの…!」
「すげえ…この目で拝める日がくるなんて…!」
そしてシグルド達も例外ではなかった。
「あれが…『セイバーズ』……!?」
「噂には聞いていたけど、まさか…!」

『セイバーズは、サーナイトギルドトップクラスのチームだという。
 ギルドリーダーのフレイヤからの信頼も厚い、ギルドの中心的存在のチームである。
 ニャース、ゴンベ、ピカチュウの3匹で行動しており、全員まだ若いにもかかわらず、数々の依頼を難なくこなしてきた…』

(あの噂は、本当だったんだ…!)
「あ、あの人たち行っちゃうよ!追いかけよう!最高ランクの人たちの話を聞けるかもしれないなんて、滅多にないチャンスだよ!」
買い物を終えた『セイバーズ』の3匹は町の外へ行こうとしている。スルーズは制止の言葉を掛ける隙を与えず走り出した。
「ま、待ってよスルーズー!」
シグルドもその後を全速力で追いかける。
セイバーズはすでに町の入り口に着いており、今まさに移動用のオオスバメに飛び乗るところだった。
「待ってください!」
すんでのところでスルーズが声を掛け、一足遅れてシグルドも追いつく。
ニャースはそれに気付き、残りの二匹にも伝えると、首を傾げた。
「……どうしたんだい?」
「俺達は急ぎの用があるんだ。すまねぇが早くしてくれ」
「……あ、あの…えと…」
スルーズはつい飛び出したものの、まず最初に何を言えば良いかわからなくなった様子でどもる。
その様子に半ば呆れつつも、シグルドは助け舟を出した。
「僕達、ついさっきギルドの登録を済まして、買い物にきたんです。そしたら、あなた達が来たので彼女…スルーズがつい飛び出してきたんです」
「ああ、さっきフレイヤ大隊長が言っていた『紅の風』だね。今回は期待できる、って喜んでいたよ。期待できる新人と話せて、嬉しいよ」
急いでる様子だったのに引き止めてしまった2匹を咎める事もなく、ニャースは明るく笑う。
「僕らもあの『セイバーズ』の皆さんと話せて光栄です、えっと…」
「僕はニャースのリン。一応セイバーズのリーダーだよ。よろしく」
リンは手を差し出して、2匹と握手した。そしてピカチュウとゴンベにも自己紹介をするよう促す。
「俺はピカチュウのヴェイグだ。よろしく!」
「私はゴンベのシグルーン。よろしくね」
ヴェイグとシグルーンはその場で軽く礼をした。
「僕はヒノアラシのシグルド。こっちはイーブイのスルーズです」
「よろしくお願いします!…ところで、そんなに急ぐ必要のある用って何ですか?」
「ああ、さっき大隊長から依頼を受けたんだよ。未開の砂漠調査に行ってくれ、って。
 何分最近見つかったものでね。そこに住むポケモンの種類もわからないし、先に上空から視察をした者によると、ここら一帯とはずいぶん違った生息の仕方らしいんだ。
 だから僕達が行くよう頼まれたんだ」
「砂漠は相当遠いらしいからな。なるべく早く出発したかった、てわけだ」
「まあ私達の足ではたどり着くのはまず無理だから、燕の血を引き継いでるオオスバメに乗っていくの。
 だから多少はマシになるわね」
「そうだったんですか…すいません、引き止めてしまって」
「いやいや、君達と話せて良かったよ」
「リン、そろそろ行かねぇと時間が無くなるぜ!」
「先に乗っとくから!」
ヴェイグとシグルーンが叫び、走り出す。
「……ちょうど良い頃合だね。じゃあ、行って来るよ!」
リンは微笑み、そう言い終えると同じように走り出した。
「さよなら!」
「さようなら!頑張ってください!」
3匹はオオスバメに乗ると、高く高く舞い上がって、見えなくなってしまった。
それでも、2匹は手を振り続けていたのだった。


4.初めての依頼、前日
セイバーズを見送った2匹は、買い物をすっかり忘れていたことに気付き、慌てて店に戻った。
店の周りにはまだまだたくさんのポケモンがいて、『生でセイバーズを見たのは初めてだ』『間に合わなかったなー』等と雑談をしている。
「おう、さっきの兄ぃちゃん!」
「……」
テッカニンは愛想よく手を振ったが、ヌケニンはちらりと2匹を認識すると、商品であろう青い球を磨き始めた。
「で、兄ぃちゃん達、探検隊なのかい?探検隊なら『証明バッヂ』を持ってるはずなんだがなぁ」
「……モンスターボールに白い翼を生やしたようなバッヂだ。…持ってないなら帰りな」
それを聞いたシグルドは、あ、と声を漏らしバッグを漁る。
「もしかしてこれのことですか?」
その手にのった『~仮~探検隊証明バッヂ』を見て、テッカニンは頷いた。
「ああ、新米なのか。なら軽く説明でも聴くか?」
「……べつに嫌ならいいぞ。聴きたくなったら、でも良い」
「僕はいいけど……スルーズは?」
「私もべつにいいかな」
「うい。じゃ、自由に買い物していきな」
その後、シグルドとスルーズはああでもないこうでもないと品物を選び、買い物を終える頃には、日はとっぷりと沈んでいたのだった。


2匹はギルドに着くと、真っ先に自室に向かって、荷物を降ろした。
今後のことも考えて多めに購入した為、かなりの重量だ。買い物を終えた当初は『女の子に持たせるわけにはいかない』と、手伝うかというスルーズの申し出を断っていた。だが、しばらく歩くと疲労の色が濃くなってきた。仕方なくスルーズにも持ってもらい、負担は軽くなったものの、長いこと持っていると疲れるものである。
「ぅぅ…つ、疲れた……」
全身を襲う疲労感に若干心地よさを感じ、へたりこむ。面白いくらいひざが笑っていて、ためしにと背中の火を出したものの、ずいぶん弱弱しい。こんなことじゃこれから先が持たないぞ、と呆れながら火を消した。
「ごめんね、重かったでしょ。明日の準備は私がするから、シグルドは先に休んでて」
「…ごめん、ありがとう、スルーズ」
「いいよいいよー」
彼女の厚意に甘え、寝床に向かう。ふかふかのクッションが凄く心地良い。
体は思うように動かないが、意識だけははっきりしていた。
(まあ、当然か…)
これから毎日続くギルドでの生活、予測不能な依頼への期待、憧れの探検隊との出会い。
なにもかにもが初めてで、不安以上に期待や好奇心が跳ね回る。ワクワクが止まらない、といったところか。
ぼんやりとスルーズを見やると、道具を部屋に片付けたりバッグにしまったり、種類ごとに分けて保存したり。今は緊急時のきのみの種類わけをしているのだろう、体力や疲労を回復するきのみと、麻痺や火傷等の状態異常を治すきのみの山をつくっていた。
そういえば、夕食がまだだった。どこのギルドでも食事の提供はしているが、24時間食堂が開いているのはここだけだ。これは深夜に仕事を終えてギルドに帰るものもいるから、というフレイヤの計らいだ。だが、わざわざ遅くに食事をすることもあるまい。
室内の壁掛け時計の針は7時半を示している。スルーズが一息つくのを見計らって、声を掛けた。
「スルーズ、後は僕がやるよ。まず食事に行こう。僕、もうお腹ペコペコだよ」
「そだね。私もお腹すいたし。いこっか」
くぅ、と狙ったように腹が鳴る……こともなく、二匹は散らばった荷物を片付け、食堂へ向かった。



長い廊下を抜け、シグルドと共に螺旋階段を降りていく。その間にも多くのポケモンとすれ違った。ギルド内には様々な探検隊がいて、2匹の知っている探検隊は殆どいなかった上、中には2匹の知らないポケモン達もいた。
特に驚いたのは、新しいイーブイ種の進化系だ。
耳の先や尻尾など体の一部分が葉となったポケモンと、額に氷のような結晶があり、体毛は寒色で統一されたポケモン。後にフレイヤに聞いたところ、前者は新緑ポケモン、草タイプのリーフィア。後者は新雪ポケモン、氷タイプのグレイシアと言うらしい。
スルーズ達イーブイ種は、厳しい環境に対応するために様々なポケモンに進化できる。炎タイプのブースターや、電気タイプのサンダース、水タイプのシャワーズ。エスパータイプのエーフィに悪タイプのブラッキー。そして先ほどのリーフィアとグレイシア。
これほど多くのポケモンに進化できるのはイーブイ種以外にいないだろう。故、進化条件も特殊である。
炎、電気、水の3匹は『進化の石』と呼ばれる石を使わねばならない。エーフィとブラッキーは『信頼できる仲間』と出会えた時に、朝や昼に経験を積めばエーフィに進化、夜間であればブラッキーに進化と、少々特殊な進化条件が設けられている。さらにリーフィアとグレイシアは『リーフィア(グレイシア)に深く関係する場所』で経験を積まないと進化できないという、一風変わった進化条件だ。
これほどの種類がある上、進化条件も特別とだけあって、スルーズは一体どのポケモンになればいいのか、はたまたこの姿のまま過ごすのか、心の底から悩んでいた。
そのタイプだからできる事がある。けれど、できない事もある。タイプによって覚える技も、得意技も変わってくる。一生後悔するかもしれないし、逆に後悔など無く生きられるかもしれない。
こういう時には、トレーナーが居てほしくなる。そうすれば、悩むことも無いから。
でも、望まないタイプに進化させられたり、またこの不思議な体を解明すべく実験所に連れて行かれて悲惨な最後を遂げた……かもしれない。
わからなかった。
いつまでもおなじところをぐるぐる回り、出口が見当たらない。
(……答え、というものは出ない。『回答』は無いんだから)
なら、今悩んでも仕方がない。
そう自分に言い聞かせる。ピシャリと軽く頬を叩き、気持ちを切り替える。ちょっと頬が痛むが、気にしなかった。
「あ、ここか。スルーズ、ついたよ!」
「あ、うん!」
10メートルほど先に進んでいたシグルドが、扉の前で声を掛けてくれた。慌てて駆け寄ると、扉には『食堂』と綺麗に書かれたプレートが下がっていた。多分フレイヤの字だろう。
扉を開け、中に入る。いくつものテーブルが並んでいて、皆まばらに座って酒をあおったり優雅に食事したり寝たりと、実に好き勝手にやっていた。
とりあえず出入り口に一番近いテーブルに向かい合って座る。シグルドは出入り口側を、スルーズはその逆に。
ぼんやりしていると、大きなトレイを持ったオオタチがやってきた。そのトレイを2枚とも置いて一礼すると、「食べ終わった食器類は厨房に置いてください!」と元気良く言い残し、忙しそうに厨房へと去ってしまった。
「さすがにこの時間は忙しいみたいだね。もうちょっと遅く来ればよかったかな?」
「それはそれで私がもたないかも……」
そんな事を言いつつ、トレイを見る。
なるほど、客が来るとウェイター、もしくはウェイトレスが料理の乗せられた皿をトレイごと置きに来るシステムらしい。皿にはふかふかのパンやオレンの実、野菜と肉がバランス良く入った具沢山シチュー等々、見るだけで涎が垂れそうな料理が並んでいた。質素に見えるが栄養自体は十分摂れる、健康に良いメニューとなっている。
「ん、おいしい!意外だな」
「うん、僕も予想外だったな。たくさんのポケモンの分を作るから、一々味を気にしていられないと思ったんだけど……」
その後会話を続けるのももどかしくなり、黙々と食べ進めていく。
……気がつくと、いつの間にか皿のものは綺麗に無くなってしまっていた。
「あはは!夢中になりすぎて、一瞬で食べ終わったみたい」
「美味しかったね。さあ、明日の為にも早く寝よっか」
そう交わして、食器を片付けた。椅子を整えて、周りを見渡す。
自分達のテーブル付近を通らない限り、誰も食堂に入れない。実際、最初に見渡したときとほとんど一緒だった。
──そう、ほとんど。
(……)

「スルーズ?」

「あ、ごめん。あんまり美味しかったから名残惜しかっただけー。ごめんね」
「ははは、いいよいいよ。部屋に帰ろ」
「うん!」
ドアを押さえるシグルドに「ありがと」と言って、食堂から出る。
2匹で部屋に着くと、寝床で丸くなった。シグルドは先に寝息を立て始めたようだ。
頭の中はさっきの事でいっぱいだった。


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Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
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