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無題 プロローグ~第2話

/無題 プロローグ~第2話

レキ
プロローグ
『サーナイト』と呼ばれるポケモンの頭部を象った建物の前に、2匹のポケモンが居た。
1匹は紺とクリーム色の身体と、背中に赤い斑点。火鼠ポケモン、ヒノアラシ。
もう1匹は、茶色のフワフワとした身体のポケモン。進化ポケモン、イーブイだ。
2匹の目の前には、やや大きめの穴の上に格子状に組まれた木材。まるで落とし穴の出来そこないの様だ。
ヒノアラシは唾を飲み込み、その穴の上にそろそろと足をのばす。余りにも遅い動作だったからか、イーブイが呆れ顔でその背中を押した。結果ヒノアラシはつんのめり、恨めしげにイーブイを睨む。けれど、すぐに前を向き、目を閉じた。
「ポケモン発見!ポケモン発見!足型は……
 ……足型は……?……あ!あ、足型はヒノアラシ!」
穴の下から間髪入れず響いた幼い感じの声は、一時的に自信を無くし、しかしすぐに大きな声へと戻った。
一方2匹はこうなる事が判っていたのか、大して反応していない。ーー若干、声の大きさに驚いたのか毛が逆立っているけれども。
でも2匹はお互いに手を叩き、喜びを露わにしていた。

2匹の冒険は、ここから始まる。


1.サーナイトのギルド
2匹が手を叩きあって喜んでいると、再び穴から声が響いた。
「もう1匹居るよね?その人も乗って!」
ヒノアラシはイーブイを促す。イーブイは穴の上に飛び乗った。木材はしなる事無く衝撃に耐える。
「足型は…イーブイ!」
イーブイは穴から離れ、ヒノアラシと並んだ。
10数秒後、穴の近くの土が盛り上がり、白い生物が顔を出した。土を掘るのに徳化した腕を持つそれは、下積みポケモン「ツチニン」だ。
「こちらはサーナイトギルドです!どの様なご用件ですか?」
先ほどと同じ声が元気よく飛び出す。ヒノアラシは一歩前に出、胸を張って答えた。
「探検隊になりたくて来ました!」
ツチニンは頷き、「少々お待ち下さい」とだけ告げ、また地面に潜ってしまった。ほどなくすると、サーナイト型の建物の口部分が開き、階段が現れる。
「どうぞー!」
再び穴からツチニンの声が聞こえる。2匹は頷き、口元に笑みを称えながら若干広めの階段を下っていった。
螺旋階段を下ると、広い部屋に着いた。ポケモン達で溢れ、騒がしい。
「うわっ、凄い数!皆探検隊なのかな?」
「んー、多分。…あ!あの人混みは…!」
イーブイは他所よりポケモン達が集中している場へ走り出した。ヒノアラシはその栗色の背中を追いかけながら、行動の速さにそっとため息をついたのだった。

数々のポケモン達の間を縫って栗色を追いかけた先には、幅2m程の赤い枠の掲示板が2つあった。メモでびっしりと埋め尽くされ、片方の掲示板の縁には黄金色の細工が施され、高級感を漂わせていた。10mほど離れた場所では同じ様な青枠の掲示板が2つある。
「見て見て!これ<依頼掲示板>じゃない?」
イーブイは掲示板を凝視し、嬉しそうに言った。ヒノアラシはつられて板を見る。
「こういう物を見るのは好き?新しい探検隊候補さん」
背後から優しい声が聞こえ、2匹は振り向いた。白と黄緑を基調とした体色の、抱擁ポケモン サーナイト。その肩には漆黒の鳥の姿をした、暗闇ポケモン ヤミカラスが不服そうな表情でとまっていた。


2.探検隊というお仕事
サーナイトは2匹に近寄り微笑んだ。自然と2匹も顔が緩む。
「貴女が…このギルドの…」
「はい。私はこのギルド全体を仕切っている…いわばリーダーの『フレイヤ』です。こちらは…」
フレイヤの肩からヤミカラスが飛び降り、翼を広げ礼をした。
「ワタクシはギルドの副リーダー、ヤミカラスの『アウズ』。ま、せいぜい頑張るコトダナ」
「貴方達は探検隊になりたいのでしょう?私の部屋に行きましょう。手続きをしますから」
歩き始めたサーナイトの後を、2匹は追いかける。

「フレイヤさん、なんで私達が探検隊希望者だとわかったんだろー?」
イーブイが唐突にヒノアラシへ疑問を投げかけた。
「え?う~ん……エスパータイプだから?」
「ハァ……んな訳無いダロウ!」
ヒノアラシの答えに、間髪入れずアウズが口を挟む。溜息のオマケつきで。
「オヤカタ様は…ほかのサーナイト種より劣るとはいえ…予知能力をお持ちでイラッシャル。少し先の…未来のことナド予知できて当然ダ」
「そうなんだ…」
「さあ、お喋りはそのくらいにして。着きましたよ」
巨大なドアの前に立ってそう告げたフレイヤによって、一旦この話は打ち切られた。

「そこの席に座って」
ドアを抜けた先はイワークが3匹寝そべっても余るほど広く、ハガネールが尾の先で立ち上がれる程の高さだ。
2匹はその広さに圧倒されつつ、大人しく指された椅子に座る。椅子の前にはこれまた大きなテーブルと朱色の椅子が。
フレイヤは部屋の隅に溜まった紙の山と戦っていたが、やがて3枚の紙を持って、先ほどの朱色のテーブルに座った。そしてそれを2匹に見えるように広げた。
「さあ、登録するわよ。探検隊になると様々なサービスが受けられるわ。
 ショップでの販売価格が安くなったり、専用倉庫が使えたり…」
「す、すごいですねー。あのあの、それって便利すぎないですか?もし、入ってきたポケモンが…その……役立たずだったら?」
「ぶ……!」
(あ、吹きかけた)
ヒノアラシはイーブイの幼馴染なので、たまに少々黒い発言をするのを知っていたが、フレイヤはイーブイから飛び出た『役立たず』という不釣合いな言葉に思わず噴出しかけた。慌てて咳払いをして誤魔化している。
(いきなり飛び出すから侮れないんだよな……。意外に黒いんだもんな…)
「けほけほっ……うん、それは大丈夫よ。正式に探検隊になってもらうには、実際に依頼を受けてもらわなきゃいけないし、その後もノルマを達成しないと探検隊の資格を剥奪されるわ。
 探検隊としてのランクが上がれば、仕事は難しくなる代わりにノルマが減り、報酬の質が上がります。サービスも良くなるわ。
 ランクが低いと、仕事自体は楽だけどノルマが多いし、たまに雑用とかもする事になるわね」
「そうなんですか…」
「マアそれを切り抜けてこそ探検隊ダ。有名な探検隊になればそれだけ収入も増える。ファンがいれば差し入れとかもあったはずダ」
「良いことも悪いこともあるんですねー。あ、えと、話の腰を折ってすいません」
ぺこりとイーブイが頭を下げ、それを見たフレイヤは首を振った。
「いいのいいの。じゃ、登録作業に戻るわよ。えっと、まず名前ね……って…あなた達、ニックネームはあるの?さっきから聞いてると種族名で呼び合ってるみたいだけど…」
「僕達、田舎の小さな村から来たんです。同じ種族はいなかったから、自然と種族名で呼び合うようになりました」
「なるほどね…。ここは様々なポケモン達が集まるから、どうしてもニックネームが必要になるの」
「そうですかー。どうしよっか、ヒノアラシ…」
「即興で名前決めようにも、浮かばないなあ…」
2匹は頭を悩ませるが、フレイヤはにこりと笑った。
「ああ、なんなら私が決めましょうか?」
「「本当ですか!?」」
「ええ。たまにあなた達のような子が来るのよ。えっと……」
フレイヤは視線を宙に彷徨わせ、ヒノアラシとイーブイは
「…ヒノアラシ君は『シグルド』、イーブイちゃんは『スルーズ』なんてどうかしら?」
「シグルド…」
「スルーズ…」
「も、もちろんキャンセル可能よ」
シグルド、スルーズ、と何度も新しい名前を繰り返す2匹を見て、フレイヤはまずったか、と慌てて付け加える。
「…フレイヤさん、ありがとうございます!」
「こんなに良い名前をつけてもらって、あの……!」
しまいにおいおい嬉し泣きを始めた2匹に、フレイヤは苦笑いするのだった。

「えっと、確認するわね。
 チーム名は『紅の風』、リーダーはシグルド。
 今のところメンバーは2匹。シグルド15歳、スルーズ14歳。この先は個人情報があるから言わないでおきます。
 部屋番号は354。…でいいわね?」
「はい」
「ん。じゃ、これあなた達の部屋の鍵よ。無くさないでね」
銀色に鈍く輝く鍵を預かり、シグルドは頷いた。
「それじゃ、今日はギルド内を見るなり買い物するなりして明日に備えなさい」
「はい!」
「フレイヤさんさよならー」
席を立ち部屋から出た小さな探検隊を、フレイヤは満足げに見送った。

まず荷物を降ろそう、とスルーズが提案したので、2匹は部屋に向かうことにした。
「ええっと…354号室だよね、ヒノ…シグルド。…ごめん」
「いいよいいよ。なんか不思議な感覚だよね。暫くは間違えてもお互い様だよ」
「うん、ごめん…」
「だからいいって。あ、そういえばさ」
スルーズはそのままだとほぼ確実に謝罪を繰り返すので、シグルドは話をかえる。このあたりは幼馴染ならでは、だ。
「なんでチーム名が『紅の風』なの?」
先ほどの登録時にチーム名を決めたのだが、フレイヤが『チーム名は?』と言い終わる前に、まってましたとばかりにスルーズが『紅の風です!』と答えたからだ。
チーム名は事前にスルーズに任せていたので、シグルドはチーム名の由来を知らない。別に不満は無いが、好奇心が首をもたげるのも当然と言える。
「あ、うん。あのね、シグルドは隙は大きいけど威力の高い、炎タイプの技が得意でしょ?で、『紅』なの。で、私は威力は少ないけど手数の多い、素早い動きが得意じゃない?風みたいな。
 自意識過剰というか、大げさだけど良いかなー、って思って」
「へー…なるほど」
「……嫌だった?」
(わわわっ!)
コメントの内容が薄いのを、スルーズは『気に入らなかった』と取った様子で落ち込む。目にはうっすらと涙が溜まっており、今にも溢れ出しそうだ。
「う、ううんっ!そうじゃなくて、あの、凝ってるようで凝っていないというか、あ、ちが!」
「……くすっ」
「…………は?」
スルーズは慌てて口を押さえるが、徐々に堪えきれなくなった様子で笑い出す。
「はは…あははははっ!」
「……あの…スルーズ…さん……?」
「ううん、せっかく私が考えたチーム名を『へー…なるほど』で終わらせるのはあんまりじゃないかな、って思ったからつい。…ははっ」
いつの間にやら、あれほど溜まっていた『傷ついた時の』涙は消えうせ、代わりに『可笑しくてたまらない時の』涙がこんもりと溜まっていた。
(村にいたときはあんなに大人しい子だったのに…)

女の子って、恐ろしい。

シグルドはひとつ賢くなったのだった。


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Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
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