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無音のコトダマ

/無音のコトダマ

※この作品には官能表現が含まれます。

作者:ウルラ

無音のコトダマ 


 ‐1‐

 夜空に輝く無数の星々。名も無き星から名の通った星まで、自分の存在を強調するかのように光を放つ。その中に一際大きな光があった。丸い形がはっきりと見えるくらいに近くにそれはあり、辺りの星々を遥かに凌駕した存在感を暗い夜に見せていた。その光は明かりの点いていない家々に届き、眩しくもなく弱くもないほんの些細な明かりを配っていた。
 そんな光は一匹のポケモンの瞼の上に届く。先ほどまでは雲がかかっていてとどかなかったその光に気づいてか、ゆっくりと瞼を開けた。月のような薄い金色の瞳を眠たそうにきょろきょろと動かすと、やがてのっそりとした動きで立ち上がる。頭の葉がゆらりと風になびく。
(また起きちゃった……)

 ここ最近、よく夜中に目が覚める。原因はよく分からない。別に寝過ぎってわけじゃないし、夜行性でもない。ただわけもなく寝れないだけ。仕方ないから外にでも出てしばらく風にでも当たってこよう。冷たい風は少し眠気を誘ってくれる……。
 そう思うより先に私はふらつく足をゆっくりと動かして、広いバルコニーへと続く窓に向かっていた。今は窓を開けているから、網戸を軽く鼻で押さえて横にずらせば簡単に開く。
(涼しい……)
 外に出た途端、心地の良い風が右から左へと全身をなでるようにして通り過ぎる。それと同時に全身にある葉がゆらりとそよぐのを感じた。
 その風にしばらく身を任せて目を閉じていると、ふと後ろから網戸を開ける音がした。目を開けて振り向くと、そこにはオレンジ色の体毛に包まれたブースターが。ブースターは何も言わずに私の方に近づいてきて、隣に座り込んだ。
「起こしちゃった……?」
 私がそう訪ねると彼はゆっくりと首を横に振る。でもやっぱり私が起こしたような罪悪感が残る。
「眠かったら先に戻っていいからね?」
 その言葉に彼は笑顔で頷いた。その後は町の数少ない明かりや夜空をチラチラと眺めて、たまに私の方を少しだけ見る。その繰り返しをするだけ。言葉は一切交わさない。……違う、交わしたくても言葉を発することが、彼には出来ないから。
 声帯不整症という、先天性の病気らしい。主が言うには、声を出す部分が発達しないまま生まれたため、動かないために声が出にくいとのこと。難しいことはよく分からないけれど、簡単に言えば声が出ない。
 それだけじゃなく、炎タイプの技を出せないという致命的な症状も、彼には出てしまっていた。炎タイプの大半は体の中にエネルギーをため込む袋があって、それを使って炎タイプの技を出す。その切り替えに声帯膜を使わなければいけないらしいのだけれど、声帯が動かせない彼にはそれが無理だった。
 戦うにしてはあまりにも酷な状態の彼を、私の主はポケモンセンターで引き取った。その時なんで引き取ったのか私にはよく意図が分からなかったけど、戦闘にまったく彼を出していないのを考えると、私以外にパートナーが欲しかったのかもしれない。現状、主の持ちポケモンは私と彼だけ。
 でも特に辛いと思うことはない。別に主はポケモントレーナーではなく各地の絵を描く絵師だから、世界を回る際の用心棒として私たちを連れているだけ。たまに私たちを風景に重ねて描いたりもしてくれる。口数は少ないけど、良い主だと私は思う。

 昔のことを思い出して感傷に耽っていると、首がガクンと下がる。気がついたら瞼も重かった。いつの間にか眠気がおそってきていたのだ。
「……私、もう中に戻るね。ブースターは?」
 部屋の方へと少し足を進めて彼に問いかける。彼はこちらの方に気づいたように振り向くと、首を横に振った。
「風邪、引かない程度にね」
 私はそう言ってから網戸を開けて、中に入ってまた閉めた。そしてすぐに主の隣の毛布にくるまり、瞼を閉じた。



 ――また目が覚めてしまった……。なんでだろ。さっきはちゃんと眠気があったのに。
 やれやれと思いつつ、足に力を入れて立ち上がる。またバルコニーでも行こうかと窓に近寄った。
(あれ……)
 バルコニーにはブースターの後ろ姿が見える。まだ寝ていなかったんだ。どうしてだろ。そう思いながらも網戸を開けてバルコニーに行こうとしたが、彼の荒い息に気づく。体が少し震えていて、息音がこちらに聞こえるほど荒い呼吸……。
「どうしたの?」
 そう私が問いかけながら網戸を開けてバルコニーへと出る。彼はひどく驚いたような顔をしていた。しかも彼の体毛は少しだけ湿ったようになっていて、顔には汗が吹き出していた。
「すごい汗。ホントにどうしたの」
 その問いに彼は戸惑ったように目をいろんな方向にキョロキョロさせる。そのことに疑問を持ったけれど、とりあえず体調悪そうだから部屋に戻って寝てもらわないと。
「とにかく、もう部屋に戻って寝た方がいいよ」
 その言葉に彼は頷くと急ぐようにして部屋に戻って行く。しばらく窓の方を見て色々考えたけど、何も分からない。冷たい風が私の頬を撫でた。そして首を傾げて私はポツリと呟いた。
「変なブースター……」



 -2- 

 ――ポッポ達の鳴き声が耳に届く。ゆっくりと瞼を開ける。また、目が覚めちゃった……。そう思って窓の外を見ると、もう既に朝日が顔を覗かせていた。
(もう、朝なんだ……)
 夜にはあんなにぱっちりと目が覚めたっていうのに、朝には起きても眠気が誘ってくる。重い瞼を前足で軽く擦ってから、足に力を入れて立ち上がった。……顔でも洗いに行こう。
「……あれ?」
 主が寝ていたベッドの方に視線を向けるが、そこに主はいなかった。その瞬間、息が詰まる。背筋が凍ったように冷え、心臓がバクバクと激しく動く。嫌な予感が私の頭を過ぎった。
(いや……! もう……置いて行かれるのは!)
 私はすぐに部屋全体を確認する。寝室にはいない。なら次の部屋に……!
「ん? どうした?」
 洗面所の陰からひょいっと顔を覗かせた主をみて、私は床にへたりと力なく座り込んでしまった。……良かった。置いてかれてなくて。
 そう思った瞬間に、何だか今までの自分の行動を思い出して、自傷気味に軽く笑った。なに考えてるんだろ、私。あんなに優しい主が、私を置いていくはずなんてないのに……。
 そんな私の様子を見かねてか、主は近づいてくる。そして私を軽く抱き上げた。ただそれだけ。心配したりする言葉はあまり口にしない。それが、私の主の接し方。
 それでも私には主の優しさが十分に伝わっていた。赤子を寝かしつけるかのように、抱き上げたまま私の頭を撫でる。そんな、たった一つの行動だけでも……。
 私が落ち着いたのに気づいたのか、主は私をそっと床に降ろした。本当に驚くくらいに主は私たちポケモンの感情を理解してくれている。鳴き声で感情を伝えることが出来ないブースターの彼の感情も、きちんと理解している。聞こえない言葉を聞き取っているかのように。

 そういえば彼はどうしたんだろう。さっき部屋全体を見回した時には誰もいなかった。
「ブースターなら今さっき外に行ったよ」
 彼を探していろんな方向に視線を向ける私に、主はそう言った。彼はなんで外に……。
「朝の散歩みたい。すぐに戻ってくると思う」
 首を傾げていた私にまた主は言った。その言葉を聞いて妙に安心する。なんでだろう。たまに彼が朝の散歩に出かけることは、私も既に分かっていたはずなのに。……さっきの動揺のせいでまともに考えられなかったのかも。
 そう頭の中で自問自答をして、考えるのを止める。考え込むとせっかく覚めた頭がまた睡魔に襲われそうだった。後ろ足をやや後ろに伸ばし、大きく背を反らす。それである程度全身がほぐれて、体の気だるさがなくなる。それにこれをしないと起きたって気がしないのもあった。
 主はそんな私を余所に、リュックから色々と食材を取り出す。パンに色々な木の実を手に取り、キッチンへと持って行く。私はその様子をベッドの上で座りながら見ていた。


 ――しばらくするとキッチンの方からいい匂いが漂ってくる。たぶんこの匂い、きっとポフィンだ。名前は忘れたけど、私が好きな木の実の匂いがする。あと、ブースターが好きな木の実の匂いもしてきた。彼の好きな木の実も私の好みではあるけど、やっぱり甘ずっぱい味の方がいい。
 その匂いに気づいたのか、開いている扉からブースターがひょっこりと顔を出す。彼は主がポフィンを作っているのを見て、すぐに部屋に入ってきた。
「おかえり」
 私がそう彼に言うと、彼は笑顔で頷く。そしてすぐにキッチンの方にスタスタと歩いて行った。きっとポフィンが出来上がるのを待って早々に食べるため。
「ずるいよ、ブースター」
 私もすぐに立ち上がり、ベッドから降りて共にキッチンへと向かう。出来上がってすぐのポフィンは美味い。それを私たちは分かっていた。
 足下に私たちがいるのに気づいたのか、主は軽く笑って「もうちょっと待ってね」と促す。言われたとおりに邪魔にならない程度の位置に座り込み、出来上がるのを待った。時々ブースターと顔を見合わせて笑う。その様子を見て主も笑っていた。

「はい、出来たよ」
 あまり時間が経たないうちに主はそう言いながら、丸皿にポフィンを乗っけて私たちに渡す。
「まだ熱いから気をつけてね」
 食べ始めようとしていた私たちに向かって主はそう言った。でもちょっと遅かった。その時にはもうポフィンは口の中。一気に舌の上が熱くなっていく。その熱を避けようとして、必死に口の中を転がしながら噛んでいく。そしてやっと飲み込んだ。
「熱かった……」
 そう言う私を余所に、隣でブースターがポフィンを平らげていく。彼は炎タイプだから、熱いものも平気な顔をして食べる。正直そういうところは羨ましい。
 主がテーブルについてトーストにバターを塗ってから食べ始める頃。その時にはもうポフィンは私が食べられるくらいのちょうどいい温度になっていた。ブースターはもう既に平らげていて、時折私のポフィンをつまんでこようとしていたが、蔓で軽く彼の手を叩いて弾いていた。

 そんな朝の一時が終わり、食器を片づけた主は鞄を持って外へ行く支度をする。多分森の風景をスケッチしに行くのだと思う。その為に、この山小屋を借りたのだから。
「行くよ」
 主はドアを開けて外で待っている。私たちはすぐに主の元へと駆けて行った。




 -3-

 草が生い茂り、木の根が行く手を阻む中、主は慎重に奥へと進んでいく。私たちもそれにただついて行くだけ。でも、一体どこに向かって進んでいるのだろう。
 ふと慎重に進んでいた主の足が止まる。気になって主の顔を見るために視線をあげる。主は何かを見つけたかのように目を輝かせていた。
「なんなんだろね」
 私が隣にいるブースターに向かって言う。彼は首を傾げる。
「行こう。良いもの見せてあげる」
 主は子供がはしゃいでいるような笑顔でそう私たちに手招きをしながらまた足を進めていった。私たちは首を傾げながらも奥へと、主の後をついて行った。

「綺麗……」
 主について行った先にあったのは、水面を光らせる湖。まだ微かに残る朝霧に、日の光が当たっているだけの風景。でも、それは私の目に鮮明に焼き付いていた。都会ではこんな風景を見ることが出来なかったから、余計にそれが幻想的……。
 隣をふと見ると、ブースターもその風景に見とれていた。彼も多分見るのは初めてなんだろうな、きっと。でも、こんなに綺麗なら何度でも見とれることが出来そう。
 主はそんな私たちを余所に、鞄からスケッチブックを取り出して鉛筆を手に取る。近くの木の幹を背もたれに寄りかかると、黙々とその景色を描きはじめた。一度描き始めてしまうとそのまま集中してしまうから、邪魔にならないようになるべく主の後ろ側に座り込む。彼も私のすぐ隣に座り込んであくびをしていた。……あくびで思い出した。彼は昨日の夜、汗をかいて苦しそうに息をしていたっけ。
「ねぇ、ブースター。体の調子は?」
 その言葉を聞いて彼は耳をぴくりとさせて、何だか驚いたような表情でこちらを向く。しばらくの沈黙の後、彼は大丈夫というように首を縦に振った。
「ホントに大丈夫……?」
 私がそう問いかけると、彼は思いきり首を縦に振る。肯定と一応受け取ろうとは思うけど、やっぱり最近の彼はおかしい。頻繁にどっかに行くし、私に何か隠してるような態度をとるし……。
 本人は隠しきれてると思ってるみたいだけど、彼は言葉を話さない代わりにジェスチャーで意思の疎通をしてきたから、隠し事をしても私にはよく分かる。あからさまに挙動がおかしい。
「そう、なら構わないけど……何かあったら言ってね」
 私は彼に向かってそう言う。いくら気になったからといって、執拗に聞くほどのことでもない。彼から話して(正確には伝えて)くれるのを待つしかない。
 彼はその言葉を聞いて頷いた。そして私から目をそらすかのように主のスケッチに視線を向けてしまう。
 ……何だかこうしてると彼が弟みたいに思えてくる。実際、私より彼の方が二つくらい下の歳なんだからそう思えてくるのも、ある意味必然なのかもしれないけど。
「そこら辺、自由に散歩してていいよ」
 主はふと筆を止め、私たちにそう言ってまた絵を書き始めた。他の人から見れば無責任な主に見えるかもしれない。でも、いつも都会にいた私にとってはこの辺りを歩けるのは嬉しいことだった。なんたって天然の森の中を歩けるから。
 私はすぐに森の奥へと歩き始める。その後にブースターがついてきた。そのことに特に気にせずに歩く私の隣に彼が並ぶようにして歩く。彼は私に何かを伝えるでもなく、私もまた彼に話しかけることなく黙々と歩いていた。
 だいたいこういう雰囲気なのはいつものこと。彼は喋ることが出来ないから終始無言だし、私も彼に無理矢理ジェスチャーをさせたくはないから話し掛けない。だけど、喋ることが苦手で嫌いな私にとってはこれが丁度良かった。

「あっ……」
 ふと空を見上げようとした私の視線の先に、緑色の木の実が写った。すこしイガイガしたような凹凸があって不気味だけど、割って食べると甘酸っぱくておいしい。そんな私の視線に気付いたのか、彼もその木の実を見上げる。まだ少しお腹空いてるし、食べようか……。
 そう思うより先に、頭を少し回して『はっぱカッター』を木の実の枝に向かって放つ。プツンという音の後にフシュッという歯の隙間から息を出すような音がした。え……フシュッ……?
 スッと音もなく目の前の草むらから現れたのは、黒く光る長い体に金色の六角形の模様。二本の赤い牙にチロチロと出し入れされる先端の分かれた細く長い舌。そして真っ赤な瞳がこちらを睨んでいた。
「ひぃっ……!」
 声にもならない叫び声を上げて逃げようとしたけど、足がすくんでしまって全く動かない。これがハブネークの蛇睨みだと分かったところで、動けない体を必死に動かそうとしても全く動かなかった。
 ハブネークはゆっくりと刃のついた尻尾をこちらに見せつけるかのように持ち上げる。恐い……殺される……。そんな恐怖が押し寄せて来ても逃げられない。ハブネークがその刃を振りかざして、思わず目を強く閉じる。
 何かが体の横に強く当たるような感覚がする。そして私の体は宙に放り出された。
(もう……死ぬの……?)
 地面に強く体を打ち付け、少しの痛みを感じたけど他に痛みはない。普通だったら斬られたところが痛むはず。誰かが体を引っ張る感覚に、目をゆっくり開けた。
「ブー……スター……?」
 目の前にいたのは私を必死に引っ張ろうとしている彼だった。その背後にはハブネークが迫って来ている。足に力を入れてすぐに立ち上がり、彼の方に一旦向く。彼も一瞬だけ顔を合わせてきてそしてすぐに走り出した。主の居るあの湖畔へと……。
 


 
 -4-

 草をかきわける音と、荒い息づかいが森の中に消えていく。必死に足を動かしてハブネークから逃げようとしても、相手はそれを許しまいと追って来ていた。
「しつこいなぁ! もう!」
 私はそう叫びながら再び後ろをちらりと見る。そこにはやはり追ってくるハブネークの姿。足が無いのに速さは私たちと大差ない。
 よくあんなに速く体をクネらせられるなぁと関心している暇もなく、すぐに視線を前に戻して湖を目指す。主ならきっとなんとかしてくれる。
「……あ!」
 そろそろ足が限界に近づいてきた頃、目の前に湖が見えてくる。その丁度反対側に主が……いた!
 私は隣の彼と一度顔を見合わせ、足を動かすペースを上げた。後ろでハブネークが威嚇をするかのように一声を上げていたが、そんなことお構いなしに走って行く。
「主〜っ!」
 主の方に向かってそう精一杯叫ぶ。言葉の意味はヒトには伝わらないけど、それでも主は私たちが危ないと気付いてくれる……。
 そう思うと同時に主はキャンパスに向かう筆を止めてこちらを見る。その異変に気付いたのか、筆を投げ出してこちらに走ってきた。
「主っ!」
 主がすぐ近くになると、飛びかかるように懐に向かう。それを軽く受け止めてしゃがみ込むと、主は言った。
「今はそんな状況じゃないだろう。リーフィア、ブースター戦えるか?」
 すぐ近くまで来たハブネークを横目で見た後、私は主の問いに頷いた。そしてすぐに振り向いて、戦闘の態勢をとる。ブースターも同じように隣に並ぶ。それを確認した主は軽くうなずき、膝をついて立ち上がった。

「リーフィア! 草結び! ブースターは頭を狙って電光石火!」
 私たちは主の指示を受ける。ブースターはハブネークの方に向かっていく。私は奴の尻尾と胴体、そして口を塞ぐように草結びを仕掛けた。そこにブースターの電光石火が奴の頭に直撃し、ひるむ。
「リーフィア! そのまま……ってあれ」
 主が指示を出そうとするも、拍子抜けしたような声を出して指示を止めた。それもそのはず、ハブネークはブースターの電光石火を食らったあと、気絶してしまったからだった。こんなにもあっさりと気絶するのなら、あの場で倒しておけばよかった……。
「ハブネークが目を覚まさないうちに小屋に戻るよ」
 主はそう言うと踵を返して鞄やキャンバスの置いてある方へと歩いていった。私たちもそれについていく。
 ブースターは自分の電光石火で気絶したのが余程疑問なのか、しばらくハブネークを眺めて首を傾げていたけど、すぐにこちらへと駆け寄って来た。



 ――小屋に戻った私たちは、特に何もすることなくぼーっとしていた。主は森の中で描いたものは鞄にしまい込んで、今はバルコニーで小屋の辺りの風景をスケッチしていた。
 ブースターも私の隣で暇そうにしていて、たまに後ろ足で首の辺りを掻く。私といえばベッドの上で座っているからかだんだんと眠気が襲ってきている。開けた窓から涼しい風が吹き込むこともあり、余計に眠くなっていく。もう寝ちゃおうか……。
 そう思ったからなのかだんだんと瞼が重くなっていって、視界が閉ざされて……。 



「んっ……」
 不意に口に何かが当たるような感触がして、目を開ける。私の上に覆い被さるようにしてブースターが居て、私の口と彼の口が……え?
 気付いた途端に彼は私の口の中に舌を潜り込ませてきた。時折口を開けてしまうために、嫌らしい音が辺りに響く。頭の中がぼぅっとしてきて、いつの間にか私も彼に合わせて舌を互いに絡ませていた。
「ふぁ……んっく……」
 彼の首に腕を回して抱き寄せる。彼の首回りのふさふさの毛が私の胸に当たった。……何やってるんだろ、私。
 自分がやっている事に呆れを覚えつつも、気持ちよさに身を委ねてしまう。彼の温かい体温を感じて、その感情は更に強くなっていった。
 突然彼が口を離し、顔をずいっと下げていく。そして私の後ろ足に顔をはさむようにして止まったブースターは、私の毛の中に少しだけ見えるものに舌を這わせた。
「あっ……んっ……」
 体が勝手に反応して背を仰け反らせてしまう。しかしそんなことなどお構いなしに、彼はそこを攻め続けていた。初めて味わうなんともいえない刺激に、私は喘ぎ声をあげるだけだった。
「んあっ……ぃ……ああっ!」
 いきなり強い刺激が全身に走り、体を大きく仰け反らしてしまう。彼がとどめと言わんばかりに、私の乳首を何回も噛んできた。息を荒くしながら快感の余韻に浸る暇もなく、また次の刺激が走る。
「……! そこは……ひゃんっ……!」
 それは紛れもなく、私の雌蕊(めしべ)に彼の舌が入り込んだ時の刺激だった。止めようとしたものの、それは遅すぎた。いや、止めてもきっと今の彼はやめなかったかもしれない。息を荒げ、目をとろりとさせている彼には……。
「んぅ……はぁっ……!」
 ピチャピチャと水音が辺りに響きわたり、それが彼を更に興奮させて舌の速さを上げていく。私はその度に小さく喘いだ。だけど、彼は途中でその行為を止めて再び私の方に顔を持ってくる。それで何となく分かった。
 彼は私の雌蕊に雄蕊をあてがう。クチュっという音がして、ゆっくりと私の中に彼のモノが入って来る……。



 ふと目を開ける。目の前には梁がむき出しの天井。ほんのり赤く染まっている壁を見て、すぐに体を起こした。
「あれ……?」
 窓の外を見ると、日が落ちようとしていたところだった。私は立ち上がると辺りを見回す。主は絵を書き終わったのか、キッチンの方で用具を洗っていて、ブースターは床の方で丸まって寝ている……。
 いつも変わらぬ風景に、私はふぅっとため息をついた。夢だったんだ、あれ。でも、なんか中途半端。あれじゃ生殺しな気が……って、何を考えてるんだろ私は……。
 首を横に振ってさきほどの夢を振り払うと、私はベッドを降りて主の元へと向かっていった。
 
 



 -5-


 私はゆっくりと主の足下へと歩いていく。それに気付いたのか、主は筆を洗う手を止めてこちらの方に向いた。
「ずいぶん長く寝てたね。もう昼過ぎてるよ」
 その言葉を聞いてすぐに目を時計の方に向ける。短い針が1と2の間にあり、長い針が6に向けられていた。もう、こんな時間……。
「昼ご飯、一応残してあるけど……いる?」
 時計を見てキョトンとしている私に向かって、主は優しくそう言った。でも、何だかお腹が減っていない。悪いかなとは思ったけど、私は首を横に振った。
「疲れたの……?」
 主が心配そうに語りかけてくる。私は軽く首を傾げた。よく分からないという意味が、これで伝わる。主は「そっか……」と呟くように言って私の頭をそっと撫でてくれた。
 気持ちよさに思わず目を細める。それを見て主は微笑むと立ち上がって再び筆を洗い始めた。これ以上邪魔しちゃいけない。そう思った私は踵を返してバルコニーの方へと足を運ぶ。少し日の光に当たれば、眠気が覚めるかもしれない。私はゆっくりとバルコニーの方に足を進めていった。


「あれ?」
 バルコニーに出ると、そこには先ほどまで床で寝ていたブースターがいた。森から聞こえる鳥の鳴き声を聞いているのか、それとも何ともなしにボーッとしてるのか。とりあえず声かけてみよう……。
「ブースター? 何してるの」
 彼は私の声を聞いて耳をピクリと動かすと、こちらに振り向く。昨夜みたいに驚いたような表情はしていないけど、何だか少しおどおどしたような感じがする。まるで逃げるかのように彼は私から目をそらすと、森の方へと向いてしまった。
(変なブースター……)
 そう思いながらも、私は彼の傍へと歩いていく。隣に座り込むと、彼がこちらを少しだけ見てまた目をそらした。変なまぐわいの夢をみた私が彼から目をそらすならともかく、何で彼が私から目をそらす必要があるんだろ。
 
 そんな状態がずっと続いていたけど、結局私は眠気に襲われて部屋の中に戻って来ていた。ふかふかのベッドに身を任せるように飛び込み、目をつむる。風の音がだんだんと遠ざかっていく……。 


「君は弱いね……さよなら、リーフィア」
 その声で私は目を覚まし、辺りを見回す。あたりは清潔感のある白い壁や床に統一され、窓から入る太陽光を反射して部屋中を白ませていた。
 それよりも、先ほど聞こえた声。不安が頭の中を過ぎり、心臓の鼓動が速くなっていく。息が上がり、私は慌ててその部屋から飛び出した。

 ポケモンセンターと呼ばれる建物から出ると、人混みの中を探し続ける。ただただその姿を探し続けた。足がふらふらになってきていても。日差しに照りつけられて意識を朦朧としながらも……。
(どこに行ったの……? 私のマスターは……)
 目の焦点が合わなくなってきても私は誰もいない河川敷をよたよたと歩いていた。力ない足取りはついに止まってしまう。そして私は横に倒れ、だれかが近づいてくるのも気づかずにそのまま意識を手放した……。


「……ア! ……フィア!」
 誰かの声が聞こえる。呼ばれてる……?
「リーフィア……!」
 確かに私を呼ぶ声。まぶたを一旦強くつむると、私は目を開けた。そこには心配そうに私を見る主、隣にはブースターの姿があった。それを確認した途端、私は深く安堵した。
(夢だったんだ……)
 いや、正確には夢じゃない。あれは私の過去の記憶。前の主に捨てられた時の、思い出すだけで胸を締め付けられるような……そんな記憶。その記憶に今の主を重ねて夢に見てしまった。でも、夢で良かった……。
 そう安堵のため息をついたと同時に、目頭が火照り始めてくる。その様子をみて主は心配そうに、うつむいている私の顔をのぞきこんだ。主の顔を見ると、どんどんと目頭が熱くなっていく。
 主はちゃんと私の傍にいる。
 そう思うだけで夢のことを忘れていく。でも、溢れ出してくる涙は止まらなかった。
「リーフィア……」
 主はそっと私を抱き上げると、背をそっと撫でてくれた。ひくついていた呼吸は少しずつなおり初め、ぼやけた視界が元に戻ってくると、主は言った。

「夕食、食べよっか」
 私はふいに時計の方に首を向ける。短針は5、長針は10を指していた。
 苦笑しながら私は主の言葉に頷いていた。



 -6-

「はい、出来たよ。熱いから気を付けてね」
 数分後、主はキッチンから焼きたてのポフィンを皿に乗せて持ってきた。湯気がたつ程に熱いのに、私はまたそのポフィンを口に入れてしまう。
 その熱が冷めるまでのしばらくの間、私は口の中のポフィンと舌で格闘していて、始終ブースターに笑われていたのは言うまでもなかった。主もその様子を見ながら微笑んでいたけど。
 しばらくこの皿の上のポフィンが冷めるまで、ブースターの食事姿をぼんやりと眺めるしかない。人が手で触っても火傷しそうなくらいに熱いポフィンに優々とかぶりつく彼の様子は、炎ポケモンさながらだと思う。

 ――さて、そろそろ冷めたかな。そう思ってポフィンに軽く舌をつけてみる。……うん、丁度いい。
 そのままポフィンをくわえこみ、軽く引きちぎって口の中へといれる。噛めば噛むほど甘酸っぱい味が口の中に広がっていく……。
 そんな幸せな感情に浸っている間も、辺りへの警戒は怠らない。自分の分を食べ終えても物足りないであろう、ブースターがきっと私の分を今も狙って……ってあれ?
 ブースターは一応こちらの方をみていたものの、一向に手を出そうとはしてこない。それに何だか物欲しそうな表情じゃない。いつもだったらポフィンにねらいを定めながらニターって薄ら笑っているのに。
「食べる……?」
 あげる気は毛頭なかったけれど、おかしな様子のブースターに向かって念のために聞いてみる。でもやっぱり首を横に振ってバルコニーの方へと歩いて行ってしまった。

 ここ最近ブースターの様子が何かおかしい。昨夜のことと何か関係でもあるのかも。いやでもその後は何事もなかったかのようにケロッとしてたし……。
 頭の中で必死に考えてみるものの、結局のところ彼に聞いてみないと分からない。だからといって単刀直入に聞いても彼は答えられない。首を縦に振るか、横に振るかしか彼には答える手段がないから。
 今まで質問は二択で答えられるものしかしたことがないし、それであっても彼は内気な性格故に答えないこともあった。今の彼に聞いても答えてくれるかどうか……。
(ちょっぴり強引でもいっか……)
 私がそう結論を出すころには、ポフィンを食べ終わっていた。無意識に食べてしまったために味わえなかったのが残念だったけど、朝食にも出るからその時に思う存分食べる事にしよう。
 私は一鳴きして、主にご馳走さまと伝えると、主もまたお粗末様でしたといったように頷き返して食器を片づけ始めた。さて、バルコニーに行ってみよう。さすがに夜には散歩へ行かないから、いるはずだと思う。

 網戸を鼻で押し開けて外を見てみると、暗闇の中にポツンとブースターの姿があった。そのまま足音を発てないようにこっそりと歩いて行って、声を掛けてみる。
「ブースター? ちょっといい?」
 私が声をかけると、彼は耳を少しだけ動かしてこちらの方に顔を向けた。黒い中にも藍色を帯びた瞳が私に向けられる。そのまま彼の横に座り込むと、そっと口を開いた。
「最近のブースター、なんか変だよ?」
 そう前に視線を向けたままで私が言うと、隣の彼がびくっと一瞬だけ体を震わせたように動いたのが、視界の端に見えた。私は続ける。
「体調が悪いの……?」
 私がそう訪ねると、彼は首を横に振る。違うんだ……。じゃあ昨夜の息の荒れた彼は何だったんだろ。思うと同時に私はそれを口にしていた。
「じゃあ……昨日の夜、何であんなに汗だくになってたの?」
 彼はそれを聞いて、固まったようにぎこちない動作でこちらに向いた。何だかものすごく彼の体が震えてるような気がするけど……。
「どしたの?」
 そう訪ねてみるものの、彼は何でもないと言うように必死で首を横に振った。でもそこまで必死になるってことはやっぱり何かあるんだろうか。
 私がその事に余計に興味が沸いたことを察したのか、彼の頬を汗がつたっていた。
「必死なような気がするんだけど……もしかして重要なこと?」
 試しにそう問いかけてみると、案の定首を横に振る。先ほどよりは必死な振り方ではないけれど、顔が未だにひきつってる。
 それにしても、何で彼は私に伝えてくれないのだろうか。喋れないから伝えにくいっていうのもあるかもしれないけど、聞いてるのにここまで頑なに否定するのは何でだろう。
「私はそこまでに頼りにならない……?」
 不意に口から出てしまった言葉。ブースターはハッとしたように俯き気味だった顔を上げた。そして首を横に振った。……彼が言葉を喋れないことを、今以上にいらついたことはないと思う。
「じゃあなんで? 何で必死に嘘つくの? 私が分からないと思ってるの? 今のブースターおかしいよ!」
 叩きつけるような声に彼はビクリと一瞬だけ体を振るわすと、しばらく黙って俯いてしまった。私も同じように黙って俯いてしまう。
 多分、さっきまでは普通に聞いていって解決しようって考えてたのに、思いっきり怒鳴ってしまった。これじゃあ気の弱いブースターはますます答えてくれなくなるような、そんな気がして気が重くなる。
「……?」
 ふとブースターがこちらを向いてくる。彼の顔は何故か真剣そうな面持ちだった。やがてその顔が近づいて来て……。
「……!?」
 わ、私の唇に……彼の暖かい唇が……って、えええっ!?
 困惑しながらも何故かそのキスを受け止めている自分自身に更に困惑していく。しばらくして彼は口を離し、眉をひそめた。
 なんというか、彼自身も困惑してる。彼の揺らぐ瞳がそう告げていた。私はなぜ彼がいきなりキスをしてきたか。それを考えていた。いや、考える必要はないような気がする。キスが意味するものなんて、ただ一つしかなかったから……。
 結論を出した私は、彼に顔をそっと近づけて口づけを交わした。やがて口を離して私は彼に言った。
「私も好きだよ……ブースターのこと」
 その言葉を聞いて彼は驚きの表情から、安堵の表情へと変わっていく。
 ――私も最初はこの言葉が口からすらすらと出たのに驚いた。でも、いつも彼のことを気にかけてはいたし、彼と交わる夢も見た……。多分知らないうちに彼を好きになってたんだと思う。ブースターに告白されてから気づくなんて、本当に私は鈍感だなぁ。
 そんな苦笑を頭の中で片づけて、彼の顔を見る。微笑んでいる彼を見て、私も微かに笑みを返した、けど……。
「ちょっ……と」
 突然私を押し倒したブースターに抗議の声を漏らす。彼は「なにか問題でも……?」というふうに首を傾げていた。私は蔓で彼をどかすと、部屋の方に向いた。
「お楽しみは……主が寝てから。ね?」
 私が薄らと笑みを浮かべながらそう言うと、彼は大きく頷いた。

 ……私ってこんな性格だったっけ?
 昔は自分で言うのも何だけど無気力で非積極的だったような気がする。
 でも、これだけ環境が変わったから、私の性格が変わるのも当たり前……かな。

 そう結論付けると、私とブースターは再び部屋の中へと戻って行った。



 -7-

 あまりよく見えない暗闇の部屋の中、私は隣から聞こえる主の寝息に耳を立てる。ヨルノズクの鳴き声に重なって聞こえずらかったけど、確かに主は寝ている。
 狸寝入りをきめこんでいた瞼を開け、きょろきょろと辺りを見回す。窓からは月の光が差し込んでいるため、部屋の中はぼんやりとは見える。
 でも、私は暗闇ではほとんど目が利かない。しばらく目を開けてならさないと、目の前に何があるかなんて分からない。
 瞬きを何回か繰り返すと、やっと布団の輪郭や窓のカーテンがはっきりしてくる。ふと隣に視線を向けると、ブースターが座り込みながらこちらを見ている。軽く前足を振ってみると、彼は頷いた。どうやらもう見えてるみたい。

 主を起こさないようにゆっくりと立ち上がり、窓の方へと歩いていく。後ろからブースターがついてくるのを確認すると、窓からバルコニーへと出て行った。
 バルコニーへと出て奥の方まで歩くと、私とブースターはお互い向き合う。やがて顔が近付いて、口と口が触れ合った。彼が炎タイプだからか、その唇が暖かく感じられる。
「じゃあ、お楽しみといこうか」
 可笑しな台詞に、私自身笑いながらそう言う。ブースターも微笑むと私を軽く押し倒した……のはいいのだけれど、彼が天然気味なのをすっかり忘れていた。
「ちょっ……あのさ、ブースターさ。“順序”ってものがあるでしょ?」
 蔓を即座に出して彼の胴に巻き付けて体を浮かす。案の定、彼は首を傾げて「何か間違ってる?」とでも言いたそうな表情をしていた。ええ、間違ってます。何の前触れも無しにぶっつけ本番とはね……。
 それにしても何でこんなに彼はおとぼけなんだろう。というか、せっかちなのかも。どちらにしても本番以外知らないのだから……仕方ないか。

 私はそう頭の中で結論付けると、私は彼を小突いて仰向けにさせる。彼の雄の象徴が露わになった。ピンとたったそれを前足で軽くつつくと、彼の体ビクンと波打つように反応する。彼の顔を見ると、恥ずかしそうに頬を染めていた。
「なら、私がリードしてあげる」
 それを言い終わらないうちに、前足を使って彼のモノを上下に撫でていく。彼は声を出せないから喘ぎ声は聞こえてはこない。けど、時折足に力が入ったり息が荒くなっていくのを見るに、かなり反応してるのが分かった。
 そんなブースターの様子を見て優越感に浸っている私はSよりなのかなと思いつつ、更に彼の恍惚な表情を見ようと今度は彼のモノを舌で軽く舐め上げた。相当感じたらしく、彼は体を大きく反り返らせ、更に息を荒くする。私はクスリと笑うと、再び彼のモノを口に含んで舌で弄び続けた。

 時折口を開けた時にクチャリ……といやらしい水音が頭の中に響いたけど、それすら私自身を興奮させていく。彼もだんだんと息が荒くなってきて、そろそろ限界そうな表情を浮かべていた。
「……!」
 彼は再びビクンと体を大きく反り返らすと、彼のモノから勢いよくドロッとした液体が口の中に流れ込んでくる。量が多いために反射的にそれを飲み込んでしまう。少し彼の方に視線を向けると、恍惚な表情を浮かべながら息を整えようとしていた。
 多少うつろな目はしていたけど、こちらの様子をたまにうかがうように目が動くから、意識はあるみたい。まぁ、これくらいで気絶してたら私は彼の弱さに幻滅して本番やらずに終わると思うけど……。
 そんなことを考えながら口の中にある液体を飲み干すと、彼のモノについてる白い液体も綺麗に舐めとる。
「じゃあ次は……ブースターの番ね?」
 私はそう言いながら仰向けに寝転がる。でも彼は首を傾げるだけ。多分経験が少ないからよく分からないんだろうけど、ちょっと鈍いよ……。
「さっき私がブースターにやったように、あなたがしたいようにすればいいの。本番以外でね」
 私の言葉に彼はゆっくり頷くと、やがて私の下の方に顔を埋めてきた。

「んぁっ……!」
 その途端、全身に痺れが走ったかのように体を反らしてしまう。くすぐったいような気持ちいいような……そんな複雑な感覚。やっぱり癖になる……。
 私が微かに喘ぐのを聞いたのか、ブースターはまたそこを舌で執拗に舐め上げてくる。度重なる快感に、私は大きな声をあげてしまっていた。
「あぁ……んっ……もっと……あっ……!」
 もう何も考えられずにただただ彼の舌の愛撫を感じて喘いでいた私に、大きな快楽の波が押し寄せて来た。彼が私の秘部の突起を甘噛みしたからだ。
「もうッ……ダメッ……ぁぁあああっ!」
 そう声を張り上げて私は絶頂を迎えた。秘部からは液体が吹き出し、彼の顔を満遍なく濡らした。それを彼は前足で拭うと、口に持っていって舐め始める。最初に何かイヤな味がしたのか顔を少ししかめていたけど、結局全て舐め取っていた。
「はぁ……はぁ……ブースター、私の味はどうだった……?」
 言った後に気づく。……私はなんて事を口走ってるんだろうと。顔を真っ赤にしてももう後の祭りだった。彼の反応を待つようにして表情の変化を待つ。
 やがて彼は微笑んでから舌をべーっとだして首を傾けていた。
(……ちょっと。なによ、それ……)
 どういう意味なのかといくら考えても彼の表情から意図が読めない。いつもなら彼は私に分かるように表情を変えるのに……。
 このことから大体予想がついた。

 絶対に“はぐらかしてる”よ。

 だって彼の顔、なんかニヤついてるし。ああ、もうなんか色んな意味で負けた感じがする。こうなったら仕返しを……。
 相変わらずニヤつきながら尻尾を振っているブースターを押し倒すと、私は再び彼の唇を奪った。最初は驚いていた彼ではあったけど、次第に舌を私に合わせてくる。 しばらくして口を離して、お互いの顔を見合った。そして笑った。何だか真面目な彼の表情が可笑しくって。彼も一緒に微笑んでいた。


「じゃあそろそろ……いこうか」
 私がそう切り出すと、彼はうんと言うように頷いた。私は仰向けになると彼が覆い被さる。そして、彼のモノが私の秘部に触れた。
「きて……」
 躊躇していたのか、彼がなかなか入れてこようとしなかったので、私は後押しをするようにそっと呟く。それを聞いた彼は頷いて、ゆっくりと私の中へと沈めていった。
「あっ……」
 時折体を駆けめぐるピリピリした刺激に少し喘ぎながらも、彼のモノはしっかりと収まった。しかし、彼は首を傾げている。……私には分かっていた。多分そのことを疑問に思うだろうって。
「ごめんね。私、今回の行為が初めてじゃないの……」
 私はそう言い切ると、目をつむった。そう、私は処女じゃない。彼がそれを知ってどう思うか。それが怖かったのかもしれない。だけど、その考えは杞憂だった。
 私の唇にそっと彼の唇が触れた。目を開けると、そのことに関して気にしてないような彼の表情があった。
「ありがとう……」
 こんな私を受け入れてくれた彼にそう言うと、彼は唇を離して微笑んだ。……良かった。いつもの彼だ。

「んっ……」
 そう思って微笑み返そうとしたところで、彼が早くも腰を動かし始めてしまう。……こういう天然気味なところがなきゃ、最高なんだけどなぁ。
「あっ……んっ……はあっ」
 そんな考えはだんだんと目の前の快楽の中に消えていき、沈んでいく。激しい中にも時々気遣うような動きをしている彼に惚れながらも、とどまることのない快楽の波に思考さえも滞ってしまった。
「ぁ……くぁ……はあんっ……!」
 クチュリ……クチュリ……といやらしい水音があたりに響きわたるのさえも気にせずに、いつの間にか私も求めるように仰向けのまま腰を振っていた。
「ぁあっ…なめ…ちゃ…んぁ……だめぇ……っ」
 腰を振りながらも彼は首筋を舌で舐め上げてくる。それに喘ぎ声の中に抗議するかのような発言をするも、呂律が回らないためにあやふやになってしまう。
 首筋を舐め上げながらやがてその舌は私の半開きの口元へと届き、中へと舌をするりと入れてくる。さっきのキスとは比べものにならないくらいの淫乱な動きで私の舌に絡ませてきた彼の舌を私は受け止める余裕がなかった。

 ……クチャ、クチュ、ピチャ、グチュッ……

「んっ……あ……ぁんっ……ゃんっ……!」
 やがて彼は口を離し、腰の動きを更に激しくさせていく。私はただ快楽に溺れ、喘ぎ声を出すばかりだった。
「あっ…うっ…ブー……スター…ぁ……いいよ……」
 もう私たちは限界に近付いてきていた。彼の足はガクガクと震え始め、私はなかば意識を朦朧とさせていた。
 そしてだんだんと何かが迫ってくるような感覚が来始め、私は体を大きく反り返らせた。
「ぁっあああああああああんっ!!」

 二人とも一緒に絶頂を迎え、大きな叫び声をあげた。私の中に熱くドロリとした何かが入り込み、膣を満たしていく。しばらく脈打っていた彼のモノは次第に収まり、倒れ込んだ拍子にイヤな音と一緒に抜けた。
 互いに荒い息をつきながらも、顔を見合わせて微笑んだのは、今でも忘れられない笑顔だったような気がする。



 -8-

 ――あの後、私と彼の間に生まれたタマゴを主に発見されはしたものの、主は特に私たちの関係について言及はしてこなかった。むしろ、タマゴを見て少し微笑んでいたような気もする。

 今はポケモンセンターで貰ったタマゴカプセルの中に入れて、孵る日を今か今かと待っている。特にブースターなんかはいつ孵るかを一番に気にしていた。
 毎朝にガバッと布団からとび起きては、まだ孵らぬタマゴを見て耳を垂れていた。そんな様子を私は端からクスクスといつも笑ってみているけどね。

 主も主でタマゴのことを気にかけているみたいで、たまにブースターの隣に座ってはタマゴをぼーっと眺めてる。最近はタマゴをスケッチしたりと、どうやら主も満更ではない様子。
 タマゴを発見された時は見捨てられてしまうんじゃないかと背筋を凍らせて泣いてしまったけど、主はまた特に何も言わずにタマゴと一緒に私を抱き上げてくれた。……重そうにしてたのはあえて気にしないようにしよう。

 そして今日も私の目の前で主とブースターがタマゴとにらめっこしてる。こんなのどかな日がずっと続くと、私は信じてます。たとえ彼が……いや、夫がずっと喋れないにしても私はそれでいいと思う。

 だって言葉じゃないからこそ、伝えられる何かがあると、私は思ってるから……――。


...The end...


お名前:
  • >コミナミ さん
    コメントを見る限り一度前にお読みになられたようで。再び読んでくださり、ありがとうございます。
    ブースターの仕草でリーフィアに対する感情が表現出来ていれば、伝わっていれば幸いですね。
    コメントありがとうございました。 -- ウルラ
  • 盲目についての本を読んでて、ふとこの作品を思い出しました。
    久しぶりに読んで、なんだか暖かいものを感じ取ることができました。
    ことばがなくても愛って伝わるんですね。 -- コミナミ ?
  • >日向悠太 さん
    感想ありがとうございます。返信遅れてしまい申し訳ありません。
    下の書き込みと恐らく同じ方と思われるので纏めて返信させていただきますね。

    その方の曲は存じておりませんでしたが、聴いたところいい曲でした。
    普段短編ではイメージ曲、というのはなかなか考えたりはしないのですがこうイメージがあう曲があると嬉しいですね。

    描写に関してもプロ並と言ってもらえて光栄です。
    ただ、私自身はまだまだ描写が足りないなと思っているので、頑張りたいと思います。-- ウルラ 2016-01-11 (月) 21:23:52
  • なんかこう…全体的にフワ~とした感じが僕は好きです。
    話やブースターとリーフィアの行動、心情などがその雰囲気で十分に引き立てられています。偉そうなこと言ってしまいました…大変申し訳ございません!-- 日向悠太 ? 2014-07-05 (土) 20:19:26
  • 森高千里「雨」という曲のイメージとぴったりで、聴きながら読んでました。
    描写がプロ並みに上手ですね。すいません…これしか言えなくて…。 -- 日向 ? 2014-06-17 (火) 00:45:06
  • コメントの返信が遅れてしまい申し訳ないです。

    >ラティアスさん
    ブースターは大らかというか優しいですからね。
    子供っぽいところが散見されるのが玉に瑕ですが(

    >イーストさん
    そう言ってもらえると書いている身としても非常に嬉しいです。ありがとうございます。 -- ウルラ 2013-09-12 (木) 22:51:11
  • 面白かったです。心の琴線に触れる小説に久しぶりに会えました。ありがとうございました。 -- イースト ? 2013-07-24 (水) 18:45:18
  • ブースターの「気にしてないよ」というキスに感動しました。-- ラティアス ? 2013-05-08 (水) 00:22:09
  • >メタリックさん
     まだ滞在していますし、長編の更新だってしていますよと。まあ、たまにだから影が薄いのかもしれませんが……。
    言葉が話せないという点についてはかなりこちらも苦労しましたが、それだけにとても書きがいがあったのでそういってもらえると嬉しいです。
    天然ブースターは現在進行中の作品にも出てきていますので、ぜひご覧くださいね。
    感想ありがとうございましたっ。
    -- イノシア ? 2009-07-03 (金) 18:55:27
  • おお、この小説の作者さんはまだ滞在中か。 言葉のないブースターと、悲しい過去を持ったリーフィアのラブストーリー。感動させて読ませてもらいましたw。(ノд・。) グスン もっぱら、官能部分で深入りしてしまったのは言うまでもない(笑)  喘ぐリーフィア以上に、天然ブースターにグッっときましたぜ。Σd(・ω・ )  -- メタリック ? 2009-07-03 (金) 14:16:38

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Last-modified: 2010-12-28 (火) 00:00:00
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