作者:DIRI
「……すいませんでした……」
ガブリエルは頭をずっとさすっている。階段を転げ落ちたときに打ち付けたらしい。私が彼にぶつかってからと言うもの、彼はずっと不機嫌だった。それ以前からも少々不機嫌だったのにかかわらず、今は更にだ。
「……私は思うんだ、最近の子供は落ち着きが無さ過ぎる」
「ごめんなさい……」
私とガブリエルは転げ落ちたあとも更に階段を下りて、今はその終点にある場所へ来ていた。……どうやらガブリエルが言っていた休める場所というのは喫茶店らしかった。隠れ家的とはよく言うものだけれど、もはやこれは隠れ家そのものだ。しかし客はそこそこいるため、知っている人は知っているのだろう。
「あの……」
私は怖ず怖ずとガブリエルに話しかけた。彼はこちらを向かない。しかし気付いていない訳ではなさそうなので、私はそのまま言葉を続ける事にした。
「私……これからどうなるんですか……?」
それが一番不安な事で、まず聞いておこうと思った事だ。スコトスに行く気もアストラプテインに行く気も毛頭無い。彼も何かの組織に属していると言っていた。私はそれにまた勧誘されるのだろうか。
「キミがどうなるのか……それは少し違う。性格には、“キミがどうするのか”、だな」
ガブリエルはそれだけ言った後、私の反応を待っているようだった。けれど私は何となく意味を理解出来ずに、しばらく呆けていたままだった。ようやく私がそれを理解したのは、ガブリエルがこの喫茶店に来るなり頼んでいた紅茶が運ばれてきたときだった。
「それじゃ、私はもう……」
「キミは人見知りをすると聞いていたんだが、そうでもないようだな」
彼は突然に話を切り替えた。無意識に頬が赤くなる。理由は気恥ずかしいからだが、私は動揺していた。
「は、話を変えないで下さい。私はもう自由なんですか? それだけ教えて下さい」
「自由だ。ただしキミのそばには常に私がいると思ってくれ」
どうしてと聞き返すと、彼は紅茶を一口飲んでから言った。
「私は思うんだ、キミ一匹で連中の手から逃れていられるのか?」
「それは……」
「無理だろう? それに、私はコスモスと約束したんだ。“キミの事を私が責任を持って面倒を見る”。約束を守らなければ私も叱られてしまう。ただ、私はキミの面倒を見て、キミを守るだけだ。キミを組織に引き入れるような事はしない。私はキミの意思を尊重しよう」
ガブリエルはそう言い終わった後に紅茶を飲み干し、私を顔で一瞥した。
「盲目の私を頼りないと思うならばそう思っていて構わない。キミが思う通り、私は目が見えないが、気配で誰がどこにいるかぐらいならば感じ取れる。キミの生活の邪魔はしないつもりだ」
その一言で、私には彼が予想していなかっただろう“可哀想だ”と言う気持ちが湧いてしまった。彼はその事を理由に、何かされるのを嫌っているというのはここに来るときに少し分かった。それでも私は彼が盲目だという事に哀れみを感じていて、それをどう覆す事も出来ない。私はあまり悩む事もなく、彼に肯定の返事を返した。
彼と一緒の生活が始まったらしい。
「んぅ……ふぁ……」
目が覚めた。ここ最近気分が良い。と言うのも、私に全く危害が加えられてこないからだ。エルドアに監禁されていた半年はなかなか快適ではあったが、私が身籠もるまでの間にそれを帳消しにされる程の行為があったのだから、まだこちらのほうが良い。今同居しているガブリエルは私にそんな事など強要してこないし、むしろ私に近づくものから守ってくれる。最高のボディガードだ。
「おはようございます」
「おはよう」
彼はかなり早起きだ。私が起きたときには必ず入り口の先で見張りに立っている。私が元住んでいたこの家は不便ではあるけれど、こういう不便さが私は好きだった。
すいません、間違えて更新してしまいました(汗
スルーして頂ければ幸いです……
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