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火の小悪魔たち

/火の小悪魔たち

狸吉作『からたち島の恋のうた・豊穣編』
第02回1レス小説大会投稿作品


 危険な気配に鼻面を叩かれて、俺様は戦慄に眼を覚まされた。
 ボールから出て小屋の外の様子を伺えば、とうに沈み果てた太陽が残していった熱気がどんよりと立ち込める闇の向こうで、慌しく打ち鳴らされるいくつもの足音。そして甲高く響く笑い声。
 奴らだ。あの小悪魔どもが、また世にも恐ろしい炎の祭りを開こうとしているのだ。
 しまった。こんな暑い日の夜は奴らが徘徊し出す可能性が高いことは分かってはいたのだ。去年、俺様がここに住み着いて初めての夏にも死ぬような思いを何度も味遭わされたから。
 くそっ、迂闊だった。夕方の町の探索とバトルの特訓に熱を入れすぎて、ついつい眠りの女神の膝枕に頭を委ねてしまっていた。
 こうしてはいられない。いつもなら快適に眠れる俺様の匂いが染み付いた小屋だが、こんな薄っぺらい木の壁では奴らの攻撃には何の盾にもなる訳がない。
 祭りが本格化する前に、身を守れる安全な場所へと避難しなければ。
 思うが早く俺様は小屋を飛び出して、黒天に瞬くコンペイトウたちの下を熱気を切り裂いて一目散に駆けた。庭を越えた先に聳え立つ逞しくも堅牢な白い屋敷へと。去年もあそこに逃げ込んで難を逃れたのだ。
 悠長に正門に回りこんでいる暇はない。というより正門の方に回ろうとすれば、小悪魔たちの祭りの現場により近づいてしまうことになる。そんな恐ろしい真似は想像したくもない。
 だから賢い俺様が目指すのは真正面。庭に面した大きなガラス張りの引き戸の下に辿り着くと、後脚で立ち上がって戸へと縋り付いた。
 さながらレジスチルのボディを思わせる程に重く、固い戸。 取っ手は絶望的な高さで、俺様の背丈ではどんなに脚を伸ばしたって届く位置ではない。
 だけど既に開け方のコツは、去年何度もやって習得済みだ。
 銀色の桟へとしゃむにに爪を突き立てる。渾身の力を込め、全体重を掛けて、何度も何度も、引っ掻いて、引っ掻いて、ひたすらに引っ掻きまくる。
 俺様の激しい愛撫に悶えた戸はやがてガタリ、と喘ぎ声を上げて、内へと至る秘裂を僅かに覗かせた。
 やった! どうにか祭りが始まる前にここまでこぎつけられた。後はこの開いた隙間に爪を挿入してこじ開け、安全な室内へとよじ登るだけだ。
 いざ事に移らんと前肢を振り上げたその時、戸の窓の向こうに室内の灯りを背にした影が黒々と現れた。
 この家の坊やだ。毎日俺様と共に町を冒険し、バトルの特訓にも一所懸命付き合ってくれる、俺様の一番の友達だ。
 俺様が戸を引っ掻く音を聞き付け、俺様を迎え入れる為に戸を開けに来てくれたのだ。あぁ助かった! やはり持つべきものは頼りになるパートナーだ。
 俺様は深い感謝と尊敬の念を潤んだ瞳に込めて、ガラスの奥の影を見上げた。
 さあ、この戸を開けて、俺様を抱き上げてくれ………………
 ――バタン。
 ……っておい。何で俺様がせっかく苦労してこじ開けた隙間を閉めちゃうんだよ。
 ガチャリ、ってあぁ!? どうして掛け金を掛けちゃうんだ!? そんなことをしたら戸を開けられないじゃないか!?
 閉め出され、た? う、嘘だろ、そんな、バカな……っ!?
 どうして!? どうしてだよ!? 俺たちいつもずっと一緒だったじゃないか!?
 変な冗談はやめて早く俺様を家に上げてくれよ!?
 おかみさん、居るんだろ!? 早く来て坊やの悪戯を叱っておくれよ!?
 あぁマズい、こうしている間にも小悪魔どもの騒ぎ声がいっそう激しくなっている。
 飛び散った燐の香りと共に、火口が奔る音がする。恐怖の臭いが広がってくる。祭りの開幕は近い。
 嫌だぁーーっ! 開けてくれ! 入れてくれ! 助けてくれ! た す け てぇええぇぇえぇぇぇぇえぇ~~~~っ!!

 ☆

 瞬間、迸った閃光と弾け飛んだ破裂音が、俺様の身体を無情にも貫いた。

 ☆

 漂うキナ臭い硝煙と、轟き続ける爆発音の中。
 俺様はガックリと力を失って、戸の下に崩れ落ちていた。
 止め処なく溢れくる生暖かい液体が、地面に零れ落ちて染み込んでいく。
 やられた。俺様は……もう、駄目だ。
 こうなったのも坊やが俺様を見捨てたからだ。あの時助け上げてくれてさえいれば……
 バカヤロー! 恨んでやる! 呪ってやる! 化けて出てやるうぅぅ~~っ!!
 う あ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ …………

 ★

 ☆

 ★

「マサオ、さっきからオチャ丸が騒いでいる様だけど、何かあったの?」
「毎年のことだよ。お向かいの子供たちが通りで、ほら」
「あら……もうそんな季節になったのね。そっか、それでオチャ丸が怖がって吠えていたのね。早く家に入れてあげましょうよ」
「ダメだよお母さん! 去年それで散々な目にあったのを忘れたの!? 家に上げても結局ビビりまくって、終いにはオシッコ漏らして後始末が大変だったじゃないか」
「でも可哀想よ。玄関にしたら靴を退かせば土間を洗うだけで済んでたし」
「ダメダメ。今年こそはあんなの危険でも何でもないってことを覚えさせなきゃ。放っておいた方がオチャ丸の為だよ」
「あらまぁ、やっぱりお漏らししちゃってるわ。窓の下でブルブル震えながらへたり込んでる」
「ほらやっぱりだ。家に上げていたら今頃去年の二の舞だったよ。それにしてもさぁ」
 窓の外を彩る鮮やかな光を眺めながら、マサオくんは肩を竦めてぼやくのでした。
「ポチエナ*1なんて炎技が弱点ってわけでもないのに、どうしてあんなに花火を怖がるんだろうねぇ?」

 からたち島の恋のうた・飛翔編『オチャ丸くん自信過剰?』シリーズ
 火の小悪魔たち・完★


☆あとがき★

 今回はあえてポケモン小説というより『犬小説』を目指して書いてみました。
 犬を飼った経験のある方にはよく分かると思いますwwwうちの亡き愛犬もこんな感じでしたw
 実はオチャ丸くんの名前は、その愛犬の名前を捩って付けています。
 種族はガーディじゃ火を嫌がるのは変だし、ブルーやリオルだと手で戸を開けれてしまうので消去法でポチエナに決めました。

 up遅れてすみません。どの編に組み込もうか迷っていましたので。
 結局初の『飛翔編』作品として置くことにしました。もしかしたらいつかまたどこかでオチャ丸君に会えるかもしれません。

★ノベルチェッカー結果☆
【作品名】 火の小悪魔たち
【原稿用紙(20×20行)】 7.2(枚)
【総文字数】 2208(字)
【行数】 61(行)
【台詞:地の文】 18:81(%)|409:1799(字)
【漢字:かな:カナ:他】 34:56:4:4(%)|764:1247:94:103(字)



 オチャ丸「俺様は臆病なんかぢゃないぞーー!!」
 マサオ「ビビりだけどなw」

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*1 ちなみに、ビビりまくっているオチャ丸だが、本作を書いたのはポチエナの隠し特性『ビビり』が発表されるよりもずっと前である。

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Last-modified: 2010-10-02 (土) 00:00:00
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