written by cotton
満月が照る夜。星々は街の明るすぎる光によって一つの点も視ることができない。
その街を臨む崖から街を眺める黒い影。それは、人を嫌悪していた一匹のポケモン。
ー支えあって生きていく…?弱い者のすることだー
漆黒の満月 一,
【人】…人と人とが支えあう様を表す象形文字。
「支えあう」とは無縁の種、悪タイプ。彼は、人々の行き交う街を眺めていた。
アブソル、災いポケモン。
彼は、明らかに他とは違う特徴をもっている。
普通は、白毛を持つ種族。だが、彼がもつのは、漆黒の毛。
それは、人間…彼の元主人、ロンが一つの願の為に行ったことだった。
ー人工的変色交配ー
人の手を加えることで同じ種族の他とは違う特徴を持たせること。彼は珍しいポケモン、色違いを求めていた。
アブソルが母として選ばれ、父には黒毛を持つグラエナが選ばれた。
ー成功だった。黒毛をもつアブソルが生まれた。
だが、ロンは彼を捨てた。今回行ったのはあくまでも「実験」であった。そのうえ、黒毛をもつアブソルなど、どんな災いを呼ぶか分からない。
ー捨てられたことが、ただ、悲しく、悔しかった。人の都合で、自分は「作られ」、捨てられたのだから。
街を一度睨みつけ、その場を後にする。黒い影は、なお暗い深緑の森へと入っていった。
深緑と闇が混じる森は、静寂に包まれ、夜行性のポケモン達の鳴く声が聞こえ、薄れてゆく。
アブソルは、その中をただ歩く。行くあてはない。散歩、といったところか。三日月の刃は、触れる葉を揺らし、落としていた。
ーkrrr...
静寂の中聞こえる鳴き声。ふと足を止める。
「何だ…?」
ーkrrr...
そら耳では無い。静けさと同化して、可愛らしく、鳴いている。
声のする方へ走る。その声は、あまりにも寂しくて、誰かを待っているかのようだ。少なくとも、その声は、この森では聞いたことがない。
ー何かが、迷い込んだのか。この気味の悪く、ただ暗い森に…
低い、木の陰。この森の静けさには合わない鳴き声の正体。
ーkrrr...
イーブイだった。まだ幼い。
「どうした?」
イーブイはこちらを見た。ただオロオロとして、何も話そうとはしない。アブソルの威圧が、イーブイにプレッシャーを与えているのだ。
「何処から…来たんだ?」
余計な不安は与えないよう、言葉を選んで話す。
「…分からない。気がついたら…ここにいたから」
それだけ言うと、目に溜めていた涙が一気に流れ出た。
「御…主人…」
ふと、声を漏らした。
「?主人…いるのか?」
彼は小さく頷く。
「何処にいる?」
「…この近く…」
この近く…崖の下の街か…?街に行く途中ではぐれたのかもしれない。
「分かった。明日、一緒に捜そうか」
「…う…ん」
それだけ言い、安心したか、あるいは泣き疲れたか。寝息をたて、心地よく、眠り始めた。
月の光は、黒い雲に身を潜め始めていた。
漆黒の満月 二話へ。
気になった点などあれば。
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