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漆黒の月 一話

/漆黒の月 一話

written by cotton

 今日という一日も終わろうとしていた。夜空には見事な満月。欠けなどなく、綺麗な丸が黒の中に浮かんでいた。
 だが、この街を照らすのには不適だった。眩しすぎるその街の、照明の一つでしかなかった。星はその光の前では、すっかり自信を無くしてしまっていた。
 それを崖の上から、ヒトリ見つめる影。
――支え合う……? ……くだらない。
 街行く人ビトを睨み付けながら言う。彼の持つ三日月、額の宝石は、月の光を受け鋭く光っていた。災いポケモン、アブソル。
 ところがその体は、……普通は純白(しろ)い筈の体毛は、明らかに他とは違っていた。
 漆黒に染まっていた。
 真白の紙を焦がしたように、枯れ朽ちた花のように、
――そんなこと……

 それは不気味で、忌々しかった。

――弱者のする事だ。


漆黒の月 一話,


 彼は先ほどの場を離れ、街から離れるように森緑の中を歩いていた。見上げても月星の光は見えず、三日月は葉の隙間からしか見えない。
 ほとんど、彼の足音しか聞こえない。土を摺る湿った音。時々は遠くで、甲高いヤミカラスや、低いヨルノズクの声が聞こえる。
 今からどこかに向かうといった様子はない。散歩と言ったところか? ……散歩と言うほど清々しい気分にはなれそうにないが。文字通り、足を動かすだけの単純作業でしかなかった。

――……ん?
 何故かいつもとは感じが違う。空気が淀んでいる? 毒々しい? 血の匂いか……? ……この辺りみたいだな。
 ……まあ、俺には関係の無いことだ。知らないのが一匹二匹倒れていようと、助ける義理も無いし。
 止まった足を再び動かし始める。……それでも、足を進める度にその匂いは増していった。思わず辺りを気にし始めていた。
――こんなこと、今までにあったか……?
 何だ? 退屈すぎるくらい平和だったろ? この森は……。この空気じゃ落ち着いて寝ることすらできない。

 ……いた。しかも(ウチ)の前だし。
 現行だった。傷だらけになったイーブイを、ラクライらが取り囲んでいる。五、六匹くらいだろうか。
 彼の周りには紅い水溜まりができている。息も絶え絶えだ。体も微かにしか動きはない。
「……何やってんだ? お前ら」
 呼び掛けに全員が振り向く。暫くは全員黙っていたのだが、その内の一匹が話し始める。
「ああ、こいつが俺達の食料を盗んで……」
 なるほど、イーブイの手にはモモンが握られている。柔らか過ぎて原型を留めてはいないが。
「構わないだろ? 木の実の一つや二つ。家の前でこんなことされたら迷惑なんだが」
「は、はぁ……すみません」
 仲間に「行くぞ」と指示を出す。彼を先頭に、残った仲間もそれについてゆく。
 ……うんざりする。弱い者は弱い者同士手を組む。そうしなければ何もできない。……そうだ、弱いままだ。
――主人も……仲間も……いらない。
 独りでも生きてやるさ。助けなんか必要無い。そう決めた。
「……で、始末は俺がしないといけないのか?」
 モモンの甘い香りが仄かに漂っていた。

 仕方なく、彼を治療するため家に連れて帰った。あのまま放っておくのは嫌だったし。
 改めて見ると、小さな体にはいくつもの傷が刻まれていた。相手もまだ未進化(こども)だった事が唯一の幸いだったか。
 なんとか"復活草"が残っていた。あまりにも苦いため使うのを少し躊躇ったが、仕方なかった。ただ彼は、抵抗することなく飲み込む事ができた。そこまで傷ついてたってことか。
――お前が……
「ッ……!」
 思い出しそうになる。ナナシの酸っぱさで気を紛らす。思い出すのも嫌だ。もう寝る。何も考えたくない。
 慌ててかじった実の果汁が跡から垂れていた。外から差し込む月の光は、それだけを輝かせていた。

二話へ。

気になった点などあれば。




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Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
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