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水泡沫の優しさ

/水泡沫の優しさ

 僕の言葉を分かってくれたのか、原っぱの上に寝そべる僕を見下ろすオニシズクモは、そのヘルメットみたいな水泡ごと頭を近づける。もし誰かに怖くないか聞かれたら本当はちょっと怖いけど、ドキドキが勝っている。レンガ造りの橋の足の陰にいても、オニシズクモの水泡はすごく綺麗。目をつむった瞬間に僕の顔は水中に飲み込まれた。心臓がバクバクしてる。怖いんじゃなくて、ああ、もう。長い足が二つ、僕を背中から持ち上げた。このまま頭から食べられちゃいそう。オニシズクモにだったら、いいかな。ああ、もう、こんな事考えるなんておかしい。おかしいのに、おかしくなりそう。

 僕の気持ちを裏切って、オニシズクモは優しくキスをしてくれた。



 昼の原野の日陰。眼下で契りを待ち望む人の子とは裏腹に、彼は内なるものと葛藤して居た。身体に刻まれた種の本能が囁く。己の腹を満たせ。其の動く肉を喰らい尽くせと。其れは許されない。彼の理性が獣性に抗う。理性が獣性に惑う。愛も獣なる欲の一つではないのか。喰らう事が相思の証に成るのではないだろうか。喰らえ。其れは出来ない。幾度と問答を繰り返す儘、彼は自らの頭を覆う水泡の中に人の子の其れを招き入れる。人の子は瞳を閉じて居る、眉間に苦悩を浮かべる彼の胸中を察する事無く。お前の口に並ぶ牙は何の為に在る。お前は愛を捧げる其の子の想いを捨てるのか。黙れ、黙れ。

 愛が在るからこそ、此の愛を喰らう事は許されないのだ。

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Last-modified: 2020-08-26 (水) 22:39:13
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