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毛繕い

/毛繕い

※ポケモン×人、BLっぽい描写があります。

毛繕い 

writer――――カゲフミ

―1―

 いい天気だ。雲一つない青空というわけではないが所々に白い雲があるだけだ。
見ているだけでなんだか清々しくなってくるような空。
緑豊かな草原に大の字で寝転がって俺は空を見上げていた。
隣には俺のパートナーであるバクフーンのグレムもいる。草の上に体を投げ出し、俺と同じ格好で空を眺めていた。
 最近はトレーナー仲間からの誘いなどもなく、かといって自主的なトレーニングをするわけでもなく、家にこもりがちだった。
ずっと室内にいては俺もグレムも体がなまってしまう。今日は天気も良かったし、運動不足解消もかねてグレムと一緒に近くの草原までやってきたというわけだ。
「気持ちいいね」
「そうだな……空ってこんなに青かったんだ」
 太陽の光も全く浴びないほど家に引きこもっていたわけではないが、こうしてじっくりと空を見るのは久しぶりだ。
目前に広がる空は雄大で、吸い込まれてしまいそう。自分の存在がとてもちっぽけなものにすら感じてくる。
家の中にいたままではこんな感覚は抱かなかっただろう。たまにはこうして自然とじっくりと触れあうのも大切だよな。
ぼんやりと空を眺めながらそんなことを考えているうちにふわりと眠気の波が訪れ、俺は大きく欠伸をしていた。
「眠いの?」
「ああ……少しな」
 草原の風と暖かな陽気。そして寝心地のいい草のベッドがそろえばなかなか強力な睡眠誘発材になる。
せっかく来たんだし緑の匂いを感じながら一眠りというのも悪くないかもしれない。
「それじゃあ俺は一眠りするから、グレムは野生ポケモンが来ないか見張っててくれ」
「えぇーリデンだけずるいよ。僕もちょっと眠くなってきてるのに」
 両腕を枕にしてさっさと寝る体制に入った俺に、リデンは不服の声を洩らす。
もっとも俺の口調が軽かったこともあって、彼も本気で怒っているわけではないようだ。
トレーナーとポケモンとの長い付き合いで、グレムもかなり俺の冗談に耐性がついてきている。
昔はグレムに意図を汲み取ってもらえず、また俺の方も冗談の加減具合が分からずによく彼を怒らせてしまうことがあった。
「はは、分かってるよ。この辺は野生ポケモンもほとんどいないし少し眠るくらいなら大丈夫だろう」
「そうだよね。それじゃあおやすみ、リデン」
 俺に負けないくらいの大きな欠伸をした後、グレムは目を閉じる。
こういった状況で眠くなるというのは人間もポケモンも変わりがないようだ。
「くれぐれも寝ぼけて炎は出すなよ。野生のポケモンよりも火事が一番怖いからな」
「大丈夫だょ……」
 もうろれつが回っていない。何と言う寝つきの良さ。俺の忠告はちゃんと耳に入っていただろうか。
まあ今まで炎の暴発なんて事態もなかったし、大丈夫だろう、きっと。
さあて、俺も一眠りするとしようか。腕を枕にして再び寝る体勢になった。
目を閉じると周囲の音がより一層際立って聞こえてくるような気がする。
さわさわと草花を揺らす風の音、そしてグレムの静かな寝息も聞こえてくる。
 グレムがバクフーンに進化してからは結構場所を取るようになったため、家の中ではボールに戻すことが多くなっていた。
同じ近くにいるという事実でも、ボールに入れたままと外に出しているのとでは全然違ってくる。やっぱり、たまにはボールから出してやらないとな。
誰かが自分の近くにいるって感じられるのは、やっぱりいいもんだ。それが人間だろうとポケモンであろうと。
風と寝息というおかしな二重奏。それらを子守唄にしながら、俺は眠りについたのだった。

―2―

「リデン、リデンってば」
 肩を揺さぶられて俺は目を覚ました。グレムが俺の顔を覗き込んでいる。
なるほど、寝つきのいいやつは寝起きもいいというわけか。彼のぱっちりと開いた瞳に眠気は微塵も感じられない。
俺としてはまだしばらく眠っていたかったが、空の太陽も大分傾き始めていた。心なしか肌身に吹き付ける風が冷たくなったような気もする。
これ以上寝ていたら炎タイプのグレムはともかく俺が風邪をひいてしまうかもしれない。引き上げるには妥当な時間だろう。
「ああ……そろそろ帰るか」
 大きく伸びをして立ち上がる。軽く肩やら首やらをほぐすことで、ようやく目が覚めてきた。
さて、と。いい気分転換にもなったし、今日は来て良かった。それじゃあグレム、帰るとするか。
歩き出そうとした俺の服の裾をグレムが引っ張る。おいおい、伸びるからやめてくれ。どうしたんだ。
「ね、家まで競争しない?」
 そう言えば昔はよくここに遊びに来た帰りに、家まで競争したっけかな。
俺はほぼ忘れかけていたが、グレムの方はしっかりと覚えていたらしい。
寝起きだからあまりそんな気分じゃなかったけど、まあいい。バクフーンになってから競争するのは初めてだから、お手並み拝見といこうか。
「競争か……。いいだろう、受けて立とう」
「やった。それじゃ、行くよ……」
 深呼吸した後俺は前屈みに、グレムは四つん這いになって走る体勢になる。
スタートの掛け声はお前に任せよう。いつでもこい。
「よーい、どん!」
 合図と共に、俺とグレムは緑の大地を思い切り蹴って駈け出していた。

 肩で息をしながら、俺はどうにか家の前まで辿りつく。
足が痛い。胸が苦しい。全身が軋むような感覚さえする。最近の運動不足の体にこの走りは応えたようだ。
やっぱりこまめに外に出て体を動かしていないと、このざまか。明日は間違いなく筋肉痛だろう。
「へへ、僕の勝ちだね」
「あ、ああ。ちくしょう、負けたよ……完敗だ」
 これまで何度も競争したことがあったけど、負けたのは初めてだ。
彼がまだヒノアラシだったころは歩幅が違いすぎて勝負にならなかった。
マグマラシになると体力も敏捷性もついてきてなかなかいい勝負になっていたが、まだ俺のスピードには及ばなかった。
今日負けたのはグレムが進化して能力が上がってたからだ。俺の走りが衰えたわけじゃない。というかそう思いたかった。
「でももう少しで追いつかれるとこだったよ、危なかった」
 良く言うぜ。その割にはずいぶんと余裕の表情で、息が上がっている様子も全くない。
本当はもっとスピードを出せたんだろうけど、手加減していたんだろう。
俺を気遣ってのことなのかどうかは分からないが、本気じゃなかったのはお見通しだ。
まあ、いい。あの走りは彼の成長ぶりを表したものとして前向きに考えておこう。
俺の足元で頼りなげに歩いていたグレムが、今や俺を走りで追い越すほど立派になったんだ。
成長した息子を見守る父親の気持ちが、なんとなくだが分かったような気がした。
「それじゃ、家に入るぞ。グレム、お前も来いよ」
「え……いいの?」
 彼がバクフーンに進化してからは、家に入る時はボールに戻していた。
進化したての頃は不服そうにしていたグレムだが、今ではそれを当り前のこととして受け入れているようだ。
だからこそ、家に入ることを促す俺の言葉に驚いたのだろう。
「ああ。運動していい汗かいたことだし、久々に一風呂浴びようぜ」
「うん……やった!」
 俺が家のドアを開けた途端、軽い足取りで嬉しそうに駆け込もうとするグレム。
「あ、ちょっと待て」
「え?」
 俺は靴を履いているからいいが、グレムは生身の体で大地を走った直後なのだ。
このまま家に上げると、後々床の掃除が面倒なことになる。
俺はポケットからハンカチを出すと、グレムの体についた泥を軽く拭ってやる。
どうせこれから風呂に入ることだし、大きな土の粒を落とせば問題ないだろう。
「これでよし、と」
「家に上がるの久しぶりだから、忘れてた。ありがと……」
「気にすんなって」
 そう言ってグレムの頭を軽く撫でると、俺は靴を脱いで家に上がった。

―3―

 俺の後をついてくるグレムの足音は心なしか大人しい。壁や物に当たらないよう慎重に歩いているのだろう。
身長は俺と大して変わらないが、横幅がある。決して広いとは言えないこの家の中は何かと不便だ。
マグマラシから進化して間もない時は、以前の感覚で家の中を歩いたため机にぶつかり、上にあった皿一枚とコップ一つを犠牲にしたことがある。
まあ、食べた後の食器をすぐ片付けない俺にも原因はあるのだが。それ以来グレムは家に入る時は過剰なまでに慎重になったのだ。
確かグレムがボールに入るのを渋らなくなったのも、そのことがあってからだな。自分でも分かったのだろう、今の体では家の中に居づらいことが。
「風呂にお湯張るから、ちょっと待っててくれ」
「うん」
 二人一緒だとぎりぎり入れる程度の広さだが、炎タイプ故かグレムは湯船に浸かるのが苦手らしい。
俺が湯船に浸かったまま、洗い場にいるグレムをシャワーで流してやれば何とか彼を洗うことはできるのだ。
「……待って」
 風呂場のドアを開けようとしたとき、後ろから声がかかった。
どうしたんだ、と振り返った俺の元までグレムは駆け寄り、物言いたげな視線を投げかけてくる。
「あのさ、風呂に入るんだったら……その前にさ」
 手を胸に当てて少し照れながら小さな声で言う、まるで雌のような仕草。
ここまで来ればグレムが何を言いたいかは分かる。その先は言わせない、というか言わないでほしい。
そう言えば最近は全然構ってやれてなかったよな。ここは……引き受けておこうか。
「……分かった」
「やった!」
 嬉しさのあまり思わずジャンプしそうになったグレム。
ここが家の中だということを寸でのところで思い出し、踏みとどまったようだ。よかった。
「じゃ、ちょっと準備するから俺の部屋で待っててくれ」
「うん。待ってるからね、リデン!」
 家の中を移動するときの慎重さは忘れていなかったが、それでも浮足立っているのが分かる。
俺の部屋のドアを開けて閉める音がした後、グレムの足音も聞こえなくなった。
掃除してなかったから散らかってたかもしれないけど、グレムだし気にすることもないか。
 さあて、あいつをあんまり待たせるのもかわいそうだし、さっさと準備しないと。
俺は洗面所に向かうと、念入りに手を洗う。手首から指の間、爪の間まで丁寧に。
冷たい水の感覚は熱を冷まし、平静さをもたらしてくれる。ふと、こんなことでいいのだろうかという疑問が浮かんできた。
このままじゃグレムのためにも、たぶん俺のためにもならないんじゃないかと。
「……今更、遅いか」
 もう部屋でグレムは待ってる。俺がドアを開けて入ってくるのを心待ちにしているのだろう。
期待に胸を膨らませているあいつの姿がありありと浮かんでくる。一度受け入れてしておきながら取り下げるなんてしたくなかった。
湧き上がる疑問を振り払うかのように頭を振ると、蛇口を閉めタオルで手を拭く。
今度はそのタオルを水で濡らして、ぎゅっときつく絞る。水が滴らない程度に絞れたら、これで準備完了だ。
それじゃ、行きますか。俺は絞ったタオルを片手に自分の部屋に向かう。
この時点で妙な緊張感を感じているのは俺に度胸がないからなのか、それともこれから起こすであろう事象に対する後ろめたさか。
たぶん両方が入っているんだろうなと思いながら部屋の前まで来ると、中にいるグレムに聞こえないように小さく深呼吸して、ドアを開けた。

―4―

 俺は部屋に入り、ドアを閉めた。グレムはベッドの上に腰かけて、俺を待ち望んでいたようだ。
嬉しそうにキラキラと輝いている彼の瞳が眩しい、眩し過ぎる。そんなに楽しみだったのか。まあ、気持ちは分からないでもないが。
「待たせたな」
「ううん、そんなことないよ」
 口ではそう言いつつも、グレムの目は早く早くと俺の行動を催促しているのが丸分かりだ。
目は口ほどに物を言うとはよくいったもの。ちょっと待ってくれ、俺にも心の準備というものがあってだな。
部屋の中を見回し、落ちていた本を本棚に片付けたり、ベッドの上の布団を軽く整えたりして間を持たせてみる。
「散らかってて悪いな」
 最近は友達も呼んでない。誰にも見られないから別にいいや、でこの有様だ。
さすがに足の踏み場もないほど散らかってはいない。本や漫画など、床に落ちているものが若干目につく程度。
「気にしてないよ。それに散らかってても、この部屋にいるとなんだか落ち着くんだ。リデンがすぐ近くにいるような気がしてさ」
 ポケモンは基本的に人間よりも嗅覚が優れている。グレムが落ち着くのも、トレーナーである俺の匂いがこの部屋にあるからなのだろうか。
だが、なんとなく上の空と言った感じの物言いだった。言葉だけが先行してしまい、それに気持ちが追い付いていないような。
彼の本心ならばなかなか嬉しいが、どこまでが本音なのやら。やっぱり、今は心が躍ってそれどころじゃないんだな。
こうやって焦らされても、口で催促してこないのはグレムのいいところだ。よし、それじゃ俺も腹を決めるか。
「……そろそろ、始めよう。グレム、横になってくれ」
「うん!」
 待ってましたと言わんばかりに、早速グレムはごろりと仰向けに寝転がる。無防備な格好だ。
目の前で大胆なポーズを取られても、生憎俺の胸はときめかない。そこは今のところ大丈夫だ。
最後にもう一度だけ小さく息を吸い込むと、俺はベッドの横の床に座った。
 そして、グレムの腹にそっと触れる。頭を撫でてやることはよくあるが、腹を触られるのはあまり慣れていないらしい。
グレムの体が少しだけ反応したが、俺はお構いなしに両手でさわさわと彼の腹を撫でまわしていく。
走った直後のせいか所々乱れている部分はあるものの、クリーム色の毛並みは柔らかくていい手触りだ。
俺の掌から指の間にかけて、グレムに侵食されていくような気がする。もうこの触り心地からは、抜けだせない。
「ふふ、くすぐったいよ」
「まあ我慢してくれよ。俺には準備体操が必要だからさ」
 腹から脇へと手を移したとき、さすがに耐えられなくなったのかグレムが声を洩らした。人間と同じで、彼も脇は敏感らしい。
脇は腹よりもさらに柔らかい手触りだ。両手をグレムの両脇に伸ばし、揉みほぐすように手を動かす。
笑いを堪えているのか、彼の体が小刻みに揺れている。くすぐったいのは分かってるさ。でももう少し、もう少しだけ。
 俺は両手を脇から離すと、今度は自分の顔をグレムの腹にうずめてみる。
あれだけの運動神経があるんだからさぞかし筋肉も発達してるんだろうと思ってたけど、案外そうでもない。
毛に埋もれた腹は程よい柔らかさと、弾力を兼ね備えている。枕にするならうってつけだ。
それに炎タイプだからなのか、ぽかぽかと暖かい。この心地よさ、運動した後の疲労も手伝って確実に眠気を誘ってくる。
ちょっと汗臭いような気もしたけど、大して気にならない。いつかこんな枕が発明されないだろうか。ああ、ずっとこうしていたい……。
「リデン?」
「ああ……もう大丈夫だ」
 俺は頭を起こす。そろそろ、現実に戻らないと。毎度のことながらかなり待たせてしまったが、俺の準備体操も終わった。
グレムはいつでも来いといった状態だが、俺の場合はゆっくりと踏み込んでいくアプローチが欠かせない。
毛並みを十分に堪能したことにより、なんとなく気分も高揚している。いけそうだ。
俺はグレムの股ぐらに手を伸ばすと、体毛の中に埋もれていた突起にそっと、触れた。

―5―

 グレムも最終進化形態になって、立派に成長してきた。
内面的にはまだまだ子供っぽさを宿しているが、身体の方は一般的とされているバクフーンの大きさとほぼ変わらない。体の面では大人と言ってもいいくらいだろう。
ポケモンの生体のことは詳しく知らないが、進化による成長は体の性的な面もしっかりと発達させるらしい。
 ある日突然何の前置きもなく、自慰ってどうやるのと聞かれたときはひっくり返りそうになった。俺が何かを食べたり飲んだりしてる最中でなくて本当に良かったと思う。
誰から聞いたんだと訊ねてみても、教えてもらった本人から口止めされているようで答えてくれなかった。
俺と同じタイミングでポケモンをもらった友人は結構いる。彼らのポケモンも最終進化形態になって間もないくらいだ。
友人と会うときはもちろんポケモン同士での交流もある。おそらくその時に誰かから吹き込まれたんだろう。
一体何の話題に花を咲かせているんだと呆れたが、考えてみれば数年前の俺たちも対して変わりがなかったように思える。
性に関して興味を持ち始めた時期。性的な話題で友人たちとわけもなく盛り上がった時期。あの頃の俺も傍から見ればこんな感じだったのかもしれない。
 しかしこのグレムの質問にはどう答えればいいのか分からなかった。
適当に誤魔化そうと思えば出来たかも知れないが、大事なことだから間違った知識を吹き込むのも抵抗がある。
かといってやり方を事細かに説明するなんて、恥ずかしくて俺には出来なかった。
逃げ場を失った俺は、ポケモンでもちゃんと出るのだろうかという好奇心の後押しもあって、冗談半分でグレンにそれを実践してしまったのだ。
自分が恥ずかしい思いをせずに、自慰というものが何なのかをグレムに教えるのには一番手っとり早い方法だったのかもしれない。だが、そのとき以来癖になってしまったらしく、今回のようにグレムは時々俺に体を預けにくるのだ。
 正直俺はこの状況をあまり快く思っていない。ポケモンとは言え、こういったことはちゃんと自分自身で処理するべきではないだろうか。
この事態を引き起こしたのは俺の軽はずみな行動が原因だってことは分かってる。分かっているから余計に、グレムに頼まれると断り切れずに引き受けてしまうのだ。
自分でなく他者に触れてもらう快感を覚えさせてしまったのは俺だ。頭ごなしに駄目だと言い切ることなんて出来やしない。
それに、まだあどけなさの残る瞳でじっと見つめられると、何というか。断ろうとする心はいつの間にかぐらついて、首を縦に振ってしまっているのだ。
幾度もグレムと密着するうちに、俺もだんだんと侵食されてきているのかもしれない。
俺としては男同士、しかもポケモンとこんなことをする性癖はないつもりなんだが。
果たして今後もそういられるのかどうか、分からない。
……おっと、今は最中だったな。まだまだ思うことはあるけど、考えるのは後回しにしようか。

 俺の指先が突起に当たった瞬間、ぴくりと反応するグレム。
体の反射はそこまで大きくなかったが、脇に触れた時よりも敏感に感じているのが分かる。
表情から余裕の色が消えた。俺を見る視線もどことなく虚ろで、焦点が合わない。
それでも、グレムの瞳の奥ではさらなる刺激を渇望している情欲の炎が燃えたぎっていた。
ふふ、いいだろう。今の勢いがあればできる。たっぷりと感じさせてやろうじゃないか。
掌の中に納まってしまうくらい小ぶりなそれを軽く握ると、俺は手の中で転がすかのようにぐにぐにと弄んでいった。
「ふぁ……っ!」
 触れただけ、というレベルじゃない。手の皮膚と肉棒が擦れ合っているから刺激が強いのも当然だ。
雄だというのに、妙に艶のある声を上げるグレム。目を閉じて声だけ聞いたら、雌だと間違えてしまうかもしれない。可愛い奴だ。
毛の中に埋もれるほど小ぶりだったグレムのものだが、度重なる刺激によりむくむくと膨張し始めた。肉棒から来る震動が掌を通して伝わってくるほどだ。
それでも俺は手の動きを止めない。五本の指を存分に使って、執拗に撫でまわす。親指から小指までの一本一本を、万遍無く絡めていく。
一呼吸置いて手を離した頃には、もう体毛では到底覆い隠せないほどに、グレムの雄はそそり立っていた。
先端には先走りの滴がつやつやと光っている。いい具合に興奮してきたみたいだし、そろそろ本格的な刺激に切り替えるとしよう。

―6―

 俺は人差し指と親指で輪っかを作ると、グレムの肉棒に通す。
指の内側とグレムのモノがぴったり密着するサイズより少しきつめになるよう力を込め、根元から先端へ向けてゆっくりと動かしていった。
「ひあぁっ……!」
 喘ぎとともにグレムの体が反りかえる。声と動きからしても今までにない反応の激しさだ。
当然か。俺がそうなるようにコントロールしてるんだから。掌での弄りは雄を元気にさせるためのいわば準備運動。本番はこれからだ。
さっきは五本の指全部を使っていたとはいえ、無造作に動かすだけでは緩い刺激にしかならない。触れる面積は多いが一つ一つの力が弱いのだ。
これを二本の指に絞り、輪にして通してやることにより全体に着実な刺激を送ることができる。
丁度肉棒をやや締め付けるくらいの大きさに調節し、後はじわじわと動かしてやればグレムの反応から見ても分かるように効果は抜群なのだ。
 確かにこんな細かい調整は器用な人間の手じゃないとできないか。
ポケモンでも人型に近い奴ならできるかもしれないが、少なくともバクフーンには無理だろう。
だからこそグレムは俺に頼んでいるんだろうな。自分でやるよりも遙かに気持ちがいいから。
やれやれ、何度もこうやって弄るうちに俺のテクニックもだんだんと上達しているような気がしてならない。
雌ならともかく、雄相手に上手くなったって役に立つ日が来そうにもない。いや、来ないことを願おう。
「うぁっ……はあっ……」
 何度も襲いかかる刺激の波に、グレムの下半身はぴくぴくと震えていた。
先っぽからさらに溢れ出した先走りの汁が、俺の指の動きをますます円滑にさせていく。
滑りが良くなったことにより、手を動かすスピードも自然と早くなってくる。根元から先端へ、先端から根元へ。
徐々にペースを上げながら、はち切れんばかりに膨張した雄を扱いていく。
「り、リデン……ぼ、僕もう……!」
 快感の渦に呑まれそうになりながら、何とか絞り出したかのようなグレムの声。
そろそろか。出そうになったら正直に言うように、と忠告はしている。ちょっとした工夫でベッドの上を濡らさずにすむのだ。
俺はそびえ立つ肉棒をグレムの頭の方向へ少しだけ傾けると、今まで以上に指に力を込めて根元をぎゅっと締めつけた。
そして、そのまま一気に先端へと向かって撫で上げる。ずるり、と湿った音を立てて俺の指の輪はグレムの雄の先端まで滑り込んだ。
指に力を入れた分、彼に伝わる衝撃は大きなものになっているはず。もう、耐えられまい。
「ふああぁぁっ!」
 激しい悲鳴の直後、肉棒がぶるっと震えたかと思うと白い液体が勢いよく噴射される。
飛び出した液は一瞬だけ宙を舞い、グレムの腹の上に着陸した。おそらく俺にやってもらえるまで一度も自分でしてないのだろう。かなりの量だ。
だが、一滴たりともベッドには付着していない。精液をベッドの上に落とさないように肉棒の角度を上手く調節してやったのだ。我ながらナイスコントロール。
こんな芸当ができるようになったのも、グレムとの過去の経験があってこそだろう。自慢にはならないが。
「はあぁっ……」
 下半身だけでなく体全身でまるで痙攣でもしているかのように、ひくひくと快感の余韻に浸るグレム。
口元からは荒い息が零れ、瞳にはうっすらと涙まで浮かんでいる。まったく。気持ち良さそうにしやがって。
しかし正直な所、濡れた目で快楽の笑みを浮かべているグレムを可愛いと思う俺がいるのだ。
うっとりと恍惚の表情をしたグレムは本当に心の底から幸せを感じているようで。ぎゅっと抱きしめたくなる。
果てた直後の彼にこんな感情を抱いてしまう俺も、結構やばいのかもしれないな。

―7―

「ぬるくないか?」
「うん、丁度いい」
 湯船に浸かったまま立ち上がり、俺はグレムの背中にシャワーを掛けてやっている。
俺からすればこの温度は少々熱いくらいなんだが、これも水が苦手な炎ポケモン故か。グレムはかなり熱めのシャワーを好むのだ。
紺色の毛並みを水圧で波立てながら、首の付け根から尻尾の先までしっかりと湯に馴染ませていく。
 事を終えた後、俺はタオルでグレムの体を軽くふいてやった。いくら風呂に入るからとはいえ、そのままの状態で歩かれると色々な意味で危ない。
使用済みのタオルを軽く手洗いして洗い物籠に放り込んでから、俺達は風呂場へ向かったというわけだ。
俺が先に入って湯船の中に浸かり、そのあとグレムに洗い場に入ってもらう。お互いの体格を考えると、風呂場の中ですれ違うのはかなり厳しい。
 水を吸ったグレムの毛はつるつるとしていて滑りが良い。乾いた毛とはまた違った手触りの良さがあった。
背中はもう十分に洗い流せたから大丈夫だろう。次は前側だ。洗うべき場所はお腹と脇と、そして例の部分。
俺はシャワーを壁に固定し、水流がグレムのお腹に当たるように調節する。
「今日はお腹も俺が洗ってやろうか?」
 場所が場所なだけに、普段は自分で洗うように言っている。
ちょっとした思い付きだったが、俺の提案にグレムがどんな反応を示すか気になったのだ。
「い、いいよ……自分でやるからさ!」
 顔を少しだけ赤くして、慌てて首を横に振るグレム。腹の方に伸ばしかけた手を俺は引っ込める。
そうだよな。大事な部分は自分で洗いたいか。それだけの羞恥心はあるってことだな。よしよし。
「はは、冗談だよ」
「……やられた」
 がっくりと項垂れるグレム。昔と違ってなかなか引っかからなくなってきたけど、今回は上手くいったみたいだ。
まあ冗談というのは表向きで、本当はグレムがどこまで俺に気を許しているのか試したつもりだ。
いくらパートナーだからと言って、知られたくない部分、触れてほしくない部分は当然あるだろう。
もちろん隠し事が多すぎるのは良くない。とはいえ、あまりにもオープンなのも俺はどうかと思っている。
自慰を俺に求めてくるぐらいだから、もしかしたらと思い言ってみたが。どうやら俺に対する恥ずかしさはちゃんと持ち合わせていたということか。
グレムが無防備になるのは、あのときだけ。そういうことでいいんだよな。
もし彼が拒否をせず、少し照れた表情で嬉しそうに頷いていたら、俺も後には引けなくなっていただろう。
それを考えると結構危険な切り出しだったのかもしれない。
「それじゃ、洗い終わったら言ってくれ。俺はしばらく湯に浸かってるから」
「うん」
 シャワーをグレムに任せると、俺は腰を下ろしじっくりと湯船に浸かる。ようやく一息つけた。
やっぱり運動した後の一風呂は格別だ。久々の全力疾走はかなり応えたけど、体を動かすのは良いものだな。
湯の温もりがじんわりと全身へと染み入ってくる。何とも言えない心地よさを感じながら、俺はふと洗い場の方を見た。
「……っ」
 どうやらグレムは自分自身の毛と格闘中のようだ。水分を吸った毛は皮膚に張りつこうと絡んでくる。
彼の短い指では毛を梳いて洗うのもなかなか難しいものがある。でもまあ、グレムが自分で洗うって言ったんだし、洗い終わるまでのんびり待っていよう。
先にグレムが出てくれないと俺は出られないし。本当に、こいつも随分と大きくなったもんだな。
 こうやって風呂の狭さを感じるたびに、グレムの成長ぶりをしみじみと感じてしまう俺がいる。
シャワーのお湯が出る勢いを本気で怖がっていたヒノアラシの頃。足を滑らせて頭から湯船に突っ込んでしまい、慌てて俺が救助したマグマラシの頃。この風呂場にはグレムとの思い出が詰まっている。
俺は結婚もしていないし子供もいないが、子供の成長を感じる親の感覚ってこんなものじゃないかなと思う。
どんなに大きく成長しようとも、グレムは俺にとって大切な子供のようなものであり、そして大切なパートナーなのだ。

―8―

 予想はしていたのだが、グレムが体を洗い終わるのに時間がかかり、少しのぼせてしまった。
涼しい外の空気が火照った体に心地よい。俺は体をバスタオルで拭いて素早くシャツとパンツに着替えると、足ふきマットの上で待たせたままのグレムにタオルを持っていく。
俺が使っているのよりも一回り大きなやつだ。軽く水を切ってから風呂から出たとはいえ、全身の体毛はまだまだしっかりと水気を含んでいる。普通サイズのバスタオルでは足りないのだ。
案の定、グレムの足もとの足ふきマットはびしょびしょだ。水も滴るいい雄……とは言えないか。水気が多すぎる。
先にグレムに風呂から出てもらわないと俺が出られないから、これは仕方のないことなんだが。後でマットも洗濯しないとな。
「目、閉じてろよ」
「うん」
 最初に拭くのは顔からだ。いつまでも目や鼻や口元を水が滴っているのは気持ちが悪いだろうから。
まずは頭、そして喉元を軽く拭ってやる。これで大体の水気は掃えたはずだ。もう水は垂れてこないだろう。
次は背中。タオルでグレムの背中を包みこむようにしながら、首元から順に背中、尻尾へと手とタオルを移していく。
ある程度力を込めなければ毛の奥の水気までしっかりと拭き取れないため、さっきと比べるとちょっと荒っぽい。
だけどグレムが痛がってる様子もないし、力加減はこれくらいでいいんだろう。
一回では拭き取れない部分は何度もタオルで拭ったため、一通り拭き終わった頃にはグレムの背中の毛はあちこちに撥ねてしまっていた。言うならば大きなサンドパンってところか。
「前側は自分でやるよな?」
「もちろん」
 だよな。それでいい。俺はバスタオルをグレムに渡すと洗面所の戸棚からブラシとドライヤーを取り出す。
残った水気を乾かしながらブラシで丁寧に整えてやる。そうすればまた元のつやのある毛並みに戻るだろう。
さて、グレムは今度はタオルと格闘中だ。しばらく時間がかかるだろうし、湯ざめしないうちに服を着てこよう。
バスタオルを取って所々に残った水気を拭き取りながら、俺は自分の部屋に向かった。

「リデン、終わったよ」
 グレムの声とともに、ドライヤーのスイッチを切る。俺も今ちょうど自分の髪を乾かし終えたところだ。
差し出されたバスタオルを受け取った。タオル全体に適度な湿り気がある。なかなか上手に拭けたみたいだな。
「よし。じゃ、乾かすか」
 ドライヤーをグレムの方に持っていくと温風のスイッチを入れる。炎タイプ故か、暖かい風が好きなようだ。
顔の毛は自然乾燥に任せる。乾いたら軽くブラシを当てるくらいでいい。
背中に風を送りながら、乾いたと思われる部分にゆっくりとブラシを掛けていく。
無造作に撥ねていた背中の毛も徐々に落ち着いてきた。俺は乾いた場所にそっと手を当てて滑らせてみる。
なめらかな手触り。それに表面につやもある。トレーナーである俺が言うのもなんだが、いい毛並みだ、グレム。
「あのさ、リデン」
「ん、どうした?」
 こちらを振り返ったグレムに、俺はドライヤーを止める。近くでかけているとうるさくて声が聞きとりにくい。
それに、なんとなくではあるが彼が大事なことを言おうとしている。そんな気がしたからだ。
「今日はすごく気持ち良かったよ」
「……!」
 いきなりだな。予想だにしないグレムの発言は、俺の冗談よりも間違いなく破壊力があるはず。
風呂の余熱も冷めてきて半ば冷静になりかけていただけに、思い返すとなんだか恥ずかしくなってくる。
当のグレムは普段の表情そのもので、照れたりもじもじしている様子は微塵も感じられない。
「ありがと、リデン」
 屈託のない笑顔だった。ただただひたむきな感謝の念が込められた笑顔。俺はそう感じた。
きっとグレムは恥ずかしさよりも俺に対するありがとうの気持ちを優先させたんだろう。
そんな彼の姿を見ていると、あれこれ考えていた自分が馬鹿らしく思えてくる。
グレムにそこまで喜んでもらえるなら、これはこれでいいのかもしれない。
少なくとも俺にとって、彼の笑顔にはそう思わせるだけの力があったのだ。
危ないところまで踏み込んでしまったのではないかと危惧していたが、グレムも日常と最中とのメリハリはつけられているみたいだし、大丈夫か。大丈夫だよな。
「どういたしまして、グレム」
 頭をそっと撫でながら、俺も笑顔で答えた。今は余計なことは考えない。
グレムのまっすぐな感謝の気持ちを、俺も正面からしっかりと受け止めてやらないとな。
 まあ、あれだけ効果抜群の毛繕いをしたわけだし、俺とグレムの信頼関係はばっちりってわけだ。
手持ちのポケモンとああいった深い信頼を置けていると前向きに考えれば、グレムとの関係もそこまで悪くない、かもな。

 END



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  • バグフーンかわいいですなw
    きっとこのあとも風呂入る前に頼むのでしょうね… -- リュウト ? 2009-06-25 (木) 21:42:45
  • こんなポケモンがそばにいてくれたらな!次回作できるのならば待ってます!! -- アキ2 ? 2009-06-26 (金) 04:38:17
  • リュウトさん>
    あー、やっぱり頼むとすれば風呂に入る前でしょうからねえ。後のことを考えると。
    そしてリデンはやっぱり断れないんだと思います。レスありがとうございました。
    アキ2さん>
    ですねー。ポケモンがそばにいてくれたら、と思うことは多々あります。あいにく次回作は今のところ考えてないですねえ。
    レスありがとうございました。 -- カゲフミ 2009-06-26 (金) 18:59:43
  • プチBLってとこですかw。ちょっと焦れてるとこもまたいい・・・w -- メタリック ? 2009-06-30 (火) 19:40:18
  • 両方に直接的な描写があるわけじゃないですから、まさにその表現が似合うと思います。
    レスありがとうございました。 -- カゲフミ 2009-07-01 (水) 19:50:20
  • 輪っかを作るテクニックとか知識が半端無いです!BLは初めて読みましたが特に違和感も無く楽しく読めました。
    ――might ? 2010-01-01 (金) 23:36:25
  • バクフーンくらいの大きさなら、人間の手で作った輪っかでもなんとかなるかなーと。
    直接的な表現があるのはバクフーンだけですので軽めのBLといったところでしょうか。
    レスありがとうございました。
    ――カゲフミ 2010-01-03 (日) 11:29:55
  • 投稿日から何回も読んでるお気に入りの一つだったりする。

    作中で書かれているグレムの初体験の話も気になってたり
    ―― 2010-06-23 (水) 05:00:49
  • グレムの初めてですか。それはそれで面白いかもしれませんね。
    随分昔の話ですが、そう言っていただけると嬉しいです。
    レスありがとうございました。
    ――カゲフミ 2010-06-30 (水) 19:38:42
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Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
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