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死神来りて

/死神来りて

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死神来りて 


作:COM

1 


 とある寂れた片田舎に、大きな家を構えた一人の老人がいた。
 巨大な平屋に漆喰の塀がぐるりと囲み、松まで植えられたその家は一目で大層な金持ちなのだとよく分かる。
 しかしそれほどの屋敷であるにも拘わらず、人の出入りは滅多にない。
 道行く人々も年寄りばかりで子供なんかは目に付かない。
 過去に炭鉱と農業で栄え、電気がエネルギーの時代となり、そのまま風化したのが分かる良く言えば自然溢れた、悪く言えば時代に取り残された場所だ。
 そんな田舎だからか、代々語り継がれている伝承のようなものがある。
 伝承と言っても埋蔵金のような夢のある話でもなく、ならば伝説の英傑縁の地でもなく、よりにもよって人々を恐れさせる噂だ。
 村一番の街道ともなれば人はそこそこにいるが、その真ん中を静かに歩く、よからぬ伝承の主が一匹。
 "死神"と呼ばれるアブソルが周囲の人間を品定めするようにぐるりと眺めながらゆっくりと歩いていく。
 伝承とはその災いの主の能力のことではなく、まるでそれを更に強めたかのようなものだ。

『死神来たりて一つ鳴き、見初めた者の魂を刈る』

 災害を招き寄せる所の話ではない。
 このアブソルはその死神そのものであり、これが家に出入りするようになればどれほど追い出しても必ずそこに住む人間は近い内に死ぬのだという。
 当然伝承となっている以上昨日今日の話ではなく、噂では一〇〇年以上も生きており、いつもフラリと現れては誰かの命を刈り取ってゆく。
 故に誰もがそのアブソルを恐れ、見かければ石を投げつける者が殆どだった。
 その為かアブソルの死神の鎌のような角は半分で折れており、右目は潰れているのか常に瞼を閉じている。
 白い毛並みもそうして忌み嫌われ続け、誰にも手入れをされなかったためか、薄汚れた白と灰色の斑模様となっていた。

「あっちへ行け! 死神め!!」

 石の礫が一つ死神目掛けて飛んで行き、鈍い音を立ててから地面とぶつかり乾いた音を立てる。
 斑模様にうっすらと赤が滲むと、死神は石を投げてきた男をその紅い隻眼で見つめた後、少しだけ歩みを早めてその場を去っていった。
 この村で起こる出来事と言えばもうその程度。
 地図から消える日もそう遠くはないだろう。
 誰も口にせずとも、薄々そう感じ取っていたその村で、一つだけ大きな噂となる出来事が起きた。
 その死神が、先の大きな屋敷の高い塀を悠々と飛び越え、中へと侵入したのだ。

「ああ、遂に財前さんの所に死神が来たのね……」

 その様子を見ていた噂好きの奥様が、嬉々としてではなく諦めに近い口調でそう呟いた。
 屋敷の持ち主の名は財前(ざいぜん)清十郎(せいじゅうろう)
 古くから代々その一帯の土地を納めた大地主の家であり、同時に最後の砦だった。
 あの手この手を尽くして鉱山が閉山した後も、地元を盛り上げようと尽力し続けてくれた人物であり、彼無くしては今の今までこの村が存続し続ける事はできなかっただろう。
 だが世は栄枯盛衰、諸行無常。
 傑物とはいかずとも、誰にも親しまれた彼は運に恵まれなかった。
 奥方は早くに病で亡くなり、息子夫婦も急逝、残された孫はありがちではあるが田舎を嫌がり、早々と地元を去ってしまい連絡も取れなくなっていた。
 そんな彼自身も遂に大病を患い、なんとか村を興そうと尽力していたその手も止まってしまい、今の寂れただけの村になってしまったのだ。
 誰もが終わりの刻が近付いているのを感じ取っていた所に遂に王手を指されたような、そんな心境だっただろう。
 庭の木々は元々の整えられていたであろう様子から随分と変わり果てており、どの草木も自然のままに伸び放題になっている。
 その中を縫うように抜け、廊下を歩いてゆき開けられたままの襖扉を抜けて目的の場所へとたどり着いた。
 死神の向かった先は当然、病床に伏せる財前の元。
 伝承に違わず、風の抜けるような息をし、時折大きな咳をする誰から見ても普通ではないと分かる財前の元にたどり着くと、少しだけ顔を覗き込んでその布団の横に丸くなった。

「ふっ……ついに儂の所にも死神がやって来たか……」

 視界に写りこんだアブソルの姿を見て、彼はそう独り言を漏らした。
 薬を飲んで静養していた彼は、死神を見ても別段動じることもなく、ただ死にかけの体とは違う鋭い眼光でアブソルを見つめた。
 数時間ほど咳をしては体力を使い果たして眠り、また苦しさで覚醒を繰り返していたが、日暮れ頃に戸を開ける音が聞こえ、村唯一の医者が財前の元を訪ねた。

「し、死神!? 向こうへ行け! 縁起でもない!!」
「宮野さん……。儂だって馬鹿じゃあない。もう自分の体が余命幾許も無いなんて分かってる。だからこいつは儂を迎えに来た。そんな所だろう」

 宮野と呼ばれた医者が死神を見て慄き、しかし手や足であっちへいけと近くを振るっても触れないようにしている様子を見て、財前はそう口にした。

「何て事を言い出すんですか財前さん! 薬は確かに効いているんです! 後は体力と財前さん自身の気の持ちようです! そんな弱気になっちゃあいけません!」

 財前の言葉を聞いて宮野は叱咤するようにそう言葉にし、皺の増した腕を引き起こして優しく背中をさすって励ます。
 騒々しくなったからか、死神はその間に起き上がり、静かにその場を去っていった。
 それを目で追っていた財前は荒い息を整えながら一つ鼻で笑う。

「当たり前だ。まだ死ぬわけにはいかん。死神が迎えに来るのは勝手だが、儂にはまだ成さねばならん事が山ほどある」

 そう言って財前は先程までと打って変わり、力強く宮野の肩を握った。
 そのいきだ。と宮野は財前に発破を掛け、その日もいつものように定期検診を行う。
 だが宮野の言葉とは裏腹に、財前の体は一向に良くなる気配が無かったのだ。

「大丈夫ですよ。順調に回復しています。体を冷やさないようにして休んでください。薬と村の皆さんからの差し入れを置いておきます。では、私は他の患者の所へ参ります」

 お手上げ。
 それ以外の言葉が無かったが、宮野はその言葉も苦虫を噛み潰したような表情も全てを呑み込み、精一杯笑いながらそう語りかけてみせる。
 だが日に日に増える痛み止めの量を見て、財前もその言葉はただの優しさだと見抜いていた。

「ああ、宮野先生も気を付けてな。根を詰めすぎて倒れんようにな」

 処方と施術を受けて一先ず動ける程度には回復した財前はそう言って宮野の身を労った。
 片田舎の診療所など、医者一人の場所。
 大病を患えばどうしようもなく、医者が倒れようものなら年寄りの多いその村では一日をまともに過ごせなくなる者も多い。
 宮野は財前の言葉を聞いて小さく会釈をすると家を去っていった。
 本来ならば財前も近くの街にある大病院に移るべきなのだが、本人の意思で頑としてこの地を離れようとしなかった。
 それはただの意地ではなく、ある種の本能だったのだろう。
 病が発覚した時点で、財前は何処かそれがどうしようもないものだと理解していた。
 だからこそその日からの数年、彼は寝る間も惜しんで村の再興の為に命を燃やすようにして生きてきた。
 その彼も風前の灯となった時、死神が現れたのだから腹を括るのも必然。
 動けるようになった体で近付く夜に備えて戸を締めてまわり、日課とも言える風呂と夕餉の準備をする。

「追い払ってどうこうなるなら、死神なんてご大層な名前を貰っちゃいないよな?」

 歩き回る彼の後ろには、何時からか死神が静かに付いて回っていた。
 それに気付いた彼は振り返ってそう話しかける。
 だが相手はポケモン。
 そのうえ鳴き声の一つも上げない死神は特に返事をするわけでもなく、静かに彼の様子を見つめていた。

「どうせ老い先短いんだ。死神様に多少は恩を売ってもバチは当たらんだろ。代わりにもう暫く儂の魂は待ちな」

 そう言って彼は死神の頭を撫でた。
 自分の先が長くないと分かっているからこそなのか、はたまた持ち前なのか、彼はそう言って別段死神を避けるようなことはしなかった。
 寧ろ静かに付いて回る死神を躾の行き届いたムーランドの如く撫で繰り回し、家事を済ませてゆく。

『お風呂が沸いたロト』

 料理の最中、部屋の隅からそんなシステマティックな声が聞こえてくる。
 格式高い平屋にそぐわぬ文明の利器は全自動の湯沸かし器に留まらず、今正に料理をしている水回りも全てオールロトム電化となっている。

「ロトム。今日の料理の写真を撮ってブログに上げておいてくれ」
「かしこまりましたロト」

 意外や意外、スマホまで使いこなすどころかロトムフォンを持っており、ブログの掲載までやっているようだ。
 掲載している内容は大半が料理とこの村の事であり、移住する者が現れないか頻繁に掲載しているようだ。
 村を出ない頑なな姿勢からそういった所に疎いのかと思いきやしっかりと使いこなしており、事実そのブログの甲斐もあって村の存在そのものは忘れられてはいないらしい。
 だが如何せん電子媒体を使っているのが仇となり、転居を考えているような中高年にはあまり知れていないのも事実。
 時折トレーナーが訪ねてくるばかりで、あまり定住者は増えてはいなかったが、それでも彼は止めることはなかった。

「何がいつ役に立つか分からない」

 財前という男がこの地を守り続けてきた最大の理由でもあるのが、その思考の柔軟さでもあった。
 出来ることを出来る範囲で続ければ、大きな変化の切欠となる。
 その行動理念の元に続けていた所もあるが、同時に自らの孫の目に入れば、という思いもあった。
 何も孫に自分の思いを継がせたいという所ではなく、単に会いたかったのだ。
 だからこそ孫が村を出ると言った時も引き止めず、寧ろポケモントレーナーとして世界を見て回ることで得られる物の方が大きいと背中を押した。
 理由の根底はなんであれ、経験は必ず身を助く最大の武器になるというのが彼の考えだったからこその行動だっただろう。
 だが死を目前にして訪れたのは、やはり人恋しさだった。
 確かに村の人々と仲は良かったが、肉親のそれには敵わない。
 いつも気に掛けていたのは両親を早くに亡くし、辛い思いをさせたであろうという気持ちと、孫の安否だった。
 例え連絡がつかずとも、何処かでただ元気にしていて欲しい。
 願わくば、最後の瞬間までにもう一度だけ立派になった姿を見たい。
 それだけだった。

「ほら。お前さんの分だ」

 男手一人で育て上げただけあり、料理の腕は一流。
 自分の分とついでに死神の分まで作り、小皿に乗せて床に置いた。
 死神は財前の方を暫く眺めた後、何度か小皿の料理を嗅ぎ、そしてゆっくりと口にした。
 広い屋敷にただ一人だった食事だが、孫が旅に出て以来の望まぬ来客も人恋しかった今の彼には丁度良かったのだろう。
 特に一言も発する事もなく、一人と一匹は食事を終え、皿を片付けた。
 そうして自分の分の皿と死神の分の皿を纏めて流しに起き、処方されていた幾つもの薬を飲んでゆく。

「美味かったか? 病人食に合わせてるから死神様にゃちと物足りなかったかもしれんがな」

 そう語りかける財前を前にしても、特に返事はなかった。
 ただただ料理を綺麗に平らげ、皿洗いが終わるまで静かにその横で座って待っていた。
 その後はまた移動を始めたため、財前の後を付いて死神も移動してゆく。
 移動した先は風呂。
 足を伸ばせるだけの広い浴槽があるが、洗面所なども含めて少々時代を感じる古い造りだ。
 造りはあまり変えないようにして現代の機器を上手く屋敷の中に取り込んでいったのだろう。

「ほら、洗ってやるから入りな」

 死神の薄汚れた毛が気になったのか、彼はそう言って風呂場の前でじっと待っている死神を呼んだ。
 すると今度は特に警戒するような様子もなく静かに風呂場へと入り、彼の前まで歩いてゆくとピタリと止まった。
 斑模様の体に洗剤が触れるとあっという間に黒い泡となり、如何に汚れを蓄えていたかを物語りながら流れ落ちてゆく。
 何度目かのシャンプーを終えると漸く元の白い毛の色に戻り、それがアブソルなのだと思い出させてくれる。

「死神にしちゃ随分と獣臭かったからな。ほら、水気を振り落としな」

 彼にそう言われるまでじっとしていた死神は体を大きく震わせて水を吹き飛ばしてゆく。
 水気がなくなったと思ったら、結局彼は死神を抱えて一緒に湯船に浸かり、少々長めの風呂を楽しんだ。
 風呂を上がった後は湯冷めをしないようしっかりと毛の水気を拭き取り、ドライヤーで乾かしてからそのまま寝室へと移動した。
 その後は布団の上でで宮野にされた施術と同じマッサージを自分で行い、床に就く。

「ほれ、布団に入りな。今日は冷えるって話だ。湯たんぽ替わりに使っても文句はないだろう?」

 そう言って布団を開いて手招きすると、同じように死神は静かにそこへと移動した。
 毛で覆われて分かりにくいが、死神の体は随分と骨ばっており、普段まともに食事ができていないのを物語っている。
 そのせいもあってか、死神の体は普通のアブソルに比べて体温が低かった。
 が、布団の中で暖を分け合うには十分だった。

2 


 夜中、何度か痛みに魘されながら目を覚ましつつも、財前は予め枕元に置いておいた水筒と痛み止めで眠り続けた。
 翌朝になればまた朝食を作り、薬を飲んで痛み止めでも動けなくなる夕方頃までは活動を繰り返すという日々。
 睡眠という大切な休息時間を病魔に蝕まれた結果、少しずつ彼の体は回復が追いつかなくなっていた。
 そんな彼の横にはそんな体を知ってか知らずか、その日もただ静かに死神は財前の傍を付いて回る。
 朝起きてまずはストレッチで体を伸ばし、朝食を作る。
 先日までは一人で作って食べていたが、その日からは死神もいた事もあって彼としては少々楽しかったのだろう。
 自分用の量とほとんど同じ量の朝食を作って皿に盛り、床に置いてから死神の頭をまるで飼い犬のようにワシワシと撫でる。
 死神も彼の作る料理は気に入ったのか、初めて尻尾を左右にパタパタと振りながら大盛りの食事にありついていた。
 財前の前に死神が現れてからの彼の生活は食事以外は然程変わらなかった。
 朝食を終えれば自分の掲載しているブログ宛に届いた様々なメッセージに目を通し、彼の住む村への移住希望者や何かしらの事業を持ち込みたいという人物を探す。
 だが大半は上げた料理に関する感想ばかりだが、それでも自分の作った料理を美味しそうだと言ってもらえること自体はとてもありがたいことだ。
 それが終われば次は様々な企業に村での新規事業や新工場の建設の持ちかけを行う。
 閉山して以来、土地だけは余っていたため、何処かの大手企業の工場が入ってくれれば働き口ができ、若者がこの村を出て行かなくてもいい切欠となる。
 あらゆる企業に電話を掛けて回り、十何件に一回は検討段階まで進み下見をしに来てもらうのだが、それ以上進んだ試しがない。
 広い土地は工場の新設を行いたい企業にとっては非常にありがたい申し出だが、近場が大きな森と閉山した鉱山ということもあり、大型のポケモン等の被害のリスクが高く、そうなった場合の資材の運搬を考えると交通の便が悪いのが致命傷だった。
 大きな街まで数時間は掛かるうえ、整備された道の無いその村はポケモンジムもないため若者もあまり流れてきにくい。
 野生のポケモンこそ確かに沢山住んではいるが、小さすぎる村が故にポケモンセンターがない。
 好条件に転じそうな強みを持ってはいるが、その好条件を補って余りある致命的な弱点を克服する手段が今のところない、というのが現状だった。
 今更新規のジムを申請しようにも凄腕のポケモントレーナーなど居らず、ならば街道を整備しようにも交通の便をよくする利点がない。

「前向きに検討させて頂きます」

 何度目になるか分からないその返事を聞き、その日も財前は笑顔で見送った後、深く溜め息を吐いた。
 周囲を自然に囲まれたその村は確かに良い場所かもしれないが、現実は周りに何もない行き止まりの村だ。
 石炭産業だけがこの村を支えていたからこそ、それが失われた今、村の未来もこの村の立地と同じように行き止まりになっていた。
 日が落ちる前に家へと戻り、目にするのは思い出の写真達。
 そこにはまだ若々しい姿の財前自身と、彼と共にこの村を栄えさせた人々の眩しいほどの笑顔、そして亡き妻と息子夫婦、そして幼い孫の家族写真だった。

「悪いな……幸子、照雄、美代。村だけでもと思ったが……どうにも駄目らしい。許してくれ」

 家族写真を手に取ってそう呟いた後、彼は痛み止めを飲んでから布団に戻る。
 数ヶ月ほど前からはもう痛み止めを飲んでもこの時間になると体がいうことを聞かなくなるほどの痛みに襲われるようになっていた。
 そのためこの時間には必ず村に一人の医者である宮野に触診と鍼灸治療、そして経過の診断をしてもらうのが日課だ。

「なあ死神よ……。もしよけりゃあ、手の届く距離にいてくれないか?」

 布団に体を置く時、ふと視界に入った死神にそう言ってみた。
 全身を巡る痛みが死を連想させるせいで、この布団に入る瞬間はまるで自ら柩に体を収めているような、そんな恐ろしさすら感じるようになっていた。
 ほんの少しでもその恐怖を紛らわせたい。
 そんな思いから出た言葉だったが、死神は変わらず一声すら上げずに彼の言葉通り、布団のすぐ傍で丸くなり、先に目を閉じた。

「ありがとうよ……」

 返事はない。
 だが確かに彼には死神が自分の言葉に応えてくれたような気がしていた。
 風呂に入れてやったことで死神の毛艶は元のように白に戻っており、撫でれば洗剤のいい匂いが香る。
 柔らかな毛と暖かさが、そこに誰かが居てくれると彼の不安を和らげてくれた。
 しかし病魔は決してその手を緩めない。
 体の内側から槍で貫かれるような痛みが襲い、苦しくなった呼吸は風の抜けるような音となる。
 体力の衰えですぐに痛みにもがくことも敵わなくなり、ただ痛みに耐えながら荒い呼吸を繰り返す。
 だが、そんな凄惨たる光景を目の当たりにしても死神はただ静かに見守っていてくれた。
 怯えて逃げ出すわけでもなく、嘲笑するわけでもなく、ただ言われた通り手の届く距離で静かに見守っていた。

「ざ、財前さん!? 大丈夫ですか!?」

 暫く痛みと格闘していた頃、昨日と同じように玄関をくぐって宮野が現れた。
 そこからは昨日と同様だったが、その日は財前自身が追い払われそうになった死神を庇った。

「な、何故ですか!? こいつはあの死神ですよ!? 財前さんの症状だってこいつのせいで……」
「先生。医者のあんたがそいつだけは言っちゃあならん。所詮は言い伝え、迷信だ。事実どうだ? 昨日来てから今日まで一日中一緒だったが見ての通りまだ生きてる。こいつは儂の魂を奪いに来たんじゃあない。ただ迎えに来ただけだ。それこそ、死神のようにな」

 施術を受けながら、財前は少々取り乱す宮野にロトムフォンからある画像を見せる。
 それはヨノワール。
 正真正銘、冥府の神の遣いとされている文字通りの死神だ。
 ヨノワールは事実人やポケモンを襲う所を何度も目撃されており、死の遣いであることが図鑑にも記されているポケモンである。
 一方このアブソルはどうだろうか。
 わざわいポケモンと名打たれたこのポケモンは感受性の高い角から微弱な電波を感じ取り、天変地異を予測し、周囲のポケモンや人間に知らせているということが長い研究で漸く明らかになったが、それでも尚この村のようにアブソルを災禍の象徴として恐れる者は少なくないのが現状だ。

「冥界に居るという本当の死神様はただそこで魂が還ってくるのを待っているだけだと。ゴーストタイプのポケモンには人間や他のポケモンの生命力がそのまま食料になるポケモンも少なくない。ヨノワールも本当に死神の遣いかどうか……その真偽はまだまだ定かじゃあない。それにな、こいつは儂よりもずっと老いぼれだ」
「老いぼれ? 死神がですか?」
「ああ、目が片方潰れてるし、角も折れてるせいってのもあるだろうが、そうだとしても儂が歩く速度に追いつけないぐらいには足が遅いしよく眠る。体温も低い。筋肉も野生とは思えんほど衰えとる。もう寿命が近い証拠だ」

 財前はそう言って死神の頭を優しく撫でる。
 元は彼もポケモントレーナーとして旅をした身であるため、ポケモンに関する知識はそこそこにだが蓄えられていた。
 健康的なポケモンと毎日のように触れ合っていたからこそ、目の前の死神は既にかなり衰えているのが手に取るように分かったのだ。
 自分が死にそうな状態だからこそだったのかは分からないが、財前には目の前の死神がただ最期の刻を自分と共に迎えようとしているように見えて仕方が無かった。

「宮野先生。あんたは立派な医者だ。こんな老いぼれの妄言を聞いてそんな顔をしてくれるんだからな」

 そう声を掛けた宮野の表情は何処か悔しげな表情だった。
 宮野自身、自らの未熟さを実感していたからこそ、伝承を信じた自分を窘めてくれた財前の言葉が重く響いていた。
 だからこそ、長い沈黙の後に漸くその言葉を口にしたのだろう。

「財前さん……申し訳ありません。財前さんの病は……もう手の施しようのない状態です。出来る事は延命治療とただ痛みを緩和する事位しかできません……。私がもっと早くから街の病院に行くことを強く勧めていれば……!」
「知っている。自分の体だ。それに……そんなに自分を責めるな。例えまだどうこうできたとしても儂はこの村を、例え一時だとしても出ることはない。そう決めていた。遅かれ早かれこうなったのさ」

 沈みゆく夕日の中、啜り泣くような声だけが響く。
 本当ならばもっと沢山言いたい言葉があったはずだが、財前も宮野もそれ以上の言葉を発することができなかった。
 宮野が冷静さを取り戻した後はいつもより多めに痛み止めを処方してもらい、その後は特に財前の状態に触れることなく、別の患者の元へ急いで巡回しに行った。

「どうにもならないこともある。儂も……村も……。ここらが潮時なんだろう。最後にせめて晴彦(はるひこ)に会いたかったが……代わりと言っちゃあなんだが、死にかけの死神が居てくれるんだ。一人で死なんだけ良しとしよう」

 そう言ってゆっくりと財前は体を起こし、夕餉の準備を整え始めた。
 この平穏が続くのは宮野の見立てではあと一ヶ月あるかどうか。
 医者の言葉でしかと言われた分、腹は決まった。

『出来る限りの事をするのみ』

 財前は今一度心に誓い、死神と共に二度目の夜を過ごした。
 翌朝、変わらず続く痛みに苛まれながら目を覚まし、渋々活動を開始する。
 その日も同じように朝食をブログに載せ、付いたメッセージとメールを確認し、昼頃から動き回ろうとしていたところにまた思わぬ来客があった。
 それは恐らく、財前が最も望んでいたであろう来客だ。
 いつもとは違う時間に玄関の戸を開ける音が聞こえ、様子を見に行った財前の目の前には何とも言えない表情を浮かべた一人の男。

「ど、どうしたんだよ爺ちゃん!? その顔!」
「晴……彦?」

 表情は驚愕から一瞬で焦燥へと移り変わる。
 しかしそこにいた男は、確かに幼い頃の面影を残した財前……清十郎の孫だった。
 清十郎としてはもう生きている内には会えないだろうと覚悟していた孫の姿があっただけで感極まっていたが、感動の再会とはいかなかった。
 晴彦からすれば覚えているのは屈強な祖父の姿。
 それが今や病魔に蝕まれ続け、ただ歳を取って老いたのとは違う病的な衰弱を経た祖父の姿だった。
 この変わり様に晴彦の理解が追いつくはずもなく、本来すぐに渡す予定だったお土産を袋ごとその場に落として祖父に駆け寄った。
 互いに湧き上がる感情は違ったが、少しばかり冷静な話し合いができるような状態ではなく、まず感情の整理が付くまで静かに時間をおくことにした。
 その後、清十郎は自分の身に起きた事を話し、余命幾許とないことを打ち明けた。
 晴彦からすればこれ以上ない衝撃だっただろう。
 村を離れてから一〇年の歳月が経っていた。
 たった一〇年……まだ若い晴彦からすれば矢の如く過ぎていった日々。
 ほんの少し村を離れただけのつもりだった晴彦からすれば、浦島太郎にでもなった気分だっただろう。
 確かに晴彦が村を出た理由は何も無い田舎が嫌いだったからだ。
 しかしそれと同時に晴彦は、偉大な祖父の背を見て育ってもいた。
 だからこそ彼の心にあったのは何も無い田舎を出たいという思いではなく、何も無いこの村に、自分の知らない、かつて栄えていた頃の村を懐かしそうに語る祖父の景色を取り戻したいという思いだった。

「広い世界を見て回ってこい。必ずお前の人生を豊かにする」

 送り出してくれた祖父の言葉は、今でも晴彦の心を後押ししてくれた大切な言葉だ。
 だからこそ恩返しがしたかった。
 祖父の喜ぶ顔を見たくて今日という日まで彼は努力を続けていた。
 本当は笑顔でその成果を報告したかっただろう。
 祖父の現状を聞いてもまだ何処か現実感がなく、信じたくないという思いが尚更現実を理解しようとしなかった。
 その日は結局あまり言葉を交わす事が出来ないまま、時間だけが過ぎていった。
 そして例えそれほどの衝撃が訪れようとも、病魔は清十郎の体を蝕むことを一秒たりとも待ってくれない。
 いつもの時間になり、苦しそうな様子を見せたことで漸く晴彦は突きつけられた現実を受け入れるしかなくなったのだ。
 急いで布団に寝かせ、薬を飲ませて苦しむ祖父に只管大丈夫だと声を掛け続け、少しでも不安を取り除こうと尽力した。
 自分を思ってくれる誰かが傍にいる。
 これほどに心強いことはなかったのだろう。
 まるでこれまでの苦しさが嘘だったかのように、その日は痛みが引くのが早かった。
 宮野が来るまで少しばかり時間があったため、清十郎と晴彦は漸くお互いの抱えていた色々な思いを口にしだした。

「見ての通りだ。折角顔を見せに来てくれたってのに……もう、そう長くは生きられそうにもない」

 そんなことはない。そんな事を言わないで欲しい。そんな言葉が喉まで出かかった晴彦だったが、飲み込むようにして小さく頷くしかできなかった。
 楽観視も慰めの言葉ももう役に立たないと分かっている現状、ただ現実を受け入れるしかないのがただただ辛かった。

「本当は……今日僕が帰ってきたのは……色々と報告をしたかったんだ。連絡を取らなかったのも……全て今日、驚かせたかったから……」

 若さ故のサプライズを企画していた晴彦は、搾り出すように言葉を紡いでゆく。
 幾つもの後悔が胸を押し潰し、ただ口にすることを何よりも困難にする。 
 連絡を取らなかったのは、今日という日に立派になった自分を見せて喜んでもらいたかったこと。
 ただの一度も連絡を取らなかったことを謝ったが、清十郎はただ謝る必要はないとだけ言葉を返し、そのまま話を聞き続けた。
 次に聞いたのは本来のサプライズの内容であった言葉。
 それは晴彦がこの度、晴れてジムリーダー認定試験を受けられるだけの実績を積み上げ、リーグ運営委員会に申請することが可能となったことだった。

「まだチャンピオンになったことはないけど……ポケモンリーグには毎年参加してるし、必ずリーグまで出場してた。それが今年で漸く七年……認可に必要な実績が漸く積めたんだ」
「そりゃあ凄いことじゃあないか! 儂もお前の父さんもな、ポケモンの腕はからっきしだった。ポッポがウォーグルを産むとは正にこの事だな!」

 晴彦の言葉を聞いて清十郎は久し振りに溢れんばかりの笑顔でそう言い、からからと笑ってみせた。
 痩せ衰えても笑い声は昔のままだったことで少しだけ晴彦は安心したのか、話すペースが普段通りに戻っていった。

「わざわざそれを言ったってことは、何処かでジムを開業するのか?」
「何処かって……この村以外に無いよ! その為に今まで我武者羅に腕を磨き続けてきたんだから」

 強要するつもりのなかった清十郎からすれば、その言葉は降って湧いたような幸運だった。
 死ぬまでに孫の顔を拝めたどころか、八方塞がりだった孫がこの村の事をそこまで考えていてくれたという事がただただ嬉しかった。
 とはいえまだ楽観視できるものではない。
 清十郎達の住む地方のジムはまだ盛んでなかったということもあり、まだ一地方の上限である八箇所に到達していなかったため開業そのものは可能だ。
 だが開業されていないのは何も他の地方に比べて盛んではなかったというだけではない。
 そもそもこの認定試験の難易度がチャンピオンになるのと同等か、それ以上の難易度を誇るものだからだ。
 バトルのセンスは前提として、これから訪れる未来のトレーナー達の指標とならなければならない。
 ポケモンへの深い理解と、チャレンジャー達を成長させられるだけの絶妙な力加減。
 ひたすらに強く、人やポケモンを魅了するカリスマ性が求められるチャンピオンとはまた一味違った難しさがそこにはある。
 第二に開業するための土地だ。
 その点は晴彦はこの何も無い村には土地だけはあることを知っていたため、そこを有効活用しようと考えていた。

「この村にもしもジムを開業することができれば、多くのポケモントレーナーがここを訪れるようになる。そうすればまたこの村に活気が戻ってくるはずなんだ!」

 そう口にする晴彦の目は希望に満ちた真剣そのものなものだった。
 確かにジムがあれば、とは清十郎も時折口にしていたが、そう簡単に解決する問題でもない。
 人や物の流れはできるだろうが、それはあくまで一過性のものだ。
 まだこの地方ではチャンピオンリーグも開催されていない上、チャンピオンリーグのオフシーズンになれば、ジムしかない村はまた元の静けさを取り戻してしまう。
 だが、清十郎は余計な事は言わなかった。
 まだ若い晴彦が自分なりに考えて導き出した一つの活路。
 それに解決策を示しながら支えるのが大人の、そして親としての役割だと分かっていたからこそ、もう死に絶えていたはずの体は今一度清十郎の血を熱く滾らせてくれた。

3 


 互いの思いや近況を話し合っている内に戸が開く音が聞こえ、宮野が二人の元を訪れた。

「晴彦くんじゃないか! 戻っていたんだね!!」
「宮野先生! お久し振りです!」

 来た当初、暗い表情を浮かべていた宮野だったが、小さい頃の晴彦を知っており、清十郎の現状を知っている宮野としても晴彦の帰省という出来事はとても明るいニュースとなった。
 少し二人が握手を交わした後、昨日までとは打って変わって明るい雰囲気で来診が進んでいった。
 心なしか病気の症状も良く、普段よりもかなり健康的な状態だったが、近い将来に訪れる分かれだけは覆らないであろうことを改めて宮野の口から二人に説明した。
 本来ならばその言葉を控えるつもりだったが、既に清十郎も晴彦も覚悟ができていたからこそ、改めて使えるであろう残りの時間を確かめたかったのだ。
 そうして余命一ヶ月という事を晴彦も知ることとなり、更に言葉を付け加えた。

「これ以上痛み止めを増やすことはできません。そのため今のように清十郎さんが日中動き回れるのはあと……長くて一週間と少しが限度でしょう」
「一週間もあれば十分だ。儂が動けなくなろうとも優秀な孫と、この村の人間がいる。この村はまだやれる」

 宮野の言葉を聞いて晴彦は目を伏せたが、清十郎は力強く頷き、笑って答えてみせた。
 清十郎の言葉もあり、宮野もそれほど言葉を重ねることはなかった。
 その後はいつものように別の患者の元へゆかねばならないとだけ残し、早々に去った。

「どうだ? 晴彦。久し振りに爺ちゃんが飯を作ってやろうか?」
「無理しなくていいよ。僕だってずっと一人旅してたんだから料理ぐらいできるから。安静にしてて」

 体の調子が戻ると清十郎はそう言ってすぐに立ち上がった。
 もう日課となっていた料理と風呂の世話だったが、その日は晴彦が帰ってきていたこともあり、少しだけ今の料理の腕を自慢したかったのだろう。
 だが病人であることに違いはなく、晴彦は正論を持って清十郎を止め、調理場を借りて手際良く料理を作ってゆく。
 が、実はわざわざ口に出したのは晴彦が自ら調理場に立つようにするための作戦だった。
 ロトムフォンを片手にその日の内に知り合いの家に電話をかけて回りたかったのだ。
 口でこそ一週間もあれば十分と言ったが、実際には余りにも短すぎる時間であることを清十郎は十分に理解していた。
 そうなれば一秒の時間すら惜しい。
 まだ日の落ちきっていない今の時間ならば、村の人間や遠い地に住む知り合いもまだ起きているだろう。ととりあえず連絡を入れたのだ。
 数時間もしない内に晴彦は清十郎を呼びに来たため、電話を掛けて回るのを止めて食卓へと移動した。

「そういえば……爺ちゃん、いつの間にアブソルなんて育て始めたの?」
「ん? ああ、こいつか」

 リビングへと移動したことと、冷静さを取り戻したことで晴彦は漸く清十郎の後ろをゆっくりと付いてくる死神の存在に気が付いた。
 晴彦の言葉で清十郎は思い出したように足を止め、少し遅れてきた死神の頭を何度か撫でる。

「こいつはあの伝承に出てくる死神様だよ。こいつのおかげで腹が括れたようなもんだ」
「死……神?」

 あまりにも普通のポケモンのように清十郎が接するせいで、晴彦は一瞬理解が追いつかなかった。
 伝承の死神といえば、幼かった晴彦ですら覚えているほど悪名高い存在だ。
 それを笑顔で撫でている清十郎が理解できず、晴彦は思わず死神を殴り飛ばそうと拳を握り締めたが、それを感じ取った清十郎がもう一方の手で晴彦を遮った。

「なんでだよ!! こいつのせいで爺ちゃんは!!」
「馬鹿を言うな。たかだか老いぼれのアブソル一匹に運命なんぞを変える力はない。来たから死ぬ。というなら儂はもう昨日の時点で死んでなけりゃ説明がつかなくなる」

 そう言って清十郎は晴彦を宥め、既に一日をこのアブソルと過ごした事を話した。
 俄には信じ難いといった様子の晴彦だったが、事実目の前の死神は敵意を向ける晴彦を見ても特に何もしてこない。

「お前は儂なんかよりもずっとポケモンについて勉強してきたはずだ。どうだ? アブソルに死を運んでくる能力でもあるなんて発表があったか?」
「……確かに無いよ。恐らく角が磁場を捉えているだけだろうって……。でも……!」
「言いたい事は飯でも食いながら話そう。腹が減りゃあ苛立ちやすくなる。まずは儂の話を聞いてから考えてみてくれ」

 清十郎の言葉に晴彦は遂に折れ、死神に訝しげな表情を見せながらも居間へと移動した。
 最初は料理を雑炊にでもしようとしていたのだが、予め聞いた時点で普通の料理の方がいいと清十郎が答えていたため、シンプルな和食が二人分準備されていた。

「こいつの分はないのか?」
「え? ああ、あるけど……もしかして人間が食べてる物とおんなじもの食べさせてた?」
「なんじゃ、別に一緒に食卓を囲むぐらいいいだろう」

 清十郎は死神の分の食事も用意していたため、思わず料理がないことを訊ねたが、一瞬嫌そうな表情を見せた後、単純に不思議そうな表情に変わる。
 それを見て清十郎は晴彦に文句を言うように口を尖らせて言葉を返したが、晴彦としても別にもう死神に食事を提供すること自体には抵抗はなかったようで、手と首を横に揺らしていた。

「違う違う。そういう意味じゃなくて、確かにポケモンも人間と同じ物が食べられるけど、見た感じ弱ってるでしょ? 普通に人間の食べ物を与えるよりもポケモン用のフードを与えた方が消化にもいいって意味だよ」

 そう言うと晴彦はポケモンの餌用ボウルを一つ荷物鞄から取り出し、そこに少々湿り気のあるポケモン用の成形フードを注いだ。
 死神はそれの匂いを少し嗅いだ後、やはり同じように頬張ってゆく。
 その間に晴彦は死神の背中にそっと手を置き、反応を確認した後にそっと腹回りを撫でた。
 正確には撫でていたわけではなく、今の死神の状態を把握するために触診のようなものを行っていただけなのだが、あちこち撫で回した後何度か頷いてから自らも席に着いた。

「どうだ? なんの変哲もないアブソルだろう?」
「いやいや……変わった部分はあるよ。爺ちゃんが言うんだし、今更死神云々には深く突っ込まないけど、あのアブソル、老体ってだけじゃない。体もガリガリで脂肪が全く付いてないし、あちこち骨折が自然治癒した歪な骨の突起がある」

 晴彦の言葉を聞くと清十郎はまたからからと笑った。
 笑った意味が分からず、晴彦は少し不思議そうな表情を浮かべていたが、先に飯を食ってからにしようと言われ、食事を済ませることにした。
 が、その日も日課の料理の写真は欠かさず撮り、旅に出ていた孫が帰ってきて、その料理を作ってくれたという一文を添えてブログを更新する。
 祖父の意外な一面に晴彦も少々驚いていたが、昔から何事にも臆せず挑戦する姿勢は歳老いても変わっていない様子を見て、晴彦も安心したようだ。
 食事と風呂を済ませ、もう寝るだけとなった所で二人は今一度居間へと戻り、主題となる大事な事を話し合った。

「まずは祝杯、とでもいきたいが、この体だ。酒は止められておるから祝いの言葉だけ言わせてくれ」

 そう言って清十郎は旅に出したことに始まり、今日という日に立派になった姿を見せに来てくれたこと、そして晴彦も清十郎同様、自分の意志でこの村をどうにかする方法を模索してくれていた事に対する感謝を深く述べた。
 そして次に言ったのは、死神を必要以上に責めなかった事に対する感謝だった。

「これもあくまで儂の仮説だがな、ポケモンってぇのは地域で大きく姿形が変わるものまでいるって話だ。そうなると、姿は同じままでも、土地に順応して更に進化したものがいたとしてもおかしくはない。そうは思わんか?」
「それが死神の伝承に出てくるアブソルの正体ってこと? なんだか話が大きくなり過ぎてるような気がするけど……」
「いやいや! そんなことはない。話を大きくしたのは昔の人間と同じく、この村の人間で、アブソルそのものの能力は殆ど変わらんのじゃないかと思うとる」

 そう言って清十郎は横で丸くなっている死神の頭を軽く撫でた後、膝の上に抱き抱えた。

「アブソルの角は地震だとかの災害を察知するアンテナのような役割を果たしとるんじゃろ?」
「まあ、最新の研究だとマメパトやノズパスみたいに、角で微弱な磁場を感じ取っているんだろうってのが今の有力な研究結果だね。この子のは折れちゃってるけど……」
「そこで一つ考えたのが、この辺りに住むアブソルは近くに住む生き物の生命エネルギーのようなものを感知できるほどその能力が優れているのではないか? という考えだ。まあ要するに"死期を悟る"ってやつに近い能力にまで特化してるんじゃあないかと思うわけだ」
「死期を悟る……」

 そう言って膝の上に抱き抱えられた死神は、野生とは思えないほど清十郎に身を預け、あまつさえ眠ろうとしている。
 その様子は確かに命を奪いに来た伝承の死神というよりは、本当にただ遊びに来ただけのようなおっとりとした雰囲気だ。

「でもなんでわざわざそんなことを?」
「昔の人間に忌み嫌われてた時代から、こいつらはわざわざ人里まで降りてきて教えてやってたんだ。根本的に他の生き物が好きなんだろう」

 仮説ではあるが、清十郎の話を聞いて晴彦も漸く目の前の死神という存在への見方が変わった。
 嫌われ続けてでもその死神……否、アブソルはただ近い内に死ぬかもしれない生き物の元へ訪れ、ただ静かに自分という存在で教えようとしてくれていたのだろう。
 そうすれば何処までも付きまとうのに一切危害を加える素振りがないことにも納得できる。
 とはいえ少しばかり献身的過ぎる所は確かに不気味であり、その様子からこのアブソルに死神の名が与えられたと考えれば自然だろう。

「あれ? じゃあ……一〇〇年以上生きてるってのは……」
「ポケモンってのは当然ポケモン同士でコミニュケーションを取ってる。つまり人里に知らせに行く担当が寿命を迎えると次のアブソルが来ていただけ。と考えるのが妥当だろう。事実、こいつの現状を見れば分かるだろう?」

 そう言って清十郎は抱き抱えていた死神を晴彦に渡した。
 全体的に骨張っていて、体のそこかしこに怪我の治った痕だと分かる毛の生えていない箇所があり、とても軽い。
 晴彦もアブソルに触れたことは過去に何度もあったため、目の前のアブソルは本当にただ歳老いただけのなんの変哲もないポケモンなのだと実感できる。
 しかし晴彦が抱き抱えていると、それまで清十郎の膝の上ではじっとしていたのに、離してくれとでも言いたげに体を揺らし、優しく包んでいる手をペロペロと舐めて訴えかけてきた。
 それに気付いて晴彦から清十郎の膝の上に戻すと、また落ち着きを取り戻し瞼をシパシパとさせて寝る体勢に入っていた。

「本当だ……。爺ちゃんの傍に居たがっているんだ……」
「まあ、そういうことだ。おかげで儂は逆に覚悟ができた。残り少ない時間が確定したのなら、できることを全てやる。お前やこの村のために残りの命を燃やし尽くすつもりだ」

 清十郎の言葉を聞いて、晴彦はただただ悔しそうに顔を顰め、目を伏せたが、その頭を皺こそ増えたものの、大きく無骨で力強かった清十郎の手が撫でた。

「お前の両親が亡くなったのは随分と小さい時だった……。だから今まで殆ど死に触れてこなかった分、思うことはあるだろう。だが、別れは絶対に来る。避けては通れん。笑ってくれ。儂と過ごした日々を、送り出して立派になった姿を見せてくれたお前の人生の全てが儂が間違っていなかったのだと証明してくれる。だから笑って、前を向いて、また歩き出してくれ」

 晴彦の心中は様々な感情が混ざり合い、上手く言葉にすることができなくなっていた。
 だとしても、清十郎のその言葉の意味を理解することは出来ても、理解したくない感情の方が上回っていた。
 一度は覚悟したはずの意志が、ただ寄り添う恐ろしくもなんともないその死神によって、まるでナイフを喉元に突き付けられたかのように、揺れた。
 出来ることならずっと生きていて欲しい。
 いや、ひょっとするとずっと生きているのではないかとすら思っていた。
 だが事実晴彦の両親は亡くなっていて、様々な理由があれど、いずれ人は歳老いて死んでゆく。
 分かっているはずの当然の事が、考えようとする程に曚昧になってゆく。
 結局それ以上は立ち入った話をすることができなかった。
 できることならば明日からのやるべきことを整理したかったことだったが、最も大事なのは晴彦に清十郎の逃れられぬ死を理解してもらうことだった。
 親しい者の死をただ後悔や絶望だけで塗り潰して欲しくない。
 必ず立ち上がり、一つの思い出としてひっそりと覚えていて欲しいからこそ、清十郎の思いは尚更強いものになった。
 だが孫の身を案じ続けるわけにもいかない。
 清十郎にとって晴彦の身と同じだけこの村の行く先も大切な事だ。

「さあ、明日からは忙しくなるぞ。今日はもう寝よう」

 そう言って二人分の布団を敷き直し、並んで眠りに就いた。

4 [#2kF1taQ] 


 翌朝、その日は清十郎が病魔に蝕まれるようになってからは最も穏やかな朝だっただろう。
 体の痛みは消えずとも、心の中は熱い力で満たされているような感覚だった。
 そしてもう一つ。
 目を覚ましたのは痛み故ではなく、朝食のいい匂いに鼻腔がくすぐられたからだ。

「おはよう爺ちゃん。飯はもう出来てるよ」

 食卓にはこれまた二人分の食事が美味しそうに湯気を立てている。
 そしてその机の横には昨日のボウルが置かれており、ポケモンフードも沢山盛られている状態だ。
 その日も料理の写真を撮り、一先ず食事を済ませたが、その写真をブログへアップロードしようとした時に、ネットの様子もいつもとは違うことに気が付いた。
 今までは料理に関する感想が大半だったが、孫の存在を明かしたことと、その料理の写真を掲載したことでかなりの反響があったようだ。
 清十郎がかなりの高齢だったことに対する驚きに始まり、同時に孫が大成して帰ってきた事に対する賛辞の嵐、そして孫の方も料理が得意な事に対する羨望のような言葉だった。
 恐らくこれまで以上にコメントの内容が濃かったが、それ以上に見ず知らずの誰かの言葉をここまで素直に喜んでくれる人々の多さに、今一度深い感謝の念で胸が満たされた。
 おかげで清十郎が当初立てていた予定とは随分と変わってしまったが、そのコメントの一つ一つに感謝の言葉を返してゆき、その日の朝食の写真を上げると共に、自分と孫の現状を多少のフェイクを織り交ぜながら書き連ねていった。
 その間、晴彦の方はまずポケモンリーグ実行委員会へ電話を掛け、改めて自分にジムリーダーとしてこの地にジムを構えたい旨を報告した。
 と言ってもまずは認定試験への申請レベルの話だが、早速掛けた電話宛に必要書類のデータと各種注意事項の纏まった資料が送付され、印刷若しくはそのまま電子署名を行ってお繰り返して欲しいと一文添えられていた。
 ジムリーダーとなるためにはまず、大前提として突破可能な登竜門である必要性がある。
 この地方でのポケモンリーグ開催のために必要なジムの一つとなれば、ゆくゆくはチャンピオンを排出する存在とならなければならないと同時に、チャンピオンに迫ると劣らない実力が必要だ。
 だがその前にまずは自分の手持ちのタイプを統一しなければならない。
 それはポリシーであり、信条であり、ジムを攻略するトレーナー達の為のヒントでもある。
 タイプの統一はジムリーダーになる上で必要となるハンデでもあり、自らのポケモンやトレーナーとしての信念を表すものとなる。
 当然ながら今の晴彦の手持ちはリーグ戦に合わせたバランスのとれたチーム編成となっている。
 定期的に自分の捕まえたポケモン達とはコミニュケーションを取ってはいたが、これまで長年共に旅をしてきた手持ち達とはあまり交流することは出来なくなるため、少し早いが精一杯一緒に遊んだ後、その旨を伝えた。
 永遠に会えなくなるわけではなくとも、ずっと接し続けていただけあってやはり寂しそうな表情を見せたが、これも主人のためと踏ん切りがついたのか、最後には皆納得してくれたようだ。
 そしてボックス内にいるポケモン達からまた新たにジムリーダー用のポケモンを選出することになるが、肝心の統一すべきタイプがとんと浮かんでこない。
 炎や水、草、電気といったメジャーなタイプはどんな地方でも人気なため、真っ先に埋まる。
 残ったタイプから自分に合うタイプを考え、更に初心者を相手にする際のポケモン、中級者を相手にする際のポケモン、上級者を相手にする際のポケモンと細かく区分して都度手持ちを替える必要がある。
 適度な手加減をしなければならないため、安易な考えでタイプを選ぶことも難しいのだ。

「合うタイプ……ねぇ……」

 そんなことをぼやきながら、晴彦はボックス内のポケモン達を眺めていた。
 まだまだやるべきことは分かっていても、そこに道を見出せないのだろう。
 その間、清十郎は電話を掛けて回った人々に改めて頭を下げに行っていた。

「すまんな。こんな急に無茶な願いをしてしまって……」
「構わんさ。お前さんの所に死神が入っていくのを見たって聞いた時から何時でもいいように構えてたからな」

 清十郎がまず向かったのは村長の元だった。
 とは言っても既に寂れた村、村長もさして自分の存在に威厳は感じていないようだ。
 いつ廃村になるかも分からないといった調子だったからか、単に清十郎がこの村に貢献してきたからかは分からないが、村長としても清十郎には全幅の信頼を置いていた。
 そんな彼の頼みを村長は快諾し、もう一度お互いに深々と頭を下げてから別れた。
 そのまま役所の職員達にも事情を話し、今一度村を興す為の策を伝え、同じように何度も頭を下げてから一先ず役所を離れる。
 当然その行く先々にも死神はついて回ったのだが、建物内に入る時は必ず清十郎が抱き抱えて連れて回った事もあり、目に留まった人間全員の思考を一瞬停止させていたが、晴彦に説明したことと同様の説明を逐一していった。
 納得する者もあれば、それでも納得しない者もいるというのが実状で、死神の伝承を変えていくためにはもっと時間が必要だろうと清十郎自身も少しだけ諦めがついたのか、役所を去る時に軽く頭を撫でてやってから地面へと下ろした。
 その日はその程度で済ませ、残りは家で病魔に襲われる瞬間を待つ。
 そうして一日ずつ訪問先を増やしてゆき、孫と村の行く末を皆に託して回っていった。
 新しくなった日々にも徐々に慣れ始めていた四日後、宮野に言われていたように一週間の限度が体に現れ始めていた。
 体の痛みを薬で押さえ込む事が難しくなり、日常生活を送るにも支障が出始める。
 現状を打ち明けた事で増えた暖かな応援メッセージの数々に返信をしようとしても、文字を打つ指が震え、上手く力が入らなくなる。
 五日目には限界を感じ、晴彦に代筆を頼んだが、その言葉の数々に晴彦の指が思わず止まってしまう。
 ずっと押さえ込もうとしていた晴彦の中の感情が堰を切って溢れ、体を震わせて涙を流した。
 それからの日々はあっという間だった。
 踏ん張り続けた清十郎だったが、宮野に宣告された一週間を三日耐え忍び、遂に体を起こすことすらままならなくなった。
 泣きたい気持ちを必死に振り切りながら、晴彦が残された日々を看病することにして過ごすこととなった。
 言いたい事も聞きたい事も沢山あったはずなのに、残りの時間は静寂が大半を占めていた。
 病魔に苦しむ祖父の姿を献身的に介護し続けてはいるものの、良くなる見込みがないというのは晴彦の心情としてはとても辛い。
 どれだけ献身的に尽くしても、もう以前の姿に戻らない。
 ただ死ぬまでの日を一日でも先送りにしているだけだ。
 針の筵の上を歩くような、そんな辛さだっただろう。
 笑顔を絶やさないようにはし続けてはいるが、もうその笑顔にも心は篭らなかった。
 心は常に此処に在らず、余計なことばかりが思考を支配する。

「晴彦、聞きたくないかもしれんが、今後の事を伝えられる内に伝えておきたい」

 そんな日々が続いていたある日、清十郎はそう口を開いた。
 晴彦は特にその言葉に答えはせず、ただ静かにその場に座ったままだったが、それを見て清十郎は言葉を続けた。

「儂が死んだ後、もし心の辛さが変わらないのなら……この村を離れろ」
「な、なんで!?」

 いきなりの言葉に晴彦は動揺を見せた。
 当然ではあるが、今までの自分の努力を全て投げ出すような選択肢を突然投げ掛けてきた清十郎の意図が理解できなかったのだ。
 晴彦としても言いたいことは沢山あったが、力強い瞳で訴えかける清十郎の姿を見て、静かに言葉に耳を傾けた。

「お前はまだ若い。だからこそまだこの先、お前は別れ、送り出す側として多くの悲しみを乗り越えていかなきゃならん。だが……この村は歳寄りが多すぎる。もしも村を興すためにお前がこの村のジムリーダーになれば、村長や他の儂の知り合いを頼る必要がでる。そうなれば、もっともっと辛さだけを重ねていく。人の心はそれほど強くはない。儂も幸子と息子夫婦を喪った時は、もう立ち上がれんと思えるほど深い悲しみに襲われた。そんな中で儂が立ち上がれたのは……晴彦、お前が居てくれたからだ。何時までも悲しみに暮れている暇はないと幼かったお前が儂に思い出させてくれた。……お陰で儂の人生は、とても満ち足りたものになった。これだけは嘘偽りのない感情だ。例え病に冒され、最後を迎えようとも、儂は間違いなく幸せだったと言い切れる。だからこそお前は悲しみに耐えられないと思うのなら、まずは自分の幸せを掴め。沢山の幸せを掴んでからでも遅くはない。そんな選択肢も取れるように、皆にも頼んだ。自分を殺すんじゃないぞ、晴彦」

 それは清十郎がずっと口にするか悩んでいる言葉だった。
 晴彦の努力や思いを無下にしたいわけではないからこそ、その言葉を伝えるのをギリギリまで躊躇っていた。
 間違いなく清十郎の思いを伝えたかったからこそ、言うならば今しかないだろうと考えた末の言葉。
 死に逝く者の言葉だからこそ晴彦はただ静かに聞き、だからこそ清十郎の考え通り、伝えたかった思いは伝わったようだ。

『幸せになってほしい』

 病魔に冒され、苦痛を伴う最期を迎えようとも幸せだったと言い切れる清十郎だからこそ、その言葉に込められた想いを晴彦は受け取っていた。
 表情はまだ晴れないが、確かにその瞳には不安や迷いの色は写らなくなっていた。


 そんな日から一週間の後、清十郎は病魔と戦い抜いた末、この世を去った。


 清十郎の知人達が晴彦に協力して通夜を行い、何事も無く告別式まで執り行わた。
 亡くなる前と亡くなったその瞬間、晴彦は枯れるほど涙を流した筈なのに、通夜の間は不思議と涙は流れなかった。
 改めて式に集まった人々を見て、祖父がどれほど偉大な人だったのかを知ることが出来たのが大きかったのかもしれない。
 小さな寂れた村の人々が皆、通夜に参列したどころか、遠く遠方からも多くの人々が清十郎の死を悼みに来てくれたのだ。
 いつもは広すぎる程の屋敷から溢れる程の人々が、晴彦に声を掛けてくれる沢山の人々が、不思議と晴彦の心を熱くさせる。
 祖父の幸せだったと言った言葉が晴彦を慰めるために言った言葉ではなく、真実なのだと心の底から理解できたからこそ、晴彦の決意がより強固なものになったのだろう。
 納骨までが済み、広かった屋敷に住まうのが今度は晴彦一人になった時、寂しさを覚悟が上回っていた。
 祖父のブログの更新は、生前約束していたためそのまま晴彦が引き継ぎ、祖父の訃報と共にこれからは自分が更新する旨を掲載すると、瞬く間に追悼の言葉で溢れ返り、同時に晴彦への励ましや応援の言葉も多く散見された。
 一通りのしなければならなかった事が済んだ後で、晴彦は改めて宮野の診療所まで最期まで尽力してくれたことの礼を述べ、家へと戻る最中に死神の姿が忽然と消えていた事を思い出した。
 忙しすぎて忘れていたが、通夜の頃には既に姿を見かけなくなっており、清十郎の死後特に目立った動きもせずぱたりと消えた事が尚更清十郎の立てていた仮説の信憑性を高めていた。

『そういえば……あのアブソルももうかなりの老体だったよな……。大丈夫なんだろうか?』

 全てが済んで忙しさも一段落したのは葬儀の日から五日後。
 その間一切見かけていないということは本来の住処に帰っている可能性が高いが、そうなると心配なのは死神自身の安否だ。
 野生の世界での老体など、捕食者からすれば絶好の獲物だ。
 例え捕食者に襲われなかったとしても、老体のポケモンが日々の餌を手に入れる方法はあまり多くはない。
 初めて死神と会った時は晴彦も恐ろしい存在としか考えていなかったが、今の晴彦にとっては祖父の最後を看取ってくれた大切な存在だ。
 偶然だったとはいえ、死神の伝承の本当の姿が垣間見えたような気がして、尚更死神と呼ばれ続けたアブソルが可哀想に思えた。

『せめて、しっかりと謝らないとな。僕だけじゃなく、この村に住んでた皆があのアブソルをおどろおどろしいものに仕立て上げてしまったんだから……』

 そう思うと晴彦の足は自然と家の外へと向かっていた。
 とは言え今の晴彦にとって無駄な時間を使っている暇はあまりない。
 まだリーグ委員会への書類の提出も終わっていないどころか、自分がジムリーダーとして使うポケモン達の選出が始まってすらいない状態だった。
 急がなければならないわけではないが、かといっていつまでも時間が掛かっていれば残りのジムリーダーの枠が全て埋まってしまう可能性もある。
 そのため村興しも兼ねての提案であるジムリーダーへの挑戦の件を村長に相談しに行くついでに、アブソルを探すことにした。
 とは言っても寂れた村だ。
 もしも死神が村の中を歩いていれば、嫌でもすぐに騒ぎとして広まる。
 噂すら聞こえてこない時点で村の中には出没していないのだろう。

「成程、確かにスタジアムの設営に必要な土地も捻出できる。これまでの晴彦君の活躍も映像で見させてもらったが、確かに安心して任せられる腕を持っているな。これならさしあたった大きな問題はないだろう」

 村長との村興しに関する話を進めていく中、とりあえず晴彦は元々考えていた自分の案である、村にスタジアムを作り、ジムリーダーへの挑戦を求めてやって来るトレーナー達で経済を回そう、という随分とざっくりした案を伝えた。
 普通ならばあまりにも見通しのないプラン故、すぐにでも突っぱねられるだろうところだったが、清十郎との約束もあって村長はただ首を横に振って資料を机に置いた。

「だがこれはあくまで、スタジアムを敷設するまでのプランだ。今この村は若い人でも少ない、めぼしい観光場所もない、働き口もない、交通網もない、ポケモンセンターもない……とまあ、無いこと尽くしだ。そこにただスタジアムを開設しただけでは流動的な人間は増えても、定住する人間が増えない。村興しの案と言うからには最低限、この状況を打破するためのもっと具体的な策が必要だ。例えば……閉山した鉱山を整備し、ポケモントレーナーが中のポケモンを捕まえやすくするための環境に変える人材を準備する。まあ、これでは金銭が発生しないから意味はないがな。とまあ、そういう経済を復活させるための起爆剤となりうる案が最低でも一つは欲しい。それさえ答えられたなら全面的に協力しよう」
「えっ……たった一つですか?」
「清十郎との約束だ。共にこの村を支えた身、孫まで本気で考えているのなら私も老骨に鞭打たねばならんだろう」

 まだまだ未熟だと分かっている晴彦に十分なアドバイスをした上で、村長も晴彦をまるで自らの孫を見るような優しい目で見つめ、微笑んで肩を叩いた。
 帰ってきた時点での晴彦はまだ二十一歳、村の命運を全て任せるにはあまりにも若すぎる。
 一度はこの村のために心血を注ぎ、朽ちゆく村と運命を共にしたからこそ、他人に任せきりにはせんと清十郎同様に一念発起したようだ。
 宿題を受け取った帰り際、晴彦は役所の面々からも励ましの言葉と様々な知恵を授かり、気持ちも十分に漲った所で足早に帰路に着いていた。
 その途中、悲鳴のような声と大きな物音を聞くまでは。

5 


 騒ぎを聞いて晴彦はすぐさまそちらの方へと走り出した。

「高嶋さん! 入りますよ!」

 緊急事態ということもあり、晴彦は一方的にそう大きな声で告げて高嶋という人物の家へと入っていった。
 騒々しい物音を辿るように進むと、そこには壁に張り付いて狂乱しながら怯える高嶋の姿があり、その視線の先には死神の姿があった。

「ふざけるな! 俺はまだ死にたくねぇ!!」
「高嶋さん! 落ち着いてください!!」
「落ち着け!? この状況で落ち着けってのか!? 死神だかなんだか知らねぇが、まだ殺されてたまるか!!」

 手当たり次第に近くにある物を死神に投げつけ、死神は逆にそれを避けることもできずにただひたすらに耐えている。
 流石にこのままでは死神が死んでしまうと焦り、晴彦はすぐにその腕を掴んだが、パニック状態になっている人間の力は計り知れないほどに強かった。
 手元にもう投げられるような物が無くなったことも相まってなんとか高嶋を抑えることはできたが、それと同時に状況が悪化した。
 急に高嶋が胸を押さえて明らかにおかしなリズムの呼吸をし始めたのだ。

『これは……! 急がないと取り返しがつかなくなる!』

 尋常ではない状態の高嶋の身を案じ、すぐさま晴彦はロトムフォンで隣町の大病院に急患を運び込みたい旨を伝え、ボックスから呼び出したボーマンダの背に高橋と共に飛び乗り、すぐに病院へと搬送した。

「財前さんでしたね。迅速な判断と処置のおかげで幸い大事には到りませんでしたよ」

 数時間後、待合室で待機していた晴彦に緊急手術を終えた医師がそう告げた。
 元々肥満体型だった高嶋は、あまり家から出ず運動不足な毎日を送っていた事がたたってかなり心臓が危険な状態だったのだという。
 そこで死神の姿を見て急に暴れたのが重なり、心臓付近の血管が剥離したそうだ。
 迅速な対応のおかげで一命は取り留めたが、まずは痩せなければ今後同様の生活を続けていればまた同じことになるだろうとも告げ、暫く入院が必要な事も伝えた。
 その件を高嶋の親族に電話で伝えて一先ず騒動は解決したのだが、この件のおかげで晴彦の中にあった清十郎の仮説は確信へと変わった。

『死神はただ死を察知して教えに来ただけ』

 これが確信となったのならば、尚更晴彦がしなければならない事は死神の保護だった。
 これまでずっと死神は村の人々にその特性を恐ろしいものとして曲解されており、死を運んでくるような能力は持っていない。
 しかしその曲解のせいで片目を潰され、角も半分に折れてしまっても決して死神は自らの使命を守っていた。
 死神の死を予見する能力は上手く使えば今回の高嶋のように死を免れる事も可能になる可能性が高い。
 例え寿命だったとしても、今回晴彦が戻ってきたのは偶然だったが、もしも同じ状況になった場合遠くに住む親族に連絡を入れることも可能だろう。
 最低限寂しく最期をの時を過ごす事はなくなる。

(つい)の村……か。それはそれでいいかもしれないな」

 そんな独り言を呟いてから晴彦は病院を後にし、すぐさま村へと帰ったかと思いきや、巡回するように村の上空をボーマンダの背に乗ったまま何かを探し回っていた。
 と言っても今の晴彦が探すようなものは死神以外に存在しない。
 村中探しても見当たらなかったことで晴彦はすぐ近くの森の中へと降り立った。
 念の為に森の中でも動きやすいようボーマンダをボールへと戻し、バシャーモと交代させた。
 昔から伝承のせいであまりその森には出入りしていなかったため、あまりどのようなポケモンが棲んでいるか分からない以上、戦いやすくして警戒しながら進んでゆく。
 すると歳老いているせいか、死神は森の入口のすぐ近くの木の虚に丸くなって収まっていた。

「いたいた。元気そうでなによりだ」

 そう言って晴彦は死神の顔の前に手を持っていき、手に反応したところでそっと顎を撫でた。
 死神の方も普段から人間に報せに来ている事もあって、別段森の中だから警戒するというようなこともなく、撫でられると気持ちよさそうに体を手に預けてきた。

「爺ちゃんや……高嶋さん。それに他の人達も看取ってくれてありがとう。それと今までごめんね。ずっと勝手に君の事を嫌い続けて……」

 一方的にそう言葉を投げかけてゆくが、死神はただ気持ちよさそうに目を細めて撫でられているだけ。
 まるで今までの人間からの仕打ちそのものすら、『仕方のないことだった』と水に流しているように、ただ撫でられ続けていた。
 そっと体を抱き上げて膝の上に乗せると嬉しそうに尻尾を揺らして答える。
 ただただ、死神は人間の事が好きだったのだろう。

「君も……もう寿命が近いんじゃないかな? だから……もし君がいいなら、僕が君の最期を看取りたい。一緒に家に来てくれるかい?」

 死神にそう話しかけると、しっかりと晴彦の目を見て一つ口を開いてみせた。
 そこで漸く気が付いた。
 このアブソルは喉も潰れているのだと。
 掠れた吐息のような音が僅かに聞こえたが、それはアブソルからの了承の返事だったのだろう。
 バシャーモをボールへと戻し、抱き抱えたまま連れてその場を離れても特に抵抗するようなことはなく、終始嬉しそうに腕に顔を埋めていた。
 広すぎる家に今一度、晴彦ともう一人の住人が来てくれた。
 晴彦はそのまま仏前に帰ってきたことを報告し、アブソルもこの屋敷に住まわせることも報告した。
 そして晴彦は夕食の支度をし、アブソルと共に夕飯と風呂を済ませてからブログの状況確認と更新をする。
 哀悼のメッセージは今も止むことなく来続けている。
 だからこそその言葉がありがたく、同時にいつまでも悲しませているだけではならないと現状の報告をそこでも行った。
 ジムリーダーとしての試験を受けようとしていること、自分の村を再興しようとしていること、そして長年忌み嫌われ続けていた死神の真相を漸く理解することが出来たこと……。

『祖父の成そうとしていたことが自分にできるかはまだ分からない。でも決して諦めたくもない。祖父の想いを継げるよう、出来る限りの事をしたい』

 そう綴り、その日の夕飯の画像と共に更新する。
 なんとも不思議なブログになってしまったが、料理で出来た縁から料理を省く方が無礼かと考え、晴彦はいつもと同じように更新したのだ。
 その後はアブソルのためにクッションやタオルで柔らかい寝床を作ってやり、そこにそっと寝かせると気に入ったのかすぐに丸くなって寝息を立て始めた。
 老体故に環境の変化が堪えるかと思っていたが、特にそういう事もないらしい。
 翌日からはまた自分とアブソルの食事を用意し、打開策をウンウン唸りながら練り、気が付けば日が落ちるという日々を繰り返していたが、その間アブソルはほぼ寝たきりであまり動き回らない。
 食事量も特に減らしたりなどしていなかったが、動かない事が増えていたこともあってか、日に日にボウルに残る餌の量は増えていた。
 沢山アブソルを撫で、大丈夫と声を掛けてやっていたが、老衰の色は色濃く出始めていた。
 別れの日が近いことを晴彦は悟りながら、感謝と謝罪の気持ちで心が痛かった。
 アブソルにとって最も穏やかだった日々が続いた六日目の朝、アブソルは遂に餌を全く食べなくなった。
 水に少しだけ口を付けただけで、一歩も動いた気配がない。

『もう……お別れなのか……』

 少しでも元気になるようにとアブソルの体を温めてやっていたが、その体は生き物とは思えないほどに冷たくなっていた。
 もう、体に熱を保てるだけの元気がなくなっているのだろう。
 その日は結局自分のやる予定だったことを投げ出して寄り添っていたが、アブソルの寿命が終わりを迎えようとしている決定打とも言える存在が、いつの間にか晴彦のすぐ傍にやってきていた。

「フォォォウ……」

 何処かもの悲しげな、透き通った鳴き声。
 その声の方へ視線を向けると別のアブソルがこちらへゆっくりと寄ってきていた。
 晴彦の横までやってくると挨拶でもするように晴彦の方に視線をやり、その後アブソル同士で会話でもするように顔を近付け、以前の死神と同様に静かに晴彦の横に丸くなった。

「そうか……何百年も生き続けたと伝えられていた理由はこれなんだね。君達も先代から継ぎ続けていたんだ」

 老いたアブソルの横にやってきたのは恐らく、次代の死神だろう。
 毛並みは艶やかで体格も一回りほど小さく、角や目もまだ図鑑でよく見るままだ。
 先代の死期を予見し、継ぎに来たのだろう。
 これも本来は誰もが近寄りたがらなかった森の中で行われていたからこそ、今まで死神の伝承が変わることはなかった。
 その日はそのまま日も落ち、弱りきってはいるもののまだ先代アブソルも存命だったことで二匹分の餌と自分用の食事を作り、ずっとそばで見守っていた。
 次代のアブソルの方は特に晴彦の餌を警戒するような素振りは見せず、美味しそうに自分の前に出された皿を空にしてしまい、先代の分をじっと見つめているぐらいには元気だ。
 晴彦がフードを一つ手に取り、先代アブソルの口元に誘導してやっても特に反応を示さない。
 何度か試しても食べる気配がなかったこともあり、一つ深く息を吐きながら次代のアブソルの方に餌を出してやった。

「この子の分も食べてあげておくれ」

 まだ若いからか、単に次代のアブソルは嬉しそうに笑顔を零し、尻尾を揺らしながら二匹分の餌を平らげてゆく。
 そんなアブソルの様子を見て、幼い日の自分を重ねていた。
 いつもと違う慌ただしい一日だったのは晴彦もよく覚えている。
 長雨と地震で地盤が緩み、坑道の一部が崩壊したそうだ。
 この土地に眠る資源を少しでも有効活用できないか……そんな調査をしている最中だったという。
 遺体は見つかったものの、損傷が激しかったこともあり、顔を合わせられなかったのは幸か不幸か。
 その日になって晴彦は両親の死をなんとなく理解しつつ、あの日想像することのできなかった悲しみに胸を痛めていた。
 翌日、同じように先代の様子を見守りながら、次代の面倒も見ていたが、朝から明らかに呼吸が弱々しかった。
 長く小さく吐き出す息は、もう胸を大きく膨らますこともない。
 そして掠れた声が聞こえたと共に、先代の死神も永い眠りに就いた。

「ありがとうな。そして、ごめんな……」

 死者の言葉を代弁することも、他者の想いを代弁することもできないが、それでもせめて最期ぐらいは先代に幸せを感じさせてやれたのかがただただ心に引っ掛かっていた。
 だが、眠るように息を引き取ったその最後を見るに、きっと幸せだったはずだ。

「フォォォウ……」

 訪れた時と同じように、次代のアブソルは澄んだ鳴き声を青空へと送る。
 先代のアブソルの喉が潰れていたため聞くことがなかった、伝承に残っている追悼の遠吠えがそれなのだろうと理解し、同時に今目の前にいる若いアブソルがまた同じ悲しみと苦しみに満ちた役を継ぐのだと思うと、晴彦は自然と口に出していた。

「もう二度と、君達死神をこんな目には遭わせない。一緒に変わっていこう」

 次の死神は晴彦の言葉を理解したのかしてないのかよく分からない表情で晴彦を見つめ返す。
 そしてそのまま何処かへと行こうとしたため、またひょいと持ち上げて言い聞かせた。

「この家を君達死神の住処にしてくれ」

 そう言ってまた余っていたクッションなんかを集めて次の死神の為の寝床を用意してやった。
 言葉の意味を理解したのか、単にその寝床が気に入っただけなのかは分からないが、そこにストンと腰を落としたため家に居てくれる気にはなったのだろう。
 それを見て軽く頭を撫でてやった後、先代のアブソルの亡骸をクッションで優しく包み込み、寺へと持っていった。
 理由は言うまでもなく、そのアブソルも埋葬してもらうためだ。
 住職には当然猛反発されたが、次の代のアブソルが来たこと、祖父の仮説は正しかった事を告げ、同時に今までずっと村人達を見守り続けてくれた死神達を弔うためにも埋葬して欲しいと深く頭を下げ続けた結果、根負けしたのか晴彦の思いを汲んで遺体を預かってくれた。
 その足で次に向かったのは役所、と思いきやすぐに自宅へと戻っていった。
 次代の死神がキチンと自分用の寝床でドヤ顔を見せているのを確認して少しだけ安心し、頭を撫でながら話しかける。

「僕も君もさ、偉大な親の意思を継ごうとしている者同士なわけさ。君はもう立派に継いでるのかもしれないけど、僕はまだまだこれから頑張らなくちゃいけない。だから君の力も借りたいんだ。この村の全部を使って、もう一度この村はいい所なんだって他の人達に教えたい。その為に君にも協力して欲しいし、君の事は必ず守る。約束するよ」

 話を聞いているのかは分からないが、撫でる手に頭を擦りつけてゴロゴロの喉を鳴らしている所を見るに、信頼はしてくれているのだろう。
 その信頼を壊したくないからこそ晴彦は今の死神のイメージを払拭し、その能力を利用した新しい関係性を築きたいと考えていた。
 一応そのための策と、それを使った村興しの案は頭の中にはあったのだが、実現できるかどうかは村長に相談しなければ実現しない。

「まあ、これから長い付き合いになると思うし、ずっと"死神"だなんて味気ない呼び方するのもなんだし、名前なんてどう?」

 そう話しかけるとアブソルは同意でもするように一つ声を出した。
 それを聞いて晴彦も納得するように頷き、予め決めていたのか寄ってきたアブソルを伸ばすように持ち上げ、こう呼んだ。

「オスカーなんてどうかな?」

 そうして死神は、オスカーという名を気に入ったとでも言うように、尻尾を振りながらもう一度一つ声を上げた。

6 


 オスカーはその名前も、名前を与えてくれた晴彦の事も気に入ったのか、先代とは違い特に用がなければ晴彦の傍に居てくれるようになった。
 寝床でゆっくりしたり晴彦の用意する餌を美味しそうに食べたり、近々試験に臨むために絞り始めた晴彦の手持ちのポケモン達と交流したりといかにも野生のポケモンとしての生を謳歌しているように見える。
 暫くはそうしてあまり敷地内から出ないように見張りつつ、ジムリーダーとしての様々な課題や、自分の思う村を興すための方法を模索してゆく。
 そうそう人が死ぬような事が立て続くこともなく、のんびりと過ごすオスカーを眺めること早数ヶ月、漸く自分の課題にも光明が見えてき始めた。
 だからこそ晴彦はある程度オスカーがこの環境にも慣れたのを見計らい、オスカーを連れて役所へと足を運んだ。
 理由は当然オスカーの紹介だけではない。

「村長。村興しの案、今一度練り直してきました」

 そう言って晴彦は紙に印刷した厚い資料を村長に渡す。
 書かれた内容はそれまでのふんわりとしたスタジアムによる興行収入といったものではなく、隅から隅までしっかりとした案となっている。
 初めは紹介も兼ねたオスカーの死を予見するこの地域特有のアブソルの能力を活かし、重病人の発見を行うこと。
 オスカーを含めた死神となるアブソルは、死に瀕した者を感じ取る能力を持ち、遠吠えのような鳴き声を持って報せる。
 伝承にも残っていた内容であり、その確実性は村に来てからの諸々を見てきたため晴彦自身が証人となれる。
 この情報を元に隣町の病院に重病患者の運び込みを行いたい旨を伝え、政策として確定した場合の確認を先に取ったのだが、死神の伝承自体が有名だったこともあり、その実態が分かったのであれば有用性があるだろうという事で掛け合ってくれる運びとなった。
 それに伴い、町と村を繋ぐ道があまり整備されていないため、道の整備を行い、救急搬送をより円滑に行えるようにした上で、ネット上に今の自分が危険な状態かどうかを診断できるシステムを公表する予定となっている。
 この道路の布設に関してはまだ確定事項ではないが、好条件となるものとして村の生産品を素早く町まで出荷できるようにするための道と、晴彦がジムリーダーに正式になった場合に様々な目的で訪れる人々の通路にもなり得る。
 なので布設そのものはこれらの計画がうまくいけば問題ない計算だ。
 また土地に関しては有り余っている旨を予め伺っていたため、ウールーやミルタンクのような畜産業、そして野菜類を育てて村の特産品として出荷できるように農林業を整え、それに伴ったシステムとしてポケジョブの依頼と移住支援としての情報を整える予定。
 更に閉山した鉱山に関しても、石炭は現状であればゴミ処理場の燃料や火力発電所の燃料、そして豊富な石炭はセキタンザンの繁殖に適している環境となるため、新たな生態系の場とするかはまだ検討中だが、ポケモンと協力し新たな鉱山としての姿を取り戻すことも可能だろう。
 森に関しても色々と検討したが、この地域特有のアブソルが生息している事、そして既存のアブソルの持つ特性と違う点から混乱やこの村で起きたような恐怖の電波を起こさないようにするために、禁忌の森としてこれからも立ち入りを禁止するべきだろうというのが晴彦からの提案だ。
 移住計画に関しても実は既に水面下で話を進めており、仕事があるのならば移り住みたいという声も少なくはないというデータが取れており、それに伴った移住計画の推進を村に正式に出してもらえればそれに伴った移住計画プランを公開できる準備が整っていた。

「この村で可能な生産業、それに伴う道路拡張、村の新しい名物、そして……自分のジムリーダーの試験、全てが準備段階ですが、ここまで計画できました」

 広げた数々の資料全てに目を通してもらい、晴彦は最後にそう村長に話した。
 それを見た村長は暫く資料を眺めた後に目頭を押さえて涙を零した。

「流石は清十郎の孫……ということなのだろうな……」

 そう口にした後涙を拭い、しっかりと晴彦の目を見て口を開いた。

「この村は昔はあまり野菜が育たなかったそうだ。今でこそ地質調査や草タイプのポケモンのおかげで育ちにくい土地でも問題がなくなったが……それが分からないほどの昔はそれはそれは苦労した。貧困にあえいでいたこの村に別の可能性をもたらしたのは清十郎、つまり君のお祖父さんだった。山の地質を調べ、多くの石炭が眠る事を突き止めて、村は炭鉱業のおかげで栄えた。そしてエネルギー資源が石炭から石油に移り変わり、村の先行きがなくなった時、今度は君がこうして他の可能性を示してみせた。本当ならば、清十郎が村長の座に着くべきだったのに、あいつは『ただみんなのために何かをしたかっただけだ。(まつりごと)とかは苦手でなぁ……』と照れくさそうに言っただけだった……。本当ならば君が提案した内容のうち、どれか一つだけでもあればよしとし、残りの問題は私達が解決する算段だった。その全てを一人でここまでしっかりと計画するとは想像もつかなかったよ」

 村長は昔話を語りながら、若き日の清十郎の姿を今の晴彦に重ねていたのだろう。
 元々村人の中にポケモンの扱いに長けている者がいなかったこともあり、炭鉱業のためにローブシンやドリュウズのようなポケモンを扱える人が何名かまだ生きている程度だった。
 一人一人と若者が離れていたこの村をポケモンの力で興すことも難しいと考えていた所に、逆の発想を持ってきたのは村長としては相当の驚きだっただろう。
 だがそれを聞いて晴彦は首を横に振った。

「いえ、一人だけならきっと自分がジムリーダーとなる以外の案を思いつく事は出来なかったと思います。この村の詳細な知識やアドバイスは村長や村の皆が、村で働くための沢山のポケモン達は僕がこれまで出会ってきたポケモンやトレーナー達が、様々なシステムや移住者の話は爺ちゃんが残してくれた繋がりで知り合った人達が、できる限りの知恵を貸してくれました。全ては僕一人ではなく、皆が僕を通して協力してくれたおかげです」

 そう言って晴彦は深く頭を下げた。
 これまでの村長や皆の協力、そして村長が晴彦の案を受けてくれたことに対する感謝もあったが、それ以上に村長が晴彦を通して自分の目標でもあった清十郎の姿を自分に重ねてくれたことがとても嬉しかったのだ。

「しかし……何故、この村の名物をこのアブソルにしたのだ? 確かに清十郎と君のおかげでこのアブソルにはなんの害もない事は分かったが、保護するだけでは駄目だったのか?」

 顔を上げた晴彦に、村長は一つだけ不思議そうに質問した。
 確かにアブソルは死神と恐れられていただけでなんともなかったのだが、わざわざ目立つようにすればまた同じような事が繰り返されるだろう。

「……確かに保護してしまえばそれで終わりでしょう。でも、全ての切欠を作ってくれたのは死神の伝承でした。だからこそ、誤解のままで終わらせたくないし、オスカーには今までの死神達と同じように、みんなを見守っていて欲しいんです」

 清十郎の死の間際に死神が居合わせたからこそ、この死神の伝承の謎が紐解けた。
 全ては誰かの最後を看取りに来ていただけの心優しいアブソルと、死の間際に居合わせる不気味さが生んだ誤解だったわけだが、だからといってそのアブソルの行動を全て抑制してしまってはこれまでの死神達がどれほど人間に嫌われても続けていた行為そのものを無駄にしてしまう気がした。
 だからこそただ全ての人達に、受け取り方を変えて欲しかったのだ。

「全ては見方次第なんだ……とオスカー達やお爺ちゃんの死を通して理解できました。そのおかげで死神はただの優しいポケモンで、何もない村はなんでも出来る村なんだという発想に至れたからこそ、オスカーにはこれからもみんなを見守っていて欲しいんです」

 そう言って晴彦は二人が長々と話していた間、横で大人しく丸まっていたオスカーを抱き上げて村長に紹介するように顔を向けた。
 当のオスカーは長い話し合いが終わり、退屈な時間が終わったのかと期待するようにパタパタと尻尾を振っているだけだ。
 それを見て村長も嬉しそうに微笑み、オスカーの頭を優しく撫でた。

「後の事は私達に任せてくれ。スタジアムやジムの建設に必要な土地も当然全て承認する。全力でジムリーダー試験に臨んでくれ」
「はい! ありがとうございます!」

 そうして二人はしっかりと握手を交わし、また忙しい日々へと舞い戻った。
 あれこれと村の再開発のための案を形にしてゆく度に、インターネットを使ったポケジョブや移住計画の公開を役員の若い人と共に進め、必要となるポケモンは晴彦がこれまで捕まえたポケモン達や交換によって次々と手に入れ、一匹一匹にちゃんと説明して村へと招き入れてゆく。
 同時進行でジムリーダーとして必要なポケモンの育成を進めてゆく。
 これまで使っていたポケモン達の戦術を一新し、新しい戦い方を落とし込めるようにポケモン達を育て直し、十分に戦えるようになるまでに更に数ヶ月の時間を要したが、村の再開発の進行具合と合わせても寧ろ丁度いいぐらいの時期になっただろう。
 そして遂に申請を出し、ジムリーダーとしての素質があるかを査定するためのリーグ運営の認定トレーナーが晴彦の元へと訪れた。
 トレーナーの方が出向くのではなく、認定トレーナーが訪問するのはちゃんとスタジアムを敷設するだけの土地が存在するかを確認するためでもある。

「本日はよろしくお願いいたします。晴彦さんのご活躍の記録の方は既に拝見させていただいておりますので、筆記試験の後、そのまま実技試験を行わせていただきます」
「は、はい! よろしくお願いいたします!」

 リーグ認定委員会のトレーナーを前に晴彦は完全に緊張していたが、その緊張を知ってか、オスカーは晴彦の足に体を擦りつけていた。
 何度も深呼吸をしてから筆記試験を受ける。
 必要なのはポケモンに関する知識だけではなく、どちらかというとジムリーダーに適性があるかの性格診断テストに近い内容だ。
 ジムリーダーとは何か、これから先何千、何万人と訪れるであろう若きトレーナー達に対してどのような影響を与えられるのかを確認するような内容には明確な答えはなくとも必要な人間性というものはある。
 そういった点では晴彦は問題はないだろう。
 だからこそ実技試験は未知が多い。
 これまではタイプを一つに絞らないように育てていたからこそ、ポケモン達のタイプを統一し、その育て方に自分なりのポリシーを持つという事が晴彦には大変だった。

「では実技試験に移ります。対戦相手はもちろん私です。事前にご回答して頂いていた通り晴彦さんは悪タイプのジムリーダーを志望しているため、私は格闘タイプのポケモンを多めにしています。勝敗は判定結果には影響しません。是非全力を尽くしてください」
「はい!」

 そうして晴彦はモンスターボールからポケモンを繰り出した。
 旅をしていた頃からのパートナーでもあるバンギラスを初めとした、上級者を相手にする場合のポケモンはポケモンリーグでも活躍したサザンドラ、新たに育てたヤミラミ、ゴロンダ、レパルダス、マニューラの六体。
 中級者用のポケモンはワルビル、キリキザン、グラエナ、コノハナの四体。
 どちらも手の内を登録時に公開しているため、認定トレーナーは完全に対策を組んだパーティーでの対戦であったこともあり、どちらのパーティーも大敗を喫した。
 唯一初心者用のパーティーであるクスネ、ポチエナ、ガラルジグザグマはそこそこ善戦したが、残念ながらこちらも敗北という結果になった。
 オスカーはあくまでこの村の守り神的な存在であるため、捕獲したり対戦で使うつもりは最初からなかった。

「それでは本日の試験項目はこれで全てとなります。試験結果は後日郵送で届きますのでお待ちください。本日はありがとうございました」
「ありがとうございました」

 そう言って認定トレーナーと握手を交わして別れたが、姿が見えなくなった後にポケモン達を労わりつつ、悔しさを表情に覗かせていた。
 いくら万全の対策を組まれていたとしてもやはり敗北は悔しいものだ。

「大丈夫。みんなよく頑張ってくれたよ」

 とはいえジムリーダーは関門であり、超えられない壁であってはならない。
 これから先も負けることは沢山あるだろう。
 熱くなりすぎてはならないと自分自身を宥めるように言葉を胸の中で反芻した。



     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇



 忙しかった日々から既に数年。
 その日晴彦は祖父母と両親の眠る墓の前にやってきていた。

「それじゃ、ちょっと行ってくる」

 何かの報告をしてから墓を後にし、そして寺の脇にひっそりと建てられた石碑にも手を合わせる。
 そこには先代の死神が眠っており、石碑にはこれまでのアブソル達を弔う言葉が刻まれている。

「じゃあオスカーは留守番をお願いするよ」

 そこにも晴彦についてまわるオスカーの姿があったが、今日の用事は村の外になるため連れていけないことを伝えると少しだけしょんぼりとしているようにも見えた。
 向かうはその地方最大の都市。
 行われるのは最大級のイベント、ポケモンリーグの第一回開会式。
 正式にジムリーダーとなった晴彦の初の大舞台だ。
 悪というタイプに相応しい風体にするため、白と灰の和服に黒のマントという衣装を用意し、それらしい雰囲気を作ってはみるものの、慣れていない晴彦は待合室でずっと緊張をほぐすために深呼吸をしたり、手持ちのポケモン達を出して一匹ずつ撫でてお互いに気を紛らわせ続けていた。
 村の政策は概ね上手くいき、村全体の活性化は目論見通りになりそうな予定だ。
 当然全てがうまくは行かず、閉山した山をもう一度開く事はできたが、環境問題の観点からタンドンを連れてくるわけには行かないとなったり、今でもあまり農耕には適さない土地だということもあって大半は畜産業と石炭の産出になったが、それでも村の活気は完全に取り戻されていた。
 特に晴彦がジムリーダーとなったことで訪れるようになったトレーナー達の口コミは大きな影響になったらしく、オスカーは晴彦の目論見通り村の名物となっていた。
 スタジアムの建設に伴い、ポケモンセンターと観客用の道路が整備されたことで移住者が増えたのが大きいだろう。

「ギギは本当に撫でられるの好きだなぁ」

 膝の上を占領しているのはバンギラスのギギ。
 ずっと晴彦の膝の上に軽く顎を乗せて、蕩けた表情で尻尾を軽く左右に揺らしながら甘えている。
 リーグでのバトルではニックネームだとポケモンが分からなくなるため種族名で呼ぶ決まりだが、別に待合室ではその限りではない。
 というよりも晴彦のこれまでの育て方もあって、ポケモン達は晴彦とのスキンシップがあると落ち着けるらしく、背後にはサザンドラが絡み付き、両脇にはゴロンダとレパルダス、椅子の下から足にヤミラミとマニューラが絡みつくという違う意味で五体全てを支配されている。
 流石に全部のポケモンを交互に撫で続ければ腕も疲れるため、休憩する頃には随分と緊張も解れていた。

「お前達のお陰でもあるんだよな。僕が悪タイプのジムリーダーになろうって思えたのは」

 そうポケモン達に語るように独り言を呟いた。
 オスカーの存在は確かに大きかったが、晴彦と一緒に旅をしてきたこのポケモン達の影響も大きかった。
 悪タイプのポケモンは気性が荒く、ずる賢いイメージが強いが、実際のところはそれは野生における自衛手段であることが専らだ。
 縄張りの主張は余計な戦闘を避けるためであり、同時に自分の群れを守るためである。
 ずる賢いポケモンも、その知能の高さを活かした最も効率のいい生き方をしているだけだ。
 結局、ポケモンの悪というものも、今晴彦に群がって甘えている状況と同じように見る方向の違いだけなのだろう。
 それを伝えたいと思ったからこそ、晴彦は悪タイプのトレーナーを選んだのだ。

「晴彦さん。開会式の準備が出来ました」
「分かりました」

 呼びに来たリーグスタッフに返事をし、出していたポケモン達を全てボールへと戻してゆく。
 そして最後に深呼吸をし、両頬をバチンと叩いて表情を真剣なものに変えた。
 死をただの別れにしない。
 清十郎との約束を果たすためにも、晴彦は出会いと別れの全てを胸に、ジムリーダーとしての第一歩を踏み出した。
 きっとこれから先もずっと、出会いと別れを良い方向へと変えてゆくことだろう。


あとがき 

初の官能・非官能同時参加にしてどちらも入賞させていただきました!
ありがとうございます!(正直二度とやれる気がしない)
こっちの作品は自分の飼っていた犬が少し前に大往生したこともあり、その時の感情を忘れたくなくて書いた作品です。
あの時は不思議と涙よりも自然と『お疲れ様』という思いの方が強かったので、晴彦にも死をただの別れにはしてもらいたくなかった、という自分の思いが強いですね。
大体官能の人と思われているので、非官能の方で優勝させていただけたのは光栄であると同時に、自分の思いは作品を通して伝えられたのかなと思うと嬉しい限りです。

残りは大会時に頂いたコメントへの返信をさせていただきます。

>アブソルの逸話として、こういう関係だったらいいなと思える興味深いお話でした。

 アブソルは初登場の図鑑説明から死を連想させるポケモンで、図鑑説明でも度々その部分が言及されていたので是非とも幸せになってもらいたいですね。

>重厚な文章と描写に惹かれました。

 ありがたい限りです。
 気に入っていただけたようでよかったです。

>死をただの別れにしない。
 沢山、沢山、想い感じる事がありました。
 文字に感想に書き起こすのは少し難しいので、この一票で代えさせてください。

 ありがたい限りです。
 それほど感じていただけたのならもう作者冥利に尽きます。

>(現実と同じ)地域社会問題を軸に、世代交代や遺志を継ぐ事をテーマにしたとても読み応えがある作品でした。祖父から孫への主人公の遷移や、問題への解答の描写に書き手の手腕を感じたと同時に、思わず目頭が熱くなりました。

 世代を経ても変わらない想い。それこそが親が子へと受け継ぐ大切なものだと自分自身も思うため、かなり力が入りました。
 ただ自分だけの力を頼るのではなく、トレーナーだからこそ人と人との関わりが重要であるというスポーツマンシップも旅の間に磨いていると直接的ではなく、成長で描きたかったので、そこが伝わったようならもう言うことはありません。
 投票していただきありがとうございました。 

>アブソルのリージョン設定もさることながら、ポケモン世界の産業に対する掘り込みの深さが圧巻でした。

 リージョン設定はアローラやガラルのようなまるっきり性質が変わるものもあれば、図鑑説明のように地域ごとの小さな差もあると思い、作中に盛り込んだ次第です。
 産業に関しては、剣盾で掘り下げられていたポケジョブのようなポケモンと人間との関わりというものや、ダンデのマントにスポンサーロゴがいくつもあったことから、産業もポケモンやトレーナー等に綿密に絡んでいるのだろうとそこから世界観を独自に掘り下げた形です。

>とてもよかったです

 ありがとうございます!

>村のため、孫のためにすべてをかけて生き尽くした清十郎さんと
 その想いを受け継いで未来を切り開いて行く晴彦さんの深い絆を感じました。新ジムを開く過程も丁寧に描写されていて面白かったです。

 人生の答えは死ぬ時に初めて分かる。と誰かが言っていたのですが、その答えとは生き残った人がその人の思いをどう理解してくれたかが答えなのだと思います。
 またジムに関しても剣盾でスパイクタウンのジムが潰れかけていたり、チェレンがジムリーダーになっていたり、アニポケでタケシがジムリーダーをジロウに引き継いでいたりと色々だったので、これから先ジムができ、リーグが開催されるようになる地方があってもおかしくはないのではないか? と思い立った次第です。

>投票しました。老いた死神の最期に、去年死んだペットの猫の姿が重なりとても惹き込まれました。おじいさんと孫、役を引き継いだ死神。ストーリーの作りがとても素晴らしかったです。

 実はモデルの件なのですが、「死を看取る猫」と言われたオスカーもモデルにしています。
 アブソルは犬的でもあり、猫的でもあるという個人の解釈があったので、犬っぽさと猫っぽさを介在させているつもりです。
 『死』という悲観的なテーマを前に、ただ死んで終わりではあって欲しくないからこそ、逝く者の想いと残されたものの思いを中心に書きました。

>読んでいて、目頭が熱くなりました……
 清十郎 から 晴彦。そして死神である先代アブソル から オスカー……
 みんなが頑張って、先代からの想いを良い形にして引き継いでいっている姿に、
 本当に心が揺さぶられました。
 素敵な作品を読ませていただき、本当にありがとうございました。

 伝えたかった事は全部伝わったようで、もう作者としてはありがたいの一言に尽きます。
 こちらこそありがとうございました。

以上、コメントありがとうございました。
また別の作品で会いましょう。


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Last-modified: 2021-01-18 (月) 02:04:16
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