作者:両谷 哉
注:この作品には今後官能表現が含まれます。
緑色の服に身を包んで、同じ色の帽子をかぶっている。
なんか、アレだ。キノガッサの頭に似てるな。
アブソルとリングマって言ったよなぁ……もしかして、アイツらの飼い主か?
窓の枠に掴まってオレはもっと身を乗り出して小屋の中を覗き見た。
「おぉ、毎日ご苦労じゃのぅ。だがのぅー……やっぱり……」
「あ……そ、そうですかぁ……」
年老いたニンゲンの言葉の意味を理解し、緑のニンゲンは小屋の中に入りながら残念そうに項垂れた。
「もう預けて2週間になるのに……」
「じゃがどうする? まだ預かっていようかね?」
「あ、はい。あと3日はキンセツにいるつもりなのでそれまでお願いします。それでもダメだったら、諦めます」
そう言って、緑のニンゲンはニコッと笑った。
……笑ってはいるけど、内心はすごく悲しんでそうに見えて、リングマがアブソルに言っていた、飼い主の事は嫌いなのか、の意味が何となく分かった。
あんな顔見ちまったら、期待を裏切らないワケにはいかないよなぁ。
と、ここまで思って、オレの飼い主はどんな顔してんのかね? と、オレは飼い主のニンゲンの顔を見ようとした が──
……おい。何で緑のニンゲンの方を見てるんですかね、飼い主。こっち向けよ。
スリーパーの金縛りを喰らったかのように、固まっちまってさ。どうしたんだ?
「…………」
「しかし……どうしたら仲良くなってくれますかね」
「まぁ、相性と言うものもあるしのぉ……」
「…………」
「でも普通なら同グループならたまごは出来るんですよね?」
「そのハズなんじゃがのぉ」
「…………はっ!」
ボケーっと緑のニンゲンを見つめていた飼い主だったけど、ここでようやく気を取り戻したようで頭をブンブンと左右に振り回した。つか汗が飛んでるぞ。拭けよ……。
「あ、あぁああ、あ! あっあの!」
「はい?」
飼い主のニンゲンが緑のニンゲンに声をかけると、彼女は振り向いて返事をした。
「あ、あの、ののっ。そ、の……えっと! あ、あなたも、ポケモン……預っけっ……て、いるん、で、す……かッ!?」
うはー。スゲーどもってやらぁ。
何かメチャクチャ緊張しているみたいなんだけど、どーしたんだ? オレの飼い主。
だけども、緑のニンゲンは引く事もしないで、ニコリと笑ってえぇ、と返した。
すると飼い主は「じ、自分もそうなんですよー!」とデカイ声でまた返した。
「へぇ。どんな子を預けているんですか?」
「あ、え、く、クチートと……チェリムです」
「チェリム?」
緑のニンゲンは首をかしげた。多分、シンオウのポケモンの事は知らないんだろう。
オレと同じ事を思ったのか、飼い主は
「あ、シンオウ地方に生息するポケモンなんです。あ、あのッ! じ、実は他にもシンオウのポケモン持っているんですよ! よ、良かったら……ご、ごらんになりっますっっ!?」
と、必死になりながら緑のニンゲンを誘った。
……ここで、オレは勘付いた。
ははーん……飼い主。この緑のニンゲンのメスに惚れたのか。
ぽかん、としていたニンゲンのメスだったけどすぐにニコッと笑顔を作って
「えぇ。是非とも見て見たいです」
と、返事をした。ら、飼い主のニンゲンは両腕を天井へと掲げて「ヤッター!」なんて叫んでる。
うひゃー。見てて恥ずかしいったらありゃしねー。
オレはここで小屋の中を覗くのを止めた。
窓の枠から手を離して、身体を支えていた大顎の力を緩め重力に引かれてそのまま足を地面に付け、庭の中へと駆け出した。
森の近くには池があり、そこでは水ポケモンがくつろいでいたのが見えたが、場違いなポケモンの姿があるのを見つけ、オレはソイツへと近づいた。
おい、と声をかけると、ソイツはデカイ図体をビクリと跳ね飛ばし、オレに振り向いた。
「……あ、やぁ、おはよ……」
そろそろと腕を上げて挨拶するのはもちろんリングマだ。
池の淵に腰掛けて、両脚を池の中に入れていた。
オレはリングマと同じ挨拶をして、彼の隣に座ってはさっきオレが見た緑のニンゲンのメスの事を話した。
するとリングマは「えぇ!?」と返事をした。
「ご、ご主人様……今日も来ていたんだ……」
あ、やっぱりコイツとあのアブソルの飼い主だったんだな。
そいや、昨日コイツはアブソルに、飼い主は毎日来ているって話していたなぁ。
ずいぶんとマメなニンゲンだこと。
……まぁ、オレの飼い主も毎日来るって言っていたからお互い様か。
ふぅ、とオレはため息を吐いて池に映る空を見て、本物を見るために上へ仰いだ。
白い雲が太陽を覆うように、空の中に浮かんでいる。
……今日、晴れるのは無理っぽそーだな……。
オレはリングマの横に木の実がいくつか散らばっているのを見つけ腕を伸ばしてその中の1つを手に取った。考えたら、朝飯まだだったし。
「ボクね……彼女の事、たまごから孵化した頃から見ていたんだ……」
マトマの実を頬張るオレの横で、リングマが淡々と話し始めた。
「最初は妹分が出来たーって喜んでいたけど……オスとして育てられていく彼女はまるで弟みたいになっちゃって……そんな彼女を見ているうちに……うん……その……えっと」
見ているうちに? 何だよ?
……って、まぁそっから先は言わなくても分かる。
何故ならば、リングマのこのどもり方はテンションの違いはあるけれど、さっきのオレの飼い主と同じだったからだ。
つまり、リングマはあのアブソルに惚れてるってね。
ならば、この育て屋に一緒に預けられたのはリングマにとっちゃぁ最大のチャンスだろうよ。
だけどもアレか。勇気がねーんだね、コイツ。
ぶっちゃければ、リングマはアブソルよりも強いとオレは思うね、うん。
だからオレはリングマにアドバイスをしてやった。
もうムリヤリにでも襲っちまえば? って。
……したらさー。もうリングマは大慌て。
喰っていたモモンの実を噴出して、池の中にそれらが落ちてって
水中にいたコイキング共が我先にとそれらを奪い合っていた。うは、スゲー光景……。
「え、ちょ、ちょちょちょ! そ、そそそそれはダメ! ダメだよ!!」
足元でバッシャバッシャ跳ね飛びまくるコイキング共に気がつきもしないくらいにリングマは慌てていやがった。オレは冷めた目でリングマを眺めて、半分残っていたマトマの実を全部口の中に入れて、それを噛み砕きながらまた言った。
……オマエの飼い主、あと3日ここにいるけどそれまでにたまごが生まれなかったら諦めるって。ね。
つまり、もう今日明日しか猶予が無いってコトだ。
これを逃したらマジで二度とチャンスが無いかもしんねーぞって。
「う……で、でもぉ……」
あーぁあぁぁーぁぁぁーあああぁああ!! ホンッッット! コイツ情けねーなー。
マジでリングマなのかぁ? 実はリングマの皮を被ったヒノアラシだったりしてね。臆病モノだし。
オレは呆れながら、口の中に残った種を吐き出して腕で口元を拭き、立ち上がって腕を組んでリングマを見下ろした。
大顎を上下に揺らして、ニドキングみたいに立つオレの姿はリングマからみりゃ結構なまでに凄みがあったと思う。
クチートの姿じゃぁそうでもない? うるせーほっとけ。
現に、ヤツは「ぅぁ……」とか呟いたまま、オレを見つめて固まっていた。
……のさぁ。ホンットにオマエは情けねーな。昨日知り合ったばっかのオレが言うのもアレだけどよ、そんな性格と行動だから、あのアブソルに舐められてばっかなんだろ。
飼い主の事を思うなら、マジであのアブソルが好きならば、オスとして動いて見せろよ!!
……と、リングマに怒鳴りつけたら、その声に驚いたコイキング共がまた跳ね飛んで水中に逃げていきやがった。
……しばらく、オレとリングマは何も言わずにただ見つめ合っていた。
……そしてリングマはゆっくりと顔を伏せて独り言のように呟き始めた。
「……ボク、キミみたいな性格に……なりたかったなぁ……」
なりたかった? だって? 何を過去形にしてやがる。
今からでも間に合うだろーがよ。あと3日しかないんじゃねぇ。3日も残っているんだよ。
って言ってやったら、ヤツは「うん……」と、頷いた。
お。何かイイ反応じゃねーか。
ハラもちょっと膨れたコトだし、そろそろ遊んでこよっかねぇ。
そんじゃリングマさんよ。精々ガンバってくれな。
と、解いた腕を振りながらその場から立ち去ろうとしたらリングマは「えぇッ!? 付き合ってくれないのぉ!?」と言いやがった。
アホか。何でオレがオマエのイメチェンに付き合ってやらなきゃいけねーんだよ。
まずは一匹でどうにかする努力をするんだな。
「う……で、でもぉ……」
だーかーら! それだ。それがいけねーんだってば!
もうこれ以上付き合っていてもコイツは同じ事を繰り返すだけだろうな。
オレは木の実を数個奪って大顎でリングマの頭を軽く叩き、踵を返した。
「あ……ま、待ってよぉ」
引きとめようとするリングマの声を聞いたけど、オレは無視してさっさとその場から離れた。
……ん? 何か昨日も同じような事があったような気が……。
あぁ、そうだ。チェリムを置いてきぼりにしたのと、同じだったんだ。
☆
奪った木の実を真上に放り投げて、落ちるそれを口の中で受け取っては食う。
草花が生い茂る庭をテクテク歩きながら、オレはキョロキョロと周りを見た。
……やっぱりそこらかしこにポケモンのカップル共がポケ目を憚らずにイチャイチャイチャイチャしていてて、1匹だけのオレはカップル共が発するオーラの圧迫感に襲われた。うぅ、息苦しい……。
やっぱ、リングマといりゃぁ良かったかなぁ。……いや、ソレだとホモカップルと思われかねねぇ。
オレはノンケだ。それだけはマジで勘弁してもらいたいね。
嫌な想像をしてしまい、ウゲェ、とオレは大顎でゲップをした。
「1匹だけでいるんだろ? 俺と遊ばないか?」
不意に、背後からそんな声がした。
んん? どっかで聞いた声だなー……と思っていたらまた別の覚えのある声が聞こえた。
「え、あ、あのっ! そ、そのっ……!」
超戸惑っているメスの声だ。アレ? この声……もしかして。
オレは振り返ってその声の方向を見ると、真っ白なポケモンが、紫色のケープを纏ったポケモンに声をかけていたのが見えた。
……なんてこったい。あのオスと自称するメスのアブソルがよりによってチェリムをナンパしている所じゃないか。
つぅっか。種族違いのポケモンまでナンパするんかい、このアブソルは!
……まぁー、昨日はオレもナンパされたし、飼い主のニンゲンも好みとかぬかしていたからなぁ。
メスなら何でもいいんか……。
とにかく、今はチェリムをコイツから離さんと……何をされるかわからないしな。
オレは2匹に声をかける事にした。
呼ばれた2匹はオレに振り返って、互いに「あ」と声を出した。
よぉ、オハヨーとオレは挨拶をしてワザとらしくならないように2匹の間に割って入って彼女らを離れさせた。
アブソルは不満げな表情をして、オレを睨みつけた。うは、何とも言えない迫力だぜ……。
オレは作り笑いを彼女に見せながら、抱えた木の実を差し出してまぁドウゾ、と渡した。
そしたらアブソルは木の実に顔を近づけて、鼻をヒクヒク動かして匂いを嗅ぎ
確認するとそれを口に銜えて食べた。ほっ。ひとまずは安心かな……。
オレの後ろで、チェリムがソワソワしながらアブソルの様子を窺っていたので
オレはアブソルに視線を向けたままチェリムに木の実を1個、差し出してやった。
チェリムの「えっ」って驚く小さな声が聞こえたけど、オレはあえて彼女を見てやらない。
……ら、手の上に乗っかっていた木の実の重さが消えたのでチェリムが木の実を受け取った事を悟った。……手、あったのか……。
「何の用だ、オマエ」
ゴクン、と喉を鳴らして木の実を飲み込んでアブソルはオレに言ったがその声からはムチャクチャ不満げな様子が窺えた。
……まぁ、ナンパを邪魔されたんだしなぁ。怒っててもムリはないか……。
だからオレは、このチェリムとは同じ飼い主の間柄なんでね。と説明した。
するとアブソルは「何だ、そうだったのか」と納得してくれた。
あのリングマを嫌っていても、同じトレーナーのポケモンとしての仲は保つべきとの考えを、このアブソルも持ってはいるらしかった。ほっ……。
「なら丁度良い。俺はこの子と遊びたいんだ。オマエが仲を取り繕ってくれよ」
一安心したのは大間違いだった。
も、コイツ本気でどーしよーもねーなぁ! 本当ガックリ来るぜ!
オレは大顎ごと前に項垂れて、大きくため息を吐いた。
そして顔を起こし、そー言うのは本人の意思が大切じゃね? と返してやるとアブソルはまた不満げな表情を見せたが、今度はチェリムの方へ視線を向けて遊ばないか? と声をかけやがった。
チェリムはオレの背後でモジモジとしていたが
「……ご、……ごめん……なさい……」
と、恐る恐る、そして申し訳無さそうにアブソルに言った。
「……そうか。ならいい」
アブソルは残念そうに笑って、チェリムの拒否を受け入れた。
ありゃ? 随分とアッサリとしているな。コイツの性格ならもっとしつこく迫ると思っていたんだけどな……。
するとアブソルはオレの考えを読み取ったのか、ハハハと笑いながら説明してくれた。
「振られるのは慣れているからな。しかし解せん。
なぜ、俺のような美しく、そして強いポケモンがモテないんだ?」
……そりゃーアナタがメスだからです。
と、返したらまた違うと言われるだろうなぁ。だから言わねーでおいたよ。もうツッコむの疲れた。
「俺は他のメスを探しに行く。じゃぁな」
アブソルはそう言って、しなやかな脚で跳ね飛んではオレたちの前から走り去った。
……と、そのアブソルを目で追いかけていたらふと、別のポケモンの姿が目に入った。
草むらの中からそっと顔を覗かせて、走るアブソルを見つけてみる─リングマじゃねーか。
ははん、ようやっとアブソルを追いかける決心が付いたのかねぇ。
悠然と草の上を走るアブソルの姿が小さくなる前に、リングマは草むらから姿を表わしてこっそりと彼女の後を追って行った。
ガンバレよー、とオレは手を軽く振ってリングマに無言の声援の送った。
まるで他人事のよう? うん、文字通り他人事だもんな。
「……あ、あのっ……」
おっとうっかり忘れるところだった。
背後のチェリムの声を聞いて、オレは彼女に振り返る。
やっぱり紫色のケープを被ったままで相変わらず表情が読み取れない。
「……木の実……あ、ありがとう……ね……」
どーいたしまして。
オレはその場に座り込んで、抱えた木の実を草の上に置くとチェリムも一緒に座り込んだ。
「……あ、の……クチート……こ、ここって……どんなトコロか知ってる……?」
チェリムがオレに聞いてきたが、オレはオマエは知ってんの? と逆に聞き返してやった。
そしたら彼女はコクン、と身体ごと頷いて理解している意を示した。
なぁんだ。チェリムは知っていやがったんだ。
オレら2匹が預けられ、飼い主のニンゲンが考えている事を。
……っつーコトは知らなかったのはオレだったんかい。あの飼い主もこう言うコトはちゃんと教えろよなー。
野生生活長かった元野良には分からない事が多いんだよッ!
「……ワタシ……ね、ご主人の事、大好きなの……」
チェリムが淡々と話し始めた。はぁー、あの飼い主がスキなんか。
もちろん、見た目とかじゃなくって内面とトレーナーとしての質の事だろうね。
オレも飼い主の事は嫌いじゃぁない。
「だから……ね……。ご主人の期待には……答えたいの……」
ふぅん。期待……期待ねぇ。
オレは内心スゲェむかついていた。
飼い主が何も教えずに、育て屋に預けた事。
チェリムとの間にたまごを作る事を期待されている事。
……そして、チェリムがそれに同意している事。
オレの事を想ってじゃぁねぇ。
飼い主の事を想ってだぁ?
ふっざけんなよ! ソレでオレが納得するかよ!
オレは嫌だ。そんなのゴメンだ、まっぴらだ!!
オレは大声を上げてチェリムに今のように吐き捨てたら
彼女はビクッて身体を揺らして驚いた。
「え……あ、そ、そんなんじゃ……」
彼女は弁解するが、オレはそれに聞く耳を持つはずが無く立ち上がっては彼女に背を向けて、この場から立ち去りたい一心で駆け出した。
……また、呼び止める彼女の声が聞こえたが足はそれに反して草むらを駆けた。
あのアブソルの気持ちが本当理解出来る。
自分の意思を無視されると言うのは、実に気分が悪い。
オレはそれに反するためにチェリムから遠ざかった。
……否、逃げた。
今のオレは、あのアブソルと同じだ。
飼い主の期待を裏切り、パートナーとなるべくポケモンを拒否し、己のアイデンティティを崩されなようにと逃げる。
草むらを走りながら、俺は泣いた。
泣いた理由は、無視されるオレの意思にか? それとも飼い主の期待を裏切る事にか?
……違う。
チェリムに暴言を吐き、そして彼女を拒否する─自己嫌悪にだった。
さっき、リングマを説教したのが馬鹿みたいだ。
オレみたいなヤツが、リングマを説教するなんてお笑い種だ。
チェリムの立場は、リングマと同じだ。
そしてオレの立場は、アブソルと同じなんだ。
もう、どうすればいいのか分からない。
潰されそうなまでに重く圧し掛かる自己嫌悪に、オレはただ泣くしかなかった。
☆
翌日─
オレはあの後、森の中で1匹で不貞腐れていた。
湿った岩や木々は洞窟育ちのオレには居心地イイし、なによりもグチャグチャに乱れた心を落ち着きたかったし。
そのおかげでちょっとは冷静を取り戻せたから、今日もまた庭の中に出てくることが出来た。
空を見上げると、昨日太陽を覆っていた雲は風に流されたようで、白い点一粒も無く晴れ渡っていた。
つか、ちょっと日差しが強くねぇかぁ? 暑っちぃよ!
オレの身体は鋼なんだよ。気温が高いとテンションも下がるぜ、ったく。
つぅか、ハラ減ったなぁ……。
オレはテクテク庭を歩きつつ、木の実がどっかに無いか探していたらまたあの小屋の前を差し掛かり、そしてまた、その中から覚えのある声を聞いた。
大顎で身体を支えて、窓越しから小屋の中を覗くとオレが予想したとおりの光景が広がっていた。
「あ、あのぉ。ボクのクチートとチェリムの様子、どうですか?」
本当に今日も来たんかい、オレの飼い主。
昨日と同じで身体中から噴出させた汗をハンカチでふき取っているけど、追いかねぇんじゃねぇ? ってくらいダラダラに汗が流れてやがる。
そしてその隣に、あのリングマとアブソルの飼い主が立っていた。こっちも今日も来たんだな。
「うーむ。昨日は少しだけ一緒におったけどのぅ……また、離れてしまったのぅ」
年老いたニンゲンが言うと、飼い主はガックリと項垂れた。
……つぅっか、本当いつの間に見てたんだ? この年老いたニンゲンは。
……するとオレが泣いていたのも見たのかな……
……よし、飼い主に返される時にこの年老いたニンゲンの口を封じよう。
「あの、私のリングマとアブソルは……」
「ふぅむ。リングマがアブソルを追いかけておったぞ。
アブソルは逃げ回っておったが、少しは進展があったらしいのぉ」
「本当ですか! うわぁ、嬉しい! 早く仲良くなってくれないかな」
緑のニンゲンは両手を合わせて、喜んでいた。
……本当、嬉しそうな顔しちゃってさ。その反面、オレの飼い主ったらどーよ。
汗まみれで落ち込むその顔はマジでキモイ。思わず目を逸らしたくなったね。
もうさ、笑えば? 笑えよ。……そんな悲しい顔、見たくねーんだよオレは。
オレは身体を支えていた顎の力を緩めて、窓の中を覗くのを止め地に足をつけた後に、小屋の壁に背を寄りかけて、はぁー……とため息を吐いた。
……さんさんと輝く太陽が目に痛い。
また、森の中に行こうかなぁと、考えた時だった。
「……おはよう……!!」
誰かが、オレに挨拶をしたのでオレはその声の方へと顔を向けた。
親しげな様子の声だったから、てっきり顔見知りの3匹のうちの誰かだと思った。
だけども、そこに居たのはオレが初めてみるポケモンだった。
だから、オレは思わずこう返してしまったんだ。
アンタ誰? ってね。
──欺き鋼と太陽の花・三話──
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