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物語内での2日目に突入です。
作者ラプチュウより
朝日がフォレストタウンを照らし始める。ギルドのホールにも、天井の水晶を通して光が届いていた。太陽光が優しく照らすホールに、最初に姿をあらわしたのは、全身が鉄のようなかたい鎧に覆われ、頭にはイルカの背びれによく似た突起物を持ち、ブーメラン状の羽が数枚重なったデザインの翼を持ったよろいどりポケモンのエアームドだった。
「ん~……今日もいい天気みたいねぇ……」
誰もいないホールで、エアームドが天井から降り注ぐ光を浴びながら翼を大きく広げて伸びをした。全身を震わせたあとで翼をたたむと、ホールに別のポケモンが姿をあらわす。サンショウウオのような鱗のないしめった体とタヌキのような尻尾を持ち、背中には紫色のヒレ状の器官を持ったみずうおポケモンのヌオーだ。
「やぁ~、あいかわらず早起きだね~、エリゼ~」
「あらレイルじゃないの。珍しいわね、あなたがこんなに早いなんて」
エリゼと呼ばれたエアームドは、ゆったりとした動きでホールに入ってきたヌオーに挨拶を返す。レイルと呼ばれたヌオーは、エリゼのそばで立ち止まると頭をかきながら口を開いた。
「うん~、なんか今日は目が覚めちゃって~。昨日新入りさん来たでしょ~? だからかな~」
「まぁ確かにこのギルドに新入りなんて久しぶりだし、レイルの気持ちはわかるわ」
二匹がそんな話を交わしていると、別のポケモンがホールに姿をあらわした。昨日ギルドのカウンターに座っていたヒヤップだ。
「エリゼさんにレイルさん、おはようございますぅ」
「おはよう~、アクアス~」
「アクアスおはよう」
挨拶をしてきたヒヤップに対し、レイルとエルザはヒヤップの事をアクアスと呼んで挨拶を返す。そのアクアスの後に続くように新たに二匹のポケモンがホールに姿をあらわした。
「みなさんおはよう!」
天井で光る水晶を見上げながら笑顔で挨拶をしたのは、茶色の体で大きな耳と両腕の先に白くふわふわした体毛を持ち、目の上に付いた鳥の羽根によく似た器官がまゆげのように見えるうさぎポケモンのミミロップだ。
「おはようみんな」
ミミロップに続くように、オレンジ色の体に背中には柳の葉に似た茶色の模様を二本持ち、ウサギの後ろ脚のような大きな脚と三日月状の茶色でふちどりされた耳の先にはカールしたような毛のような器官が、長い尻尾の先には稲妻の形をした器官を持ったねずみポケモンのライチュウが挨拶をする。
「おはようクイーン、ライト。いつもの夫婦(めおと)出勤かしら?」
エリゼの返してきた言葉にライチュウはうんざりといった表情を浮かべながら大きく息を吐く。
「エリゼ……その言い方はやめてって何度言ったら……」
「いいじゃない別に。ライトだって本当はまんざらでもないんでしょ?」
「ちょ、ちょっとクイーン!」
ミミロップは、言葉をさえぎるようにライトと呼びながらライチュウに抱きつく。一方のライトは急に抱きついてきたミミロップをクイーンと呼び、顔を赤らめていた。
「はいはい、朝っぱらからお熱いことで」
エリゼはそう言いながら左の翼で自分をあおぐ動作を見せる。そこへまた三匹のポケモンがやってきた。
「よぅ、またエリゼがクイーンとライトをからかってんのか?」
声のした方へエリゼ達が視線を向けると、そこにいたのはバウムとリーセル、そしてクレアだった。リーセルとクレアはまだどこか緊張が残っているのか、表情が少し固い。
「お、おはようございます!」
「おはようございます、先輩方」
リーセルとクレアがそれぞれ朝の挨拶をすると、ホールにいたメンバーはそれぞれ挨拶を返す。挨拶を終えて顔をあげたリーセルの背中を、バウムが軽く叩いた。
「そんなに固くなるな、今日から探検隊としての修行が始まるんだぞ?」
「は、はい……」
リーセルはその場で一度深呼吸をする。少しして、ホールにクラウスが姿を見せるとその場にいた全員がクラウスの方へと向き直した。
「おはよう、みんなそろっているな。今日から新しい仲間も修行に入るから、各自仕事の合間にいろいろと教えてやってくれ」
「「「はいっ!」」」
クラウスの言葉に、ギルドメンバー全員が声をそろえて返事を返す。その後、バウムが一歩前に出ると大きく息を吸い込んだ。
「ギルド心得ぇ!」
バウムの出した大声に、リーセルとクレアは驚いて体をこわばらせた。
「「「ひとーつ! 引き受けた仕事は最後までやり通す! ふたーつ! ギルドに泥を塗るような事はしない! みっつ! いつでも明るく元気なギルド!」」」
ギルドメンバーが声をそろえてギルド心得を叫ぶ中、リーセルとクレアは口を開いたまま唖然としていた。ギルド心得を言い終わると、バウムがメンバーの方に振りかえる。
「さぁ、今日も一日がんばっていくぞぉ!」
「「「おぉーっ!」」」
掛け声とともに、エリゼ達がホールを後にする。ホールに残ったのはクラウスとバウム、そしてリーセルとクレアだ。クラウスはリーセルとクレアに歩み寄ると、二匹を見ながら口を開く。
「さてと……それじゃあリーセルにクレア、準備をしてホールで待っててくれ。昨日話した通り、案内してもらわなければならないからね」
「あ、はい」
「わかりました」
リーセルとクレアは、準備をするためにホールを後にする。後に残されたバウムは首をかしげながらクラウスに向き直った。
「昨日話した通りって……親方、何の話ですか?」
「バウム、お前にも一緒に来てもらいたい。……とりあえず私の部屋に行こう、そこで説明する」
そう言うと、クラウスはバウムを連れて自室へと戻って行った。
――――――――――
フォレストタウンのはずれにある森の中に朝日が差し込む。木々の隙間から森を照らす光の柱が、幻想的な光景を作りだしていた。そのうちの一本が茂みに出来た草のドームを照らし出す。編み込まれた草の間から、ドームの中へと光が漏れていた。
「ん……」
ドームの中で眠っていたサイクロンが、光に顔を照らされて目を覚ます。サイドのチャックを開けて寝袋を開けてから起き上がると、腕を大きく上にのばして伸びをした。サイクロンが腕を下ろすと、横で眠っていたフィリアも目を覚ます。フィリアは立ちあがり、前足を前方へ大きく突き出して体を伸ばしたあと、サイクロンの方に向き直った。
「おはようございます、ご主人様」
「あぁ、おはようフィリア」
挨拶を返されたフィリアは、そのままサイクロンにすり寄る。サイクロンは、すり寄ってきたフィリアの頭をやさしくなでた。
「さてと……フィリア、ちょっと外に出てポケモンがいないかどうか確かめてきてくれないか?」
「はいっ!」
フィリアは元気よく返事をすると、草のドームから外に出る。森の中は木々の隙間からの太陽光で照らされているとはいえ、まだ少し薄暗かった。フィリアは辺りを注意深く見渡してみるが、自分以外のポケモンはどこにも見当たらず、聞こえてくるのは水の流れる音ぐらいである。
「ご主人様、誰もいませんよ」
フィリアが振り返って草のドームに向けて呼びかけると、その呼びかけに応じるようにサイクロンが草のドームから出てくる。サイクロンは立ちあがって周囲を確認するが、フィリアの言うとおりポケモンの姿は見当たらなかった。
「これだけ立派な森ならポケモンの一匹や二匹、いそうなもんだけどなぁ……」
右手で頭をかきながらサイクロンがぼやく。フィリアはサイクロンの足元に駆け寄ると、その場に座ってサイクロンを見上げた。
「昨日のリーセルとクレア……でしたっけ。あの子達はこの森に住んでないんでしょうか?」
「いや、彼らはギルドに弟子入りしたって言ってた。近くにポケモンの街もあるらしいからそこに住んでるんじゃないのかな」
フィリアの言葉に返事をしながら、サイクロンは水の音がする方へと歩いていく。フィリアもそのあとを追いかけるように歩き出した。少し茂みをかき分けて進むと、ちょうど草のドームを作った裏手に小川が流れているのを見つけると、フィリアは小川に駆け寄って水を飲みだす。サイクロンも小川に近づくと、しゃがみ込んで両手で水をすくい口に運んだ。
「ふぅ……」
サイクロンは水を飲み終えて口を拭うとしゃがみ込んだままで空を見上げる。木々の隙間から見える空はどこまでも青く澄み渡っていた。
――森にポケモンが一匹もいないというのは妙だけど……昨日聞いた伝承にあった、ポケモンの力だけでは解決できないような危機が迫っているようには思えないけどなぁ。俺が本当に伝承にある選ばれた人間なのだとしたら……俺の役目って一体、なんなんだろう――
「……ご主人様?」
不意に呼ばれて、サイクロンが声のした方へ目を向ける。フィリアが少し心配そうにサイクロンの顔を見つめていた。
「どうかしました? なんか難しい顔してましたけど……」
「あ、あぁごめんごめん。大丈夫、ちょっと考え事をしていただけだから」
「考え事って……昨日リーセル達から聞いた伝承の話、ですか?」
「まぁ、な」
サイクロンは、少し不安そうな表情を浮かべるフィリアの頭に右手をのせる。
「心配するな。来れたんだから必ず帰れるさ」
サイクロンはフィリアに微笑みかけると、立ちあがって腰に手を当てた。
「さてと、秘密基地に戻ろうか。今は他のポケモンに見つかるわけにはいかないし」
「はい」
そう言って、サイクロンがフィリアと草のドームへ戻ろうとしたときだった。大きな爆発音が辺りに響き渡る。その音に、サイクロンとフィリアは体をこわばらせる。
「な、なんでしょうか……今の音……」
「何かが爆発した音……いや、ポケモンの攻撃か?」
フィリアは突然聞こえてきた爆発音にとっさに臨戦態勢を取っていた。そうこうしていると再び大きな爆発音が響き渡り、続けて木の幹が折れながら倒れる音が聞こえてくる。木が倒れ込む音と同時に、大きな土煙が青い空にあがった。
「……あっちだ!」
サイクロンとフィリアは、土煙があがった方向へ向けて走り出した。
――――――――――
一方でフォレストタウンにあるギルドのホールでは、リーセルとクレアがクラウスを待っていた。リーセルの首にはピンク色のスカーフが巻かれ、クレアも右耳に黄色いリボンをつけている。
「親方様、サイクロンと仲良くなれるかなぁ」
「さぁ……でも悪いようにはしないんじゃない?」
二匹がそんな会話を交わしていると、奥からクラウスがバウムを連れてホールに姿をあらわす。
「やぁ、待たせたね。今回はバウムも一緒に来てもらう事にした」
「バウムさんも?」
リーセルはクラウスの横で複雑な表情を浮かべているバウムを見て言った。
「なぁ、本当なのか? 昨日俺と東の森で会う前に人間と一緒にいたっていうのは」
「僕たちはうそなんかついてませんよ。ねぇクレア?」
「え、えぇ……」
バウムの問いかけにリーセルが答える。リーセルに同意を求められたクレアも返事を返した。
「けど……信じられませんよ……人間がこの世界にあらわれたなんて。もしあの伝承どおりなら……」
「とりあえず会ってみようじゃないか、その人間に。話はそれからだ」
クラウスの言葉に、一同がホールから出発しようとした時だった。ホールにアクアスが慌てた様子で走り込んでくる。
「お、親方様ぁ!」
「アクアス、どうしたんだそんなに慌てて……」
アクアスは、荒れた息を整えるためにその場で数回大きく呼吸をする。
「ひ、東の森で大きな爆発があったとかでぇ……もしかしたら、例のグループの仕業かもぉ……」
「東の森で……? あっ、サイむぐぐっ!」
「ばかっ! 何考えてんのよ!」
リーセルが叫びかけた言葉を、クレアがとっさに口をふさいで飲み込ませる。その様子に、アクアスは首をかしげた。
「わかった、私達で見てこよう。バウム、それにクレセルズ、急ぐぞ」
「あ、はい!」
「えっ、クレセルズも連れて行くんですかぁ?」
クラウスの言葉にアクアスは驚いたように問いかける。
「元々、クレセルズには今日東の森で探検隊としての心構えを教えるつもりだったからな。それに……いや、これはまた後で話そう。ギルドを頼む」
「……わかりました。お気をつけてぇ」
アクアスに見送られて、クラウス達がホールを駆け足で後にする。
「あの、バウムさん」
「なんだ?」
リーセルが走りながら、バウムに話しかける。
「さっき、アクアスさんが言ってた『例のグループ』って……なんのことですか?」
「あぁ、そのことか」
リーセルの質問に、バウムは走りながら答え始める。
「最近、あちこちで暴れ回ってる悪党のグループがあってな、ギルドにも何度かそのグループ関連の依頼が来ていたんだが……そいつらが暴れ回ってるかもしれないって話だ」
「そ、そんなポケモン達と戦うかもしれないの?」
クレアは少し不安そうな表情で聞き返す。そんなクレアにリーセルが近寄って笑顔で話しかけた。
「大丈夫だよ、今回は親方様だっているんだし。それにもう僕たちは探検隊なんだ、怖がってちゃ何も始まらないよ」
「そ、それはそうかもしれないけど……」
リーセルの言葉に楽天的だと内心あきれながらも、クレアはどこか嬉しくもあった。
――こういう前向きなところは相変わらずなんだから……まったく……――
そうこうしているうちに、クラウス達はフォレストタウンの東端――昨日、リーセルが探検隊バッジを落とした場所にたどり着く。東の森を見ると、大きな土煙があがっていた。
「リーセル、クレア、これから先何があるかわからないから決して私達から離れるな」
「はいっ!」
「分かりました!」
クラウスがリーセルとクレアに声をかける。そして、クラウスを先頭にして四匹は東の森へと入っていった。
「サイクロン……大丈夫かなぁ……」
「とにかく急ぐぞ。その人間の事も気がかりだが、まずは探検隊としての仕事の方が先だ」
バウムの言葉に、リーセルとクレアは黙ってうなずいた。
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