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森の声に導かれ

/森の声に導かれ

特に注意する事ないから、ゆっくりしていってね!!
by簾桜


「うわぁ、誰も寄り付かない森って聞いてたけど、すっごく真っ暗だなぁ……」

 一匹のポケモンが、薄暗い森の中を恐々と進んでいく。手にランプを持ったそのポケモンは、辺りを警戒しつつゆっくりと進んでいく。
 そんなポケモンの後ろから近づく、何者かの影。影はゆっくりと背後へ近づき、そして――!!


「きゃぁぁぁぁぁぁーーーー!!!」


 ……その場には、辺りを鈍く照らすランプだけが残されていた。


 僕が暮らしていた集落の近くで、一カ月前ほどに奇妙な事件が発生した。集落の近くにある深い森に、子供が一匹迷い込んでしまったというのだ。すぐに大人達は探索に向かったけど、進めど進めど何故か入口に戻されてしまうらしい。
 そして数人のポケモンが言うには……森を歩いていたら、どこからともなく声が聞こえてきたらしい。「何で……何で……」という声が聞こえ、次の瞬間には入口に戻されていたそうだ。当時の僕はバカバカしいと思っていたけど……まさかあんな形で関わる事になるとは思わなかった。
 それから一カ月経っても、行方不明の子供は見つからない。だから大人達は僕を含めた子供達にこう言うのだった。もしも森から不思議な声が聞こえて来たとしても、森の中に入ってはいけない。入ったら最後、けっして出る事は叶わない。だから森の声が聞こえたら、まっすぐ家に帰ってくること。親にもう会えなくならないように、全速力で帰らないといけない……。
 ――あの時は、親の小言のような力のないただの噂のような物だと思ってた。だから僕を含めた(と言っても僕の意思とは関係なく)数人の子供たちが、森の声の正体を探ってみようという、今にして思えばただの好奇心で動く馬鹿げたお遊びを計画したのだった。
 ……それが、僕の運命が変わる切っ掛けになるなんて、思いもしなかった。

 #

 暗闇森という名で知られる森の入り口まで来ると、既に来ていた三匹の姿が。まさかと思ったけど、まさか全員集合するとは思わなかったなぁ。

「んでぇ、とりあえず全員入口まできたけどぉ……どうすんだぁ?」

 やたらと語尾を伸ばす言い方でのんびりと聞くのは、ヒコザル種のテッド。普段はのんびり屋でゆったりとしているけど、いざという時は持ち前の素早さとガッツで戦う男の子。こう見えてちょっと好奇心旺盛で、言葉だけでは分からないけど顔はちょっとだけ笑っている。
 一体何を思ってこんな危険な事に首を突っ込むのかはわかんないけど、ま、刺激がほしいとかそんなとこかな。ちゃんと事態を把握してるのかなぁ。

「何って決まってるだろ、探検だよた、ん、け、ん! ちょっと危険かもしれないけど、こんだけ数揃えれば大丈夫だって!」

 根拠のない事を言ってそう息まくのはピカチュウ種のキリアン。常に楽しい事を探しているやんちゃな元気印の暴れん坊な男の子。メンバーを若干強引に引っ張り回すけど、集落の子供の中では一、二を争うほどの強者だったりする。一応リーダーって事になるのかな?
 だからといって、人一匹いなくなってる森を探検するなんて、どういう頭してるんだよ……? ま、大体の事は分かってるつもりだけどね。どーせどっかで行方不明になったのは女の子だって話を聞いたから、助けてやろうと思った、って感じかな? ま、単純でやっすい正義感だね。

「ふぇぇぇん、やっぱりちょっと怖いよぉ……」

 そんなキリアンに隠れるようにして様子を見てるのはチコリータ種のチコル。まぁ見た通り性格は臆病で怖がりだけど、何故か何時も皆と一緒にいる唯一の女の子。草タイプだからか薬草や木の実とかにちょっとだけ詳しかったりする。でも詳しいことは知らないんだよなぁ。
 彼女は正直今回の探検なんか向いていないんだけど、何故かべったりと離れようとしない。ま、どうせキリアンと一緒にいたいだけだろうし……でもやっぱり心配だなぁ。
 やっぱ、子供だけで探検とか、止めといたほうがいいと思うけど……。

「安心しろチコル、オレが守ってやるから! ってこらピアン、何帰ろうとしてんだよ!」
「……あのさぁ、やっぱりやめといた方がいいって。危ない目にあってからじゃ遅いんだよ?」
「うるせぇ! そんな事じゃオレのソウルは止められないんだよ! せき止められないんだよ!!」
「じゃあ一匹でいけよ。テッドはともかくチコル巻き込むのはどうよ?」
「そりゃ一匹じゃ怖いからだ!」

 ……胸高々に宣言するな、バカピカチュウ。

「あのなぁ……ったく、もしも誰か一匹でもなにかあったらちゃんと責任とれよ」
「おうよ、任しとけ!」

 そしてはぁ、と大きくため息をついた、もう一匹が僕……って訳。ちなみに種族はミジュマルだよ。
 自分で言うのもなんだけど、性格は多分気まぐれで、めんどくさがり。よく皆とは一緒にはいるけど、あんまり表だって行動する事はない、悪く言うと愛想がなくて付き合いが悪いって感じだと思う。
 そもそもこの三匹と一緒に遊ぶようになったのも、元々はキリアンに勝負を挑まれた事が切っ掛けだった。こんな性格の僕だけど、卵から生まれたばかりだった頃から親にしごかれていたから、バトルの腕っ節だけはそれなりにあった。それをどこかで聞きつけたらしいキリアンが、僕を倒そうとして挑んだんだ。で、その時戦って、僕が何とか勝って、それからキリアンとの腐れ縁が始まった事を覚えている。もう随分前の話だから、ちょっと記憶があいまいになってるんだよね。あ、他の二匹と仲良くなったのはそれよりちょっと後の話だよ? 勿論キッカケはこのバ――げふん、キリアンが作った。
 他の子たちとは付き合いが悪いけど、何故かこの三匹だけとは妙に息が合うと言うか、なんというか。だからキリアンが森を探検すると言った時、ブツクサ言いつつもここまで付いてきたのは、まぁちょっとほっとけなかったというか、またキリアンが馬鹿な事しないように見張りに来たと言うか……そんな感じ。
 まぁでも、暴走してるように見えてキリアンも案外馬鹿じゃない。ちゃんと考える事が出来るし、危険だったら逃げる勇気だってある。ただちょっとやり過ぎる部分があるから……それで何度も巻き込まれた事もあるしね。

「よぉーし、キリアン探検隊、行方不明の仔を探す為に出発だぁぁ!!」
「おぉ~!」
「うぅぅ……ピアン~っ」
「無茶言うなって……あぁなったら梃子でも動かないんだから……」

 意気揚々と森へと入っていくキリアンとテッド。助けを求めるようにチコルが泣きついてきたけど、多分もう聞く耳持たず、だと思うし……。ま、いざとなったら何とかするしかないかな。このホタチで切れる奴だったらいいけどな。

「チコル、蔓で誰かの手を掴んでて。キリアンじゃないけど、いざという時は何とかするから」
「うぅ~……もしもの時は宜しくね?」
「分かった分かった……ほら、急がないとはぐれちゃうよ」

 グスングスンと泣きつつも、僕の手に蔓を巻きつけ、恐々といった様子で僕の背に隠れるチコルを連れ、僕もまた森の中へと入っていく。何故だか吐き気を感じたけど、すぐに回復したから気のせいだったんだろうと思う事にした。
 ……その時ふと、誰かの視線を感じたように思ったけど、多分気のせいだと思って気にする事無く先行する二匹の後を追うのだった。

 #

 そこら中に生えている木の葉っぱが、風で揺れることでザワザワと音を立てる。奥に進めば進むほど木々が密集して光が差し込まないのか、徐々に光がなくなっていく。
 しまいには何も見えなくなるんじゃないかってぐらいに真っ暗になってきたけど、幸いテッドの尻尾の炎と、キリアンのフラッシュで暗闇に困る事はなかった。けど正直これは、怖がりのチコルじゃなくても心細くなってくる。
 僕もあらかじめ持ってきた蝋燭にテッドの火を貰うことで明かりを確保している。うーん、明かりで見える範囲以外は、殆どなんにも見えないな。

「キリアンー、怖いよぉ……暗いよぉ……何か出そうだよぉ……」
「大丈夫だって……なんか出たってオレとピアンでぶっ飛ばしてやるから」
「そういう割にぃ、声が震えてるよねぇ」
「うううっせぇぞテッド、おおおオレ別に怖がってなんかななななんだってばよ」
「後半意味わかんないし……」

 首から出る二本の蔓をガッシリとキリアンの手に絡みつけ、キリアンの背中に隠れて震えるチコルに、口では強がってるけど尻尾とか足がガクガク震えているキリアン。まぁ気持ちは分かるけど他の子に見られたら絶対弱虫だとか言われかねないなぁ。テッドは度胸が据わってるのか割と平気な様子だけど。
 震えるキリアンに突っ込む僕も、心の中ではかなりビクビクしている。冷めてるとはいえ中身は普通の子とあんまり変わらないし。でも実際、妙な迫力があると思う。まるで夜のような暗闇の中を、手探りで歩いていく感覚。

「おーいピアン、あんまはなれんなよぉ~?」

 ふと気づいたらキリアン達がそれなりに先に進んでいるのに気付いた。危ない危ない、キリアンのおかげで置いてきぼりにならずに済んだよ。
 遅れを取り戻そうと小走りをしようとした時、ふと風の音に紛れて奇妙な声が聞こえてきた。

『ねぇ、遊んでよ……』
「は?」

 思わず後ろを振り返ると、突如暴風が吹きつける。思わず目を瞑って耐えた後にゆっくりと目を開くと、誰もいない。ていうか、振り返ってみるとさっきまで少し見えてた筈の電気と火の明かりが見えなくなった。え、ちょ、ひょっとして……はぐれた?
 冗談じゃ済まないぞ……!? こんな右も左も分かんない状態で、一匹だけにされるとかシャレにならないよ。風がガサガサとあたりの葉っぱを揺らす音だけでも、心臓がビクンと跳ね上がる。ちょ、落ち着け、僕、りらっくす、りらっくす……まずい、既に泣けてきた。
 ふぅ、と思わず息を整えようとして……不意に、どこからかの視線を感じる。キリアン達かなって思ったけど、多分違う。みんなだったら僕を見つけたらすぐに声をかけるはず。でも視線の主は一定の距離を保っている……誰だ?
 大人たちの話だと、この森に暮らしているポケモンはいないという。じゃあ何で視線を感じるんだ……? まさか、さっきの声の、主?
 そっとお腹のホタチを、左手に持つ。右手の蝋燭をゆっくりと地面に置く。視線の主は僕から見て左後ろの方向にいる、気がする。やるなら、今しかない!
 ホタチに水の力を精一杯込める。鋭く、硬く、全てを切る剣のイメージで固めると、ホタチを軸にして大きな水の刃が姿を現す。最近習得したシェルブレードと呼ばれるそれを右手に持ち替えて、振り向きざまに一気に振り落とす!
 しかし剣の当たった場所には、草むらだけで誰もいない。即座に横を向くと、緑色をした蛇のようなポケモンが。でも僕を襲うどころか、腰を抜かしてあわあわとしている。あれ、ひょっとして、やっちゃった?

「ちょ、待って、ストップ! ゴメン、何もしないから切らないで!」
「……御免、てっきり攻撃されると思って」

 目の前にいる子は手をぶんぶんと振って慌てた様子で僕を止めようとする。どうやら敵意はないみたいなので、すぐに技を解除した。相手がこそこそとついて来ていたからとはいえ、とっさに攻撃してしまったのはちょっと不味かったよね、うん。
 僕が謝罪すると、目の前の蛇……よく見るとそれはツタージャというポケモンで、前に集落で何度か見かけたことがある顔だった。えっと、確か女の子だったっけ……? 女の子に手を上げたなんて父さんにばれたら、絶対アクアテール連発の刑だな……想像するだけでぶるっちゃうよ。

「ううん、あたしがこっそり隠れてたのが駄目だったんだよね。あたしツタージャ種のベジー。あなたは……ピアン君、だよね?」
「そうだけど……何で知ってるの?」
「それなりに有名だから。暴れん坊のピカチュウと、その静止役のミジュマルって感じで」

 あ、さいですか……。確かにキリアンは結構目立つ存在だし、そんなキリアンとよく一緒にいる僕も有名なのかなぁ……?
 でもこの子、何でこんな森の中にいるんだろう……? さっきの声はどっちかと言うと男の子のような低さがあったけど、今目の前にいるのは女の子で、声も高め……じゃあ、さっきの声は一体?
 そもそも、何でここにベジーがいるんだろう。一か月前からこの森には子供はおろか大人だって近づこうとしてないのに……いや、いる。たった一匹だけ……この森にいるだろうポケモンが。

「ひょっとして、君、一か月前に行方不明になった……?」
「一か月? この森で迷ってからまだ半日しか経ってないはずだけど……?」

 ……どういう事、だ? 彼女が多分一か月前に森で消息を絶った子供だと言う事は、何となく分かった。でも、半日……? 僕と彼女とで、時間軸が大分ずれている。
 それにふと彼女の体を見てみると、一か月も森で彷徨ってる割には、なんというか……少し体が太めな感じもする。あ、誤解がないように言うけど、草タイプがこんな日光もあんまり差さないような場所に長時間いたら、栄養が足りなくなって痩せ細ってしまう筈だから、パッと見て汚れてはいるけど健康そのものな今の彼女と釣り合わないなぁ、っていう意味。ちなみにこの情報はチコルの実体験を参考にさせてもらっている。……どんな体験かって? 後で本人に聞いてよ。
 でも実際一か月という時間が経っている筈だし……でも彼女はまだ半日しか経ってないって……え、えっと、どういう事なの!?

「ちょっとピアン君……どうかしたの?」
「今混乱中で……なにがなにやら――

 続きを言おうとして、絶句する。 心配して僕の顔を覗きこんでくれてるベジーの後ろに、何かがふわふわと浮かんでいる。頭はなんか玉ねぎとか球根のような形で、背中に羽が生えていて、確か前に親の本でチラッと見た事があったけど、でも、僕が知っている姿とは根本的に色が違っていて。本来はクリーム色や黄緑色の部分が多いけど、目の前にいるそれは、至る所が真っ黒に染まっていた。
 僕の言葉が途切れた事に不思議な顔をするベジーも、振り向いて言葉を失っている。彼女が目の前にいるポケモンの事を知っているかは分からないけど……でも正直、この状況だったらそんな事はどうでもいい事。
 ひょっとしたら……静かに色々と、大ピンチなのかもしれない。

『ねぇ、遊んで、遊んでよぉ……』

 先程聞いた不思議な声と同じ声で、目の前にいるポケモンが喋る。さっきの声はこのポケモンのだったのか……。
 ふとベジーを見ると、何故かガクガクと震えている。確かに今目の前にいるポケモン……セレビィは、珍しい色違いだし伝説のポケモンではあるけど、別に恐怖を感じる程は――?

「にげてぇ!!」

 ベジーが叫びながら、僕に体当たりをしてくる。ちょうどお腹に勢いよくやられたから、思わずごふって変な声を漏らしちゃったけど、そんな事よりも目の前にある光景に目を見開かざるえなかった。
 たった今自分達がいた場所には無数の蔦が絡み合う事で出来た極太の槍が、地面に突き刺さっていたのだ。あんなものまともに食らったら、絶対にただじゃ済まない。
 げほげほとむせつつ蔓の槍の先を見ると、やっぱりというか、予想通りというか、黒いセレビィへと繋がっていた。まさかとは思ったけど、何でこのセレビィは僕達を……!?

『あそぼ、あそぼうよぉ……アソンデヨォォ……』
「この森で迷い始めた頃から執拗に攻撃してくるのよ! とにかく早く逃げないと!」

 まるで狂った人形のように暴れまくるその様に、僕は一瞬だけたじろいでしまうけど、右手で左肩をドンッと強く打って何とか正気を保つ。逃げるか戦うか、どっちにしてもまずは一太刀浴びせないと!
 ベジーを後ろに軽く突き飛ばしつつ、右手のホタチを強く握り、こっちに向かって伸びてくる細い蔓を睨み付ける。止めてと叫ぶベジーの声を振り切り、僕は蔓へと向かって突進する。僕を捕らえようと不気味に伸びる蔓を、半捻りでかわしつつもホタチで居合い切りの要領で切りさいていく。無残に真っ二つにされた蔓を横目で見つつ、そのままの勢いでセレビィへと突進していく。
 セレビィが両手を前に突き出すと、今度は四、五倍近い数の蔓が。軽く舌打ちをしたけど、今度はホタチを下段に構えつつ僕の中に眠る虫属性の力を解放、できうる限りすばやく二回、バツの字で切り裂く!
 無数の蔓はあっという間に切り裂かれ、斬撃はセレビィにも掠るぐらいには届いている。地面に着地した瞬間に大きくジャンプして、右横回転を加えつつ渾身のシェルブレードを、叩きこむ! お腹にモロに決まったセレビィは小さなうめきと一緒に近くの木に衝突して、そのままゆっくりと地面に落ちていった。よし、我ながら手応えあり――!

「……ポカーン」
「口に出さなくていいよベジー。ほら、早く立って。さっきは突き飛ばしてごめん」
「あ、うん、大丈夫。じゃあ、えっと……こっちににげよっ」

 調子を取り戻したベジーが草むらを掻き分けて進んでいく。僕も後ろでのびているセレビィを確認しつつ、彼女の後を追う。いくらクリーンヒットしたからって、これで参ったなんて言うはずないし……少しでも離れないとまずいよね。
 だけど、親父から無理やり習わされた剣術がこんな所で役に立つなんて……キリアンとのバトル以外は役に立たなかったけど、これからはもう少しマジメに習うのも悪くないかもね。

 #

 黒いセレビィを仮だけど倒した僕たちは、ベジーが思いつくまま森を右往左往しながら逃げ回る。もう何分も走り回ったから苦しくなってくるけど、でも何時あいつが来るか分かったもんじゃない。とにかく安全な場所に避難しないと……!

「ビックリしちゃった。ピアン君って強いんだね」
「走りながら喋ると舌噛むよ。というかこっちに進んで大丈夫なの?」
「えっと、適当に進んでるだけだから……」

 ですよねー。さっきからグルグル回ってるような気がしないでもなかったし。あーもう一体どれくらい走ったかも分からないのに、今どこにいるかも分からないってどんな状況だよー。
 そういや、さっきまで忘れてたけど、皆はどうしたんだろう? 僕がいなくなって、三匹とも混乱してなきゃいいけど……とにかく今は、身の安全を確保しないとね……。
 でも、さっきのあの黒いセレビィはなんだったんだろう? 物凄い攻撃をしてきたけど、妙な感じがしたんだよなぁ。なんていうか、その……。

「あ、あの木の中なんかいいんじゃない?」

 おっと、つい考え込んでベジーにぶつかる所だった。危ない危ない。立ち止まったベジーが指差しているのは、樹齢が多分かなりあるだろう巨木、ダイケンキ種の親父と比べてどっこいぐらいある幅と数十メートルぐらいまである幹……多分この森の中でも相当お爺ちゃんなんだろうなぁ。
 で、その巨木の根っこあたりに、潜り込めそうな穴がある。頷くことで肯定の言葉として、僕たちはゆっくりとその穴の中へと入って見ることに。中を覗いてみると、意外と中はそれなりに広く、これなら僕サイズのポケモン三、四匹いてもまだ広いぐらいある。ベジーはずっと逃げてきたからか、フラフラと入りへたり込んでしまった。僕も入り口近くで座り、息を整える。
 ここなら暫くは休むこともできるかな……? でも、あの黒セレビィがいる以上、油断はできないよね。……そうだ、今のうちに色々聞かないと。

「ねぇベジー、この一ヶ月……じゃなくて、半日の間に何があったの?」
「えっとね、後ろから声をかけれたと思ったらあの黒いセレビィ、だっけ? がいて、そしたら急に襲い掛かってきたの! 私は必死に逃げたり隠れてたりしたら……ピアン君と出会ったの」
「セレビィの方が、いきなり?」
「うん、いきなり。そういえば、あのセレビィと会った時、妙な感覚になった、かも……? うーん、よく分かんないよ」
「ふーん……そういえば、どうしてこの暗闇森に行こうとしたの?」
「単純に、興味本位だけど?」

 この子、意外とキリアンと同じ匂いを感じる……。圧倒的な時間のズレも気になるけど、それよりあのセレビィはなんなんだろう? 伝説のポケモンにしては弱すぎる気もするし。それに、ここはどこなんだろう……?

 #

 それから数十分、これといってなにもなくただ時間だけが過ぎていった。あの攻撃で、黒セレビィは倒れたのかなぁ? そうとは思えないんだけど……。穴の中から、外の様子をずっとみてるけど、これといって特に変化なし。
 ベジーを見ると、疲れてるからか座った状態でうたた寝をしてる。へぇ、こうしてみるとなかなか……って何見てるんだよ僕は。あー顔が火照ってるよ……ったくこんな時に。

 ふぅ、とため息一つして、改めて外を確認する。変わらない景色、変わらない木々や草むら、近くに倒れている黄色い奴、木の後ろにも誰もいない……えっと、ん?
 あそこで倒れているの……誰? というか、なんか見た事あるような……ってえぇぇぇぇぇ!?

「ちょ、まさか……キリアン!?」

 まさかの事態に思わず大声を出してしまった。後ろで「ふぇぇ!?」とビックリしてるベジーの声を聞いた気もしたけど、気にせず倒れているキリアンへと走り寄る。キリアンの体は所々細かい怪我をしているけど……うん、これなら応急処置でも十分なんとか出来るレベルだ。
 あ、でも、傷薬や包帯なんか持ってないし、オレンなんかの木の実だって持ってない……とにかく早く穴の中まで運ばないと! ちょうど寝ぼけ眼でこっちを見てるベジーもいるし、二匹で運べばそれなりに早く……。

「うぅ……ピアン……?」
「キリアン、大丈夫!? 何があったんだよ」
「黒い、やつらに……襲われて……」

 黒い……やつら?? 奴らって事は単体じゃなくて、複数って……え?
 気付いた時、上から視線を感じる。顔をあげたらそれが死亡フラグな気がしたけど構わない……けど正直泣きたくなってきた。ゆっくりと顔を上げてみる。
 そこにいるのは、一度だけ見た姿。ちょっと前に襲われたから否応なく覚えている。その数は1、2、3、4……うわーまるで取り囲むようにフワフワと浮かんでるー……ってあれぇ?
 ……なんか、そのー、数、多くね?

「……の、のわぁぁぁぁ!!!?」

 思わず傷ついたキリアンをそのままに、全速力でダッシュ。後ろからベジーの声が聞こえた気がするけど、そんなの構ってられない!
 チラッと後ろを見る。そしたら四匹のセレビィズが何か構えてる。不可思議な色をした葉っぱがギュルンギュルンと音を立てて無数も回転してて……それだけで何の技か分かっちゃたから、さらに泣きたくなってくる!
 セレビィズが同時に、無数の葉っぱを飛ばす。葉っぱの大群はカーブを描きながら、一直線で僕へと向かってくる! 絶対必中という特殊技、マジカルリーフ……こんなのまともに受けたら、僕容赦なく死んじゃ……あ、ヤバ。
 同時に感じたのは、無数の衝撃と体に走る激痛。激しい痛みで僕の意識はぶっ飛んで……いない。あれ?

「ピアン君!! 大丈夫、ねぇ大丈夫!?」

 猛スピードで走ってきたベジーの声が……聞こえる。確かに僕、大量の葉っぱ攻撃をまともに食らった……はずなのに。
 ポンポンと自分の体を触る。当たった瞬間は物凄い衝撃と痛みを感じたけど、今は全然痛くない。傷もケガも特に……ない。
 茫然とベジーの顔を見る。彼女も僕の顔を凝視してる。時と場合が違ったらスッゴク恥ずかしい場面だけど、そんな事頭からすっぽりぬけだしてる。……直撃したのに、なんで??

『当たった……タッタ……ボク、カチ……』

 ……気が付くと、四匹の黒セレビィズが、僕達の前に来る。……さっきから遊んで、とか勝った、とか……え、まさか……?

 #

「ねぇピアン君、ひょっとしてこれって……」
「ただ、遊んでほしかっただけ……?」

 え、ここにきてまさかの寂しいから構ってよ状態?? なんか変な状態なんですけど……ていうかキリアンもまさか……??

「いやぁーゴメンゴメン……脅されてしかたなく……」

 やっぱり協力者だったんかい!! 多分キリアンの姿をした黒セレビィなんだろうけど、全くとんだ災難だよ……。

「ていうか、なんなんだよこの黒セレビィは! ただ遊んでほしいだけとか意味分かんないよ!」
「どうどう、落ち着いて。今説明するから」

 キリアン(の姿をした何か)が興奮した僕を抑える。ベジーも何が何やら分かってない様子だけど、僕だって早く教えてほしい。そもそもここはどこなんだよ、君は誰なんだよ!

「順に説明するね。まず僕は、君の言うキリアンっていうピカチュウじゃない。そして僕と、そこにいるセレビィ達は、生き物ですらない」
「「はい?」

 僕達は、同時に変な声をあげてしまう。すると後ろにいた黒セレビィ達が、何だか嬉しそうな顔をしたまま光り始めて……足元から徐々に光の粒となって、消えてしまった。
 思わず絶句する僕達に、目の前のキリアンもどきはニコニコしながら説明を続けていく。

「身代わりっていう技と同じだと考えてくれればいいよ。彼らは一種のエネルギー体なんだ。だから攻撃も全然痛くなかった」
「……えと、君も、そうなの?」
「うん、そうだよ」

 ベジーの質問に、笑顔で答えるキリアンもどき。この笑顔もまるで生き写しのようにそっくりだから、なんだか釈然としない。それに、じゃあ何で僕たちはこんな事に巻き込まれる事に?
 そもそもエネルギー体って、まず、一体何のエネルギーなの?

「本当に御免なさい。僕らは、いや僕は、ただ遊んでほしかっただけなんだ。寂しかったんだよ。……この森の事は知っているかい?」
「暗闇森って呼ばれてて、気味悪がられてる」
「うん、そう。だから子供や、大人のポケモンでさえも近づかない。もうずっと昔から……」

 なんだか、キリアンもどきの顔が暗くなった気がする。まぁずっと一人ぼっちじゃ寂しくもなるよね……ってちょっと、今一瞬まさかの答えが飛び出しちゃったような。

「つまり、君は……森、そのものって事?」
「そう言う事、になるのかな。一種の妖怪とか、そういうものなのかもしれない」

 もう展開が中二病すぎてついていけない。ベジーももう何を言ってるのか分かってなさそうだし。

「森に暮らしてくれるポケモンがいないから、この森そのものが次第に寂しいと感じるようになった。生命の息吹を感じたい、構ってほしい……そんな思いが、僕や、あの黒いセレビィを生み出した。……いきなり攻撃をしたのも、そうするしか思いを表現する方法がなかっただけなんだ。ツタージャちゃんを巻き込んだのは、ただただ寂しさを紛らわせたかっただけ。ミジュマル君を巻き込んだのは、四匹の中で一番動けそうだと直感したから。……本当に、御免なさい」

 ペコリと、ピカチュウの姿をした森がおじぎをする。顔を見合わせてしまう僕達であったが、謝られてもなんか実感がわかない……。
 ベジーはてこてことピカチュウの元へと歩き、手をギュッと握った。え、何するの?

「別に、もういいよ。何だかんだで楽しかったし。でもさ、そろそろお家に帰してよ。またこの森に来てあげるから。その時は、もうちょっと優しくしてくれればいいからさ」

 うーん、ベジーは器がでかいなぁ。まぁ僕も無事に帰れさえすれば、それで構わないかな。

「……うん、御免なさい。絶対に、また来てね」

 ニコリとピカチュウが笑いかけた瞬間、強烈な眠気が襲ってきた。一体なんだと叫ぶ暇なく、まるで昏睡するように意識が薄れていく。よくみるとベジーもおなじじょうたいに、なって――あれ、くちも、まわらな、く……?









「おぉ、目が覚めたぞ!! ピアン、ピアン、大丈夫か!!?」
「よかったぁぁぁぁ、もう目を覚まさないかとおもったよぉぉぉぉ!!」
「キリアンにチコルもぉ、無理させちゃぁ、駄目だってばぁ」

 気がついたとき、僕はキリアンとチコルに猛烈な勢いで抱きしめられていた。


 あれから色々と話を聞いて、ようやく自分の置かれていた状況を理解する事が出来た。どうやら僕は突然意識を失うように倒れてしまい、一週間近くこん睡状態だったらしい。
 キリアン達はすぐに森から出て僕を病院に運び込んだらしいけど、結局原因は分からないままで、結構心配をかけてしまっていたらしい……。それぞれの親にも森に探検しに行った事がばれてしまったらしく、それぞれこっぴどく怒られたらしい。勿論僕も目覚めてすぐに親父からハイドロポンプの刑を貰いました。
 そして行方不明の子……ベジーも、あの後すぐに見つかったらしい。まるで数千年生きた巨木の穴の中で、スヤスヤと眠り込んでいたらしい。
 結局僕が体験したことは、単なる夢の中の出来事だったのか、それとも現実の事だったのか……あれから半月たった今も未だに分からない。
 未だに諸々謎が残っているけど、ただ分かるのは、あの後あの森は僕たちのちょっとした隠れ家的な場所になったこと。そして……。

「ピアン君、なにぼーっとしてるの? 早くみんなのところに行こうよ!」

 ベジーが僕達のグループの一員になった事と……。

『そうそう、早くしないと嫌われるよー』
「あーもううっさいなぁ! ていうかいい加減離れろよ!!」
『やーだよー、もう離れる気なーいしー』
「だぁぁぁ! いい加減にしろーーー!!」

 何故か僕に黒セレビィの姿をした暗闇森が透明な姿でまとわりついてくるようになった事……かな。



~続かない?~


~後書き~
 エントリー締切当日、月夜の晩にオカリナ吹いていたあの名曲をヒントにこの小説を書きましたが……いかんせん考案不足感が否めない作品となってしまいました。
 そんな作品でもありがたい事に二票ももらい、結果大会四位というそれなりの結果となりました。有難うございます。
 折角の作品ですが、出来れば十分練り上げた状態でリメイクしたいなぁ~とも思いますが、果たして何時になるやら……とにもかくにも、有難うございました!!


ピアン「コメントしたい人はこっからよろしく」
ベジー「リメイクした時もまたみてくださーい♪」


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Last-modified: 2012-04-11 (水) 00:00:00
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