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月と陽の祝福 第十幕

/月と陽の祝福 第十幕

長編小説

とりあえず需要のありそうな部分を復刻してみるテスト。
 …あ、官能描写ありますので、閲覧する際は気をつけてくださいね。

リース>


周囲一面ピンク色だった。
お世辞にも広いとは言えない部屋で、用途の分からない機材がたくさんおいてある。
…そんなよくわからない部屋は”ピンクルージュ”のとある一室。…なんでも、仕事部屋なんだとか。
そうなんだけど…今、私の気分は最悪だった。
景色がぐにゃぐにゃに歪んで見える。
それは例えるなら、眩暈や貧血で倒れる、一歩手前の状態をずうっと感じているような…そんな感じ。
部屋に備え付けられていた、巨大なシングルベッドの上で、私はずっと唸り声を上げていた。
「う…おぇ」
「大丈夫ですか?」
 …大丈夫なわけ無いじゃない。
私は、目の前で心配そうな表情を浮かべているスリーパーに呟こうとしたが、生憎そんな元気も無い。
何をする店なのかも分からずに連れてこられた私は、彼に…スリーパーに、とある薬を勧められたんだけど。
紅い色の一錠の薬剤で、水と一緒に飲むタイプの物。
――それを飲んでからかもしれない。…なんだか、ひどく気分が悪かった。
ていうかなんで、無警戒にそんな薬を飲んでしまったのだろう。―改めて考えてみれば、余りにも油断しすぎている。
「……あの薬はね」
 そんな折だった。唐突に、スリーパーが語りだして。
ふと見上げれば…彼は意地汚い、悪徳業者みたいな黒い笑顔を浮かべている。―すごく、嫌な予感がした。
「貴女の体の中身を、ちょっとだけ狂わせるクスリ」
「…は、はい?」
 訳が、分からなかった。私はただ、仕事をする上で必要だと言われたから飲んだだけで。
ではこの症状は、仕事をする上で必要だということなのだろうか?
私の当然の疑問に、彼は単純に”ああ”と呟いて答える。
「大丈夫ですよ。後もう少し時間が経てば――じわじわと効いてくるはずだから」
「だから、なにが…」
「何ってそりゃあ…興奮剤ですよ」
「――な、」
 にっこりと。食べた料理の調味料を教えるような、気軽さだった。
そんな簡単に告げられて、ほんの一瞬だけ唖然となる。
ああそうか、興奮剤か…そうだね。仕方ないね。……いや、全然仕方なくない。
「我が”ピンクルージュ”の扱う薬剤には娼婦からの定評がありましてね。飲み薬でありながらも、大きな避妊効果が期待できるのですよ!」
「え…えええ?!」
 彼は――何をそんなに嬉しそうに語っているのだろう。興奮作用と同時に避妊効果を服用者に与えるクスリ…確かにそれは画期的だ!―――いや、そうじゃなくて。
「興奮剤に…避妊、それに娼婦って…どういう、ことです?」
 興奮剤。避妊。娼婦。
どうもなにも。その三つのキーワードから結びつく行為なんて、一つしかない。
雄との…行為。
ば、馬鹿な。
自分で言っておきながら、酷く滑稽に感じる。気持ち悪い頭を必死に動かして、私はただただ疑問を口にしていた。
「仕事って…なんなんです?! 私を、だました・・・んですか?!」
 だが応える気が無いのか、にやにや笑いを隠さずにスリーパーは続ける。
「慣れないうちは気分が悪くなるらしいですが。…何、気にすることは無いでしょう。―そのうち慣れます」
「ぐ…、うぅ」
 気持ち悪い――そうだ。確かに気分は悪い。
だが興奮剤だと言われてみて、私は始めて気がついた。自分の体は、確かに変調を始めていたんだ。
カラダが、すごく熱い。高熱病にでも掛かってしまった時みたいに、手足の先に至る部分まで、体全体が異様な熱を発していた。
しかも―熱いだけじゃない。酒に酔ったときのような幸福感と浮遊感を、私は同時に味わい始めている。
「ぅ…嫌ぁ…」
 やがて、自分でも分からないくらい、体が疼き始めるのを感じる。
頭が、意識がぼやける。
自分の意識とは関係なしに、体がナニカを欲し始めていた。
今の自分を救ってくれる物。それはもう、たったひとつしかない。

「さて…それでは私は裏方の方に回りますので。――頑張ってくださいね、新人さん?」
 
 どこからだろう。そんな声が聞こえてきた。
気の遠くなりそうな耳鳴りの遠く、部屋のドアを開け放って、スリーパーが去って行ったのを、気配で感じる。
でも今の私には…正直、そんなことを気にする余裕すら無かったのかもしれない。
だって、逃げ出すというもっともらしい考えさえ、私の中にはもう、浮かんでこなかったのだから。

それはまるで、一種の拷問のよう。

欲しいのに。諌めたいのに。――体は全く言うことを聞いてくれない。
自分で済ませることすら出来ずに、私はただ。自分の意識を保とうとして……頑張って耐えて。

でも、長くは持たなかった。何にも分からなくなっちゃって、それでも私の中に残ったものは…無尽蔵に湧き上がってくる欲望。

それからは、待つことが苦じゃなくなった。

だって。…次に入ってくる雄が、どんなポケモンなのか…楽しみで仕方なくなっちゃったんだもん。

ラズリア>



 どきどきどきどき。
いつ頃からだろう。オレの胸の鼓動は、時間が経つにつれて少しずつ…だが確かに大きなものへとなっていた。
未知への好奇心と言えば、聞こえは良い。聞こえは、な。
だが所詮そんなものは、最早理由の正当化に過ぎないのだろう。そう、何故ならこれは…自ら純潔を捨てるという行為に他ならないからだ!
そしてそれは――片思いとはいえ、ずうっと恋心を抱いてきた師匠に対する、裏切りに値する……。
――いや待て待て。逆に考えるんだ。
…恋が成就して、実際に師匠とソーユウ事になったとき、オレが初めてだったら困るじゃないか!うん、実にそのとおりだ。
オレの選択は間違ってない。間違ってないんだ。

―と。


「で、覚悟は決まった?」
 隣から聞こえたブレアの声に、オレは恐々と顔を上げた。
「…ん」
 これは、何度目のやり取りだろうか。
時刻は、深夜帯に差し掛かろうとしている。――”ピンクルージュ”も、既に開店していることだろう。
にも拘らず、オレ達は…いや、オレは自分の住処の前で”行く”か”行かざるべきか”の足踏みを強いられていた。
理由は述べた通り。…師匠に対する裏切りの念が消え去ってくれないのが原因だ。
―いや、ていうかこれくらいの葛藤は雄として当然だと思うんだが…生憎な事に、ブレアは大して緊張していないようである。
「ねえねえ早く行こうよ。―早くしないと、選んでおいた娘が取られるかもよー?」
 ―なんて。実に心待ちな表情でほざいてやがる。本当、ポケモンは外見に依らないっていうのをつくづく感じるよ。
あれだな。奥さんが出来ても女を作り続けるタイプ。
…こんなんだから相手に逃げられてんじゃねえの? …完全に自業自得じゃん。
……もっともらしい考えだが、口にするのは控えておこう。ここで凹ませるのは得策とは言えないだろうし。
だけどま、このままではみっともないのは確かなことだ。

(ごめん、師匠)

「――よし、行くか」
「うん!」

心の中で一言だけ師匠に謝罪して、オレは新しい世界への一歩を踏み出したのだった。


陽に死に、月夜に生きる。
それが地下街の常だ。
その言葉の通り、今オレの目の前に広がっている光景は、昼前に訪れた時とは全く異なるものだった。
圧倒的な、人通りの多さ。
昼前では数えるほどの人通りしか無かった筈の通りが、今のこの時間はポケモンで溢れ返っていた。
「ふえぇ…雷鳴峡谷って、ポケモンがこんなに居たんだ?」
「―どうだろうな。雷鳴峡谷に居を構えてる奴らは、この中の半分くらいだと思うけど」
 ―考えながら、視線を左右へと彷徨わす。
実情、天界とかいう場所ではどうなのかは知らないが、少なくとも雷鳴峡谷は地上有数の鉱山都市であるのと同時に、大規模な豪遊施設でもあるのが実態だ。
そんなわけで、この歓楽街じみた区画では”豪勢な格好をしているポケモン”=”他所の地域から来ているポケモン”という分類で括れてしまうのが本当の所なのである。
労働者の割合が多いために、自然とそういう配分になってしまうのは頷けるのだが…労働者側の身分からしてみれば、酷く不公平な気がしてならない。
「もう半分は余所者さ。――金を発散する事しか能の無い、な」
「ふうん…そっか」
 ―少し、毒づいて呟いてみたけど…意外にブレアの反応はドライだ。
天界にも似たような実情があるのかもしれないな、と勝手に思うことにしよう。
そんなことを話しながら歩いていくと、目的の場所にはすぐに到着した。
大型の館。見上げると、確かにそこには”Pink-Rouge”と赤字で描かれた看板があった。
看板の下地が桃色の所為で赤字が見辛いのが、なんだか失笑を誘う。
「ピンクルージュか…改めて考えてみたら、ちょっと恥ずかしい名前だよな」
「で、君はその恥ずかしい名前の店に入ろうとしている、と」
「……そこは敢えて言うなよな」
だけど…その看板の下で座り込んでいた、一匹のオーダイルの姿を認めて、俺は思わず息をのんだ。
ある程度年を喰ったオーダイルのようだ。こちらの姿を認めるなり、上から下まで値踏みするような視線をぶつけてくる。
「お兄さんたち」
『…!』
 彼女から声を掛けられて、オレ達は思わず顔を見合わせた。―少なくとも、相手からは”客”と取られたらしい。
「昨日、可愛い娘が入ったのよ。―ちょっと遊んでいかない?」
「え? あ、はは…どうしようか、ねえ?」
「へ…? ま…まあたまにはいいんじゃねえ?」
 驚いた。……想像以上に直球な客引きだったからだ。
オレもブレアも、『わあ、是非そうさせていただきます!』―なんて勢い込んで言えるはずも無くて。いや…言ってもいいけど、なんか軽蔑されそうじゃないか?
そんなこんなで。彼女に導かれるままに、オレ達は”ピンクルージュ”の店内へと入ったのだった。



どうしたものかと右往左往したオレ達だったが、なんとか”ピンクルージュ”に入店することが出来た。
しかし頼みの綱(?)のブレアとは、店の中で離れ離れになってしまう。
そんな矢先、”昨日入店したばかりの娘”が居るという部屋へと案内されて、オレが出会ったのは……一匹のリーフィアだった。

ラズリア>


「…」
「ちょ…いきなり何するんだよ…?」
 部屋に入るなり、ベッドへと突き飛ばされて、問答無用で押し倒してきた彼女…リーフィアの姿に、オレは声を上げた。
なんていうか…この仕事だって一応接客業に分類されるんだろうし。…客に手荒な真似をするのって、良くないと思ったんだ。
でも、オレの訴えには耳を貸さずに、彼女はマウントポジションを保ったままにニヤリと怖い笑みを浮かべていた。
その笑みにゾクリとするのも、ほんの束の間。
「はあ…やっと、食べられる…」
「ひぇ?!」
 オレは、白い体毛に隠された弱い部分――首筋を彼女に甘噛みされて、素っ頓狂な声をあげてしまっていた。
牙を突き立てられた訳ではない、だがしかし彼女の柔らかな唇の感触を感じて、抵抗する力を押さえつけられる。
それは―奇妙な気持ちよさだった。雄の本能と呼べばよいのだろうか、とても”欲望”を駆り立てられる刺激。
しかも彼女は甘噛みだけでは飽き足らず、暖かい息を吹きかけながら喉元を満遍なくぺろぺろと舐めてくるのだからたまらない。
「や、やめ…」
 これでは、オレが一方的に犯されているみたいじゃないか。抗議の声をあげようとしたオレは、しかし逆に口を口で封じられてしまった。
無理矢理捻じ込まれる舌の感触。ねっとりとした液体が流し込まれるのを、ただただ口内の感触で感じる。
互いの息遣いが感じられるのが、なんだか酷く感じてしまうのは何故なのだろう。―熱くて激しい、生命の息吹が絶え間なく送られてくる。
「―ぅ…ぁ!」
「ん、ふ…」
 ―勿論オレだって、手足をバタつかせてソレに抵抗したさ。…だけどどういうことなのか、彼女の腕力は異常だった。
ほっそりとした外見からは予想できない馬鹿力に前足を押さえつけられて、オレはただただ彼女の欲望のままに犯されるしかなかったんだ。
だけどまあ正直な話。こんなに可愛い娘にキスされて、抱かれて…悪い気はしないのが本音な所なんだけど。
唾液が交じりあうことよって生じる水音を、遠くで起こっている出来事のように感じ始める。
…やがて、捻じ込まれてくる舌を受け容れられるようになってきていた頃、彼女は示し合わせたように顔を上げて、オレを見下ろしてきた。
「一緒に気持ちよくなろぅ?」
「え?」
 そう呟かれて、彼女が体をもぞもぞと動かす。――オレには一瞬、何が起こったのか分からなかった。
彼女がくるっと体を反転させたかと思うと、先ほどまで彼女の顔があった目の前に、ふさふさの体毛から覗くピンク色の割れ目があったんだから。
そしてその直後――度重なる刺激で直立しきっていたオレ自身の先端に、じっとりと湿った舌の感触が襲ってきて。―ようやく現在の体勢を思い知らされた。
「ひぃ、あぅぁああっ!」
 互いの、最も弱い部分を刺激しあうことの出来る体勢。
その最初に与えられた快感。今までのどの刺激よりも強烈なその感触で、オレの頭からは一気に余分な考えという考えが飛んでしまった。
無意識のうちに前足を彼女の腰に回して、目の前でぱっくりと開いている秘所を抱き寄せるようにして、ただただ逃げるように無我夢中で齧り付く。
そして、その効果は抜群だった。
「ふ、ふあふっ」
「ぶぇ…はぅ、ああ!」
 互いに与え、受ける刺激が増えれば増えるほど。オレも、彼女も目の前にあるソレに縋り付くようにして、激しく快感を与え合う。
勢いの付いたその行為は、最早どちらかが果てなければ止められないものになってしまっていたんだ。

でも。
終焉が訪れないように思えたその行為は、だがあっさりと彼女によって幕引きされた。
「だ、だめ…ひ、ああああああぁ?!」
 と、突然彼女が叫び声を上げるのを聞いて、何が起こったのかを理解できないまま…
 
びちゃ、と。


大量の粘液が、オレの顔に…ふりかかる。―彼女の秘所から、大量の液体が噴出されて、もろにオレの顔面に降りかかったのだった。

(ああ、こういうことなんだな)
びくん、びくん、びくん、と彼女の体は絶え間なく痙攣している。
でも、心の奥底の部分で――まだまだ終わっていないんだな、というのを本能で理解しながら。

彼女の秘所から漏れでた、大量の液体にまみれて―――オレはいつ間にか、虚ろな笑みを浮かべていた。

リース>


「あ、あ…あぅ…」
 気持ちいい。体中から、力という力が漏れていってしまったかのようだった。
目の前にあるソレにむしゃぶりつくのも忘れて、私はただただ余韻に浸ってしまっていた。―だけど。
心のおくの私は、まだまだ満足していない。
もっと淫乱に、もっと激しく。ほしいほしいほしいほしい。――今の私の体は、恐ろしいほどに貪欲だった。
そして都合の良いことに、私の目の前には準備万端とばかりに膨張した、雄の象徴があるのだ。
今か今かとその時を待ちわびているようにも見える様子に耐え切れなくて、私は体を起こした。
ベッドの奥へと、這うようにして移動して…彼に向き直る。

「来てください…」
「!」

 私と同じように起き上がり、懇願するような声を聞いた彼は…ほんの少しだけ、驚いたようだった。
ベッド側の壁へと寄りかかり、桜色の私自身が彼に見えるようにして足を開いて、促しているんだから。…まあ、見慣れてないと驚くのかも。
そんなことを考えながら、私はうふふ、と妖艶に笑みを浮かべていた。

――私って、こんなにえっちだったんだ…

 遠く、自意識の向こうで…ふと、そんな思考が頭を掠める。
クスリの影響。――でも正直。ここまで自分が壊れるとは思っていなかった。
いつもいつも、ブラッドにばかりクスリを使って、彼だけを嘲っていた自分が愚かしい。
――こんなに気持ち良くなれるなら、自分にも使っていればよかった。

と、彼の顔が間近に迫ってきて、私は正気に返った。
「…い、いいの?」
 緊張した面持ちで、尋ねてくる。
今までの淫乱さとは裏腹に、なんだか彼は怯えているようだった。―互いがもっとも気持ちよく慣れるであろう、その行為を。
だけど。
ふと私は、冷静になって考えた。
…思い返してみれば、彼のキスや愛撫は…少々初々しかったような気がする。
クスリのせいで敏感になってしまっていたために、早くに果ててしまったが…彼はもしかしたら、私が”初めて”なのかもしれない。
「挿れたこと、ないの?」
「う…うん」
 ―なんだか、とても可愛い…。
案の定返ってきた、予想通りの反応に…私は一種の喜びを感じていた。

なんだろう。これは……綺麗な物を汚す、背徳的な悦び。

彼はいわば、まだ何も塗られていないトーストなのだ。
ジャムを塗るか…バターを塗るのか…それともミルク漬けにするか…その趣向は、いまや完全に私の手に委ねられている。
目の前でびくびくと様子を伺う、無垢な子羊には…私に抵抗する、という意識すら既に無いのだから。
彼がこれから、どのような性癖を持ったポケモンへと成長していくのか…その後天的要因を模る権利が、私には与えられたのである。
…これほど痛快なことが、この世には存在するのだろうか? ―いや、ありえないだろう。
さらに妖艶な笑みを深めると、私は言葉で迫った。
「そう…じゃ、こっちにきて?」
「あ…うん」
 弱弱しく呟いて、彼がおずおずと近づいてくる。
正面から抱き寄せてあげると、彼はびく、と体を震わせた。緊張からなのか、ぷるぷると震えるからだが可愛らしい。
でも――そんなことをしている間も、私と彼の部分は、しっかりと顔を合わせている。私は、気が狂いそうになるのを必死に堪えていた。
「ゆっくり、無理はしないでね?」
「…わ、わかったよ」
 離れて正面から向き直ると…彼は大きく深呼吸した。
ゆっくりと、彼の体が近づいてくる。…躊躇いは、捨てたようだった。
そして…再び体がぶつかって―――

「――っふ!!」
「ひぅっ」

ずぶり、とそれは打ち込まれた。
互いの液体で潤滑がよく、私自身も意外なくらいに、それは瞬く間に飲み込まれていく。
突き進む快感に歪む、彼の顔が目の前にある。…ああ、なんて可愛らしい表情なんだろう。
私自身も大きな快楽を受けながら、だが…口付けの衝動は我慢できなかった。
再度…彼を求めるようにして、抱き合いながらの口付けをする。―舌を捻じ込むと、彼はそれに十分に応えてくれた。
私の中を、快楽という名の大きな楔が突き進んでゆく。―クスリのせいなのか、その衝撃は何時もよりも大きい。
勿論その衝撃は、びくびくと勝手に震える壁を通して、彼自身にも伝わってゆく。 
やがて、彼はついに最果てへとたどり着いたのだった。ぴっとりと張り付いた下腹部。それを見て、彼は仔供のような笑みを浮かべていた。

「ふ…はあ…ぜ、全部入った…!」
「ふふ…よく出来ました」
 優しく褒めてあげると、それだけで嬉しそうに頬を赤らめる。…本当に可愛らしい。
でも…これからがラストスパートだ。
「動いて…くれる?」
「うん」
 それだけを呟いて…彼が、体を沈ませてくる!
ぐちゃ、と淫靡な水音が響いて、私と彼は体を震わせる。…心底、気持ちがいい。
ずぷ、ずぷと徐々に…控えめにではあるが、彼は快感に取り付かれたように、腰の動きを早めていった。
ただただ単純に、挿れて、引いての原始的な快感の痛み分け。だがそれゆえに、私たちは最も本能に近い部分で、互いの存在を感じあうことが出来る。
「ひ…あぁんっ! い、いぃ…きもちいぃよぅ!」
「ふ、ふっふっ…ぅっ!」
 声が、喘ぎが…勝手に喉を突いて出てくる。そしてそんな淫乱な私を、彼は黄色い体を揺さぶりながら、情欲に濡れた瞳で私を見つめてくるのだ。
息が荒い。きっと、彼の瞳には私の姿しか映っておらず、その尖った耳には私の厭らしい喘ぎ声しか聞こえていないのだろう。
すごく、いい表情だった。
私の淫らな姿だけを見て、私の嬌声だけを聞いて、私という一匹の雌だけを、今彼は愛している。
今この瞬間に勝る悦びは、他に存在しないだろう。
「ひゃ…いやぁ! あぅ…んぁああ!」
 そして、徐々に変質的に、本能的になりつつある彼の攻めに、私は二度目の絶頂を迎えつつある。
だが、それは彼も同じ事のようであった。
「ふ…ぐぅっ!」
 限界が近いことを連想させる、苦悶の表情を浮かべながらも…その攻めは、入れ込んだ時よりも、かなり激しくなりつつあるのだ。
もう、気持ちよくなりたい…。
我慢できなくなってきた私は、最後の力を振り絞って上半身をおこし…そっと、彼を抱き寄せた。
――そして、魔法の呪文を呟くようにして…彼の耳もとで、たった一言。
「いっしょに…イこう?」
「―――!」

彼は、行動で返事をしてくれた。

何かのスイッチを切り替えるようにして、体を一時停止して…そして、次に動き出した、その腰の動きは…今までとは比にならないほどの早さだったのだ。
機関銃のような勢いで打ち込まれる、彼自身の感覚。
その快楽の大きさは、余りにも大きい。私も彼も、瞬く間に絶頂へと追い詰められていく…!
「ん…は、も…だめえええっ!」
「ぐ、はああっ!」
 そして――私たちは、同時に果てた。
頭の中に、電撃のように走った閃光が、視界を覆いつくし…あっという間に体の自由を奪う。
だけど、その奪われた体の中で、確かに彼のものが放たれたのを、私は感じていた。
体を大きくそらし、野生の獣のような雄たけびを上げて、全てを解き放った彼は…私の中へと倒れてきた。
「ふ…ぇえ」
 弱弱しい声をあげながら…それなのに、表情はだらしない笑みを浮かべている。
でも、それは私も同じことだったのかもしれない。…終わったあと、全く動けないまでに疲弊しているなんて…私は今まで、そこまで打ち込まれたことなんてなかったんだから。
…繋がったままの部分から齎される脈動の感覚が、やがて少しずつ…萎えていく。
「…はあ」
 少し、息を吐くと…彼は、大きく体をそらして私の右手へと倒れこんだ。
―つながりが解けて、そこから…濁った色合いの液体がどろどろと流れ出てくるのを認めて、私はなんとなく笑みを浮かべる。
私は2回。彼は1回。それだけに、私の中に放たれた液体の量は、なかなかのモノだったからだった。
「気持ちよかったよ」
「え…」
 それだけを呟くと…彼は事前のような、怯えたような表情を浮かべた。…私のこと、こんなにめちゃくちゃにした癖に。
なんていうか…酷くギャップがある。
とりあえず私は、前足だけを伸ばして、彼に抱きついた。―余韻が残る雰囲気の中、まだまだ彼とは”恋人ごっこ”を続けていたかった。

「……あ、ありがとう」

ふわふわとした感覚。
浮上していく意識の中、私は…彼のそんな呟きを聞いたような、そんな気がしていた。

ラズリア>

…眠いような、眠くないような。
呟くと、オレは寝転がっている彼女の隣で、欠伸を噛み殺した。―ああ、なんだか凄く疲れたような気がする。
いや…事実オレは疲れている。
突き抜けるような快感こそ残っていないものの、それでも体を支配する、この奇妙な倦怠感は本物だ。
…それに、体中にべっとりと染み付いた体液や汗は、嫌でも彼女との交わりを現実味溢れるものにする。
(なんだか…ちょっと水浴びでもしたいな)
 ふと、そんな考えが頭を過ぎった。
―というか実際、体にこびり付いた匂いや汚れは結構なものだ。
…洗い流すのは、ほんのちょっとだけ勿体無い気もするけど…馬鹿な事を考えながら、オレは起き上がって視線を彷徨わせた。
まず目に入ったのは、部屋の入り口に掛けられた、現在の時刻を表す針時計。
1時35分…。入店して、この部屋に入ったのが0時の50分だったから、後15分も余裕があることになる。
それ位の時間があれば、体の汚れを洗い流すには十分だろう。
ベッドから身軽に跳び上がると、オレは足取り軽くシャワー室へと入っていこうとした。
「あ…待ってください!」
 ―と。
呼び止められて、ドキリとする。…この部屋でオレを呼び止めるポケモンなんて、彼女しか居ない。
振り向くと、いつのまにか彼女―リーフィアは、顔を上げてこちらを見ていた。
…てっきり、疲れて眠っているのかと思っていたのに。
「…起きてたんだ」
「ふふ。シャワー浴びるんですよね? 一緒に使いましょうよ」
「え…あ、別にいいけど…」
 突然そんなことを言われて、オレは頭の中で嫌な単語が浮かび上がるのを防ぐことが出来なかった。
おふろ。おんなのこといっしょに。ずぶぬれ。しゃんぷー。ぬるぬる。あらいっこ。ぴっとり。
………。
「大丈夫ですよ? 別にえっちな事しませんから。――あ、やってほしいんですか? それなら」
「へ?! いや!別にそんなことはないさ! ふ、フツーに使おう、うん。普通に!」
 にやにやと笑いを浮かべるリーフィアにからかわれながら、オレは浴室へと入っっていく。
だけど、やけに浴室の中が湯気だっているのに気づき、怪しく思いながら中を覗いた。

「あ、あれ…?」

…少しの間、驚く。
浴室の中は、もやもやと白い蒸気で埋め尽くされていた。
それもそのはずだ。
視線を移して浴槽をみてみれば、たったいま湯が張られたかのように、暖かなお湯が満たされていたからだ。
しかも御丁寧に、湯面には赤と白の薔薇まで浮かべられている。
それから放たれた香りが、湯気と一緒に浴室一杯に広がっていた。
「どうなってんだ、これ」
「うーん…終了時間が近くなったら、自然とこういう風になるよう、セットされているんじゃないですか?」
 あまりにも完璧にセットされた状況に、オレは言葉が出なかったが…彼女は余り気にしていないようだった。
オレの脇をすたすたと歩いて、彼女は先に湯に浸かっている。
奥を透かし見てみれば、シャワーはやはり一つしか備え付けられていない。―ということは、オレから先にシャワーを使えということか。
「…キミって、意外と柔らかい毛質だよねー」
「そお?」
 前足でごしごしと胸の辺りを摩っていると、湯船の中の彼女から声が掛かった。
視線を移せば、彼女は興味深そうにオレの体を見ていた。
「サンダースって、いっつも体中の毛がぴぃん、って立ってるでしょ? だからてっきり毛が痛んでてチリチリなのかなあって思ってたんだけど」
 …随分な言われようだ。
念のため言っておくと、別にサンダースって種族は、好きで体中の毛をピンピンさせてるわけではない。
戦闘中や緊急時に、自然と体に充満してしまう静電気に反応して、自然と体中の毛が逆立ってしまうのだ。…普段は手入れもしているし、とりーとめんともバッチリなんだぞ!
……まあつまり、体質だ。
そこら辺を誤解されると困るな。
「ふぅん…ブラッドもこのくらい手入れしてくれてれば良かったのになあ」
「―――…は?」
 ―ちょっとした衝撃が、オレの頭を直撃したかのようだった。
彼女の呟いた台詞を聞いて。
そこから紡がれた、ポケモンの名前。………ブラッド。
聞き覚えがあるというか…なんていうか、そう。オレの弟の名前。
ということは、彼女はブラッドの知り合い…ということになるのだろうか。
(だけど…ちょっと待てよ)
 ブラッドの知り合い…の、リーフィア……?

なんか、そういう条件に見合うポケモンを、オレ達は探していたんじゃなかったっけ。
彼女がオレの体を湯船越しにぺたぺたと触れてくるのもきにせず、オレは考え込む。
ブレアの後輩で…ブラッドの恋人。名前は確か…
「りーす…?だったっけなあ」
「?」
「――あ」

 ……しまった。悪い癖だ。ついつい考えていたことを口に出してしまった…!
そらみろ、彼女の表情が見る見るうちに怖い色に染まってく…
「なんで私の名前、知っているんです?」
「……」
 油断していた。―ていうかこんな場所で出会うなんて、普通は予想できないだろう。
じろりと睨み付けてくる彼女の表情が、ちょっと怖い…。
「ねえ。…どうなんです?」
「あ…うん」
 ここは…少し事実を矯正する必要があるかもしれないな、とオレは思った。
そう…少なくとも、オレがブラッドの兄だということは知られてはいけないだろう。
言葉を慎重に選びながら、視線を向ける。
「キミ、ブレアの奴の知り合いだろ?」
「え…先輩のこと、知ってるんですか?」
「うん。ともだ――いや、親友さ」
 とりあえず、嘘で無いような嘘をつく。ここは、彼女の知り合いとも知人であるということを示して、まずは信用してもらうのが先決だろう。
思惑通りに、彼女はほんの少しだけ眼光を弱めてくれた。
…ぶくぶくぶくと気泡を噴出して、湯船のお湯に顔を沈ませながらも、じいっとオレのことは見つめていたけれど。
「あいつ、キミの事探してたぜ?」
「――も、もしかして…私のこと探して、このお店に来たんですか?!」
「も、もちろんさ」
 …口が裂けても『本当は遊びにきただけ』なんて言えねえな…。
「キミたちの目的のことも教えられたよ。…”属性”の事も知ってるしな」
「へえ…先輩、貴方のこと信頼してるんですね」
 (いや、どうだろう)
心の中でつっこみながらも、オレはなんとなく頷く。
呟いた彼女は、ぱあっと笑みを浮かべて、湯船から顔を出した。
「私…その、お金を調達するために、ここで働いてるんです。…だから、その…先輩には…」
「そういうことだったのか」
 なるほど、納得だ。別に雄の体欲しさで、こんな所で働いている訳ではないんだろう。
そして、その金稼ぎというのも、恐らくは属性のため…。
「だけどさ。ブレアは直ぐにでも会いたがっていると思う」
「え、ええ。でも…」
「―お金に関しては…ま、オレがなんとかしてあげるよ。キミも今日の分、稼いでるんでしょ?」
「ほぇ…い、いいんですか?」
「親友の妹分だからな」
 ブレアの奴が聞いたら『ば、ち…違うってぇ!』なんて言い返してきそうな台詞だな、と自分でも思う。
でも、彼女には効果があった。
「……」
 ナニカを考え込むように、湯船の中で黙り込んでしまう。
やはり―体を売るような商売には、抵抗があったのだろう。そうオレに感じさせるのに、十分な間だった。
「今日限りで帰ってくるといい。…どうせ体験入店かなんかなんだろう?」
「………」
 図星か。またもや彼女は返事を返してこない。
オレは説得を続けた。
「心配はしなくていいよ。ブレアの奴には秘密にするし、絶対に口外しない」
 だから、オレの事も黙っておいてくれないか。
そう言おうとして…気づいた。

「…………」
 湯船の中の彼女が、顔色を真っ赤にしながら…虚ろな表情でオレを見ていたことに。
ぼーっと。
見えていない現実を見ているような…そんな瞳で。
「…リース?」
「…」
 返事は無い。…もしかして。
妙な予感を覚えながら、オレは続けた。
「おーい。おーいおーい!」
「……」
 大声で叫んで、彼女の瞳の前で前足をひらつかせても、やはり反応なし。――うん、決まりだ。
彼女…のぼせてたんだな。


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Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
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