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最後の理解者

/最後の理解者

作者 大空の熊

大空の神様 

どうして世界は僕を生んだのだろう。
どうしてみんなは僕を崇めるのだろう。
どうして僕はみんなとは違うのだろう。
みんなは僕を大空の神―――『ホウオウ』と呼ぶ。


薄汚れた羽根 

僕が生まれたのはとても昔の話。
とても高い山の頂で僕は、神様から綺麗な羽根と、賢い頭脳と、永遠の命をもらった。
みんなは僕の姿を美しいと言った。
気が付くと、みんなは僕に話しかけてくれなくなった。
誰かが僕のことを神と崇め始めるようになったから。
僕に気安く話しかけてはいけないと誰かが言ったから。
数少ない話しかけてくれる人も、形式ばった挨拶をしたあと、逃げるようにどこかへ行ってしまった。
寂しかった。
悲しかった。
そして、大きな岩の陰で泣いた。
ある日、近くの森にいる人たちに聞いてみた。
―――どうして僕は、神と呼ばれているの?
聞かれた人たちは、困惑した表情で答えてくれた。
―――あなたのような美しい羽根を持っているポケモンは、他にはおりません。だからではないでしょうか。
美しい羽根。その人たちはそう言った。
ああ、なんだ。
そんな簡単なことだったのか。
じゃあ、この羽根を捨てればきっと。
僕は、誰もいない山の頂で羽根をちぎった。
こんな薄汚い羽根なんか、捨ててしまえばいい。
そうすればきっと、みんなは僕に接してくれるはずだ。
何枚も、何十枚も、何百枚もある羽根をちぎっては崖から放り投げた。
痛くは無かった。


価値の無い頭脳 

僕には好奇心というものはほとんど無かった。
神様が賢い頭脳なんてくれたからだ。
だけど、みんなはそれを素晴らしいと言った。
次の日から、沢山の人たちが僕の話を聞きに来た。
数年の時が流れても、まだ沢山の人が来てくれた。
数十年の時が流れると、来る人の数は目に見えて減っていった。
数百年の時が流れると、その年の天災を聞きに来る使者しかやってこなくなった。
何かを知りたいという気持ちが無い中での時間は、とても退屈だった。
ただ、みんなと話したかった。
ただ、みんなに知ってもらいたかった。
ただ、みんなと一緒にいたかった。
神という立場を、捨てたかった。
ある日、使者の一人に聞いてみた。
―――どうして僕は、神なんて立場に立たされているの?
使者の一人は、少し驚いた表情で答えてくれた。
―――あなたのような膨大な知識を得ているポケモンなど、あなた以外におりません。だからではないでしょうか。
どこかで聞いたような台詞で、膨大な知識と言った。
頭の中に組み込まれているこの知識は忘れることなんてできなかった。
なら、忘れたふりをしよう。
こんな価値のない知識など、最初から無かったことにすればいい。
僕の記憶が、欠け落ちていく音が聞こえた気がする。
そして、僕は考えることをやめた。


無駄な命 

僕には時間の流れが無かった。
永遠の命は、世界の命の流れを見せてくれた。
沢山の雲が流れていく空。
枯れては別の場所へ移動する森。
流れを変えて広がる川や湖。
今でも思い出すことができる人たちの顔。
楽しかったあの日々は、もうこの命の奔流に巻き込まれて、粉々になって、消えてしまった。
残酷なまでの時間の流れに消えていったこの景色は、きっともう見ることができないだろう。
僕が狂い始めてからどれほどの時が流れた?
何年?何十年?何百年?何千年?それとも―――もうあらわすことのできないほど?
なのに僕の命は尽きない。
昔は神様に願っていた気がする。
願いが届くわけが無かった
だって神様は、僕自身なのだから。
もう誰も来るはずのない山の頂で、そんなことを考えていたら、一人の人間が来た。
人間は、僕を神と呼ばなかった。
ここ数千年ほどで僕のことを神と崇めなかったのは、この人間がはじめてだった。
この人間なら、答えを教えてくれるだろうか。
―――僕はもう疲れた。誰かに崇められて、敬われて、奉られて。そんなことを望んだはずじゃなかったのに。
人間は、驚くほど落ち着いた表情で聞いてくれた。
ああ、きっと答えてくれる。
―――人間、僕の最後の質問に、答えてくれる?
最後の質問。
僕の世界に対する、最後の質問。
人間は何も言わずに頷いた。
―――僕は、どうすればよかったのかな?薄汚い羽根をもらって、価値の無い頭脳をもらって、無駄な命をもらった。誰かに頼んだわけでもないのに、神と呼ばれた。そして、誰にも理解してもらえなかった。…僕は、どうすればいい?
人間は、何も言わなかった。
代わりに、抜け落ちた汚れた羽根の中から、一番赤く輝いている羽根を拾って、僕に渡した。
なんとなくわかっていた。こうするしかもうないって。
この人間になら、答えをだしてくれたこの人間になら、見届けてもらいたい。
それじゃあね。

―――ありがとう。

―――さよなら。

赤く輝く羽根が、僕の喉を切り裂いた。




あとがいてみます 

梅雨のじめっとした空気の中、よくもまあこんな鬱な話を書けたなと自分でも思ってます。
実はこの作品、一時間くらいでささっと書いてしまいました。
残念な文章力になっているのはそのためですorz

★この作品について
ふと、「神様って崇められて嬉しいのかな?」なんて思った結果に仕上がった作品です。
個人的にホウオウが気に入っているので主人公はホウオウとなっております。
このホウオウにとっては、よほど孤独がつらかったのでしょうね。
最後には、この世界とお別れをしてしまうことになってしまいました。
しかし、この選択こそがホウオウを救ったというわけでもあると思っています。
まぁ、そこは皆様自身でご判断ください。

最後に、ここまで読んでくださった方と、全部書ききる根性を見せてくれた自分の精神に、感謝なのです!


コメント 

コメントがあると海熊がかなり喜ぶらしいです。

お名前:
  • >>名無しさま
    コメ返し遅れましたm(_ _)m
    この話の見方はあくまで私一個人によるものですが、きっとこのホウオウが孤独じゃない世界もあるのかもしれません。このホウオウが神ではない世界もあるかもしれません。ですから、この世界のこの話はあくまでどこかで起こった小さな話なのかもしれないです。
    コメントありがとうございました。
    ――海熊 2013-06-28 (金) 07:29:34
  • そんな見方があったとは……(驚愕)
    ―― 2013-06-25 (火) 00:43:04

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Last-modified: 2013-06-24 (月) 00:00:00
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