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晴れない砂嵐

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晴れない砂嵐
※官能表現があります
作者:カナヘビ


 小さい頃から、あの子はずっと霞んでいた。
 佇んでいる時も、体を下ろしている時も、欠伸をしている時も、眠っている時も、常に霞んでいた。
 ぼくの目は霞んではいないはずだ。自慢じゃないけど、砂嵐の中でも敵を狙って素早く動ける自信がある。ぼくの目はとびきりいいからね。
 そんなぼくの目でも、あの子はやっぱり霞んでいた。
 洞窟から急に出たから日光に目が慣れてないのかな?最初はそう考えた。でも、この砂漠は洞窟からずいぶん離れているから、ここに来るまでに目は慣れているはず。
 洞窟の中とは違う、ぎんぎらぎんに光る太陽。その太陽の下に広がる砂漠は、ずっと立っていることがままならないほど熱くなっていて。そんな熱い砂漠にも関わらず、あの子はその場に佇んでいた。
 あの子に会ってみようかな。そう思った。
 好奇心だった。初めて見る砂漠に浮き足たって探検を続けて、道中見つけた大きな砂丘の上にいたあの子。穏やかな気候だった砂漠は、あの子の周囲に来たその途端に砂嵐へと変貌した。
 普通なら参ったとかそんなことを思うんだろうけどぼくは違う。砂嵐があってくれるなんて逆にいえば好都合だ。足が軽くなって身軽になる。
 砂嵐の恩恵を受けつつ、ぼくは腕を頭の上で合わせる。両腕のそれぞれ3本の爪をぴったりと合わせ、先端から勢いよく地面に潜った。
 地面、すなわち砂の中はものすごい熱さだった。砂の中を進むうちに摩擦で焼け死んでしまうんじゃないかと錯覚してしまうくらい熱かった。
 それでも種族柄穴の中でお陀仏になるなんてそんな間抜けなことにはなりたくない。方向は大方分かっていたから、熱いのを我慢して一気に突き進んだ。この時まだ進化してなくて本当に良かったと思う。
 目の前には視界を遮る無尽蔵の砂。でも伊達に日頃地面に潜ってるわけじゃない。ぼくが今向かっている場所の検討を付けることなんて簡単だ。本能を頼りに出る場所を定め、地面から一気に飛び出す。
 勢いを付けすぎたのか、地面から飛び出した瞬間体が宙を舞った。
「うわあああ!」
 砂嵐吹き荒れる砂丘の上を飛ぶもぐらなんて、そう見られる光景じゃない。多分、今この瞬間だけ見られる光景だろう。
 少しの時間の後、頭から砂地に不時着する。砂のクッションじゃなかったらどれだけのダメージだったかなんて想像したくもない。
 頭をさすりながらなんとか立ち上がる。文字通り、渦巻く砂嵐が砂丘を覆っている。ぼくはその中心にいた。
 そして。あの子が、そこにいた。

 あれだけ派手に飛び出せば気付かないはずはない。もとから円い目を更に真ん丸にしてぼくを凝視していた。
 真ん丸な目の他に目につくのは、目より前に出ている大きな鼻の穴。オボンの実を横たえたような形をした頭と、焦げ茶色をベースとした斑点のある4本脚の体、そして小さな尻尾。ぼくの体の2倍を超す体のあの子が目の前にいた。
「…や、やあ。初めまして」ぼくは先手で口火をきった。話を掴むにはそれが最適だから。
 ぼくの目の前にいるこの(おんな)の子は目をぱちくりと開けてぼくを見ている。何かに囚われたような目でじっとぼくを見ていた。
 こんな反応は初めてだ。普通、挨拶をしたら挨拶を返すのに。ぼくより大きな体で成長度合いはぼくと同じくらいだ。それくらいの礼儀は知ってるはずなんだけど。
 さすがのぼくも参ってしまった。この子はぼーっとしてるけど、ぼくは1体で気まずい空気を感じている。困ったな。ぼくにできることといえば、次の言葉を見つけようとして苦笑を浮かべ続けることだけ。
「あなた、誰?」
 この子はようやく口を開いてくれた。(おんな)の子にしてはちょっと低めの声。正面からはほとんど見えない口をはきはきと動かして、ぼくのことを聞いてきた。
 挨拶の返答が、まさか質問だなんて。
「ぼくはルドウィグ。君は?」ぼくも質問を返す。
 この子は話を聞いていたんだろうか。またぼーっと立ちすくんでぼくを見ている。
 そのぼーっとした顔が、徐々に頬を崩してにやけた顔に変わってくる。
「あたしは…なんて名前だと思う?」
「え?」
 なんて意地悪なんだろう。名前を聞いただけなのに、教えてくれるんじゃなくて逆に聞いてくるなんて。ぼくはそんなに気が弱くなかったはずだけど、なぜか目の前が霞んでいる。
「そんなの…分かるわけないじゃないか」むすっとして言ってやる。
「そうよ。だから聞いてるの」この子は可笑しそうに言う。
 体が小さいから馬鹿にされてるんだろうか。ぼくはこの子のことはおろか自分の種族のこともいまいちよく知らないけど、ぼくもこの子も平均的な大きさだと信じたい。種族柄の大きさなんて、どうにもできないよね。
「もったいぶらずに教えてくれよ」
 未だ笑っている彼女。あまりにも意地悪だ。目が霞んで仕方がない。
「スギル」
 ただ3語。彼女は、スギルはその名前を言った。
「スギル?」なんだか変な名前だ。
 彼女はすぐには答えず、やっぱりにやにやしている。
「今、変な名前だって思ったでしょ?」
 下手に弁解すれば一体どんな言葉が飛び出してくるか想像もつかない。変に言葉でいじめられるより先に予防策をとったほうがいいと思ったから正直に言った。
「うん、思った」
「ぷっ」
 スギルは急に噴き出して笑いだした。ぼくが正直に言うと思ってなかったのか、それはそれは可笑しそうに笑ってる。なんか変なこと言ったっけ。
「そうでしょう?お父さんがこの名前を決めたの。『軽い』の逆なんですって*1
 変な名前だ。どう考えても(おんな)の子につける名前じゃない。
「逆って、それって重いって意味じゃないか」ぼくは率直に思ったことを言った。
「そうなんですって。あたしの種族って、わりと重いらしいから」
 じゃあ彼女の祖先はみんな『スギル』って名前だったんだろうか。この子のお父さんのネーミングセンスが変だったんだって思うことにしようと思う。うん、そうだ。そうに違いない。
「それで?あたしに用があるんでしょ?」
 スギルは唐突に話題を変えた。円い目で相変わらずぼくを見ながら答えを待っている。
 別に用があったわけじゃない。ただ、この砂嵐が吹く砂丘の真ん中にいるこの子がとても興味深かったから、ここに来ただけだ。そう思う。
 それだけだったかな?興味深かったから、話がしたかった?そうだったかな。
 ぼくがなかなか言い出せないでいると、スギルはぼくから目を離し、足踏みをしてぼくに背を向けた。
「特に用が無いんだったら、一緒に景色を見ない?」スギルが提案する。
「景色を見る?」
 こんな砂嵐の中、景色なんてまともに見える訳はないと思った。でも実際は遠くに見える大小の都会群が砂の中に微かに見えて幻想的だった。
「うん、そうする」
 ぼくはスギルの隣に立った。ざあざあと砂の吹き荒れる音に混じって、微かに鳥ポケモンの鳴き声も聞こえる。
砂嵐の向こうに見える幻想的な光景でも、ぼくの目にかかれば細部まで見渡すことができる。日光を反射して輝く透明なもの、黒く舞い上がる煙、揺れる空気。うん、住みたいとは思わない。
「いつもこうして景色を見てるの。あまり何も見えないけどね」スギルが口を開く。
「他の場所に移動したら?」ぼくは思ったことをそのまま言う。
「移動しても同じよ。この砂嵐、あたしが起こしてるんだから」スギルが言う。
「え?」
 ぼくは思わずスギルを見た。確かにぼくより大きな体だ。でも、こんなに激しい砂嵐を起こしてるようにはとても見えない。どっちかって言うと砂嵐に呑まれそうに見える。
「信じられない?」スギルは悪戯っぽく笑う。砂嵐が強くなったのか、目の前が霞む。
「うん」ぼくはすぐ答えた。
「あたしの特性。あたしがいるところはどこもかしこも砂嵐が起こっちゃうの」
 そんな特性があるのか。ぼくは特性をそんなに多く知ってるわけじゃないからなんとも言えないけど、そんな特性だったら不便するだろうな。
「ぼくにはあそこに建ってるものがちゃんと見えるんだ。砂嵐の中だと逆に体がうまく動くから、砂嵐の中で物を見ることができるんだよね」ぼくはちょっと自慢したくて、高い鼻を空に向けて腕を腰に当てる。
「すごいね。こんな高い所だから、眺めもいいんじゃない?」スギルが聞いてくる。
「そうだね。遠くの砂粒1つ1つまで見えるさ」
 ちょっとばかり大袈裟に言うだけでスギルは目をきらきらさせてぼくを見ていた。なんだろう、スギルの目が本当に光ってるわけでもないのにやっぱり霞んで見える。
「あたしにも見えたらなぁ。砂嵐を起こしてるのに、砂嵐に合った目をしてないの。あなたは砂嵐に合った目をしてるのね」
 スギルは羨ましそうではあるけど同時に悲しそうな表情でぼくを見ていた。
 ちょっと決まりが悪い。この子は砂嵐なんて嫌いなのかもしれない。でも、この種族に生まれてしまったから砂嵐と付き合ってるって感じなんだろうか。
「ご、ごめん」どうすればいいか分からなくなったからとっさに謝る。自然に腕がだらりと垂れる。
 スギルはちょっとうつむいた。丸い鼻面を地面に向けて、目をそよそよと泳がせている。
 知らず知らずのうちにぼくはスギルに精神攻撃をしてしまったみたいだ。(おんな)の子はピュアなハートを持ってるから扱いには気を付けろってお父さんが言ってた気がする。
 スギルは顔を上げて砂丘の周囲に吹き荒れる砂嵐を見据えた。「砂嵐って不便。どこにも行けないし、景色は見れないし、こういう砂漠にいても全然いいことない」
 悲しそうなスギル。砂嵐を常に起こしてるポケモンって、みんなこんなことを思ってるのかな。なんとか元気付けてあげたいけど、うまい言葉が浮かばない。うまくない言葉しか浮かばない。
「砂嵐は………ぼくの役に立つよ!」
 当然、スギルはあっけにとられて目を丸くしている。ぼくも何が言いたかったのかいまいちよく分からない。
「ええと、ほら!ぼくが砂嵐で身軽になれるからさ!だから君のところに来やすいし、何より早く来れるんだ!」
 言ってる内に恥ずかしくなってきた。砂嵐があるからぼくが来れるってなんだろう。ぼくが何をどう思ったって、砂嵐を嫌がっているのはスギルなのに。
「…ぷっ」
 スギルがまた笑い出した。何が可笑しいのか、丸い鼻面を震わせて笑っている。
「なーにそれ?それって、これからあなたがあたしのところに来るから、砂嵐をいいように思えってこと?」
 顔が火照ってくるのが分かる。今日この子をここで見つけたのは偶然だ。なのに、会ったその日に「これからも来る」みたいなことをいうなんて。
「来てくれるの?」スギルが聞いてくる。
 スギルは何かを期待するような目でぼくに視線を注いでくる。なんか、答えを選ばなきゃいけない場面っぽい。
「ま、まぁね」ぼくは思わず答える。「せっかく知り合ったんだしね。毎日だって来れるよ!」
 スギルはたちまち顔をほころばせて笑顔になった。うん、笑顔っていいね。なぜか霞んでよく見えないけど。
「だったら…砂嵐もいいかな」スギルは嬉しそうに言う。
 本当に嬉しそうだ。ぼくが会いに行く、それだけですごく嬉しそう。ぼく以外誰も会うことがないのかな。そんなことないと思うんだけど。
 なにはともあれ、この子が笑ってくれるとなんだかぼくも嬉しくなる。つい顔が赤くなって顔を掻いてしまう。
「じゃあ、これからも来てね!楽しみに待ってるから!」
 スギルの言葉にぼくは特に何も答えられず頷く。ぼくが言い出したも同然の言葉だし、それにここに来ることは嫌じゃない。彼女が喜んでくれるなら来ようかな。
 スギルが喜んでくれるといい気持になる。何よりぼくも嬉しくなる。どうしてそんな気持ちになるのか分からないけど、別に考え込むまでもなく明日からも来ようと思った。
 砂嵐の中のスギルに会いに行く。それがぼくの日課になった。


 ぼくの目は砂嵐に合った目っていうかそもそも砂嵐専用と言っても過言でないくらい砂嵐に適している。
 なのになんだろう。ここ最近目がよく霞むようになった。
 原因はよく分からない。ただ、砂漠に出ると決まって1度は霞む。洞窟で霞むことは無い。
 特に、スギルと話しているときによく霞む。というかスギルと話している時しか霞まない。あの子と話している時、あの子が笑ったりにやけたりすると霞む。
 時々目をこすったりしてみるんだけどそれでも効果は無し。普通のポケモンだったら。砂嵐の中にいるからとかそういうことが理由としてありうるんだけど。
「どうしたの?目が痛いの?」
 スギルが聞いてくる。何度も目をこすってればそう思われても仕方がない
「違うんだ。うん、なんでもない」
 目が霞むったってそもそも目が見えづらくなるわけでもなきゃ眩しいわけでもない。ただなんというか、空間が歪んでいるというか。スギルと一緒にいるだけで、ぼくの目の前は大きく歪んでいるようにぐらぐらとして、捻じ曲がって。実際にそうなってるわけじゃないけど、そういう大袈裟な錯覚に陥ってしまうほど、ぼくの視界は霞んでいた。
「大丈夫?」
 スギルが鼻面を近づけてきた。一緒に景色を見ているのだからそんなに離れた距離にいたわけでもない。でもこの子の顔を真正面から見られるかと言われるとそれはできない。なんでできないのかぼくにも分からないけど、やっぱり真正面から直に迫られると目が霞んで仕方がない。
「だ、大丈夫さ。心配しなくてもいいよ」説得力があるとはぼく自身にも思えない弁解口調の返し方。
「どうみても大丈夫じゃないわよ。あなた目が変よ?」
 スギルの目にも見えるくらいの変化がぼくの目に起こってるらしい。多分ぼくの目は、うつらうつらとした感じであちこちをきょろきょろと向いて焦点が定まってないのだと思う。
「ごめん、本当に何でもないんだ。別に変な病気でもない…と思う」もしかしたら変な病気かもしれない。「とにかく大丈夫さ。景色、見ようよ」
 スギルはじっとぼくのことを見ていた。やばい、目が霞む。多分ぼくの目は、さっき言ったことの説得力を綺麗に吹っ飛ばすくらいにぐらぐら、ぐらぐらと不安定に揺れてるんだろう。
 スギルが表情を変えずに更にぼくに顔を近づけてくる。拒否反応とか拒絶反応とかそういうレベルで目が霞んでいく。ぼくは雌性(じょせい)恐怖症じゃないはずだ。多分。
 スギルが顔を徐々に左に倒し、小さな舌をちょろりと出してぼくの左手を舐めた。
「ぎゃああああ!」
 情けない悲鳴を上げてしまった。舐められた途端体中の緊張が一気に発散されて、ぬるりとした感触に手が悶えつつも体中の力が抜けてしまった。
 気が付けばぼくはだらしなく腰を抜かして地面にへたりこんでいた。
「……ぷっ」スギルが笑う。「あはははは!」
 顔が大いに赤くなっていく。情けない、手をちょっと舐められただけでこんなに驚くなんて。
「そんなに元気なら病気じゃないかもね!どうしたの?そんなに驚いちゃって」
 見れば、スギルは初めて会った時と同じように、それは可笑しそうに笑っていた。そしてその笑いが、ぼくの目にまたもや霞みをもたらす。
「ごめん。体が勝手に反応しちゃってさ。ぼくも何がなんだかよく分からないけど、こうなったんだ」分かるようで全く分からない説明の仕方だ。
「そんなに体をこわばらせちゃって。もしかして、あたしがそんなに可愛い?」スギルがにやけた顔で言った。
 そう言われた途端。ぼくの頭の中で何かが破裂するような音が聞こえた気がした。何の音かは具体的には分からない。でも確かなことは、この音がしたことでぼくの意識が保てなくなったこと。ゆっくりとフェードアウトしていく意識の中で、スギルの声が聞こえていたような気がした。


「大丈夫?」
 目が覚めた時に真っ先に飛び込んできたのはスギルの丸い目。次に満天の夜空。目にちょっと残った霞みを無視して、ぼくはゆっくりと起き上がる。
「うん、大丈夫」
 あれからぼくはなぜか気を失っていたらしい。なんで気を失ったのかよく分からないし、それに気を失う前の記憶が曖昧だ。何があったんだっけ。
 スギルはといえば、あの真ん丸い目を真正面からぼくに向けてそこにいた。周囲は見渡す限りの砂嵐、砂丘。時間が動いただけで場所は変わってないみたいだ。
「何があったんだっけ」ぼくはスギルに聞いた。
 スギルは答えるのを躊躇っているようで、ぼくから目を逸らして目をきょろきょろと動かしている。
「………晴れた空ね」と、スギル。
「え?」
 確かに空は輝く宝石で埋め尽くされている。ナイトブルーの絨毯に散りばめられたそれは、大きな黄色い円盤に負けじときらきらと輝いていた。
「…夜か。早く帰らないといけないけど…」思えば夜ここにいるのは初めてだ。いつもなら洞窟に帰ってる時刻。
 でも、ここで星空を眺めているのもいいかなと思った。空はきらきらと輝く星に埋め尽くされ、地面はつやつやに光る砂で埋め尽くされている。2つのきらきらのシンメトリーが、ぼくらの周りに幻想的な風景を作り出していた。
「きれいだね」ぼくは言った。
 吹き荒れる砂嵐に空いた上空への穴。そこに見える夜空に思わず見とれて、ぼくはその場でずっと座っていた。
「…ねえ」
 スギルが声をかけてきた。スギルは相変わらずぼくから目を逸らして空を見ている。
「あたしね…」
 スギルは振り返った。いつも真ん丸い目はちょっと伏し目気味で、地面に散らばる砂を見つめている。
 スギルの言葉はそこで止まった。ぼくを見ているようで見ていないような、そんな目配せでその場にずっと佇んでいた。
「どうしたんだい?」
 ぼくが聞いてもスギルは何か恥ずかしげに俯いている。彼女が呼吸するたびに大きな鼻が大小に変形する。
 その大きな鼻面に何かしらの既視感を覚えた。いつしか、この大きな鼻面が迫ってきたような…。
「…あっ」

『あたしがそんなに可愛い?』

 思い出した。確かぼくはこの子に左手を舐められたんだった。その後、この台詞を聞いて気を失ってしまったんだ。
「………」
 ぼくと地面を交互に見て大きな鼻面を右往左往させている彼女。その何かしらに困っている様子は、ぼくの中に断固たる1つの感情を芽生えさせていた。
「スギル」ぼくは声をかける。
「…え?」スギルが顔をむくりと上げる。
「さっきさ、可愛いかどうかって聞いてきたよね?」ぼくは立ち上がりながら聞く。
「え、ええ」夜中だと言うのに、月光のおかげでその顔がまっかっかになっているのがよく分かる。
 その姿。夜だからかもしれないけど、少なくとも否定的な感情は湧かなかった。いや、湧かなかったというか、そもそも最初に出会ってからぼくがずっと抱いていた気持ちが、今表に出ようとしていた。
「可愛いよ」ぼくの口から言葉が出た。
 途端に。スギルは石化したように固まって動かなくなった。その丸い目を大いに真ん丸にして、ぼくをじっと凝視していた。
 ぼくは立ち上がる。目の前で硬直している大きな鼻面の正面。霞む目に喝をいれながら、大きな鼻の穴の間にそっと右手を置く。
「…!!」
 スギルはじっとぼくを見ていた。ぼくの突然の行動に驚き、さっきまで赤かった顔を更に赤くしている。
「ル、ルドウィグ…?」スギルが震えた声を出す。
「だってさ。そんなにきょとんとしてさ。砂嵐の中でも、景色を見てる君はとても魅力的に見えたよ。だから、可愛いんじゃないかな」ぼくは言う。
 別に言葉を飾ったつもりも無いし、体裁を繕ったつもりも無い。ただ、ぼくが素直に思ったことを言っただけだ。それ以外に別に意味は無い。
 ぼくがこう思ってて、そしてスギルが顔を真っ赤にしてる。その事実に意味がある。
「………」
 会った時の印象とは全然違う。もっとはきはきとものを言ってもっと積極的な子というイメージがあった。
「…あ、あたしね」スギルが小さな声で話し始めた。普段の口調からは想像もつかない、こもってて中々聞き取りにくい声。「あなたに初めて会った時…いえ、見た時かな。ほら、いきなり砂の中からばーんと出てきた時よ」
 忘れたくても忘れられない。まぎれもなくぼくがまぬけに宙を舞って、スギルの前で滑稽な姿を見せたあの日の事だ。
「あたしね、あなたに見とれてた。あなたが勢いよく砂から飛び出して、大きな声を出しながら落ちてきて。なんて言ったらいいのか、分からないの。ただ、あなたと一緒にいると安心するというか…。心が休まらないけど、休まるというか、その」
 スギルは心をうまく表現できてないみたいだ。そういうぼくもそうだ。何度も言うようだけど、この子といると目が霞んで、心が不安定になる。でも、不安定な中でも大きな安心があって。そういった気持ちがあった。
「ぼくも、かな」
「………」
 スギルは何も言わなかった。いや、言えなかったんだろうか。ぼくの目の前にある大きな鼻面と丸い目は、程よく朱に染まったまま、輝く満月のような笑顔に変わった。
「…!」
 ぼくの目の焦点が合わなかった。まるで調子に乗って地面を掘り進みすぎて、ぐらぐらに酔ってしまったあの時のように。輝く満月も、満天の夜空も、何も見えやしない。スギルの顔の笑顔が、ぼくの視界に、すなかきでも対応しきれないほどの大きな砂嵐を発生させていた。
 ああ。そうか。そうだったんだ。ぼくはこの子に惚れていたんだ。会ってすぐにその笑顔が霞んでしまうほどに。
 それはスギルもまたそうだったんだ。視界が霞んでいたかどうかは分からないけど、でもこの子もぼくに惚れていた。
 脈絡は分からないし、もしかしたら運命とかいうチンケなものかもしれない。
 でも。もしこういう運命が存在するなら。それを信じてもいいかもしれない。
「ルドウィグ、大丈夫?」大きく揺れるぼくの目を見たのだろう。スギルは心配して声をかけてきた。
「うん、大丈夫」ぼくは定まらぬ焦点のままに答えた。
 ぼくとスギルは目を合わせた。正確には合わせたというのは正しくないかもしれない。だって、ぼくの目が休みなくブレまくってたんだから。
「こういうのって、『好き』っていうんじゃないかな」ぼくはスギルに聞く。
「………そう、かな」スギルは恥ずかしげに小さく頷いた。「なら、あたしはルドウィグが好き」
 まったくこの子といったら。これだけ恥ずかしそうにして、これだけもじもじとしてるのに。この子の本質である積極性は消えてないみたいだ。
「ぼくもだ」これ以外の答えは無い。
 スギルはまたも恥ずかしげに俯く。まったく、この子のこういう顔は本当に悩みの種だ。目が霞んでロクに前も見えやしない。
 前が見えなくてもやることは決まっている。勢いでやってしまおう。ただ、それをやるには少々体の位置関係が不適切だ。
 ぼくは見えない目をしかめつつも両腕を頭の上で付き合わし、そのままジャンプして勢いよく地面に潜り込む。いつもやるみたいに出る場所の検討を付けて。ただし出る際に爪でスギルを傷つけないように。斜めがかった角度で進行を始め、地面から出る。
 場所はどんぴしゃり、スギルの大きな顔の下。ぼくの目の前にあるのは、彼女の小さな口。
「え…?」スギルが小さく驚く。声が出るとともに、目の前の口がちょこりと動いた。
 ぼくは斜めがかった姿勢を保ち、突き出た鼻を退けて自分の口をスギルの口に付けた。
「………!」
 地面から半身だして斜めがかった姿勢を保つのは正直すごくしんどい。でも、ぼくの口にある甘酸っぱい味のおかげで、その疲労は特に感じなかった。
 スギルの表情は見えない。でも、ぼくの口付けを受け入れてくれてる。ぼくの口の中で小刻みに動き、味わっている。
「ぷはぁ」
 スギルが後退するとともにぼくとの距離が空く。ぼくと彼女との間にかかった銀色の端がしたたり落ち、広大な砂漠に小さな水のしみができる。
「…あなたも結構積極的ね」スギルが恥ずかしげに、そしてにやけた調子で言った。
 ぼくは地面から這い出、再びスギルと向かい合う。
「もし…大きくなって、ぼくと君の気持ちが変わらなかったら、ぼくと一緒になってくれるかい?」ぼくは静かに聞いた。
 スギルは表情を変えずぼくを見ていた。口付けの後だからか、口をほぐしながらぼくに目を向ける。
「………いいわよ」
 いつもと変わらない、活発で物言いでちょっと意地悪なスギルの表情。でも、ぼくの言葉を拒絶せず受け入れてくれた。
 ぼくは再びスギルの鼻面に触れた。今度は両手で、抱え込むように。ぼくに鼻面を抱えられた彼女は、また朱に染まった笑顔でぼく視界にいた。


 焦げ茶色をベースとした体色は変わらず、青かった模様は赤くなった。3本の爪のうち、真ん中には波状の刃が付いた。頭からは重くてたまらない金属のトゲが生え、それにも波状の刃が付いている。鼻は相変わらず高いまま。
 洞窟の湖で見た時、ぼくはそんな姿をしていた。目線が断然高くなり、体も重くなった。
 ぼくはドリュウズに進化していた。
 父さんからも母さんからも祝福され、ぼくはいっちょまえに大きくなった。
 でも、大きくなっても日課は変わらない。
 スギル。会ってからずっと通い続けてきた。月日がどれだけ経ったかなんて分からない。
 でも、昨日まで毎日毎日通っていた。そして、毎日毎日彼女はそこにいた。
 だったら今日いかない理由はない。両親からの厚かましい祝福を潜り抜け、ぼくは夜の砂漠に乗り出していた。
 進化する前には普通に見えた月明かりが、頭上のトゲで隠れて見えにくくなってる。視界前方に広がる、地平線ぎりぎりに見える空に微かに星が見える。
 地平線にあるのは星だけじゃない。ぼくが日常的に見慣れた風景、大きな砂嵐に囲まれた砂丘がある。
 ぼくはゆっくりと歩き始めた。重くなった体は、踏みしめる砂にいつもより深く足跡を付ける。その足跡は吹きすさぶ砂嵐へと続く。
 改めて外側から砂嵐を見る。心なしか、いつもより大きく、そして激しくなっている。
 ぼくは普段通りに両腕を頭上で付きあわせた。頭のトゲもうまい具合に両腕と重なり、地面を潜るには最適な形になってるみたいだ。
 勢いよく地面に潜る。昨日までとは比べ物にならない速度で地面を突き進む。いつもと同じ場所に検討をつけ、目的地に着くまでに速度を徐々に落とす。進化したばかりだというのに体は思うように動いてくれた。
 地面から上半身を突き出すと同時に潜行と回転が止まった。両腕を離して地面を押す要領で体を地面から出した。いつもと変わらない満天に散らばる宝石の下に。そこに。

 そこに。背中を向けて。あの子はいた。
 ただでさえ目が霞んでいるから、地面が砂でなかったら見つかりにくかったと思う。夜空より遥かに暗い漆黒の体。灰色なんて生易しいものじゃない体より暗い色をした背中と鼻先。背中に空いた3対の穴からは砂が出ていて、彼女の体を若干埋没させている。相変わらず体に対して小さな尻尾、鼻はいつもと変わらず大きく開いている。その真っ黒な体に対してアクセントのある真っ赤な目。
「………」
 ずっと前、約束を交わした彼女が。昨日までずっと会い続けてきた彼女が。せっかく大きくなったぼくの体を再び抜かして、大きな大きな体のカバルドンになって、そこにいた。
「遅かったじゃない、ルドウィグ」
 前までの彼女とは変わって、更に低く艶のある声だ。足の付け根、尻尾の周り、背中の丸み。月明かりに照らされたスギルは、前にも増して魅力的だった。
「ごめん」
 ぼくは謝ってから彼女の横に行った。迫力のあるがっぷりとした体。目はちょっと険しめだけど、優しく澄んでいた。
「君も進化したんだね」ぼくから話を切り出す。
「ええ。いきなり大きくなってね。体が言うことをきかないの」スギルは答える。
「どっちかって言うとぼくは大丈夫かな。とても良好だよ」
「そうなの」
 スギルが口を開くたび、桃色の口内が見え隠れする。2対ずつ並んだ大きな歯は、下の前歯が他のより少しだけ大きい。
 ぼくと並んで座るスギル。鼻から目に至るまでのライン、目の形、顔の付け根。様々な点で、ぼくは再びスギルに惹かれていた。
「スギル。約束、覚えているかい?」ぼくは聞いた。
 スギルはぼくに目を向けた。何かをたくらんでいる時の、にやけた目だ。
「…さぁ、何の事かしら」
 こうなることは薄々予想がついていた。だから対して取り乱したりもせず冷静に返す。
「もし、大きくなってもぼくと君の意思が変わらないなら、一緒になろうっていう約束だよ」
 スギルは黙っていた。鼻から目にかけてのラインがほんのり朱に染まっている。
「進化したから君は変わったかもしれない。でも、ぼくは変わってないよ。変わるどころか、更に気持ちが強くなったよ」ぼくは言った。「君はどうだい?」
 スギルはじっとこちらに目を向けていた。昔みたいに小さいわけじゃないから容易に顔を動かせない。
「一緒になる…。それってつまり、交尾するってこと?」スギルが言った。
「!?」
 ぼくは思わずのけぞった。彼女の口からいきなりそんな言葉がでてくるなんて。
「あたしね」スギルが口を開いた。「ここ数か月間、あなたとしか会ってないのよ。あの時あなたと会って、あなた以外の誰とも会えてない。こんな砂嵐を突っ切ってあたしの所にくる物好きなんて、あなたしかいなかった」
 スギルは大きく開くだろう口をあまり開かず、小さく語っていた。
「あの時あなたを好きになって、それからも好きになれるのはあなたしかいなかったわ。今までも、多分これからも」
 ぼくの頭にスギルの言葉が入ってくる。時間が経つたびにぼく自身が高揚してくるのが分かる。
 でもなんだろう。この不安は。多分、スギルがなぜかにやけているせいだ。スギルが何かをたくらんでいる。
「でもね。さっきも言ったけど、一緒になるっていうのは、交尾をするってことでしょ?あなたって結構奥手そうだから、あなたからあたしに誘ってくるなんて考えづらいのよね」
 そもそも交尾自体あいまいにしか聞いたことしかない。でもかなり恥ずかしいことであることは確かだ。そんなのぼくから誘うなんていうのは確かにちょっと気が引ける。
「ルドウィグ、あなたはあたしと交尾したい?」と、スギル。
 そんな言葉がほいほい出るなんて。答えようにも答えられず頭を掻く。
 分かってる。絶対分かって言ってる。
「だったら…、今日あたしと交尾ができたら、答えはイエスっていうのはどう?」スギルは言った。
「…え?」ぼくはわけが分からず聞き返す。
「そのままの意味よ」スギルは笑ってる。
 なんて意地悪なんだろう。ぼくのことを知ったうえでそんな条件を出すなんて。
 でも、スギルが言うことも一理ある。このまま一緒になってもぼくは多分自分からは交尾に誘わないと思う。口付けぐらいならできるかもしれないけど。
 だからスギルはこうやってリードしてくれてるんだ。雌が誘ってるんだ。のらなきゃ雄じゃない。
「…分かった」
 正直すごく恥ずかしい。目の前にいる好きな子とそういうことをするんだから当然といえば当然だ。でも、決めたからにはやらなきゃね。
「………何してるの?」スギルが口を開く。
「え?」ぼくは虚を突かれる。
「早く引っくり返してよ」スギルはにやけながら言った。
 本当に意地悪だ。目の前にいるのはぼくより遥かに重いだろう大きなカバルドン。重さの差なんて考えるくらい馬鹿馬鹿しいのに、それをぼくの力で引っくり返せっていうんだから。
 やってやろうじゃないか。
「痛いかもしれないけど我慢してね」
 ぼくはそう言うと、両腕と頭上のトゲと合わせて地面に潜った。流線型の体に砂の感触を心地よく感じながら地面深くまで潜っていく。体を回転させながら潜行し、旋回して地上を目指し始める。スギルがいるあたりに検討を付け、一気に加速して地上に飛び出す。
「きゃあっ!」
 スギルの悲鳴が聞こえた。ぼくらは宙を舞い、スギルは仰向けに、ぼくはうつ伏せにまともに地面にぶつかった。
「痛たた…」正直、体より爪の先が痛い。スギルの体が重すぎたんだ。力でゴリ押しするもんじゃないね。
 ともかく、スギルを引っくり返すことに成功した。目の前には、無防備にお腹をさらすスギルがいた。
「さあ、後はあなたにまかせるわ」スギルが言った。引っくり返ってるからよく見えないけど、多分顔のラインが赤くなってる。
 月明かりの下で引っくり返ったカバルドン。そのふっくらとした肉付きのいい身体は、ぼくの本能をいたく刺激した。何より、彼女の後ろ足の間にある、淡い桃色の割れ目。それを目にしただけでぼくは紅潮し、ぼくの象徴が反応を始めていた。
「…いつまで見てるつもり?」スギルもやっぱり恥ずかしいみたいで、ちょっと声を震わせてぼくに聞く。
 見てる間にもスギルの割れ目からはしとしとと透明な液が溢れ出てきて、ぼくの象徴の挿入を今か今かと待っていた。
「…じゃあ、いくよ」
 いつの間にかぼくの象徴は痛いほどにいきり立ち、スギルを欲していた。
 ぼくはそのままスギルに覆いかぶさり、慎重に象徴をスギルの割れ目に入れていく。
「う…わ…」
 スギルの足は左右に開かれて硬直していた。恥ずかしさのあまりか目は固く閉じられ、歯を食いしばっている。
 ぼくの象徴は初めて体感するその刺激に驚き、荒ぶっていた。自分でも分かるほどに瞬く間に硬さを増し、スギルをかき回していく。
 挿入の最中、象徴の先に何か壁のようなものが突き当たった。ぼくも聞いたことがあるけど、処女膜ってやつだ。
「…スギル?」ぼくは挿入を止めてスギルに声をかける。
「…何してるの?早くして」スギルが震える声で言った。
 ぼくは頷くと、再び挿入を開始した。進行するたびに呼吸が荒くなり、汗が増えていく。なにより興奮していく。
 ついに根元まで挿入した時、ぼくは体の力を抜いてスギルにもたれかかった。
「…ぼく達、交尾してるんだよね?」ぼくは聞いてみた。
「…ええ。1つになったの。さあ、ここから本番でしょ?」大きな口をぱくぱくと動かしてスギルが言う。
 ぼくは頷いて、両腕でスギルの体を抱きしめる。柔らかいお腹の感触に満足しつつ、腰だけを動かし始める。
「…はあぁ!」
 腰を動かすたびに象徴から刺激が伝わってくる。刺激は脳で快感へと変換され、体中に伝える。
 スギルはとても分かりやすくよがっていた。声を出さないように極力我慢してるんだろうけど、やっぱり足が震えてるし、お腹は小刻みに上下してるし、何よりぼくの象徴を大胆に締め付けてくる。
「ルドウィグ…!」
 ぼくの象徴と彼女の割れ目からは卑猥に水音が鳴り響き、砂嵐の中に消えていく。その微かな音がぼくに興奮を呼び、上下運動を加速させる。
「スギル…!」
 気が付けばスギルは歯を食いしばることなく、あからさまに呼吸を乱して喘いでいた。虚ろな目は一生懸命ぼくを見て、ぼくと一緒に交尾を楽しもうとしている。
「はあ…はあ…ああ!ルドウィグ!」スギルが声を張りあげる。
「スギル…!好きだよ…!」ぼくは声を出す。
 ぼくの象徴に快感が溜まり、限界が近づいていた。スギルも体の全ての力を抜き、ぼくの象徴を締め付けることに全精力を注いでいた。
「スギル!もう…だめだ!」ぼくは言った。
「はあぁ…ええ。来て…はあ。あなたとのタマゴなら…はあ」スギルが途切れ途切れに言う。
 ぼくは腰を加速させる。激しく鳴り響く水音を聞きながらぼくは限界を迎える。
「うわああああああ!」
「ひあああああああ!」
 最後の瞬間。スギルの中はきつく閉まり、ぼくの象徴はスギルの中で思い切り爆ぜた。
 ぼくは疲労に駆られてスギルにもたれこむ。スギルの中でぼくの象徴が熱く鼓動している。砂の香りがする柔らかいスギルのお腹の上はとても心地よかった。
 ぼくは静かに象徴を抜いた。白い液体が滴り落ちて砂に染み込む。
「…スギル」
 ぼくはお腹の上を這うようにしてスギルの顔に近づく。
 大きくなった彼女の口。ちょっとしたものならすぐに噛み砕いてしまいそうな大きな口。その正面から、彼女にとっては小さなぼくの口をそっと合わせた。
「…ぼくと、一緒になってくれるかい?」ぼくは口を離しながら聞いた。
「…よろこんで」スギルはゆっくりと答えた。
 正面からはよく見えないスギルの顔。でも、ぼくと同じく、ぼくと1つになれたことが嬉しくてたまらないようだった。
 そんな愛しいスギルを見たぼくは、もう1度スギルに口付けをした。


 朝の日差しはいつもの通りぎらぎらと光り、砂漠に再び熱を与える。
「おはよ」大きな鼻面が目の前に見える。大音量の砂嵐の中に、彼女はいた。
「うん、おはよう」
 ぼくは起き上がる。スギルは自力で起き上がったらしい。いまだにお腹と交尾の感触が忘れられない。
「…景色見ようよ」スギルが言う。
 景色と言っても、周囲はいつもの通り砂嵐が渦巻いていてスギルにはまともに見えないはずだ。ぼくの目には、進化したおかげか前よりかもっとはっきりと砂嵐のむこうを見ることができていた。
「これからよろしくね、ルドウィグ」スギルがぼくに顔を向けた。進化する前と同じ、霞んでしまうくらい眩しい笑顔。
「…うん、よろしく頼むよ」
 ぼくの瞳に渦巻く砂嵐は、周囲の砂嵐と同様晴れることはなさそうだ。


 END


 あとがき
 有名な組み合わせ、カバドリュ。なぜかバンギラスのほうが株が高いですけど、カバルドンはバンギラスには受けにくい物理格闘を受けることができます。
 その点は大きく評価してもいいんじゃないかなぁ。
 エロ3作目にしてやっとまともな作品を描くことができたんじゃないかなと思います。エロの下手さは相変わらずですけど;;;
 カバルドンはエロいと思います。個人的に後ろ足の付け根とか尻尾の周りとかそういうむっちりしたところが。あと、カバルドンのお腹って、結構柔らかいと思うんですよ。ペンドラーといい勝負だと予想w
 作者としてはまだまだですが、これからもよろしくお願いします。

 何かあればコメントよろしくお願いします。

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Last-modified: 2012-05-19 (土) 00:00:00
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