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時空狭間のポストマンズ

/時空狭間のポストマンズ

writer is 双牙連刃

 勢いで書き上げたあの作品のリメイク作です! むしゃくしゃしてやった、後悔はしていない。
今更思うに、この話の設定って難しい…昔の私はよくこんな作品を書こうと思ったものです…(リメイクしたお前が言うなって話ですね)。
少しでもお楽しみ頂けたら幸いです。では、↓からスタート致します。



 世界。それには、暮らしている者には分からないある事実があった。
世界は……一つでは無いのだ。そう、並びあった幾つもの世界が存在している。
それらの世界にはそれぞれの管理者が居り、互いに他の世界に干渉出来なくなっている。
だが、それでも不具合が発生する事があるのだ。……主に、自身達の役目を忘れた管理者同士の争いによってだが。
それゆえに世界を分かつ壁に異常が生じ、世界の欠片が外部に漏れ出す事もあった。
そういった、千切れた世界の欠片が集う場所がある。

 時空の狭間

 世界と世界の間に存在する僅かな隙間……それらが集まって形成された空間。数多の世界が生まれた副産物とでもいう空間が存在するのだ。
本来、その空間には何も無い。元々世界ではないのだから当然と言えば当然だろう。
迷い込んだ物は何処にも辿り着かず、やがては朽ち果てる。それは、生物もまた同じ。
基本的にはそういった空間なのだが、実はそうなってはいないのだ。
この時空の狭間には、重要な使命を帯びているある一軒の建築物があるのだ。大きさは、大体一戸建てと同サイズであろう。
地面の無い時空の狭間の中をゆらゆらと浮き続けるこの建物。誰が見る事も無いのだが、それには立派にも看板が据え付けられている。

 その建物の名は……『ハザマ・ポストオフィス』―



 あー……めんどくさっ、昨日良い感じで酒飲み過ぎたでマジで。ちこっとだけ残っててだるいわぁ。
でも今日は仕事の日や、面倒でも行かなアカン。ぶっちゃけ、ワイ一羽がサボってもなんとかならん訳やないと思うけどなぁ。
しっかしワイがサボると絶対バレるしのぉ、あー面倒やー。
とにかく、仲間が飛んどる間を抜けてくんやしフラつかんように飛ばんとな。
すぃーっと飛んで、集積所にハイ到着。うわっ、今日もまたぎょうさん色々来とるのぉ。

「先輩遅いです。業務開始から30分も経ってるんですよ?」
「硬い事言いなさんなーて。あんまりキチキチしとったら将来禿げて、毛の無いポチエナになってまうで?」
「なる訳ないでしょ! もう、早く行きましょうよ」
「へぇへぇ」

 急かされるから早く準備済ますか。集積所に置いてあるワイ専用のゴーグルを装備して、と。後は……何運ぶ事になるか分からんけど、配達カバンくらい持っとくか。
ワイの装備の横には、ワイのパートナーであるさっきの口喧しいポチエナ、『コマ・ランパート』の装備がある。つーても、インカムと治療、アイテムセットの入ったカバンやけどな。
よし、これで準備は完了や。いっちょ局長達に挨拶でもして仕事に入るか。

「おーっす神コンビ。今日の仕事はなんじゃいな?」
「先輩、自重しましょうよ……」
「まったくだ、我等の事をなんだと思ってるんだ?」
「言った通りやけど?」
「まぁまぁ、お早うウィレット。……なんだか顔色が少し悪いように見えるけど?」
「酒の飲み過ぎでの軽い二日酔いだな。バイタルサインの反応で分かる」

 うっ、そんなズバッと言わんでもええやん! 事実やけど!
あぁ、今の優しめ発言をしたんがここの局長、時の神なんて別世界では呼ばれとるディアルガ。ここでは専ら局長って呼ばれとるけどな。
んで、ビシッと痛いとこを突いてきたんが副局長、空間の神のパルキアや。ここでは副局長か、技師長で呼ばれとるな。どっちも専用の装置の前に居るで。
おっとそうやった、まだワイがなんなんか言ってなかったな。
ワイはムクホーク、名は『ウィレット・チェンバー』。ここ、ハザマ・ポストオフィスのポストマンの一匹や。
さて、談笑しとらんと行くとするかいね。今日の配達物は何かいな~。

「ワイの事は置いといて、今日の仕事はなんなんや?」
「あぁ、そうだった。今日は君達にとっては比較的簡単な仕事だと思うよ」
「と言っても、気は抜けないがな」

 集積されている荷物から、機械のアームが一つの物を取って寄越した。……このアーム作ったの、副局長なんよ。
なんやこれ? 青い歯車? そんなにデカいもんや無いけど……。

「ん? それ、局長の力と同じ物が出てますね」

 コマのインカムからホログラムのディスプレイが出てきとる。今はオブザーバーの機能が稼動しとるみたいやな。ようは解析装置、それがなんなんか調べるための機能や。
っていうか、局長と同じ力っちゅう事は時の力っちゅう事か? なんやけったいなもんが流れついとるのぉ。

「で、なんなんこれ?」
「ある世界のディアルガが、世界の時間の調律の為に取り付けた物みたいだね。名称は、時の歯車だって」
「まんまやな」
「ネーミングセンスは置いておくとして、そんな物がここに流れ着いていると言う事は、その場所には何らかの異常が発生してる筈だ」
「んじゃあついでに時空修復もしてくればええんやね? 了解ー」

 そんじゃまカバンに入れてと、サクッと行って戻してくるかいねぇ。
ここ、ポストオフィスーなんて名前にはなっとるけど、やってるのは時空の狭間に迷い込んだ物を元に戻す事なんや。別に手紙を運ぶ訳やない。たまーにあるけどな。

「うん? 向かう先の世界、なんか時空の歪みが酷いなぁ。直接目的地に転送は出来ないかも」
「仕方ない、ナビをコマのインカムに送る。それを元に歯車を戻してきてくれ」
「結局そんな感じのとこに行く事になるんかー。だるいのぉー」
「そうは言っても、僕達以外のポストマンじゃ危険そうじゃないですか。諦めて行きましょうよ」

 せやな……仕事って事で割り切って行くとするかいね。

「しゃあない、どっか安全そうなとこにゲート開いてや?」
「分かってるよ。パルキア、座標指定頼むよ」
「了解。……よし、ここなら向こうの影響を受けずに転送出来るだろう」
「お、準備出来たん? そんなら……コマ、行くで!」
「了解。副局長、向こうでのデータ送受信は可能なんですか?」
「出来ない可能性もあるな、ナビデータ等は出た先で受け取ってくれ。それと、帰りのゲートも同じところに開くから、位置をブックマークしておくのを忘れないようにな」
「了解しました」

 その辺はコマに丸投げするとして、ワイの背にコマも乗った。さて、出発しよか。
目の前にはゲートっちゅう、このオフィスでも一番重要な装置がある。こいつがここと、別の世界とを繋げてくれるっちゅう訳や。
ここ、集積所にあるのはメインゲートっちゅう一番大きなゲートや。弄れるのも局長と副局長のみ。他のポストマンはサブゲートっちゅう別のゲートルームってとこにあるのを使うてる。
何が違うか言うと、このメインゲートは直接局長達の力を受けて開かれるもんやから、どんな世界とも繋がるんや。サブゲートは結構色々条件があったと思う。ワイは使わんからよう分からんな。
開かれたゲートを見据えて、羽を広げる。抜けた先は……違う世界の空や!

「ムクホーク、ウィレット・チェンバー……行くで!」
「ポチエナ、コマ・ランパート。行ってきます!」
「コマもウィレットも気をつけて!」
「無事に帰ってきたら、久々に酒の相手でもしてやろう」
「お? 約束やで? また酔い潰してぐだぐだにしたるわ」

 助走を付けて、一気にゲートに飛び込む! 行ったるでぇ!
オフィスから目的の世界までの間には、局長達の力が混ざって出来たトンネルを抜けていくんや。ここで間違ってもやってはならんのはトンネルの壁に触れる事。
これをやってまうと、正直何処に飛ばされるか分っからん。前に一度間違って飛ばされた時は、いきなり海の中で死ぬかと思ったで……。
ま、今回はそのまま抜けた。んー、青空に太陽の輝き。時空の狭間にはどっちも無いから気持ちええのぉ~。

「転送完了ですね。データは……あぁ、来た来た。そっちにも送ります」
「ほいさー」

 ワイの付けとるゴーグルには、基本的にコマのインカムと同じ機能がついとるんや。操作が出来んからその辺はコマ任せになるが、なかなか便利やで。(副局長作や)
ふむふむ、ちゃんとナビ用の矢印も表示されとるし、目的地の名称もあるな。って名称あったんや。「水晶の湖」か。ほぉ~、洒落た名前やのぉ。

「ここから先は……空間の歪みが酷いですね、恐らくオフィスとは通信出来ませんよ」
「そんならワイ等の判断でどうにかするしか無いか。ま、なんとかなるやろ」
「何とかするしかない、が適切ですけどね。行きましょう先輩」
「おうよ!」

 ま、とにかく行くとするかいな。湖っちゅうくらいなんやから、上から見れば一発やろうし。
ふむ……しかし、時空の揺らぎが酷い世界やっちゅうとったけど割と普通やな。何処がおかしいんやろ? コマに調べさせよか。

「コマ、この世界ってそんなに揺らぎ大きいんか? そないに見えんけどなぁ」
「一応観測してますけど、どうやら一定地域で大きな揺らぎが発生してるみたいですね。空中はそれほどじゃないですけど、地上にはかなり侵食されたエリアがあるみたいです」
「何やて? なんでそないな事になっとんねん。ここの管理者は何やっとんじゃ」
「さぁ……しかし、この規模となると、僕達が出来る時空修復じゃ、修復が間に合いそうもありませんね。終わったら局長達に報告しておきます」
「任したで。っと、どうやらこの辺なんやけど……おろ? 湖なんて無いなぁ?」

 というか川すら無いんやけど。どうなってるんや?

「ちょっと待って下さい……うーん、地上部分には水の反応、ありませんね」
「でもナビ太はここを指し示しとるんやで? なんか無いん?」

 背中の上では今、コマがインカム使うて色々調べてるんやろな。
ポストマンの必需品、インカム&ゴーグル。正式名称は副局長が考えたんがあるらしいねんけど、ワイは忘れた。
こいつには副局長の(色んな世界からパクってきた)技術が集まっとるんや。因みに、ゴーグルがメインポストマンの装備、インカムはオペレーターとかサポーターの装備や。
機能はありまくるから説明しとったら三日くらい掛かる。せやから言わん。めんどい。

「あっ、これは……」
「なんか分かったんか?」
「かなり深度の低い所にそれらしき反応がありますね。地底湖かなぁ?」
「地底湖やて? まーたけったいなところへ行く事になったのぉ。コマ、入り口は?」
「ここ……そこまで洞窟があるみたいです。でも、どういう訳か、中がスキャン出来ないんです」
「スキャン出来んとすると、ここも侵食エリアだと思ったほうがええな。地上に降りて入り口探すで」
「了解しました。侵食エリアとなると、何が起こるか分かりませんね」
「せやな。ま、何とかなるやろ」

 って訳で、地上に到着っと。あまりこの世界のやつ等に出くわさん内に仕事せんとな。
こうしてワイ等は別世界に来て行動する訳やけど、この世界に属する存在な訳やない。言わば存在しない存在や。せやから、あまり現地の存在と接触するのはよろしくない。
ついでに言うと、もし世界の管理者がワイらの事を知らんとなったら、異分子として追い掛けられかねん。だからササッと仕事せなあかんねん。
ま、一応ゴーグルとインカムがそれをカモフラージュしてくれとるんやけど、これ有限なんや。バッテリー切れたら全機能が使えんようになってまう。満タンで……行った世界で三日くらいが限界やろな。
まぁそんな縛りもあるんで、仕事を終わらしたらさっさと帰るんがベストや。仕事も長引かせたないしの。

「あ、先輩。あそこの洞窟から深部まで行けそうですよ」
「おーし、ほんならちょこっと探検にでも洒落込むかぁ」

 時空侵食を受けとるエリアか……ま、なんとかなるやろ。伊達にこの仕事やっとる訳やないでぇ。



 ひんやりした空気の溜まっとる中を、ある程度警戒しながら進んどるとこや。ったく、飛ばれへんと面倒で適わんな。
入ってきてまだちょこっと過ぎた辺りやけど、確かに妙な空間になってるようやな。洞窟全体が動いとるような錯覚がするで。

「空間が安定してないみたいですね」
「そのようやな。これほどの揺らぎ、ワイでも修復するんに大分時間掛かるで」
「……それでも出来るんだから流石ですね。他のポストマンなら逆に飲まれますよ?」
「なっはっは。伊達でナンバーワンになっとる訳やないでー。しかし、どうも揺らぎの規模が大き過ぎて末端から直しても意味無さそうやな。本丸は、恐らく湖やろ」
「進むしかない、ですか。……ん?」

 居るとは思っとったけど、やっぱりポケモンが居ったか。この侵食率の高いところに居るんやから、無事では無いやろな。
コマを後ろに下げて、相手はワイがしたろうやないか。下手にコマがやられてサポートが絶たれるんは嫌やからのぉ。
飛び出してきたのに合わせて翼で一撫でじゃ。これでも力はあるからな、そんじょそこらの野良には負けへんで。

「ウギャア!?」
「おぉ? 何かと思ったらハブネークや。デカイのぉ」
「その大きなハブネークを一撃で壁まで吹き飛ばす先輩の翼力に僕はいつも驚かされますよ」

 呆れられるのにも慣れとるから気にせん。そりゃあ、あっちこっちの世界に行っては戦っとるんやし強くなって当然やって。
で? ノビとる……な。声も掛けんと襲ってくるとは、ワイ相手に大した度胸じゃ。格が違うっちゅうに。

「……特に変わったところは無さそうですけど、どうして襲われたんでしょう?」
「そんなん分かるやろ。こないなおかしなところにずっと居てみ? 三日せんとおかしなるって」
「それもそうですね。って、置いていかないで下さいよぉ!」

 気絶したハブネークなんてずっと眺めててもなーんもおもろないっちゅうねん。ワイ等はゴーグルで影響受けんけど、ここに元々居た奴等はどいつもこうなっとるやろ。じっとしてたら無駄に戦う回数増えるだけじゃわい。
そのままずんずん奥へ進んでいく。入る前にコマが調べた通りガンガン下へ続いとるわい。そしてわらわら原住ポケモン共が襲ってきおる。もー面倒やわぁ。
にしても、洞窟の入り口から考えてありえへんくらい広いんやけど。空間が膨張しとるんか? ……こんなんが何箇所もあるとか、この世界への負担がマッハやでマジで。
しかし、ここまで行ってまうとオフィスの手を入れ過ぎるのもあれやしなぁ。帰りに、ここの管理者にでも会ってくか? 多少危険やけど、何が起こってて何をしてるか把握すんのはありやな。世界の調停役ってのも楽やないでしかし。

「先輩? どうかしたんですか?」
「ん、いやぁ大した事やないって。気にすんなー」
「無茶な事考えてた訳じゃないですよね? この世界の管理者に会うとかだったら、僕は反対ですよ」
「ぬ!? い、いや、ワイかて神を相手にする気ぃなんか無いって! なははははは!」
「……元々僕達の存在は知られてないものなんですよ? 幾ら役目としてこの世界の為になる事をしてるって言っても、異分子である僕達が管理者に会えばどうなるか分かったものじゃ」
「うぅ、分かった! 分ーかったっちゅうに! もー可愛げの無いやっちゃなぁ」
「僕に可愛げを求めるなら、無茶を率先してやろうとするのをやめて下さい」
「へぇーぃす」

 完璧に読まれるとは……恐ろしいポチエナやで。伊達にワイのパートナーが務まっとる訳や無いなぁ。
この肉球ぷにぷにの前足で、ホログラムとはいえキーボードを操れる頭脳は侮れんなぁ。
さて……そろそろかなり降りてきたと思うんやけどな? 目指す湖はまだかいな?
っと、なんか開けたところに出たのぉ。おっほー、デカイ水晶や。売ったら幾らくらいになるやろか? 欠片も結構転がってるし、ちょっと拾っていこか。

「先ぱーい、いきなりお土産を物色し始めないでくださいよ。どうやら、この辺りが中間地点みたいですね」
「ええやんちょっとくらい。って、ここでまだ半分なーん? ちょこっと休憩してくかー」
「そうですね。一応食べ物も持ってきましたけど、食べます?」
「お、準備ええのぉ。そういや、ここでなんか拾ったのもあったか?」
「あぁ、はい。用途不明のアイテムが何個かと、木の実が数個ありますよ」
「ええやんええやん。それ摘みながらちょこっと休むか」

 そんな感じで、デカイ水晶に囲まれながら休憩じゃ。この辺りには別の気配も無さそうやし、しばらくは平気やろ。
しかし、こっから先にはどうやって行くんや? 見たとこ、下へ続いとるような道は無さそうやけどなぁ?
とにかく、コマが出してくれた飯でも食うか。サンドイッチか……こんなん何時用意したんや?

「……これは、先輩が来る前に僕がもらってきといた物ですからね、感謝して下さいよ?」
「あ、そか。ははは、ワイは出来るパートナーが居て楽やわぁ」
「もー、もうちょっと早く起きたりすれば幾らでも準備出来るじゃないですか。僕に全部任せないで下さいよ」
「その分感謝しとるんやからええやろー? そないにブスーっとしなさんなーて」
「ふにゃ!? い、いきなり抱っこしないでくださいよ!」

 とかなんとか言ってる割には、耳垂らして大人しくしとるんやから、この辺は姿相当に可愛げあるんやで。
こいつと組んでもうどれ位経つかいなぁ。数年で済まんのは確かじゃ。
ワイ等、時空の狭間に暮らしとるポケモンは……時が止まってるんや。そう、年も取らん。世界の壁を越えてしもうた弊害やな。
せやからワイも、数え切れん年になってもうたわ。体が衰える事も無いから、鍛えてれば維持出来るしの。

「……ここまで来るのに、少し冷えちゃいましたかね? なんだか、いつもよりあったかいです」
「そうか? そんなら、もうちょっとあったまってから動き出すとするかいのぉ」
「はい……」

 こうやって抱っこしとると、やっぱり子供なんやなーって思うわ。実際は、もう進化しとってもおかしないんやけどな。
そうそう、勘違いされるんは慣れっこやけど、変に思われるんは嫌やから言っとくで。ワイは……牝やからな? 喋り方はこれやけど。

「さて、そろそろ行くか。……しかし、こっから先にはどうやって行くんや?」
「気になるのは……周りの水晶から特殊な波長が出てることですね。共鳴、してるのかな?」
「共鳴なぁ? それがどう気になるん? 自然石に多少なりとも力があるのは、割と有名やろ?」
「確かに。でも、この三つの大きな水晶からはそれぞれに違う波長が出てるんです。何か、周りの波長を阻害してるようですね」

 んまぁ、ワイも一際デカイのが三つあるなーとは思っとったけど、こいつが周りを邪魔しとるんか……。

「あ、先輩ちょっと待ってくださいよ。まだ解析が済んでないんですから」
「そないに危険なもんやないやろ? おぉ!? 触ったら色が変わったで!」
「本当だ。どうやら水晶の波長も変わったみたいです。……もう数回触ってみてもらえますか?」
「ほいよーっと」

 ほーん、触る度に色が変わるみたいやな。緑とかオレンジもなかなか綺麗やないか。

「……! 先輩ストップ! その色で洞窟内の波長と水晶の波長が一致しました」
「青か、そんなら他のも青くしてみるか?」
「手掛かりとしてそれしかありませんからね。こっちは僕がしますよ」
「任したで」

 揃える色が決まってるんだから揃えるんも楽やなぁ。これで他の水晶触ったら他の水晶も色が変わってまうとかだったら面倒さの極みやったけどな。
ほんならこれで……どや!
んぉぉ? なんか揺れたで? なんやなんや?

「あ、先輩あそこ! 入り口が出来てますよ」
「おっと、丁度ええなぁ。やっぱり、インカムあると探索は楽やでぇ」
「これが無かったら完全に手探りですからねぇ。副局長の発明は偉大ですよ」
「使えるくらいの技量がある奴が限られるのが残念やけどな。ほな、先へ行こか」
「了解です」

 うぉぉ、先はもっと水晶だらけやった。これ、水晶自体がほんのり光を放ってるみたいやな。地下に居る筈なのに今までも明るかったんはこの所為か。
これだけ綺麗な道、原住ポケモンに襲われなかったらのんびり行くんやけどなぁ。まぁええ、小振りな水晶の欠片でも拾いながらどんどん行こか。

「ふむ……先輩、この水晶一本切り出してくれませんか? これだけ透明度がある水晶なら、副局長が喜ぶかと思います」
「あー、なんやインカムのレンズ素材が欲しいとか言っとったか。ええでー」

 突然水晶を見ながら止まったから何かと思ったで……そんなら一丁行ってみるかいね。
翼を鋼に変えて、一気に振り払う。ワイの『鋼の翼』はな、そこらの刃物よりもぜーんぜん切れ味があるんやで。これくらいなら一発や。
ま、一本くらいならええよな? コマのアイテムバッグに収納して、と……。
お? よく見たらこの先、洞窟が終わってるみたいやな。つまり、ここが目的地か。

「コマ、ここか?」
「間違い無いですね……ここが、水晶の湖です」

 開けた空間、水晶に囲まれたように湖が広がっとった。はぁー、長かったわー。
湖の中央、そこになんか意味ありそうな水晶の壁があるな。

「コマ、時空の歪みの測定は?」
「あの中央部に大きな断層があります。それがここの歪みを大きく広げてるみたいです」
「で、その断層にこいつは飲まれた訳か……こりゃ、修復してから戻さなあかんな」
「……! 動体反応1、何か来ます!」

 ん? 上か!? っと……ワイ等の居るところにまっすぐ降りてきよった。なんや? この頭の青いちっこいのは?

「お前達か……ここから時の歯車を盗んだのは!」
「ま、待て待て! なんでそうなるんや!?」
「データベース照合……意思を司る者、アグノム? ここの守護者のようですね」
「返せ! それが無くなったら、この世界の時が侵される!」
「今来たばっかりのワイ等がなんで盗人になるんやねん!」
「駄目です、錯乱状態になってるからこっちの話は通じませんよ! とりあえず今は」
「やって収めるしかないか……」

 ったく、ここまでに原住ポケモンを払ってきたんやから最後くらい楽させてぇな。しんどいのぉ。
奴が動いた。こっちに来ながらスピードスターの乱射か……翼で打ち落とせるな。飛ぶのもそないに早くないし、苦戦はせんやろ。

「落ち着けっちゅうに! ワイ等は歯車を盗んだんやない、戻しに来たんや!」
「返せええええぇぇえぇぇぇえぇえ!」

 はぁ~、こりゃ気絶させるしか無さそうやなぁ。一応話は出来そうやから倒したなかったんやけど、しゃあないな。
うわっ、手当たり次第に念力飛ばし始めよった。こうなったらワイよりコマに行かせた方が良さそうやな。

「コマ、行ったれ! お前なら念力も通じんやろ!」
「え~? はぁ、分かりましたよ……」

 念力の間を突っ切って、コマがアグノムに向かっていく。サポーター言うてもあれであいつも戦えるからな、心配は無いやろ。
よしよし、アグノムの後ろを取った。やる事は言わんでも分かってるようやな。

「行きますよ、先輩!」
「おっしゃ来い!」
「な、うあぁ!?」

 コマがアグノムに思いっきり体当たり。んで、こっちに弾かれたアグノムの首筋にワイの翼を当てる、と。ワイ等コンビがエスパー相手によう使うコンボや。気絶させるならこれで十分。
あぁ、アグノムの情報ならコマから送られてきた。せやからタイプの確認は出来てるで。

「ぐぁ……」
「ふぅ、頼むからちっと寝ててくれな~」
「守護者が居るなんて、この歯車ってこの世界ではかなり大事な物みたいですね」
「せやな~、そんなら目ぇ覚ます前にささっと仕事するか」

 まずはここの時空断層を埋めんとな。どれくらいの規模なんやろ?

「コマ、断層の視認化頼むで」
「了解、今表示します」

 ゴーグルに断層が写った。……結構酷い状況やな、時空の狭間に飲まれたんがこの歯車一個だったのは運が良かったほうやろ。
ちっと気合は要るが、直せんほどやない。すぐに修復に移ろか。

「……我、時と空を統べる者の従者なり。我が声に従い傷付きし空よ、我が息吹を受けてその身を癒すべし……」

 これが結構しんどいんやでぇ? 修復っつっても、断層を埋める為に失われた分の力を補填してやらなあかん。それに使われるんは……ワイの体力とか、属に言う生命力って奴や。
ま、ゴーグルを付けてたらワイの生命力の代わりにバッテリーが消費されるんやけどな。まぁ、ゴーグルがワイを回復してくれるだけで、力が抜けていくのは確かなんやけど。
せやからポストマンは文字通り命懸けで時空の修復をしとるんや。不老だったりするけど、楽な事はぜーんぜん無いんやで。
修復の間、ワイは断層に両翼を伸ばしたままにせなあかん。この辺も、サポーターが必要な原因やな。この時に襲われたら面倒で敵わん。
……よし、割れ目は埋まった。後は埋めた空間を安定させるだけや。ここまですれば、もう後は勝手に空間が直ろうするから心配要らへん。

「ほい、終わりっと。あーしんど」
「お疲れ様です。バイタルにも異常は出てないですし、なんとかなりましたね」
「ま、この辺がワイの直せる限界やろなー。これ以上はバッテリーが足りん」
「僕がそんな無理はさせませんよ。さ、早く時の歯車も戻しましょうよ」
「せやなー」

 バッグから歯車を取り出して、と。おぉ? なんか光り出したと思ったら勝手に壁に吸い付きよった。……これ自体が戻るのを待ってた、のか?
お……周りの空間が安定してきたか? いや、この感じやと湖だけやな。上までは力が行き届いてないわこれ。

「あれ、急に空間の揺らぎが矯正された?」
「みたいやな。ほーん、この歯車、確かに力は本物だったんやな」
「うっ、ん」
「あ、アグノムが目を覚ましたみたいですよ。どうします?」
「そんなん完全に目ぇ覚ます前にとんずらじゃ。説明せぇ言われても面倒やからな」
「聞こえ……てるぞ。私は一体、どうなってたんだ?」

 あっらー、結構しっかり気絶させたつもりやったんやけど、流石意思を司る者やなぁ。目ぇ覚ますんも早いわ。

「お前、何処まで覚えとる?」
「確か、歯車が無くなっているのを見つけて、探しに行こうとしていたところまで……お前達は何者だ?」
「え~っと……どうします?」
「一応言ってみるか。信じるか分からんけど、ワイ等はその歯車を届けに来た。ちっと遠くからな」
「届けに? それに、遠くとはどういう事だ?」

 言っても信じるとは思えんけど、それなりに説明した。つーても、それがあると知ってる者でないと時空の狭間とか言われても分からんやろなぁ。

「に、にわかには信じられない話だな……」
「せやろ? でも、事実やで。まぁ、もうこの歯車が勝手に無くなる事は無いやろ」
「そうか。……どうやら私は、歯車が無くなった影響で混乱していたようだな。すまない」
「……意外ですね。そこまで僕達の事を受け入れるなんて」
「お前達の意思からは揺らぎを感じない。少なくとも、嘘を言ってれば僅かに揺れが生じる筈だ。その点から、お前達は信頼するに足ると判断した。話の内容は、全てを信じきれはしないがな」

 それで十分じゃ、納得する理由としてはな。伊達に意思を司っとる訳やないってところか。

「やはり、この世界の空間に何かが起こり出しているのか?」
「間違い無いでしょう。ここまで来る時に通ってきた洞窟も、随分侵食されてましたからね」
「不思議のダンジョンの事だな。あれも、その時空の揺らぎという物の所為なのか?」
「この世界の事象が関係しとる可能性もあるし、確定は出来んな。はぁ……帰りもあそこを通って帰るしかないんよなー。めんどいのぉ」
「ん? それならば……迷惑を掛けた詫びとして、私が入り口まで送ろう。二匹くらいならなんとかなるだろう」

 マージーでー。そら有難いわー。

「……今の話、仲間に伝えてもいいだろうか? 歯車を守る上で必要になりそうだからな」
「かまへんよ。ま、信じるかまでは世話せんけど」
「分かった。ではお前達を送ろう。もう用は済んでいるのか?」
「問題無いですね。お願いします」

 アグノムは頷くと、ワイ等の周囲を光が囲った。テレポートに近い力を使ってるみたいやな。
一瞬光が強くなったと思ったら、ワイ等は洞窟の入り口に居った。さっき話の中で、湖には誰も近付けたくない言うてたし、こういう力も必要やったんやろなー。
なんにしても、無事に仕事終了やな。……この分やと、またこの世界関係で仕事が来る事になるかもしれんけど。

「世界規模の時空異常ですか……厄介ですね」
「確かにな。とりあえず、今は帰って局長達に話そか」
「そうしましょうか。ゲート開放場所までのナビを送りますね」
「おう。行くで」

 こうやってワイ等は世界を巡り、時空の維持の為に飛び回る。
本来ならその世界に暮らしとる奴等でなんとかして欲しいんやけど、そうもいかんからいつも大忙しや。
その為にも、今日はオフィスに戻ってゆっくりするとしようかいね。副局長も相手してくれるらしいし。
よし、コマも乗ったしナビも確認した。よーし、帰るでぇ!



後書き的な何か
という訳で、『時渡りの配達人』のリメイクに挑んだ今作、いかがでしたでしょうか?
リメイク前ではHGSSの世界に行った二匹でしたが、今回は探検隊シリーズの世界に行って頂きました。こんな感じで他の世界にも行かせてみたいなーと構想中です。(作品にするかは不明ですが)
また機会があれば、様々な世界を飛び回る二匹の活躍をお届けするかもしれません。その際は、また読んでやって頂ければ幸いです!
それでは次作まで、しばし御機嫌よう!

最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • リメイクした作品が多くなって来ましたね
    執筆頑張ってください
    ――ポケモン小説 ? 2012-07-23 (月) 23:02:31
  • >>ポケモン小説さん
    その作品を書いた時から自分にどれくらい表現力がついたのか気になって、というのも増えていってる原因の一つなのです(変わってない…気もしてるんですがねw)
    毎回のコメントありがとうございます!
    ――双牙連刃 2012-07-25 (水) 17:43:07
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Last-modified: 2012-07-23 (月) 00:00:00
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