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時の後継者 9

/時の後継者 9

時の後継者 

by蒼空


81 目的 


グレンは星空を見ながらカレンが言った事について考えていた。
そんな悩むグレンの隣にフィニティがそっと近づく。

「そんなに悩んでどうしたんですかグレン? ……やっぱり、さっきのカレンさんの話ですか?」
「……うん。あまりに色々なことがありすぎて実感がなかったけど僕等って今、過去に居るんだよね。
 そして今度は僕等の命を狙った創造神が目の前に現れたと思ったら、僕等はもうどうでも良いって。
 正直、僕は今何がしたいんだろうなって思っちゃってさ……。
 ただ、闇雲に群を飛び出して、フィニティとウズキさんに出会って、この戦いに巻き込まれた。
 今更だけど僕は群を飛び出して何がしたかったんだろうって考えてた。
 群を飛び出した理由は僕が『レッカの息子』として見られるのが嫌だったから。
 でも、群を飛び出す理由はあっても目的は僕にはなかったんだなって思って。
 状況に流されるまま流されたら神々との戦いの中に居るなんて可笑しいよね。
 それまで、僕は自分自身に神の血が流れてることだって知らなかったのに……。
 父さんは自分が神の血をひいてるって知ってたのかな」
「……目的がなくても良いじゃないですか。これから目的を見つけていけば良いんです。
 私達にはまだこれから沢山の時間があるじゃないですか。ゆっくり自分のペースで探しても大丈夫ですよ。
 私の一族には神のペンダントを護るという目的はありました。私もそれを目的としていました。
 でも、そのペンダントもウズキさんが能力を取り戻すのに使用して、今はもう存在すらしてません。
 私自身も目的を失ってから、まだ新しい目的はありません。
 だからこそ、今は自分が信じることをしていくしかないんじゃないでしょうか?
 グレンも分かっては本当は自分の気持ちに気づいてるんですよね。
 自分一匹でもウズキさんを助けに行くつもりなんじゃないですか?」

グレンはフィニティの言葉に自然と笑い出す。
初めから自分の気持ちには気づいていた。
ただ、それを受け入れる勇気がなかっただけ。
誰かに……フィニティに認めて貰えればこんなにも簡単に決めることが出来る。
今のグレンにさっきまでの迷いはもう迷いはなかった。

「そうだね。初めから助けに行こうとは思ってた。
 フィニティと話してると勇気が沸いてくるような……そんな気がするよ」
「私だって強がってるだけですよ……。本当は凄く怖い……。
 でも、グレンがそばに居てくれてると思うと勇気が沸いてくるんです。
 私もグレンに勇気を貰ってるんですよ。だから悩みがあったら、ちゃんと相談してくださいね。
 神の血をひいていて身体は丈夫に出来ていても心までは普通のポケモンと変わらないですから。
 ……私もグレンに必要とされるのは嬉しいんですよ」
「勿論だよ。フィニティも僕に出来ることがあったらなんでも言ってよ。
 僕もフィニティの力になりたいから……。それに、いつまでも僕ばっかり助けられるの雄らしくないし」 

グレンの言葉にフィニティはクスクスと笑った。
フィニティに笑われてグレンは不機嫌そうにするも彼女の笑顔にすぐに許してしまう。

「ねぇグレン。私達……こんなところで終焉を迎えたりしないですよね? 無限の未来を掴み取れますよね?」
「僕達はこんなところで終われない。終わりたくない。だから戦うんだ……」
「……そうですね。でも、やっぱり不安なんです……。だから、少しだけ甘えさせてください……」

フィニティはそっとグレンに寄りかかる。
寄りかかられてグレンは顔を赤くしながらも、フィニティを抱きしめた。


82 不安 


サイはカレンの話の事でライガと話そうと振り返った。
しかし、そこにはライガとカレンの姿はない。
雌の勘か、アブソルの能力故か妙に不安を感じていた。
しばらく、辺りを探すとアマツとムオンの姿が視界に入る。
元々彼女等から追われる身だったサイはこの二匹に話しかけるのを一瞬躊躇うも恐る恐る話しかけた。

「……な、なぁ。そ、その……ライガを見なかったか?
 探してるんだが姿を見なくてな……。些細な事でも良いんだ……」
「サイさんが私達に話しかけるなんて珍しいですね。
 仲間な筈なのに全然お話してなかったですから……。
 折角ですし、お急ぎでないのなら少しお話しませんか?」
「まぁ、少しだけ……ならな」

アマツの言葉にサイは一歩離れたところで座る。
それを見たムオンは溜息をついてた。

「まぁ、サイのよそよそしい態度の理由も互いの素性から納得できるけどな……。
 サイとライガは元々、俺達……と言うか時の教団に指名手配されてたわけだ。
 不思議な縁でこうして行動を共にしてはいるが……正直、俺達の事避けてるだろ?」
「……当然だろう? 私達はこうして一緒に居ること自体が不思議じゃないか。
 いや、お互いに素性も年齢も違うこのメンバー自体が不思議か……。
 全員の繋がりは……やっぱりウズキか。カレンの話……二匹はどうするつもりだ?」
「無論、私は母様を助けに行きます。……記憶が無くても私の大切な母親ですから。ムオンも当然一緒ですよ」

アマツの言葉にムオンも首を縦に振る。
そんなアマツを見てサイは羨ましそうにしていた。

「……記憶も無いし、殆ど一緒に居なかったのに……親をそこまで信用してるんだな。
 その純粋な気持ち……正直羨ましいよ。私は親に見捨てられたから……。
 親の記憶なんて、父親が左頬に鋭い爪で抉られた傷があるウィンディって事くらいだ。
 母親の記憶なんて何一つ残ってはいない……。寂しい人生だろう?
 何で生まれたんだろうって思ったことさえあった……。でも、死にたくなかった。
 生きる目的があった訳じゃない……。ただ、死ぬのが怖かっただけ……。
 ライガを見つけたのはそんな時だった。初めは哀れみが強かったよ。
 私と同じ境遇で可愛そうだってな。弟の様に可愛がった……」
「……それで、次第にライガさんを好きになったんですよね?」
「ああ。私がアブソルだからか、雌の勘かは分からない……。
 この先、ライガが私から離れていく……そんな気がしてならないんだ。
 あいつが居なくなったら、私はどうしていいか分からない……」

サイは俯き、顔を隠すと次第に涙が滴り落ちた。
そんなサイをアマツはそっと抱きかかえる。
慰めるアマツを見て、ムオンはジェラシーを感じていた。

「……これは俺のジェラシーもあるから少しキツク言っておくぞ。
 サイ。そうやって自分だけが不幸のどん底だと思うのはやめたらどうだ。
 さっき言ったとおり、アマツは父親は行方不明で母親はさらわれ、自分は記憶喪失。
 俺だって親が群のリーダーに反逆したからってだけで虐げられたきた。
 他の奴の話は聞いてないから分からないが、皆そうやって辛い過去を背負って生きてるんだ……。
 挫けそうになったら、姉としての立場なんて捨てて、一匹の雌としてライガに甘えても良いと思うぞ。
 サイ……お前は結局、ライガを弟して見てるところがまだあるだろ? 姉弟の絆を完全に壊すのを恐れてるだろ?
 姉弟の絆を壊して、ライガが離れたら自分には何も残らないって……。そういうのやめろよ……。
 そうやって、自分の気持ちに嘘をつき続けると最後は自分を嫌いになるぞ……。
 ……昔の俺に似てるんだよ。アマツを一匹の雌と見ようとしてるのに妹と思ってた頃の俺とさ……。
 今の状況を維持するのは確かに心地良いかもしれない。でもな、それじゃもうそれ以上進むことは無いぞ……。
 変える事を恐れてそこで立ち止まったら、望むものは永遠に手に入らない。
 進むも止まるも後はお前達次第だ……。もっと近づけると良いな。応援してるぞ」
「……あ、ありがとう」

ムオンは泣いているサイの頭に撫でる。
頭を撫でられる経験なんて殆ど無かったのかサイは驚いた表情をするも喜ぶ。
そんなサイとムオンを見て、今度はアマツがジェラシーを感じていた。


83 最善の手段? 


エイガ達は森の少し開けた、見晴らしの良い場所で戦いの疲れを癒していた。
休む集団の中にノウレッジ達の姿は勿論無い。
レッカとミナヅキは辺りを警戒している。

「……取りあえずはこの辺にポケモンの気配は無いな。
 皆、随分やられたようだけど大丈夫か?」
「にはは。寧ろ、ミナヅキだけ何でそんなにピンピンしてるかが不思議なんだけど?」
「確かミナヅキはサイとライガの担当だったな……。やはり、空間の神には弱すぎる相手だったか?
 ムオンとアマツを相手にすると言って、ここまで大敗するとはな……。ワタシもまだまだという事か……」

今のメンバーで唯一軽傷なミナヅキを見てエターナルとエイガが質問する。
ミナヅキは『実際には攻撃が通らずに逃げてきた』とは言えず、苦笑いをするしかなかった……。
辺りに誰も居ないと判断した為、ミナヅキとレッカは警戒を解く。

「あの三匹が帰ってこないのが不可解ですが、エイガ様は何か御存知ですか?」
「ワタシ達はあいつ等に利用されていた……そういう事だ。
 この感じ的にダイヤはクラゲ共に捕獲されている。
 次に姿を見せたときにはあいつ等もワタシ達の敵だな。
 寧ろ、あいつ等がワタシ達を襲ってくるだろう。」
「……承知しました。以後、あいつ等をエイガ様に仇なす敵と判断します。
 自分達を敵に回した事を地獄の底で後悔させてやりましょう」

レッカは落ち着いたように振舞っていても明らかに苛立っていた。
そんなレッカを心配してエターナルが声をかける。

「にはは。レッカって本当に裏切り者って嫌いだよね。
 もう少し、リラックスしないと身体が持たないんじゃない?」
「……向こうにどんな事情があるかは知らんが、こっちを利用したという事実に頭がくる。
 俺達は使い捨ての道具なんかじゃない。……だが、エターナルの言うとおりか……。
 エイガ様、少し頭を冷やして来ます。よろしいですか?」
「まぁ、それ位は構わんさ。グレン達にしろ、クラゲにしろ辛い戦いになる。
 今は少しでも身体を休ませた方が良い。だが、あまり遠くには行くなよ」

レッカはエイガに一礼すると森の奥へと歩いていく。
そんなレッカを追いかけようとエターナルも歩き出そうとするがエイガの方へと振り返る。

「あ、あのエイガ様……」
「別に構わん。……今のレッカは妙に感情的になってるからな。
 レッカの事は頼んだぞエターナル……」

エターナルはエイガに一礼するとレッカを追いかける。
二匹が見えなくなると今まで黙っていたミナヅキが口を開く。

「……クラゲ共だけじゃなく、ルーツ様が直々に動き出した。
 しかも、ライガがルーツ様の力を得てる。どうするエイガ?
 クラゲ共とルーツ様、両方相手にする力はオレ達にないぞ」
「ルーツ様は随分と勝手な事をしているみたいだな……。
 禁忌を犯したダイヤの粛清をワタシに命令しておきながら自分はこれか……」
「ルーツ様の行動にはオレ達は振り回されてるし……。
 なるべく敵としては相手をしたくないよな……。
 不本意だがダイヤと手を組んだほうが良いんじゃないか?
 クラゲ共から開放してそのままオレ達の仲間にする……」

ミナヅキの発言にエイガは明らかに嫌そうな顔をする。
それでも、現在それが最良の選択であることも十分承知していた。

「……面子に拘ってたら全滅か。
 ダイヤと手を組む。その方向で考えておこう。
 大体の居場所は分かってはいるんだろう?」
「まぁ、大体は……な。ようやくダイヤと手を組む気になれましたかプルート様」
「そこまで、追い込まれてるって事だ。
 生き残る為に最善を尽くす。それだけだ」

ミナヅキはエイガの発言に「素直じゃないねぇ~」と呟く。
その発言を聞いたエイガはミナヅキを睨みつけてる。
睨まれたミナヅキは逃げるようにその場を後にした。


84 親心 


レッカは目的もなく、ただ黙々と歩いていた。
そんなレッカの後ろをエターナルも黙々とついて行く。
エターナルが気になったのかレッカは立ち止まり振り返る。

「……エターナル、いつまで後ろを付いてくる気だ?」
「にはは。レッカが立ち止まってくれなきゃ、ずっとついて行ってたよ」
「悪いが今は一匹になりたい。そっとしておいてくれないか?」

レッカは口では優しく言っても、エターナルを睨みつける。
そんなレッカを前にしてもエターナルは表情一つ変えなかった。

「にはは。それは無理な相談だね~。
 ……だって今のレッカ、相当焦ってるもん。一匹にしたら何をしでかすか分からないから。
 レッカが心配するほど、グレンは弱くないと思うよ。それに、もう子供じゃないんだしさ……。
 だから、今は少しでも休んでおこうよ。レッカだって心も身体も相当無理してるでしょ?」
「今、グレン達のところにディアルガは居ないんだぞ!!
 そんな状態でもし、クラゲ共が俺達じゃなくてグレン達のところへ行ったらどうする!?
 それでもエタナールは無事で居られるって言えるのか!? お前は自分の娘が心配じゃないのか!?」
「……心配に決まってるよ。だからこそ、今ここで僕等が倒されるわけにはいかないでしょ!!
 子供を心配するのも良いけど、それで自分の身体を壊したら無意味だよ!!
 今、僕等に出来る事は身体を休めて次の戦いに備えること。分かったレッカ!?」

エターナルの気づかいにレッカの心にゆとりが出来た。
そんなレッカを見てエターナルも安心する。

「……ふぅ。そうだな気負いすぎてもしょうがないか。心配かけたなエターナル」
「にはは。お礼は言葉じゃなくて態度で示して欲しいな~」

エターナルは目を瞑り、唇を尖らせた。
その要求は明らかにキスであり、勿論レッカにも伝わる。
レッカは顔を真っ赤にしながらもエターナルにそっとキスをした。
互いの唇が触れ合うとエターナルは舌をレッカの口内へ侵入させる。
二匹の舌を絡ます音だけが辺りに響き渡った。
しばらくして、二匹は名残惜しそうに離れる。

「……これで良いか?」
「勿論だよレッカ……」
「いや~二匹とも熱々だな」

二匹が幸せな一時を楽しんでいると、後ろから声が聞こえてくる。
慌てて二匹は振り向くとそこには見慣れたサンドパンが立っていた。

「ミ、ミナヅキ!? な、なんでお前がここに居るんだよ!?」
「そ、そうだ。エイガ様と一緒じゃなったのか!? それにいつから居た!?」
「ちょっと、からかって見たら機嫌悪くしちゃってさ。だから逃げて来たってわけ。
 オレがここに着いたのはレッカが『気負いすぎても……』って言ってるところからだな。
 盗み聞きをする気も覗く気もなかったんだけどな……結果的にはそうなった」

エターナルは恥ずかしさを通り越し、その感情はすでに怒りになっていた。
その怒りは火炎放射としてミナヅキに放たれる。
後ろが森の為、避けるわけにもいかずミナヅキは空間を捻じ曲げ攻撃を受け流す。

「扱いが悪くて忘れてるかもしれんがオレも神なんだぞ。
 それにいきなり攻撃ってのは勘弁して欲しいな……。
 まぁ、覗いてたオレも悪いとは思うけどさ」
「にはは。それなら、大人しく見なかったことにしてこの場を立ち去って欲しかったな」
「……まぁ、オレも大した用がなきゃそうしたんだがな。
 さっき、大声を出して口論しあってたグレン達の事だが……心配はしなくていいと思う」

エターナルはミナヅキの曖昧な言い方に腹を立て、今にも飛び掛りそうである。
そうしなかったのも、レッカがエターナルをなだめていたからだった。

「……随分、曖昧な言葉だったみたいだがその理由を教えてもらおうか」
「ライガが神を超えし神王の力を手に入れた。その力は使いこなせればオレ達神でも敵わない。
 そんな奴が居るからクラゲ共も迂闊には手を出さないだろう。……それにあいつらの目的は元々オレ達だしな。
 だから、絶対とは言わないが安心はしても良いと思うって言ったんだ。あと、邪魔して悪かったな」

ミナヅキはライガの事を伝えるとその場を去っていく。
レッカとエターナルはしばらく顔を見合わせるとエイガの元へと歩き出した。


85 人形 


虚ろな瞳のウズキをノウレッジ達は囲んでいた。
ウズキを確保したことで三匹とも勝ち誇った顔をしている。

「いや~。こう計画通りに事が進むと楽しくなるよね」
「これも俺等の実力ってやつでしょ。時の神も大した事ないよな」
「……ダイヤ一匹で浮かれ過ぎですよ。
 まだパールにプルートが残っているんですから」

ウズキを捕獲して有頂天のフィールとウィルを見てノウレッジはため息をつく。
だが、そういうノウレッジの顔にも安堵の表情が見て取れる。
三対一で相手にしたから何とかなったが本来は『時の神』の方が能力は高い。
そして、その『時の神』でさえも今は自分達の手駒となった。
あとはどちらかに『時の神』を当て、もう片方も手駒にすれば良い。

「ふふ。不完全な神には退場してもらえば良い。
 あんな神達は必要ないって私達が証明してみましょう」
「ノウレッジ、顔が怖いよ。もっと気楽に行こうよ。スマイル、スマイル!」
「そんな怖い顔をするから雄が近寄ってこないんだよ……。
 ……て言っても俺達には関係ないか。
 俺達はあいつらのように神の力をばらまくエロ神になるつもりはないし。
 あいつらもルーツ様の気高さと誠実さを見習うべきだよな」

ウィルの言葉にノウレッジとフィールは素直に首を縦に振る。
ほぼ、同時刻にそのルーツ様の誠実さが失われたとも知らずに……。

「明日にもパールとプルートに攻撃をしかけたいですね。
 でも、その前にこれの調整でもしておきましょう。
 二匹共、お願いしますよ」
「あいよ。無理矢理、原身にさせるんだろ?
 まぁ、この場所ではそこまではしないだろうけど」
「キュウコンの姿の能力なんて原身に比べたら微々たるもんだしね。
 時の神の力がどれ程のものか見せてもらおうかな」

ノウレッジ達が何かを呟くと、ウズキの足元が光りだす。
その光が天まで伸びるとウズキのうめき声が聞こえた。
しばらくし、光が止まるとその中心でウズキが倒れている。

「……これで良い。これでウズキは元身に戻れる。
 無理矢理解放したから、暴走気味ですが問題ないでしょう」
「まぁ、ここまでやってこの時代のダイヤと同等かそれ以下だろ?
 一万年の間に時の神も随分と劣化したよな」
「うんうん。そこはウィルの言うとおりだよね。
 まぁ、劣化したのは空間も神と冥王も同じだけど。
 あ! でも、あの二匹は互いの力を手に入れたから、劣化したとは言わないかな?」

倒れるウズキを無視して三匹は話を続ける。
しばらく、話しこんでいるとウズキが起きてきた。
今のウズキの顔に生気は感じられない。
それはまるで人形のように……。
起き上がるときに音がしたからか、フィールがウズキの方を見る。

「あっ! やっと起きてきたみたいだよ!
 ダイヤの擬態もこうやって黙ってれば奇麗なだよね」
「そうですか? 私はそうは思わないですけど。
 ウィルはどう思ういますか?」
「黙ってれば奇麗ってのは認めるけど……。
 ここまで無表情だと逆に気味が悪いな。
 俺はやっぱり普通に笑ったり、怒ったりする方が良いね。
 その方が生物として自然だし」

ウィルの言葉にノウレッジはため息をつき、フィールは楽しそうにする。
そんな二匹の反応を見てウィルは不思議そうにした。

「俺、なんか変なこと言ったか?」
「いや、別に。ウィルって、そういうのが好みなんだなって思っただけだよ」
「私はあなたの好みを聞きたかったわけじゃないの。
 質問の答えは最初の一言だけで十分でした。
 それなのに自分の雌の好みをペラペラと語りだすなんて……。
 あなた、自分が神としての自覚はあるんですか?」

二匹の言葉でウィルは自分の言葉の意味を理解する。
ウィルは必死に「違う」と弁解するもフィールとノウレッジは聞く耳を持たない。
今回の事でウィルはしばらくフィールにからかわれた。


86 神としての使命 


ウヅキは眠れずに空を眺めていた。
隣には愛する夫と娘が静かに眠っている。
気になるのは無論、未来からグレン達の存在。

「……確実に歪みが大きくなってる。
 彼等にも事情があるから、今までは黙認してきたけどもう無理だ。
 やっぱり、力づくで排除するしかないか。
 未来のアマツや子孫も居るからやりずらいけど……。
 こっちにもこっちの事情があるからしょうがないよね?
 そもそも、今この時代にボクが二匹居ることが問題なんだよ!
 おっと大声は良くない……。良かった、二匹とも起きてない」

ウヅキは誰に言うわけでもなく叫ぶ。
その叫び声でも二匹は起きない。
それほど二匹は熟睡している。
二匹が起きなかった事にウヅキは胸を撫で下ろす。
安心したところでウヅキはもう一度思考を巡らせる。

「さて、ボクも時の神としての仕事をしなきゃね。
 流石にクゥとアマツはまきこめないしな。
 そうすると、しばらくボク一匹で行動か……。
 でも、勝手に出て行ったら心配するしなんて説明しようか
 いくらなんでも本当の事は言えないし。どうしようかな」

ウヅキがしばらく悩んでいると、クゥが起きがってきた。
悩んでいるウヅキを見て声をかけようか悩んでしまう。
しかし、少しでも彼女の力になりたいと思いクゥはウヅキに声をかけた。

「あの、ウヅキさん。そんなに悩んでどうしたですか?
 私でよければ相談に乗りますよ」
「え? クゥ? もしかして僕のせいで起しちゃったかな?
 そうだったら悪いことしちゃったね。ごめん」
「別にウヅキさんのせいじゃないですよ。
 私が勝手に起きただけですから気にしないでください
 それで、もう一度聞きますけど、悩みがあるなら相談に乗りますよ。
 私だって少しはウヅキさんの力になりたいですから」

クゥを起こしてしまったと思いウヅキは悩みの相談より先に謝る。
そんなウヅキの態度にクゥは苦笑いした。
今回の用事をクゥになんて説明しようか考えウヅキは結局悩んでしまう。

「いや、何でもない……訳じゃないんだよね。
 う~ん。なんて説明すれば良いのかな?
 ボクがやらなきゃいけない用事があるから、しばらく帰ってこれそうにない……で良い?」
「私に質問されても困りますよ。
 用事の内容は教えてはくれないんですね。
 なら無理には聞きません。でも、無茶だけはしないでください。
 私もアマツちゃんもウヅキさんが必要ですから」
「ありがとう、クゥ。僕を信じてくれて……」

ウヅキの曖昧な説明にも、クゥは笑顔で承諾する。
何も言わなくても信じてくれるクゥの優しさに、ウヅキは素直に感謝した。

「ねぇ、クゥ。その、しばらく会えなくなるんだしさ……。
 アマツの横で交尾は良くないだろうし、せめてキス位ならしても良い?」
「……もう、ウヅキさんてば……。
 でも、それ位なら私も大歓迎ですよ」
「じゃあ、遠慮なくクゥの唇を頂こうかな」

ウヅキはクゥに抱きつくと、そのまま唇を奪う。
彼女の強引な行為にクゥは戸惑うも嬉しそうにしていた。
舌をクゥの口内に侵入させウヅキは満足そうにする。
しばらくクゥの舌の感触を楽しむとウヅキはキスをやめた。

「もう、ウヅキさんは何時も強引なんですから……」
「愛してるよクゥ。じゃあ、僕も夜が明けないうちに出発しようかな。
 アマツへの説明はクゥに任せるよ」
「早速、出発するんですねウヅキさん。
 さっきも言いましたけど、絶対に無茶だけはしないでくださいね」

クゥの言葉にウヅキは「分ったよ」と短く返事をする。
これからの事を考えると無茶をしないなんて事はありえない。
少しでも心配をかけないようにウヅキは嘘をつく。
ウヅキはゆっくりとグレン達の元へと歩き出した。


87 ウヅキとの遭遇 


照りつける太陽の光でグレンは目を覚ます。
周囲を見渡すと隣で寝ていたはずのフィニティが居ない。
耳を澄ますと小さな声が聞こえてきた。

「あれ? フィニティはもう起きたのかな?
 話し声が聞こえるけど、みんなで集まってるんだろうな」

グレンは重い身体を起こすと声の聞こえる方へ歩き出す。
少し歩くとウズキを抜かし、カレンを加えたいつものメンバーが揃っている。
グレンの足音にフィニティが振り向き声をかけた。

「あ、グレン! やっと起きたんですね。
 みんな揃ってますよ。速く速く」
「そんなに急かすなら起こしてくれれば良かったのに」
「だってグレンがとても気持ち良さそうに寝てたから……。
 でも、そうですね。起こせば良かったですね」

グレンとフィニティの惚気に一同は呆れていた。
二匹だけの時間に痺れを切らしたカレンが声をかける。

「汝等、何時までいちゃついているつもりじゃ?」
「あ、カレンさん済みませんでした」
「別にワレに敬語なぞ使わんで良い。
 ワレは汝等の敵なんじゃからな。
 今はこうして一緒におるが、やがて戦う運命にある」

カレンの一言は場の空気を重くさせるには十分だった。
事実、ムオンはその一言で明らかにカレンに敵意を向けている。

「なら、あんたは何で俺達と行動を共にする?
 敵と一緒に行動するんだ。それなりの理由があるはずだろう?」
「ウズキが奴等の元にいるのは、少々都合が悪い。
 理由はそれだけで十分じゃろう?
 まぁ、汝等にウズキを探す手がかりはない。
 だからワレと手を組んだのだろう?
 お互いに利用し合えばそれで良かろう」
「……俺はあんたと仲良くできそうにない」

カレンの答えにムオンはハッキリと拒絶の言葉を言い放つ。
そんな事を言われてもカレンは顔色一つ変えない。
二匹のやり取りを、アマツは不安そうに眺めていた。

「まぁ、ムオン。そんなにカリカリしないでください。
 今、ミナヅキ達と戦うと私達が不利なのは目に見えてます。
 ここは我慢ですよ。我慢!」
「ふむ。ワレも随分と嫌われたものじゃの」
「……あんたが自分で嫌われるような事を言ったんじゃないか」

ムオンを必死になだめるアマツ。
そんな彼女を他人事のように傍観するカレン。
更にカレンに突っ込みを入れるサイ。

「……でカレン。肝心のウズキはどこに居るんだ?」
「ふむ。ライがの言う通りじゃな。少し待っておれ。
 ウズキは無論、クラゲと共におるから……。
 クラゲ共とウズキはあっちの方角じゃな」

ライがの言葉には素直な対応を取るカレン。
一同は納得いかないような顔をするが大人しくする。
目を瞑り集中力を高め、カレンはウズキの居場所を特定し方角を示す。
カレンの示した方角へ進もうとすると、突然声をかけられた。

「君達、盛り上がってる所悪いんだけどさ。
 大人しく自分達の時代に帰ってくれないかな?
 この時代をうろつかれてるとボクが困るんだよね」

それは聞き慣れた声。
声の方へ振り向くとそこには何度か見たキュウコンがいた。

「ウズキさん! 無事だったんだね!!」
「君達の仲間のウズキと勘違いしてない?
 ボクはこの時代の時の神、ウヅキだ」

喜びと驚きでグレンはキュウコンに声をかけた。
だが、目の前に居るキュウコンはウズキではない……。

「ふむ。ウズキに襲われる前にウヅキに襲われるか」
「その声はまさか……ルーツ様?」
「そうじゃが……この姿ではカレンと呼んでほしいの。
 汝もその姿でダイヤと呼ばれるのは好まんじゃろ?」

カレンの質問にウヅキは答えない。
だが、明らかに敵意をむき出しにしていた。


88 神王の真の姿 


敵意を向けられてもカレンはやはり表情一つ変えない。
まるで、ウヅキなんて初めから眼中にないと言わんばかりに。
そんなカレンの態度が余計にウヅキを刺激する。

「……あなたは本当に自分勝手ですね。
 ボク達に面倒なルールを押し付けておきながら、自分はこれですか?
 ルーツ様。ボクはあなたのルールに基づいて、神としてあなたを排除します」
「汝がワレに勝てると思っておるのか?
 もし、そう思っているなら汝は愚かじゃな」
「ボクとしてはルーツ様を正当な理由で殴れる貴重な機会ですから。
 ルーツ様、本気で行かせてもらいますよ!」

ウヅキはカレンに対して戦闘態勢をとった。
既に彼女の敵意はカレンにのみ向けられている。

「そうか、それは良かったの。でも、汝の相手をするのはこいつで十分じゃろう。
 大地のプレート。いでよ、我が傀儡!」

カレンの叫びと同時に周囲には十六枚の輝くプレートが出現する。
その内の一枚がカレンの目の前に移動すると更に激しく光りだす。
光が収まるとそこには見慣れたサンドパンの姿を現した。
そのサンドパンは明らかにミナヅキの姿をしている。
一同はミナヅキを見て驚きを隠せないでいた。

「この傀儡を倒せたら、ワレが自ら相手をしてやろう。
 汝にこやつが倒せるかな? 楽しみにしておるぞ」
「ボクが炎タイプだから地面タイプねぇ……。
 なら、炎の攻撃も軽減する水タイプを召喚した方が良かったんじゃないですか?」
「いや、別に汝が炎タイプだからこやつを選んだわけではないが……。
 確かにタイプ的にはワレの方が有利か……。
 まぁ、良い。行け、ミナヅキ!」

ウヅキの指摘にカレンは少々困ってしまう。
が、すぐに悩むのを止め傀儡に指示を出した。
一直線にウヅキへと向かう傀儡。
ウヅキは横に跳び軽く避けてしまう。
そして傀儡の方を向き火炎放射を放つ。
すると呆気ないほどに、傀儡は元の形を保てずにプレートへと戻った。

「……所詮はプレートで召喚した人形だね。
 こんなんで本当にボクを止められると思ってたんですか?
 まぁ、これで直接ボクと戦ってくれるんですよねルーツ様?」
「この姿でプレートを使うのは初めてでの。
 まさか、ここまで能力が落ちておったか……。
 これなら複数枚のプレートを使った方が良かったの。
 まぁ、約束じゃ。ワレが自ら相手をしてやろう。
 折角のお誘いじゃ。手加減はせんからな」
「大丈夫、安心してください。ボクは本気であなたを潰しますから。
 勿論、仮初めの姿じゃなくて時の神として!!」

ウヅキが叫ぶと同時に身体が光に包まれた。
光はどんどん大きくなっていき、やがて消える。
そこにはキュウコンの姿はなく、時の神ディアルガの姿があった。

「ふむ。本気で来るとは言ったが、普通そこまでするかの?」
「これがボクの本気ですからね。ルーツ様、覚悟してください!」
「はい、分りました。倒してください。と答えるわけなかろう……。
 ならば、ワレも汝と戦うに相応しい姿で相手をするのが礼儀であろうな」

カレンはダイヤから距離を取ると、急に身体が光りだす。
それは、先程のウヅキと全く同じ光景。
光が消えるとそこには、細く純白の馬のようなポケモンがたたずんでいた。
そのポケモンは、胴に宝石が埋め込まれた輪を纏い、とても美しい。

「ルーツ様の真の姿、神王アルセウス。
 この世界そのものを創り出した創造神」
「ワレに歯向かう事がどれだけ無意味か教えてやるぞ。
 この姿で相手をする気はなかったが汝がこの結果を招いたのじゃからな。
 さぁ、大人しくワレの前に跪け、時の神ダイヤよ」
「それでも、ボクは護りたい世界があるし、殴りたい神が目の前にいる。
 だから、創造神が相手でも逃げるわけにはいかない!!」

ルーツはダイヤを睨みつける。
たった、それだけの事でダイヤに大きなプレッシャーを与える。
神王はそれほど強大な力を持っていた。


89 強大な力 


グレン達は目の前の光景に唖然としていた。
神と神の私闘を繰り広げようとしている。

「あれが、創造神。僕達の敵……なんだよね?」
「ええ。カレンさん自身はそう言ってました。
 睨まれただけでウヅキが怯みましたね。
 どれだけ強大な力なんでしょう……」

グレンとフィニティはカレンの真の姿を見て不安になっていた。
これが最大最後の敵。それが今、確かに目の前にいる。

「そうだな。弱い力で軽くミナヅキが撃退できる力だ」
「えらく具体的だなライガ。どこでそんな根拠を?」
「それは俺も気になるな。どこでそんな情報を手に入れた?」

ライガの呟きにサイとムオンが食い付く。
流石に敵と宣言したのに「カレンから力を貰った」とは宣言しづらい。
質問の答えにどう答えるかライガは悩んでしまう。

「そんな事はどうでも良いですよ。今は母様とカレンさんを止めないと。
 私達に戦う意思はないって分ってもらわないと」
「た、確かにそうだな。俺はカレンを説得するからアマツはウヅキを頼む」
「何でライガがカレンの説得をするんだ? 別に敵って言ったんだし放っておけば良いんじゃないか?
 何故かは分からないが私はあいつが好きになれそうにない」

過去の世界の住人といっても、目の前で母親が苦戦してるのはアマツにとって気分の良いものじゃない。
ライガはアマツの話に乗ってうまく話をそらす事に成功する。
それでもサイは納得がいかないようで不満そうにしていた。

「事情を話せば、ウヅキさんもきっと分ってくれるよ」
「そうですよ。ウヅキもこんな目立つことなんてしたくないでしょうし」
「……でも、はじめに交戦の意思を見せたのはウヅキの方だよな?
 アマツには悪いが俺は少しでも創造神の力を見ておくべきだと思う。
 何にしろ、俺は敵であると宣言したカレンを助ける気にはなれないってのが本心だけどな」

グレンとフィニティもウヅキを助ける方に賛同する。
カレンに不信感を抱くムオンは戦いを止める事に首を縦に振ろうとしない。
そんなムオンにアマツは寂しそうにする。
でも、そんな答えが返ってくる事を何となく理解していた。
記憶を失っていても、ムオンとも関係は長い。
ムオンの事だけは漠然と思いだせるようになっていた。

「どうしても力を貸してはくれませんかムオン?
 これは母様を助ける為と言ってもダメなんですよね?」
「アマツの頼みでも今回は無理だ。俺は信用できない相手の為に自分の力は使わない。
 さっきの発言的にサイも協力しないだろ?
 どうしても戦いを止めるなら四匹で勝手にやってくれ」
「ああ。ムオンの言うとおり私も協力しない。
 と、言っても私に戦いを止めるほどの力はないか……」

無論、サイも戦いを止める事に賛同しない。
サイ自身が自分に力が無い事を自覚しつつあった。
これ以上のムオンとサイの説得に意味はない。
そう理解したアマツ達はウヅキとカレンに戦いを止めるようと走りだそうとする。
その後ろ姿を見てムオンは言葉をかけた。

「だけどこれだけは言っておくぞ。
 俺達は強大な力を持っている。だから自分の行動に責任を持たなきゃならない。
 それが力を持つ者、責任であり義務だ。無責任に力を使うな。
 そんな事をすれば必ず誰かを不幸にするぞ。
 あと、危険だと思ったら絶対に逃げろよ。俺はまたお前を失いたくないからな」
「ムオン……。分りました。じゃあ、行ってきます」

アマツは振り返るとムオンに微笑む。
そしてすぐにグレン達と共に神の私闘を止めに向かった。


90 収束? 


ダイヤの攻撃にルーツは微動だにしない。
意地や痩せ我慢ではなく本当に効いてないのだろう。
時の神の攻撃でさえ創造神には傷を付ける事が出来ないでいた。

「ボクの攻撃が効かない!?」
「その程度の攻撃ではワレに傷一つ付けられんぞ。
 ワレを倒すと宣言しておいて、これが本気ではなかろうな?」
「じゃあ、ボクのとっておきの咆哮でも聞かせてあげますよ!!」

ダイヤが叫ぶと周囲の時間が繰り始めた。
一撃の破壊力ではディアルガの最大の攻撃である。
しかし、時間まで狂わせる程の咆哮は反動が大きく動くことさえ出来なくなる諸刃の剣。

「随分な大技を仕掛けるくるのぉ。ならば、来るのじゃ鋼鉄プレート!」

攻撃を受ける瞬間ルーツの目の前に一枚の石板が現れ光となって体内に吸収される。
すると、ルーツの胴体の輪と足先、額の色が銀色へと変化した。
時の咆哮がルーツに直撃すると、衝撃で後方へ下がる。
しかし、後方に下がるだけでそれ以上の効果があるようには見えない。

「そ、そんな!? 時の咆哮でもダメージがない!?」
「ワレをここまで退かせるとは……流石じゃの。
 鋼鉄プレートがなければ、少々危なかったろうな。
 汝の大技も見たところじゃ。そろそろワレの番にしようかの」

衝撃で下がった分を、ダイヤを威圧するようにゆっくりと近づいて行く
技の反動で動けないダイヤには、今攻撃されれば避ける事も防ぐ事も出来ない。
近づくルーツを睨みつけるだけがダイヤに出来る唯一の抵抗だった。
そんな二匹の間にアマツ達が割って入る。

「もう、勝負はついてます。これ以上の戦いは無意味です。
 カレンさん、もうやめてください。母様も……じゃない、ウヅキさんももう良いですよね?」
「そういう訳だから、カレン。ここはこれで終りにしてくれないか?」
「初めに喧嘩を売って来たのはダイヤの方なのじゃがな……。
 ワレ等は初めから話し合いを所望していたではないか。
 それにダイヤが一方的に攻撃してきただけで、ワレは何もしてないのじゃが。
 これでは完全にワレが悪役ではないか。
 少々不服じゃが、ダイヤがこれで終わらせると言うのならそれで構わんぞ」

アマツとライガの説得に不満そうにするルーツ。
それでも、一応納得はしていた。
あとはダイヤの返答でこの場は収束する。

「ボクは神として歪みを正そうとしただけだ。
 実際に、悪者なのはこの時代のポケモンじゃないルーツ様達だろう?
 だからボクは絶対にこっちに非があるなんて認めないから。
 ボクは悪くない。悪いのはルーツ様だ。だからボクはルーツ様を排除する。
 仮にルーツ様がボクに頭を下げるって言うなら、この時代で行動するのを少し黙認しても良いけど」
「神王であるワレが汝如きに頭を下げろじゃと? ふざけるのもいい加減にせんか」

ダイヤはこの戦闘の発端が感情に任せた行動だと認める気はないらしい。
明らかに無理難題を吹っかけるダイヤ。その提案にルーツは嫌そうにしている。

「あ、あのカレンさん。ウヅキに謝ってもらう事は……」
「やっぱりダメ……ですよね?」

グレンとフィニティは恐る恐るルーツに謝るように進める。
その言葉を聞いてルーツは無言で二匹を睨みつけた。
やはり、神王としてプライドが許さないらしい。

「カレン。ここは穏便に済ますべきだと思うんだが、ダメか?」
「……う~む。ライガも収束を望むと言うのか。
 ライガがそう言うのなら……。いや、しかし……。
 分かった。ワレが折れれば良いのじゃろう」

グレンとフィニティの言葉には聞く耳すら持たなかったのに、ライガの言葉ではわりとすぐに納得した。
ルーツはダイヤに近づくと無言で頭を下げる。無言なのがルーツの最後のプライドなのだろう。

「……これで文句はなかろう?」
「え? あ、はい。問題ないです」
「では、ワレ等はこれで失礼させてもらうぞ」

ルーツが頭を下げるなんて思っていなかったのか、ダイヤは逆たじろいでしまう。
エネコロロの姿へと戻るルーツを見てダイヤは硬直していた。


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Last-modified: 2012-05-29 (火) 00:00:00
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