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時の後継者 7

/時の後継者 7

時の後継者 

by蒼空


61 超えるべき存在 


グレンは横になっていたものの眠れずに居た。
ふと起き上がり周りを見ると隣で寝ていたはずのフィニティが居ないことに気づく。

「……フィニティはどこに行ったんだろう? ウズキさんは何か知ってるかな?」

グレンは見張りをしているウズキなら何か知ってるのではないかと考えウズキの下へ行く。
ウズキはグレンの言いたいことを分かっていたのかフィニティが行った方向を無言で指差した。
グレンは「ありがとう」と一言お礼を言って指差された方向へ歩き出す。

少し歩くと川が見えてきてそこでフィニティが水を飲んでいた。
フィニティはグレンが近づいてきたのを気配で感じたのか水を飲むのをやめグレンの方へと振り返る。

「グレン!? こんな時間にどうしたんですか?」
「……ちょっと昼間の事で眠れなくてさ。フィニティが居ないから探しに来たんだ。
 と言っても方角だけはウズキさんに聞いてんだけどさ……」
「昼間の事……あのウィンディはグレンの……」

フィニティは何かを質問しようとする。
が、その内容は最後まで聞かなくても何となく分かる内容だったのでグレンはフィニティの言葉を遮って答えた。

「僕の……七年前に死んだ父さんなんだ。強くて逞しくて……尊敬できる父さんだった。
 でも僕は父さんが嫌いだった。僕は父さんの息子としてしか見られなかったから……。
 結局、父さんが居なくなれば僕の価値なんかなかったのか群での扱いが急に冷たくなったんだ……。
 七年は耐えたけど嫌になって群を飛び出したんだ……。そこで僕はフィニティとウズキさんに出会った。
 最近のはずなのに何でこんなに懐かしく感じるんだろう……。やっぱりブースターの方は……」

グレンは自分の生い立ちを簡単にフィニティに話す。
フィニティもグレンの言葉を一つ一つ真剣に聞いていた。
グレンは話が終わると最後にフィニティに質問する。
フィニティもグレンと同様に自分の顔を話しはじめた。

「はい。グレンが考えているとおり……私のお母さんです。
 自分は病気だったのに、いつも笑顔を絶やさない明るい母でした。そんなお母さんは五年前に亡くなったんです。
 グレンが交わる前に言った言葉……覚えてますか? 一族が皆殺しにされた話です……。
 その時にお父さんとお母さん……大勢の親戚の方が殺されました。
 私は今まで何で私達の一族の秘密がバレたのか不思議に思っていました。でも、今日はっきりしました。
 一族を群に売ったのはお父さんだったそうです……。正直信じたくはありません……。
 でも、お母さんは冗談と嘘は言わない方でしたから……多分真実なんでしょうね……」

フィニティは話終わると空を眺める。
グレンも話すことがが思いつかないのか同様に空を眺めた。
やはり、この夜の空は星が出ていなく一面に漆黒を描いている。

「フィニティは自分の親と戦うのは嫌じゃないの?」
「……嫌じゃないと言えば嘘になります。でも、私はウズキさんを……ダイヤ様を信じています。
 だからお母さんがギラティナ様……プルート様に味方すると言うのなら……私はお母さんと戦います」
「……フィニティは凄いね。僕にはまだ父さんと戦う決心がない……。
 違う。父さんを超えられないと分かっているから戦いたくないんだ……。
 僕は父さんを超える自信がない……。僕にとって父さんという壁は高すぎる」

フィニティはグレンの気持ちを理解はしていた。
でも、納得はしていない。
今のグレンは迷っていうよりも逃げている。

「……グレンはそうやって、また逃げるんですか?
 さっき自分で言ったじゃないですか。父さんの息子としか見られないのが嫌で群を飛び出したって。
 逃げれてるだけじゃ何も変わりませんし何も手に入れられませんよ」

フィニティの一言にグレンは考え出す。
言い返してくると思っていたフィニティはそんなグレンを見て焦ってしまう、
 
「……グレンの気持ちを考えないで少し言い過ぎました。その……何て言って良いのか分からなくて……。ごめんなさい」
「そうだね。そうだよね……。逃げてばかりじゃ何も得られないよね。
 戦う前から諦めたらもうそれ以上進めないし……進まない。
 僕は僕自身の価値を証明するために神よりもまず父さんを超えなくちゃいけないんだね……。
 ありがとうフィニティ。僕は逃げないよ。父さんと戦って、僕はフィニティを守れる位の強い雄になってみせるよ!!」
「ふふ。そうですね。私もその時を楽しみに待つことにします。約束ですよ」

グレンの表情にもう迷いはなかった。
フィニティはそのグレンの表情を見て安心する。
グレンとフィニティは互いの決意を語り終えると二匹並んでウズキが待つ広場へと戻っていった。


62 ムオンの秘密 


朝の眩しい光がムオンを照らす。
ムオンは照りつける朝日に目を覚ました。
目を開けるとアマツの顔が目の前にあり、寝息をたてている。
あと数センチ近づけば唇が触れ合うほどに二匹の距離は近い。

「のわぁあぁあっ!! ア、アマツ!?」
「……ふわぁ。ムオン、おはようございます。ようやく目を開けてくれましたね。良かった……」

ムオンは目の前の状況にうろたえ大声を上げる。
そんなムオンの叫び声を聞いてアマツが起きた。

「朝からそういう冗談はやめてくれ! 流石に心臓に悪いだろう!!」
「そうですか? ミナヅキにやられてから目を覚まさないで心配していたのに随分な言いようですね。
 それに冗談のつもりでやってたわけではなく、ムオンを看病しててそのまま眠ってしまったでけです」
「アマツ! 俺がそういういきなり目の前に何かが現れるってに弱いの知ってるだろ!?」

ムオンはアマツに大声で怒鳴った。
アマツは不満そうな顔をし「今回の事故ですよ」と文句を言っている。
ムオンの大声で寝ていた他のメンバーも目を覚ましだす。

「い、今聞きなれない声がしましたけど誰か他に居たんですか?」
「どうした!? 今、変な叫び声が聞こえたきたぞ?」

フィニティが飛び起き、ライガがこっちに近づいてくる。
ムオンは慌てていつもの冷静な態度をとった。

「……正常……」
「ええ。特にこちらでは何もありませんでしたけど……」

ムオンが言い訳するとアマツがムオンを擁護する。
流石にフィニティとライガは二匹の態度を不振に思っていた。
実際の二匹の関係の知らない者にとってはそれがどう不振なのか問うことができない。

「あれ? 皆集まってるけど何かあったの?」
「……朝ぐらい静かに出来ないのか?」
「姉さん!? 目を覚ましたんだね!!」

グレンとサイが同時に目を覚ましムオンとアマツの方を見る。
ライガはサイが目覚めたを見てサイの元へと駆け寄っていく。
サイが目覚めたことによりライガは大声の話題を忘れサイと話し込んでいる。

「ムオン! 朝から大声出すなよ!! 今の声で皆起きたらどうする……。って、皆さん起きてますね」

ウズキが愚痴を言いながら歩いてくる。
誤魔化しきれたと安心していたムオンにとってウズキの一言は今までの事を全て水の泡にしてくれた。
ウズキ、アマツを抜かすメンバーの視線はムオンに集まる。
無論、サイと話し込んでいたライガも例外ではなかった。

「ムオンって普通喋れたか!?」
「私も普通には喋れないと思ってた……」

ライガの反応は予想通りだったので気にしてはいないがだろうがサイの言葉で顔をしかめた。

「あの叫び声ってムオンさんだったんですか?」
「でも、何で今まで黙ってたんです?」

フィニティとグレンの当然の質問にムオンは顔を背ける。
が、四匹の視線は相変わらずムオンを見たままだったのでムオンは渋々口を開く。

「……別にあれが時の教団親衛隊隊長のムオンであることに変わりはない。普通に喋るのはアマツの旦那としてだけだ……」
「嘘……。ムオンとアマツってそういう関係だったの!? だっていつもアマツ『様』って……」
「つまり、ディアルガの血を引く僕とフィニティにとってはムオンさんとアマツさんはご先祖様……」

ライガはムオンとアマツの関係が驚いたらしい。
グレンはウズキの娘のアマツの旦那がムオンなのだから当然、その血を引いている事に驚いていた。

「……そんなに私とムオンが夫婦だと可笑しいですか?」
「……いや、そうではないのだがムオンとアマツは外見でも五歳は離れてるじゃないか……結婚はいつしたんだ?」
「え~と。……ごめんなさい私には二百年より以前の記憶はないので……お答えできません
 私も興味あるので是非答えて欲しいのですがムオン隊長?」

アマツはサイの質問に答えられなくて謝る。
そもそもアマツに記憶が無いこと自体も他のメンバーは知らなかったため驚く。

「……そこで権力を行使するのか!? 俺の口からは正直に言いたくはないが……。
 アマツにそう言われると答えなくちゃならんが俺の地位なんだよな……。
 俺の群……まぁ九千年前の話だが、いや今から十年後が正しいか。雄は成人するときに己の妻を決めるのが仕来りでな。
 その時に炎の石を渡して……結婚したわけだ……。俺はその時ヘルガーだったから流石にロコンとじゃな……。
 もっとも、そんなの群も親も認めるわけないから、いわゆる駆け落ちだよな。今の地位で分かるように実力はあるしな」
「……つまりムオンさんは十五歳のアマツさんに炎の石を渡してプロポーズ……。かなり危ない方じゃないですか?」
「……フィニティ。そういう遠回しな言い方って結構、相手を傷つけるよ。ここは直接『変態』と言ってやった方が……。
 少なくてもボク等の群ではどちらも成人しないとアウトだね。年下と結婚しようとすると待つはめになる。
 そのおかげでボクとクゥはどれだけ待たされたことか……。一応同い年だけどさ。時の神を舐めるなよ……まったく」

フィニティとウズキに『変態』と言われたことにムオンが落ち込む。

「……どうせ俺は変態ですよ……。悪うございましたね……。気にしてる事を言われるのが一番辛いんだよ……。
 そもそも俺よりもウズキの方がよっぽど変態じゃないか……。何で俺だけこんな扱いを……。」
「そ、そんなムオン! 私達は愛し合ってたんですから良いじゃないですか!? 元気を出してください!」
「うぅ。俺を慰めてくれるのはお前だけだよアマツ……」

アマツはムオンを励ますがムオンはしばらくは落ち込んでいるだろう。
この日を境にムオンのイメージは今までと大きく変化した。


63 神の自覚 


エイガとノウレッジが今後の事について話しているのをミナヅキとウィルとフィールはダルそうに聞いていた。
寧ろ、ウィルとフィールは欠伸までしていて今にも居眠りをしそうである。
話し合いも大詰めになってきたところにレッカとエターナルがやってきた。
しかし、エイガとノウレッジは話し合いで気づいておらず、ウィルとフィールはすでに夢の世界へと旅立っている。

「よう! お前さん達も昨日は一睡もしてないのに随分と元気そうだな」
「……まぁこれでも群では最強と称されていたからな……。だが、流石に昨日のは……」
「にはは。レッカったら結局最後はノリノリだったじゃん!」

ミナヅキが二匹を茶化すが二匹とも全く気にしていない。
そんなバカップルぷりは新婚夫婦にも負けないだろう……。
ミナヅキは二匹の反応を見て溜息をついた。

「はぁ~。お前等もう立派な新婚夫婦だな……。子供達には内密にな……。
 まぁ、オレもルーツ様にエイガとの関係が知れたらなんて言われるか……。寧ろ極刑?
 それを分かっていてエイガ……いや、プルートと一つになったんだけどさ……。
 オレはダイヤに仕返しよりもルーツ様からどう逃げるかを考えたほうが良いと思うんだよな。
 いや、ルーツ様の部下がここに派遣されてる時点でもう手遅れか……。
 オレ達の将来どうするんだよ……。ダイヤを封印したら次のターゲットは恐らくオレ等だろ?
 今すぐにでもあの三匹を撃退した方が良いと思うのはオレだけか?
 ここは禁忌を犯した者同士ダイヤとも手を組んでルーツ様を倒す……のは無理か。
 ルーツ様はオレ達、神が束になっても敵わない神を超えし王と呼ぶべき存在……。
 あの方に生み出されしオレ達がどれだけ集まろうと相手になるわけないよな……。
 こう考えるとオレ達の将来って既に坂道を転がり落ちてないか?」

ミナヅキがレッカとエターナルに話しかけてる訳でもないのに一匹で不気味に呟き続ける。
それを見ていたレッカとエターナルはミナヅキを無視することに決めた。
エイガとノウレッジの話し合いが終わったのを確認しレッカはエイガに声をかける。

「エイガ様……そちらの三匹のポケモンは?」
「……ワタシ達の新しい仲間……という事になっている。
 正確にはダイヤの封印がこの三匹の役目らしい。
 現在の目的が同じな為、手を組んでいるグループだ」
「にはは。つまり今日は味方でも明日は敵かもしないってわけだ~」

レッカの質問にエイガが答えるとエターナルが皮肉を言う。
そんな皮肉にもノウレッジは顔色を変えない。

「はじめまして。あなた達の事は既にプルートから聞いたので自己紹介は結構です。
 私は知識を司る神ユクシーのノウレッジ。向こうの赤いのが……。ちょっと待って貰えますか?」

ノウレッジは自己紹介の為にフィールとウィルの方を向くと居眠りをしていた二匹が視界に入る。
そんなフィールとウィルを見て表情は変えないがノウレッジは明らかに怒っていた。
二匹にゆっくりと近づいていき、ノウレッジは右の拳を振り上げフィールの頭を殴った後ウィルにボディブローを決める。

「あうぅ……。暴力反対!」
「ぐうぇ! な、何するんだノウレッジ!!」
「……居眠りしているあなた達が悪い。あなた達も神としての自覚が足りてないですよ」

フィールとウィルが殴られた事で飛び起きた。
ノウレッジがフィールとウィルに説教を始める。
レッカとエターナルはノウレッジの背中を見て呆れていた。
しばらくすると、もう気が済んだのか説教を終わらせてノウレッジが振り返る。

「では自己紹介の続きをしましょう。遅れて申し訳ありません。
 こちらの赤いのが感情を司る神エムリットのフィール。そちらの青いのが意志を司る神アグノムのウィル。
 しばらくお世話になるので一応仲良くしましょう」

ノウレッジはまずは握手でもしようと右手を差し出してきた。
レッカとエターナルは互いに顔を見合わせた後、右前足をノウレッジに見えるように振る。
ノウレッジは二匹の「握手は無理」というジェスチャーを見て右手を下ろす。

ミナヅキはまだブツブツと一人言を呟いている。
そんなミナヅキを一行は見て見ぬふりをしていた。


64 戦う相手 


エイガ一行は先ほどのエイガとノウレッジの話し合いで決まった事を話している。
本来は全員参加のはずが居眠りと一人言、遅刻でまともに話し合ったのは二匹だけ……。
既にチームワークが乱れているようにも見えた。

「……私達が三匹でダイヤを拘束するので皆さんは他のメンバーの足止めをお願いします」
「はぁ~。折角七対七の同数なのにあんた等は三匹で一匹を相手にすんだな……。フェアじゃねぇな……」
「一応、僕等も弁解はしておくけど……僕らは三匹揃って初めて神の拘束を可能にするよう創られてるから。
 それに同じ神でも僕等単体の能力は時空、冥王の神々には敵わないからさ」

ノウレッジが説明するとミナヅキが皮肉を言う。
フィールはミナヅキの言葉に頭にキタのか言ったのは弁解というより文句である。。
ウィルはフィールの言葉に無言で頷いていた。

「……本来、ワタシがダイヤの相手をしたいところだが痛い目に合ったばかりだからな。
 今回は素直にダイヤの相手は譲るとしよう……。ワタシはダイヤの娘とその旦那でも相手にするか」
「エイガ様。自分はグレン……ガーディを相手にしますがよろしいですね?」
「それは構わないが……本当に戦えるのかレッカ?」

エイガの質問にレッカは顔色を変えずに「勿論です」と一言だけ答える。
そんなレッカをエターナルは哀れむように見ていたが、レッカと目が合うとすぐにいつもの表情に戻っていた。

「にはは。僕はフィニティの相手で良いよね。まぁ、残りはミナヅキだけだから嫌とは言わせないけどさ」
「……と言うことはオレはレントラーとアブソルの二匹か……。
 まぁ、神の力を使えない奴等だから二匹でも問題はないか
 今までの事で分かってはいるがエターナル……もう少しオレへの態度を良くしないか?
 エイガ位にまでとは言わないがオレが完全に下っ端って扱いを受けてるんだが……」
「にはは。ヤダね。何で神が嫌いなのに僕がミナヅキに敬意を払わなきゃなんないのさ?
 認めて欲しいんなら言葉よりも態度で示した方が良いってレッカも言ってたじゃないか~」

エターナルの容赦ない言葉でミナヅキは落ち込む。
エイガも既に『いつもの事』と割り切り相手にしない。

「意外にすんなりと決まるもんだね。僕的はもっと拗れれば面白かったのにな。
 それなりのチームワークはあるんだな。さっきはあんなのだったけど……」
「本当だよね。あいつはオレの獲物だ~なんて言い合ったらこっちは面白かったよね」

すんなりと決まる対戦相手にウィルがつまらなそうにしている。
その言葉にフィールも納得していた。
ノウレッジはそんなウィルとフィールの態度に呆れていた。

「……二匹とも私達は遊びでダイヤを封印しに行くわけでは無いんですよ……。
 その事を十分に理解してますか? 理解してないのなら……」

ノウレッジが笑顔で右手を振りかざすとウィルとフィールは真面目な態度を取る。
二匹は慌てて「十分、理解してます」と同時に返事をした。
その答えで満足したのかノウレッジは右手を下ろす。

「では仕度をしてあいつ等に仕掛けるか……。エターナル。体調の方は平気か?
 昨日は体調不良で撤退したんだからな……。流石に二連続は止めてくれよ」
「にはは。そんなに心配しなくても僕の持病はそんな短期間で起きないですってば~。
 昨日は復活したてで周期が分かってなかっただけで何回も同じヘマはしませんよ~」
「いざとなれば自分がエターナルを支援しますので。心配しないでくださいエイガ様」

レッカの言葉にエイガは素直に「なら平気か」と一言呟いて二匹に背を向けた。
自分の子との決戦を間近にしてもレッカとエターナルの心境に変化は無い。
しかし、それはあくまで二匹の言葉と表情からの答えである。

「自分の子供にも容赦なしか……。互いに愛し合っていた者との子供じゃないにしろそれはどうだろうな……。
 あいつ等も本心では子供と戦うことを望んじゃいない……。あいつ等は自分の心を偽っている……。
 でも、それはいつか自分自身をも殺すことに繋がりかねない……。それは一度死んでるあいつ等が一番分かってるはず……。
 もっとも、オレも自分の本心に気づいていないでルーツ様に仕えていたんだから偉そうな事は言えないか……。
 あいつ等は一体いつになったら自分達の本心に気づくだろうな。その時あいつらはオレ達の敵になるかもしれないが……」

ミナヅキはそんな二匹を遠目で眺めている。
その表情はどこか悲しげで寂しそうな目をしていた。


65 再び交わる刃 


エイガ達はウズキ達へと雌雄を決するべく仲間を率いて再度行動を開始する。
森の中をしばらく進むとウズキ一行が広場で休憩しているのが見えた。

「ウズキ。昨日の場所から殆ど動かないで休憩とは随分と悠長だな」
「……そうは言ってもボク達は互いの位置を大体ならば知ることが出来る。
 何処へ隠れても結局は見つかるわけだから無駄な労力は使わないんだよ。
 それにこんなに早く攻めてきてまたボクに倒されたいの?」

エイガはウズキを馬鹿にするとウズキは涼しい顔をして言い返す。
ウズキの挑発にエイガは飛び掛りそうになったがミナヅキの説得で思いとどまる。

「……残念だが今回の相手はワタシではない」
「へぇ~。じゃあ今度はミナヅキがボクの相手でもしてくれるの?」
「そこでオレの名前が出るのかよ……。期待を裏切るがオレでもないんだな」

エイガは明らかに悔しそうに質問に答えた。
その答えを聞いてウズキは驚いて再度質問する。
ミナヅキはここで呼ばれると思っていなかったのか面倒そうに答えた。

「今回は私達があなたの相手をさせてもらいます」
「元々、人数はそっちが多かったんだから複数相手でも文句は言うなよ?」
「僕達三匹が好き放題やってくれた時の神ダイヤに裁きを下しちゃうぞ」

ウズキの質問に「待ってました!」と言わんばかりのタイミングで心の三神が姿を現す。
その三匹を見てウズキが一言「クラゲ?」と呟くと三匹は明らかに怒る。

「僕達はそうやってクラゲ呼ばわりされるのが嫌いなんだよ!」
「その発言は俺達に喧嘩を売ってるととらえて良いんだよな?」
「……まったく。パールもダイヤも私達をクラゲなんて……万死に値します」

フィールとウィルは激昂しノウレッジは殺意をむき出ししてウズキを睨む。
睨まれたウズキはそんな三匹を見て鼻で笑っていた。

「ウズキとクラゲ共は放っておいてワタシ達も話を進めるか。
 今回はウズキの娘とその旦那にワタシの相手をしてもらおう」
「……あなたは何故そこまで母様を狙うんですか?」
「そういう風にワタシ達は創造神に創られている……と言うのは最早言い訳だな。
 ワタシはダイヤが嫌いだ。理由はそれ以上でもそれ以下でもない」

アマツの質問にエイガは冗談とも本気とも取れるような口調で言う。
その口調にアマツではなくムオンが怒りをあらわにする。

「……分かり合おうともしないでただ神々は争うと言うのか!?」
「さて、どうだろうな? ではお前は今更ワタシ達と手を組めるのか?
 進む道が違うからこうして戦っているのだろう? 争いとはそういうものだ」

ムオンの怒りにエイガはまるで他人事のように話す。
その口調がムオンの更に怒らせた。

「……昨日とは目がまるで違う。戦う決心がついたかグレン」
「父さんを超えなきゃ守れないものがあるのなら僕は戦う!」
「それで良い。互いに敵同士あまり多くは語るまい。行くぞ!」

グレンとレッカは互いに睨み合い戦闘態勢を取る。

「……お母さんは何故プルート様に加担するのですか?」
「にはは。別にエイガ様は関係ないよ。僕の居場所はレッカの隣なだけ。
 レッカがエイガ様に仕え、戦うなら僕もそうするだけさ」
「……お父さんが浮気してった怒ってたわりに自分も浮気してるんじゃないですか……」

エターナルの発言にフィニティは呆れていた。
そんなフィニティを見てエターナルは不満そうにしている。

「フィニティそれは違うよ。僕はあいつの浮気が許せなかったんじゃなくて群に僕等の素性を話した事が許せなかったんだよ。
 別にあいつが別れ話を切り出してきたなら僕はそれを素直に受け入れたよ。フィニティは僕が引き取るつもりだったし。
 でも、こうして敵として戦う以上僕は手加減はしないからねフィニティ」
「……どうしても戦うんですね?」
「それが僕等の運命なんだよ」

フィニティとエターナルが互いに戦闘態勢を取る。

「え~と。じゃあ、オレの相手はお前達って事だけど良いよな?
 嫌と言われても他に相手がいないから選びようがないんだけどさ。
 正直、神の力を使えないお前達を空間の神が相手をするってのもどうかと思うが……」
「随分と私達を舐めてないか? そっちもウズキと同様に殆ど神の力は使えんのだろう?
 ならばこちらは二匹がかりでお前の相手すれば良いだけの話だ」
「……なんかお前と話してるとエイガと話してるみたいだな。口調が似てるんだよな……。
 何かやりづらいな……。オレは穏便に事を進めたいんだけどなんでこうなるんだろう……」

ミナヅキはダルそうにサイとライガに話しかける。
サイはミナヅキの態度が気に食わないのかミナヅキを睨みつけていた。

「お前、やる気あるのか? 俺達は巻き込まれただけだから不満は多いけどな」
「……お互いにああいう性格の彼女を持つと苦労するよな……。気づいたら尻に敷かれてるし。
 まぁ、一応やる気はあるつもりだから相手になってもらおうか。戦わないと暇だしな。
 あるって言っておかないないと後でエイガに文句言われるし、エターナルに馬鹿にされるだろうし……」
「ふん。最初からそう言えば良かったんだよ。こっちは初めから話すことなんてないんだからな。
 ……お前も苦労してるんだな。同情するよ。だが、手加減をするつもりはない!」

ミナヅキはダルそうだった態度から一変し戦闘態勢を取る。
サイとライガもミナヅキを睨み戦闘態勢を取った。

再びウズキ一行とエイガ一行の意地と誇りを賭けた戦いがはじまろうとしていた。


66 時の力 


フィニティとエターナルは戦闘態勢を取って睨み合っている。
互いに相手の動きをうかがい攻撃する機会を探す。
エターナルは昨日の持病のせいか妙に焦っているように見えた。

「にはは。昨日は時間をかけたあんな結果になったんだ。
 今日は初めから本気で行かせてもらう!!」

エターナルが叫ぶと同時に目は紅くなり一瞬の内にフィニティの目の前へと移動しアイアンテールを放つ。
フィニティは一瞬の出来事に対処しきれず豪快に吹っ飛ばされる。
辺りは土煙が舞いフィニティの様子をエターナルから見ることは出来ない。
それでも、これだけの勢いで攻撃をしたエターナルは自信たっぷりだった。

「にはは。派手に吹っ飛んだね。これは無傷じゃすまないでしょ」
「さて、それはどうでしょう。確かにイーブイでは無傷じゃすまなかったでしょうね」

土煙が薄くなるとそこに居たフィニティはイーブイではなくブラッキーだった。
無論、フィニティの目も紅く輝き普段のブラッキーの目とは違う。
エターナルの一撃はブラッキーに進化したフィニティに傷を付けていない。

「へぇ~。今は昼なのにブラッキーに進化するなんてフィニティの能力は随分と面白いね。
 それにブラッキーの守備力は流石だよ。今の攻撃でまさか無傷なんて」
「そうですね。ブラッキーの守備に隙は少ないですから」
「でも、いつまでに守備に回って居ても!!」

エターナルはフィニティの背後に回ると至近距離で火炎放射を放つ。
迫る火炎放射をフィニティは避けようともせず結界を張りその攻撃を時間を狂わせ、なかった事にする。

「お母さん。覚醒は能力が強化されるだけじゃないんですよ」
「じゃあ、僕からも一つ教えてあげようか。その結界はあくまで時間を狂わせなかった事にするもの。
 そしてその時間は良くて一分程度のものが限界なんだよ。直接触れるような技はその時間以上に前に存在している方が多い。
 つまり、直接触れる攻撃をなかった事には出来ない。結界を信じきって避けなかったフィニティのミスだ」

エターナルは口を大きく開け炎を纏った牙をフィニティに突き刺す。
その一撃は時の結界を突き破りフィニティの左後ろ足を食い込む。
フィニティは苦痛で顔を歪めその場に倒れる。

「もっとも僕はフィニティが避けないことを能力で知っていたんだけどね。
 僕の能力は相手や物の過去について知るとことが出来る。一秒前だって過去なんだよ~」
「……ウズキさんが持っている能力と同じって事ですか。
 ですが結界のことはお母さん自身にも言えることですよね?」

フィニティは傷ついた足を庇いながら何とか立ち上がる。
そして、その身は光に包まれリーフィアの姿へと変わった。

「……リーフィアねぇ。フィニティ、僕は炎タイプだよ。血迷った?」
「そんな事はありませんよ。リーフィアじゃなきゃいけないんですよ」

リーフィアになったフィニティを見てエターナルは呆れていた。
その間にフィニティは太陽光を吸収し自らの傷を癒す。

「光合成か。まぁ傷を回復しただけで僕に勝てるの?」
「やってみなければ分かりませんよ!!」

叫ぶと同時にフィニティはエターナルに正面から向かって走り出す。
エターナルは火炎放射を放つもフィニティの結界で弾かれた。

「っく! そういうことなら!!」
「……ブースターの速さでリーフィアになっている私の動きを捕らえられますか?」

エターナルはフィニティを噛み付こうとするが寸前のところで避けられる。
悔しそうな顔をしながらエターナルは一歩下がると目の前にフィニティが居た。

「……つまり私はお母さんと接触する技だけを避ければ良いんです。
 そしてリーフィアはイーブイの進化系の中でも高い速度と攻撃力を有しています。
 これほど相性の良い姿はそうそうないでしょう? いきますよ!」

フィニティは笑うと右前足の葉っぱを鋭い刃物としエターナルを一閃した。
何とか直撃は免れるもエターナルの左頬に一筋の傷が出来る。
その一撃を避けきれなかったことでついた傷をエターナルは心配していた。


67 親子喧嘩? 


フィニティはリーフブレイドを放つをエターナルから一旦距離をとる。
顔を傷つけられたことでエターナルはフィニティを凄い形相でフィニティを睨む。

「フィニティ! ちょっと顔は酷いんじゃない!? 傷が残ったらどうしてくれるの!?
 顔を傷つける、年齢を聞く、体重を聞くってのは雌への三大タブーでしょ!?」
「そ、そんなこと言われても……」

エターナルの気迫にフィニティは一歩後ずさる。
フィニティが一歩下がるとエターナルが一歩前へ踏み出す。
互いにそれを繰り返しフィニティは木にぶつかった。

「顔の恨みは恐ろしいよ……」
「今は顔なんて関係ないじゃないですか!? 今の私達は『親子』ではなく『敵同士』でしょう!?
 それをはじめに言ったのはお母さんなのに今更文句を言うんですか!?」

エターナルの発言で精神的に追い詰められていたフィニティが遂に逆切れした。
もしこの光景をウズキが見ていたなら「雌のヒステリーは怖いねぇ~」とでも言って冷やかしていただろう。
しかも、覚醒中で紅い目、黒く虚ろ瞳を見たなら大抵の相手は怯むほどである。
両者は互いに睨み合い熱い火花を散らす。

「……顔の傷が頬だけの方が良かったと思えるくらいに切り裂きます」
「僕の顔を傷つけたことを地獄の底で後悔させてあげる」

両者は同時に前へ駆け出しフィニティが再びリーフブレイドを放つ。
それを自らの能力で予測していたエターナルは軽く避けてフィニティの左頬を右前足で殴りつける。
エターナルの攻撃を直撃したフィニティは数メートル吹き飛ばされた。

「にはは。これで顔はおあいこだよ。まぁ、やられたらそれ以上で返すのが基本だから止めないけど」

エターナルが愉快に笑うとフィニティがゆっくりと立ち上がる。
相手を睨みつけるフィニティのその目は明らかに殺意があることが見て分かった。
フィニティは再びエターナルに飛び掛り、取っ組み合いをはじめる。

「組み合って僕の力に勝てると思ってるの?」
「リーフィアって剣の舞が使えるんですよ。さっきお母さんが笑ってる間に使っておきました。
 単純な殴り合いでも今なら十分ブースターとやりあえますから安心してくださいね」

エターナルに微笑むフィニティ目は明らかに笑っていない。
フィニティは右前足を振り上げエターナルの頬に鉄拳をお見舞いする。
一発殴られるとエターナルも負けじと一発殴り返す。
神の力を使った親子喧嘩は単純な殴り合いへ発展……もとい退化した。

「お母さんはそうやって自分の考えもないしに神に従って!!」
「それはフィニティだって同じでしょ!! ウズキがダイヤだから一緒に居るんだろう!!
 そうやって自分の行動だけ正当化して!! 君の戦う理由は何なんだ!!
 僕はレッカの為に戦っている!! それが神に尽くす事なら僕も同じ道を行く!!」
「それが何も考えてないって言うんですよ!! 愛する方を言い訳に自分の意志を隠してるじゃないですか!!
 神に尽くすその道の先に一体何があるんですか!? 私は自分の未来は自分で掴んで見せます!!
 お母さんが……神がそれを阻むというのなら私は神とだって戦います!!」

二匹は自分の意見を叫ぶたびに相手の顔を殴りつける。
互いの意見をぶつける度にそれそれの顔に痣が増えていく。
しかし、それでも互いに一歩も怯む事無く殴り合いを続けていった。
殴り合いを続けているとエターナルが突然倒れる。
エターナルの表情を見るとそれは打撃による苦痛でないことは予想できた。

「……う。長い時間、覚醒を使いすぎたみたい。体が悲鳴を上げるなんて……」

エターナルが顔を上げると紅い目はいつもの黒い目へと戻っていた。
その視線の先にはフィニティが不敵に笑っている。
今のフィニティならば他者を殺める事に躊躇はないだろう。

「……それは災難ですねお母さん。では残念ですが……死んでください。
 一度死んだ身なんですから別に構わないですよね?」
「悪いけど……僕はまだもう一度死ぬ気はないんだよね」

エターナルは最後の力を振り絞りスモッグを放つ。
あたり一面は黒いガスで覆われフィニティは煙が届かない範囲へと脱出する。
煙が晴れるとそこにエターナルの姿はどこにもない。
フィニティはしばらく辺りを探し悔しそうにその場を後にした。


68 固有能力 


グレンとレッカは互いに睨み合いゆっくりと間合いを詰めていく。
ゆっくりとだが確実に縮まる距離。先に仕掛けたのはレッカだった。
レッカがまだチャンスをうかがうグレン目掛けて飛び掛る。

「残念だが、格闘戦では体の大きい方が圧倒的に有利に立てる。
 そのハンデをどう克服し俺に攻める? 無論、正面から攻撃するだけなら俺には勝てないぞ」
「は、速い!?」

レッカの素早い一撃をグレンはしゃがむ事で股下に入り込む形になりなんとか避ける。
攻撃を避けられたレッカは素早く反転し再度グレンへと飛び掛った。
グレンはもう一度しゃがむもレッカは正確にグレンを捕らえる。
レッカは右前足でグレンを押さえつけ睨みつけた。

「……この烈火の閃光に何度も同じ手が通用するはずがないだろう。
 覚悟は決めても所詮はこの程度か……。今のお前は何も守れない。何も救えない。
 俺はお前を過大評価しすぎてようだ……。弱い自分を怨みながらこの場で朽ち果てろ」
「僕には守りたい者がいる! 負ける訳にはいかないんだぁああ!!!」
「……なるほど。お前も眠れる力を呼び覚ましていたか」

グレンが叫ぶと同時に目の色が紅く変色する。
レッカはグレンから飛び退き間合いを開け目を瞑る。

「しかし、その力が自分だけのものだと思うなよ……」

レッカが再び目を開けたときその目は紅く真っ直ぐにグレンを睨んだ。
グレンはレッカに向かって一気に走り出す。

「このまま一気に!!」
「無闇に突っ込んでくるか……。無謀だな」

レッカは突っ込んで来るグレンを横に跳び簡単避ける。
その際にレッカはグレンに尻尾を叩きつけた。
グレンはレッカの攻撃でバランスを崩し派手に転ぶ。

「その隙もらった!」

レッカは転がるグレンを右前足で押さえつけた。
押さえつけている前足に力を込めるとグレンは苦しそうな顔をする。
しかし、グレンは絶望しておらず寧ろ何かを狙っているように見えた。

「今度はお前を放さない。そう何度も逃げられると思うなよ」
「……僕等ガーディにはピンチをチャンスに変える技、名前通りの『起死回生』がある!!」

グレンは傷付いた分を己の力に変えレッカを攻撃する。
押さえつけている態勢では避けることが出来ずレッカは勢い良く吹き飛ぶハメになった。
レッカは態勢を崩しながらも何とか着地する。

「……考えなしに突っ込んできたたわけじゃないか。それならば俺も本気でいかせてもらおうか」

レッカは数十メートル先に居たはずのグレンの背後に回っていた。
グレンが振り向いたと同時にレッカの鋭い爪が振り下ろされる。
その一撃を避けることができず鋭い爪がグレンの頬を引き裂く。

「数十メートルを一瞬で移動するなんて覚醒してたってそんな速さは……」
「っふ。これが俺の固有能力だ。お前は何が使えるかは知らんがな。
 一般のポケモンが神の力を使えても、それにはやはり限界はある。
 ダイヤと違い俺達は能力上昇と結界以外の能力は一つしか使用できないだろうな。 
 エターナルが相手や物の過去について知るとことが出来る能力ならば俺の能力は倍速化だ。
 効果は単純に自分の速さを倍にするだけ。一件地味な能力ではあるが使う奴が使えば誰にも負けない能力だろう。
 固有能力の発動時期は個々に違い、高い能力ほど発動しにくい。お前の能力で俺を止められるかな?」

グレンはレッカと距離を離そうとしても一瞬にして追いつかれる。
固有能力まで覚醒していないグレンにとって今レッカを引き離す手段はなかった。

「いくら引き離そうとも無駄だ。グレンこれで止めをさしてやろう」
「この位置じゃ避けられない!?」

レッカが勝ちを確信しレッカに再び爪が振り下ろされる。
絶対に避けられない位置から攻撃。しかし、レッカの一撃は虚しく宙を切ることになった。
確かに目の前に居たはずのグレンがそこに居ない。レッカは振り向く前に背後にあるグレンの殺気に気づく。

「馬鹿な!? 倍速化中の俺ですらグレンの動きが見えなかっただと!?」
「……これが僕の新しい力。この能力の前ならば固有能力を使った父さんにも勝てる……」

グレンは自らの能力の更なる覚醒で先ほどまでの焦りはまったくない。
逆にレッカは自らの能力でグレンを捕らえられなかったことで焦りを感じていた。


69 グレンの能力 


レッカが振り向くと確かにそこにグレンが居た。
今のレッカの速さならば最大加速のテッカニンよりも早く動けるだろう。
そんなレッカですらグレンの動きを捕らえることが出来なかったのだ。
レッカはいったんグレンから距離を取ろうと後ろに跳躍する。
グレンが前足を踏み出したと思うとレッカの背後に回っていた。

「ありえない! 俺の能力よりも速く動けるというのか!? これがグレンの能力だと言うのか!?」
「僕は父さんよりも早く動いてるわけじゃないよ」

背後に居たはずのグレンがこんどは腹下に現れ爪を振り上げる。
その一撃はレッカの脇腹を直撃しレッカはそのダメージに膝を付く事になった。
グレンはもう一度能力を発動させると風で飛ばされていた落ち葉ですらその動きを止める。
そしてグレンはゆっくりとレッカへと近づいていく。

「僕だって倍速化中の父さんに追いつけるはずはない。でも、それは父さんが動いていればだけどね。
 これが僕の固有能力。一定時間だけ全ての時間を停止させる。
 これなら父さんがいくら速くても意味はないでしょ? そう言っても今の父さんには聞こえないよね」

グレンはレッカ目の前へ到達すると爪を振り下ろす。
その一撃でレッカの脚に傷を付け更に動きを制限させる。

「ぐはぁ! いつの間に脚をやられた!? あいつの能力の正体を見極めなければ確実にやられる……。
 何なんだあいつの能力は……。倍速化中の俺でも捕らえられない速さの秘密はなんだ……。
 まるで時間でも止めているような……。そうか! 時間を止める! これがグレンの能力か!!」
「流石は父さん。随分と気づくのが早い。でも、僕の能力が分かったところでどうするの?
 止まった時の中、父さんは全くの無防備なんだよ? それを防げなきゃ能力が分かったって意味がないよ?」

レッカは後ろに跳躍しながら火炎放射を放つ。
無論グレンの特性的にも効かないは承知の上である。
ただ、グレンの目隠しをする事を目的としていた。
火炎放射を振り払うとグレンの目の前にレッカは居ない。

「隠れた!? 父さんはどこに居る!?」

グレンはレッカは見失い辺りをキョロキョロと見渡す。
レッカは木の陰に隠れてチャンスをうかがってた。

「……恐らくチャンスは一度きり。失敗すれば次はないだろう。
 本来は奇襲なんて俺の主義に反するが今回は仕方ないか……。
 グレンが俺を見つけて時を止めるにも必ず時間差があるはずだ。
 その一瞬の隙に一撃でしとめることが出来れば……勝てる」

レッカはグレンが真後ろを向くと最大側で走りだす。
グレンが振り向いた時には既に爪は目の前にあった。
しかし、その一撃はグレンの能力で触れるか触れないかの寸前で停止する。
残念ながらレッカの奇襲はグレンを獲られることはなかった。
グレンはレッカから距離を取ると覚醒を解除する。

「グレン! 覚醒を解除するとはどういうつもりだ!! 戦闘はまだ続いているんだぞ!!」
「……父さん。今、僕を攻撃するとき躊躇ったでしょ? だから僕は時間を止めることができた。
 そうじゃなきゃ僕の屍が今ここに転がってたよ。つまり父さんは本当は僕を殺す気はなかったんだ
 もう僕達が戦う理由なんてないはずだよ! 決着はついたんだ!!」
「……殺す気はなかったか。それは俺自身にも分からない。
 しかし、これだけは言える。強くなったなグレン。お前はもう『レッカの息子』ではない。
 この俺を超えたんだからな……。これからは胸を張って生きていけ……。
 だが、次会うとき敵同士ならば……俺はお前を排除する」

レッカも覚醒を解除しグレンに背を向けてその場を後にする。
グレンはそんな父の背中が見えるなくなるまでずっと見つめていた。


70 認められない力 


ムオンは明らかに殺意を剥き出しにしてエイガを睨んでいる。
そんなムオンを見てエイガは鼻で笑う。

「ワタシ達もお前達と何も変わらないさ。
 嬉しければ笑うし、悲しければ泣く。腹が立てば怒りもするし、異性だって好きになる。
 なら、ワタシ達は何が優れていて『神』と呼ばれる? 神とは何だ?」
「……この大地に住む者達を正しく導く存在ではないでしょうか。
 少なくとも私はそう信じてきましたし今もそうだと思っています」

エイガの話を聞かずにムオンは飛び掛りそうだったがアマツが制止し思いとどまる。
そんなアマツの答えを聞きエイガは『予想通り』とでも言いたげな顔をした。

「確かにそれはダイヤとパールならばその定義は当てはまるだろうな。
 あの二匹はこの世界を統べるべくして生み出された。
 しかし、ワタシが統べる世界は冥界。この大地に住む者ではない。
 ワタシは『この世界』の住人ではない。住む世界が違ったのだからな。
 神々の中でもワタシは語られることの無い影のような存在。
 ワタシはダイヤと戦うことでしか創造神に……世界に牙を向くことでしか自分の存在を確かめられないのさ」

ムオンはエイガの言葉を聞き殺気が消える。
しかし、それでもエイガを睨むことは止めなかった。
エイガはムオンに近づき耳元でそっと呟く。

「なぁ、ムオン。ワタシ達は似ているとは思わないか? 力はあるのに認めてもらえない。お前もそれが嫌だっただろう。
 群でも実力者だったのに親がリーダーに反逆。お前は何も悪くないのに回りから虐げられる。
 それが嫌でひたすら強さを求めた、強くなれば認めてもらえると信じて……。
 でも強くなっても誰も認めてはくれなかった。強くなるほど皆は『あいつは危険だ。リーダーに反逆する』と危険視された。
 お前にとって自分の過去に触れないで接してくれたアマツがどれほど心の支えになっていたことか……」
「黙れ! 何故俺の過去を知っている!!」

ムオンは自分の過去を触れられたことで明らかに動揺していた。
そんなムオンを助けようとアマツが動こうとするもエイガの放つプレッシャーに動けないでおる。
エイガはアマツを一瞬だけ見ると再びムオンに囁き始めた。

「……何故って? ワタシはこの時代に禁忌を犯した時の神とその能力を得た者の排除を指示されていた。
 生憎、ダイヤは中途半端な封印、クウコとアマツの排除に失敗……。
 ダイヤとクウコの捜索には失敗したが偶然にもアマツを見つけてな……。
 見つけられた理由はアマツも元へと導かれるように一緒にあったペンダントのおかげだがな。
 アマツを守ろうというダイヤの強い意思のあらわれだったのかもしれんが結果的に逆効果。
 ペンダントから発する封印されたダイヤの力をワタシは探知した。
 ワタシはアマツの排除とペンダントの奪還の機会を伺うためアマツを監視。
 幼いアマツを偶然拾ったお前も当然ワタシの監視下にあったわけだ。
 ワタシは当時からワタシの力を認めない創造神が嫌いでね。
 他者に認められないというお前に自分を重ね合わせた結果……アマツを見逃した。
 それがワタシの創造神への初の反逆行為だな。
 ムオン。ワタシの仲間にならないか? 当然、アマツも一緒にだ。
 お前に必要なのはアマツの記憶なんだろう? ワタシ達の仲間へくればそれもかなう
 ワタシ達の下には空間の神が居る。心もまた空間。きっと力になれるはずだ」

エイガはムオンの方へそっと右前足を差し出す。
精神的に追い詰められたムオンは虚ろな瞳でその右前足へと誘われる。

「ムオン! 自分を見失わないで!!」
「……ア……マツ……?」

アマツの必死の叫びでムオンの目に生気が宿る。
エイガは悔しそうにし、ムオンから距離を離した。


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Last-modified: 2012-01-31 (火) 00:00:00
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