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料理と猟奇は紙一重

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作者……このwikiの中で仮面がぶ厚い存在

 小さいころ、とても衝撃的な映画を見た。どんなきっかけで見たのか、そもそもタイトルすらも忘れてしまったが、大方親が借りてきたDVDだったのだろう。愛し合う恋人……実際の性交シーンこそ映っていないものの、裸のままベッドで抱き合うシーンが出てくるので、恐らくはそういうことだ。そんな恋人が、ある日雪山で遭難してしまうのだ。ビバークできる場所を探す最中に脚を折る大怪我をしてしまい、恋人よりも早いうちに衰弱してしまう男。吹雪はなかなか止まず、いよいよ意識も朦朧としてきた男は、『もしも俺が先に死んだら俺を食ってでも生きてほしい』と頼んでしまう。
 女は、その頼みを聞いて、負部位がやむまでの間に恋人の体を食べ、何とか生き延び命からがら下山した。一人で降りてきたことに関しては、恋人はマニューラに襲われたと言って、本当のことは話せなかった。
 それからだ……彼女は愛しあった男を食べるという経験が忘れられず、美味しいとか美味しくないとか、そんなことはお構いなしに『愛しい人を食べる』という行為が忘れられず、またやってみたいと思うようになってしまったのだ。それから、彼女は新しい男と出会い、愛を深め、いつしか体を交わすようになった。彼と愛を感じるたびにその時のことを思い出し、今の恋人とともに遭難し、そしてあの時のように食べる夢を見たり、起きていてもフラッシュバックを起こしたり、徐々に日常生活にも支障をきたすようになってしまった。
 やがて寝ても覚めてもあの時の興奮、高揚感をまた味わいたいと渇望するようになってし舞った彼女は、ついに凶行に及んでしまう。山へハイキングへ行ったとき、人気のない場所へと彼を誘いこみ、睡眠薬を飲ませて無防備になったところを……彼を殺し、その肉を食べたのだ。
 下山するとき、一人で降りてきたことに対して、彼女は、『恋人はリングマに襲われた』と言ってごまかし、また日常に戻っていく。そこから先は記憶があいまいだったが、妊娠がわかった後に結局警察に捕まるか自殺したか、幸せからは程遠い人生だったことはよく覚えている。
 大人になった今、記憶をたどりながらその作品を調べてみたら、狂気と愛が入り混じった描写は評価されたものの、後味が悪かったり、人が人を食べるという描写を受け入れがたい人も多かったのか、興行収入は振るわなかったそうだ。
 だが、私はその物語に興味をそそられていた。仲良くなり、セックスまでした仲の愛する人を食べる……それはいったいどんなに甘美な体験なのだろう? 小学校を卒業する前にそんな作品を見てしまった私は、そんな興味にとらわれてしまい、以後その性癖や興味を打ち明ける事も出来なかった。というか、ウチの親は子供が見れるところにそんなDVDを置かないでほしいものである。
 そんな性癖の持ち主だからか、いまだに恋人が出来ていないが、それは大きな問題ではない。愛する人の体を食べるという体験、それはもちろん犯罪である。それでも、愛する存在を食べてみたい。ジレンマに悩まされた私は、食べる対象が人間ではなくポケモンならばどうだろうか? と考えた。
 ポケモンならば、食べてしまっても人間ほど真剣に捜査もされないし、詮索されないのではないかと考えた。
 そうと決めた私は、食べてみたいポケモンを選別し……故郷に残った友達の伝手で一匹のポケモンを。ガラルに留学した友達から、一匹のポケモンを譲り受け、最後にこの島に住むポケモンを捕まえるのであった。
「あれ、君もポケモンを持ち始めたんだね。研究に使うのかい?」
「は、はい、教授! 私達の研究のためには、ポケモンたちのバトルをするのが一番ですので」
 三匹のポケモンを大学の庭で出しているところを教授に見られ、私は思わず立ち上がってそう言った。まさか食べるために飼い始めただなんて言えない……いや、研究にも使うけれど。
「でも、なんというか、その、随分とおいしそうなポケモンたちだね……」
「あはは……そう言われるとそう、ですね……」
 さすがに教授はポケモンに詳しいらしく、完全にバレてる。と、いうのも、飼い始めたポケモンというのも、故郷に残った友人から受け取ったのはトロピウス。ガラルに赴いた友人に頼んだポケモンはマホミル。そして、この島で捕まえたポケモンのヤバチャだ。確かに成長すればおいしそうなポケモンばかりである。私は彼らを真剣に愛し、そしてセックスし、食べる……そう、食べるのだ。

 大学に通う間、トロピウスには、晴れた日は毎日、日光浴をさせた。彼は南国のポケモンだけあって寒さには弱いので、冬は温かいモンスターボールの中に入れておくが、それでも晴れた日はなるべく日の光に充てられるように、暖房をガンガン効かせた室内で日に当てるように心がけたりもした。マホミルはとっても甘えん坊だ。彼女は私のポケモンになってすぐに飴細工を与え、彼女を抱いたままくるくると回転してマホイップへと進化させた。それからは、毎日のように撫でてあげたり、話しかけてあげる。
 私の元気を分け与えるために、時々ドレインキッスをさせてあげたりなんかもした。体力が奪われてしまうが、それはそれでよく眠れ、翌日頭が冴えるので勉強をする上では役に立っていたのかもしれない。
 そしてヤバチャは、贋作だが質の良いポットを与えて、すぐにポットデスに進化させた。島の売店で購入した茶葉を食べさせてあげると、すぐに食いついてくれた。もちろん、茶葉だけではなく、彼はゴーストタイプらしく魂を食べなければ生きていけない。彼には私の力を吸い取らせたり、ギガドレインを軽く打たせたりなど……私が彼の体をいただく前に、自分の体を張って彼の胃袋を満たした。
 ポットデスに茶菓子を用意したり、寄り代としているポットを磨いてあげたりと、手間をかけてあげると徐々に私のことを信頼してくれるのがわかる。

 タイプも卵グループも食性も、何もかも違うポケモンを一度に愛するのはとても骨が折れる作業だ。特に、大型のトロピウスは体を洗ってあげるのも一苦労だが、グルーミングをしてあげれば長い首を寄せて私にこすりつけてくるなど、言葉がなくてもわかるような親愛の仕草を見せてきて、思わず私も抱き返してしまうほど。でも、トロピウスだけ抱いていると嫉妬されてしまうので、足元に寄ってきたマホイップを撫でたりキスしたり。ポットデスのことは抱きしめて息を吹きかけたり。そうやって三匹と絆をはぐくむ生活は疲れるし、生活費もギリギリな反面、満ち足りた生活だった。

 だけれど、絆をはぐくむだけではまだ足りない。あの映画の中で、主人公の女性は男と散々セックスをしていた……倫理観だとか、そんなものをぶったぎって、セックスの一つもできないことには、ポケモンへの愛情を語るなんておこがましいとすら思う。真剣に愛して、愛して、愛してやまない。そんな存在を食べるからこそ興奮し、気分も昂揚するのだ。
 それに、トロピウスが首に実った木の実を渡すのも、マホイップが自身のクリームを食べさせるのも、ポットデスがお茶を差し出すのも、全ては信頼できる相手にのみの話だ。頼めば譲るぐらいじゃ物足りない、自分からそれらを差し出したくなるほどに、私も信頼されなければ。
 一方的じゃなく、愛し、愛され、両想いのほうが絶対に気分は昂るだろう。そのためには、この町がジャングルだったころから変わらない愛の形*1を差し出すのが一番の方法だ。
 ……なのだけれど。私はポケモンのことは詳しくない。フィーリングでバトルをさせたり、ポケパルレのようなことをするのがせいぜいなので、ポケモンの交尾のことなど知らない。インターネットでも、ポケモンの交尾などそこまで詳しく乗っているわけではないので、わざわざ大学の図書館で詳しく乗っている本を探す羽目になってしまった。

 その本によれば、トロピウスの雌が発情期になり雄を誘う際には甘い果実の香りを漂わせるといいとか。それに関しては、リンゴのしぼり汁を使って体に匂いをつけたので、これで雄を誘えるだろうか?。その次は大きな葉っぱの翼で雄を包み込むように撫でるのだとか。全身を使って彼のことを撫でると、彼は何かいつもと違う反応をしているように見える。そして、次は雄の周りを翼をパタパタしながら回る。彼のことを撫でながら周りをまわってみることで、雄として無視できなくなるらしい。しかし私は全裸で何をやっているのだろう?
 さらに、彼の首の果実をつんつんとつつく。これはつまり、交尾をするからその果物を頂戴という合図である。どんなポケモンにとっても、食糧というものは重要な通貨だ。それは自力で光合成をして大した食料を必要としないトロピウスでも同じことのようだ。こうして食糧をねだってみて、雄が食糧を差し出すと、それは『交尾しよう』の合図のようだ。そうやって本で見たトロピウスの誘い方を何とか真似してみると、本当にトロピウスが首からぶら下がった木の実を翼でもぎ取り、差し出してきた。これを受け取ってしまえば、もう逃げられない……いいや、逃げる必要なんてないのだ。この子たちと知り合ってからもう一年たっている。トロピウスは移動手段として十分に私の役に立ってくれたし、体調が悪い時はアロマセラピーで私を癒してくれたりもした。
 私が体を寄せれば、この子も応えるように体を寄せてくれるし、自分のサイズも考えずにベッドで一緒に寝ようとして来たり、ちょっと迷惑なところもあるけれど人懐っこくていい子だ。
 そう、これは相思相愛……常識に囚われてセックスを恐れるよりも、この子を入り口にして愛の壁を乗り越えたい。トロピウスが心配する前に、私は彼から差し出された木の実を受け取り、加護の中に大切に置いた
 彼の体重は100キログラムほど。持ち上げられない体重ではないが、やはりのしかかられると体格差に圧倒されて危険である。なので、トロピウス流の交尾は難しいだろう。だが、ポケモンは時に異種族とも交わる必要があるため、必要とあれば交尾の仕方も千変万化で変えられる。私がリードしてあげれば、私に合わせてくれるはずだ。
「ねぇ、モナカ。ちょっと、床に寝転んでくれるかな? 私が気持ちよくしてあげるから」
 モナカ……トロピウスの脇腹を軽く押しながらそう声をかけると、彼は私の意図を理解してくれたのか、ごろりと床に横になってくれた。彼の股間を覗いてみると、すでにそそり立つナナの実のような立派なイチモツが。トロピウスはその巨体ゆえに外敵も少ない。交尾中、無防備になっても危険が少ないように空を飛んで見晴らしの良い場所へ移動できるため、比較的落ち着いて交尾が出来る種族だという。そのためか、一度の交尾にかかる時間は割と長めの30分ほど。頑張って付き合おう。
 床に横になった彼のペニスに触れると、鼻を突くような匂いがする……濡らしたタオルとウェットティッシュできちんとふき取ってもまだかすかに匂いがするのだが、積み重なった悪臭は大分ましになったろうか。それよりも、交尾に備えたトロピウスの特有の香りとでもいうべきか、虫が好きそうな甘ったるい匂いがするのだ。
 トロピウスの交尾について調べた本では、本種の精液は特徴的な刺激臭がするが、甘みとうま味と栄養が大量に含まれているために、東南アジアではわざわざ精液を絞って飲む事も行われていると書かれていた。なるほど、甘酒を思わせる匂いだ。まだペニスの先端から一滴だけこぼれているにすぎないが、それでもそれなりの匂いがする。トロピウスを飼い始めた目的は首の果実なのだけれど、こうして実物を目の前にしてみると、精液の味というのも少しだけ気になってしまう。
 モナカのペニスを、ローションで滑りを良くしたゴム手袋で包み込む。触れられたことで彼はピクピクとペニスを脈打たせている……恐らくはこれでいいのだろう。そして、ゆっくりと彼のペニスを扱くと、こちらを覗く彼の目が期待に満ちたまなざしになっていた。もどかしいのだろうか、それともちょうどいいのだろうか、わからないのでスピードや握る強さなど、少しずつ反応を見ながら探ってみる。どうやら彼は気持ちいい時は特に脚がピンと伸びるようなので、それを目安にスピードと握る強さを決める。強く握ると痛いのか、あまり強い力で握りしめると嫌がるようなそぶりを見せた。スピードが速すぎるのもあまり好みではないらしい。疲れない程度に握り、疲れない程度に前後に動かす。これでモナカは満足してくれるようだ。先走りの体液が少しずつ流れてくる。花の蜜と甘酒を思わせる香りは徐々に強くなってきて、換気扇がなければむせかえってしまいそうだ。
 モナカの脚や下半身の様子を見ると、少しずつこわばりが強くなっているのがわかる。表情も、段々と余裕がなくなっているような。握っているペニスからは、心臓の鼓動がダイレクトに伝わってくるかのようにピクピクと脈動している。人間のものすらこんなに間近で見たことないのに、私は一体何をやっているのか……けれど、このペニスに惹かれてしまう自分がいるのも事実だ。相手が人間じゃなくても、雄であれば本能的に求めてしまうのが女のサガなのか……それとも私が物好きなだけなのか。
 やがて、彼の脚が空を切りるようにバタつく。胴体が曲がり、あっと思った頃には彼は射精していた。脚が空を切ったのも、胴体を曲げたのも、トロピウス同士で交尾をしたら、あの体勢で射精をするからなのだろう。寝転がっていてもこんな体勢を自然にとってしまうだなんて、体というのは不思議なものだ。勢いよく飛び出た精液はほとんどが床に飛び散ってしまったが、手についたものを舐めてみると、甘くて、濃厚で……甘酒のような匂いと味、しかしながら、うま味や脂肪分は、売店のスムージーよりも濃いかもしれない。確かに、これを愛好する者がいるというのもおかしい話ではないのかもしれない。
 モナカは射精の余韻が覚めると、私の事を愛おし気に甘噛みしてくる。甘い匂い彼の唾液がべっとりとくっついてしまい、風呂に入らないと連鎖的にそこら中汚れてしまいそうな感じになってしまったが、何だか大切にされているようでこっちも達成感がある。彼の頭を撫でてあげると嬉しそうに顔を押し付けてくるので、もっともっと撫でてあげたくなり、いつまでも終わらなくなってしまうのであった。いや、早く風呂に入らなきゃ。

 さて、お目当ての首の木の実を手に入れたわけだけれど……この木の実が熟す前に、ポットデスとマホイップと仲を深めておきたい。当然、今までの日々の中で私達は仲を深めていた確信はある。名前を呼べば来てくれるし、撫でてあげると喜ぶし。さらに、どちらにも私の生命エネルギーを分け与えているのだから、頼めば二人とも、お茶やクリームを分けてくれる。ただ、やっぱりそれだけじゃなくって、本気で、何もかも許せる、さらけ出せるような仲になってこそ、体液の譲り合いも興奮度合いが増すと思うのだ。
 トロピウスとは、あの時の一回だけじゃない。まだ木の実が生え変わる前に、追加で二度彼と体を重ね、愛を確かめ合った。私は木の実を貰えることは嬉しいけれど、木の実が欲しいから交尾のまねごとをしているんじゃない。彼が喜ぶ表情を見ていると、本当に楽しくて愛おしくて仕方ない気分になっていたように思う。ポットデスともマホイップとも、それくらい愛し合えるように、きっとなれるはずだ。
 そうと決まれば、次はポットデスと仲良くならなければ。ポットデスと交尾する方法だが……ポットデスは、飲み残しのカップの中に体液を注ぎ込むことで、それがヤバチャになると言われているが、それは実は正確ではない。
 ポットデスは、ヤバチャを増やすためには二匹のポットデスの体液を混ぜる必要があるのだ。本来、ポットデスは人間が存在しない野生下では、生き物の白骨化した頭蓋骨に体液を注ぎ、それをカップ代わりに……いや、カップが頭蓋骨代わりだったのだ。頭蓋骨に二匹のポットデスの体液が注がれることで、それがヤバチャになるという、まさにゴーストタイプらしい生態をしていたのだ。ランセ地方のノブナガは、南蛮人と取引するうちにポットデスの生態を知り、頭蓋骨を杯にするという発想に至ったのだという俗説もある。
 ポットデスが飲み残しのあるカップに自身の体液を注ぐのは、それが仲間の体液だと勘違いしたため。しかし、そうして注がれた紅茶入りの体液に、さらに別個体のポットデスの体液が加われば、やっぱりヤバチャが産まれるのだ。本来は人間の生活圏で生きることなどなかったポットデスが人間の生活圏に入り込み、頭蓋骨ではなくカップに体液を注ぐようになったのは、紅茶の茶葉が、雑草や落ち葉などと比べて美味しかったからというのもあるが、そうしたガラル人の飲み残しの存在が、人類との共存を加速させたのである。
 そんなポットデスとの交尾の方法だが、彼らは交尾をしない。生殖に交尾という方法を取らないのだ。だが、やはり仲の良い個体同士が示し合わせて子供を作ろうとする繁殖行動というのはあるらしく、今回はそれを実行してみようと思う。

 まずは、部屋の中に紅茶用のカップを用意する。
「ペコ、出ておいで」
 そして、ポットデスのペコをボールから出し、彼の事を一取り撫でたり口づけしたりと、可愛がってあげる。そうして盛り上がったところで、私は常温でも成分を抽出できる茶葉を口に含むと、口の中で唾液と混ぜてその成分を抽出する。その光景をじっと見つめているペコの前で、私は口の中からカップへと赤く染まった唾液を吐き出した。どろりと滴り落ちる色のついた唾液を見て、恐らくはポットデスの本能がうずいていたのだろう。彼もここから何をするべきかわかっているようだ。彼は私のしたことの意味を理解して、同じカップに自身の体液を注ぎ始めた。ごめんね、私がポットデスだったら、このカップの中にヤバチャが生まれるんだけれど、さすがに人間の唾液からはヤバチャは生まれない。けれど、彼はそのことを理解しているのかいないのか、しばらくの間カップを凝視していた。しかし、待っていても何も起こらないとわかると、私の元にふらふらと寄って来て、私に甘えてきた。
 体液をたくさん出したので疲れてしまったので、彼はとても眠くなったのだろう。抱きしめて撫でているうちに、彼は寝入ってしまうのであった。今のうちに、お茶は飲んでおこう……長く放置していると、衛生的にまずいし、万が一ほかのポットデスが来てヤバチャが産まれるのもなんだし。でも、疲れたら私に体を預けてくれるのも、私と子供を作ってみたいと考えてくれるのも、とても嬉しい……そんなペコから、こんな形じゃなくもっと心がこもった状況で体液を貰えたら、最高に興奮できる気がする……

 さぁ、最後に仲良くなるのは、マホイップだ。マホイップは雌しか存在しない種族ゆえに、その交尾の方法は自由自在だ。人間でいうならば新生児ほどの大きさしかないマホイップという種族だが、雄が存在しない関係上、さすがに無理だと思うような男性器も容易に受け入れられるのだという。とはいえ、私は元々男性器など持っていないので、その点に関して心配することはない。心配することといえば、マホイップが私と愛の営みをしてくれるかどうかである。
 マホイップの繁殖は、多種多様なオスに合わせて行われる。冬に子育てを始めたいがため秋に交尾をする種族だろうと、夏に子育てを始めたいがために春に交尾をする種族だろうと、対応できるように体が出来ているのだ。とはいえ、雄が交尾に誘うにも作法がある。まずは彼女が満足するくらい、大量の食べ物を与えてあげることだ。普段は一日に一個のオレンの実程度でも満足するマホイップだが、彼女らと交尾をしたいと思った雄は、食べきれないくらいの木の実を用意してあげなければならない。その大きさは、マホイップの半身が隠れるほど、というのがある程度の基準であるそうだ。
 なので、彼女にはオボンの実を五つ差し出した。大量の食料を前に嬉しそうなマホイップの前で、私はおもむろに服を脱いで全裸になる。私が全裸になる必要はないような気もするけれどまぁ、これも気分を盛り上げるためだ。私は一糸纏わぬ姿になると、撫でてほしそうな目で見ているマホイップを抱き上げ、ゆっくりしっかりと撫でていく。
「ベル。今日はあなたと一緒に特別な遊びをしたいの」
 彼女に声をかけながら頭を撫で続ける。彼女はこうやって頭を撫でられるのが好きだ。木の実と愛撫で機嫌がいいうちに、畳みかけておくのがいいだろう。撫でる手を、徐々に下へと移していく。頭から後頭部へ、後頭部から背中へ、背中から腹へ、腹からお尻へと。
「ベルは私のこと好き? 私はベルのこと、とっても大好きだから……もっとお互い好きになりたいな」
 優しく語りかけながら彼女の生殖器にチョンと触れる。深爪にしておいたから、痛くはないはずだ。初めて触られる場所だけに、彼女は体をこわばらせて警戒をしていたが、体は逆に疼き始めているようだ。痛いわけでもないのに体を揺らし、そわそわと落ち着かない様子が抱いている腕から伝わってくる。
「緊張してる? 大丈夫、怖いことはしないよ。もっと楽にして」
 優しい言葉をかけながら、焦らすように股間を撫で続ける。緊張を保ち続けるのは難しく、しつこくずっと触られていれば、疼きはもっと強くなる。警戒心は徐々に薄まり、逆に疼きはどんどん増すばかり。天秤が疼きのほうに傾くと、彼女は私のほうに向きなおって、小さなお手手で私の腕を抱いてきた。まるで赤ん坊のような可愛らしい仕草だけれど、マホイップの体はこれでもう大人である。いつもは眠っている性欲だが、こうして触れることで性的な快感に目覚めていく。傷つけないようにゆっくりと彼女の性器を揉み解し、擦り、こねくりまわせば、彼女の体はそれを喜んでくれるのだ。
 そんなマホイップの特徴的な交尾の方法として、回転するというものがある。進化するために回転が必要なマホイップだが、交尾の時にも回転をするのが彼女たち種族の特徴らし。やり方は雄の上にまたがり、いわゆる騎乗位というものをしながら回転するのだとか。生クリームが絡み付き、摩擦でほのかな熱を帯び、そのうえで彼女の柔軟な肉体が程よく締め付けながら男性器に刺激を与え続ける。世界は広いもので、マホイップと交尾を楽しむ人間もいるのだが、そういう人たちの証言によると、回転式オナホールのようでとても気持ちいいらしい。私は最初は小指で、今は人差し指と中指を使って彼女の膣を愛撫しているが、この状況で回転なんてされたら一体どうなる事やら。生憎私は男じゃないので、その気持ちよさとやらは理解できずに終わりそうなのが少し残念だ。ぐいぐいと指でマホイップを気持ちよくしていると、彼女も気分が乗ってきたらしい。私の抱擁を解くように軽く手足を動かした後、彼女は私の手の上で回転し始めた。
 体験談通りだ。マホイップは私の指を回転運動で刺激し、その摩擦熱で室温程度だった彼女の体温が、少しずつ生暖かくなっていく。そんな生クリームのおかげで、指にまとわりつく刺激はどんどん粘っこく、強い刺激なのに痛くない不思議な感触になっていく。刺激の質がどんどん変わっていくのを感じて、今だけは自分の性別が女性なのが恨めしく感じるほどだ。そのうち、彼女の体液は胎内だけでは抱えきれなくなったのか、軟質化したクリームがどろりと彼女の胎内からあふれ出している。とても淫靡な光景なのだが、漂ってくる匂いが甘くておいしそうで、何だか食欲まで湧いてきてしまった。
 そうこうしているうちに、マホイップの膣内が強く締め付けられる。どうやらイってしまったらしい。回転も止まってしまい、胎内がピクピクと脈動している。
「お疲れ。どう、気持ちよかった?」
 生憎私はそこまで楽しむことが出来なかったけれど、マホイップの顔が満足気なので、それだけでも私までつられて笑顔になってしまう。事が終われば満足したようで、彼女は私の腕の中ですやすやと眠ってしまった。お疲れ様、体を拭いたらボールの中に入れてあげよう。

 そうして、無事三匹と仲を深めた私は、その体の一部をいただいてみることにする。ここに至るまで一年かけた……長かったけれど、長年の夢をかなえるためと思えば、準備期間は短い方だったのかもしれない。まず、トロピウスのモナカからもらったナナの実、これの皮を剝いてから軽くココナッツ油で揚げて、水分を飛ばしつつ甘みと脂肪分を増やす。ただでさえ美味しい、愛情たっぷりに育てられたトロピウスの木の実を、さらにおいしく加工したのだからこれは期待が出来る味だろう。
 そして、次はクレープを焼く。マホイップのクリームとトロピウスの木の実を合わせるならば何がいいかと考えた結果、ケーキというのも考えたが、二匹からもらったものを食べるにあたって、なるべく余計なものは少ないほうがいいと私は考えたのだ。その結果、パフェかもしくはクレープという結論に落ち着いた私は、クレープを作って楽しむことにしたのである。クレープ用の粉と牛乳、卵、バニラエッセンスを混ぜ、熱したフライパンにバターを落としてクレープを焼く。バターの香ばしい匂いが漂ってきたところで材料を投入し、熱されたそれはすぐに固形化してクレープとなる。それを慎重に剥がし、乾いた大皿の上に置く。
 あらかじめマホイップからもらったホイップクリームをクレープの上にどっさりと置き、チョコレートソース、先ほど軽く揚げたナナの実、チョコスプレッド、砕いたコーンシリアルでデコレーションを行う。チョコとクリームとバニラとバター、いくつもの匂いが合わさって暴力的なまでに食欲を奮い立たせてくる。
 生クリームには塩を少量混ぜた。塩キャラメルをはじめとする塩スイーツ……スイカに塩をかけて食べたりするように、少量の塩は甘みを引き立てる効果がある。使うのは美味しいと評判のキョジオーンのシオン13歳♀*2の塩をおろし金で粗く削って混ぜ込んでいく。
 そしてさらに、ポットデスには体液をカップに入れてもらった。事前にギガドレインをさせたので、これでギブアンドテイクである……おかげで今、クレープを作っているだけで体がヘトヘトだが、疲れている時は甘いものが美味しく感じられるものだ。だから、今のコンディションが食事を楽しむうえで最強だ。
 さて、盛り付けを終えたところで、最後にクレープを畳んで包み込んで完成だ。
「……いただきます!」
 手を合わせ、椅子につき、私は愛する存在の体の一部をありがたくいただく。まずは一口……ほおばるとともに、口から鼻へと香ばしい匂いが広がっていく。甘い香りはもちろんなのだが、ココナッツオイルで揚げたナナの実に含まれるほのかな苦味、当然チョコレートの苦みもいいアクセントになっている。砕いたコーンシリアルがサクサク感を演出し、二口食べるだけで幸せが全身に満ちてくるようだ。トロピウスもマホイップも、幸せな気分でいるほど生み出す食料が美味しくなるという。この味は私が愛し、愛された結果であると思うと感慨深い。
 さぁ、次はポットデスからもらったお茶だ。信頼しているトレーナーには味見をさせてくれると言われるこの紅茶、実は生殖の他にもいろいろな用途がある。無理やり相手に飲ませて毒のような作用を及ぼすなんて使い方もあるが、元気のない仲間に元気を分けてあげるという使い方もある。今カップの中に注がれている紅茶はそのためのもの。ポットデスが私のために丹精込めて抽出したその体液を、電子レンジで湧かせて熱々にしたことで、湯気とともに香りが立ち上ってくる。これが、クリームの香りと合わさるととてもいい香りなのだ。
 熱々なのは、香り以外にも意味がある。熱々なので、ゆっくりと飲まなければならない。甘いクレープは美味しいのだが、一番おいしいのはやはり一口目。その後は、何度も口に含んでいるうちに、舌と鼻の感覚が鈍くなり、甘みを十分に感じられなくなってしまう。だから、熱々の紅茶で舌を洗い流し、ゆっくり時間をかけて鈍くなった味覚と嗅覚をリセットするのだ。この日のためにポットデスの餌を高級な茶葉に変えたおかげで、鼻腔を通り抜ける香りは、とてもすっきり爽快だ。わざわざガラルのブロガーが選ぶ、目的別でポットデスに食べさせたい茶葉を読み漁った事は無駄ではなかった。
 こうして、口の中を洗い流した私はもう一度クレープを口に含む。あぁ、幸せだ……カロリーの暴力なので、一食で二食分くらいの罪を背負ってしまうことになるけれど、今日だけは許されてほしい。愛し、愛されたポケモンの体を食べる罪に比べれば、太ってしまう罪なんて些細なことじゃないか。ポケモンたちが見守る中、完食すると途端に眠気が襲ってきた。ポットデスにギガドレインをされたうえに、血糖値が上がりまくって眠くなっている……はぁ、本当は歯磨きしなきゃなんだけれど、もういいかぁ。寝よう……


 しかし、昼寝から起きて冷静になった私は思う。いや、確かにおいしいし、愛し愛されたポケモンの体の一部を食べることは、とても気分が高揚した。でも、そうじゃない! いや、三匹から貰った体の一部というか、体液は出すのに命を削ってはいるものの、その削り方は微々たるもので、そんなものはミルタンクのモーモーミルクやラッキーの卵を食べるのとそんなに変わらないではないか! ……やっぱり、肉だ。食べるならば肉! この子たちが悪いわけじゃないが、今度は肉! ポケモンの肉を食べたい。そのためには、今持っているポケモンじゃダメ……なのだけれど、これ以上は家計が……と、私は困っていた。
 お金の問題が解決されるのは、そのすぐ後のことであった。
「教授! ポケモンの飼育が経費で落ちるって本当ですか!?」
 そのニュースは私達の学科内に瞬く間に駆け巡り、今日はその説明会が行われる。
「あぁ! 我々の研究に多くのスポンサーがついてな。ポケモンバトルが研究に必要ならば、回復装置やポケモンバトルそのものが円滑に行えないことには、研究も進まないと判断されてな! なので、これからは申請すれば一人につき6匹までのポケモンの食費及び治療費、予防接種費が無料になるぞ!」
 教授から告げられた朗報に、同じ研究室の仲間は湧きたった。私も、これで新しいポケモンを飼えると、内心でガッツポーズだ。
 そうして、新しいポケモンを飼う目途が立った私は海岸へ赴きヤドンを捕まえた。このヤドンというポケモンは尻尾が美味しいことで有名だ。ジョウト地方では一時期ロケット団による密猟が問題になっている等のこともあったが、アローラやパルデアでは生態系を壊さない程度に尻尾を採取されており、家庭の味として親しまれているとか。
 そうして捕まえたヤドンに変わらずの石を持たせ、私は今までの三匹と同じように愛情を与え続けた。ヤドンは捕まった直後こそ私のことを警戒して水をかけてきたり念力で威嚇するなどの行動があったものの、私が餌付けをすると手のひらを返したように私に懐いてくれた。そんなんでいいのだろうか?
 痛覚に関しても割と鈍感なので、家の中で寝そべっているところを踏んでしまっても、驚いて声を上げることもしない。床に寝そべっているマホイップを踏んだらめっちゃ怒られるのに、こいつは鈍感なので間違って踏んでも怒られることがないのは助かる。
 そんなヤドンだが、餌付けをしただけで懐くとはいっても、どうやら警戒心を解いただけであって私のことを好きになったというわけではなかったらしい。何故それがわかったかといえば、彼が私に甘えるようになったのは、出会ってから二ヶ月以上たってのことだからだ。それまでは、『エサくれるから適当に仲良くしておこう』くらいで、そっけない態度を取っていたのだけれど、今は撫でられたり構ってもらえることを嬉しく思ってくれているようだ。まだバトルは苦手なようなので、夏の泳げる季節は泳いだり、念力を利用するといった形で遊んでみたりする。戦わないとあんまり研究に必要なエナジーが集まらないので、この子を経費で落とすのは少しばかり罪悪感があるけれど。
 ふと、彼の尻尾を掴んでみたら、尻尾が取れてしまったこともあったが、それを特に咎めるどころか気付くことすらなかった。鈍感というのは本当なのだと感心する。せっかくなので、軽く塩を振ってフライパンで焼き、垂れた油はチャーハンにして食べてみた。甘い……肉なのに甘く、その油は濃厚。コメの一粒一粒に命が宿ったかのようにおいしい。思いがけず食べることになってしまったが、クレープを食したあの時のような高揚感はあまりない。最高の気分でヤドンの尻尾を食べるには、もっと愛し、愛されることが重要だ。
 そのためには、やっぱり昔ながらの愛を深める方法が一番いいのである。変わらずの石で進化はしていないが、ちゃんと体は大人に成長している。シェルダーがついていないから知能のほうが成長しているかは少しだけ怪しいけれど、何とかなるはずだ。まずは水浴びが好きなヤドンのために、彼をお風呂に入れてあげる。おとなしいポケモンだし、特に尖ったパーツなんかもないので、お風呂に入れるときは私が全裸でも問題ない。お風呂の床に彼を寝そべらせ、38度ほどの程よい温度のお湯で体を濡らしてあげると、ヤドンは「やぁん」と鳴いて嬉しそうだ。シャワーを浴びながら体を撫でるのは慣れた行為であるため、ヤドンもこの時点ではこれから何をされるかわかっていないようだ。まぁ、これから、風呂に入るたびにこのことを思い出されても困るので、きちんと条件付けをしておかねばなるまい。ヤドン種の発情の条件は、ヤドランであってもヤドキングであってもシェルダーがカギになっている。まず、雌が相手のシェルダーに触れて、毒素の注入を促すのだ。この子にはシェルダーがついていないので、発情を促すのが無理かと言えばそんなことはない。
 このエオス島で発見されたエナジーを使うことで、メガシンカ以外にも一時的な進化や退化を行う事が出来るのだ。最近、うちの大学ではそのエナジーを利用した新しいバトルの形式を試行錯誤しているらしく、ポケモンバトル協会や各種道具メーカー、ネット配信会社をスポンサーにつけようと必死だ。それを使えばダンバルやヒバニーを一瞬でメタグロスやエースバーンにすることもできるし、逆にエースバーンをヒバニーにすることもできるという。
 それを使えば……ヤドンをヤドランに変えることも容易である。しかし、こうやって進化する場合、シェルダーはどこから来るんだろうか……? いや、それを言っちゃうとメタグロスは四匹のダンバルが合わさって進化するポケモンなので、同じことを言う必要になるのだが。あと、ウッウが使うサシカマスや、ドラパルトが頭に住まわせるドラメシヤも無から生み出すことができるとか。
 ともかく、エナジーを利用してヤドンをヤドランに進化させる。釣りをしていたわけでもないのにシェルダーに噛みつかれ、いつの間にか進化してしまったヤドンは非常に戸惑……わない。鈍感すぎて戸惑わない! ともかく、それならそれで構わない。尻尾についているシェルダーを押したり小突いたりで刺激してやると、尻尾に噛みつくシェルダーが反応を示してくれた。実際に目にしてみて思う……あんたどこの誰なんだ? どこから来てどこへ行くんだ!?
「フール。どんな気分? 頭がすっきりして、いい気分かな?」
 ともかく、それでシェルダーの毒を注入されることで、ヤドランの脳を活性化させることにつながる。そうやって脳を活性化させたところで、雌は雄をぎゅっと抱きしめる、口づけする等のスキンシップを積極的にとり、また間髪入れずにシェルダーを刺激する事で毒素を注入させ脳を活性化させる。それを繰り返すことでヤドン種の発情を促せるのだ。これは、ガラル地方に生息する毒・エスパータイプとなったスパイシーなヤドン種でも変わらない性質だ。
 さぁ、これによって発情を促すことはできるのであろうか? 本来ならエナジー研究の一環で論文を書くべき内容なのだが、いかんせんこのことを世間に公表するのはとても恥ずかしいのが難点だ。しばらくこれを繰り返すと、フールの目の色が変わる。
「どう、フール? あなたも、いい気分になってきたかしら? 私を押し倒したり、めちゃくちゃにしてみたり、したくない?」
 話しかけてみると、フールは目がキリリとした顔になる。シェルダーの毒が頭に回り、一時的に頭がはっきりしているおかげだろう。そのおかげだろうか、彼の思念が漏れて頭の中に声が聞こえてくる。まさか、シェルダーの毒素でテレパシーが使えるようになるだなんて……
『待ってくださいご主人様! 私達はポケモンと人間であり、交尾をしたところで子供は出来ません! お誘いはありがたいのですがこんなことはまち……なんだっけ……? まぁいいや、きもちいいことしたい……』
 一瞬、ヤドランから物凄くまじめなテレパシーが伝わってきたが……大丈夫なのだろうか、これ? まぁ、多分大丈夫だ。シェルダーの毒の効果は一瞬だと聞いていたが本当に一瞬だ。テレパシーも一瞬しか使えないようだが、とりあえずヤドランが興奮していることは間違いないし大丈夫だ、多分。
 フールは進化したヤドランの体で、私に対して今までにないくらいに甘えてくる。バスルームの床に私を優しく押し倒し、ひんやりとした白い腹を私の腹に重ねてくる。すでに下半身は少しずつ肥大化しており、徐々に交尾への準備が出来始めているようだ。
 ヤドランの交尾は数時間かかると聞く……今までのポケモンとはサイズが両極端だったがために、ちょっと交尾が難しかったが、ヤドランとならきちんとした交尾もできるかもしれない。動作はゆっくりだから、雄が焦って私が痛い思いをする心配もないだろう。私を押し倒したヤドランは、私の秘裂にペニスをこすりつける。その動作が本当にゆっくりで、一往復に4秒ほどの時間をかけている。彼にとっては普通のペースなのかもしれないが、自分でするときよりもずっとゆっくりだ。いつもはレポートだったり、授業の復習や予習だったりで時間に追われている私だけれど、今日は一日中時間を使えるから、このくらいの焦らされているようなペースでちょうどいい。こっちのほうが長く楽しめるし、心がとっても落ち着いて、満たされるんだ。
 いくらのんびりしたポケモンでも、握力はなかなか強い。これでも手加減しているのだろうけれど、逃げようとしても振り払うのは難しそうだ。それとも、嫌がっているそぶりを見せたら案外離してくれたりするのだろうか? 長い時間だ、トイレに行きたくなったらヤドランに手を放してもらえるように試してみるべきか。そんな風に集中していないのがわかっているのかいないのか、ヤドランの指の動きで意識がそちら側に戻された。ヤドランは、自身のペニスを私の体にこすりつけていたが、今度は挿入したいらしい。くすぐるように先端が私の割れ目を撫ぜていたが、やがてきちんと狙いをつけて、ぐい……とペニスを突き入れてきた。
 挿入したのは先端だけだ。先っぽだけだからとかうそぶいている世の中の男たち(そんな男が実在するのかは不明だが)に見習ってもらいたい。自分の痛みには鈍感なくせに、私の痛みに対しては最大限気遣っているようで、彼のペニスが私の膣を押し広げる際、痛いと感じる前にひっこめてくれる。のんびりしたポケモンなだけあって、その手つきは慎重かつ繊細だ。ゆっくり時間を使ってくれるっていいなぁ。それにしても、こうやって抱かれていると、大切にされているようで心が満たされる。
 セックスすると分泌される脳内物質……ドーパミンとオキシトシンが少しずつ私に馴染んできたのか、間抜け面をしたポケモンだなぁと思っていた、ヤドランの顔が、どんどん愛おしく見えてくるのだ。抱きしめて離したくなくなるような、この一瞬が永遠に続いてほしくなるような。
 ヤドランが甘いのは尻尾だけでなく、この交尾のひと時まで甘い。少しずつ少しずつ、0.1ミリメートルずつ、彼のペニスが胎内へと滑り込んでくる。人間の雄には中々真似できないであろうこのじれったいくらいの慎重さがありがたい……っていうか、処女の喪失がこんなヤドランでいいのか、私。
 意外なことに処女膜が破れたからと言って血液が出ることもなく……あぁ、マンガの知識は本当に当てにならないんだなぁと実感しながら、私はヤドランに身を任せる。ひんやりとしていた彼の体は、興奮と運動のおかげだろうか、少しだけ生ぬるくなっている。相変わらずその表情に必死さは見られず、ぽかんと口を開けたままの間抜けな顔。だけれど、私を掴む指の力が、心なしかさっきよりも強くなっている気がする。それに、私の体も少し熱くなっている。体から力を抜いていられなくなって、体を縮めるか、もしくはもいっきりのけぞらせるか。力を入れていないといられなくなるような。体が必要以上にもじもじしたくなってしょうがない。
 自分で致すときはこんな緩やかに体が盛り上がることなんてなかったから知らなかったけれど、ゆっくりじっくりとやられると、こんな風になってしまうのだ。気付かないうちに出来上がって、気付かないうちに止まれなくなる。たまらず、私も彼のことを掴み、求めるようになってしまう。長丁場の戦いになるから、強くしがみつくようなことは無理だけれど、それでも、密着していないとなんだか体がうずいて仕方がなかった。私のこの疼きが伝わったのか、ヤドランは私のことをサイコキネシスでふわりと持ち上げてくれた。全身をサイコパワーで包まれ、心地よい。全身に力を加えられて浮いているから、気分は水中にいるかのようだ。それでいて呼吸は当然阻害されることもなく、心地よく彼に抱かれる。目を瞑っていても……いや、瞑っていたほうがよりヤドランことを強く感じられて、私は目を閉じながら彼の体を味わった。
 そんな心地よい時間を過ごしていると、下半身にジワリと訪れる違和感。ふと目の前のヤドランに目をやれば、彼は動きを止めていた。どうやら射精したらしい……いや、本当に処女喪失がこんなんで大丈夫なのだろうか私。初めてなのにきっちりと満足しちゃったし、こんなんじゃ人間とのセックスじゃ満足できなくなりそうで……でも、とても心地よかった。
 ふぅ、と息をついてヤドランは私を床に降ろした。すると、エナジーの効果も切れて、彼はヤドンに戻ってしまった……お疲れ。バスルームで営みを行ったので、このまま体を洗うのは容易だ。体を洗ったら、お互いに疲れたことだし、ゆっくり眠ろう。


「あらぁ、おいしそうなポケモンたちね。あんた、もしかしてポケモン食べてるんじゃないでしょうね?」
「違うよー、母さん! 偶然そうなっただけだって! ……いやまぁ、確かにちょっと美味しそうだけれどさ」
「そうなのぉ? でも、みんな可愛いから、衝動的に選んだらそういうこともあるのかもしれないわね。食べると言えば、あんたちゃんと食事は取ってるの? 野菜や果物はキチンと食べてる? カップラーメンとかジャンクフードばっかりじゃダメよ」
「自炊もしてるし、学食は栄養バランスが取れてるから大丈夫だよ。ちょっと待って……ほら、これ! 健康診断の評価いいでしょ!」
「あら、本当だ。ところであんた恋人はでk」
「聞くなぁ!」
 私は母親からの電話をぶった切る。ヤドンと体を重ねてから数日後……今日はいよいよヤドンを食べる日だ。塩で揉み洗いしたヤドンの尻尾の水を切り、天日干しにしながら扇風機で風を送って乾かし、それを輪切りにする。友人から借りた燻製キットに輪切りにしたヤドンの尻尾をセッティングし、ガスコンロの火を灯す。炎で温められた木のチップから溢れた煙で尻尾を香り付けすると、甘みと塩味、そして煙の香りが合わさって、それだけでも美味しそうだ。
 しかし、これだけではまだ不十分だ。燻製にした尻尾をフライパンに並べ、キャノーラ油を薄く引いてか表面を炒めると、ヤドンの尻尾からはどんどん脂が流れ落ちてくる。香ばしい香りとともにフライパンへと流れ出るそれを捨ててはいけない。フライパンに分厚い膜を張るほどに流れ出た脂は、揉み洗いした時にしみ込んだ塩や、甘い味が馴染んでおり、そのままチャーハンにしたり、ポテトサラダにしみこませるのが美味しいのだという。
  焼きあがったヤドンの尻尾はフライパンから上げて皿に盛る。燻製にして、表面を焼いたヤドンの尻尾の傍らにはカマンベールチーズや、キョジオーンのシオン14歳♀*3から採取した岩塩、味噌、マヨネーズ、七味を置いて、食事中の味変も簡単だ。そうしてフライパンの上に残った油に、大サジで掬った一杯をポテトサラダに。炊き立てホカホカの玄米を投入し、卵と混ぜ合わせながら炒める。サシカマスフレークの油漬け、太いネギ、グリーンピース、ニンニクと合わせて醤油と塩で味付けすると、もうよだれが止まらない。ポテトサラダは潰した男爵イモ、ニンジン、キュウリにマヨネーズと味噌を混ぜ、さらにヤドンの尻尾の脂と、ダイスカットした尻尾を和えた逸品だ。こちらも見るからにおいしそうだ。
 出来上がった三皿からはホカホカと湯気が立ち上り、そのすべてからいい匂いが漂ってくる。故郷から持ってきた純米酒を湯煎し熱燗にしたものを、スコヴィランの体液を一滴入れて辛口に味付け、私はいざ手を合わせた。
「いただきます!」
 一年かけて愛情を育て、二人で甘いひと時を一緒に過ごした愛おしいヤドラン、フールの体の一部。彼の体の一部であることを想像するだけで胸が高鳴る。まずは一口、チャーハンからいただく。甘い脂がたっぷりとしみ込んだ卵とご飯……これまた甘く香ばしいネギの香り。サシカマスのフレークがほのかな磯の香り、醤油が複雑な香りを感じさせ、湯気にのって鼻腔を幸せな香りで満たす。チャーハンを一口、口の中に放り込むと、それらの香りが最大限に満たされる。甘い脂の味と炭水化物、タンパク質が複雑に絡み合う。やはりカロリーの暴力はいい、最もわかりやすいうま味の体現方法だ。ネギのもいいアクセントになっている。
 そして、次はポテトサラダ。ホクホクのじゃがいもに、程よい酸味と脂っけのあるマヨネーズ、そして複雑な香りの味噌の味。それだけでも美味しいのだけれど、しみこんだヤドンの甘い脂の味が美味しい。真っ白い脂肪から漏れ出る脂は、如何にも太りそうな味がするのだけれど、今日だけは無礼講だ。一度純米酒を口に含み、辛口のそれで舌を一度リセットする。あぁ、とても幸せ……お酒も料理もとてもおいしい。
 さて、いよいよメインディッシュの燻製肉本体だ。脂っこいそれにフォークを突き立て、ナイフで小さく切り分けて口に放り込む。まずは塩だけで特別な味付けはせずに食べてみたら、甘い肉汁が舌の上に流れ出して、思わず肩の力が抜けてため息が漏れる。燻製の香り、普段の食事にするには濃すぎる塩の味、そしてヤドンの尻尾由来の甘い味。脳髄まで幸せに満たされる味で、私はこれを表現するにはちょっと語彙力が足りない。
 でも、とにかくおいしいのだ。脂っこいので口の中をすっきりするためにもお酒が飲みたくなる。熱々に熱して、ハバネロエキスで味付けた酒をゆっくりと飲むと顔が緩みそうになる。そのままでもこのお酒は辛口だが、スコヴィランのハバネロエキスで喉が焼けつく辛さを加えると、酒の進み方がかつてない。あんまり辛すぎると他のものが食べられないので一滴だけしか加えていないが、これぐらいが丁度いい塩梅だ。
 ヤドンの尻尾、食べたのは二回目だが、これは高級食材になるのもわかる。美味すぎて美味すぎて箸も酒も止まらなかった。

「ふぅ……」
 お酒を飲み過ぎてしまった私は、酔い覚ましのために、摂氏40度ほどに温めた白湯を大量に……ついでに、ポットデスの体液と、トロピウスの首から採取した上質な酔い覚ましキーの実を食べた。さすがに水を飲み過ぎて吐きそうになったが、アルコールはもちろんだが、塩分も大量にとりすぎてしまったのだ……これくらい水分を取らないと脱水症状になってしまいそうだ。しばらくは連続でトイレに行く羽目になるだろう。
 そして、食べている間はテンションが上がっていてあまり気にならなかったが、一つ気付いたことがある。
「これじゃ、体液と変わらない……」
 そう、愛しい人の体液より、愛しい人の肉を食べたい……そう思ったのはいいのだが、ヤドンの尻尾なんて元から平然と切れてしまう代物だ。それだと、やっぱりポットデスの体液とか、マホイップのクリームとか、トロピウスの木の実とかと変わらないのだ……そうなると、肉よりももっと命に近いところ……そう、内臓を食べてしまいたい。
 愛情を深め、体を使って愛を確かめ合い、甘いひと時を過ごし合った愛しいポケモンの内臓……あぁ、想像するだけで興奮する。今度こそ、今度こそ……幼少期に見た映画の主人公のように、愛しい人を食べてしまいたい。

 そういうわけで、私はまた海に繰り出した。この島はアローラと環境が近いこともあり、お目当てのポケモンはすぐに見つかった。
「ブッシ……」
「はぁ……可愛いなぁ……」
 海岸で見つけたポケモンはナマコブシだ。あまり動かないゆえに食費もかからないので、この子を飼うのにほとんど経費はかからないが、とりあえず大学のほうに経費の申請をしておいた。
「えっと、ナマコブシね……それにしても、なんというか君のポケモンたち、どの子もおいしそうだねぇ……」
 大学の事務員に申請すると、私のポケモンリストを見てそうつぶやく。
「え、そ、そうですかぁ!?」
「いや、そりゃ……日本じゃナマコブシも食べるんだろ? ヤドンも中国やアローラでは珍味って言われているし……ほら、君の故郷は日本だろ? 何でも喰うって噂っじゃないか。オクタンとか」
「えー、そんなことないですよー……」
「そうだっけ? コンニャクとかハリーマンとか、そういうのもとても食べられないような毒だったけれど何とか食べられるように工夫したって聞いたけれど。日本人ならそのうちレックウザでも食べられるようにしちゃうかもね」
「いやいやいや……さすがにあり得ないですよ。レックウザってこの島を外敵から守ってきた神じゃないですか。ウチの故郷でも、子供のころカイオーガとグラードンの戦いを止めたニュース、今でも覚えてるくらいですよ。そんな罰当たりなこと出来ませんて」
 大学の事務員の冗談に私は苦笑する。下手にレックウザの肉なんて食べたら地元で居場所がなくなりそうだ。でも、サンダーの肉は食べてみたいかもしれない……もも肉が美味しそうだし。そんなことを話しているうちに、事務員は私のナマコブシの情報入力終えてしまった。
「はい、登録したよ。研究はちゃんと進んでる? この島でユナイトバトルが始まってから、エオスエナジーが大量に手に入るようになって、研究もどんどん進んでいるんでしょ?」
「もちろんですよ! エナジーを利用した進化や退化の技術は再生医療にも応用できてですね! 場合によっては自然治癒することがない眼球や腕、内臓といった器官の再生も可能になってですね……あ、ただ今のところ再生治療が成功したのは元から再生力が優れたポケモンのみなのですが、そのポケモン特有のエナジーをリンさんが考案したポケモン生体膜抽出法によって……」
「わかったわかった。俺達は事務員で科学の事はさっぱりなんだ。でも、いい研究しているのはわかるよ。頑張ってな!」
「はい!」
 事務員に言われ、私は力強く頷いた。ヤドンの尻尾やトロピウスの木の実をエナジーで高速再生させて、沢山食べられないかと考えているというのは……あまり人に言えない。
 
 こうしてナマコブシとの生活が始まった。ナマコブシは基本的におとなしいポケモンで、家でのんびりしている時はヤドンやポットデスと一緒にいつもグダグダしているが、たまにマホイップにちょっかいを出されては、しぶしぶ遊びの相手なんかをしてあげている。最初こそ棘や口周りを触られるのを嫌がり、殴られていたマホイップだが、どこを触ると嫌がるのかを理解してからは殴られることもなくなったし、ナマコブシもマホイップとの遊び方を理解してくれたのか、お互いが仲良くするようになっていった。
 もちろん、私との関係も良好だ。ナマコブシの好物は粉末プランクトンなのだが、手の上に載せて食べさせても警戒せずに食べてくれるし、撫でると嬉しそうに甘えてくる。あんまり活発にはしゃぎまわることはないものの、気付けば隣にいてくれて、寄り添ってくれる。これから、こんな可愛らしい子を食べてしまうと思うと、やっぱり興奮してしまう……
 しかし、この子との愛の営みはどうするべきか。出来ることなら、私の全身全霊を持って愛したいと思う……セックス事体、私は自分のポケモンを持ち始めるまであまり興味もなかったが、自分が気持ちいいことはもちろん、ポケモンが気持ちよさそうにしているのが何よりも好きになってしまった。ポットデスが気持ちよくなっている自信がないけれど……でも、あの子はあの子で、あれからというもの私に対して積極的にお茶を飲ませてくれるようになったから、もしかしたら気持ちよかったのかもしれない。もしかしたら。
 だから、愛するため、愛されるために、体を重ねるというのはとても大事で、それでいてシンプルな手段なのだ。けれど、ナマコブシかぁ……ナマコブシと愛の営みって、何をどうすればいいのやら。
 野生下では海中で雄が放精したあと、雌が産卵するのだとか……。産卵なんて出来ない、どうしようか……? そもそも、ナマコブシは放精すると気持ちいいのだろうか? そんな問題が頭の中でぐるぐるとする。そもそも、雌の匂いを醸し出さないでも雄はきちんと反応してくれるのか……考え出したら止まらない。
 いいや、私はポットデスとも愛の営みをしたんだ。今更、ナマコブシごときで怯んじゃいけない*4。思い立ったが吉日、ナマコブシを誘う方法を考えるんだ!

 まず、私は海へと繰り出した。夜の海、浜風が吹き、人の喧騒も少なくなって静かな空の下。ナマコブシを海中に繰り出した。磯の香りが漂う中、私は水着で下半身を海水に浸からせ、ナマコブシをじっと見つめながら彼の体を撫でた。
「ねぇ、ぼたもち。貴方、子供を残してみたいとか、思わないかしら?」
「なかみぃ……?」
 色々考えた結果、私はナマコブシの前に、糊で簡単には流れないようにまとめたタピオカを置いてみることにした。雌の匂いの再現は、糊の中にエンニュートから抽出した香水を含ませておいた。見た目や匂いは卵っぽいから雰囲気だけでも味わえるかもしれないじゃないか。これは、そう……ラブドールだ。ラブドールがあれば人間の雄はエッチな気分になるという。ならば、卵っぽいものを用意すればポケモンもエッチな気分になるはず、間違いない。ポットデスにだって通じた手段だ、必ずいける!
「ぶっしぃ!」
 するとナマコブシはエンニュートの匂いを感じたのか、それとも見た目で判断したのだろうか。本能的に今がその時だと悟ったらしい。彼は肛門から白い靄のような精子を放出する。やった! 私の意図が伝わった……。やはり、ナマコブシも放精すると気持ちいいのか、体を震わせ目を細めている。
「どう、ぼたもち。満足した?」
 やはり、ポケモンが気持ちよくなっている姿を見るのはいい……癒されるし、何より達成感がある。彼も私の努力を感じ取ってくれたのか、私の膝の上に乗って頬ずりをしてくれる。うんうん、絆が深まったようだ……私もあなたのことが大好きだよ。
 だからこそ……あなたの命に近い場所を、食べてみたくなる。

 私は、大学の同期とポケモンバトルをして、初手でナマコブシを繰り出した。激戦の結果、私が辛くも勝利したのだが、ナマコブシは相手のタブンネの恩返しでノックアウトし、体から内臓を放出して力尽きてしまう。中々ショッキングな見た目ではあるが、ナマコブシが内臓を飛び出すのはよくあることなので全く問題ない。放っておいても再生するので、しばらく休ませてあげれば大丈夫だ。
 さて、私は飛び出してしまった中身を家に持ち帰ると、まずはそれを塩を入れた冷水で洗う。ナマコブシには事前に絶食させていたので、腸内に残った糞や老廃物は排泄されている。そのため、洗ってしまえばほとんど綺麗なものである。洗い終えたら水気をきって、たくさんの精製塩をつけて瓶に封入する。このまま二日程置いておけば、いい塩梅になるだろう。
 私はワクワクしながら二日間を過ごした。ナマコブシはその二日間でオレンの実を食べさせていたら、内臓が再生されていた。逞しいなぁ……
 そして二日後、私は良く炊けたご飯にナマコブシの内臓の塩辛を包み、バーベキューセットの炭火であぶって焼きおにぎりにする。表面に軽く焦げ目が付き、煙の臭いとお焦げの匂いがかすかについたところで、キョジオーンのシオン15歳♀*5の岩塩を表面に塗りこみ、パリッとした海苔で包み込んだ。
 味変のために、七味唐辛子とマヨネーズで味付けした塩辛をおにぎりに包み込んだり、ワサビと塩辛を一緒に包み込んだものもある。ううむ、匂いを嗅ぐだけでよだれが出てくる。ヤドンの尻尾も燻製にして生姜味噌や柚子味噌とともに皿に盛っており、脂っこいものを食べたくなったら、こいつを喰えばいい。
 尻尾を食べた時以来、ハマってしまった純米酒を熱燗にし、食後のデザートにクレープと、箸休めのポットデスの紅茶も準備し、お昼を抜いて腹も減らしたし、ポケモンと遊んで汗もたっぷりとかいた……準備は万端……。
「いざ、いただきます!」
 まずは一口。熱々の焼きおにぎりの表面にはざらついた塩。塩分不足を訴えていた私の体に効果は抜群だ。塩と米と海苔だけでもこれだけ美味しいというのに、内部に封じ込められたナマコブシの内臓は、かすかに発酵されて特徴的な匂いを醸し出しながら、熟成されたうま味と濃縮された塩味で、私の体を歓喜させた。口の中で何度も何度も噛み締めるたびに、濃厚なうま味がにじみ出る……。
 ものを食べるときは40回噛めというが、味が濃いおかげもあってそれが苦にならない……何回もおにぎりをかみしめているうちに、唾液に含まれるアミラーゼがコメのでんぷんを分解して、ジワリ広がっていく甘みがまた素晴らしい。
 七味マヨの塩辛おにぎりはさらに美味だ。七味の香ばしい香りにピリリと辛いトウガラシの味。そしてマヨネーズの油っ気が塩辛との相性は最高なのだ。今日だけ胃袋の容量を十倍にしたいくらいには美味しくて、思わず飲み込んでしまいそうになるのを必死で抑えてよく噛んでから飲み込む。思うがままに掻き込むのは快感だが、やはりゆっくりじっくりと噛んで食べるのが一番長く楽しめる。
 しかし、どのおにぎりもただの白米だけで作ってしまったのは失敗だ……酢飯にして巻き寿司にしてみたものが一つや二つあっても良かったかもしれない。ま、これはこれで美味しいんだけれど。塩辛は油っ気がないので、ヤドンの尻尾の燻製をつまんでみると、やっぱりこれも言葉にならにくらい美味しい。半熟の卵黄をべったりと塗り付け、ごま油を和えたヤドンの尻尾は、甘い脂肪に濃厚なたんぱく質の味、そして豊かなるゴマの風味が混ざり合ってこれまた楽園が見えるほど。
 そうして、一通りヤドンの尻尾とナマコブシのワタの塩辛を堪能した私は、口直しにポットデスの体液を飲み干し、一息つく。
「はぁ……いつもありがとうねぇ、ペコ。あなたの体液……とっても美味しい」
 私の食事風景を固唾をのんで見守っていたポットデスは、自分の味が良いと褒められ嬉しそうだ。ポットごと抱きしめてあげると、はにかんだような表情を見せた。
 そして、デザートのクレープを食べる際には、香り高いブランデーを用意した。洋菓子の香りづけに使われることも多いブランデー……アイスクリームやチョコレートにもよく合うのだが、当然マホイップのクリームにもよく合うのだ。強いアルコールの香りに、それよりも強い発酵した果実の香り。匂いを嗅ぐだけでも酔ってしまいそうなその香りに、脂肪分濃厚なとにかく甘い香り。豊かな甘みを予感させるバニラの香り。ほのかに甘くみずみずしく、それでいて優しく鼻腔をくすぐるさわやかなモモンの香り。全てが引き立てあい、口に含む前から洪水のような香りの応酬。少し端をかじってみると、岩塩を利かせたクレープ生地のほのかな塩味が、次にやってくる甘いクリームの甘みを引き立てる。口の中をクリームと、ダイスカットされたモモンの実で満たし、甘いひと時を堪能したら、一滴でも強く香るブランデーをちびちびと口に含む。
 瞬間、クリームとモモンの香りはブランデーの香りとまじりあい、口の中でアルコールと一緒に揮発する。暴力的なまでに強い香りだ、長く楽しむには適さないけれど、口の中が焼けるようなこの味、癖になりそうだ。

 そうして、全てを食べ終えて冷静になったことで、私は気づく。
「いやこれ、体液を飲むのと変わらねぇ!」
 何年かけてもこのままだ。もっと命に近いところを食べたいと思っても、良心の呵責が邪魔をする。ナマコブシは皮も食べられるし、皮も美味しいらしいけれど……私は飛び出しても再生する内臓を食べるので精いっぱいだ。だって、自分のポケモン可愛いんだもん。可愛くて、愛着湧いて、命を奪うなんて出来ないもん……
 私は研究の過程で実験用のモルペコやコラッタは何匹も殺してしまっているけれど、私は自分が飼っているポケモンには一切手を出せない。やはり、自分に特別な存在となってしまったものは、そう簡単に傷つけることはできないのだ……自分に大切なものを傷つけるからこそ、自分が大切なものを失ってしまうからこそ、興奮するものだと思っていた……あの映画の主人公のように、忘れられない経験になるのだと思っていたけれど。
 今まで食べた大切なポケモンたちの味……忘れられないと言えば忘れられないけれど、『美味しくてまた食べたい』ってだけだこれ! 正直、自分で作ったものが美味しいというのは確かだけれど、街で評判のクレープ屋とか、レストランで食べたほうが美味しいし。
 やはり、忘れられない経験というのは二度とすることの出来ない経験をするしかない……それほど強烈な経験は、あの映画の主人公のように、愛する者の命を丸ごと食べるような……そんな経験をしてみたいんだ。良心の呵責が邪魔をするけれど……でもよく考えれば、交尾をしたら死ぬポケモンならば、良心の呵責に苛まれることはないのではないか?*6

 この島には、こんな伝説がある。とあるオクタンが、深海から数年に一度の呼吸のために姿を現したカイオーガに恋をした。しかし、カイオーガは『あなたのような小さい子は好みじゃないわ。私に見合うくらい大きくなったら相手をしてあげる』とオクタンに告げる。カイオーガは知らなかったのだ……オクタンは、交尾*7をすると死んでしまうが、逆に童貞を貫けば長生きするし、その分巨大に成長をしてしまうことを。
 そのオクタンは、何年たっても童貞を貫いた。体が大きくなればオクタン同士での雌の奪い合いにも勝てるというのに、そういった争いに加わることなく、数年に一度呼吸のために海面に訪れるカイオーガを待ち続け……そして、カイオーガと再会を果たしたオクタンは、改めて求婚を申し出る。そして、巨大に成長した体の理由を知り、そこまで童貞を貫けるだけの根性を気に入ったカイオーガは、彼と交わることを決めたのである。
 その交接は丸一日に及んだとされ、カイオーガが興奮したために強烈な雨が降ったという。そのせいで島が沈みかけたところを、レックウザが降り立って雨を鎮めたという伝説が残っている。その伝説のおかげか、この島ではオクタンがアートやアクセサリーのモチーフになるほど人気のポケモンだ。ポケモンユナイトバトルが行われるスタジアムでも噴水のモチーフになっている。男性に送るアクセサリーでもオクタンモチーフのものは多く、女性から送られた際の意味は『浮気したら殺す』である。ちなみに、カイオーガのアクセサリーを女性に送った場合『私の努力を見てください』である。学生向けのシルバーアクセサリーでは人気のモチーフだ。
 その伝説で知ったオクタンの生態だが、なるほど、このポケモンならば愛し合った後に殺して食べても罪悪感がわかないかもしれない。実際、育て屋でオクタンが卵を残したと同時に死に至ってしまい、訴訟問題になってしまったケースもあるなど、厄介な生態のポケモンであるようだ。

 そんなわけで、私はオクタンを捕まえた。
「あれぇ? 君、また新しいポケモン捕まえたの? もう、ユナイトバトルのおかげでエオスエナジーは沢山手に入るから、わざわざ増やさなくてもいいんじゃない?」
「は、はい! 教授! なんというか、大学生活で結局恋人の一人も出来なかったから、願掛けのために! ほら、オクタンは誠実な彼氏が欲しいってアピールになりますし!」
「恋人かぁ……確かに大学時代に恋人の一人もいないのは寂しいし、君にもぜひ恋人ができるといいなとは思うんだけれど……その、教授の立場としてみると、むしろ恋人ができないほうが研究に集中してくれそうで助かるんだよなぁ……」
「あはははははは……期待されてるのは嬉しいんですけれど、恋の病にでもかかって研究に集中できなくなりたいですよもう」
「それだけ、君の論文に期待してるってことさ。結果も出ているようだし、君の研究は医学の進歩に役立つはずだ。期待しているよ」
「ありがとうございます。教授も、私みたいな冴えない女でもいいって男性がいたら紹介してください」
「君はそう言って何人も断っただろ?」
 教授はそう言うと、笑って去って行った。はぁ……この研究が終わったら真面目に恋人探そうかな。それとももうポケモンが恋人でいいか?

 結局、ポケモンたちと絆を深めても、恋人は全く出来ないままに日々を過ごした。オクタンは中々根性のある子で、ポケモンバトルをすると、複数の腕で器用に攻撃を捌いて耐え、ムラっ気でチャンスをつかむ戦略を得意としている。野生のころはどんな過ごし方をしていたのやら、無邪気な彼は耐久に特化した育ち方をしていた。
 対戦相手となる研究仲間は、この子の意外な固さに攻めあぐね、放置すればするほどムラっ気で能力を上昇していくこの子に対して無理やり攻めすぎてしまうことも多い。そうして焦れば焦るほど攻め方が雑になり、手痛い反撃を喰らってしまうことも多いなど、少し前まで野生だったことを感じさせない強さだ。
 そんな彼は、何故だかトロピウスとウマが合うようであった。と、いうのもバトルとなったら彼はバンジの実を食べて耐久戦を行うのだが、バンジの実はスーパーではたまにしか売っていないこともあり、トロピウスに木の実を作らせることで調達しているというのが現状だ。
 なので、オクタンにとってトロピウスは好物をくれる相手として認識しているようだ。よく、日光浴をしていると体を寄せ合うこともあるし、たまに私の代わりにトロピウスの体を撫でてあげる光景も見られる。見た目もタイプもまるで違うポケモンなのに、こうして寄り添いあう光景は見ているだけで癒される……のは、いいんだけれど、これをSNSで公開するのは憚られる。
 いやその、大学の事務員、研究仲間、教授、親にまで、『喰うのか?』って言われるメンバーなんだもん。SNSで全世界に発信するのはとてもじゃないが出来そうにない。ともかく、そんなオクタンとも仲良くなり、体を重ね、そして、その命を丸ごといただくのだ……そう、あの映画の主人公のように、愛する存在を食らい尽くす。
 きっと、興奮するに違いない。

 私は一年かけて仲良くなったベッドにオクタンを案内する。この子は水タイプだが、陸での活動もできるし、繁殖の際に交尾ではなく交接をするポケモンなので、射精してベッドを汚すこともないだろう。オクタンをベッドに乗せると、彼は撫でてほしそうに体を寄せてくる。大きな頭を私の胸に預け、ピタリと体をくっつける。
 この子は捕獲した当初から、人間が美味しい食事を提供してくれるのを知っていたようで、エサ欲しさなのだろう、すぐに懐いてくれたし従順だった。オクタンはこんな奇怪な見た目だが、とても賢いポケモンだというのは本当なようだが、それでも捕まえ当初は甘え方もぎこちないし、打ち解けているように見えてどこか警戒していた雰囲気も伝わってきた。
 だが、今は警戒なんてみじんも感じさせず、リラックスした様子で私に体を預けてくれる。とてもありがたいことである。私はオクタンの頭をゆっくりと撫でながら、服を一枚ずつ脱いでいく。ポケモンにとっては、私が裸になったからどうしたということはない。私と一緒に風呂に入れば、いつでも見られるものだから。
 だから、オクタンは私の裸を見ても興奮することなんて特になく、ちらりと一瞥をしたらあとはそれっきり。甘えるのを続行するだけだ。そんな彼だから、少し興奮してもらうために強硬手段を使ってやる。先端に吸盤のない、交接に使うための彼の腕を掴み、そこを重点的に撫でる。オクタンも最初はビクッとして、手を逃がそうとした。だけれど、優しく優しく、それでいてしつこく触っていると、彼も危害を加えられているわけではないと理解してくれた。
 もちろん、私は危害を加えるためにそんなことをしているわけではないけれど、それ以上に、気持ちよくするためにそういうことをしているのだと、彼は理解してくれるだろうか? しばらく続けていると、彼は少しずつもじもじしながら、悩ましく私の顔を見てきた。もしかして、死を覚悟しきれていないのだろうか? 確かに、彼にとっては下手すれば最初で最後のセックス。ここまで来て私が実は乗り気ではなく、途中から交尾もグダグダになったまま死んでしまったなんてことになったら彼もやり切れないだろう。
 だから、私がきっちりその気になっているか、本当に私でいいのか、悩んでいる様子だ。なので、私は彼をその気にさせるために、触腕に口づけをしてみたり、足まで彼の体に絡めてみたりと、いつもよりも激しく、ねっとりと彼を可愛がってみる。そうこうしているうちに、オクタンは自分の気持ちを無視できなくなったらしい。童貞卒業はイコール死亡であるが、それでも抗いきれない欲望に従う決意が出来たようだ。
 そうと決まれば、彼はもう迷わなかった。私の体に8本の触腕のうち、7本を絡ませて抱きしめる。自由に動く触腕がこんなにも隙間なく体に密着するのは初めてのことだ。お風呂に一緒に入ったことくらいはあるが、その時は手に触腕を軽く絡まれるくらいだった。今は、逃すまいとするように……苦しくはないが、吸盤をひっかけるようにして、程よく動けないようにしている。
 もちろん私は抵抗をしない。肘から先は自由に動かせるので、私は彼の体を手繰り寄せるようにして密着する。オクタンの交接は、雌が逃げることも多いため、彼はそれを買い介して逃がすまいとしているようだが、私は逃げるつもりなんてない。だから、彼がおっかなびっくり伸ばす触腕を受け入れ、探り探りで不安げな表情をする彼に笑いかける。
 何せ一世一代の行為だ。慎重になるのは仕方がない。恐る恐る近づけてきた一本の触腕。それは先端に吸盤がついていない交接用の触腕だ。それを使って、彼は私の体を撫でるように探り始めた。なんせ体の構造がまるで違うから、どこに挿入ればいいかわからないのだろう。
 私は彼の生殖腕をゆるゆると掴み、ローションをまぶしてマッサージする。彼の動揺と喜びが、他の触腕を通して伝わってくる。そうこうしているうちに私の気分もノッてきて、膣内には愛液が分泌されているのを感じる。ゆっくりやりならば、もう彼の性触腕を受け入れても大丈夫だろうか? そう思い、彼の交接腕を、さらに強く、速く、掌で撫で始めた。それだけでびくびく反応してしまう彼のことが可愛らしい。ゆっくりと彼の生殖腕を秘所へと導いてあげると、ここに交接腕を挿入れればいいのかと納得したオクタンは、ゆるゆると私の中へと入っていく。その慎重な手つきはヤドンのそれ以上だ。本当にこれでいいのかと上目遣いでこちらを伺いながら、控えめな態度をしている。
 私が手を前後させることで彼をリードしてあげると、彼は気持ちよさそうに瞳孔を細めた。彼は交尾をすると死ぬ事……自分の死期が近いことを理解しているのだろうか? あぁ、このひりひりする感情……映画の中で、主人公が二人目の恋人に手をかけようと、睡眠薬を飲ませたときもこんな気持ちだったのだろうか? いや、このオクタンは自分の死を覚悟しているわけだから、それとはちょっと違うかもだけれど……。気持ちよくさせて殺してしまうだなんて、何だか自分がサキュバスになった気分だ。このまま続けるだけでこのオクタンが死ぬ……そうだとわかっているのに、もう止められない。
 それに関しては彼も同じようで、私に命を握られている状況だというのに、もう止められない。完全に死を覚悟して交接に臨むこの姿、どんな人間の男でも味わえないほどの必死さ。これはそそる……こんなの、満足させてあげないと絶対に後悔する。オクタンを私の全身全霊で愛してあげなきゃいけない。
 私の中に入り込んだ交接腕は、もう少し奥の方へ。確実に卵へと届くようにと前進している。その歩みは蝋燭が解けるようにゆっくりとしたものだが、それでも一ミリメートルずつ、確実に。前後に激しい動きこそしないが、ぬめるオクタンの交接腕が膣内で前後左右に蠢く刺激は、人間の性器でも、指でも味わうことはできない。
 激しくなく、しかし常時動いて飽きさせることのない甘美な動き。オクタンの命をぶつけてくるこの儀式は、想像以上に私も楽しんでしまっている。こみ上げてくる快感に促されるまま、私はオクタンに抱きしめられながら、彼のことも抱き返す。出来うる限り体を密着させながら愛を深めていると、オクタンはふと、糸が切れたようにぐったりとし始めた。
「ハチベェ……お疲れ様」
 オクタンは完全に力が抜け、目からも力が失われている……どうやら、交接を終えて衰弱してきたらしい。はぁ……このまま死んだら、その亡骸を全て食べてしまおう。オクタンの雌もまた、子供の孵化を見届けると死んでしまうというけれど、私はあなたを糧にしてずっと生きることにしよう。


 そうして、オクタンと交接してから数日後。私は、大学の教授はもちろん、科学誌の記者やスポンサーの重役が集まる学会にて、今までの研究を発表した。ユナイトバトルでにぎわうこのエオス島で発見されたエオスエナジー。それを利用した再生医療は、現在非常にコストが高いものの、ある程度若く体力があるポケモンであれば、おおむねどんなポケモンでも失った部位の再生が行えることを示した私の研究は高く評価された。残念ながら、再生力の低いポケモンでは大量のエオスエナジーを注ぎ込んで活性化させなければ、せっかく培養した細胞もただの肉塊となってしまい、生体と癒着することがないのだが……それはそれで、副次的な産物としてポケモンの肉や内臓を再現し、食材として利用できることも発見してしまった。
 それでテイア蒼空遺跡で採取したレックウザ細胞から体組織を再現して食べてみたのだが、普段ちりやほこりを食っているせいか、食えたものではなかったのは秘密である。
 そんな秘密は隠しつつ、低コスト化や成功率の上昇に向けて研究を続けるとして発表を終えると、拍手喝さいが巻き起こるのであった。

 その日の夜は研究室の仲間と打ち上げを行い、大いに盛り上がったが……私はみんなと飲む酒も好きだが、一人でじっくり飲む酒、食べる飯のほうが好きなのだ。発表会の翌日、休暇を満喫した私は、ポケモンとともに島を散歩し、ポケモンバトルを行い、そして夜は……
 オクタンの触腕をぶつ切りにし、半分は唐揚げに。もう半分はパエリアとカルパッチョに使う。パエリアには細長いインディカ米……それも玄米と白米を半々で使う。インディカ米は水分含有量が少なく、良く味が染みわたる。そしてその玄米は、精米されていないためにプチプチとした食感が楽しめる。味は染み込みにくいが、それは精米に担当してもらえばいい。
 具にはニンジン、パプリカ、そしてカラマネロのゲソ、ウデッポウ、そしてオクタンの触腕とナマコブシのワタ。そして、シェルダー。スーパーマーケットで買ってきてパエリアの素で味付けは簡単に済ませるが、特別な調味料としてオクタンの墨も使用する。オクタンの墨は、パスタなどに使われるカラマネロの墨と比べると粘りが少なく、料理には使いにくいが……しかし、うま味の量はオクタンの墨のほうが多いのだ。弱点である粘りの少なさも、水をたくさん使うパエリアのような料理ならばもってこいだ。タイマーをかけて火加減を注視しつつ、レシピ通りに炊き上げる……出来上がりが楽しみだ。
 唐揚げには、オクタンの触腕の他に、ナマコブシの内臓も使う。味付けはスーパーで買ってきた出来合いの唐揚げ粉ではあるが、値段が少し高めなのもあって、味はとてもいい。それに生姜とニンニク、そしてナツメグを加えて香りを豊かにして、味が染みるのを待つ。やはり唐揚げはいい……みんな大好き、正義の食べ物だ。
 そしてもう一品。薄切りにしたオクタンの脚とヤドンの尻尾、ミガルーサの切り身に、ルッコラ、薄切りにした玉ねぎ、そして輪切りのレモンを添え、オリーヴァのエクストラバージンオイルとキョジオーンのシオン16歳♀*8の岩塩、ワインビネガーで味付けする。
 食後のデザートには、モンブランケーキを作る。まずは卵白を砂糖とともに泡立ててメレンゲを作り、そこに薄力粉を混ぜてから、少し大きめなクッキーのような土台を作り、オーブンで焼く。次はマッシュしたシロップ漬けの甘栗に溶かしたバターとマホイップのクリームを混ぜながら、少しずつラム酒を加えてマロンクリームを作る。焼きあがったクッキー風の土台の上にはマホイップのクリーム載せ、さらにその上に先ほど作ったマロンクリームを盛り付ける。
 最後に、渋皮付きの栗、そしてラム酒につけたマゴの実とパイルの実(どちらもトロピウスから収穫したもの)の欠片を乗せれば、モンブランの出来上がりだ。
 メレンゲを作るために使わなかった卵黄は醤油漬けにして明日食べる事にしよう。

 パエリアに唐揚げ、そしてモンブラン……もちろん、紅茶も完備だ。つまり、私のポケモンのすべてがここに詰まっている。カロリーなど知るか! 私は論文の発表会で精魂尽き果てたんだ! 体重は三日かけて帳尻合わせをすればいい!
 パエリアの香ばしい香りが漂い始めた頃、私は新しいキャノーラ油のパックを開け高温の油で具材を揚げ始める。衣に程よく色がついたところでクッキングペーパーの上に置き、程よい温度に冷めるまで待つ間に、出来上がったパエリアを茶碗に盛る。あぁ、これはよだれが止まらない……良く冷えたスパークリングワインをグラスに注いで……
「いただきます!」

 あの日、結局私は衰弱していくオクタンを見捨てることが出来なかった。ヤドンに癒しの波導を頼み、オレンの実を噛み砕いて口移しで食べさせ、何とか一命をとりとめたのだ。『オクタンとセックスしたら(オクタンが)死にかけました』とも言えないので、ポケモンセンターにも連れて行かずに数日間過ごしたが、無事回復して今に至る。
 その後、リハビリがてらバトルした際にカジリガメに食らいつかれたので、オクタンが自分から切り離した触腕が今日の食材である。腕を切り離してもすぐに生えてくるだなんて、やっぱりポケモンは不思議ないきものだ。
 それはそれとして、今日のメニューは……うん、全部美味しい! 唐揚げはジューシーで、ナマコブシの内臓もオクタンの脚も噛み締めるごとに幸せがやってきて、パエリアは歯ごたえも香りも完璧だ! カルパッチョは酸味と魚介のうま味が程よく絡み合っていい塩梅だ。どれを食べても幸せがあふれ出してくる。冷蔵庫で冷やしてあるデザートも楽しみ過ぎる! 結局、映画の主人公の真似は出来なかったけれど、これはこれで幸せなので、良かったのかもしれない。
 私のポケモン、みんな美味しくて、みんな愛してるよ。

あとがき [#8qLtjlR] 

大会では5票の投票ありがとうございました! みんなもっと投票するんだ! 読む人少ないよ!
ポケモンを食べたいという想いから書き始めた作品でした。いや、本当はエースバーンとかメブキジカとかリングマとか、そういうポケモンを食べたいんですけれどね……それだと普通の料理やポケットモンスターハンターなお話になってしまうので、自分のポケモンを食べたいという歪んだ欲望を持った人間を主人公にしました。
 いやほら、殺さずに食べられるポケモンだけでも美味しそうなポケモンが多いじゃないですか! マホイップとポットデスは公式で懐いたトレーナーになら食べさせてくれると書いてありますし、同じくトロピウスもそんな感じで。そんなわけで書き始めたこのお話ですが、SV発売前にはもう書き終えていまして。官能表現ありとは言え、見た目ではなく美味しそうかどうかが選出ポイントなので、たとえニャオハが立とうが四足のままだろうが、美味しそうじゃなければ問題ないと思ってたんですよ。
 そしたらなんですか、パルデアのポケモンは!? キョジオーン、オリーヴァ、リククラゲ、ガケガニ、寿司、スコヴィラン、ミガルーサ、イヌヌパンとおいしそうなポケモンばっかりじゃないですか! パヒュートンとかも結構おいしそうですし。ちょっと急いで書き過ぎたと思いつつ、もう6匹のポケモンを持っていて、普通のトレーナーでは難しいくらいのポケモンを抱えているわけなのに、ゲームの主人公みたいなバカげた育成能力を発揮するわけにもいかず、もう入れられるワクがなくなってしまいました……ヤドンの代わりにミガルーサとかを育てて食べたかった……え、官能シーンはどうするのかって? 産卵プレイ、ですかね……
どうにか新しいポケモンをねじ込みたくて、キョジオーンだけはねじ込みました。可愛くて強くて美味しいって最高ですよね! 贅沢を言えばフラージェスやマホイップみたいに色んな色のキョジオーンが欲しかったです。与える餌で色が変わる動物はいくらでもいますし……フラミンゴとか。
あと、今回の舞台は色々あってポケモンユナイトの舞台となるエオス島にしました。ユナイトバトルは元々、エオスエナジーを生み出すために始められた興行なんですよね、公式サイトでもそこら辺のことは語られています。そうすれば主人公がレックウザの肉やエースバーンの肉なんかも食える事になると思いましてね……エナジーを再生医療に使ったり、人工培養肉に使ったりなど出来るかどうかは不明ですが。
ちなみに一番食べたいポケモンはバシャーモです。もも肉やボンジリを唐揚げにしたい。

いただいたコメント返信 

・味しそうなポケモンを食べちゃう、そんなキュートアグレッションが素敵でした (2023/01/01(日) 19:40)
性的にも実質的にもポケモンを食べてしまう。それってとっても魅力的だと思うのです。
・猟奇的な話になるのかと思いきや、案外コミカルで読みやすく、ポケモンたちの交配をとても個性的かつ具体的に描いていて、面白かったです。主人公を愛しているポケモンたちの姿が愛らしく描かれており、中でもオクタンとの交配などはヒヤヒヤしましたし、最初読んだときはとても悲しかったので、助かっていて本当にほっとしました。ハッピーエンドで嬉しかったです。
官能部門であることをよく活かしており、話として純粋に楽しませてもらえたので投票します。 (2023/01/01(日) 19:47)
オクタンがトリを務めるのは決まっていました。オトスパスとも悩みましたが書いたばかりなので……彼らとセックスしてサキュバスになった気分を味わうというのはとても面白そうですが、まともなトレーナーでは罪悪感に耐えられなくなるでしょうね。

・料理がおいしそう
・ちゃんと種族ごとの特徴が活きている
・「食事」「行為」の魅せ方が良い (2023/01/01(日) 20:57)
料理は結局炭水化物とタンパク質と脂を使えば美味しいという、カロリーの暴力な料理しか作っていないのが作者の性格をよく表しています。おいしそうなポケモンが多いので、公式はもっと料理の供給をしてほしいです。
・読み応えのある緻密な食と性の描写がとても面白かったです。ポケ食がテーマなのにポケモンが一匹たりとも死んでいない、その上主人公を含めた全員がしっかりと満たされているというのがよかったです。 (2023/01/14(土) 21:03)
愛してる相手を食べるからこそ満たされるという一種の背徳感の虜になってしまっているあたり、色々と取り返しのつかない性癖なので、これからの主人公の性事情が心配です。

・とても美味しそうなレシピの数々でした。
これだけ食べまくって、猟奇の向こう側へ至らないギリギリの絶妙さも良かったです。ご馳走様。 (2023/01/14(土) 21:50)
すでに猟奇的な気もしますので、主人公は大分手遅れなきもします!

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*1 セックス
*2 キョジオーンの岩塩を扱う会社、ジュエリーソルト社の看板娘。鉄分を多く含む岩塩なので、桃色の結晶がとてもかわいらしいと、宝石好きから評判の声が多い女の子。甘えん坊な性格で、大好きな飼育員が世話をしに来ると、飼育員を優しく抱きしめる姿がSNSを中心に人気を博している。愛想もよく、牧場に訪れた見学客に人見知りせずに振舞うことなどから、会社のホームページや公式SNSにもよく被写体として選ばれている。体に纏う岩塩はミネラルが豊富で、味はまろやか。
*3 その年、牧場の周辺は洪水に見舞われ、土砂や瓦礫が流されて牧場も荒れてしまいましたが、シオンちゃん達キョジオーンは復興作業に当たる人間たちを積極に手伝い、また頑張って沢山汗をかいた人達に塩を分ける姿が、何だか自分まで励まされる気持ちだったとSNSでも話題。しかし、海水をろ過する装置がしばらく使えなかったため、彼女らが飲んだ海水はろ過が不十分で少し不純物交じりである。そのため、今年の塩の出来はいまいちだと牧場主は語っていた。
*4 そこは人として怯め
*5 今年のシオンちゃんは大好きな飼育員が妊娠、出産のために長期の休暇を取っていたため元気がなく寂しそうな日も多かった。しかし、大好きな飼育員が赤ちゃんを連れて牧場に戻ってきたときは、飼育員の子供を大事そうに抱きかかえる姿をカメラが捉えた。その様子はとても和む、癒されるとSNSで評判になり、今でも牧場の看板娘として活躍中。
*6 そうはならんやろ
*7 タコは生殖の際、精子が詰まったカプセル(精莢)を雌の体内に差し込むことで繁殖するため、厳密には交尾ではなく交接である
*8 ついにシオンちゃんも今年、二児の母になりました。子供に十分な栄養を与えるために、いつもよりも色が濃く、真っ赤な塩を析出しましたため、写真写りも今までとは違うものになっていた。真っ赤な塩は半分以上は彼女の子供であるコジオが食べたが、真っ赤な岩塩は観賞用に注文が殺到してプレミアも付くなど、世界中にファンが湧きたちました。ただ、子育て中だったこともあり、見知らぬ観光客が近寄ろうとすると露骨に不機嫌そうになって威嚇するなど、警戒心が強い様子を見せたため、広報の写真撮影には別のキョジオーンが被写体になったようです。

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Last-modified: 2023-01-15 (日) 12:05:31
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