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持ちつ持たれつ

/持ちつ持たれつ

こういった形で投稿させていただくのは初の試みですね~~。
まぁ、何卒よろしくお願いします。

※注意:この作品には人♂×グラエナ♀です。閲覧にはご注意ください

作者……ベンゼン


「ほら!! 今日は大物が取れたわよ!」
威勢のいい姉御の声が。深夜の公園の中に響く。

「いや、あのラクマ……大物ってね……その」
血まみれになって地面を引きずられたミミロルを差し出された俺は困っていた。

「なんだい? 狩りっていう女の仕事をこんなにも全うする私に何か文句でもあるって言うの? あんたは巣をほっぽらかして、いつも何処かに出かけて、『男として群れを守る仕事』も出来ないくせに、狩りにいそしむ、この働き者で、才色兼備で、美人で、性格も匂いもよく、狩りも上手な私に何か文句でもあるって言うの?」
彼女の言う巣とは……この椿ヶ丘(つばきがおか)公園の公衆トイレの障害者用トイレの一室である。要はアレだ……俺はホームレスって奴だ。
 でも、俺がここを使うのは公園の利用者がめったにいない夜だけだし、昼間はゴミ一つ残さず荷物は引き払っているし、朝は男女と障害者用すべてを掃除もしているから、夜の間ぐらい許可してくれてもいいだろう?
 健全な公園の利用者に迷惑をかけているのは否定しない。けれどその分役に立っている……つもりだ。

こんなところに住むようになった経緯は、8歳のときに事故で父親を。17歳のときに病気で母親をなくして頼れる親戚もいない。高校は他の人たちの援助もあって何とか卒業できたけれど、大学は……無理だったせいだ。
 奨学金さえ出れば何とかなったろうけど、バイトに追われて勉強が出来ず、大学受験すらまともに出来なかった俺には関係の無い話。
 通っていた高校は進学校。工業高や農業高みたいなところならともかく、卒業時には勉強以外のスキルは付いておらず、勉強のスキルすらバイトという名の津波に飲まれて沈んでしまった。
 当然、フリーター死活が……あ、eを押し忘れてしまった……『sikatsu』じゃなくて『seikatsu』だよね。兎に角、フリーター生活が始まる……が、バイトの給料が低くて、給料の大半が食費と光熱費や水道代に費やされて住んでいたアパートの家賃すら払えなくなり追い出された。
 もっと友達作っておけばよかった……そうすれば居候の一つや二つも出来ただろうに。そうしておかなかったせいで俺はこんなところで路上生活を営んでいる。


ここまでが、ここに住んでいる経緯。ここから先が、彼女と住むようになった経緯だ。


――それは、追い出された当日のこと……

とりあえず、雨風を凌げるところが必要なわけだが……えっと、ネット喫茶とか、駅の構内とかかな? 俺はそう思って、下見のつもりで、数少ない俺の財産である自転車を走らせた。
 馴れ合い道路と呼ばれる川沿いに作られたまっすぐな国道を進んでいくうちに喉が渇きを訴えた。
 ふと周りを見渡せば、集合住宅街より眼下に望む場所にある窪地の公園が見える。そこなら水のみ場があるはずだ。
 あった。俺はそこでがぶ飲みする……不思議なことに喉が乾いているときは本当に水でも美味しいなと実感するものだ。こういう公園の水飲み場は自動販売機でジュースすら買えない様な者にとってはとてもありがたい。

 おっと……トイレも今のうちに行っておこう……ってあれ? ここ、障害者用トイレあるじゃん……ここなら雨風も凌げるだろうな……いやいや、迷惑だろ、いや、でも……めったに誰も使わないよな……それに近くには水道もあるし……いや、公共の施設をそんな……

 悪魔……といってもずいぶん控えめだと思うが心の中の悪魔がここに住めと言い、心の中の天使がそれを引き止める。
 そんな堂々巡りの考え事もそこそこに、再び出発しようとしたときだ。

 野生のマッスグマが何かを持ってきて、コソコソと茂みの中に消えて行った。野生ゆえにわずかしか立ててくれない音を頼りに必死に追いかけ、覗いてみるとそこにあったのは……
 食べ残しやらボロボロのぬいぐるみなど価値のないものも多いが、色とりどりのボールに傷薬に、目覚め石や闇の石などの進化道具……それだけではない。めったに手に入らない技マシンまであるではないか。
 『全部売ってやろう』と思うのは当然のことだろうか、マッスグマが再びどこかへ行ったのを確認すると高価なものから持っていたバッグに詰めて自転車の籠に積んださ。
 少し良心が痛んだけれど、野生ではあんなもの持っていても意味は関係ないだろ? だから俺が有効に使ってやるだけのお話だ。

……ごめんね


とりあえず、ネット喫茶の下見は中止してフレンドリィショップへと向かうことにする。しばらくの間民家の無い道路を進んでいると、何度かここを通ったときに印象に残った看板を見つける。

マッスグマ・ジグザグマ出没。衝突に注意!


実際ここにはそれらの種が先ほどのように公然と出没する。そのせいもあってか、ジグザグマやマッスグマの死体が1ヶ月に1度くらいは転がっているが、誰が片付けているのだろうと気になったものだ。それは片付ける業者がいるのか、もしくはグラエナか何かなのかもしれない。


夕暮れ時。途方にくれて黄昏る心に、黄昏る空……これほど切ないときはなかなか無いと思う。

どうやら……今の俺ではネット喫茶ですら難しそうだ。バイトは住所がなくなっても続けていけるけど、深夜の8時間パックが1800円はきつい。そりゃ、ビジネスホテルでさえ5000円なのだから、確かに安いと言えば安いさ。しかし、先ほどの道具を撃って手に入ったお金はたった6万程度……いや、十分すごいけれど、それではすぐになくなってしまうだろう。
 ……でも、どうするのかなぁ。今は暖かいからいいけれど……冬になったら寒そうだし。駅の構内はけっこう寒くなりそうだ。この季節ならいいけど……
 そういえばホームレスがいた駅は、ちゃんと風が入らない構造になっていたよなぁ。乗換駅が5つあるようなデカい駅だから仕方ないけど……この近くにあるのはローカル線だから風なんて入り放題だ。
 俺はとぼとぼと来た道を戻る。夕暮れ時も終盤に差し掛かり、お天道様はその身の半分を地平線に隠している。長くてけっこう急な坂をぜいぜい息を立てながら上りきってみると、その頂上でとあるものが目に付いた。
 マッスグマが死んでいる。そして、それを引きずっているポケモンがいる。グラエナだ……子供(ポチエナ)をつれている。乳も張っていることから分かるように出産直後のようで、子供が十分に育つまでの間、群れから離れているのだろう。
 獲物を車の来ない安全な場所へと引っ張っているようだが、そこに無灯火の車が。

刹那、目を覆いたくなる光景だ……ああ、立ち止まって眺めているんじゃなかった。運命の悪戯というものはあるものだ。

 ブレーキは直前でで踏まれたものの、間に合うべくも無く、母親は一瞬で肉塊だ。最初の血糊と引きずった血糊、そして新たに出来た血糊が、アスファルトを赤く染めている。体内から破れ出たハラワタと骨が広がり、一瞬の内に風で運ばれた血のにおいが俺の鼻に届いた。

 車の持ち主はというと、何に当たったのかを窓越しにチラリと確認しただけで、そそくさと車をバックさせ、死体を避けてそのまま走り去っていった。
 追いかけて行って殴り飛ばしたい気分だが、生憎追いつけそうもないし、何より……ポチエナが心配だった。母親の尻尾に噛み付いたり、引っ張ったり、傷口を舐めたりなど、何をとってもその一挙一投足が物悲しい。
 しかしこのまま放って置けばマッスグマの三の舞いになると思い、助けなければいけないという衝動に俺は駆られた。
 自転車で通行止めをして、母親の体を川原のほうまで運ぶ。ポチエナがものすごい声で鳴きながら足に噛み付こうとしている。兎に角、こいつを安全な場所まで運ぶのだけでもやっておかないと、本日三つ目の命を散らすことになりかねない。
 このときばかりは、ポチエナを蹴り飛ばしてでも作業を優先させた。

あ~あ……服なんてか替えは少ないって言うのに、血まみれのグチャグチャだよ。もうこうなったら、血の量が増えても変わりはしないや。マッスグマの死体も同じ場所に運んしまえ。
 焼け石に水かもしれないけれど、せめてもの食料になれば、と……
 ふう、今日は散々だな。とりあえず、さっき目をつけた公園の障害者用トイレで休ませてもらいましょうか……あそこならば蚊も入ってこないだろうし。


 次の日、バイトが終わってやるべきこともなくなった時間帯。昨日の子がどうしているのかと、気になって様子を見てみる。母親が動き出すのでは無いかとでも思っているのだろうか……夏ということですでに腐り始めた死体をずっと見つめている。

次の日も、その次の日も。
マッスグマとグラエナの死体は、どちらとも二日目に見たときにあらかた食い尽くされていた。ヤミカラスかオニスズメかは分からないが、鳥にでも食われたのだろう。
 ポチエナやグラエナは、『噛み付きポケモン』という分類に相応しく、同じサイズのポケモンの中では最も強靭な顎と強靭な胃を持つため、他のポケモンが食べられないような骨でさえ粉々にして食える。だから数日くらいならば骨を食して飢えを凌ぐことも出来たのだろうけれど……まぁ、無茶か。
 今のポチエナはやせ細って、あばら骨が浮き上がり、毛艶は見る影も無いモノになり、放って置けば簡単に死ぬだろう。
 ドライフラワーのように軽くて細く、少し力を入れれば散ってしまいそうな力の入っていない体を抱えるが、ポチエナは抱かれた腕の中で暴れだした。
 だが、昔抱かれるのが嫌いなガーディを抱いたときと比べると、暴れ方に酷く力が足りない。元気な子供ならば、激しく暴れられて3秒だって抱いていられなかったはずだ。だけど、この子なら力尽きるまで強引に抱いていることも出来そうだ。


 見に行かなきゃいいのに、ついつい覗きに行くからこんな風に情が沸いて……仕方ない。衰弱もしているし、今ならこいつで捕まえられるだろう……
 俺は考えた挙句、数日前にマッスグマの巣から奪い売却しようとしたがキズ物で売れなかったハイパーボールを懐から取り出した。フワリと下手投げで当てると、赤い光の中に吸い込まれて、数回の振動の後に難なくゲットできた。
 あ~あ……俺余裕無いのに何やっているんだろう?

使い始める前はウダウダ言っておきながら、結局寝泊まりする場所が障害者用トイレになっている俺は、最寄のスーパーでこいつの分も加えた食糧を買ったあと、適当に食べさせて、母親のかわりになれるかどうかはわからないが抱いて眠った。
 名前を"ラクマ"と名付けたそのポチエナのことを、その時点では腹の下にある大きな突起を見て男の子であるとずっと思っていた。


 当初は、俺が買ってきた肉……安い肉だ。というか、人間があまり食べない胃袋や小腸など内臓を生で食べないとビタミン不足で死ぬとどこかで聞いた気がするし……今の経済状況では安い肉しか買えないから、二日に一回か二回くらい大量に与えていた。根気よく言葉を教えるうちにぎこちないながらも言葉も覚えてきて、今では流暢に喋るようになっても、俺はまだラクマが男であることを疑わなかった。

 ポチエナの頃はそうだった……けれど、ある日の冬、一緒に抱いて眠っていると突然進化しだした。
 その日からだ……やたらと狩りをするようになった。突然死体を差し出されても、最初は戸惑うばかりだった。何かの料理漫画で見たうろ覚えな知識を下に、臭みを抜いたり味付けたりして食べてみると予想外に美味かったことを覚えている。
 そんなある日、雌のミミロップを狩って来た日があったのだが……その時の台詞が……
「ふう、手ごわかったわね……雄だったらまずかったわね」

「なんだ? ミミロップの雄ってそんなに強いのか?」
呆けたような口調で俺が聞けば、ラクマは突然笑い始めた。

「あっはっは……違うわよぉ。雄の前に立つとクラクラしちゃうのよ。やっぱ女って辛いわね~雄のメロメロボディにやられちゃうなんて」
ゼックシタ……ソレハモウオドロイタヨ。

「女だったの?」
俺のセリフのせいで続いてラクマも絶句した。

「あ、あんたねぇ……狩りは女の仕事よ? 野生の皆だってそういっていたのよ?」
こいつは俺のいない間、よくボールから抜け出しては野生の群れの方へ行って、食料と引き換えに色々教えてもらっているらしい。狩りがちゃんと出来るのはそのためだと言っていたが、なるほど……女だからという理由もあったのか……

「そんなことも知らずにっていうか……普通匂いでわかるでしょ? 毎日私の匂いを嗅がせていたのに気が付かなかったの?」
ごめんなさい……人間としてグラエナの股間の匂いなんて嗅ぎたくありませんでした。第一、嗅いだ所で雌雄を判別する能力は俺にはありません。

「ごめん……人間は鼻が悪くって……」
ラクマは大きくため息をついた。

「はぁ……私はこんな馬鹿と一緒にいたのね」
呆れられた。俺には返す言葉も無い……

そうして、ラクマが女とわかったわけだが、その後も特に二人の生活に変わりは無く、つつがなく日々を過ごしていく。


ここで、問題の最初のシーンへ戻るのだ。

「ほら!! 今日は大物が取れたわよ!」
威勢のいい姉御の声が。深夜の公園の中に響く。

「いや、あのラクマ……大物ってね……その」
血まみれになって地面を引きずられたミミロルを差し出された男は困っていた。

「なんだい? 狩りっていう女の仕事をこんなにも全うする私に何か文句でもあるって言うの? あんたは巣をほっぽらかして、いつも何処かに出かけて、『男として群れを守る仕事』も出来ないくせに、狩りにいそしむ、この働き者で、才色兼備で、美人で、性格も匂いもよく、狩りも上手な私に何か文句でもあるって言うの?」

今は男女平等の気運が高まったおかげで大分廃れてはいるものの、人間は男が外で仕事で女が家を守るのですけど……大体群れって……二人しかいないじゃん。というか、才色兼備と美人って同じことでしょうが!!

「なんか言ったか、(ツグミ)? リーダーの私に口答えしようって言うんなら『"毒々の牙"の刑』行くわよ?」
しかも、グラエナは優れたトレーナーには絶対に逆らわないと評判の忠誠心だが、無能なトレーナーにはこうだ……加えて性質(タチ)の悪いことに、グラエナは雌がリーダーを執る。
 それが余計にあいつを付け上がらせる原因となっているのだろう。

「いや、あの……」
言い返す前に、赤と黄色の鋭い眼光が俺の心臓を貫いた。どうやら反論は許されていないようだ。

「ありがとうございます。リーダーのおかげで今日も食料にありつけます」
俺は、このときばかりは人間としてのプライドを捨て、ひざまずいてお辞儀をする。

「ん、合格♪」
深夜でよかった……グラエナの狩りの本番は、毛の色を見れば分かるように夜だ。そのせいで、こうして夜中にたたき起こされることもあるが、こうしてあまり見られたくないやり取りも隠れてすることが出来る。
 もし、真昼間からこんなことをやっていたら、夫婦漫才と間違われそうだし……何より大問題なのが、このミミロルの死体。こんなものを見たら子供が泣きそうだ……というか、泣くだろう。

「さ、食べましょ食べましょ。火は私がつけてあげるから」
ラクマは薪に噛み付き、口の中で炎をたぎらせて着火する。毒を出したり炎を出したり器用な牙である。

 火を囲みながら俺は思う。ラクマはとてもいい子だ。グラエナに進化してから森から獲物を狩り取って来ては俺の前のにもって来るようになった。雄を支えてくれる、グラエナの雌の本能のようなものだろう。
 それだけでは無く、グラエナとして生まれ付いての姉御気質も手伝って、面倒見がよくてとても頼もしい。リーダーとして君臨されているのはなんだか複雑ではあるが。

 そういった行動の諸々がラクマなりの不器用な恩返し……なのだとしたら、こいつの気持ちを無碍(むげ)にする訳にも行かないと、狩りを行うことに対してしかりつけることもせず、こいつの運ぶ食料を食べている。
 時には『人間としてこれでいいのか?』と疑問に主うこともあるが、昔はオドシシ狩りやリングマ狩りに、ウインディなどを利用していたことだし、現代においてもそれでいいじゃないか、と開き直ってみれば、気分としては悪く無い。
 時たま、すごい臭みを持つポケモンの肉をもらうこともあったが、そこら辺の草で臭みをとってから焼けば食えないことは無い。ホームレスというか、路上生活者なのに毎日肉を食べるという矛盾……そんなアンバランスな生活が出来るのもこいつのおかげだ。

ミミロルの肉だって、遥か昔は僧がこの肉を食いたいがために『これは鳥だから』と言い張って1羽2羽と数えた歴史があるほど美味しい肉だ。美味いから俺も大好きだし持っていてくれることは純粋にありがたい……そんなことより今は深夜……ああ、眠い。


朝目覚める時には、ラクマはきっちり寝ている。彼女曰く『狩りが終わったあとは、なるべくエネルギーを消費しないように寝る!! これは基本よ!!』らしい。ラクマは食ってすぐ寝ても太りはしない。なぜなら獲物が毎日取れるとは限らず、不猟の日は断食だからだ。俺自身、いつ明日食料にありつけるかどうかわからない生活になるかも知れないからこそ、そういう風に育ててきた。
 勿論、グラエナになりたてのころは、自分で狩りをやるとか言い出してもなかなか成功しなくて俺が買ってきた肉にお世話になってもいたが、今では三日に一回は必ず持ってくる。
 今では前述したように強力な力を持つミミロップを引きずってきたこともあるなど、その成長は著しい。屍やらなんやらを処理するのに苦労したのもいい思い出……と言うには『またミミロップを食べたい』とか言っている以上、思い出になるのはまだまだ先のようだ。いつかまたミミロップを引きずってくるだろう。
 しっかし……改めて巣の回りを見回してみるとその光景は異様だ。夜は見えいからいい。明るくなると見えてくる物がある……骨だ。ラクマには住処の周りに骨を撒き散らすのは止めてもらえないかな……
 わかっています、骨はグラエナにとっては非常食なんですよね。片付けようとしたら『群れの食料を奪おうとはいい度胸じゃない?』と、ラクマにものすごく凄まれた覚えがある。もう俺は二度としませんよ……
 俺がバイトに行くときは、ラクマはボールに入れて公園の隅に隠している(よく勝手に抜け出すが)ため構っていられる時間が少ない。
 そのせいか野生のグラエナとばかり付き合うことになって、その影響でずいぶんと野性的に育ってしまったこいつだけど、それだけに凄く女らしい。人間の言う大和撫子的な女らしさとは違い、グラエナとしての女らしさだが……それはそれで自然な感じがして良いではないか。
 毛づくろいのつもりなのか俺の体を舐めてきたり、毎日匂いをかいできたり嗅がせたり。恥ずかしいけど……純粋に嬉しい。特に毛づくろいをされるときは不覚にも、俺の雄は毎回反応してしまう。

いつの間にか俺には、こいつがいなくてはならない存在な気がしてならなかった。


いつしか、彼女が眠る姿にも最初の頃にはない感情がこみ上げてくるようになった。雌は群れのために食料を調達する。雄は群れを守る。……そしてもう一つの役割を、全うしたくてたまらない。

 それは、妻のようなラクマに……とでも言うのだろうか? だとしたら大層なカカァ天下だが、そういう存在。俺はラクマを愛していた。狩りをするようになってからは大人として一人前になり、ラクマが女だと知った時、大人になってからも抱いて眠っていたことが酷く恥ずかしく思えた。
 そして俺に寄り添って眠るたびに、それを意識するようになった。彼女の胸や、口や、秘部も。見ておれば凄く艶めかしい感じがして、衝動に駆られる。
 今日もまた深夜にたたき起こされてからの食事の後、抱きしめて眠りに入ろうとするラクマの体の暖かさに心を揺さぶられていた。俺は首から胸にかけてを抱いている。その腕を下ろして、腹にある乳房に触れてしまいたい。さらにその下の未知の領域にも。

音を立てないようにため息一つ。抱いていたラクマを床に下ろして、自身は正座のような体勢になる。トイレで正座というのは気がひけると思うものもいるかもしれないが、ちゃんと毎日掃除しているし、何より障害者用なだけあって、利用者は乳幼児と障害者くらいで極端に少ないから、いつも掃除しているここの床は綺麗(と言っても普通のアスファルトよりと言った程度だが)だと自信を持って言える。

「どうしたの、眠れないのかしら?」
ラクマの質問には答えず、ラクマの頬を手の平で包み、人差し指と中指の間に三角の耳をはさむような形でラクマの顔を固定した。そして、俺は彼女の鼻息が感じられるくらい近くに自分の耳を寄せる。

「何よ、何のつもり?」
その台詞の後、二回彼女の呼吸を感じてから耳を離す。ラクマを見る。

「なぁ、お前ってさ……よく野生の群れのところに行っていたんだよな?」

「うん、それが?」

「そっちに好きな男とかいるのか?」

「ああ、なんだそんなこと? 今はもう狩りのコツも覚えてからはしばらく会っていないし、私も自分の群れの雄を見捨てるほど薄情者じゃないわよ」
群れの雄。普通に考えれば一つの群れに3~5匹くらいいてもおかしくは無い……が、この群れには俺とラクマしかいない。じゃあ……

「でも、お前の群れの雄って俺しかいないよな?」

「ふふ、そうね……頼り無い雄が1匹だけね。でも、自分が切羽詰った状況でも幼い私を助けてくれた、親切な雄よ」
ラクマはペロリと俺の頬を舐める。妖艶な笑みを浮かべて真っ黒な前足で俺の首を抱くと、耳元で囁いた。

「あんたのことよ。まだまだ一人前には程遠いけど……私は好きよ。だって、見渡してみてよ……こんなに自然に暮らしていけるグラエナなんてそうそういないわよ。どんなトレーナーだって、狩りなんてさせてくれないでしょ?」
俺としては、それはそれで問題があると思うのだが……まぁ、いいだろう。それにお世話になったのもまた事実だし、狩りの生活を楽しんでくれているのならばそれもいい。


「……だったらさ」

「ん?」

「自然の営みって奴を……俺と……」
ついに言ってしまった。途端に顔が耳まで熱くなる。きっと真っ赤になっていることだろう。

「へぇ、私と同じこと……」
そこまで呟くと、俺を抱きしめたまま首筋を舐める。ゾワリとした快感に、体は、特に局部はしっかりと反応していた。

「考えていたのね。嬉しいわ……」
また首筋を舐める。さっきよりも距離も時間も長い舐め方で。ラクマは抱かれていた俺の腕を解くと

「やっぱり、男は女に尽くしてこそよねぇ……群れのリーダーとしてあんたの献身は存分に受け取らせてもらうわよ」
どうやら、主導権を譲るつもりは全くないらしい。彼女らしい……と言えばらしいが、奉仕させる気満々とはどういう女性として神経をしているのかと疑いたくもなる。

「俺が奉仕すること確定かよ……」

「文句ある?」
こいつの凄みは一瞬で気概を粉砕してくる。こうやってすごまれると、普通の人間ならばもう何も言えなくなるだろう。

「ごめんなさい」
またもや土下座して謝ることになる俺……本当にこいつはなんなのだか。

「よろしい♪」
ああ、夜でよかった……こんな情けない姿他人には見せられないし。

「そうね……野生そのままって言うのもいいけれど、あなたの思うがままに私を弄ってくれるかしら? あんたが攻めたいみたいだから……大サービスって言うことでね、攻めさせてあげるわ」
囁かれたとき、吐息が首に生暖かかった。ああ、攻めさせてもらえるのですか……それはありがたいことです。
 何故だろう……ありがたみがない気がするのは? きっと、気のせいということにしておこう。

「ああ、やってみる」
ラクマが雌だとわかってから調べてみたところ、グラエナは哺乳するポケモンのなかでは珍しく雄より雌の方が体も大きく、強く、攻撃性が高い傾向にある。原因は雌でも血中の男性ホルモンの濃度が高いかららしく、そのせいか陰核*1に至っては『雄が雄である象徴』と同等か、もしくはそれ以上の大きさになるらしい。その根元にある陰嚢も、同様に……だ。
 だから雄と間違えたわけだが、改めてみるとこれは本当に雄にしか見えない。それだけに自分が自慰する様に扱いてやればいいのではないかと思いもしたが、それではさすがにデリカシーに欠けるだろう。自分が自慰すると期と図っても違うし、俺だって女性にいきなりそんなことをされたら引くだろう。
 だから今回はまずトイレの便座に座るや否や、お姫様だっこに近い体制をとって首筋をなでる。いつもこうしていると、いつも気持ちよさそうにして眠ってしまうあたり、悪い感触ではないはずだ。
 その時目をつむりながら気持ちよさそうにしているラクマに顔を近づけて頬と鼻が触れさせる。鼻は湿っていて冷たく、聞き耳を立てるとゆったりとした呼吸音が聞こえる。

「うおっ……」
驚いたのは、彼女の舌が俺のこめかみから耳にかけてを這ったことだ。俺は思わずびくりと肩をすぼめ体を震わせてしまった。

「今のよかったよ……もっとお願いできるかな?」
俺がその舌使いを褒めると、ラクマはオニドリルの首をとったような得意げな表情をする。

「ほう、そんなに毛繕いがお好きかい?」
 味をしめたように、ラクマは先ほど舐めたあたりを重点的に舐め始めた。実は直接耳を舐めているために、他の部分を舐められる時はちょっとした音でもかなりうるさい。だからこそ、快感の虜になって自分の作業をおろそかにすることなく俺の手はラクマの首筋で動いていた。

「何処か痒いところはありますか?」
散髪屋のようなこのセリフはいつも毛づくろいをしている時にはお決まりのセリフだ。こうやって聞くと、ラクマは毎日違う場所を指定してくるのだ。

「左前足の付け根辺りかしらね」
 ラクマは首筋をなでられるだけではまだ普通の受け答えが出来るほど余裕がある……というか全く快感やら何やらを感じている様子はなく、それが胸まで移動しても、ラクマは特に様子を変化させることはなかった。
 自分から言っておいてなんだが、しぶしぶと指定された場所を掻きつつ、俺はこれでいいのかと不安になり始めていた。しかしそれも、腹まで手を下ろしていくと変化が訪れた。先ほどまでは、大事な場所を隠すように腹のほうへ丸まっていた尻尾がピクリと動き、俺のこめかみを舐めていた舌も動きを止める。

「ぐぅ……」
ラクマは甘いうなり声を上げて、体を丸める。押すとの性交の時は腰が大きく丸くなるものだが、地に足付いていない状況でも同じような体制をとるあたり、誰かに教えられるわけでもない本能的な動きなのだろう。

「ようやく……リーダーに奉仕できたみたいですね」
俺は少し白々しさを意識してラクマに声を掛ける。ラクマはというと、目が虚ろと言うか目が泳いでいて、俺に対してまともに目を合わせられていない。

「上出来よ」
荒くなる呼吸の中で、何とか虚勢を張って出てきた言葉に主従を逆転できたようなほのかな優越感が俺の心に沸き上がる。

「それは光栄で」
かなり慇懃無礼なことだったろう。半ば見おろすような口調で俺はそう言った。後々、何をされるのも覚悟の上でないと言えないだろうその台詞は、今だけでも優越感に浸っていたいという少し投げやりな願望によるのだろう。

「あとで、覚えてなさいよ……」
俺の生意気なセリフに対し案の定、『今だけは負けておいてやるが……』という意の言葉を言われてしまった。こりゃ、明日に響かないように懇願する必要がありそうだ。

「お手柔らかにね……」
 とりあえず今のうちに謝る事に近いような言葉でも言っておこうと、焼け石に水とは思いながらも声を掛けた。

「ふん、さて……どうしようかしら?」
 やはり口だけは達者だが、言葉の端々には甘い声が混じっている。その声だけで俺の雄は愛撫されているように立ち上がってしまいそうだ。

「まぁまぁ……奉仕いたしますので」
 グラエナ相手に敬語を使うことをなさけなく思いながら、体をなでる手は徐々に移動していき、自然と彼女の陰核へと触れた。性的な興奮からか男性のそれと同じように大きく立ち上がったそれを、先ほどイメージした"自分が自慰するように"という感覚を頭の中で反芻しながら軽く握る。

「ん……」
ラクマは体を震わせて反応する。口からはごく自然に甘い吐息をもれて、今まで見たこと実聴いたこともないようなその反応は新鮮すぎて、いい意味で開いた口がふさがらない。
 先ほど、腰を限界まで曲げていた時と同じように彼女の体は俺の膝の上で弧を描くように曲がる。俺がその状態で手を上下に動かすと、まるでもっとして欲しいとでも懇願するように腰が前後に動き始める。それはゆっくりとだが、確実にだ。それこそ、雄がそうするような動きであって、自分がどっちを相手にしているのだかいよいよ分からなくなってきた。
 でも、紛れも泣く彼女は雌。彼女が雌であると告白するまでマジマジと見た事は無かったが、雌であることを告白された翌日には本当かどうかを確かめるように、覗いた事があった。それまで雄の象徴にも似た陰核があまりに印象的で気が付かなかった彼女の割れ目を見て、彼女の言うことが本当であることも理解できた。
 なんだか外見は雄らしく、出す声は雌らしくもある。その二面性やギャップは俺にとっては扇情的で、魅力的だった。

「んく……ん……」
上げる声もだんだん押さえつけるのが困難になってきたのか、途切れ途切れだった声は連続して紡がれるようになる。握っている陰核は胸の高鳴りに合わせて、一つ、また一つと肥大化を重ねていく。
 当初は掌で強弱を付けつつ前後に動かす予定だったが、どうやらその必用は無いようだ。彼女の腰が自ら激しく動きすぎていて、動かないように固定する方が逆に難しい。
 さっき自分で頼んだ事はなんだったのかと聞きたいものだが、今の興奮した彼女に聞こえるものだろうか? いや、どちらにせよあえぎ声と、掌から伝わる感覚は俺の雄を奮い立たせるツボに十分はまったようだ。
 ラクマが達するとともに、大きく潮が放たれた。勿論、雄ではないので射精したわけではない。そのときの彼女の表情を見ると、沈める方法が見つからないほどに俺の雄はいきり立っていた。

しばらく息切れをしていたが、やがて膝の上で暴れだして寝返りをうち、床面にタシッと音を立てて前足を下ろす。数秒の間ぐったりとして突っ伏していたが、やがて四肢を伸ばして立ち上がると。俺の股間のところへ鼻を伸ばして匂いを嗅ぎ始める。

「あんたも準備はできているようね? 脱ぎなさいよ」
挑発的で甘い誘い声。俺の本能も劣情も、誘いに乗らないという選択肢は軒並み噛み潰す。それに、今の彼女なら服を噛み千切ってでも脱がしに掛かって来そうなくらいに気分が昂ぶっている。そんな理由から経済的な面でも誘いに乗らない選択肢はありえない。

 下半身の衣服を脱ぐが早いか、彼女の攻めが始まる。ペロペロと舐めるのはいいのだが、固定されていない俺の雄はそのたびに揺れてまともに舐めることすら出来ず双方が非常にもどかしい。
 根元を俺が押さえて固定することによりやっとのことでまともに舐めることが出来た。咥えようとすればどうしても鋭い牙が当たってしまうためにそれを気遣ってくれているようだ。
 だが、それはそれで焦燥を呼び起こすだけで、どうしても絶頂まで達する事は出来そうにない。

 彼女はむしろその様子を楽しんでいるのでは無いだろうか。今までの言動から察するに、こいつは生粋のSっ気がありそうな気がする……というかある。
 さっき言っていた『あとで、覚えてなさいよ……』と言う言葉は今発揮されている……のだといいけれど。彼女の気分によってはこれよりもっと焦らされそうだ。まぁ、焦らされるだけならば大した問題では無いと諦めるしかなかろう。

「どうしたの……? 少し不満そうね。やっぱりこんな舐め方じゃダメかしら?」
妖艶な笑みとともに、舌の動きを中断する。

「あ、いや……」
心を見透かされたと思われるのは癪なので否定する。しかしラクマは、全て分かっていたかのように前へ歩み出て、太ももの辺りにお座りをする。
ラクマの陰核が俺の雄に触れる。見た目はやはり雄にしか見えないのだが、頬にある涙模様の上で揺れている情欲をそそる目を信じればラクマが女だと認めざるを得ない。その事実と、ラクマの屹立した陰核から伝わる圧力が、俺の雄を駆り立てるのには十分すぎた。
 それだけでも耐えられなくなるのに、さらに胸から首筋に掛けて嘗め回してくるのだから堪らない。反射のようにごく自然な流れで、ラクマの首を呼吸困難になりそうなほど強く抱きしめた。

「う……ちょっと苦しい……」
そして、少し強引めのキスをする。言葉とは裏腹に黙って応じて、下にある陰核を反応させたことから、ラクマもまんざらでは無いらしい。

「後で覚え……いや、もういいか」
 口を話して息を整えたラクマの口から、恐ろしい言葉が来ると身構えていた俺の心は一気に安心の二文字を、抱くことが出来た。

「鶫……もう、準備は出来ているわね?」

「……うん」
俺は単純に、返事を返す。淫らな雰囲気に呑まれてに気の聞いた口説きなど出来ようはずもなく。ただ、『うん』とだけ。
 それだけできっとラクマは十分理解できるからそれ以上は必要がないのだ。俺の言葉を聞いたラクマはゆるゆると俺に背を向けて、一度深呼吸をすると首を曲げて横顔を覗かせる。
 俺は無言で頷く。ラクマを無言で答えた。左手を首と胸の境目に手を沿え、立ち膝の姿勢をとる。そしてたいした狙いも定めずに屹立した雄を彼女の雌へ宛がう。先端が入るとラクマの肉壁が俺の雄に絡みつくように包んで熱い歓迎をされた……ら、いいんだけどその思考が甘かった。
 俺の雄が入り口に触れると甘い声を上げるものだからそのまま一気にと言うのを期待していたのだが……現実(ラクマ)はそんなに甘くなかった。

「……っ、やっぱり痛いからちょっとまって」
ラクマを見た限りでは演技半分でそういうものだから性質が悪い。確かに痛かったらそれはそれで気を使うべきだが……演技を半分交えられてこう来られるとは予想外であった。恐らく、先ほど達したせいもあってか余裕が出来ているのだろう。その時覗かせる表情が可愛らしい半面とても憎らしい。
 しかし……これはいくらなんでも寸止めにもほどがあるだろう。ただ、一応はあいつも処女なのだと考えると、演技半分とは言え素で痛いというのも少なからずあって然りのはず。
 ラクマに逆らえないもどかしさを抱えつつ、"それなら痛みも気にならないで、俺に対して寸止めできる余裕もないくらい"に感じさせてやろうではないかと気概を奮い立たせるしかなかった。そうでもしないと俺が耐えられないから。

「じゃあ、痛みが気にならなくなるくらいまでやらせてもらいます」

「よろしい♪」
すっかり主従が本来の形に戻ってしまったようだ。ああ、グラエナ相手に情けない……
 兎に角、やるべき事はアレだ。仲間で十分に粘液が循環していないからこそ痛いのだろう……そう思う根拠はえっと……グラエナの雄程太くも長くもないからだろうからね。自問自答していてこれほど悲しいことは無いな。
 とりあえず、それならば中まで濡らしてやればすむこと……多分。ちょっと汚いかなと思いつつも同じ粘液だからと言うことや先ほどちょっと触れた感じでは似たような感触だったため、音をなるべく立てないように鼻水をすすり、それを指にまぶす。
 滑りも湿り気もこれでよくなる……といいのだけれど。兎に角、中に粘液を供給するようにたっぷりと塗りたくったそれを、彼女の中へ突っ込んだ。

「んあ……」
 突っ込んだ……とはいえ、それなりにゆっくりと慎重に気は使っている。だからこそ、嬌声こそ上げたものの痛みを伴っていると明らかに分かるような声は上げていない。

「大丈夫?」

「少しびっくりしただけよ……続けなさい」
ラクマの中に入れた指から伝わる熱は、ちょうど自分の指を口にくわえたときと同じくらいか、もしくはそれより暖かいくらいか。
 入り口はとても柔らかく、例えるならば耳たぶほどの柔らかさだろうか。中に入ってみると輪っか状の筋肉が指を強かに締め付けてくる。それが指でなく自分の荒ぶる雄の象徴であればどれほどに快感が得られるのだろうと夢想しながら指を前後させる。
 流石に中に入れているだけあって、先ほどとは違い本当に雌を相手にしているのだと実感できる。指を前後させているうちに、ラクマは再び前足と後ろ足の間隔を狭めることで腰を曲げ、雄を受け入れやすい体勢を取った。
 こうなると、さっきの仕返しをしたくなるのが人情と言うものだが、仕返しが恐い。ここは素直に相手が満足するまでやってやるべきだろうと、ひたすらに愛撫を続ける事にする。
 しかし、彼女はと言うと満足と言うには程遠いと言うかいまいち感じ切れない、煮え切らないといった表情だ。気分の問題だろうか、それとも体積の問題だかは分からないが願わくば前者だけであって欲しい。

「んあぁ……」
ラクマは腹を大きくへこませて深呼吸をする。

「どうしたの?」
心配になって思わず手を止めてしまったが、その時見せた彼女の表情はいかにも不満げだ。

「やっぱあんた、そんなものじゃ満足できないわ。そろそろ、我慢もつらくなってきたんじゃないの?」
いや、とっくの等に辛かったんだけどね。言えないよね……ラクマが相手じゃ……

「それでは……お言葉に甘えさせてもらいます」
右手と左手と前足の後ろあたり、左右対称の場所に添えて俺の腹を尻尾に押し当てる。先端が入った雄をゆっくりと差し込む。
 途中このまま一気に押し込みたいと言う甘い誘惑を気合で押しのけて、ラクマの体をいたわるようにその感触を味わった。柔らかいのに強く締め付ける肉壁は、これまでの前戯により適度なぬめりで覆われていて、滑りがいい。
「……っつ」
「……っく」
 
俺たちは同時に声を上げた。俺は快感から、恐らくラクマは痛みからだろう。
内部はラクマの鼓動にあわせて微妙に脈打ち、快感に押されて腰が浮きそうになる。全て差し込むまでラクマは一度だけ痛そうに声を漏らしたが、それっきりぐっと歯を食い縛って耐え抜いた。ラクマは『狩りは女の仕事』と言い切るだけのことはあって獲物からの反撃の痛みにも耐えるだけの器量はある。

「ちょっと……まって……」

「本当に大丈夫かよ?」

「一応……」
ラクマがそう言うものだからしばらくそのままだった。俺は体重の大半をラクマの体に預け、繋がったまま彼女の反応を待つ。

しばらく待って、息が整ったのか心の準備が出来たのか、先ほどのように横顔を覗かせ、潤んだ目で見つめながら、やがて口を開いた。

「もう大丈夫……動いて」

「無理するなよ?」
そう言いつつさらに深くへと差し込むと、とたん快楽が俺の下半身を支配した。摩擦され、力の掛かる場所が前後して、それらの刺激が否応が無しに快楽と言う名のベクトルを持って絶頂へと導こうとしている。
 対してラクマは呻きとも喘ぎとも取れる声を上げている。痛みと快感がない交ぜになった下半身の感覚に困惑しているようだが、しっかり雄を受け入れるように背中を丸めて前足と後ろ足の幅を狭めている。この体勢、もしかしたら痛みを和らげるのにも一役買っているのかもしれない。

ラクマの声が徐々に甘くなっていくと、俺の劣情はいといよ最高潮に達した。俺は無意識の内に、より強く大きいラクマの甘い声を聞きたくなって、体から離した右手でラクマの陰核を扱き始めた。
 二箇所の性感帯を攻められて、ラクマは大きく声を上げた。硬直とも取れるほど体が強張り、次いで肉壁も強烈に収縮した。

「あぐぅ……イクぞぉ!」
突然増した刺激に、俺は確認をとる間もなく絶頂を迎えた。
快感とともに、俺の精液が流れ出してラクマの中に注がれる。その感覚に酔いしれながらも腰の動きも手の動きも止めずにいる。そうすることでラクマの締め付けはより強くなるし、ラクマの声がもっと聞ける。
 一拍遅れるように、ラクマのほうも達した。足腰に力も入らないだろうに、俺が体重を預けても健気に足を伸ばしている。
 恍惚とした表情を浮かべていて、呼吸は荒いが落ち着いた規則正しいリズムだった。

「リーダー……お疲れさま」
息切れが収まった頃に引き抜くと、まずは床に落ちた二人の白や赤や無色の体液をトイレに備え付けられたトイレットペーパーであらかたふき取り、次いで濡らしたタオルで体をふき取る。

「やっぱり群れで暮らす以上こうでなくっちゃね」
俺がラクマの体を拭いているとき、快感の余韻のせいでよく練った水飴の様に甘く濁った目でこちらを見て、満足げに口元を緩めていた。つられて俺まで口元が緩んでしまいそうだ。

「だから群れって言っても俺とお前しかいないんだけど……」
俺は力なく笑いラクマの頭にぽんと手を置く。

「それでも、群れって良いな……本当に」
深夜、交わった二人は抱き合いながら眠りに付いた。群れの利点を活かす様にお互いの体で温めあって。


数か月を挟んで、俺は親の墓の前に花を添えた。

「両親ともに、生命保険に入っていなかったことを恨みもしました。遺産なんて借金だけで、相続を放棄しても家から家具から全てを差し押さえられアパート暮らし。挙句の果てにはあんな所で野良エナと二人暮しを強いられた。
 でも、今は恨んでいません。バイトだけれどもちゃんと仕事にありつけました。日雇いで稼いだお金も、節約とラクマの狩りのお陰で少しばかり貯金も溜まったから、今なら部屋も借りられます。

 それに……一度野外で暮らす生活をしたお陰で、大切な者に出会えました。孫を残せる相手ではありませんが、それでも……最高のパートナーです」
ひとしきり言って、ラクマの牙で線香に火を燈す。墓石の手入れを終えるまで、ラクマは黙って見ていた。

「終わったのかしら?」

「うん、終わったよ」
一緒に普通の家で暮らす時、俺はラクマに一人前と認めてくれるのだろうか。まあ、そんなことはどちらでも良いのかもしれない。

 俺は幼いラクマを助けた。

 恩返しをするようにラクマは応えてくれた。

 "持ちつ持たれつ"これからやって行きたい。心からそう思えるラクマが、どうしようもなく好きだということに気付いた。
 墓前で手を合わせる俺の脚にラクマがそっと舌を這わせる。ああ、くすぐったいじゃないか。


あとがきなど 

まずは、ノベルチェッカーにかけてもらった結果など。


【作品名】持ちつ持たれつ
【原稿用紙(20x20行)】 57.0(枚)
【総文字数】 17258(字)
【行数】 427(行)
【台詞:地の文】 14:85(%)
【ひら:カタ:漢字:他】 60:5:34:0(%)
【平均台詞例】 「あああああああああああああああああああ、あ」
一台詞:23(字)読点:40(字毎)句点:138(字毎)
【平均地の文例】  ああああああああああああああああああ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ、ああああああああ。
一行:68(字)読点:39(字毎)句点:39(字毎)
【甘々自動感想】
暗めの雰囲気が良い作品ですね!
長さは中編ぐらいですね。ちょうどいいです。
三人称の現代ものって好きなんですよ。
一文が長すぎず短すぎず、気持ちよく読めました。
それに、地の文をたっぷり取って丁寧に描写できてますね。
「少しびっくりしただけよ……続けなさい」って言葉が印象的でした!
あと、空行が多かったように思います。
あと、個人的にひらがなで書いたほうがいいと思ってる漢字がいくつか使われていました。
これからもがんばってください! 応援してます!

ええとですね……まずは皆様に言わなければいけないことが一つ。
私の正体は……リングです。一度まっさらな状態で評価をしてもらいたかったのです。『こういった形で投稿』というのは偽名で投稿するという形のことです。
 カゲフミ様や&fervor様など一部の人には正体を教えていましたが……名無し様には一応わからないようにしておきました。とはいえ、文章の癖が出過ぎていて言われなくとも感づいておられる方はいらっしゃったようですがね。

 さて、こういう風に書くと傲慢に思われてしまいそうですが、描写の細かさでは勝っていると思えるような人たちと比べても私へのコメントが少ないのは何故かと考えた結果……いくつか予想を立ててみました。
『話が重い』『読みづらい』『文章力が中途半端』『設定がややこしい』……こんなところでしょうか。とにかくストーリーの問題は大きそうですね。
 でも、私にはライトでポップな文は書ける気がしませんので……無理ですね。もっと文章力上げるしか……ないよなぁ。

とにかく、読んでいただいた方はありがとうございました。



何かあればどうぞ

お名前:
  • アイテム強奪は、資金稼ぎのためにマッスグマを入れているトレーナーの影響ですw アニメではものすごい大量のアイテムが保管してあってかわいかったです。
    さて、主人公がホームレスなのはこういう御話が書きたかったからなんです。単純な理由ですね。
     このお話のテーマである『持ちつ持たれつ』を表すには、こういった境遇の方があっていると思いまして。ですので、最終的にああいった雰囲気になるのは必然と言うか、そうしなければならなかったって感じですね。
    感想ありがとうございました。 -- リング 2009-03-17 (火) 01:33:44
  • 最初主人公は誰なのかなぁと思って読み進めて・・・
    まさかの主人公がホームレス!?
    前文を読んだときは限りなく奈落の底まで行くのかなぁと思っていました。
    最終的には温かい感じだったなぁと、
    ジグザグマだったか・・・?
    アイテム強奪は(ホームレス)らしい描写だなぁと思いました。 -- ? 2009-03-16 (月) 00:58:12
  • >AK様
    家無しで生きることの厳しさと、パートナーがいることの頼もしさそれをほのぼのとした印象に感じたわけですか。作者として、いろんな人がいろんな風に考えていただけることはとてもうれしく思います。
    読みやすさや文章力は……そうですか。無理に他の人をリスペクトする必要もないと言ってくださる訳ですね。貴方の言葉がこれからも続ける励みになりました。感想ありがとうございました -- リング 2009-01-29 (木) 23:20:06
  • たしかに「こういった形で投稿するのは初の試み」ってわけですねw別にこれといって読みにくくなかったですし、ちょいグロ?程度だし暗いっていうよりほのぼのという感じが強くて私は好きです。まあ、話が重いのは別に感じなかったですし、設定も詳しく説明してあったので結構分かりやすかったです。文章力もいいくらいの感じだと思えます。では長文失礼しました。 -- AK ? 2009-01-26 (月) 02:03:01
  • あとがきの通りのわけで、名前を戻しての返信となります。
    まずはカゲフミ様、感想ありがとうございました。
    世界観を作ることに対してのこだわりは捨てられないので、リアリティがあるというお言葉は大変励みになります。
    さて、種族を超えたつながりについてですが、どうすれば一緒にいたくなるかを突き詰めて考えた結果がタイトルそのものなのですよね。それだけにどんな風に協力しあっているのかを細かく書いて何が相手にとってプラスであるのかをお互い明確にする。官能に入る前はそればっかりを考えて執筆していました。
    それだけに、全く憂いなく暮らせることができるなら、貴方の言うとおりその存在はとても大きく尊いものだと思います。そういったものを感じ取っていただけたならば作者冥利に尽きますね。 -- リング 2009-01-26 (月) 00:13:07
  • 鶫が家を失った経緯や、ラクマと知り合うきっかけなど細かく描写されていて分かりやすかったです。
    細部の表現に至るまでリアリティがあって、現実の世界にポケモンがいたら、きっとこんな感じなんだろうなあと。
    住むところがなくても、経済的に厳しい状況であっても、そばにいてくれる誰かの存在は大きいものですね。
    種族を超えた繋がり、というのもなかなか良いものだと思いました。 -- カゲフミ 2009-01-24 (土) 20:42:06
  • ↓の名無し様
    違う名前でコメントを投下したりなどもしていたので、はじめましてではない可能性が高いです。
    とはいえ、それは関係ありませんね。確かに、ギブアンドテイクという言葉で簡単に洗わせてしまう二人の関係ですが、愛情には替えが効きません。それだけにかけがえのないギブアンドテイクをし合う二人は見ていればこちらまで幸せになるでしょうね。少しばかり憧れを投影しすぎたでしょうか?
    感想ありがとうございました -- ベンゼン ? 2009-01-21 (水) 19:48:36

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*1 クリトリスのこと

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Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
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