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折れない、意思

/折れない、意思

writer is 双牙連刃

久々のリィ回でございます。……毎回大人っぽくなっていくようにしてるけど、ライトよりリィは動かすのが大変だったり……。
強さを求め続けるエーフィの物語、お楽しみ頂ければ幸いです。↓よりスタートにございます。



 庭では今、人間さんが見てる前でレオ兄ぃとソウ兄ぃが組手をしてる。
今日から人間さんは夏休みっていうのに入ったから、一ヶ月は昼間でも家に居るんだって。別に僕達のやる事は変わらないんだけど……なんだかやっぱり違和感あるかな。
で、ライトは朝から「どうすっかなぁ……」って言いながら何か悩んでるみたい。レン姉ぇから聞いたところによると、昨日の夜にジルさんのところに行って何かあった……らしい。
ジルさんとライトが喧嘩なんかするとは思えないから、多分他の誰かに会って何かしたんだと思う。それで、その相手とまた何かあったからああして悩んでるってところかな。
どっちみち、ライトは悩んでる事を誰かにあまり打ち明けないから推測でしかないんだけどね。……僕がもっと頼りがいがあるようになれば、ライトも悩みを話してくれるようになるかな?
……それには、まだまだ実力不足、かな。知らない事も多いし、まだ本格的に戦ったことも無いもんなぁ。
今はイーブイの姿で居るけど、エーフィになればかなり戦えるようになったと……思う。いや、思いたい、が現状かな、やっぱり。
このイーブイの姿でも空の欠片を使えば、とも思うけど、あれをバトルで使うと相手が大変な事になりそうだから訓練でも滅多には使わない。人間さんの前では絶対に使うなってライトに言われてるしね。
でもソウ兄ぃもライトも何かしてるとなると退屈だな。組手も出来ないし、戦闘指南も受けられない。

「ふぅ……何処か散歩にでも行こうかな」

 ……いや、誰かに返事を求めた訳じゃないんだけど、何というか口を吐いて出たというか。
うーん、もう人を怖くはなくなったけど、僕一匹だけで出歩くと皆心配するだろうし、困ったな? どうしよう。
フロスト姉ぇやプラス兄ぃも居ないし、リーフ姉ぇとレン姉ぇはキッチンで何か作ってるみたいだし……駄目元でレン姉ぇ達の所へ行ってみようか。

「二匹とも、何作ってるの?」
「あ、リィちゃん。今ちょっと出汁巻き卵に挑戦してるんですけど……」
「んー、ちょっとお砂糖が多かったかな? 焦げちゃったね」
「あうー……」

 ん、確かにちょっと焦げたような香りがする。でもこれくらいなら、まだ食べられるんじゃないかな。

「ねぇ、リーフ姉ぇ、今焼けたの少し食べさせてくれない?」
「え? でも、焦げちゃってますよ?」
「大丈夫。一口分でいいから、ね?」

 不思議そうな顔してるけど、一口分切って僕にくれた。
食べてみると……なるほど、確かに結構甘めだね。これなら普通の卵焼きの焼き方じゃ焦げちゃうのも仕方ないや。

「リーフ姉ぇ、次焼く時は卵を返すのを早くして、回数を増やすと良いと思う。そうすれば、分量を変えないでも綺麗に焼きあがるんじゃないかな」
「返すのを早くして、回数を増やす……」
「あと、形が出来てきたら火を絞って、中を蒸らす感じにするとふわっと焼きあがると思うよ。どうかな? レン姉ぇ」
「一口でそれだけ分かるなんて、リィちゃん凄いよー。うん、それなら砂糖多めでも綺麗な出汁巻き卵になると思うよ」
「な、なるほど、これはレッツチャレンジですね!」

 うん、どうやら合ってたみたい。さっき失敗しちゃった奴は……焦げてるところを取り除けば大丈夫そうかな。エーフィになってと。
包丁を持つイメージで浮かせて、卵焼きの焦げてる部分を切り落とす。うん、これなら食べられる。
リーフ姉ぇは次のを焼く準備に入ったみたいだし、この切ったのはお皿に盛り付けておこうか。

「ふふっ、リィちゃんの上達にも驚いちゃうなぁ。皆頑張ってるし、私も頑張らないと追い抜かれちゃいそうだよ」
「僕なんかまだまだだよ。知識で知ってるのと、それを再現出来るかは全然違うからね」
「再現出来ちゃうのがリィちゃんの凄いところだと、私は思ってるけどな。私じゃちょっと真似出来そうにないよ」
「そうかな? 僕のは所詮真似に近いものだし、きちんと自分の力で何かを覚えた方が凄いと思うけどな」

 そう、僕の力は借り物。誰かに教わったものを僕が出来る範囲で再現してるだけ。……まだ、僕は自分だけで何かを覚えるって事をしてない。
僕には、積み重ねてきた確かなものがまだ無い。それじゃあ駄目だ、まだ僕は、強くない。
……ん? 考えてる内に良い香りがしてきた。あぁ、リーフ姉ぇがまた焼き始めてたんだ。今度は上手くいくかな?

「あれ? そういえば、リィちゃんはどうしてキッチンへ? お腹空いたの?」
「あ、ううん。退屈だから散歩に行こうかと思ったんだけど、一匹で行くと皆に心配掛けちゃうかなと思って」
「あ、そういう事だったんだ」
「だったら、ほっ! これが終わったら、ととっ、一緒に行きましょう!」
「え、いいの?」
「もち、ろん、でぇす!」

 す、凄い気合い入ってるねリーフ姉ぇ。あ、でもちゃんと綺麗に焼けてるみたい。

「そうだね。私も一緒に行っていいかな?」
「それはもちろん。なんかごめんね、付き合わせるような形になっちゃって」
「いいよぉ。寧ろ、リィちゃんから誘ってくれて嬉しいな」

 よかった……なんだか最近、レン姉ぇとは上手く噛み合ってないような感じがしてて気持ち悪かったんだよ。まぁ、僕が一方的にそう感じてただけだろうけど。
リーフ姉ぇとレン姉ぇ、それと僕で散歩か。この取り合わせは始めてだなぁ。何処に行こうか?
……図書館、かな。あそこは落ち着くし、マールさんも居るしね。

「ほっ、と。どうですか!?」
「うん、ばっちりだね」
「上手だよリーフちゃん。じゃあ、それ食べたら出かけようか」
「分かった」
「了解です!」

 食べるのは、まぁ僕達だけでいいよね。皆の分には足りないし。



 燦々と日光を降り注がせてる太陽の下、僕達は今図書館へ向かってるところ。……幾ら太陽ポケモンって言われてるエーフィでもこれは暑い。イーブイだとダウンしかねないよ、これ。
あのもこもこの毛でこの下を歩く……想像しないでおこう。暑さでげんなりしてくる。

「お天気としては最高ですけど、あっついですねー」
「お家の外に出た方がいいのは分かってるけど、これは水分補給をこまめにしないと不味い暑さだねぇ……」
「うーん、退屈凌ぎにしてもこれは結構きつかったかな」

 歩いてる人達も日傘を差したり帽子を被ってるもんなぁ。天気が良すぎるっていうのも考えものだね。僕が思っていいのか疑問だけど。
でももう少しで図書館だ。あそこなら涼しいし、落ち着いて休めるもん。あ、でも飲み物はあったかな?
とにかく行こう。このままこの炎天下でウロウロしてるのは倒れかねないや。
少しだけ足早に、町の中を進んでいく。時々レン姉ぇ達の様子を見ながらね。太陽の下で他のポケモンより元気で居られるのは、やっぱり進化の恩恵なのかな? 今度ライトに聞いてみようか。
あ、見えてきた。今日もマールさんは図書館に居るかな?

「つ、着きましたぁ……」
「はぁっ……な、中に入ってとりあえず休もうか」
「ニ匹とも、大丈夫?」
「平気平気。心配ないよ……多分」

 最後のがやけに自信無さげだったのが引っかかったけど、レン姉ぇもリーフ姉ぇもとりあえず元気。なら、入ろうか。
念で扉を開けると、涼しい空気が外に流れてきた。空調も効いてるのかな? 涼しいのには変わりないからどっちでもいいね。
受付に居る、本の貸出なんかをやってる人に軽くお辞儀して中に進むと……やっぱりあまり人は居ない。ポケモンなんか本当に数える程度だよ。

「はぁ、生きた心地です~」
「本当、涼しくて助かったよぉ」
「やっぱりニ匹とも大分暑く感じてたんだね。無理に平気なんて言わなくてよかったのに」
「うっ、まぁその……」
「リィちゃんに心配掛けたくなかったですし、お姉さんとしての意地というかなんというか……」

 もぉ、意地張って倒れられたらそれこそ心配だよ。まぁ、着いてから言っても仕方ないけどさ。
さて、マールさんはいつものところかな? パルキアさんの事を調べる為に来てから何度か来てるけど、大体いつも同じところで本を読んでるのを見掛けるんだ。
あ、居た居た。あれ? でも今日はマールさんだけじゃない。人間さんが一人一緒に居るみたいだ。

「争うニ匹の力は次第に町を壊して……あら?」
「こんにちは、マールさん」
「その声は……リィちゃん?」
「うん。あ、進化してからは来た事なかったっけ」
「えぇ。へぇ、エーフィになったのね。素敵よ、リィちゃん」
「リィ? マール、もしかして……いつも話してくれるお友達が来たのかしら?」
「あ、うん。イーブイ……じゃなくて、エーフィのリィちゃん。あ、この人はコトハって言って、私のご主人よ」

 そうだったんだ。コトハさん……綺麗な人だな。黒い長い髪で、スラッとしてて、なんだか優しそう。

「始めまして、と言ってもマールから話は聞いていたけどね。コトハよ」
「あ、えっと、始めまして。リィです」
「あら? リィちゃん以外にも……誰か居るのかしら?」
「あ、はい。ルカリオのレンです。一応リィちゃんの保護者、というか同伴者です」
「同じくベイリーフのリーフです。コトハさんとマールさんですね。お見知りおきを、です」
「ってことは、リィちゃんと一緒に暮らしてるポケモンなのね。こちらこそよろしく」

 レン姉ぇ達とマールさん達も挨拶を済ませて、同じ机の空いてる椅子に座らせてもらった。
そう言えば今、マールさん何か読んでたみたいだね。なんのお話を読んでたのかな?

「ちょっと気になったんだけど、マールさん何読んでたの?」
「あ、これ? 最近書かれた本らしくて、アラモスタウンという場所で起きた事件を物語にした本みたいなの。今日図書館に入ったばかりの本なのよ」
「半分は、私が読みたくて入れてもらったってところがあるのだけどね」

 えっ? ……そうか、マールさんのご主人ってことは、コトハさんは!

「コトハさんは、この図書館の管理人さん……」
「えっ、そうなんですか!?」
「えぇ、一応ね。でも名ばかりで、仕事も本を読むのもマールに手伝ってもらわないと出来ないのだけど」
「……あの、失礼だとは思うんですけど、コトハさん目が?」
「あら、分かるのねレンちゃん。生まれつき、私の世界はぼんやりとしていて、眼鏡を掛けてやっと少し物の輪郭が分かる程度。後は、色と明るさがある程度分かる程度ね」

 そんな、コトハさん……それって、殆ど見えてないのと一緒じゃないか。碧くてとっても綺麗な目なのに……。
え? コトハさんの手が僕に触れた。そのまま、僕を優しく撫でてくれてる。

「その代わり、ちょっと変わった事が分かるの。今リィちゃん、私の為に悲しんでくれたのね」
「……どうして、分かったの?」
「そうねぇ、穏やかな青色は、経験からして誰かを思って流す涙の色。心から、誰かを憂う事が出来る優しい心の持ち主である証拠」
「ど、どういう事ですか?」
「渦を巻くような黄色は疑問と混乱。思わせぶりな事言って混乱させちゃったかしら」
「……まさか、相手の心を色として?」
「えぇ、コトハは相手の心を色として知る事が出来るの」

 心を、色で? そんな事が出来る人、始めて見たよ。

「そ、そんな事が本当に出来るですか!?」
「まぁね。本当なら、こんなものが見えるより普通に目が見えてくれた方が嬉しいんだけど」
「超能力ってことなんでしょうか?」
「どうでしょうね? 私には普通に見える事だし、特別凄い力ってものとは違うかもしれないわね」

 話しながらコトハさんはクスクスと笑ってる。……僕がコトハさんみたいになってたら、こんな風に自分の辛い事を話して、笑えるかな?
自分の弱さを晒して、それでも笑っていられる。これもまた強さ、なんだね。まだ僕の手は届かない、自分の弱さに負けない強さ。
僕の周りにはどうして強いって感じる相手が多いんだろ。……いや、だからこそ、まだまだ僕は強くなりたいと思うのかな。
強くなりたい。昔の自分より、今の自分より。強くなったら、強くなった自分よりも、更に強く。真っ直ぐに。

「……どうかしたのかしら、リィちゃん」
「ううん、なんでもないです。ただ、コトハさんも凄い人だなって思っただけ」
「うーん、確かに凄い人ですよね」
「だね。心の色かぁ」
「ふふっ、リィちゃんが言ったのはそういう事では無いと思うけど、そういう事にしておきましょうか」
「あはは、はい」

 今の僕の心は、コトハさんにはどういう風に見えたのかな? 笑ってるって事は、きっと悪い色じゃなかったんだと思うけど。
あ、コトハさんがマールさんに話の続きを頼んでる。それなら、僕達もついでに聞いてようか。

「うーん、途中まで話しちゃったけど、また最初からにする?」
「それで構わないわ」
「え、いいの? 何も僕達に合わせてくれなくても……」
「いいのいいの。楽しいものは他の誰かと共有するとより楽しいものになるんだから」

 そういう事なら、僕達もありがたくマールさんの話を聞かせてもらおうか。
物語の舞台の名前はアラモスタウン。そこで起こった、一つの事件を本に纏めたのがマールさんが持っている本。
……聞いてて驚いたよ、だってこの物語にはあるポケモンが出てくるんだから。
どういう事なんだろ? ……パルキアさん、これがパルキアさんが言ってた戦いなの? なんか違う気がするけど。
うーん……今日の夜辺り、パルキアさんに聞きに行くしかないかな。そもそもパルキアさんについては分からない事が多いし、ゆっくり話してみたいかも。

「著者、トニオ……町の研究をしていた方みたいね。今は、奥さんと一緒に町を守った時空の塔の管理者をしてるみたい」
「時空の塔、オラシオン……塔一つを楽器にするなんて、本当にあった事なのかな?」
「音楽がポケモンに影響を与えるって言う事は多々あるわ。これも、ありえないとは言い切れない話かもしれないわね」
「「……」」
「ん? リィちゃん? リーフちゃん?」
「え、あ、な、なんでもないです」
「……うん、なんでもないよ。気にしないで」

 リーフ姉ぇもやっぱり気になったんだ。まぁ、僕以外だとパルキアさんに会った事あるのリーフ姉ぇだけだし。
レン姉ぇとマールさんは不思議そうにしてるけど、コトハさんは静かに僕達の事を見てる。……見えてない筈なのに。
やっぱり心の色が見えるっていうのも本当、なのかな。なんだか自分の内側を見られてるような、そんな眼。今までのどんな人とも違う感じだ。

「マールもありがとう。疲れたでしょ?」
「平気よ、あなたの目の代わりになるのが私の役割なんだから」
「……本当にありがとう。でも飲み物くらい飲んだって罰は当たらないわよ」

 ん? コトハさんが椅子の影から何か出した。水筒、だね。

「自家製のレモネードなの。皆も飲んでみる?」
「いいんですか!? ありがたいです~」
「自家製……あ、頂きます」
「じゃあ、僕も頂きます」
「はい。お口に合うかは分かりませんけど」

 紙コップに水筒に入ってた飲み物が分けられて、それぞれ皆の前に置かれた。レモネード……どんな飲み物なんだろ?
念でコップを浮かせて飲んでみると、スッキリした甘さと酸味が口の中に広がった。これは、レモンの味だね。

「どうかしら?」
「うん、美味しいよこれ」
「飲み物が欲しかったし本当にありがたいです~」
「これ、手作りなんですよね!? 作り方教えてもらえませんか!?」
「え? えぇ、いいけど……」

 な、なんかレン姉ぇが真剣な顔してると思ったらそういう事か。確かにこれは、レン姉ぇが作れるようになるといいかも。
コトハさんにレン姉ぇが教わり始めたし、僕達はしばらく話でもしてようか。



 図書館でしばらく休んだ後、外に出てみるとさっきまでよりも雲が出てて少しだけ過ごしやすくなってたよ。
で、今僕達はコトハさん達と歩いてるところ。丁度お昼時だし、コトハさん達も家に帰るって事だったからね。あ、コトハさん別に今日は仕事で図書館に居たんじゃないんだってさ。

「ちょっと曇ってくれたお陰で大分動きやすくなったですね」
「幾ら草タイプでも暑過ぎるのは流石に辛いものねー」
「すいませんコトハさん、わざわざメモまで貰っちゃって」
「いいのいいの。でもまさかレンちゃんからそんな質問をされるとは思わなかったわ。ご主人の方にでも作ってもらうのかしら?」
「レン姉ぇは自分で作る為に聞いたんだよ。うちの人間さんは……多分それ見ても作れないんじゃないかな」
「うん、多分ね……」

 事情を話すと、流石にコトハさんも苦笑い。まぁ、ライトからも聞いたけど、普通家の事って人間さんがやる事らしいから苦笑いされても仕方ないけど。

「まぁでも、うちも似たようなものだからあまり言えないけれどね」
「コトハさんにはちゃんと理由があるんだから仕方ないんじゃないかな」
「それに、コトハはよっぽどの事が無いと自分で家事はしちゃうからね~」
「はぁ、ご主人にも見習ってもらいたい……けど、ご主人不器用だからなぁ」

 レン姉ぇの溜め息が重い。自分で家事をしながら、やっぱり人間さんに色々やってもらいたいとは思ってたのかな?
今はレオ兄ぃや僕、それにリーフ姉ぇも手伝ってるしますます人間さんが家事をする事から離れちゃってるけど……いいのかな? あまりよくない気もしてきたけど。
その辺は気にしなくてもいいか。気にしても仕方ないし。
そのまま歩いて、交差点に差し掛かった。のは別に構わないんだけど……。
変な二人組が僕達に近付いてきてる。どうも僕達の事見てるみたいだし、なんだか嫌な感じがする。

「おい、そこの奴」

 うわ、声掛けてきた。でもコトハさんはまだ自分が呼ばれてるって気付いてないな。これなら、信号さえ変わってくれればそのままやり過ごせるな。

「聞こえねぇのか? おい!」
「……誰だか知りませんけど、おいなんて呼ばれる筋合いはありません。無粋な輩と言葉を交わす気もありません」
「なんだとてめぇ? 人が折角話しかけてんのに随分な態度だなぁ、が!?」
「汚い手でこの人に触れるな。道路に吹き飛ばされたくなかったらな」

 こういう時ライトならどうするかな? ……多分、同じようにコトハさんを守ろうとするよね。
コトハさんの肩を掴もうとした人間の腕を、念で捻り上げてやった。そのまま睨みつければ、さっき僕が言った事が本気だって分かるでしょ。でなきゃただの馬鹿だ。

「て、てめぇ、兄貴にポケモンをけしかけるとは良い度胸だな!」
「こちらに手を出そうとしてきたのはそちらからだ。それに、主導権を握ってるのがこちらだって言う事を忘れてるんじゃないか?」
「い、いででで! うで、腕がぁ!」
「り、リィちゃん」
「リィちゃん、そんな相手に力を使う事は無いわ。放していいわよ」

 ……コトハさんが言うなら開放してやろうか。何をしてきたとしても、コトハさんには触れさせない。
僕が腕を捻っていた奴は捻られてた腕を振りながらこっちを睨んでる。昔の僕ならそれで震えてただろうけど、もう僕だってこれくらいじゃ怯まないよ。

「こ、この野郎……人が大人しくポケモンの交換を持ちかけようとしてんのに……」
「交換? そんなものに応じるつもりはありません」
「いーやもうそんな事言うつもりはねぇな」
「兄貴を痛い目に合わせたんだ! それ相応の覚悟は……ぅっ……」
「……二度言うつもりは無いよ」

 さっきどうなったのか分かってるから、お付きの男がたじろいだ。変な服着てる、さっき僕が捻り上げた男も顔を引き攣らせてる。

「ま、待て!」
「何を? これ以上僕達に関わるつもりなら……どうなっても文句は言わせないよ?」
「ち、畜生、覚えてろよ!」
「覚えてろ? なら、後から何かする気? だったら今ここで仕留めようか」
「ひぃぃ! 兄貴、このエーフィの牡ヤバ過ぎますってぇ!」
「わ、忘れていい! もう関わらない! わぁぁぁ!」

 やれやれ……ある程度穏便には済ませたつもりだよ。まったく、ああいう偉そうに周りに迷惑掛ける奴は見てるとイラついてくるよ。
多分、僕が始めて見た人間と同じような感じがするからなんだろうな。自分が1番偉いと思って、脅せば周りは言う事を聞くと思ってるような感じ。
そういう相手には、絶対に負けるつもりは無い。相手がなんであろうとも。

「リィちゃんが、追い払っちゃったです……」
「これくらいなら僕にだって出来るよ。伊達に訓練してた訳じゃないし」
「で、でもあまり無理しちゃ駄目だよ? あんな怖そうな人達に……」
「見た目程大したものでは無かったようだけれどもね。あの分では、連れていたポケモンも知れたものでしょう」
「だからってコトハも無茶し過ぎよ……リィちゃんが居なかったらどうするつもりだったの? 多分あの様子からして、バトルになったら二人同時に仕掛けてきてたよ?」
「その点は大丈夫。私だけだったら恐らく声自体を掛けられてなかっただろうし。そうよね、リィちゃん」
「まぁ、多分ね」
「え、どういう事?」

 だって、あの男が見てたのって……レン姉ぇの事だったから。多分交換の対象もレン姉ぇだったんじゃないかな。
怖がらせても仕方ないし、これは伏せておくけど。コトハさんも気が付いてたとは、やっぱり凄いなぁ。

「それにしてもリィちゃん、あなた、強いのね」
「え、僕が?」
「確かに、あの二人を追い払った時のは迫力いっぱいでしたねー」
「なんとなく、誰かに似てた気もするけどね」
「それもそうだけど、あの二人と対峙しても揺れない心。物怖じしない意思の強さは少し驚いたわ。あんな状況なら、誰だって不安に思うものなのに」

 ……不安、か。確かにそんなの感じ無かったかな。逆に凄く落ち着いてた気がする。
ライトが言ってたよ。相手と対峙する時は、まずは落ち着けって。そして、相手よりも有利になるよう考えて動く。それさえ出来れば負ける事は無い、だったかな?
考えてなかったけど、僕がやったのはそれだったのかな? まぁ、結果として相手を怯ませて逃げさせたって事だからいいか。

「……あなたの中には、確かな意思があるのね。決して曲がらず、折れない意思」
「折れない意思……?」
「それは、あなたの強さ。心の強さっていうのは、誰もが持ってるってものではないわ。特に、あなたが持ってるような真っ直ぐな意思はね」

 折れない真っ直ぐな意思……僕のは、本当にそれなのかな? 
誰にも、自分にも負けない強さを求める事が強さ……か。どういう事だろ? 考えてもよく分からないな。

「別に分からないならそれでいいわ。それは、きっとあなたには見えない強さだから」
「僕には見えない?」
「見えなくても、必ず分かる時が来るから気にしないで。さっ、そろそろ行きましょうか」

 あ、信号が青になったと思ったらコトハさんが歩いて行っちゃった。それを慌ててマールさんが追っていく。
コトハさんて、本当に不思議な人だな。目が見えないなんて感じさせないし、他の物は沢山見えてるみたいだ。
……強さ、か。僕が目指してる強さは僕にはまだ無いけど、別の強さがコトハさんが言うように僕にはあるのかな?
それが分かる時、僕は……また少し強くなれるのかな。いや、元々ある強さに気付くだけだから、そうじゃないか。
考えても分からないんだし、今は歩いていこうか。立ち止まらなければ、きっと分かる時がくる筈だから。

「……行こうか、リーフ姉ぇ、レン姉ぇ」
「え、あ、うん」
「……なんだかリィちゃん、どんどん逞しくなってるような気がしますね」
「本当だねぇ……」
「ん、どうかした?」
「ううん、なんでもないよ」
「ありゃ、コトハさん達が向こうで待ってるみたいだし行きましょうか」

 あ、本当だ。と言っても、もう少し進んだら道が違うらしいけどね。
でも、そこまでは一緒に行こうか。もう少し、コトハさんの事知りたくなったし。
人相手にこんな事を思うようになったんだから、僕は……ちゃんと強くなれてるよね。
これなら、家の人間さんとももっと仲良く……なるような事があったら、考えようか。


~後書き?~

……orz リィ、君を動かすのは難しいよ……。
久々なのもありますが、どーもリィは難しい。牝だけど牡らしく、子供だけど大人並の考え方、どの辺で折り合いを付ければいいのか……研究不足やorz
嘆いていても仕方がない。そろそろリィの戦闘や能力の使い分けの導入なんかも視野に入れつつ、これからも頑張る! 
…性格が真面目で堅いから動かし難いのかなぁ?

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  • イヤッハーーーーーー\(^o^)/ーーーーーー!!!

    また来たーーーー!!
    今回で新・光の日々も17話目ですか…、これで双牙連刃さんのページのhit数も、また上昇するんでしょうね~♪

    しかし、リィの性格と言うか雰囲気がまた一段とライトに似てきましたね(最初の頃のかわいいリィのイメージが…おまけに、相変わらず雄に間違われてるし…
    ――通りすがりの傍観者 ? 2013-08-06 (火) 15:19:25
  • キターーーーー(°∀°)ーーーーー!
    リィ・・・恐ろしいk(亜空切断
    リィが強さを正しい方向に使っていければ、ライトのような重荷は背負わないでしょうなぁ・・・
    続きも楽しみにしています!
    ――α ? 2013-08-06 (火) 14:47:15
  • 新作キター!
    リィ凄い!最初の頃とは全然違う。もうすぐで人間嫌いが治りそう。
    ライトが困っていた理由ってやっぱりあの人(ポケ)のことなのか。
    そしてフロストの姉さんは何処に、行っているのだろう。
    おもしろかったです!執筆頑張ってください!応援してます!
    ――196 ? 2013-08-06 (火) 18:36:56
  • >>通りすがりの傍観者さん
    いやはや、読みに来て頂いてる皆様には本当に感謝せねばなりませんね。ありがとうございます。
    リィが目指す最終目標がアレですからね…今までの守られていた自分との決別って意味でも、初めの頃のリィとはかなり様変わりしてきました。牡に間違えられるのは、体の発育状況がまだ幼いって事も起因したりしています。精神年齢と肉体年齢があべこべなんですよ。

    >>αさん
    リィは確かに恐ろしい子w それは間違い無いでしょう。
    リィを導こうとしてる者は、強力なのがニ匹ほどいますからね。間違いは起こさない、起こしたとしてもライトとは違って、明確な抑止力があるから心配はありません。多分。
    楽しみにして頂きありがとうございます。あまり長引かずに次を出せるといいのですがね…。

    >>196さん
    人間嫌いはもう殆どなりを潜めたと言っていいでしょう。ただし、潜めただけですけどね。
    ライトが困っていた理由は当然前話のあのポケモンの事にございます。フロストは……多分ハヤトが夏休みに入ったから、学校に連れて行かれなきゃならないって事が一時的に無くなったから部屋でまだ寝てたのでしょうw
    応援感謝です。これからも面白いと思って頂けるものを書けるよう頑張らせて頂きます、
    ――双牙連刃 2013-08-09 (金) 09:55:15
  • 新作キテタァァァァァァァァァァァァァァァァァァ
    リィがリィじゃ無くなっていく……怖い←

    さて、このコトハさんは何かの伏線か……?
    そして不良達がなんか可哀想にww

    次も頑張ってください!
    ――作者活動が疎かな初心者作家 ? 2013-09-17 (火) 04:00:55
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Last-modified: 2013-08-06 (火) 00:00:00
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